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できる日本語 中級 第5課「緊急事態!」の教案
『できる日本語 中級 本冊 第2版』 ・ できること5つ(耳でキャッチ・こんなときどうする?・こんなときどうする?・見つけた!・伝えてみよう)
地震や大雨、電車の運転見合わせ、けがや急病のように、予定どおりにいかないことが起きたときに、日本語で情報をつかみ、人に説明して動ける ようになる課です。1 で速報を聞き取り、2 で約束に遅れることを電話で伝えて指示をもらい、3 でけがの様子を病院で説明し、4 で避難の注意書きを読み、5 で自分が経験した緊急の出来事をクラスで話します。聞く・やり取りする・読む・話すが一つの「緊急事態」という場面でつながっているので、前のできることで覚えたことばを次でも使わせると定着します。第4課の「地域を知って生活する」で役所や地域の決まりを扱ったことを受け、この課では決まりどおりにいかないときの対応に進みます。
このページについて 教科書の会話・例文・練習の文は載せていません。例文と場面、やり取りの例はすべて自作です。課・ST の題と学習項目の表記は出版社のシラバス一覧(第2版)に合わせています。
学習項目 14時間 90分×4コマ場面 5
このページの内容
この課のねらい(Can-do)
進め方と時間配分
1 耳でキャッチ
2 こんなときどうする?
3 こんなときどうする?
4 見つけた!
5 伝えてみよう
語彙の扱い
宿題と次のコマ
よくある質問
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課のねらい(Can-do)
テレビやラジオの地震・台風の速報を聞いて、何が起きたか、これから何に気をつければいいかを聞き取れる
電車が止まって約束の時間に遅れそうなとき、相手に事情を説明して、どうすればいいか指示をもらえる
けがをしたときに、どんな状況でけがをしたか、今どんな状態かを病院などで説明できる
避難のときの注意書きを読んで、してはいけないこと・しなければならないことを読み取れる
自分が経験した緊急の出来事を、周りの人に順を追って話し、そのときの気持ちや考えも伝えられる
進め方と時間配分 目安は 90分×4コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
段 時間 やること
導入 15分 「日本に来てから、困ったことや怖かったことはありますか」と聞き、地震・台風・電車の遅れ・けがなどの経験を出させて黒板に分類する。第4課の地域の決まり(ごみ・役所の手続き)の話を受けて、今日は「決まりどおりにいかないとき」の日本語だと伝える
1 耳でキャッチ 50分 自作の地震速報(音声または教師の読み上げ)を2回聞く。1回目は何が起きたか、2回目は交通への影響と注意点をメモ →「〜による/〜により」「〜おそれがある」を取り出す → 台風版の速報で聞き取りをもう一度
2 こんなときどうする? 55分 電車が止まって、アルバイトや面接に遅れる設定の電話のロールプレイ 。「〜そうにないんですが」で状況を切り出し、「〜とか」で聞いた事情を伝え、相手の指示を復唱して電話を切るまで
3 こんなときどうする? 65分 自転車で転んで病院に行く設定。けがをした瞬間の状況を「〜ところへ/〜ところを」で、今の状態を「〜てしまったようなんです」「〜につれて」で説明する。医者役は教師から始め、ペアで交代
4 見つけた! 75分 自作の避難の注意書き(寮やアルバイト先の掲示を想定)を読み、してはいけないこと・すること・手順に分ける。「〜こと」「〜際(に)」「〜どおり(に)」「〜ものだ」を、掲示の文と説明の文の硬さの違いとあわせて確かめる
5 伝えてみよう 60分 自分や周りの人が経験した緊急の出来事(けが・急病・災害)を、メモを見ながら1分ほど話す。「〜まま」「〜だらけ」で様子を描き、「〜んだろう」で原因の推測を添える。聞いている人は一つ質問する
課のまとめ 40分 速報を聞いた → 電車が止まった → 遅れる連絡をした → 駅でけがをした → 病院で説明した、という一続きの場面カードを引き、グループで続けて演じる。最後に教室の避難経路の注意書きを自分たちで「〜こと」の形で書く
1 耳でキャッチ
できること 地震や台風の速報を聞いて、何が起きたか、交通などへの影響、これから気をつけることを聞き取れる。
場面 夜、寮の部屋でテレビをつけていたら、地震の速報が入った場面です。教室では教師が自作の速報原稿を、少し速めのアナウンサーの調子で読み上げるか、録音して流します。1回目は「いつ・どこで・何が」、2回目は「交通・これからの注意」とメモの欄を分けた紙を配っておきます。
アナウンサー:番組の途中ですが、地震の情報をお伝えします。
アナウンサー:午後9時15分ごろ、県の北部を震源とする地震がありました。
アナウンサー:この地震による津波の心配はありません。
アナウンサー:地震の影響により、市内を走る電車は全線で運転を見合わせています。
アナウンサー:今後1週間ほどは、同じ程度の強い揺れが起きるおそれがあります。
アナウンサー:家具の近くから離れ、火の元を確かめてください。
学習項目 1 〜によって/〜により/〜による(原因)
意味・はたらき
「Nによって/Nにより」は、出来事が起きた原因を表します。「台風によって」「地震により」のように、ニュースや速報、お知らせで使う硬い書き言葉 で、「により」はさらに改まった言い方です。後ろに名詞が続くときは「Nによる+N」(「大雨による被害」)になります。会話の「Nで」(「雨で電車が遅れた」)と意味は近いですが、「によって」は自然現象や事故などの社会的な出来事に使い、寝坊のような個人の事情にはあまり使いません。受身 の動作をする人を表す「によって」や、「国によってさまざまだ」の「によって」とは別の用法です。
接続 N+によって/により(文の途中)、N+による+N(名詞の前)
形
台風によって、木が倒れた 大雨により、電車が止まっています 地震による被害 事故の影響により(速報の決まった言い方)
導入
会話の「で」を速報の言い方に言い換える 教師が「きのう、雨で電車が遅れましたね」と会話の調子で言い、黒板に「雨で電車が遅れた」と書く。次に速報の原稿を読み上げる調子で「大雨により、電車が遅れています」と言い、2行を並べて「で→により」に線を引く。最後に「大雨による遅れ」と名詞の前の形を3行目に書き、「による」のあとが名詞であることを確かめる。
速報から原因と結果を取り出す ST1 の速報をもう一度聞かせ、「何が原因で、何が起きましたか」と聞く。学習者の答えを「原因(地震)→ 結果(電車が止まる)」の矢印にして板書し、矢印の上に「によって/により/による」を書き込む。
板書案
N(原因)+ によって/により + 結果
〔青〕会話:大雨で、電車が止まった。
〔赤〕速報:大雨により、電車が止まっています。
名詞の前:N + による + N → 大雨による遅れ(〔赤〕「の」は入れない)
原因 ──→ 結果 の矢印を引き、矢印の上に「により」
場面と発話(自作)
朝のテレビのニュースで、台風の被害を伝えている。 台風10号による強い風で、各地で木が倒れる被害が出ています。
駅の電光掲示板に、運転見合わせの理由が流れている。 線路内の倒木により、上下線とも運転を見合わせています。
大学からのお知らせのメールで、休講の理由を説明している。 大雪によって交通機関が乱れているため、本日の午後の授業は休講とします。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、原因の語カード(地震・大雨・強風・事故・停電)と結果の語カード(電車が止まる・道路が通れない・停電する)を組み合わせ、「〜により、〜ています」の速報の文を言わせる。次に「〜による〜」で見出しにする(「強風による運休」)。最後にペアで1人が速報を読み上げ、もう1人が原因と結果をメモして言い直す。
口頭 原因カード(地震・大雨・強風・停電・事故)と結果カード(電車が止まる・道路が通れない・エレベーターが動かない・木が倒れる)を1枚ずつ見せる。教師が会話の文「強風で電車が止まった」を言い、全体で「強風により、電車が止まっています」に言い換える。次に同じカードで見出しの形「強風による運休」を言わせ、全体→列→個人の順に回す。
ペア A は駅の掲示板役で、原因カードと結果カードを伏せて1組引き、速報の文にして読み上げる。B はカードを見ずにメモを取り、「〜で、〜んだって」と会話の言い方で言い直す。原因と結果が合っていたら交替し、3組ずつ回す。
産出 「わたしの町のニュース速報」 : 自分の国や町で本当にあった(または想定の)災害・事故を、「〜により」「〜による」を1回ずつ入れて3文の速報原稿に書き、アナウンサーの調子で読む。教師は①名詞の前が「による」になっているか ②個人の事情に使っていないか ③原因と結果の向きが逆になっていないか、の3点を見る。
つまずきと手当て
「*大雨によりの被害」「*地震によっての被害」と名詞の前で「の」をつなぐ。名詞の前は「による+N」の一つだけ、と板書の3行目で確かめる
「寝坊によって、授業に遅れました」と個人の事情に使う。文法上の誤りとまでは言いにくいが、ニュースのような大げさな響きになる。自分の事情は「寝坊して」「寝坊で」と会話の形で言わせる
