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できる日本語 中級 第20課「豊かさと幸せ」の教案

『できる日本語 中級 本冊 第2版』 ・ できること5つ(伝えてみよう・見つけた!・耳でキャッチ・見つけた!・こんなときどうする?)

「豊かさ」や「幸せ」を何で測るかは、人によって、国や会社によって違います。この課は、そうした考え方の違いに触れながら、自分にとって何が大切かを、ほかの人の考えと比べて言葉にできるようになる課です。1 で自分があると幸せだと思うものに順番をつけて話し、2 で幸せを数字で表そうとする記事を読み、3 で経営者が語る会社の考え方を聞き、4 である人物が大きな決断をして道を選んだ記事を読み、5 でクラスの集まりの幹事として店に希望を伝えて予約します。1〜4 は「何を優先するか」という一つの問いでつながっているので、読んだり聞いたりした人の考えと自分の考えを比べるところまで毎回持っていきます。第19課「科学の力」で社会の問題について立場を考えて意見を言ったことを受け、中級の最後のこの課では、答えが一つではない価値観の問いについて、自分の考えを振り返りながら話し合います。

このページについて教科書の会話・例文・練習の文は載せていません。例文と場面、やり取りの例はすべて自作です。課・ST の題と学習項目の表記は出版社のシラバス一覧(第2版)に合わせています。
学習項目12時間90分×4コマ場面5

この課のねらい(Can-do)

  • あると幸せだと思うものに順番をつけ、その順にした理由を、世の中の一般的な考え方と比べながら話せる
  • 幸せを数字で表そうとする記事を読んで、何を根拠に測っているかと、筆者がそのことをどう考えているかを読み取れる
  • 経営者へのインタビューを聞いて、会社が大切にしている考え方と、それを守るためにしてきた決断を聞き取れる
  • 人物を紹介する記事を読んで、その人の決意のきっかけと、決意のためにとった行動を順を追って読み取れる
  • 団体で店を使うときの幹事として、人数や予算などの希望を伝え、難しい希望もていねいに頼んで予約できる

進め方と時間配分

目安は 90分×4コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。

段時間やること
導入10分「あなたにとって『豊か』とはどういうことですか」と聞き、お金・時間・人とのつながり・健康などの答えを黒板に出させる。第19課で社会の問題について立場を考えて意見を言ったことを受け、この課では答えが一つではない「幸せ」について、自分の考えと人の考えを比べると伝える
1 伝えてみよう80分幸せに欠かせないものを書いたカードを一人ずつ順に並べる →「〜あっての〜」「〜にもまして」でいちばん上のものを、「〜にこしたことはない」で二番目以下を、「〜というものではない」で世の中の考えへの意見を言う → 1分で話し、聞く人が一つ質問する
2 見つけた!60分自作の記事(幸せを点数にして比べる取り組み)を2回読む。1回目は何を根拠に測っているか、2回目は筆者の心配に線を引く →「〜に基づいて」「〜あまり(に)/あまりの〜に」を取り出す → 1の自分の順番は点数にできるかを話し合う
3 耳でキャッチ70分自作のインタビュー(地方で長く続く小さな会社の社長)を2回聞く。1回目は会社が大切にしていること、2回目はしないと決めたこと・そのためにしたことをメモする →「〜まい」「〜てでも」「〜末(に)」を取り出す → その会社で働きたいかを一言ずつ
4 見つけた!60分自作の人物紹介の記事(会社員から職人になった人)を読み、決意のきっかけ・手放したもの・今の生活を年表に並べる →「〜てまで/〜までして」「〜のもと(で)/〜のもとに」を、3の「〜てでも」と比べて確かめる
5 こんなときどうする?50分クラスの修了パーティーの幹事として店に電話する設定。希望カードと店のカードでロールプレイし、条件が合わないところを「〜ないものでしょうか」で頼み、店の出した別の案を受けて予約を決めるまで
課のまとめ30分1で並べたカードをもう一度見直し、2〜4で読んだり聞いたりした人の考えを受けて順番を変えたか、変えなかったかを理由とともに話す。中級の締めくくりとして、話し合った内容を短い意見文にまとめる準備をする

1 伝えてみよう

できることあると幸せだと思うものに自分なりの順番をつけ、なぜそれを上に置いたのかを、理由とともに話せる。

場面

クラスで「あなたにとって幸せに欠かせないもの」を話し合う場面です。教室では「お金・健康・家族・友達・仕事・自由な時間・住む場所」などを書いたカードを配り、一人ずつ大切だと思う順に上から並べさせてから、なぜその順にしたかを1分ほどで話させます。聞く人は、相手の順番と自分の順番の違うところを一つ選んで質問します。

  • 留学生A:わたしがいちばん上に置いたのは健康です。健康あっての仕事だし、健康あっての楽しみだと思うからです。
  • 留学生A:日本に来てから、以前にもまして体のことを考えるようになりました。
  • 留学生A:お金はあるにこしたことはないですが、三番目にしました。
  • 留学生B:どうしてお金が三番目なんですか。
  • 留学生A:お金がたくさんあれば幸せになれるというものでもないと思うんです。
  • 留学生B:なるほど。わたしは逆に、お金を二番目にしました。生活が安定していないと、ほかのことを楽しむ余裕がないので。
学習項目 1 〜あっての〜

意味・はたらき

「N1あってのN2」で、N1があるからこそN2が成り立つ、N1がなければN2もない、という強い結びつきを表します。「お客様あっての店」「健康あっての仕事」のように、N2を支えている大切なもの(N1)への感謝や重みを言うときに使い、ST1 では自分がいちばん上に置いたものがほかの全部の土台だと言うのに役立ちます。改まった言い方で、スピーチや作文、あいさつに多く、友達との会話では「〜があるから〜があるんだ」と言うほうがふつうです。「〜からこそ」は文(理由)について理由を強めますが、「あっての」は名詞にだけつき、前の名詞が欠かせない条件であることを言います。「〜あってのことだ」(「皆さんの協力あってのことです」)の形もよく使います。

接続

N1+あっての+N2/N+あってのことだ(動詞・形容詞には直接つかない)

形
健康あっての仕事お客様あっての店家族あっての今の自分皆さんの協力あってのことです

導入

  • 「なかったらどうなるか」から入る教師が「店にお客さんが一人も来なかったら、どうなりますか」と聞き、「店が続けられない」という答えを引き出す。板書に「お客さんがいる → 店が続く」「お客さんがいない → 店がない」と2行書き、その下に「お客様あっての店」とまとめる。続けて「健康がなかったら、仕事は?」と聞き、学習者に「健康あっての仕事」を作らせる。
  • カードのいちばん上と結びつけるST1 で並べたカードのいちばん上のものを前の名詞に置き、後ろの名詞に二番目以下のカードを入れて言わせる(「健康あっての仕事」「健康あっての旅行」)。板書は「[いちばん大切なもの]あっての[それに支えられているもの]」の枠にする。

板書案

N1 + あっての + N2 = N1がなければ、N2もない
お客様あっての店
健康あっての仕事だと思う。
〔赤〕N1=支えるもの → 〔青〕N2=支えられるもの(矢印は N1 から N2 へ)
〔赤〕× 動詞・形容詞はつかない(*働くあっての生活)

場面と発話(自作)

  • 店の開店10周年のあいさつで、店長が常連客に感謝を伝える。この10年、皆様あっての店でした。本当にありがとうございました。
  • スポーツ大会で優勝した学生が、チームの仲間にお礼を言う。この結果は、チームのみんなあってのことです。
  • 作文で、自分の幸せの土台について書く。健康あっての仕事であり、健康あっての楽しみだと思う。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、教師が「健康/仕事」「お客様/店」「先生/今の自分」のような名詞の組を出し、「〜あっての〜」の文を言わせる。次に優勝・合格・成功のカードで、「〜あってのことです」を使ったお礼の一言にする。最後に ST1 のカードで、自分のいちばん大切なものが何を支えているかを「〜あっての〜だと思います」で話させる。

  1. 口頭教師が名詞の組のカードを見せ(「健康/仕事」「お客様/店」「ファン/歌手」「地域の人たち/祭り」)、全体→列→個人の順に「〜あっての〜」を言わせる。続けて「合格」「優勝」「開店10周年」の絵カードで、「〜あってのことです」を使ったお礼の一言に言い換えさせる。前後を逆にした組(「仕事/健康」)を一枚混ぜ、おかしいと気づいて止められるかを見る。
  2. ペアA は「店・チーム・会社・今の自分」のような支えられるものを言い、B はそれを支えているものを考えて「〜あっての〜ですね」と返す。B が支えるものと支えられるものを逆に置いたら、A が「〜がなかったら、〜はありますか」と聞き返して直させる。5組言ったら役を交替する。
  3. 産出感謝のスピーチ30秒:卒業式・大会の優勝・店の記念日などの場面カードを引き、「〜あっての〜」か「〜あってのことです」を1回入れたお礼のあいさつを考えて、前に出て話す。教師は ①前が名詞になっているか ②N1とN2の向きが合っているか ③友達どうしの場面で使って急に硬くなっていないか、を見て、終わったあとに一つずつ返す。

