区分5「言語」のうち、音声と文法は形が目に見える領域です。ところが語彙・意味・語用論はそうではありません。同じ「窓が開いていますね」が、報告にも依頼にもなる。同じ「それ」が、目の前の物にも話の中身にも向かう。ここで問われているのは語そのものが持つ中身と、文脈が上から決めてしまう部分の切り分けです。この記事では語の中身から出発して、文脈が働く範囲へ、最後に書き表し方の基準へと降りていきます。
語彙の問題でまず効くのが語種の意識です。語を出自によって分けると、和語(やまとことば)・漢語(字音で読む語)・外来語(主に近代以降に欧米から入った語)・これらが組み合わさった混種語の4つになります。
重要なのは、語種が語感と文体に直結することです。「宿・旅館・ホテル」「取り消す・解約する・キャンセルする」のように、ほぼ同じ内容を三通りに言い分けられる。和語は日常的でやわらかく、漢語は改まって抽象的、外来語は新しさを感じさせます。この重層性が日本語の語彙体系の特徴であり、レベル別の語彙選定でも意識されます。
ひっかけは決まって混種語で作られます。「消しゴム」は和語+外来語、「歯ブラシ」も和語+外来語、「勉強する」は漢語+和語、「サボる」は外来語(サボタージュ)+和語の活用語尾です。要素が異なる語種にまたがっていれば混種語、と機械的に判断してください。
| 語種 | 例と語感 |
|---|---|
| 和語やまとことば | やま・たべる・うつくしい。日常的でやわらかい。訓読みが目印になる |
| 漢語字音語 | 学校・電話・勉強。改まって抽象的。中国由来だが外来語とは別に立てる |
| 外来語主に欧米から | ゴム・パン・テレビ。新しさを感じさせる。片仮名で書かれることが多い |
| 混種語重箱読み・湯桶読みを含む | 消しゴム・歯ブラシ・勉強する・サボる。要素が別の語種にまたがるもの |
語は単独では使えません。「約束を守る」「風邪をひく」「夢を見る」「電話をかける」のように、どの語とどの語が結びつくかは慣習で決まっています。この慣習的な結びつきがコロケーション(連語)です。
学習者の誤用の多くはここから出ます。「×薬を食べる → ○薬を飲む」「×約束を保護する → ○約束を守る」「×風邪をとる → ○風邪をひく」。いずれも語の意味は正しく理解しているのに、組み合わせだけが母語からの直訳になっています。語義を知っていても防げない誤りである点が重要です。
試験ではイディオム(慣用句)との区別が問われます。「油を売る=サボる」のように全体の意味が構成要素から予測できないものがイディオム。コロケーションは意味は透明だが組み合わせが不自由、イディオムは意味が不透明、と押さえてください。ここから、語彙は単語単位ではなくかたまり(チャンク)で覚えるべきだという指導観が出てきます。
語の中身を問う問題は、たいてい多義語と同音異義語の区別から始まります。一つの語形が互いに関連する複数の意味をもつのが多義語です。「あたま」は頭部から先頭(列のあたま)・人数(あたま数)・思考力(あたまがいい)へ、「あまい」は味から採点(採点があまい)・締まり具合(ねじがあまい)へと、中心的な意味から比喩によって広がっています。既習の意味に引きずられて新しい用法が読めない、というつまずきの原因にもなります。
これに対し、語源も意味もまったく別の語がたまたま同じ音になったものが同音異義語です。「こうえん」(公園・講演・後援・公演)、「きかん」(期間・機関・器官)。見分ける鍵は意味のつながりがあるかどうかの一点で、辞書でも多義語は一つの見出しの中の語義、同音異義語は別々の見出しとして扱われます。日本語は漢語に同音異義語が多く耳で区別しにくいため、話し言葉では「私立=わたくしりつ」「化学=ばけがく」のような言い換えが起こります。
さらに語彙は互いに関係づけられて体系をなします。これが語の意味関係です。とくに対義語の3種類は必ず出ます。「大きくない」は「小さい」を意味しないのに、「合格しなかった」は「不合格」を意味する——この差が反対関係と相補関係の区別です。
| 関係 | 中身と例 |
|---|---|
| 上位語と下位語包含関係 | 「果物」が上位語、「りんご・みかん」が下位語。下位語は上位語の性質を受け継ぎ、より限定的 |
| 類義語意味が近い | のぼる/あがる、うつくしい/きれい、しかし/でも。完全に置き換えられるものはまれ |
| 反対関係対義語①・程度が連続 | 大きい⇔小さい、暑い⇔寒い。中間があり、一方の否定が他方にならない |
| 相補関係対義語②・二者択一 | 合格⇔不合格、生⇔死。中間がなく、一方を否定すれば他方になる |