「〜によって」が出るたびに受身の「(人)によって」と同じだと思い、文の意味が取れない。速報の文では「何が原因か」を先に探す練習をし、受身の用法は別の課で扱うと伝える
会話で「雨により、遅れました」と書き言葉を使い、硬く聞こえる。速報を言い直す練習と、友達に話す練習を分けて、場面で形を選ばせる
既習の文型との違い
[原因]で(初級第15課) 「雨で遅れた」は会話の言い方で、寝坊やかぜのような個人の事情にも使えます。「によって/により」は書き言葉で、自然現象や事故のような社会的な出来事に使います。友達への電話で「大雨により遅れます」と言うと、ニュースのように聞こえます。
〜ために、〜(原因)(初中級第15課) 「大雨のために」も硬めの原因の言い方ですが、出来事の理由を説明する文に多く、速報やお知らせの決まった言い方は「〜により」です。「ために」は目的と形が同じなので、前が出来事の名詞か意志の動作かで見分けさせます。
〜によって(さまざまだ)(中級第2課) 「国によってさまざまだ」は何に応じて違いが出るかを言う用法で、後ろに「違う・さまざまだ・異なる」が来ます。原因の「によって」の後ろには、起きた結果(止まる・倒れる・被害が出る)が来ます。
関連する文型
学習項目 2 〜おそれがある
意味・はたらき
「〜おそれがある」は、よくないことが起きる可能性がある と知らせる言い方です。天気予報や速報、注意書きで使う硬い表現で、「大雨のおそれ」「土砂崩れのおそれがあります」のように使います。意味は「〜かもしれない」に近いですが、「かもしれない」はよいことにも悪いことにも使える会話の言い方なのに対して、「おそれがある」は悪いことにだけ使い、公の立場から注意をうながす響きがあります。
接続 V辞書形/Vない形+おそれがある、N+の+おそれがある
形
川があふれるおそれがあります 大雨のおそれ 電車が遅れるおそれもあります 予定どおりに着かないおそれがある
導入
天気予報の画面をまねる 黒板に天気予報の画面の絵(傘と雷のマーク・警報の帯)を描き、教師が予報士の調子で「今夜は、大雨のおそれがあります」と言う。学習者に「何が心配ですか」と聞いて「川があふれる」「山が崩れる」を出させ、「川があふれるおそれがあります」に言い直して板書する。板書の横に「かもしれない(会話・よいことにも)」と並べて違いを示す。
板書案
V(辞書形)/Nの + おそれがある
川が あふれる おそれが あります。
見出し:大雨の おそれ
〔赤〕よくないことだけ 〔青〕かもしれない=よいことにも悪いことにも
〔赤〕だれが言う? → 気象庁・市・ニュース(公の注意)
場面と発話(自作)
夕方の天気予報で、台風が近づいていると伝えている。 あすの朝にかけて、海沿いの地域では高波のおそれがあります。
地震のあと、市の放送が住民に注意を呼びかけている。 余震によって、壊れかけた建物が倒れるおそれがありますので、近づかないでください。
冬の夜、市の防災メールが道路の凍結を知らせている。 今夜からあすの朝にかけて、路面が凍結するおそれがあります。車の運転には十分注意してください。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、天気や災害の絵カード(大雨・強風・雪・余震)を見せ、「〜おそれがあります」で起きそうな悪いことを言わせる。次に同じ内容を友達に伝える設定にして、「〜かもしれないよ」に言い換えさせる。最後に ST1 の速報の続きを学習者が「〜おそれがあります」を入れて1文作る。
口頭 絵カード(水かさの増えた川・崩れそうな山の斜面・凍った道・高い波・混んだ駅)を見せ、教師が「川があふれる」と言ったら全体で「川があふれるおそれがあります」と返す。次に名詞のカード(大雨・高波・凍結・土砂崩れ)で「〜のおそれがあります」。動詞と名詞の行を分けて板書し、交互に出す。
ペア 天気予報のキャスター役と視聴者役。キャスターは地域カード(北部:大雨・南部:強風・山沿い:雪)を見て「〜おそれがありますので、〜てください」と伝え、視聴者は「じゃあ、あしたは〜ないほうがいいね」と自分の行動に言い換える。地域カードを替えて交替する。
産出 「あしたの注意報づくり」 : グループで架空の町のあしたの天気を決め、30秒の呼びかけの放送原稿を書いて読む。「おそれがある」を2回以上使う。教師は①名詞のときだけ「の」が入っているか ②よいことに使っていないか ③友達どうしの会話の場面に持ち込んでいないか、を見る。
つまずきと手当て
「*雨が降るのおそれがあります」と動詞のあとに「の」を入れる。「の」は名詞のあと(「大雨のおそれ」)だけ、と板書で動詞と名詞の行を分けて見せる
「あしたは晴れるおそれがあります」「合格するおそれがある」とよいことに使う。形は作れても意味が合わない。「おそれ」は「怖いこと」と結びつけて覚えさせ、よいことは「〜かもしれない」「〜見込みだ」に
友達との会話で「あしたは雨のおそれがあるよ」と言い、ニュースのように聞こえる。会話なら「降るかもしれないよ」と、場面で言い換えさせる
既習の文型との違い
〜かもしれません(初中級第5課) 「かもしれない」は話し手の不確かな推量で、会話でよく使い、よいことにも悪いことにも言えます。「おそれがある」は公の立場からの注意で、悪いことにだけ使います。友達に「あした雨が降るおそれがあるよ」と言うと、大げさでニュースのような響きになります。
〜そうです(予測)(初中級第6課) 「雨が降りそうです」は、空を見て話し手が判断する言い方です。「大雨のおそれがあります」は、見た様子ではなく予報や情報をもとに危険を知らせる言い方で、話し手個人の判断は表に出ません。
関連する文型
この場面のことば・表現
地震や台風などの速報でよく使われることば 速報は漢語が多く、しかも速く読まれるので、全部を聞き取らせるのではなく「何が起きたか・交通・これからの注意」の三つにかかわる語だけを先に耳で覚えさせます。読みと意味を確かめたら、教師が速報の調子で語を入れた短い文を読み、聞こえた語に手を挙げさせる練習が効きます。例:「震源」「震度」「余震」「津波の心配はありません」「運転を見合わせています」「警報が出ています」
2 こんなときどうする?
できること 電車が止まって約束に遅れそうなとき、相手に電話で事情を説明して、どうすればいいかを聞ける。
場面 アルバイトに行く途中、駅に着いたら電車が止まっていて、始まりの時間に間に合わない場面です。留学生が駅のホームから店長に電話をかけます。教室では駅のアナウンスを教師が一言読み上げてから電話のロールプレイに入り、店長役は「待つか・別の行き方で来るか・今日は休むか」のどれかを指示します。
留学生:もしもし、アルバイトの〇〇です。今、駅にいるんですが、電車が止まっていて……。
店長:えっ、そうなの?
留学生:はい。5時の始まりに間に合いそうにないんですが、どうしたらいいでしょうか。
店長:何があったの?
留学生:線路に木が倒れたとかで、いつ動くかはまだわからないそうです。
店長:そうか。じゃあ、無理しないで。動き出したら、また連絡してくれる?
留学生:はい、動いたらすぐ連絡します。本当にすみません。
学習項目 1 〜そうにないんですが
意味・はたらき
「Vそうにない」は、状況を見てそうなりそうもない と話し手が判断する言い方で、様態の「Vそうだ」の否定です。「〜んですが」をつけると、困った状況を説明して、相手の判断や指示を待つ言い方になります(「間に合いそうにないんですが……」)。「Vそうもない」も同じ意味で、「Vそうにありません」はていねいな言い方です。「間に合わないそうです」は人から聞いた話(伝聞)になり、自分の見通しを言うことにはならないので注意します。
接続 Vます形(「ます」を取った形)+そうにない/そうもない(+んですが)
形
間に合いそうにないんですが 今日中には終わりそうにありません 電車はしばらく動きそうもない (参考)間に合わないそうです=伝聞
導入
時計と電光掲示板で見通しを言う 黒板に時計(今4時40分)と「運転見合わせ」の電光掲示板、店の地図(5時集合・駅から20分)を描く。「5時に着けますか」と聞いて「無理です」を引き出し、教師が「間に合いそうにないです」と言い直す。次に店長に電話する設定で「間に合いそうにないんですが……」と語尾を弱めて言い、「んですが」で相手の返事を待つことを、言いかけの「……」で示す。
板書案
Vます + そうに ない(んですが)
間に合い ます → 間に合い そうに ない んですが……
〔青〕間に合わない そうです = 人から聞いた話(伝聞)
〔赤〕ていねい:〜そうにありません/〜そうもありません
「んですが……」のあと → 〔赤〕どうしたらいいでしょうか
場面と発話(自作)
面接の会場に向かう途中、バスが渋滞で動かなくなった。会社の担当者に電話する。 道が混んでいて、10時までに伺えそうにないんですが、どうしたらよろしいでしょうか。
レポートの締め切りの前日、熱が出た。先生にメールで相談する。 熱が下がらず、あしたまでに提出できそうにないのですが、少し待っていただけないでしょうか。
友達と映画を見る約束をしていたが、アルバイトが長引いた。 ごめん、6時には行けそうもない。先に入っててくれる?