つまずきと手当て

  • 「*働くあっての生活」「*元気だあっての毎日」と動詞や形容詞につなぐ。前には名詞だけが来ることを、板書の枠に名詞のカードしか入らないことで見せる(「仕事あっての生活」「元気な体あっての毎日」)
  • N1とN2を逆に置き、「仕事あっての健康」のように、支えるものと支えられるものが入れ替わる。「N1がなかったらN2はあるか」を毎回自分に聞かせる
  • 友達との会話でも「家族あっての僕だよ」のように使い、急に改まって聞こえる。話し言葉では「家族がいるから今の自分がいるんだ」と言い換えられることも合わせて教える
  • 「〜からこそ」と混ぜて「*健康あってからこそ」と言う。「健康があるからこそ」か「健康あっての」のどちらか一つ、と2つを並べて板書する

既習の文型との違い

  • 〜こそ/〜からこそ(中級第2課)「からこそ」は文(理由)について、その理由を強めます(「健康だからこそ、働ける」)。「あっての」は名詞だけにつき、前の名詞が欠かせない土台だと言います。二つを混ぜた「*健康あってからこそ」が出たら、どちらか一方の形に分けて板書します。
  • 〜ないことには〜ない(中級第4課)「〜ないことには〜ない」は「Aをしなければ、Bは実現しない」と、これからのことの条件を言う形です(「使ってみないことには、よさはわからない」)。「あっての」は、すでにある支えを認めて感謝や重みを言うことが多い、と場面で分けます。
関連する文型
学習項目 2 〜にもまして

意味・はたらき

「Nにもまして」は、「Nも〜だが、それ以上に」という意味で、前のNも程度が高いことを認めたうえで、後ろのことがさらにそうだと言います。「以前にもまして忙しい」は以前も忙しかったことを含み、ただの「以前より忙しい」より差が強く出ます。「何にもまして」「誰にもまして」「いつにもまして」のように疑問詞につくと「ほかの何(誰・いつ)よりも」という意味になり、ST1 でいちばん上のものを言うのに使えます(「何にもまして健康が大切だ」)。書き言葉や改まった話で使う硬めの言い方で、会話では「〜よりも」「何よりも」がふつうです。

接続

N+にもまして(「以前」「去年」などの時を表す名詞や、「何・誰・いつ」につくことが多い)

形
以前にもまして忙しくなった去年にもまして暑い夏何にもまして家族が大切だいつにもまして元気そうだ

導入

  • 「より」と「にもまして」を比べる教師が「去年の夏は暑かったですね。今年は?」と聞き、「今年のほうが暑い」を引き出す。板書に「今年は去年より暑い」と書き、その下に「今年は去年にもまして暑い」と書いて、「去年も暑かった+今年はもっと」と二つの温度計の絵で示す。次に、去年が涼しかった場合は「にもまして」が使えないことを、もう一つの温度計で確かめる。

板書案

N + にもまして = Nも〜だが、それ以上に
今年は 去年にもまして 暑い。
〔赤〕前のNも程度が高い(去年も暑かった) 〔青〕温度計2本の絵
何/誰/いつ + にもまして = ほかの何(誰・いつ)よりも
何にもまして 健康が大切だ。

場面と発話(自作)

  • 久しぶりに会った先生に、近況を伝える。大学院に進んでから、以前にもまして勉強が楽しくなりました。
  • スピーチで、自分にとって大切なものを言う。何にもまして大切にしたいのは、家族と過ごす時間です。
  • 駅のホームが、ふだんよりさらに込んでいる。連休の初日なので、いつにもまして人が多いですね。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、「以前/忙しい」「去年/雪が多い」「前回/参加者が多い」のカードで「〜にもまして〜」を言わせ、前の名詞のほうも程度が高いことを確かめる。次に「何にもまして〜が大切だ」で ST1 の自分のいちばん上のカードを言わせ、二番目のカードとの違いを一言足させる。

  1. 口頭教師が「以前/忙しい」「去年/雪が多い」「前回/参加者が多い」「いつ/元気そうだ」のカードを出し、全体→個人で「〜にもまして〜」を言わせる。一文ごとに教師が「去年は?」「前回は?」と聞き返し、前の名詞のほうも程度が高かったことを学習者に答えさせる。最後に「何」「誰」のカードで、いちばん上を言う形に切り替える。
  2. ペアA が話題カード(物価・仕事・日本語の勉強・駅前の人の多さ)を見て「最近、〜はどうですか」と聞き、B は前より程度が増したことを「以前にもまして〜」で答えて、具体例を一つ足す。A は「前も〜だったんですか」と確かめる。4枚で交替する。
  3. 産出わたしのナンバーワン:ST1 で並べたカードのいちばん上を「何にもまして〜が大切です」で言い、二番目のカードとの差を一言足して1分で話す。教師は ①前のNの程度が低い文になっていないか ②前に名詞が来ているか ③会話のやり取りの中で多用して硬くなっていないか、を見る。

つまずきと手当て

  • 前のNの程度が低いときに使い、「去年は涼しかったが、今年は去年にもまして暑い」と言う。意味がつながらないので、前のNについても「〜も暑かった」と言えるかを確かめさせる
  • 「*忙しいにもまして」「*働くにもまして」と形容詞や動詞につなぐ。前には名詞だけ、と板書で示す
  • 友達との会話で「今日はいつにもまして眠いなあ」のように多用し、硬く聞こえる。会話では「いつもより」「何よりも」で十分だと、場面で分ける

既習の文型との違い

  • 〜は〜よりAです(初級第6課)「より」は二つを比べるだけで、前のものの程度は問いません。「にもまして」は前のものも十分に程度が高いことを含みます。去年が涼しかったなら「今年は去年より暑い」しか言えない、と温度計の絵で比べます。
  • 〜ほど〜はない(中級第19課)どちらもいちばん上を言えますが、「〜ほど〜はない」は「健康ほど大切なものはない」のように後ろに「名詞+はない」が要る文の形です。「何にもまして」は「何にもまして健康が大切だ」のように文の頭に置けるので、スピーチの書き出しに使いやすい、と形の違いで示します。
関連する文型
学習項目 3 〜にこしたことはない

意味・はたらき

「〜にこしたことはない」は、「〜のほうがいいのは当然だ、それよりいいことはない」という意味で、多くの人が認める一般的な判断を言います(漢字では「越したことはない」)。後ろに「が・けど」を続けて、「でも、それがいちばん大事なわけではない」「できなくても仕方がない」と続けることが多く、ST1 で二番目以下に置いたものを「あるといいけれど、いちばんではない」と位置づけるのに便利です。「〜たほうがいい」は目の前の相手への助言、「〜に限る」は「〜がいちばんだ」という話し手の強い主張ですが、「〜にこしたことはない」は一般論として控えめに認める言い方です。会話でも作文でも使えます。

接続

V辞書形/Vない形+にこしたことはない、イA+にこしたことはない、ナA・N+である+にこしたことはない(「安全にこしたことはない」のように名詞やナAに直接つくことも多い。「それにこしたことはない」の形もよく使う)

形
お金はあるにこしたことはない部屋は広いにこしたことはないけがはしないにこしたことはない日本語が上手であるにこしたことはないが、それより大切なのは意欲だ

導入

  • 「あったらいい? なくてもいい?」で分けるST1 のカードのうち二番目以下のものを一枚ずつ見せ、「これはあったほうがいいですか」「なかったら幸せになれませんか」と二つ聞く。「あったほうがいい、でもなくても大丈夫」に分けられたカードを集め、教師が「お金はあるにこしたことはないけど、なくても幸せになれると思います」と言ってみせる。板書は「〜にこしたことはない + が/けど、〜」の2つの部分に分け、後ろの部分に色をつける。

板書案

V辞書形/Vない・イA + にこしたことはない
お金は あるにこしたことはない〔青〕が、いちばん大切なわけではない。
〔赤〕前半=だれでも認める一般論 〔青〕後半=自分の考え
強さ:〜に限る(強いおすすめ)> 〜にこしたことはない(控えめに認める)

場面と発話(自作)

