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日本語の文法(1)述語のまわり — 述語は四つの層でできている

区分5 言語 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

日本語の述語は、動詞に部品を継ぎ足して作られます。「読ませられていましたね」のように、内側から外側へ決まった順序で層が重なる。区分5の文法問題は、いま自分がどの層を問われているのかが分かれば、大半が整理できます。この記事では述語のまわりに集まる文法カテゴリーを、学習者の誤用例とセットでたどります。個々の用語は用語集で確認できるので、ここでは層どうしの関係を押さえてください。

述語を包む四つの層 — 内側から外側へ

日本語の述語は、動詞の語幹に部品を次々と継ぎ足して作られます。たとえば「読ませられていましたね」は、読む(語幹)+せ(使役)+られ(受身)+てい(アスペクト)+まし(丁寧さ)+た(テンス)+ね(終助詞)と分解できます。並ぶ順序はほぼ決まっていて、出来事の中身に近いものほど内側、話し手の態度に関わるものほど外側に来ます。

この順序をカテゴリーの名前で言い直すと、内側からヴォイス(態)→アスペクト→テンス→モダリティとなります。ヴォイス(態)は同じ出来事をだれの側から述べるかに関わり、アスペクトは出来事の内部の局面を、テンスは出来事を発話時などの基準時に位置づけ、モダリティは出来事の内容そのものではなく、それに対する話し手の判断や伝達の態度を表します。

文全体は命題+モダリティという層構造をなしている、と捉えると見通しが立ちます。命題は「あした雨が降る」のように真偽を問える部分、モダリティはそこに「だろう」「かもしれない」を添えて確からしさを示す部分です。このうちテンスとアスペクトは、同じタ形・ル形やテ形の周辺で顔を出すため、区別が最もあいまいになりやすいところです。

何を表すか
ヴォイス最も内側同じ出来事をだれを主語に立てて述べるか。受身・使役・自他のペア
アスペクト出来事の内部始まり・継続・終わり・結果といった局面。「ている」「てある」「ておく」「〜はじめる」
テンス基準時との関係出来事を基準時の前か後かに位置づける。ル形とタ形の対立が担う
モダリティ最も外側命題に対する話し手の判断・伝達態度。「だろう」「べきだ」「らしい」、終助詞
試験でのねらわれ方四つのカテゴリーは、説明文だけを入れ替えた選択肢が定番です。ヴォイス=だれを主語に立てるか/アスペクト=出来事の局面/テンス=基準時への位置づけ/モダリティ=話し手の態度。とくにテンスとアスペクトの混同が最頻出で、「ている=進行形」「タ形=過去形」と一対一で対応させた選択肢は誤りです。タ形は「あ、あった」のように発見や想起も表します。

自動詞と他動詞 — 対応するペアと格助詞

ヲ格の目的語を取らない動詞が自動詞、取る動詞が他動詞です。日本語の大きな特徴は、自動詞と他動詞が形の上で対応するペアを大量にもつ点にあります。開く/開ける、閉まる/閉める、つく/つける、入る/入れる、始まる/始める、落ちる/落とす、出る/出す、決まる/決める——初級で扱う動詞の多くがこの対をなしています。

ただし対応のしかたは一様ではなく、語形のパターンは複数あります。またすべての動詞にペアがあるわけではありません。「走る・降る・咲く」は相手をもたない自動詞、「読む・食べる・買う」はペアをもたない他動詞です。「日本語の動詞はすべて自他の対をなす」と述べた選択肢は誤りになります。

学習者の誤用は、自他の選択と格助詞の選択が連動して起こります。×電気をつきました → ○電気をつけました(他動詞を使うべき場面で自動詞)、×ドアが開けました → ○ドアが開きました(自動詞を使うべき場面で他動詞)。日本語では、動作主をあえて言わずに自動詞で事態だけを述べる言い方がよく使われ(お湯が沸きました/お皿が割れました)、この点も母語の発想とずれることがあります。