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、動詞カード(間に合う・終わる・行ける・止む)を見せて「〜そうにないです」を言わせ、次に状況カード(電車が止まった・仕事が長引いた・熱が出た)を引いて「〜そうにないんですが、どうしたらいいでしょうか」まで言わせる。最後に ST2 の電話のロールプレイで、相手を店長・先生・友達に替え、ていねいさを変えて言わせる。
口頭 状況カード(止まった電車と時計・半分しか書けていないレポート・雪で通れない道・熱が下がらない体温計・長引くアルバイト)を見せ、まず肯定「間に合いそうです」を言わせてから否定「間に合いそうにないです」に変える。次にていねいな形「〜そうにありません」、最後に「〜そうにないんですが」で止めて相手に渡す言い方まで、全体→個人で言わせる。
ペア A は状況カードを引き、電話で「〜そうにないんですが」と切り出す。B は役カード(店長・先生・友達)を引き、役に合った返事と指示(待つ・別の行き方で来る・今日は休む)を出す。A は指示を復唱して電話を切る。役カードを替えて交替し、友達のときは「〜そうもない」「行けそうにない」とくだけた形にさせる。
産出 「遅刻の電話ロールプレイ」 : 自分のアルバイト先・ゼミ・面接を想定し、名乗る→状況→「〜そうにないんですが」→指示をもらう→お詫び、の流れを最後まで演じる。教師は①ます形からつないでいるか ②伝聞の「ないそうです」と混ぜていないか ③「んですが」で止めて相手の答えを待てているか、を見る。
つまずきと手当て
「*間に合うそうにない」と辞書形につなぐ。「ます」を取った形(間に合い)につなぐと、「間に合います→間に合い+そうにない」の線で見せる
自分の見通しを言うのに「間に合わないそうです」と言い、人から聞いた話のように伝わる。「そうにない=自分の見通し」「ないそうです=聞いた話」を2行で対にして板書する
「〜そうにないんです」で言い切って黙り、相手が何を求められているかわからない。「どうしたらいいでしょうか」「〜てもいいですか」を続けて言うところまでを一つの型として練習させる
既習の文型との違い
Vそうです(直前の様態)(初中級第9課) 「雨が降りそうです」は今にもそうなりそうだという見通しで、この課の「そうにない」はその否定です。否定は「降りそうにない/降りそうもない」の形で、会話では「降らなそう」も耳にしますが、まずはこの課の形でそろえます。
〜そうです(伝聞)(初級第15課) 「間に合わないそうです」は人から聞いた話です。自分の見通しを伝えるのに伝聞を使うと、人ごとのように聞こえ、遅れる側の責任が伝わりません。接続(ます形か普通形か)の違いを2行で並べて見せます。
関連する文型
学習項目 2 〜とか
意味・はたらき
文の終わりや「〜とかで」の形で使い、人から聞いた話を、細かいところまでは確かではないという気持ちで伝える 言い方です(「線路に木が倒れたとかで、電車が止まっています」)。「〜そうです」が聞いた内容をそのまま伝えるのに対して、「〜とか」は「そのように聞いた」とぼかす響きがあり、話し言葉です。上司への正式な報告では「〜とのことです」「〜そうです」のほうが適切です。「〜とか〜とか」と例を並べる「とか」とは別の用法です。
接続 普通形+とか(ナA・N は「だ」をつけることが多い:事故だとか)。理由として続けるときは「〜とかで」
形
木が倒れたとかで、電車が止まっています 運転再開はまだだとか あしたも雨だとか聞きました
導入
駅で聞いたことを伝える 教師が駅員役になって「線路に木が倒れて、今、確認しています」と言い、学習者に聞かせる。次に教師が店長役になって「何があったの?」と聞き、学習者に答えさせてから、教師が「線路に木が倒れたとかで……」と言い直してみせる。板書は「〜そうです(聞いたことをそのまま)」「〜とか(聞いたことを少しぼかして)」の2行にする。
板書案
普通形(Nだ・ナAだ)+ とか(で)
木が 倒れた とかで、電車が 止まって います。
〔青〕〜そうです:聞いたまま伝える 〔赤〕〜とか:はっきりしないが、そう聞いた
〔赤〕上司・先生への報告 → 〜とのことです/〜そうです
(別もの)りんごとか、みかんとか = 例を並べる
場面と発話(自作)
電車が遅れて、待ち合わせの友達に理由を伝える。 前の駅で急病の人が出たとかで、少し遅れるみたい。
クラスメートが休んでいる理由を、先生に聞かれた。 かぜで熱が出たとか言っていました。
友達との会話で、駅前の店が閉まっている理由を伝える。 駅前のパン屋、改装工事だとかで、来週まで休みなんだって。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が駅のアナウンス役で短い情報(「信号の故障で…」「強風のため…」)を言い、学習者が「〜とかで、電車が止まっています」と言い直す。次に同じ情報を店長に伝えるか、友達に伝えるかのカードを引かせ、店長には「〜そうです」、友達には「〜とか」を選ばせる。
口頭 教師が駅のアナウンスやうわさの文(信号が故障した・急病の人が出た・店長が熱を出した・あしたは休講だ)を読み、学習者は「〜とかで、〜」と人に伝える形で言い直す。名詞のときは「故障だとかで」と「だ」を入れることを確かめ、全体→個人で回す。
ペア A だけが駅のアナウンスの文を書いたカードを見て、B に電話のつもりで「〜とかで、〜みたい」と伝える。B は聞いたことを、上司役の教師に「〜とのことです」で報告し直す。くだけた伝え方と報告の言い方の切り替えを、カードを替えて交替しながら練習する。
産出 「うわさの伝言リレー」 : 4人1列になり、先頭が教師から聞いた架空のニュースを「〜とか」で次の人へ、最後の人はクラス全体に「〜とのことです」で報告する。教師は①普通形と「だ」の接続 ②報告の場面で「とか」を使っていないか ③例を並べる「とか」と混ぜていないか、を見る。
つまずきと手当て
「事故だとかで」の「だ」を落として「事故とかで」と言うと、「事故とか(ほかにも何か)」と例を並べる「とか」に聞こえることがある。理由を伝えるときは「だ」を入れると覚えさせる
上司や先生への報告で「〜とか」を使い、軽く聞こえる。「〜とのことです」「〜そうです」との使い分けを、相手のカードを替える練習で確かめる
自分が見たことにまで「〜とか」を使い、責任を避けているように聞こえる。「自分で見た/人から聞いた」を分け、聞いた話にだけ使わせる
既習の文型との違い
〜そうです(伝聞)(初級第15課) 「〜そうです」は聞いた内容をそのまま伝える言い方で、改まった場面でも使えます。「〜とか」は「細かいところまではわからないが、そう聞いた」とぼかす話し言葉です。上司への報告で「事故だとかで」と言うと、いいかげんに聞こえます。
〜らしいです(伝聞)(初中級第12課) 「らしい」も聞いた話に使い、「事故があったらしくて、電車が止まっている」のように「らしくて」で後ろに続けることもできます。ただ「〜とかで」のほうが、聞いた話をぼかして理由に軽く添える響きになるので、電車の遅れの理由をひとこと添えるなら「〜とかで」が便利です。
〜とか〜とか(中級第1課) 「りんごとか、みかんとか」は例を並べる「とか」です。伝聞の「とか」は普通形の文のあとに一つだけつきます。「事故とかで」と「だ」を落とすと例を並べる意味に聞こえることがあるので、伝聞では「事故だとかで」と言わせます。
関連する文型
この場面のことば・表現
交通機関が止まっている状況を説明するときの表現 駅のアナウンスや電光掲示板で聞く・見る言い方と、それを人に電話で伝えるときの言い方を対にして教えます。アナウンスの硬い言い方(「運転を見合わせております」)は聞いてわかればよく、自分が話すときは「電車が止まっていて」と言い換えられれば十分だと伝えます。例:「運転見合わせ」「遅れが出ている」「振替輸送」「運転再開の見込みは立っていない」「次の電車がいつ来るかわからない」「別の行き方で向かいます」
3 こんなときどうする?
できること けがをしたとき、どんな状況でけがをしたかと、今の体の状態を説明できる。
場面 自転車で転んで手首を痛め、近くの病院(整形外科)に行った場面です。医者に「どこで・何をしているときに・どうなったか」と「今どこがどう痛いか」を順に伝えます。教室では体の部位の絵と、転び方の絵(坂道・横から人が出てくる・手をつく)を用意し、絵を指しながら説明させます。
医者:今日はどうしましたか。
留学生:自転車で坂を下りているところに、横から子どもが飛び出してきて、よけたら転んでしまったんです。
医者:どこが痛みますか。
留学生:右の手首です。転んだときに手をついて、ひねってしまったようなんです。
医者:痛みはすぐに出ましたか。
留学生:いえ、最初はそれほどでもなかったんですが、時間がたつにつれて、だんだん腫れてきました。
医者:じゃあ、念のためレントゲンを撮ってみましょう。
学習項目 1 〜てしまったようなんです
意味・はたらき
3つの形が重なった言い方です。「〜てしまった」は思いがけずよくないことが起きた気持ち、「〜ようだ」は体の感じや様子からの推測、「〜んです」は事情の説明を表します。自分の体のことでも、骨が折れたのか、ひねっただけなのかは自分でははっきりわからないので、「〜てしまったようなんです」と推測の形で医者に伝える のが自然です。会話では「〜てしまったみたいなんです」「〜ちゃったみたいなんです」とも言います。「〜らしいです」は人から聞いた話に近くなるので、自分の症状にはあまり使いません。
接続 Vて形+しまった+ようなんです(くだけた形:Vちゃった+みたいなんです)
形
足首をひねってしまったようなんです 財布を落としてしまったようなんです かぜをひいてしまったみたいなんです
導入
病院の受付で症状を言う 教師が手首を押さえて痛そうな顔をし、「自転車で転んで……手首が……」と言いかける。学習者に「骨が折れていますか」と聞いて「わからない」を引き出し、「わからないから、『ようなんです』」と言って「ひねってしまったようなんです」を板書する。板書では「ひねる+てしまった(残念)+よう(たぶん)+なんです(説明)」と4つに色を分ける。
板書案
Vて しまった + よう + なんです
〔赤〕しまった=困った 〔青〕よう=体の感じからの推測 〔緑〕んです=事情の説明
手首を ひねって しまった ようなんです。
会話:ひねっちゃった みたいなんです
〔赤〕自分の体のこと → らしい は使わない
場面と発話(自作)
体育館でバスケットボールをしていて、足首を痛めた。保健室で先生に説明する。 ジャンプして着地したときに、足首をひねってしまったようなんです。
駅の窓口で、電車の中に傘を忘れたことに気づいて相談する。 さっきの電車に、傘を置いてきてしまったようなんですが……。
薬局で、ゆうべから熱っぽいと相談する。 ゆうべ雨にぬれて、かぜをひいてしまったみたいなんです。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、体の部位の絵と動作のカード(ひねる・ぶつける・切る・やけどする)を組み合わせ、「〜を〜てしまったようなんです」を言わせる。次に ST3 の病院の設定で、医者役の「どうしましたか」に答えさせ、「いつ・何をしていて」を前に足して言わせる。
口頭 体の部位の絵と症状カード(足首をひねる・指を切る・かぜをひく・財布を落とす・電車にかさを忘れる)を見せる。まず「ひねってしまいました」、次に「ひねってしまったようです」、最後に「ひねってしまったようなんです」と、板書の色ごとに部品を一つずつ足して言わせる。全体で言えたら個人に当て、くだけた「〜ちゃったみたいなんです」も言わせる。