| 逆関係対義語③・視点の反転 | 行く⇔来る、売る⇔買う、貸す⇔借りる。同じ事態をどちらから見るかの違い |
ここから語用論に入ります。「わたし」「ここ」「きのう」「この」のように、だれが・いつ・どこで話しているかを基準にしないと指すものが決まらない表現の働きがダイクシス(直示)です。人称ダイクシス(わたし・あなた)、時間ダイクシス(きのう・あした・今)、場所ダイクシス(ここ・そこ)に大別され、談話内の位置を指す談話ダイクシス、待遇関係を示す社会的ダイクシスを立てる立場もあります。
典型例は「あした行きます」と書かれたメモです。いつ書かれたかが分からないと解釈できません。発話時を基準とする「きのう・あした」と、出来事を基準とする「前日・翌日」の使い分けが報告文や引用の指導で問題になるのは、このためです。
そのダイクシスを日本語で担う中心がコソアド系の指示詞です。用法は現場指示と文脈指示の二つに分かれ、この二つで働き方がまったく違うことが要点になります。現場指示は目の前の対象を指す用法で、話し手の領域=コ、聞き手の領域=ソ、どちらからも遠い=ア、という縄張りで使い分けます。文脈指示は談話に現れた事柄を指す用法で、こちらは物理的な距離ではなく情報の共有状態で決まります。
| 系列 | 現場指示と文脈指示 |
|---|---|
| コ系これ・ここ・この | 現場: 話し手の領域にあるもの/文脈: これから述べる事柄、いま話題にしている事柄 |
| ソ系それ・そこ・その | 現場: 聞き手の領域にあるもの/文脈: 直前に述べられた事柄、聞き手が知らない事柄(それは大変でしたね) |
| ア系あれ・あそこ・あの | 現場: 話し手からも聞き手からも遠いもの/文脈: 両者が共有する記憶(あの店、おいしかったね) |
| ド系どれ・どこ・どの | 不定。指す対象が定まっていないことを示し、疑問文や「どの〜も」のような不定表現を作る |
語用論の中心にあるのが発話行為と間接発話行為という考え方です。発話は情報を述べるだけのものではありません。「明日必ず返します」は約束という行為そのものを成立させています。この見方を立てたのがオースティンで、発話を行うこと(発語行為)、それによって何かをすること(発語内行為)、聞き手に効果をもたらすこと(発語媒介行為)の3層に分けました。この3層の名称と中身の対応が、そのまま出題されます。
サールは発語内行為を断定・行為指示・行為拘束・表出・宣言などに分類し、文の形式と実際の行為の種類がずれる場合を間接発話行為と呼びました。「窓が開いていますね」は形式のうえでは状態の描写ですが、機能は「閉めてほしい」という依頼です。「窓を開けていただけませんか」も、形式は能力を問う疑問文で機能は依頼。「寒くない?」も同じ構造です。
なぜわざわざ間接的な形をとるのか。相手の行動の自由を侵さないための配慮、すなわちネガティブ・ポライトネスと結びつくからです。逆に、形式だけを字義どおりに受け取って「はい、開けられます」と答えてしまう学習者の例は、文法的には正しいのに場面に合わない語用論的な失敗として扱われます。文法能力と語用論的能力は別だ、という論点がここに現れます。
飲食店で「ぼくはうなぎだ」と言っても、だれもその人を魚だとは思いません。「AはBだ」の形でありながらA=Bではなく、「うなぎにする/を注文する」という述語を「だ」が文脈から補って代行している。これがうなぎ文です。「は」が主題を示し、そのあとに文脈依存の説明が続く構造で、主語が動作主でない「こんにゃくは太らない」(こんにゃくを食べても太らない)なども仲間です。英語のような主語卓越型の言語に対して、日本語が主題卓越型であることを示す例としてよく引かれます。「ぼくはうなぎです」を「私はうなぎという動物です」と読んでしまう学習者は、「は」の主題性が入っていないわけです。
文脈が補うものは述語だけではありません。言葉として明示していないのに伝わる意味を扱うのが会話の含意と前提です。グライスは、会話が協調の原理のもとで行われるとし、量(過不足なく)・質(真であることを)・関係(関連あることを)・様態(明瞭に)の4つの格率を立てました。格率にわざと違反すると、聞き手は裏を読みます。「一緒に行きませんか」に「あした試験があるんです」と返して断りが伝わるのは、一見すると関係の格率に違反しているからです。