自他の対立は、結果の表し方にも直結します。窓が開いている(自動詞+ている)は状態をそのまま述べるだけですが、窓が開けてある(他動詞+てある)にはだれかが意図してその状態にしたという含みが加わります。「エアコンがついている」と「エアコンをつけてある」の差も同じ構図です。

受身 — 直接受身と間接受身(迷惑の受身)

受身は「(ら)れる」を用いて、動作を受ける側を主語に立てる表現です。能動文の目的語などがそのまま主語になり、能動文と一対一の対応が取れるものを直接受身といいます。「先生が太郎をほめた」→「太郎が先生にほめられた」がその典型です。

これに対し、能動文には現れない人物を主語に立て、その出来事から影響(多くは迷惑)を受けたことを表すのが間接受身、いわゆる迷惑の受身です。「弟にケーキを食べられた」「雨に降られた」「隣で騒がれた」のように、自動詞からも受身を作れるのが日本語の際立った特徴で、英語などの受動態にはない仕組みです。所有物や身体部分が対象になる「足を踏まれた」「財布を盗まれた」は持ち主の受身と呼ばれます。

母語に間接受身がない学習者は、これを使わずに「弟が私のケーキを食べて、困りました」と言い換えて済ませがちです。逆に、母語の受動態をそのまま持ち込んで×このケーキは母に作られましたのような無生物主語の受身を作る誤用も見られます。日本語の受身は影響を受けた人を主語に立てるのが基本で、この場合は「○このケーキは母が作りました」と能動で述べるのが自然です。

もう一つ、「(ら)れる」は受身・可能・自発・尊敬の四つの用法をもち、形が同じです。「先生に呼ばれた」(受身)、「刺身が食べられない」(可能)、「昔のことが思い出される」(自発)、「先生が話される」(尊敬)。文脈から用法を判別させる問題は定番で、可能の用法は一段動詞の「食べれる」というら抜き言葉の話題ともつながります。

使役 — 「せる/させる」と語彙的使役、使役受身

使役は「(さ)せる」を用いて、ある人が他者に動作をさせる、あるいはすることを許すことを表します。意味の幅は広く、強制(子どもに薬を飲ませた)から許可・放任(子どもを好きなだけ遊ばせておいた)までを、一つの形が担っています。

自動詞の使役ではヲ格とニ格の交替が起こります。「子ども行かせる」は本人の意向にかかわらず行かせる強制的な読みになり、「子ども行かせる」は本人の意志を認める含みが出ます。他動詞の使役では目的語がすでにヲ格を占めているため、動作をする人はニ格になります(子ども本を読ませる)。「×子どもを本を読ませる」が言えないのは、一つの節にヲ格が二つ現れることを避けるためです。

「見せる・着せる・寝かす・落とす・起こす」のように、語そのものが使役的な意味をもつものを語彙的使役といい、生産的な「(さ)せる」による統語的使役と区別します。両者は意味が同じではありません。「見せる」は自分が相手に見えるようにする直接的な行為、「見させる」は相手が見るように仕向ける・許すことで、置き換えられない場面があります。

使役と受身が重なった使役受身「(さ)せられる」は、自分の意志ではなくそうさせられた、という被害や不本意の気持ちを含みます(毎日漢字を書かせられました)。五段動詞では「〜せられる」が「〜される」に縮まった形がよく使われ(飲ませられる→飲まされる、待たせられる→待たされる)、初級では短い形から導入することが多い項目です。ただしサ行五段動詞では短縮形が使えず、「話す」は「×話さされる」ではなく「話させられる」になります。

最頻出のひっかけ「語彙的使役と統語的使役は自由に言い換えられる」と述べた選択肢は誤りです。見せる/見させる着せる/着させるは意味が異なります。また使役の「(さ)せる」を強制の意味しかもたないと説明した選択肢も誤りで、許可・放任(好きにさせておく)まで含みます。使役受身の短縮形がサ行五段に及ばない点も、細部を問う形で出題されます。