ペア 病院の受付や駅の窓口のロールプレイ。A は症状カードか落とし物カードを引いて「〜てしまったようなんです」で用件を言い、B(受付・駅員)は「いつからですか」「どこで気づき ましたか」と一つ質問する。A が答えたら交替する。
産出 「診察室ロールプレイ」 : けがをした状況(どこで・何をしていて)と今の状態を合わせて、医者役に説明する。教師は①はっきりしない体の状態を「折れました」と言い切っていないか ②「らしい」と混ぜていないか ③「んです」の説明の響きが出ているか、を見る。医者役は最初は教師、慣れたらペアで交替する。
つまずきと手当て
「*ひねってしまったのようなんです」と動詞のあとに「の」を入れる。「よう」の前の「の」は名詞のとき(「かぜのようです」)だけ、と板書で並べて見せる
「足首をひねってしまったらしいです」と言い、人から聞いた話のように伝わる。自分の体の感じは「ようなんです/みたいなんです」、と2つの文を聞き比べさせる
「ひねってしまいました」と言い切って、医者に「本当にひねったんですね」と確認される。自分でははっきりしないときは推測の形にすると、正確に伝わると説明する
既習の文型との違い
Vてしまいました(後悔)(初中級第5課) 「ひねってしまいました」は起きたことを言い切る形です。自分でも骨が折れたのかひねっただけなのかわからないときは、「ようなんです」を重ねて推測にすると、医者に正確に伝わります。
〜みたいなんですが/〜ようなんですが(中級第4課) 第4課の形は相談の切り出しで、「が」のあとに頼みや質問が続きます。この課の「〜てしまったようなんです」は事情の説明で文が終わり、相手の質問を待ちます。二つを続けて「ひねってしまったようなんですが、診ていただけますか」とつなげる練習もできます。
関連する文型
学習項目 2 〜ところへ/〜ところに/〜ところを
意味・はたらき
「ところ」は動作の段階(する前・している最中・したすぐ後)を表し、その段階で別のことが起きた ことを言います。「ところへ/ところに」は、その場面に人が来たり、思いがけないことが起きたりしたとき(「坂を下りているところに、子どもが飛び出してきた」)に使い、二つはほとんど同じ意味です。「ところを」は、その場面の自分を、だれかが見る・助ける・呼び止めるといった動作の対象になるときに使い、後ろに「見られる」「助けられる」のような動詞が来ます。「〜とき」よりも、動作の途中のどの段階だったかがはっきりします。
接続 V辞書形/Vている形/Vた形+ところへ・ところに・ところを
形
家を出ようとしているところへ、電話がかかってきた 坂を下りているところに、車が出てきた 転んだところを、通りかかった人に助けてもらった (後ろの動詞)〜ところを+見る・助ける・呼び止める
導入
3コマの絵で段階を示す 「自転車に乗ろうとする・乗って坂を下りている・転んだあと」の3コマの絵を貼り、それぞれに「乗るところ」「下りているところ」「転んだところ」と書く。2コマ目に子どもが飛び出してくる絵を重ね、教師が「下りているところに、子どもが飛び出してきました」と言う。3コマ目には人が手を差し出す絵を重ね、「転んだところを、助けてもらいました」と言い、「に(何かが来た)」と「を(人が何かをした)」を色分けして板書する。
板書案
V(辞書形/ている/た)+ ところ 〔青〕する前・している最中・したすぐ後
出かけようと している ところへ、電話が かかって きた。
坂を 下りて いる ところに、子どもが 飛び出して きた。
転んだ ところを、通りかかった 人に 助けて もらった。
〔赤〕ところを + 見る・助ける・呼び止める(その場面の人が相手の動作を受ける)
場面と発話(自作)
けがの状況を、病院で医者に説明する。 交差点を渡っているところに、自転車がぶつかってきたんです。
駅の階段で転んだときのことを、友達に話す。 階段で転んだところを、知らない人が起こしてくれたんだ。
台風の日、出かけようとしたときに停電した。 ちょうど出かけようとしているところへ、急に電気が消えました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、3コマの絵の段階カードと出来事カード(電話がかかる・人が来る・雨が降り出す)を組み合わせて「〜ところに、〜」を言わせる。次に「見られる・助けられる・呼び止められる」の動詞カードで「〜ところを、〜」を言わせる。最後に ST3 の病院の設定で、けがをした瞬間を「〜ところに/〜ところを」で説明させる。
口頭 時間の線を板書し、「家を出る前」「歩いている最中」「転んだ直後」の3つの点を置く。出来事カード(電話が鳴る・友達が来る・雨が降り出す・知らない人に助けられる・先生に見られる)を点に重ね、「〜ところへ/〜ところに、〜」「〜ところを、〜」と言わせる。動詞の形(する・している・した)を点に合わせて選ばせることに時間をかける。
ペア 自作の4コマの絵(自転車で坂を下りる→子どもが出てくる→転ぶ→人に起こしてもらう)をばらばらにして渡し、2人で並べ替える。A がコマ1と2をつないで「〜ているところに、〜」、B がコマ3と4を「〜たところを、〜てもらった」で言い、別の4コマで役を入れ替える。
産出 「ヒヤリとした瞬間」 : 自分が経験した「ちょうど〜していたときに〜が起きた」話を2〜3文で話す。教師は①「ところ」の前の形が段階に合っているか ②「ところを」の後ろに「見る・助ける」のような動詞が来ているか ③動詞と「ところ」の間に「の」を入れていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*転んだところを、車が来た」と、後ろに「を」をとらない動詞を置く。「を」のときは後ろの動詞が「(その人を)見る・助ける」のように「を」を受ける形になる、と2つの文を並べて確かめる
「*帰るのところへ」と動詞のあとに「の」を入れる。動詞はそのまま「ところ」につくと、板書の3コマで確かめる
「ところへ」と「ところに」の違いを細かく聞かれる。ほとんど同じ意味で、「へ」は何かがこちらに向かってくる感じが少し強い、とだけ伝え、深入りしない
「お忙しいところを」のあいさつの「ところを」と同じだと思う。あいさつの形は別の課で扱うと伝え、ここでは「その場面で別のことが起きた」の意味に絞る
既習の文型との違い
Vるところです/Vているところです/Vたところです(初中級第10課) 初中級では文の終わりで、今がどの段階かを言うだけでした。この課では、その段階に別の出来事が重なった ことを言います。「出かけるところです」と「出かけるところへ、電話が来た」を並べると違いがつかめます。
〜とき、Vました(初級第11課) 「坂を下りるとき、子どもが出てきた」でも意味は通じますが、「とき」は時を指すだけです。「下りているところに」と言うと、動作の途中だったことがはっきりし、けがの状況の説明として伝わりやすくなります。
関連する文型
学習項目 3 〜につれて
意味・はたらき
「AにつれてB」は、Aが変わっていくのにあわせて、Bも少しずつ変わっていく ことを表します(「時間がたつにつれて、腫れてきた」)。AもBも続けて変化することなので、Bには「〜てくる」「〜ていく」「〜なる」「増える」のような変化の言い方がよく来ます。一回で終わる動作(ボタンを押す)や、「〜てください」のような依頼・命令はBに来ません。「〜にしたがって」もほぼ同じ意味ですが、こちらには「指示にしたがって」のように「指示を守る」意味もあります。
接続 V辞書形+につれて、N(変化を表す名詞)+につれて
形
時間がたつにつれて、痛みが強くなってきた 台風が近づくにつれて、風が強くなっていく 日本語が上達するにつれて、友達が増えた 季節の変化につれて
導入
グラフで二つの変化を重ねる 黒板に横軸「時間」、縦軸「腫れ・痛み」のグラフを描き、線を右上がりに引きながら「1時間後……2時間後……」と言う。教師が手首を見せて「時間がたつにつれて、腫れてきました」と言い、横軸の下に「Aにつれて」、線の横に「B(変化)」と書く。次に台風の絵で「台風が近づくにつれて」と言い、学習者に後ろを考えさせる。
板書案
A(変化)につれて、B(変化)
時間が たつ につれて、だんだん 腫れて きた。
〔青〕B:〜てくる・〜ていく・〜なる・増える・減る
〔赤〕B に 依頼・命令・一回だけの動作は 来ない
〔緑〕グラフ:A の線と B の線が いっしょに 動く
場面と発話(自作)
けがのあとの様子を医者に説明する。 最初は平気だったんですが、夜になるにつれて、ずきずき痛み出しました。
台風が近づいている夕方、ルームメイトと話す。 暗くなるにつれて、雨の音がどんどん大きくなってきたね。
日本に来て1年たった留学生が、クラスで生活の変化を話す。 日本の生活に慣れるにつれて、小さな地震ならあまり怖くなくなってきました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、変化の前半カード(時間がたつ・台風が近づく・年をとる・練習を続ける)を引かせ、後ろを「〜てきた/〜なった」で自由に続けさせる。次に ST3 の設定で、けがのあとの痛みや腫れの変化を「〜につれて」で医者に説明させる。
口頭 2本の線のグラフカード(気温とアイスの売り上げ・台風の接近と風の強さ・時間と腫れ・練習の時間と上達・年齢と体力)を見せ、「〜につれて、〜てきた/〜ていく」と言わせる。最初は教師が A を言って学習者が B を、次はカードだけで全文を言わせる。
ペア A がグラフの横軸(変化A)だけを言い、B は縦軸を想像して変化Bを答える(「日本語が上達するにつれて」→「友達が増えていった」)。3問ずつ出して交替し、最後に一番おもしろい組み合わせをクラスに紹介する。
産出 「わたしの変化グラフ」 : 日本に来てからの自分の変化(日本語・友達・料理・地震への慣れ)を折れ線で描き、「〜につれて」を使って2〜3文で説明する。教師は①A が変化を表す語か(「*毎日につれて」にしていないか) ②B が変化の形か ③B に依頼や意志の文を置いていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*ボタンを押すにつれて、ドアが開いた」と一回の動作に使う。Aも続けて変わることでないと使えないと、グラフの線で確かめる
「*時間がたつにつれて、病院に行ってください」と後ろに依頼を置く。後ろは変化を言う文だけ、と板書の「B(変化)」を指して確かめる
「〜につれて」と「〜とき」を混同し、「熱が出るにつれて、薬を飲んだ」と言う。一回のことなら「熱が出たので」「熱が出たとき」と、言い換えの形を示す
既習の文型との違い
(〜ば)〜ほど(中級第3課) 「練習すればするほど上手になる」も二つが比例して変わることを言いますが、「早ければ早いほどいい」のように判断や一般論も言えます。「〜につれて」は実際に時間の中で進んでいく変化を描く言い方で、後ろは変化の描写に限られます。
Vてきます(初中級第10課) 「腫れてきた」は一つの変化そのものです。「時間がたつにつれて、腫れてきた」と言うと、二つの変化が連動していることまで伝えられます。「〜につれて」の後ろには「〜てくる・〜ていく」がよく来るので、初中級の形を復習してから入ります。
関連する文型
この場面のことば・表現
事故の状況とけがの説明をするときのことば・表現 「どうなったか(転ぶ・ぶつかる・手をつく)」と「今どうか(腫れる・ずきずきする・動かすと痛い)」の二つに分けて板書し、体の部位の絵を指しながら言わせます。痛みの擬態語は母語に対応する語がないことが多いので、教師が表情と動作で示して違いを感じさせます。例:「足首をひねる」「ひざを擦りむく」「手首が腫れる」「ずきずき痛む」「動かすと痛い」「頭を打つ」
4 見つけた!