この含意に対して前提は別物です。前提は、文が成り立つために前もって真とされている情報を指します。「太郎はたばこをやめた」も「太郎はたばこをやめていない」も、どちらも「以前は吸っていた」ことを前提にしています。「いつから知っていたんですか」という問いが相手を縛るのは、「知っていた」が前提として押しつけられているからです。
話し言葉では音が縮まります。「〜ている→〜てる」「〜ておく→〜とく」「〜てしまう→〜ちゃう/〜じゃう」「〜なければ→〜なきゃ」「〜のだ→〜んだ」「〜という→〜って」。これらが縮約形です。
教科書は書き言葉に近い形を提示するため、学習者は教室の外で初めて縮約形に出会い、聞き取れずに立ち止まります。かといって早い段階から縮約形ばかりを使うと、改まった場面で不適切に響きます。理解のためには早めに、産出は場面を限ってという扱いが一般的な考え方です。
評価の面で注意したいのは、縮約形は「くずれた日本語」ではなく、話し言葉というレジスターに属する正規の変異だという点です。「乱れ」として説明した選択肢は誤りになります。ドラマなどの生教材を扱うときは、縮約形とスピーチレベルをセットで意識させる必要があります。
最後に表記です。日本語の書き表し方については、内閣告示・訓令という形でよりどころが示されてきました。表記の基準として主なものは、常用漢字表・現代仮名遣い・送り仮名の付け方・外来語の表記・ローマ字のつづり方の5つ。まず押さえるべきは、いずれも一般の社会生活における目安であって、強制力のある規格ではないという性格です。
常用漢字表は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送などで漢字を使う際の目安を示した内閣告示です。1981年に当用漢字表に代わって告示され、2010年の改定で2136字になりました。情報機器の普及を踏まえ、手書きできなくても読めればよい漢字が加えられたのがこの改定です。似た表との役割の違いが定番で、小学校で学ぶのは学年別漢字配当表(教育漢字1026字)、人名に使えるのは常用漢字に人名用漢字を加えたものです。
現代仮名遣い(1986年内閣告示)の原則は現代語の発音に従って書くことですが、助詞の「は・へ・を」のように語源や語形に配慮した例外が残されています。とくに問われるのが「ぢ・づ」で、用いるのは原則として二つの場合。①同音の連呼(ちぢむ・つづく)②二語の連合=連濁(はな+ち→はなぢ、みか+つき→みかづき、こ+つつみ→こづつみ)。一方「地面」「稲妻」などは現代では二語の意識が薄れているとして「じ・ず」で書くのが本則で、ここが最大のひっかけです。長音の書き方(おとうさん/おおきい、とけい)も語ごとに決まっており、発音どおりとは限りません。
残る3つも名称と骨格だけは押さえておきます。送り仮名の付け方は通則1〜7からなり、活用のある語は活用語尾を送る(書く・美しい)のが基本原則で、「申込み/申込」のように慣用による許容が広く認められています。外来語の表記は、広く使われる音を第1表、原音に近づけたい場合に使える音(ティ・ヴァ・ファなど)を第2表に分けて示しています。ローマ字のつづり方は訓令式とヘボン式・日本式を表に分けて内閣告示・訓令の形で定められてきましたが、実社会ではヘボン式が広く使われており、その扱いは近年見直しの対象になっています。細部を暗記するより、告示・訓令の名称と「目安である」という性格を押さえるのが先決です。
この記事の流れを、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。
①語種は和語・漢語・外来語・混種語の4分類。要素が別の語種にまたがれば混種語(消しゴム・勉強する)。②コロケーションは意味が透明で組み合わせが不自由、イディオムは意味が不透明。③多義語は意味のつながりあり、同音異義語は無関係。④語の意味関係の対義語は反対・相補・逆の3種。⑤ダイクシスは場面がないと指示対象が決まらない働き、コソアドは現場指示(縄張り)と文脈指示(情報の共有)で原理が違う。
⑥発話行為は3層(発語行為・発語内行為・発語媒介行為)、形式と機能がずれるのが間接発話行為(窓が開いていますね=依頼)。⑦うなぎ文は主題卓越型の証拠。⑧会話の含意と前提は、取り消せるのが含意、否定しても残るのが前提。⑨縮約形はレジスターの変異であって乱れではない。⑩常用漢字表2136字・教育漢字1026字、現代仮名遣いの例外、表記の基準はすべて目安。
この10点が言えれば、区分5の語彙・意味・語用論・表記の選択肢はほぼ機械的に切れます。個々の用語の細部は用語集の各ページで確認してください。
1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。