テンスとアスペクト、そして「ている」の用法

テンスは出来事を基準時に対して位置づける文法カテゴリーで、日本語ではル形とタ形の対立が担います。アスペクトは出来事の内部の局面を表し、「ている」「てある」「ておく」「〜はじめる」「〜おわる」などが担います。同じタ形が両方に関わるため、混同が起きやすいところです。

テンスで注意が要るのは、従属節では相対的に働く点です。「国へ帰るとき、おみやげを買います」は出発する前に買う話、「国へ帰ったとき、おみやげを買います」は帰り着いてから買う話になります。従属節のル形・タ形は発話時ではなく主節の時を基準にした前後関係を表しているからです。主節と時制を一致させる言語の話者には、ここが大きな壁になります。

アスペクトは動詞のもつ語彙的な性質と切り離せません。金田一春彦の分類では、動詞は状態動詞(ある・要る・できる。「ている」が付かない)、継続動詞(読む・走る・降る。「ている」は動作の進行)、瞬間動詞(死ぬ・結婚する・落ちる。「ている」は結果の状態)、第四種の動詞(そびえる・優れる・ありふれる。常に「ている」の形で使う)の四つに分かれます。同じ「ている」で意味が変わるのは、動詞の側の性質が違うからです。

そこで「ている」の用法を、意味ごとに整理しておきます。

用法例と成立の条件
動作の進行継続動詞+ている今、本を読んでいる/雨が降っている。ある程度の時間続く動作が、その途中にある
結果の状態瞬間動詞+ている窓が開いている/彼は結婚している/帽子をかぶっている。変化が済み、その結果が今も残っている
反復・習慣頻度の副詞と共起毎朝走っている/週に一度通っている。一回の出来事ではなく、繰り返し起こること
経験・記録回数や時期を伴う彼は3回優勝している/漱石は1900年にロンドンへ留学している。過去の出来事を記録として述べる
単なる状態第四種の動詞山がそびえている/彼は優れている。「ている」以外の形をほとんど取らない
定番のひっかけ ——「ている」の取り違え「窓が開いている」を動作の進行、「毎朝走っている」を結果の状態と説明するような、用法名と例文の組み合わせを入れ替えた選択肢が定番です。判定の手順は、まず動詞が継続動詞か瞬間動詞かを確かめること。「死んでいる」が「死につつある」を意味しないのがその典型で、英語の進行形と一対一で対応させると必ず崩れます。学習者の誤用も両方向に出ます。今の状態を述べたいのに×窓が開きました(→○窓が開いています)とタ形で済ませる例、状態動詞に付けて×お金があっています(→○お金があります)とする例が代表的です。

授受表現 — 視点の制約という最大の難所

授受表現は、物や恩恵のやりとりを表す「あげる・くれる・もらう」の三系列と、その補助動詞用法「〜てあげる・〜てくれる・〜てもらう」を指します。学習者にとって難所とされるのは、日本語ではだれの側から見るか(視点)によって使う動詞が決まってしまうからです。

待遇に応じて、あげる・くれる・もらうにはそれぞれさしあげる/くださる/いただくが対応し、下向きには「やる」があります。ここから×先生に本をあげました → ○先生に本をさしあげましたという定番の誤用が生まれます。

補助動詞の用法になると、視点の制約に恩恵の意味が重なり、難しさが一段上がります。「〜てあげる」は自分が相手のためにしてやるという含みが出るため、目上に向けて使うと押しつけがましく響きます。×先生が私に教えてあげました → ○先生が私に教えてくださいました×先生、荷物を持ってあげましょうか → ○先生、荷物をお持ちしましょうかのように、敬語と組み合わせた言い換えが必要になります。