できること 避難のときの注意書きを読んで、すること・してはいけないこと・手順を読み取れる。
場面 寮の廊下やアルバイト先の休憩室に貼ってある「地震・火災のときの避難について」の掲示を読む場面です。教室では A4 1枚の自作の掲示(箇条書きの決まり+短い説明の文)を配り、「すること」「してはいけないこと」「順番」の3色の線を引かせます。掲示の文(「〜こと」)と説明の文(「〜ものです」)の硬さの違いにも気づかせます。
掲示:地震・火災の際は、あわてずに次のことを守ること。
掲示:避難の際には、エレベーターを使わないこと。
掲示:係員の指示どおりに、階段で1階の出口まで移動すること。
掲示:一度建物の外に出たら、荷物を取りに戻らないこと。
説明:大きな揺れのあとは、すぐに外へ飛び出さず、揺れがおさまるのを待つものです。
説明:集合場所は、裏の駐車場です。地図に示したとおりに、建物の裏側を回って進んでください。
学習項目 1 〜ものだ/〜ものではない(当然)
意味・はたらき
「〜ものだ」は、社会の常識や物事の自然な性質として「ふつうはそうするのが当然だ」 と言う表現で、否定は「〜ものではない(そうするべきではない)」です。特定の人に一回だけ指示するのではなく、だれにでも当てはまる一般的な心得として述べるのが特徴で、注意書きの説明の文や、目上の人が若い人に教えるときに使います。「〜べきだ」は話し手の意見としての強い主張で、「〜ものだ」は「世の中ではそういうものだ」という一般論の響きです。会話では「〜もんだ/〜もんじゃない」になります。昔を思い出す「〜ものだ」とは別の用法です。
接続 V辞書形/Vない形+ものだ、V辞書形+ものではない(会話:もんだ/もんじゃない)
形
揺れがおさまるまでは、外へ飛び出さないものだ 避難のときは、エレベーターを使うものではない 人に借りたものは、早く返すものだ
導入
注意書きの「すること・しないこと」を一般論にする ST4 の掲示の「エレベーターを使わないこと」を指し、「なぜですか」と聞いて「止まるかもしれない」を出させる。教師が「だから、避難のときはエレベーターを使うものではありません」と言い、「この建物だけ? どこでも?」と聞いて「どこでも」を引き出す。板書は「〜こと(この掲示の決まり)」「〜ものだ(どこでも当てはまる常識)」の2行にする。
板書案
V(辞書形/ない)+ ものだ / V(辞書形)+ ものではない
揺れが おさまるまでは、外へ 飛び出さない ものだ。
避難の ときは、エレベーターを 使う ものではない。
〔青〕だれにでも当てはまる常識 〔赤〕べきだ=話し手の強い意見
(別もの)昔は よく 遊んだ ものだ = 思い出(タ形)
場面と発話(自作)
防災の講習会で、講師が地震のときの心得を話している。 強い揺れのときは、まず頭を守るものです。
寮の先輩が、新しく入った留学生に避難のことを教えている。 非常ベルが鳴ったら、荷物は持たずに出るもんだよ。
アルバイト先で、先輩が新しく入った人に仕事の心得を話している。 お客さんに呼ばれたら、手を止めてすぐ返事をするものだよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、災害時の行動カード(エレベーターを使う・頭を守る・火を消す・荷物を取りに戻る)を「するべき/しないほうがいい」に分けさせ、「〜ものだ/〜ものではない」で言わせる。次にクラスで「日本の生活でふつうそうするもの」(ごみの出し方・電車の中のマナー)を「〜ものだ」で言わせ、国による違いも話し合う。
口頭 常識カード(借りた物を早く返す・電車の中で大声で話す・地震のときにエレベーターに乗る・目上の人に先にあいさつする・非常口の前に物を置く)を見せ、学習者が「するのが当然」なら「〜ものだ」、「してはいけない」なら「〜ものではない」と判断して言う。判断を全体で言わせてから個人に当てる。
ペア 国の常識くらべ : A が自分の国の常識を一つ「〜ものです」で言い、B は「〜ものなんですか。わたしの国では〜」と自分の国の場合で返す。違いが見つかったらメモし、3つずつ言って交替する。
産出 「防災の心得カード」 : 寮の新入生向けに、地震・火事のときの心得を「〜ものだ/〜ものではない」で3つ書き、理由を1文ずつ添えて発表する。教師は①特定の人への一回の指示に使っていないか ②動詞と「もの」の間に「の」を入れていないか ③思い出の「ものだ」と混ぜていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*使うのものではない」と「の」を入れる。動詞はそのまま「もの」につくと、板書で確かめる
目上の人や友達に面と向かって「そんなことはするものではありません」と言い、説教しているように聞こえる。相手に直接注意するときは「〜ないほうがいいですよ」を使わせる
「〜ものだ」を見るたびに思い出の「〜ものだ」(昔はよく遊んだものだ)と混同する。当然の「ものだ」は辞書形・ない形、思い出の「ものだ」はタ形が多い、と形の手がかりを示す
既習の文型との違い
Vなければなりません(初級第14課) 「なければならない」は規則や必要として「しないといけない」ことを言います。「ものだ」は決まりではなく社会の常識として「ふつうはそうする」と言う表現です。避難の掲示では決まりを「〜こと」、その理由の説明を「〜ものです」で書き分けることがあります。
Vたほうがいいです/Vないほうがいいです(初級第12課) 「ほうがいい」は目の前の相手への助言です。「ものだ」は一般論なので、相手に直接言うと説教のように聞こえます。面と向かって注意するなら「〜ないほうがいいですよ」と使い分けさせます。
関連する文型
学習項目 2 〜とおり(に)/〜どおり(に)
意味・はたらき
「〜とおり(に)」は、前に示されたことと同じように する・なることを表します(「地図に示したとおりに進んでください」)。動詞や「Nの」のあとは「とおり」、名詞に直接つくときは「どおり」と音が変わります(「指示どおりに」「予定どおり」)。後ろに名詞が来るときは「とおりの+N」「どおりの+N」です。避難の掲示では「係員の指示どおりに」「矢印のとおりに」のように、自分で判断せず決められたやり方に従うことを求める文によく出ます。
接続 V辞書形/Vた形+とおり(に)、N+の+とおり(に)、N+どおり(に)
形
係員の指示どおりに移動してください 地図に示したとおりに進む 矢印のとおりに 予定どおりの時間に
導入
教室の地図と矢印で動いてみる 教室から出口までの簡単な地図を黒板に描き、矢印を入れる。教師が「この矢印のとおりに歩いてください」と言って学習者を一人立たせ、矢印どおりに歩かせる。次に「先生の言ったとおりに」「指示どおりに」と言い換え、板書で「V/Nの+とおり」「N+どおり」の2つの列に分けて書く。
板書案
V(る/た)+ とおり(に) N の + とおり(に)
N + どおり(に) 〔赤〕と → ど(音が変わる)
係員の 指示どおりに 移動して ください。
地図に 示した とおりに 進んで ください。
名詞の前:〜とおりの+N / 〜どおりの+N(予定どおりの時間)
場面と発話(自作)
避難訓練で、係の人が全員に声をかけている。 ハンカチで口を押さえて、係員の指示どおりに階段を下りてください。
けがの手当てのあと、医者が薬の飲み方を説明する。 この紙に書いてあるとおりに、1日3回飲んでください。
台風で遅れていた飛行機が、やっと着いた。 結局、予定どおりの時間には着きませんでした。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が「説明する・書いてある・指示・地図・予定」のカードを出し、「とおり」か「どおり」かを選ばせながら文を言わせる。次にペアで、1人が簡単な避難経路を説明し、もう1人が教室の中を「言われたとおりに」動いて確かめる。
口頭 地図・矢印・説明書・予定表・係員の絵カードを見せ、「地図のとおりに」「矢印のとおりに」「説明書どおりに」「予定どおりに」「指示どおりに」と言わせる。次に動詞のカード(言う・書いてある・習う・見る)で「言ったとおりに」「書いてあるとおりに」。「の+とおり」と「どおり」を板書の2列に分け、教師が語を言ったら学習者がどちらの列か答える。
ペア 道順の指示どおり : A は教室の見取り図に道順を描いたカードを持ち、B に口で説明する。B は言われたとおりに白紙の見取り図へ線を描く。最後に見比べて「言ったとおりですね」「ちょっと違いました」と確かめ、交替する。
産出 「避難ルート説明」 : 学校の避難経路図を見て、新しく入った学生に向けて「〜とおりに」「〜どおりに」を使い、教室から集合場所までの行き方を1分で説明する。教師は①「Nのとおり」と「Nどおり」の切り替え ②名詞の前の「の」 ③動詞と「とおり」の間に「の」を入れていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*指示のどおりに」と、「の」と「どおり」を一緒に使う。「の」のあとは「とおり」、名詞に直接つけるときは「どおり」と、板書の2列で確かめる
「*説明したのとおりに」と動詞のあとに「の」を入れる。動詞はそのまま「とおり」につくと示す
「とおり(に)」を道の「通り」と取り違えて、文の意味がつかめない。掲示を読むときは「何と同じようにするのか」を先に探させる
既習の文型との違い
〜に沿って/〜に沿う/〜に沿った(中級第4課) 「〜に沿って」は線や方針に寄り添って進む言い方で、「川に沿って歩く」「計画に沿って進める」のように使います。「〜とおりに」は示されたものと同じ形・同じやり方にすることです。「計画どおりに進める」は計画とずれがないこと、「計画に沿って進める」は計画の方向に合わせることで、言える語が重なるぶん、学習者は混ぜやすくなります。
関連する文型
学習項目 3 〜際(に)
意味・はたらき