  • アパートを探している友達と、部屋の条件について話す。駅に近いにこしたことはないけど、家賃が高すぎたら困るよね。
  • 旅行の前に、先輩が保険について助言する。何もないとは思うけど、用心するにこしたことはないよ。
  • アルバイトの面接で、店長が条件を説明する。経験があるにこしたことはありませんが、なくても大丈夫ですよ。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、「部屋/広い」「通勤時間/短い」「貯金/ある」「けが/しない」のカードで「〜にこしたことはない」の文を言わせ、慣れたら「〜けど、〜」と後半を自分で続けさせる。最後に ST1 の二番目以下のカードについて、「〜にこしたことはないけど、いちばんではない」理由を話させる。

  1. 口頭教師が「部屋/広い」「通勤時間/短い」「貯金/ある」「けが/しない」「日本語/上手だ」のカードを出し、全体→個人で「〜にこしたことはない」を言わせる。2巡目は教師が「でも?」と促し、「〜けど、〜」の後半を学習者が自分で続ける。過去の形のカード(「申し込んだ」)を混ぜ、辞書形に直してから言わせる。
  2. ペア部屋さがしの設定で、A は部屋を探している人、B は相談に乗る友達。A が条件(駅に近い・新しい・広い・南向き)を一つずつ言い、B は「〜にこしたことはないけど、〜も考えたほうがいいよ」と現実的に返す。B は家賃の書かれた情報カードを持ち、A は持っていない。4つ言ったら交替する。
  3. 産出ゆずれる条件・ゆずれない条件:住む所・仕事・休みの過ごし方のどれかを選び、条件を5つ書き出して二つに分ける。ゆずれる条件は「〜にこしたことはないが」、ゆずれない条件は「〜あっての〜」か「何にもまして」で言い、1分で発表する。教師は ①前の形(辞書形・ナイ形) ②目の前の相手への助言に使っていないか ③後半が続いて「いちばんではない」が伝わっているか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*早く申し込んだにこしたことはない」と過去の形につなぐ。前は辞書形かナイ形(「早く申し込むにこしたことはない」)だと、板書で確かめる
  • 「〜たほうがいい」と同じだと思い、目の前の相手個人に「あなたは毎日運動するにこしたことはないです」と言って、よそよそしく聞こえる。相手に勧めるときは「〜たほうがいいですよ」を使わせる
  • 「〜に限る」と混ぜ、「疲れたときは寝るのがいちばんだ」という強いおすすめを「〜にこしたことはない」で言おうとする。自分の強いおすすめは「〜に限る」、控えめに認めるのは「〜にこしたことはない」と、2つを対にして見せる

既習の文型との違い

  • Vたほうがいいです/Vないほうがいいです(初級第12課)「〜たほうがいい」は目の前の相手への助言で、「あなたは」と向けて言えます。「〜にこしたことはない」はだれにでも当てはまる一般論なので、相手個人に向けると突き放した響きになります。勧めるなら初級の形、一般論として認めるならこの課の形、と場面カードで分けます。
  • 〜に限る(中級第6課)「〜に限る」は「疲れたときは寝るに限る」のように、話し手が「それがいちばんだ」と強く言い切ります。「〜にこしたことはない」は「そのほうがいいのは当然だが」と控えめに認め、後ろに「が」を続けることが多い、と強さの矢印で並べます。
関連する文型
学習項目 4 〜というものではない/〜というものでもない

意味・はたらき

「〜というものではない」は、世の中でよく言われる考えや、ついそう思いがちなことを「いつでもそうだとは言えない」と打ち消す言い方です。「高ければいいというものではない」「長く練習すれば上手になるというものでもない」のように、「〜ば(いい)」「〜さえ〜ば」と一緒に使うことが多く、ST1 で「お金があれば幸せ」のような考えに自分の意見を言うときの中心になります。「〜というものでもない」にすると「そうとも限らない」と少し柔らかくなります。「〜わけではない」が目の前の話から出てくる結論を打ち消す(「お金が嫌いなわけではない」)のに対し、「〜というものではない」は一般的な考え方そのものを打ち消します。「〜とは限らない」は例外があると言うだけですが、「〜というものではない」には「そう考えるのはよくない」という話し手の評価がこもりやすい点も違います。

接続

普通形+というものではない/というものでもない(「〜ば(いい)」「〜さえ〜ば」「〜ほど〜」と一緒に使うことが多い)

形
お金があれば幸せになれるというものではない高ければいいというものでもない謝ればそれで済むというものではない長く働くほど会社のためになるというものでもない

導入

  • 「本当にそう?」と問い返す教師が「よく『お金があれば幸せになれる』と言いますね。本当にそうですか」と聞き、学習者から反対の例(お金があっても寂しい人など)を出させる。板書に「お金があれば幸せになれる」と書き、その後ろに「というものではない」を付け足して、「いつでもそうとは言えない」と矢印で書き添える。続けて「というものでもない」に変え、柔らかさを比べる。
  • 「わけではない」と並べる「わたしはお金が嫌いなわけではない」と「お金があれば幸せになれるというものではない」を2行並べて板書し、上は自分のこと、下は世の中の考え方を打ち消していることを、打ち消している部分に印をつけて確かめる。

板書案

普通形 + というものではない/というものでもない
〔青〕世の中の考え:お金があれば 幸せになれる
→ お金があれば 幸せになれる〔赤〕というものではない。
〔赤〕「〜ば」「〜さえ〜ば」と一緒に / 「でもない」=少し柔らかい
自分のこと → 〜わけではない  世の中の考え → 〜というものではない

場面と発話(自作)

  • ゼミの話し合いで、勉強時間の長さについて意見を言う。長く勉強すれば成績が上がるというものではないと思います。
  • 友達が、いちばん高いスマートフォンを買おうとしている。高ければいいというものでもないよ。使い方に合ったものを選んだら?
  • アルバイト先で、ミスをした後輩に先輩が話す。謝ればそれで済むというものじゃないから、次にどうするか一緒に考えよう。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、教師が「練習すればするほど上手になる」「人が多ければ楽しい」「新しいものはいい」のような一般的な考えのカードを出し、「〜というものではない」で打ち消してから理由を一つ足させる。次に「〜というものでもない」に言い換えて柔らかく言わせる。最後に ST1 の話し合いで、相手の順番の理由に「〜というものでもないと思うんですが」で意見を返させる。

  1. 口頭教師が一般的な考えのカード(「高ければいい」「人が多ければ楽しい」「新しいものはいい」「長く練習すれば上手になる」)を読み、全体→個人で「〜というものではない」をつけて打ち消させる。2巡目は「〜というものでもない」に変えて柔らかく言い、理由を一つ足させる。イ形容詞の条件形(高ければ・安ければ)が崩れたら、その場で条件形だけを先に言わせる。
  2. ペア本当にそう?の設定で、A が一般的な考えのカードを自信たっぷりに言い、B は「〜というものでもないと思うけど」で返して反対の例を一つ出す。A はもう一度だけ理由を言って押し、B がそれにも答えたら交替する。B は自分の反対の例をカードに書いてから始めてよい。
  3. 産出反対側に立つ2分ディベート:「お金があれば幸せ」「有名な会社に入れば安心」「友達は多ければ多いほどいい」から一つ選び、グループでその考えに反対する立場の意見を「〜というものではない」を中心にまとめて2分で発表する。教師は ①一度きりの出来事に使っていないか ②条件形の作り方 ③相手の意見に言い切りすぎていないか(「〜と思うんですが」を添えているか)、を見る。

つまずきと手当て

  • 一度きりの出来事に使い、「きのうの試験は難しかったというものではない」と言う。この形は「いつでもそう」という考えを打ち消すものなので、一つの出来事なら「難しかったわけではない」と言い換えさせる
  • 「*高いばいいというものではない」「*安くばいい」と条件形を作り違える。イAの条件形(高ければ・安ければ)を先に確かめてから文を作る
  • 「〜わけではない」と同じだと思い、「わたしはお金が好きというものではない」と自分の気持ちに使う。自分のことは「〜わけではない」、世の中の考えは「〜というものではない」と、板書の2行で分ける
  • 目上の人の意見にそのまま「お金があれば幸せというものではありません」と言い切り、強く聞こえる。「〜というものでもないと思うんですが」と、「でも」と「と思う」で柔らかくする言い方を添える

既習の文型との違い

  • 〜わけではない/〜というわけではない(中級第9課)「わけではない」は、目の前の話から出てくる結論や自分の気持ちを打ち消します(「お金が嫌いなわけではない」)。「というものではない」は世の中の一般的な考え方そのものを打ち消します。「わたしは」で始まる文なら「わけではない」、と主語で見分けさせます。
  • 〜とは限らない(中級第12課)「とは限らない」は「例外もある」と事実を言うだけで、評価はあまりこもりません(「高い店がおいしいとは限らない」)。「というものではない」には「そう考えるのはよくない」という話し手の評価が入りやすく、注意や意見の場面で使われます。
  • 〜というものだ(中級第12課)肯定の「〜というものだ」は「それが〜の本当の姿だ」と言い切る形で、否定の「〜というものではない」とは働きがまったく違います。肯定・否定で意味が対になるわけではないので、二つを同じ板書の中で並べるときは別の行に分けます。
関連する文型

この場面のことば・表現

  • 大切だと思うものについて、優先順位を考えながら話すときに使う表現順番をつけて話すときは、いちばん上のものを言うだけでなく、二番目以下との差や、どこで迷ったかまで言えると、価値観が相手に伝わります。並べたカードを指しながら言わせ、「何よりも」のような強い言い方から「どちらかといえば」のような控えめな言い方まで、幅をつけて練習します。例:「何よりも〜が大切だ」「まず第一に〜、その次に〜」「〜を優先したい」「〜と〜で迷ったが、〜を上にした」「〜も大事だが、〜ほどではない」「どちらかといえば〜のほうだ」

2 見つけた!