視点は話し手個人だけでなくウチ(身内)まで広がります。「先生が妹に本をくださいました」のように、受け手が自分でなくても身内であれば「くれる・くださる」が使えるのはそのためで、ウチ・ソトの線引きと連動する項目です。また「〜ていただけませんか」は依頼、「〜てくれてありがとう」は感謝と、機能に直結するため、会話の指導では早い段階から扱われます。

動詞視点と格の形
あげる与え手が話し手側私が友達に本をあげた。話し手やその身内から外へ渡る向き。×田中さんが私に本をあげたとは言えない
くれる受け手が話し手側田中さん私に本をくれた。外から話し手側へ渡る向きで、与え手のほうを主語に立てる
もらう受け手を主語に立てる田中さんに(から)本をもらった。「くれる」と同じ出来事を、受け手の側から述べる
最頻出のひっかけ「あげる・くれる・もらうは同じ出来事を三通りに言い換えたもので、どれを使ってもよい」と述べた選択肢は誤りです。くれる・もらうは受け手が話し手側でなければならず、×田中さんが私に本をあげたは視点の制約に反します。母語に視点の区別がない学習者はこの制約の存在自体に気づけないため、正誤の判定ではなくなぜ不自然なのかを説明できるかを問う形で出題されます。

モダリティ — 文末が担う話し手の態度

モダリティは、出来事の内容(命題)に対する話し手の判断や伝達の態度を表す文法カテゴリーです。「あした雨が降る」という命題に「だろう」「かもしれない」「にちがいない」「らしい」を添えると、確からしさの度合いが変わります。命題そのものは動かず、話し手の関わり方だけが変わる——これがモダリティの働きです。

大きくは、命題の真偽や必要性に関わる対事的モダリティと、聞き手への働きかけに関わる対人的モダリティに分けられます。前者には推量の「だろう・かもしれない・にちがいない」、当為の「べきだ・なければならない」、証拠性の「ようだ・らしい・そうだ」が入り、後者には命令・依頼・勧誘、丁寧さ、そして文末の終助詞「ね・よ」が入ります。

混同が集中するのは、推量と伝聞の形です。「降りそうだ」は目の前の様子から判断する様態、「降るそうだ」は人から聞いた伝聞で、接続する形が違うだけで意味がまったく変わります。「ようだ」は話し手が自分の感覚や状況から下す判断、「らしい」は外から得た情報にもとづく判断、という差も押さえどころで、情報源が明示された伝聞の場面で「ようだ」を使うと不自然になります。

モダリティ要素が文の末尾側に集まるのは偶然ではなく、命題を外から包むという層構造がそのまま形に出たものです。「行かせられていたらしいね」の並びを見れば、ヴォイス→アスペクト→テンス→モダリティ→終助詞の順序が確かめられます。文末表現の指導がそのまま話し手の態度の指導になるのは、このためです。

試験に向けての整理

述語のまわりを、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。

①述語は内側からヴォイス→アスペクト→テンス→モダリティ。②自他のペアは多いがすべての動詞にあるわけではない。結果の表し方は「開いている/開けてある」で分かれる。③受身は直接受身と間接受身(迷惑の受身)。日本語は自動詞からも受身を作る。「られる」は受身・可能・自発・尊敬の四用法。④使役は強制から許可・放任まで。語彙的使役と統語的使役は言い換えられない。⑤「ている」は動詞の性質で用法が決まる(継続動詞→進行、瞬間動詞→結果状態)。従属節のテンスは相対テンス。⑥授受は視点の制約で、くれる・もらうは受け手が話し手側。⑦モダリティは対事的と対人的に分かれ、文末側に現れる。

この七点が言えれば、区分5のうち述語まわりの選択肢はほとんど機械的に切れます。助詞・主題・複文といった文の組み立ての側は、続きの記事で扱います。個々の用語は用語集の各ページで確認してください。

この記事に出てくる用語

1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。

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