「〜際(に)」は「〜とき」の改まった書き言葉 で、お知らせ・注意書き・アナウンス・案内文などで使います(「避難の際には、エレベーターを使わないでください」)。「とき」と違って、ある特別な場面や機会を指すのに使い、「子どもの際」「暇な際」のように状態や期間を表す語にはあまりつきません。友達との会話では硬すぎるので「〜とき」を使います。
接続 V辞書形/Vた形+際(に)、N+の+際(に)
形
避難の際には、階段を使ってください 建物を出る際に、火の元を確かめること お越しの際は、受付にお声がけください ご利用の際(お知らせの決まった言い方)
導入
「とき」の文を掲示の文に書き直す 教師が「出かけるとき、窓を閉めてね」と友達に言う調子で言い、黒板に書く。その下に ST4 の掲示の一文「避難の際には、エレベーターを使わないこと」を書き、「とき→際」の対応に線を引く。「どちらが掲示ですか」と聞き、硬さで場面が変わることを確かめる。
板書案
V(辞書形/た)/N の + 際(に)
避難の 際には、エレベーターを 使わないで ください。
建物を 出る 際に、火の元を 確かめる こと。
〔青〕会話:〜とき 〔赤〕お知らせ・アナウンス・案内:〜際
〔緑〕決まった言い方:お越しの際・ご利用の際
場面と発話(自作)
マンションのエレベーターの横に、注意書きが貼ってある。 地震の際は、エレベーターが自動で止まります。
病院の受付で、次の予約の案内をされる。 次回いらっしゃる際に、この診察券をお持ちください。
大学の図書館の入口に、利用の決まりが貼ってある。 退館の際は、借りた本の貸し出し手続きを済ませてください。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が「〜とき」の会話の文を言い、学習者が掲示やアナウンスの文に「〜際(に)」で言い直す。次に寮やアルバイト先の掲示を想定して、「〜の際は、〜てください」の注意書きを3文書かせ、読み合う。
口頭 施設の絵カード(エレベーター・図書館・会議室・駐車場・試験会場)を見せ、教師が会話の「エレベーターを使うとき」を言ったら、学習者が「エレベーターをご利用の際は」と掲示の言い方に変える。次に動詞のまま(「建物を出る際に」「帰る際は」)と名詞(退室・避難・利用)の両方で言わせる。
ペア A は施設の受付係、B は利用者。B が会話の言い方で質問し(「帰るとき、かぎはどうしますか」)、A が「お帰りの際は、〜」とていねいに答える。施設カードを替えて交替し、答えの「際」と質問の「とき」の硬さの違いを体で感じさせる。
産出 「施設利用のお知らせづくり」 : 教室・寮のラウンジ・自習室など身近な場所の利用案内を、「〜際(に)は」を3回入れて A4 1枚に書き、教室に貼る。教師は①「際」の前の形(Nの・辞書形・た形) ②状態や期間を表す語につけていないか ③話し言葉の文の中で使っていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*子どもの際に、日本に来ました」と、時期や状態を表す語につける。「際」は特別な場面・機会にだけ、と「避難の際・利用の際」と並べて違いを見せる
友達との会話で「家に帰る際に、牛乳を買ってきて」と言い、硬すぎて冗談のように聞こえる。会話は「とき」、掲示やアナウンスは「際」と場面で分けさせる
「この際、全部捨てよう」の「この際(=この機会に)」と混同する。決まった言い方として別に扱う
既習の文型との違い
〜とき、Vます(初級第11課) 「とき」は会話にも書き言葉にも使え、「子どものとき」「暇なとき」のように状態や期間にもつきます。「際」は改まった書き言葉で、利用・避難・来訪のような特別な機会を指すときに使います。
〜場合(中級第4課) 「場合」は起きるかどうかわからない状況を仮定して言うときに向いています(「火災が発生した場合は」)。「際」はその行為を実際にするときを指します(「避難の際は」)。「地震の際」「地震の場合」はどちらも言えますが、仮定の響きが強いのは「場合」です。
関連する文型
学習項目 4 〜こと(指示)
意味・はたらき
文の終わりに「Vること/Vないこと」を置き、決まりや指示を短く書く 言い方です。掲示・規則・試験の注意・学校のお知らせなど書かれたものに使い、「〜てください」よりも命令に近い、事務的な響きがあります。会話で人に直接言うことはほとんどなく、先生が規則を読み上げるような場面に限られます。避難の掲示では、してはいけないことを「〜ないこと」で、手順を「〜こと」で並べることが多いです。
接続 V辞書形/Vない形+こと(文の終わり。書き言葉)
形
エレベーターを使わないこと 階段で1階まで移動すること 火の元を確かめてから外に出ること
導入
掲示の箇条書きを読む ST4 の掲示を配って読ませ、文の終わりに線を引かせる。「〜こと」で終わる文を「〜てください」に言い直させ、「どちらが強いですか」と聞く。板書では「〜てください(お願い)」「〜こと(決まり・書くとき)」の2行に分け、横に「話すときは使わない」と書く。
板書案
V(辞書形)+ こと。 / V(ない)+ こと。
階段で 1階まで 移動する こと。
エレベーターを 使わない こと。
〔赤〕掲示・規則(書いたもの) 〔青〕話すとき:〜てください/〜ないでください
3色の線:〔赤〕しない 〔青〕する 〔緑〕順番
場面と発話(自作)
試験会場の入口に、注意事項が貼ってある。 試験中は、携帯電話の電源を切っておくこと。
寮の台所の壁に、使い方の決まりが貼ってある。 使ったあとは、ガスの元栓を必ず閉めること。
日本語学校の定期試験の前に、注意事項の紙が配られた。 解答用紙には、必ず黒の鉛筆で名前と番号を書くこと。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「〜てください/〜ないでください」の文を「〜こと/〜ないこと」に書き換える練習を速く回す。次にグループで、教室や寮の避難の決まりを5つ「〜こと」で書いた掲示を作り、ほかのグループが読んで「すること・してはいけないこと」に分ける。
口頭 教室や寮の決まりの絵カード(携帯の電源・教室での飲食・遅刻の連絡・ごみの分別・ガスの元栓)を見せ、教師が「〜てください/〜ないでください」と言ったら、学習者が掲示の形「〜こと/〜ないこと」に言い換える。次は逆に、掲示の文を見て友達に口で伝える形に戻す。
ペア A は掲示の文を書いたカードを持ち、来たばかりの留学生役の B に口で「〜ないでね」「〜なきゃいけないんだって」と教える。B は聞いたことを掲示の形に書き戻し、A のカードと見比べる。書き言葉と話し言葉を往復させてから交替する。
産出 「教室の避難掲示づくり」 (課のまとめ): グループで教室の避難のきまりを「〜こと」で5行書き、ほかのグループが読んで「する・しない・順番」の3色に分ける。教師は①辞書形・ない形にそのままついているか ②話す場面に持ち込んでいないか ③「ことです」と言い足していないか、を見る。
つまずきと手当て
「*使わないでこと」「*使いこと」と、てください形やます形の一部につなぐ。辞書形かない形にそのまま「こと」をつける、と板書で確かめる
先生やアルバイト先の人に話すときに「あしたは早く来ること」のように言い、命令しているように聞こえる。話すときは「〜てください」と場面で分けさせる
「エレベーターを使わないことです」と「です」をつけ、指示ではなく「〜するのがいちばんだ」という助言(〜ことだ)のように聞こえる。掲示の指示は「〜こと。」で言い切る形だ、と自作の掲示の実物で確かめる
既習の文型との違い
Vてはいけません(初級第14課) 「〜てはいけません」は禁止を口で伝える言い方で、相手に向かって話します。「〜ないこと」は書いた掲示や規則の言い方で、読む人全員に向けた事務的な指示です。同じ内容を口と掲示で言い分ける練習にすると違いがつかめます。
禁止(初中級第11課) 「触るな」のような禁止形は強い命令で、標識や緊急の叫びに使います。「触らないこと」は命令に近いものの感情が入らず、学校や会社の規則に向きます。掲示に「触るな」と書くと、きつく乱暴な印象になります。
Vることになっています/Vないことになっています(規則)(初中級第9課) 「〜ことになっています」は規則があることを人に説明する言い方です。「〜こと」は規則そのものを書く形で、説明ではありません。寮の先輩が新入生に話すなら前者、壁に貼るなら後者です。
関連する文型
この場面のことば・表現
災害時の避難に関係があることば・表現 掲示やパンフレットで目で見る語なので、読み方と意味をそろえ、実際の寮や学校の掲示と結びつけます。漢字の多い語は「どこへ行く(避難所・集合場所)」「どこから出る(非常口・非常階段)」「何を持つ(非常持ち出し袋)」のように分類すると覚えやすくなります。例:「避難所」「集合場所」「非常口」「非常階段」「係員」「非常持ち出し袋」
5 伝えてみよう
できること 自分や周りの人が経験した緊急の出来事を、順を追って周りの人に話し、そのときに思ったことも伝えられる。
場面 クラスで「日本で経験した、びっくりしたこと・怖かったこと」を1人1分ほど話す場面です。事前に「いつ・どこで・何が起きた・自分はどうした・今思うこと」の5つのメモ欄を書かせておき、メモを見ながら話させます。聞く人には、話が終わったら一つ質問するよう決めておきます。
留学生:先週、駅のホームで、前を歩いていた男の人が急に倒れたんです。
留学生:顔が真っ青で、声をかけても、目を閉じたまま返事をしませんでした。
留学生:倒れたときにホームの端にぶつけたのか、腕が傷だらけでした。
留学生:すぐに駅員さんを呼んで、救急車が来るまでそばにいました。
留学生:とても暑い日だったので、たぶん熱中症だったんだろうと思います。
クラスメート:そのとき、怖くなかったですか。
留学生:怖かったですが、体が先に動いていました。どうしてあんなに落ち着いていられたんだろうと、今でも思います。
学習項目 1 〜まま
意味・はたらき