できること幸せを数字で表そうとする記事を読んで、何をもとに測っているかと、数字だけで判断することを筆者がどう見ているかを読み取れる。

場面

授業で、幸せを点数にして国や地域を比べる取り組みについての記事を読む場面です。教室では教師が短い記事(400字ほど)を自作し、実在の調査の名前や順位・数字は入れずに、「何をもとに点数をつけるか」「点数で比べることのよい点と心配な点」がわかるように書きます。1回目は「何を測っているか」、2回目は「筆者の考え」に線を引かせます。

  • 記事:「幸せ」は目に見えないが、それを数字にして比べようとする試みが各地で行われている。
  • 記事:多くの調査は、収入や健康だけでなく、人々へのアンケートに基づいて、生活の満足度を点数にしている。
  • 記事:点数があれば、どの地域でどんな支えが足りないかが見えやすくなる。
  • 記事:一方で、順位を上げることを気にするあまり、数字に表れにくいものが見落とされるおそれもある。
  • 記事:自分の国の順位を見て、あまりの低さに驚いたという人もいるだろうが、その数字が自分の実感と同じだとは限らない。
  • 記事:数字は考えるための入り口であって、幸せそのものではないのだろう。
学習項目 1 〜に基づいて/〜に基づく/〜に基づいた

意味・はたらき

「Nに基づいて」は、データ・調査・法律・経験・事実など、しっかりした根拠をよりどころにして、判断したり行動したりすることを表します。ST2 の記事では、点数が何を根拠に決められているかを読み取る手がかりになります。文の途中では「に基づいて/に基づき」、名詞の前では「に基づくN/に基づいたN」になり、「に基づき」はより硬い書き言葉です。「〜をもとに(して)」は材料や出発点にして新しいものを作る(「実話をもとにした映画」)ときによく使いますが、「〜に基づいて」は根拠から外れずに判断・実行することに重心があり、規則や法律には「に基づいて」が自然です(「法律に基づいて手続きをする」)。

接続

N+に基づいて/に基づき(文の途中)、N+に基づく/に基づいた+N(名詞の前)

形
アンケートの結果に基づいて点数をつける規則に基づき、対応を決める事実に基づく記事経験に基づいた助言

導入

  • 「どうしてその点数?」と根拠を聞く教師が自作の「住みやすさの点数」の表(架空の町A・B・C)を見せ、「どうしてA町は点数が高いんですか」と聞く。表の下の「住民へのアンケートと公園の数から計算」という一行を指させ、「アンケートに基づいて点数をつけています」と言ってみせる。板書は「[根拠]に基づいて+判断・行動」「[根拠]に基づく+N」の2行にする。
  • 「をもとに」と並べる「実際の事件をもとにした小説」と「法律に基づいて判断する」を並べ、上は材料から新しく作る、下は根拠に従って決める、と矢印の向きを変えて図にする。

板書案

[根拠] + に基づいて/に基づき + 判断・行動
[根拠] + に基づく/に基づいた + N
アンケートの結果に基づいて 点数をつける。
〔赤〕根拠になる語:調査・データ・法律・規則・経験・事実
〔青〕をもとに=材料から新しく作る(実話をもとにした映画)

場面と発話(自作)

  • 大学のレポートの書き方を、先生が説明している。意見を書くときは、自分の思い込みではなく、データに基づいて書いてください。
  • 市役所のお知らせで、ごみの出し方の変更を伝えている。市の条例に基づき、来月からごみの分け方が変わります。
  • ニュースで、ある町の取り組みを紹介している。住民の声に基づいた町づくりが進められています。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、根拠のカード(調査・アンケート・法律・経験・事実)と行動のカード(点数をつける・決める・説明する・書く)を組み合わせ、「〜に基づいて〜」を言わせる。次に名詞の前の形で見出しを作らせる(「調査に基づく報告」)。最後に ST2 の記事の文から、何に基づいて何をしているかを一つずつ取り出させる。

  1. 口頭根拠のカード(調査・アンケート・法律・経験・事実)と行動のカード(点数をつける・決める・手続きをする・助言する・記事を書く)を教師が一枚ずつ出し、全体→個人で「〜に基づいて〜」を言わせる。次に同じ組を見出しの形(「調査に基づく報告」「経験に基づいた助言」)に言い換えさせる。後ろが動詞か名詞かを教師が指で示し、形を選ばせる。
  2. ペアA は「この町が住みやすさ1位になった」「来月から料金が変わる」のような決定のカードを、B はその根拠が書かれたカードを持つ。A が「何に基づいて決めたんですか」と聞き、B が「〜に基づいて決めたそうです」と答える。A は根拠に納得できるかを一言言う。4枚で交替する。
  3. 産出クラスの幸せ調査報告:ST1 で並べたカードの結果をクラス全員から集め、グループで「アンケートの結果に基づいて〜」を使って3文の報告にまとめ、表を見せながら発表する。教師は ①助詞「に」が落ちていないか ②後ろの語に合った形を選んでいるか ③材料の意味(をもとに)で使っていないか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*データを基づいて」と助詞を取り違える。「に」とセットで覚えさせ、板書の「に」に印をつける
  • 「*経験に基づく話しました」のように、動詞の前に名詞の前の形を使う。後ろが動詞なら「に基づいて」、名詞なら「に基づく」と、後ろの語に線を引いて選ばせる
  • 料理や作品の材料について「母のレシピに基づいて作ったケーキ」と言い、大げさに聞こえる。材料や出発点には「〜をもとに」が自然なことを、導入の図で確かめる

既習の文型との違い

  • 〜をもとに(して)/〜をもとにした(中級第9課)「をもとに」は材料や出発点にして新しいものを作る(「祖母の話をもとにした絵本」)ときによく使います。「に基づいて」は根拠から外れずに判断・実行することに重心があり、法律・規則・データには「に基づいて」が自然です。料理や作品に「に基づいて」を使うと大げさに聞こえる、と例で比べます。
  • 〜に沿って/〜に沿う/〜に沿った(中級第4課)「に沿って」は計画・方針・手順・希望のように決められた線に合わせて進めることに重心があります(「計画に沿って進める」)。「に基づいて」は判断のよりどころ(証拠や決まり)に重心があり、計画や規則には両方使えることもありますが、データ・調査・事実には「に基づいて」が自然です。
関連する文型
学習項目 2 〜あまり(に)/あまりの〜に

意味・はたらき

「〜あまり(に)」は、気持ちや状態の程度が強すぎて、その結果ふつうではないこと(多くは望ましくないこと)が起きたと言う表現です(「心配のあまり眠れなかった」「緊張するあまり、言葉が出なかった」)。「あまりのNに」は、「暑さ・寒さ・痛さ・うれしさ」のような程度を表す名詞の前に置き、「あまりの暑さに倒れそうになった」のように、驚くほどの程度が原因で何かが起きたことを言います。ST2 の記事では「順位を気にするあまり、大切なものが見落とされる」のように、一つのことに気持ちが向きすぎる問題を言うのに使われます。どちらも書き言葉や改まった話の言い方で、会話では「〜すぎて」がふつうです。後ろには自分ではどうにもならなかった結果が来るので、意志や依頼の文は続きません。初級の「あまり〜ない」(「あまり好きじゃない」)とは別の使い方です。

接続

Nの/V辞書形・Vた形/ナAな+あまり(に)、あまりの+N(程度を表す名詞。イAは「暑さ」のように「〜さ」の形にする)+に

形
心配のあまり、眠れなかった勝ちたいと思うあまり、無理をした慎重なあまり、なかなか決められなかったあまりの寒さに、手が動かなくなった

導入

  • 気持ちの強さを字の大きさで見せる教師が試験の前の夜の話をし、「心配で、心配で……眠れませんでした」と言いながら、黒板に「心配」の字をどんどん大きく書く。その横に「眠れなかった」を書き、「心配のあまり、眠れなかった」とまとめる。続けて温度計の絵の目盛りを振り切らせて「あまりの暑さに、倒れそうになった」を書き、2つの形を上下に並べる。