「〜まま」は、ある状態が変わらずに続いている中で、別のことをする・起きる ことを表します(「目を閉じたまま返事をしなかった」「電気をつけたまま寝てしまった」)。ふつうなら変わるはずの状態が変わっていないことや、そのままではよくない状態を言うことが多く、緊急の場面の様子を伝えるのに向いています。「靴を脱いで上がる」のような「〜て」はふつうの順番の動作を言いますが、「靴を履いたまま上がる」はふつうとは違う様子を言います。名詞や形容詞にもつきます(「このまま」「昔のまま」「熱いまま」)。
接続 Vた形/Vない形+まま、イA+まま、ナA+な+まま、N+の+まま
形
目を閉じたまま、返事をしなかった 窓を開けたまま出かけてしまった 電車が止まったまま、1時間たった けがをした日のままの服
導入
二つの絵の違いを言う 「靴を脱いで部屋に入る人」と「靴を履いたまま部屋に入る人」の2枚の絵を並べ、「どちらがおかしいですか」と聞く。教師が2枚目を指して「靴を履いたまま、部屋に入っています」と言い、板書で「〜て(ふつうの順番)」「〜たまま(状態が変わらない・ふつうではない)」を対にする。次に ST5 の話の「目を閉じたまま返事をしない」を絵で見せる。
板書案
V(た)+ まま、〜 (状態が変わらないで)
目を 閉じた まま、返事を しませんでした。
電気を つけた まま、寝て しまった。
〔青〕靴を脱いで上がる=ふつうの順番 〔赤〕靴を履いたまま上がる=ふつうと違う
N の まま/イA まま/ナA な まま/Vない まま
場面と発話(自作)
大雨で電車が駅と駅の間で止まったときのことを話す。 電車が止まったまま、1時間以上だれも降りられませんでした。
地震のあと、急いで外に出たときのことを話す。 あわてていて、スリッパを履いたまま外に飛び出しました。
急に具合が悪くなった友達を見つけたときのことを話す。 部屋に行ったら、友達がテレビをつけたまま床に寝ていて、声をかけても起きませんでした。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、状態のカード(電気をつける・窓を開ける・コートを着る・目を閉じる)と動作のカード(寝る・出かける・座る・話す)を組み合わせ、「〜たまま〜」を言わせる。次に ST5 の経験の話の中に「〜まま」を1か所入れて、そのときの様子を言わせる。
口頭 絵カード(開いた窓・ついた電気・履いた靴・開いたかぎ・ついたテレビ)と次の動作のカード(出かける・寝る・部屋に入る・家を出る)を組み合わせ、「窓を開けたまま、出かけました」と言わせる。他動詞(開ける)と自動詞(開く)の両方で言い、「窓が開いたまま」との違いも口で確かめる。
ペア 部屋の間違い探し : A と B が少しずつ違う部屋の絵を持ち、見せ合わずに「電気をつけたままですか」「いいえ、消してあります」と聞き合って違いを5つ探す。見つけたら交替して別の絵で行う。
産出 「あのとき、どうだった?」 (ST5): 緊急の出来事を話すとき、その人や物の様子を「〜たまま」「〜ないまま」で1つ以上入れて話す。教師は①た形・ない形につないでいるか ②「を・が」と自動詞・他動詞が合っているか ③ふつうの順番の動作に使っていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*靴を履くまま入った」と辞書形につなぐ。動詞はた形かない形(「履いたまま」「何も言わないまま」)につくと、板書で確かめる
「*窓が開けたまま出かけた」と、自動詞と他動詞 を取り違える。「窓を開けたまま」「窓が開いたまま」と2つを並べ、「を・が」と動詞を対にして見せる
ふつうの順番の動作に「まま」を使い、「シャツを着たまま、上着を着た」のように変わった響きになる。ふつうなら「〜て」でよいと、2枚の絵の違いで確かめる
既習の文型との違い
Vて、〜/Vないで、〜(付帯状況)(初中級第12課) 「かさを持って出かける」は、ふつうの順番やふつうの様子で動作をすることです。「まま」は、変わるはずの状態が変わらないで次のことが起きることで、「スリッパを履いたまま外に出た」のように、ふつうとは違う様子に向きます。
Vておきます(放置)(初中級第9課) 「窓を開けておく」は、わざとその状態にしておくことです。「窓を開けたまま出かけた」は、意図を問わずその状態が続いていたことで、うっかり忘れた場面によく使います。理由を聞く問いを添えて、わざとかどうかで選ばせます。
関連する文型
学習項目 2 〜だらけ
意味・はたらき
「Nだらけ」は、よくないものがあちこちにたくさんある・ついている 様子を表します(「泥だらけ」「傷だらけ」「ほこりだらけ」「間違いだらけ」)。話し手が汚い・困ったと感じていることが多く、事故やけがのあとの様子を生々しく伝えるのに使います。「いっぱい」は多いことを言うだけで、よいものにも使えますが、「だらけ」はふつうよいものには使いません。
接続 N+だらけ(後ろに名詞が来るときは「Nだらけの+N」)
形
腕が傷だらけでした 靴が泥だらけになった ガラスの破片だらけの床 間違いだらけの書類
導入
汚れた服の絵で言う 泥のついたズボンと靴の絵を貼り、「どうなっていますか」と聞いて「泥がたくさんついている」を出させる。教師が「泥だらけです」と言い直し、同じ形で「傷だらけ」「ほこりだらけ」の絵を順に見せる。板書の横に「いっぱい(多いだけ)」「だらけ(よくないものがたくさん)」を並べる。
板書案
N + だらけ
腕が 傷だらけ でした。
泥だらけ・ほこりだらけ・間違いだらけ
〔赤〕よくないもの・困った気持ち 〔青〕いっぱい=ただ多い(よいものにも)
名詞の前:N だらけ の + N(泥だらけの靴)
場面と発話(自作)
台風のあと、家のまわりを片付けたことを話す。 台風のあと、庭が折れた枝と葉っぱだらけになっていました。
自転車で転んだ友達の様子を、ほかの友達に伝える。 転んだあと、ひざも手も擦り傷だらけだったよ。
台風のあと、ボランティアで近所の公園を片付けている。 ベンチのまわりが枝と葉っぱだらけで、まだ座れませんね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「泥・血・傷・ごみ・ほこり・間違い」のカードを見せて「〜だらけ」を言わせ、次に「〜だらけの〜」で名詞の前の形も言わせる。最後に ST5 の経験の話に、事故やけがのあとの様子を「〜だらけ」で1文足す。
口頭 写真や絵カード(泥のついた靴・ほこりのかぶった棚・赤ペンの入った作文・葉っぱの散らかった庭・傷の多い机)を見せ、「靴が泥だらけです」と言わせる。次に名詞の前の形「泥だらけの靴」で言わせ、最後に教師が「花」「お金」を出して、だらけを使わず「いっぱい」で言う語を学習者に選ばせる。
ペア 何だらけ?クイズ : A は絵を見せずに「靴が泥だらけになりました。どうしてでしょう」と言い、B が理由を当てる(「雨の日にサッカーをしたんですか」)。当たったら交替し、3問ずつ出す。
産出 「事故のあとの様子を描こう」 (ST5): 自分が話す緊急の出来事の中に、けがや片付けのあとの様子を「〜だらけ」で一つ入れる。教師は①名詞につけているか ②よいものに使っていないか ③一つしかないものに使って大げさになっていないか、を見る。
つまずきと手当て
「*汚いだらけ」「*痛いだらけ」と形容詞につける。「だらけ」は名詞だけにつくと、カードの語がすべて名詞であることで確かめる
「花だらけ」「お金だらけ」のようによいものに使い、汚いものがあふれている感じになる。よいものがたくさんあるときは「いっぱい」と言わせる
けがが一か所だけなのに「ひざが傷だらけです」と言い、大げさに伝わる。「だらけ」はあちこちにある様子なので、一つなら「ひざに傷があります」と言わせる
既習の文型との違い
NばかりVています/Vてばかりいます(初中級第13課) 「ばかり」は動作や選んだものがそれに偏っていることで、「お菓子ばかり食べている」のように使います。「だらけ」は物の表面や場所にあちこちたくさんある様子です。「間違いばかりの作文」と「間違いだらけの作文」はどちらも言えますが、「だらけ」のほうが見た目の多さと困った気持ちが強く出ます。
〜っぽい(中級第1課) 「ほこりっぽい部屋」は、ほこりがある感じがすること、「ほこりだらけの部屋」は、目に見えてほこりがあちこちにあることです。程度の差として、っぽい→だらけ、の順に板書すると選びやすくなります。
関連する文型
学習項目 3 〜んだろう/〜のだろう
意味・はたらき
「〜んだろう/〜のだろう」は、ある出来事についてその理由や事情を推測する 言い方です(「たぶん熱中症だったんだろう」)。「どうして〜んだろう」の形では、答えのわからない理由を自分に問いかける気持ちを表します(「どうしてあんなに落ち着いていられたんだろう」)。ふつうの「〜だろう」が出来事そのもの(起きるか・そうであるか)を推測するのに対し、「〜んだろう」は目の前の事実の背景にある事情を考えるときに使います。会話では「〜んだろう」、ていねいな会話では「〜んでしょう」、書き言葉では「〜のだろう」です。
接続 普通形+んだろう/のだろう(ナA・N は「な」:静かなんだろう・病気なんだろう)
形
たぶん熱中症だったんだろう どうして急に倒れたんだろう 前の日の雨で、地面がゆるんでいたのだろう (ていねい)どうして止まっているんでしょう
導入
様子から理由を考えさせる 駅のホームで人が座りこんでいる絵(汗をかいている・空に太陽)を貼り、「どうしてですか」と聞いて学習者に理由を言わせる。教師が「暑かったから、気分が悪くなったんだろう」と言い、板書で「事実(座りこんでいる)← 理由の推測(〜んだろう)」と矢印にする。次に「どうして〜んだろう」と首をかしげて、わからない理由を考える形も見せる。
板書案
普通形(ナA・N は「な」)+ んだろう
たぶん 熱中症 だった んだろう。
どうして 急に 倒れた んだろう。 〔青〕↑ 自分への問いかけ
〔赤〕だろう=出来事そのものの推量 〔赤〕んだろう=目の前の事実の理由
会話:〜んだろう ていねい:〜んでしょう 書き言葉:〜のだろう
場面と発話(自作)
地震のあと、近所の古い塀だけが倒れているのを見た。 古かったから、揺れに耐えられなかったんだろうね。