板書案

Nの/V辞書形・Vた/ナAな + あまり(に)、[どうにもならなかった結果]
心配のあまり、眠れなかった。
あまりの + 〜さ(暑さ・寒さ・うれしさ)+ に、[結果]
あまりの暑さに、倒れそうになった。
〔赤〕× 後ろに依頼・意志 〔青〕初級の「あまり〜ない」とは別

場面と発話(自作)

  • 友達に、合格発表の日のことを話す。うれしさのあまり、その場で泣いてしまったんだ。
  • 記事で、点数を上げようとした町の問題を書いている。数字を上げることを急ぐあまり、住民の声が後回しにされた。
  • 夏の暑さについて、ニュースで伝えている。あまりの暑さに、体調を崩す人が増えています。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、気持ちの名詞のカード(心配・緊張・うれしさ・驚き・怒り)と結果のカード(眠れない・言葉が出ない・泣く・声が出ない)を組み合わせ、「〜のあまり、〜た」を言わせる。次に「暑さ・寒さ・痛さ・人の多さ」のカードで「あまりの〜に、〜」を言わせる。最後に ST2 の記事を読んだあと、「〜を気にするあまり」で筆者の心配を言い直させる。

  1. 口頭気持ちのカード(心配・緊張・うれしさ・驚き・怒り)と結果のカード(眠れない・言葉が出ない・泣く・声が出ない)を組み合わせ、全体→個人で「〜のあまり、〜た」を言わせる。次に「暑さ・寒さ・痛さ・人の多さ」のカードで「あまりの〜に、〜」を言わせる。最後に動詞のカード(勝ちたいと思う・急ぐ)で「〜するあまり」を作らせる。
  2. ペアA は結果のカード(その場で泣いた・電車を降り忘れた・何も言えなかった)を見て「どうして〜たの?」と聞き、原因のカードを持っている B が「〜のあまり」「あまりの〜に」で答える。A は「〜すぎて、ってこと?」と会話の言い方で言い直して確かめる。4枚で交替する。
  3. 産出思わず失敗談:緊張・うれしさ・驚きなどで思わず失敗した自分の経験を、「〜あまり」と「あまりの〜に」を1回ずつ入れて1分で話す。聞く人は「そのあとどうしたか」を一つ質問する。教師は ①名詞のあとの「の」や「〜さ」の形 ②後ろが依頼や意志になっていないか ③話の中で「〜すぎて」との使い分けが自然か、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*心配あまり」「*あまりの暑いに」と接続を落とす。名詞のあとは「の」、「あまりの」のあとは「暑さ」のような名詞、と板書の2行で確かめる
  • 「*緊張のあまり、ゆっくり話してください」と、後ろに依頼や意志を続ける。後ろは自分ではどうにもならなかった結果だけ、と結果のカードだけを並べて見せる
  • 初級の「あまり〜ない」と混ざり、「心配のあまり眠れなかった」を「あまり心配ではなかった」と読み違える。文の中で「あまり」の前に「の」「な」や動詞があるかを先に確かめさせる

既習の文型との違い

  • Aすぎます(初中級第2課)「〜すぎて」は会話でふつうに使い、後ろに依頼や意志も続けられます(「暑すぎるから、窓を開けて」)。「〜あまり」は硬めの言い方で、後ろにはどうにもならなかった結果だけが来ます。会話で話すときは「すぎて」、記事や作文では「あまり」と場面で分けます。
  • とても・少し/あまり〜ない(初級第4課)初級の「あまり〜ない」は程度が低いことを言う副詞で、意味が反対に近いほど違います。「心配のあまり」を「あまり心配ではない」と読み違える学習者がいるので、「あまり」の前に「の」「な」や動詞があるかを先に見る、という見分け方を教えます。
関連する文型

この場面のことば・表現

  • 国や地域の幸せについて述べるときに使われることば記事には漢語の名詞が続くので、まず「何を測るか」(指標の中身)と「どう比べるか」(調査・順位)の二つのかたまりに分けて、読みと意味を確かめます。読んでわかればよい語と、自分の意見を言うときに使えるようにしたい語(満足度・実感・数値化)を分けて示します。例:「幸福度」「指標」「生活の満足度」「数値化する」「上位・下位」「実感」

3 耳でキャッチ

できること会社を率いる人のインタビューから、その会社が何を大切にしてきたか、そのためにどんな決断をしてきたかを聞き取れる。

場面

ラジオ番組で、地方で長く続く小さな会社の社長が会社の考え方を語るインタビューを聞く場面です。教室では教師が自作のインタビュー(聞き手と社長の二人・2分ほど)を二人で読み上げるか、録音して流します。1回目は「会社が大切にしていること」、2回目は「そのためにしたこと・しないと決めたこと」をメモさせ、最後に自分ならその会社で働きたいかを話させます。

  • 聞き手:創業から60年、ずっと手作りを続けていらっしゃいますね。
  • 社長:ええ。機械を入れる話も何度もありましたが、話し合いを重ねた末に、手作りを続けることにしました。
  • 聞き手:大変な時期もあったと伺いました。
  • 社長:はい。売り上げが落ちたときも、社員だけは減らすまいと決めていました。
  • 社長:自分の給料を減らしてでも、みんなで乗り越えたいと思ったんです。
  • 聞き手:会社にとって、いちばん大切なものは何でしょうか。
  • 社長:働く人の誇りです。それがあってこそ、いい物が作れると思っています。
学習項目 1 〜まい

意味・はたらき

「〜まい」には二つの使い方があります。一つは「決して〜しない」という話し手の強い否定の意志で、「二度と同じ失敗はするまい」「〜まいと決める/〜まいと思う」の形でよく使い、ST3 のインタビューでは経営者が「これだけはしない」と決めたことを語るのに出てきます。もう一つは「〜ないだろう」という否定の推量で(「この雨では、客は来るまい」)、こちらは今では主に書き言葉です。どちらも硬く古めかしい響きがあり、ふだんの会話では、意志なら「〜ないつもりだ」「絶対に〜ない」、推量なら「〜ないだろう」と言います。「〜ないつもりだ」が予定や考えを言うのに対し、「〜まい」は自分に言い聞かせるような強い決意がこもります。話し手以外の人の意志を言うときは「〜まいとしている」「〜まいと決めていたそうだ」のようにします。

接続

1グループ:V辞書形+まい(行くまい)、2グループ:V辞書形+まい/Vます形の語幹+まい(食べるまい・食べまい)、する→するまい・すまい、来る→来るまい・こまい

形
二度と同じ失敗はするまい人の悪口は言うまいと決めた社員だけは減らすまいと思ったこの天気では、誰も来るまい(推量)

導入

  • 「もう二度と……」の決意を作る教師が「寝坊して大事な面接に遅れた」という話をし、「そのとき、心の中で何と言いましたか」と聞いて「もう二度と寝坊しない」を引き出す。板書に「二度と寝坊しない」と書き、その下に「二度と寝坊するまい(と思った)」と書き換えて、強い決意を言う硬い言い方だと伝える。動詞のグループごとの作り方を表にして並べる。

板書案

V辞書形 + まい = 決して〜しない(話し手の強い意志)
二度と 同じ失敗は するまい〔青〕と決めた。
〔赤〕する → するまい・すまい  来る → 来るまい・こまい
〔青〕もう一つの意味:〜ないだろう(推量) この雨では、だれも来るまい。

場面と発話(自作)

  • インタビューで、経営者が苦しかった時期の決意を語る。どんなに苦しくても、お客様をがっかりさせることだけはするまいと決めていました。
  • 日記に、試験に落ちた日の気持ちを書く。もう二度と、準備不足のまま試験を受けるまい。
  • 小説の一場面で、主人公が相手の気持ちを推し量る。あれだけ怒らせたのだから、彼はもう連絡してくるまい。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、まず動詞カード(行く・言う・食べる・する・来る)で「〜まい」の形を作らせる。次に失敗の場面カード(遅刻した・言いすぎた・忘れ物をした)を見て、「二度と〜まいと思った」で決意を言わせる。最後に ST3 のインタビューを聞き直し、社長がしないと決めたことを「社長は〜まいと決めていた」の形でまとめさせる。