急病で倒れた人を助けた経験を、クラスで話す。 あとで考えると、あのときどうして体が先に動いたんだろうと思います。
大雨の日、いつもは混む道に人がいなかったことを日記に書く。 みんな、外出を控えていたのだろう。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、出来事の絵カード(木が倒れている・電車が遅れている・道が水につかっている)を見せ、「たぶん〜んだろう」で理由を推測させる。次に ST5 の経験の話の最後に、原因の推測か「どうして〜んだろう」の振り返り を1文入れて話させる。
口頭 「結果」の絵カード(ぬれた道・長い行列・止まった電車・割れた窓ガラス・閉まっている店)を見せ、教師が「どうしてでしょう」と聞き、学習者が「夜、雨が降ったんだろう」と理由を推測して言う。ナ形容詞・名詞のカード(休み・工事・静か)では「休みなんだろう」と「な」を入れさせる。次に「どうして〜んだろう」で自分に問いかける言い方を全体で言わせる。
ペア なぜだろう推理 : A が不思議な出来事のカードを読み(「朝、公園に靴が片方だけ落ちていた」)、B が「〜んだろう」で理由を2つ推測する。A がカードの裏の答えを明かし、交替する。
産出 「あのときの理由」 (ST5): 自分の緊急の経験を話す終わりに、原因の推測「たぶん〜んだろうと思います」と、今も残る疑問「どうして〜んだろう」を1文ずつ入れる。教師は①ナA・N の「な」(「*熱中症だんだろう」) ②ただの予想と混ぜていないか ③ていねいな場面で「んでしょう」に切り替えられているか、を見る。
つまずきと手当て
「*静かだんだろう」「*熱中症だんだろう」とナ形容詞・名詞のあとに「だ」を残す。「な」に変えて「静かなんだろう」「熱中症なんだろう」と、普通形からの作り方を板書で確かめる
理由の推測ではない、ただの予想に「〜んだろう」を使い、「あしたは雨が降るんだろう」と言う。文法の誤りではないが、「何かを見て理由を考えている」響きになる。ただの予想は「降るだろう」と対にして聞かせる
先生やアルバイト先の人との会話で「〜んだろう」を使い、ぞんざいに聞こえる。ていねいな会話では「〜んでしょう」と言い換えさせる
既習の文型との違い
〜でしょう/〜だろう(中級第1課) 「あしたは雨が降るだろう」は、まだ起きていないことの予想です。「んだろう」は、ぬれた道を見て「夜、雨が降ったんだろう」と、目の前の事実の背景にある事情を考えるときに使います。見えている結果があるかどうかで選ばせます。
どうしたんですか/〜んです(初級第12課) 「〜んです」は、相手に事情を説明したり、事情を聞いたりする言い方です。「〜んだろう」は、その事情を自分で推し量る言い方で、相手に答えを求めていないことが多いです。「どうして倒れたんですか」は人に聞く文、「どうして倒れたんだろう」はひとりごとに近い文と並べます。
関連する文型
この場面のことば・表現
けがや急病に関係があることば・表現 自分が経験を話すときに使う語なので、聞いてわかるだけでなく自分で言えるところまで練習させます。救急車を呼ぶ・倒れた人の様子を言う・病院で言われたことを伝える、の三つの場面に分けて語を整理し、ST5 の話の中で一つずつ使わせます。例:「救急車を呼ぶ」「意識がない」「顔が真っ青」「熱中症」「気を失う」「応急手当て」
語彙の扱い
この課の語は、速報と気象(震源・余震・警報・運転見合わせ)、交通の乱れ(運休・振替輸送・復旧)、けがと症状(ひねる・腫れる・擦り傷)、避難(避難所・集合場所・非常口)、急病(救急車・熱中症・意識)の5つのかたまりに分かれます。速報や掲示の漢語は読めればよい語と、自分で言えるようにする語を分け、病院で症状を言う語と、駅や電話で状況を言う語は必ず口に出させます。各 ST の「ことば」の欄の語は、次の ST でも続けて使わせると、一続きの緊急の場面として定着します。
この課の練習で使う語(12語・意味・連語・例文)
震度 (しんど) その場所で地震がどのくらい強く揺れたかを表す数。日本では0から7までの段階で言い、5と6は弱と強に分ける。 〜5弱・〜が大きい・〜4の揺れ 地震のあと、国の家族に電話で無事を知らせる。こっちは震度4だったけど、部屋の物は何も落ちなかったよ。
余震 (よしん) 大きな地震のあとに、続いて何度か起きる地震。 〜が続く・〜に注意する・〜のおそれ 地震の次の朝、ルームメイトと部屋を片付けている。余震のおそれがあるから、棚の上の物は下ろしておこう。
見合わせます (みあわせます) 予定していたことを、状況がよくなるまでしばらくやめる。電車では「運転を見合わせる」と言う。 運転を〜・出発を〜・外出を〜 駅のアナウンスを聞いて、待ち合わせの友達に伝える。信号の故障により、運転を見合わせているって。少し遅れるね。
振替輸送 (ふりかえゆそう) 電車が止まったとき、持っている切符で別の会社の電車やバスに乗れるようにすること。 〜を行う・〜を利用する・〜の案内 アルバイト先の店長に、駅から電話をかける。振替輸送のバスも混んでいて、6時には着きそうにないんですが……。
見込み (みこみ) これから先、そうなるだろうという予想。 〜が立たない・再開の〜・〜がある 駅員に聞いた話を、電話で会社の人に伝える。運転再開の見込みは、まだ立っていないとのことです。
ひねります (ひねります) 足や手を急に変な向きに回して、痛める。 足首を〜・手首を〜・腰を〜 学校の保健室で、先生にけがのことを話す。階段を下りるときに、足首をひねってしまったようなんです。
腫れます (はれます) けがや病気のせいで、体の一部がふくらむ。 足が〜・赤く〜・顔が〜 病院で、けがのあとの変化を医者に説明する。時間がたつにつれて、手首が赤く腫れてきました。
避難 (ひなん) 危ない場所から、安全な場所へ逃げること。 〜する・〜の際・〜所 寮の防災の説明会で、係の人が話している。避難の際は、エレベーターを使わずに階段で下りてください。
指示 (しじ) 何をどうするかを人に伝えて、そのとおりにさせること。また、その内容。 〜に従う・〜を出す・係員の〜 避難訓練で、先生がクラス全員に声をかける。係員の指示どおりに、外の駐車場まで移動してください。
非常口 (ひじょうぐち) 火事や地震などのときに、外へ逃げるための出口。 〜から出る・〜の場所・〜の前 新しいアルバイト先で、初日に先輩に聞く。すみません、非常口はどこにありますか。
意識 (いしき) まわりのことがわかって、反応できる状態。倒れた人の様子を伝えるときに使う。 〜がない・〜が戻る・〜を失う 道で倒れている人を見つけて、119番に電話する。男の人が倒れていて、声をかけても意識がないみたいなんです。
救急車 (きゅうきゅうしゃ) 急なけがや病気の人を、病院に運ぶ車。日本では119番に電話して呼ぶ。 〜を呼ぶ・〜が来る・〜で運ばれる 駅のホームで人が倒れたのを、駅員に知らせる。人が倒れたまま動かないんです。救急車を呼んでください。
宿題と次のコマ 宿題は、自分の国や日本で経験した(または家族から聞いた)緊急の出来事を、「いつ・どこで・何が・自分はどうした・今思うこと」の5つのメモにまとめ、「〜まま」「〜だらけ」「〜んだろう」のどれか2つを入れて1分で話せるように準備してくること。次のコマの最初に数人に話してもらってから、第6課「地図を広げる」の1「見つけた!」に入ります(災害の話から、地形や気候の話につなぎます)。
よくある質問
『できる日本語 中級』第5課「緊急事態!」は何コマで終わりますか?
学習項目が14あるので、90分なら4コマが目安です。1コマ目に導入 と「耳でキャッチ」(によって・おそれがある)と電話の場面の前半、2コマ目に電話の場面の後半と病院の場面(そうにない・とか・てしまったようなんです・ところへ・につれて)、3コマ目に避難の掲示(ものだ・とおり・際・こと)、4コマ目に「伝えてみよう」(まま・だらけ・んだろう)と課のまとめを入れます。掲示の硬い形(際・こと・ものだ)は1枚の自作の掲示でまとめて扱うと、3コマ半ほどに縮められます。
「〜によって」と「〜で」(原因)の違いは、どう説明すればいいですか?
意味はほとんど同じで、違いは文体と使う出来事です。「雨で遅れた」は会話の言い方で個人の事情にも使え、「大雨により遅れています」はニュースやお知らせの書き言葉で、自然現象や事故のような社会的な出来事に使います。会話の文と速報の文を2行並べて板書し、場面で選ばせると定着します。名詞の前では「大雨による遅れ」と「による」になる点も同時に押さえます。
伝聞の「〜とか」と「〜そうです」はどう教え分けますか?
どちらも人から聞いた話ですが、「そうです」は聞いた内容をそのまま伝え、「とか」は細かいところまでは確かではない、とぼかす話し言葉です。友達への電話なら「木が倒れたとかで遅れる」でよく、店長や先生への報告では「〜とのことです」「〜そうです」が適切です。相手の役カードを替えて同じ内容を伝えさせると、違いが場面で身につきます。
「〜ところへ」「〜ところに」「〜ところを」の使い分けは、どこまで教えればいいですか?
「ところへ」と「ところに」はほとんど同じ意味で、その場面に人が来たり思いがけないことが起きたりしたときに使う、と伝えれば十分です。教え分けるべきなのは「ところを」で、後ろに「見る・助ける・呼び止める」のような、その場面の人を対象にする動詞が来ます。「転んだところを、人に助けてもらった」のように、けがの説明の中で練習させると使いどころが見えます。
災害やけがの話題を扱うとき、学習者への配慮は必要ですか?
必要です。地震や水害を経験した学習者や、家族の事故・病気を抱える学習者がいるかもしれません。「伝えてみよう」では「びっくりしたこと」でもよいとし、自分の経験か聞いた話か、架空の設定カードかを選べるようにします。速報や掲示の素材は自作にし、実在の災害の名前や被害の数字は使わないほうが安心して練習できます。
この課に関係する用語・解説・練習問題 この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。