  1. 口頭まず動詞カード(行く・言う・食べる・忘れる・する・来る)を出し、全体で「〜まい」の形を作らせる。次に失敗の場面カード(遅刻した・言いすぎた・忘れ物をした・食べすぎた)を見せ、個人で「二度と〜まいと思った」を言わせる。最後に推量の文(「この雨では、客は来るまい」)を一つ聞かせ、意志か推量かを手を挙げて答えさせる。
  2. ペア決意のインタビューの設定で、A は記者、B は苦しい時期を乗り越えた店の主人。B は「しないと決めたことカード」(値上げ・従業員を減らす・材料を変える)を持ち、A の「そのとき、何を決めましたか」に「〜だけはするまいと決めました」で答える。A は聞いたことをメモし、最後に「〜まいと決めていたんですね」と確かめる。交替する。
  3. 産出わたしの三つの誓い:来年の自分に向けて、しないと決めたことを「〜まい」で三つ書き、理由を添えて発表する。発表のあと、同じことを友達に話す言い方(「もう絶対〜ない」)でも言い直させる。教師は ①ナイ形につないでいないか ②「する」「来る」の形 ③推量と意志を取り違えていないか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*行かないまい」「*忘れないまい」とナイ形につなぐ。「まい」自体が打ち消しなので、前は辞書形(行くまい・忘れるまい)だと表で確かめる
  • 「する」「来る」の形で迷う。「するまい・すまい」「来るまい・こまい」はどれも使われるが、ほかの動詞とは作り方が違うので、表の最後に赤で書いて覚えさせる
  • 友達との会話で「もうあの店には行くまい」と言い、芝居がかって聞こえる。会話では「もう絶対行かない」がふつうで、「〜まい」は決意を語るスピーチや文章、インタビューで使うと場面で分ける

既習の文型との違い

  • Vるつもりです/Vないつもりです(初中級第3課)「〜ないつもりだ」は予定や考えを落ち着いて言う形で、会話でふつうに使えます。「〜まい」は自分に言い聞かせるような強い決意がこもり、硬く、スピーチや文章、インタビューに向きます。同じ決意を二つの形で言わせ、響きの違いを比べます。
  • 意向形/V(よ)うと思っています(初中級第3課)意向形の「〜(よ)う」は「しよう」という肯定の意志で、「〜まい」はその打ち消しの意志にあたります。「行こうか行くまいか迷う」のように、二つが対になって並ぶ言い方もあるので、意向形の表の横に「まい」の列を足して見せます。
関連する文型
学習項目 2 〜てでも

意味・はたらき

「Vてでも」は、「ふつうはしないような大変なこと・無理なことをしてでも」という意味で、目的をどうしても果たしたいという強い気持ちを表します(「借金をしてでも店を続けたい」)。後ろには「〜たい」「〜つもりだ」「〜なければならない」「〜(よ)う」のような意志・希望・必要の言い方が来るのがふつうです。ST3 では、経営者が考え方を守るためにどこまでの覚悟があったかを語るときに出てきます。4で学ぶ「〜てまで」は、その手段が行き過ぎだという評価や、実際にそこまでの手段をとったことに目を向けるのに対し、「〜てでも」はこれからの前向きな決意に使うという違いがあります。初級の「〜ても」(「雨が降っても行く」)は「その条件でも変わらない」という意味で、自分から大変な手段を選ぶ「〜てでも」とは違います。

接続

Vて形+でも(後ろは意志・希望・必要の文)

形
給料を減らしてでも、社員を守りたい徹夜してでも、明日までに仕上げますどんなことをしてでも、夢をかなえるつもりだ電車がなければ、歩いてでも行こう

導入

  • 「どうしても」の気持ちの強さを階段で見せる教師が「好きな歌手のコンサートのチケットがどうしても欲しい」という設定を出し、「高くても買いますか」「朝から並びますか」「アルバイトを休みますか」と聞いていく。板書に手段を下から上へ階段のように書き、いちばん上の大変な手段に「〜てでも」をつけて「アルバイトを休んででも、行きたい」とまとめる。後ろが「〜たい」になることに印をつける。

板書案

Vて + でも、[意志・希望・必要の文]
給料を減らしてでも、社員を守りたい。
〔赤〕階段の絵:高くても買う → 朝から並ぶ → アルバイトを休む(いちばん上に「てでも」)
〔青〕× 自分で選べない条件(雨が降ってでも)→ 〜ても

場面と発話(自作)

  • インタビューで、経営者が会社の危機を振り返る。自分の家を売ってでも、この店だけは残したいと思いました。
  • 留学生が友達に、帰国前の計画を話す。お金を借りてでも、一度は北海道に行ってみたいんだ。
  • 締め切りの前日、チームのリーダーが仲間に言う。今夜は残ってでも、資料を完成させよう。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、目的のカード(店を続ける・試験に合格する・家族に会う)と大変な手段のカード(借金する・徹夜する・アルバイトを休む)を組み合わせ、「〜てでも〜たい」を言わせる。次に後ろを「〜つもりだ」「〜なければならない」に変えて言わせる。最後に ST3 の社長の立場で、「〜てでも守りたかったもの」を一言で言わせる。

  1. 口頭目的のカード(店を続ける・試験に合格する・家族に会う・コンサートに行く)と大変な手段のカード(借金する・徹夜する・アルバイトを休む・夜行バスで行く)を組み合わせ、全体→個人で「〜てでも〜たい」を言わせる。次に後ろを「〜つもりだ」「〜なければならない」「〜(よ)う」に変えて言わせる。「雨が降る」のような自分で選べない条件のカードを混ぜ、「〜ても」に直させる。
  2. ペアA が「どうしても〜したいことはありますか」と聞き、B は「〜てでも〜たい」で答える。A はその手段について「そこまでするんですか」と一つ質問し、B が理由を言う。B は目的カードを引いてから答えを考えてよい。3回で交替する。
  3. 産出夢の宣言:自分がどうしてもかなえたいことと、そのためにしてもいい大変なことを「〜てでも」を使って1分で宣言する。聞く人は「それでもだめだったら?」と一つ質問する。教師は ①テ形にしてから「でも」をつけているか ②後ろが意志・希望・必要の文か ③条件の「〜ても」と混ざっていないか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*借金するでも」「*徹夜するでも店を続けたい」とテ形にしないでつなぐ。動詞をテ形にしてから「でも」をつける、と板書で「して+でも」に分ける
  • 自分では選べない条件に使い、「雨が降ってでも行きます」と言う。自分が選ぶ大変な手段ではないので、「雨が降っても行きます」と「〜ても」にさせる
  • 自分の決意を言うつもりで「家を売ってまで店を続けたい」と言うと、「〜てまで」の「行き過ぎだ」という響きが出やすい。これからの前向きな決意は「〜てでも」で言わせ、4で「〜てまで」と並べて確かめる

既習の文型との違い

  • 〜ても(初級第15課)「〜ても」は「その条件でも結果は変わらない」と言い、雨や値段のような自分で選べない条件にも使えます。「〜てでも」は自分から大変な手段を選んで目的を果たす決意なので、自分で選べることにしか使えません。「雨が降っても行く」と「夜行バスに乗ってでも行く」を並べて比べます。
  • 〜てまで/〜までして(第20課 4)「〜てでも」はこれからの前向きな決意で、後ろに「〜たい」「〜つもりだ」が来ます。「〜てまで」は手段の極端さに目を向け、「〜たくない」の評価や、実際にしたことの説明に多く使われます。自分の決意を「〜てまで」で言うと「そこまでしなくても」と聞こえやすい、と ST4 で並べて確かめます。
関連する文型
学習項目 3 〜末(に)/〜末の

意味・はたらき

「〜末(に)」は、長い時間や大きな苦労・迷い・話し合いを経て、最後にある結果にたどり着いたことを表します(「悩んだ末に、会社を辞めた」「話し合いの末、計画を変えた」)。名詞の前では「〜末のN」(「苦労の末の成功」)になります。ST3 では、経営者が長く考えて決めたことを語るのに使われます。「〜あげく」も長いことのあとに結果が来ますが、多くは「さんざん〜したのに、結局よくない結果になった」という不満や残念な気持ちがこもり、「〜末に」はよい結果にも悪い結果にも使えます。「〜結果」は出来事のつながりを客観的に言うのに対し、「〜末に」は途中の長さや苦労に重心があります。書き言葉や改まった話の言い方です。

接続

Vた形+末(に)、Nの+末(に)、〜末の+N(「考えた末」「苦労の末」「議論の末」などがよく使われる)

形
何度も考えた末に、帰国を決めた長い話し合いの末、計画を変えた迷いに迷った末、引っ越すことにした十年の苦労の末の成功

導入

  • 長い道のりの線を引く教師が「大学を選ぶとき、すぐ決まりましたか」と聞き、迷った人の話を引き出す。黒板に横に長い矢印を引き、矢印の上に「パンフレットを読む・先輩に聞く・家族と話す」を書き込んで、矢印の先に「この大学に決めた」と書く。矢印全体に「考えた末に」と書き添え、「長い道のりのいちばん最後に」という意味だと確かめる。

板書案

Vた/Nの + 末(に)、[最後にたどり着いた結果]
〔赤〕長い矢印:調べる → 先輩に聞く → 家族と話す → 決めた
悩んだ末に、帰国を決めた。
Nの + 末の + N (例)十年の苦労の末の成功
〔青〕あげく=残念な結果が多い  末に=よい結果にも悪い結果にも

場面と発話(自作)

  • インタビューで、経営者が新しい商品を作ったときのことを話す。失敗を何十回も重ねた末に、ようやく今の味にたどり着きました。
  • 友達に、進路を決めたことを報告する。いろいろ悩んだ末、日本で就職することにしたよ。
  • 新聞の記事で、長い議論が終わったことを伝えている。住民との長い話し合いの末、公園は残されることになった。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、過程のカード(悩む・話し合う・練習を重ねる・苦労する)と結果のカード(決める・完成する・合格する)を組み合わせ、「〜た末に〜」「〜の末に〜」を言わせる。次に、よい結果のカードと残念な結果のカードを分けて「〜あげく」との違いを確かめる。最後に ST3 の社長の決断を「〜た末に〜ことにした」でまとめさせる。

  1. 口頭過程のカード(悩む・話し合う・練習を重ねる・失敗を重ねる・苦労する)と結果のカード(決める・完成する・合格する・やめる)を組み合わせ、全体→個人で「〜た末に〜」「〜の末に〜」を言わせる。続けて結果のカードをよい結果と残念な結果の二つの山に分け、残念な山からも「末に」が言えることを確かめる。最後に「5分考えた」のような短い過程のカードを出し、使えないことに気づかせる。
  2. ペアA が「最近、〜はどうなったの?」と友達の近況を聞き、B は過程が三つ書かれたカードを見ながら、過程を二つ話してから「〜た末に〜ことにした」で結論を言う。A は「いちばん大変だったのは何?」と一つ質問する。カードは B だけが持つ。交替する。
  3. 産出わたしの決断ストーリー:自分が長く迷って決めたこと(留学・進学・引っ越し・仕事を選ぶ)を、途中の出来事を二つ以上言ってから「〜た末に」で結論を言う形で1分で話す。教師は ①タ形と「の」の接続 ②短い時間の出来事に使って大げさになっていないか ③残念な結果ばかりのときに「あげく」との選び分けが自然か、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*考える末に」「*話し合い末に」と接続を落とす。動詞はタ形、名詞は「の」と、板書の2行で確かめる
  • 短い時間で決めたことに使い、「5分考えた末に、昼ご飯をカレーにした」と言って大げさに聞こえる。長い時間や苦労があったときの言い方だと、導入の長い矢印で確かめる
  • 「〜あげく」と同じだと思い、よい結果を「努力したあげく、合格した」と言う。「あげく」は残念な結果が多いので、よい結果は「〜た末に」と、2つのカードの山を分けて見せる

既習の文型との違い

  • 〜あげく(中級第18課)「〜あげく」も長いことのあとに結果が来ますが、「さんざん〜したのに、結局よくない結果になった」という不満や残念な気持ちがこもることが多いです。「〜末に」はよい結果にも使えるので、「努力した末に合格した」は自然でも、「あげく」にすると皮肉のように聞こえます。
  • 〜結果(中級第11課)「〜結果」は「調査した結果、〜がわかった」のように、出来事のつながりを客観的に言います。「〜末に」は途中の長さや苦労に重心があり、気持ちのこもった語りに向きます。報告書なら「結果」、インタビューや人物紹介なら「末に」と、素材の種類で分けます。
  • 〜たところ(中級第7課)「〜たところ」は「してみたら、こうだった」と一回の行為をきっかけに何かがわかったことを言います(「先生に相談したところ、別の方法を教えてくれた」)。「〜末に」は長い過程の最後に決めたこと・たどり着いたことなので、一回の行為には使いません。
関連する文型

この場面のことば・表現

  • 会社の経営理念について話すときに使われることば・表現インタビューでは、経営者が自分の会社の考え方を、会社の歴史や決断の話と一緒に語ります。考え方そのものを表す語と、それを守るためにしたことを語る言い方を分けて聞かせ、聞き取ったら「この会社は〜を大切にしている」と自分の言葉でまとめさせます。例:「経営理念」「創業以来」「地域に根ざす」「社員を家族のように大切にする」「利益だけを追わない」「〜という思いで続けてきました」

4 見つけた!

できることある人物を紹介する記事を読んで、その人が何を決意し、そのためにどんな行動をとったかを読み取れる。

場面

地域の情報誌に載った、会社員をやめて伝統的なものづくりの道に入った人を紹介する記事を読む場面です。教室では教師が架空の人物の紹介記事(500字ほど)を自作し、「決意のきっかけ」「決意のために手放したもの」「今の生活」の三つがわかるように書きます。読みながら、出来事を時間の順に並べた年表を作らせます。

  • 記事:会社で十年働いた男性が、紙すきの道に入ったのは三十五歳のときだった。
  • 記事:安定した仕事を辞めてまで選んだのは、子どものころに祖母の家で見た手すきの和紙だった。
  • 記事:周りからは反対されたが、借金までして工房の近くに家を借りた。
  • 記事:それから五年間、ベテランの職人のもとで、朝から晩まで紙をすいた。
  • 記事:「師匠のもとで学べたからこそ、今の自分がある」と彼は言う。
  • 記事:今は地域の人たちの協力のもとに、子ども向けの体験教室も開いている。
学習項目 1 〜てまで/〜までして

意味・はたらき

「Vてまで」「Nまでして」は、ふつうならしないような極端な手段をとってまで何かをする(した)ことを表します。使い方は大きく二つで、一つは「そこまでする必要があるのか」という話し手の否定的な評価(「借金してまで、高い車を買いたくない」「うそをついてまで勝ちたいとは思わない」)、もう一つは、その人がそれほどの手段をとったことを示して決意の強さを伝える使い方です(「仕事を辞めてまで、この道を選んだ」)。ST4 の人物紹介の記事では後者の使い方で、その人が何を手放したかを読み取る手がかりになります。3の「〜てでも」は「どんな手段をとっても〜したい」というこれからの決意で、後ろに意志・希望が来ますが、「〜てまで」は手段の極端さそのものに目を向け、「〜たくない」「〜必要はない」などの評価の言い方や、実際にしたことの説明と一緒に使うことが多いという違いがあります。

接続

Vて形+まで、N(「借金」「徹夜」など「する」がつく名詞)+までして(「そこまでして」の形も多い)

形
仕事を辞めてまで、この道を選んだ借金してまで、旅行に行きたくない借金までして、工房の近くに引っ越したそこまでして勝ちたいとは思わない

導入

  • 階段のいちばん上に立った人3の「〜てでも」の階段の絵をもう一度出し、今度は実際にいちばん上の手段をとった人の話をする。教師が「この人は、会社を辞めてまで、この仕事を選びました」と言い、階段のいちばん上に人の絵を置く。次に「わたしは借金してまで旅行したくない」と言い、階段の上に×をつける。板書で「〜てまで+した(決意の強さ)」「〜てまで+したくない(行き過ぎだ)」の2行に分ける。
  • 「〜てでも」と並べて書き分ける「家を売ってでも、店を続けたい」と「家を売ってまで、店を続けた」を並べ、前はこれからの気持ち、後ろは実際にとった手段(記事の中の事実)に重心があることを、時間の矢印の上で確かめる。

板書案

Vて + まで / N(借金・徹夜など)+ までして
〔赤〕① 行き過ぎだ:借金してまで、旅行したくない。
〔青〕② 決意の強さ:仕事を辞めてまで、この道を選んだ。
〜てでも=これからの決意  〜てまで=手段の極端さ・実際にしたこと

場面と発話(自作)

  • 人物紹介の記事で、引退した選手のその後を書いている。家族と離れてまで海外に渡ったのは、指導者として学び直したかったからだ。
  • 友達が、新しいゲームに大金を使おうとしている。そこまでして買わなくてもいいんじゃない?
  • テレビで、行列のできる店を紹介している。朝早くから並んでまで食べたいという人が後を絶ちません。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、手段のカード(仕事を辞める・借金する・徹夜する・遠くまで行く)と目的のカードを組み合わせ、まず「〜てまで〜た」で人物の決意を、次に「〜てまで〜たくない」で自分の評価を言わせる。「借金」「徹夜」の名詞カードでは「〜までして」に言い換えさせる。最後に ST4 の記事の年表を見ながら、その人が何を手放してまで何をしたかを言わせる。

  1. 口頭手段のカード(仕事を辞める・借金する・徹夜する・遠くまで行く・3時間並ぶ)と目的のカードを組み合わせ、まず「〜てまで〜た」で人物の決意を、次に「〜てまで〜たくない」で自分の評価を、全体→個人で言わせる。「借金」「徹夜」の名詞カードでは「〜までして」に言い換えさせる。「辞めるまで」と辞書形にした誤りを教師がわざと言い、どこがおかしいかを当てさせる。
  2. ペアそこまでする?の設定で、A が「3時間並んで人気の店のパンを買う」「借金して海外旅行に行く」などのカードを読み、B は「〜てまで〜たくない」か「〜てでも〜たい」かを選んで理由を言う。A は「わたしは逆で……」と自分の考えを一言返す。4枚で交替する。
  3. 産出人物紹介カード:尊敬する人(家族・知り合い・有名人)が何かを手放してまで選んだことを、年表3行と、「〜てまで」「〜のもとで」を1回ずつ入れた紹介文にまとめて発表する。教師は ①テ形+まで/名詞+までして の形 ②「てまでして」と重ねていないか ③これからの決意を言う文で「〜てでも」と選び分けているか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*借金しまでして」と形を作り違えたり、「会社を辞めるまで、この道を選んだ」と辞書形につないで「辞める時まで」の意味にしてしまったりする。動詞はテ形+まで、名詞は「までして」と、板書で2つを分けて示す
  • 「*借金してまでして」と「てまで」と「までして」を重ねる。どちらか一つで足りることを、2つの形を並べて確かめる
  • 自分のこれからの前向きな決意を「家を売ってまで店を続けたい」と言い、聞き手に「そこまでしなくても」という響きで受け取られる。これからの決意は「〜てでも」と、3と4の板書を並べて選ばせる

既習の文型との違い

  • 〜てでも(第20課 3)「〜てでも」は「どんな手段をとっても〜したい」というこれからの決意で、後ろに意志・希望が来ます。「〜てまで」は手段の極端さそのものに目を向け、評価(「〜たくない」)や、実際にとった手段の説明に使います。人物紹介の記事の中の事実は「てまで」、自分の宣言は「てでも」と、ST3 と ST4 の板書を並べます。
  • 〜さえ(中級第7課)「さえ」は極端な例を一つ出して「ほかはもちろん」と言う形です(「忙しくて水さえ飲めなかった」)。「てまで」は極端な手段をとることを言います。どちらも「極端」を表しますが、「さえ」は程度の例、「てまで」は手段だと分けます。
関連する文型
学習項目 2 〜のもと(で)/〜のもとに

意味・はたらき

「Nのもとで/Nのもとに」は、ある人の指導や保護、ある条件や考え方の下で、何かが行われることを表します(「先生の指導のもとで研究する」「両親のもとで育つ」「〜という考えのもとに会社を作った」)。漢字では「下」と書くことがありますが、この表現では「した」ではなく「もと」と読みます。ST4 の人物紹介では、誰に学んだか、どんな支えや条件の中で活動しているかを読み取るのに使われます。「のもとで」は、人の下で学ぶ・働く・育つのように、その環境の中で動作が続くことを言うのに多く、「のもとに」は「〜という目標のもとに」「〜の名のもとに」のように考えや名目を土台にして何かを行うときや、「〜の協力のもとに」のような改まった書き言葉に多く使われます。どちらも硬めの言い方で、会話では「先生に教わって」「祖父母と暮らして」のように言うことが多いです。

接続

N+のもとで/のもとに(人・指導・協力・条件・考え方などの名詞)、「〜という+N+のもとに」の形も多い

形
師匠のもとで修業する先生の指導のもとで研究を進める祖父母のもとで育った地域の協力のもとに、教室を開く

導入

  • 上に立つ人の絵を描く黒板の上のほうに職人の絵、その下に弟子の絵を描き、「この人は、この職人のもとで五年間修業しました」と言う。絵の間に「もと」と書き、漢字の「下」も書いて「ここでは『した』ではなく『もと』と読みます」と確かめる。次に職人の絵を地域の人たちの絵に替え、「地域の協力のもとに、教室を開いている」と言って、人だけでなく支えや条件にも使うことを見せる。

板書案

N + のもとで/のもとに
〔赤〕上に職人の絵 → 下に弟子の絵:師匠のもとで 修業する
地域の協力のもとに、教室を開く。
〔青〕下(もと)≠ 下(した)  木の下(した)で休む
考え・目標の旗:「〜」という思いのもとに

場面と発話(自作)

  • 人物紹介の記事で、研究者の経歴を書いている。大学院では、植物学の教授のもとで研究を続けた。
  • 店のホームページで、開店したときの思いを紹介している。「地域の人が集まれる場所を」という思いのもとに、この店は始まりました。
  • 病院で、運動の始め方について説明を受ける。運動は、医師の指導のもとで少しずつ始めてください。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、人や支えのカード(先生・師匠・医師の指導・地域の協力・両親)と行動のカード(研究する・修業する・育つ・活動する)を組み合わせ、「〜のもとで〜」を言わせる。次に「〜という考え(目標)のもとに〜」で、会社や団体の始まりを一文で言わせる。最後に ST4 の記事の年表に、誰のもとで何をしたかを書き込ませる。

  1. 口頭人や支えのカード(先生・師匠・医師の指導・地域の協力・祖父母)と行動のカード(研究する・修業する・運動を始める・活動する・育つ)を組み合わせ、全体→個人で「〜のもとで〜」を言わせる。次に「〜という考え(目標・思い)のもとに〜」で、会社・店・団体の始まりを一文で言わせる。「下」と書いたカードを見せ、「もと」と読めるかを毎回確かめる。
  2. ペア経歴インタビューの設定で、A は聞き手、B は経歴カード(料理人のもとで3年・大学の研究室で教授の指導のもとで研究・祖父母のもとで育つ)を持つ人。A が「どなたのもとで学ばれたんですか」「どんな環境で育ったんですか」と聞き、B が答える。A は聞いたことを「〜のもとで〜たそうです」と第三者に伝える形でまとめる。交替する。
  3. 産出自分史の年表:自分がだれのもとで何を学んだか(家族・先生・アルバイト先の店長・サークルの先輩)を年表にし、「〜のもとで」を2回入れて3文の自己紹介文にする。教師は ①「の」が落ちていないか ②「した」と読んでいないか ③データや資料に「のもとに」を使っていないか(「に基づいて」との混同)、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*先生もとで勉強した」と「の」を落とす。「Nの+もとで」と、板書の「の」に印をつける
  • 「下」を見て「先生の下(した)で研究した」と読む。物の位置の「木の下(した)」と、人の指導や支えの「もと」を、2つの絵で比べる
  • 2の「に基づいて」と混ぜ、「アンケートのもとに点数をつけた」と言って不自然になる。データや資料を根拠にするときは「に基づいて」、人の指導や考え方の旗印には「のもとで/のもとに」と、2で学んだ形と並べる

既習の文型との違い

  • 〜に基づいて/〜に基づく/〜に基づいた(第20課 2)「に基づいて」はデータ・資料・規則を根拠にすることで、「のもとで/のもとに」は人の指導・保護・協力や、考え方の旗印の下で行うことです。「アンケートのもとに点数をつけた」のような混同が出たら、前の名詞が人や考えか、根拠になる資料かを聞き返します。
  • 〜をもとに(して)/〜をもとにした(中級第9課)「をもとに」は材料や出発点(「実話をもとにした映画」)、「のもとで」は人や条件の下(「先生のもとで学ぶ」)です。音が同じ「もと」なので、「先生をもとに勉強した」のように混ざりやすく、助詞(を/の)と後ろの形で見分けさせます。
関連する文型

この場面のことば・表現

  • 決意したときの状況や思いを伝えるときの表現人物紹介の記事では、決意した時の状況(きっかけ)と、そのときの思い、決意のあとの行動が順に書かれます。記事の中のこうした表現に線を引かせ、年表のどこに入るかを確かめると、読み取りが速くなります。読んだあとは、自分が何かを決意した経験を話すときにも使わせます。例:「〜がきっかけで」「〜と心に決めた」「思い切って〜した」「一から始める」「迷いはなかった」「もう後には引けない」

5 こんなときどうする?

できることクラスや職場の集まりで幹事になったとき、店に人数・予算・時間などの希望を伝え、難しい希望もていねいに頼んで予約できる。

場面

クラスの修了パーティーの幹事になった留学生が、レストランに電話をかけて予約する場面です。相手は店の人で、客としてていねいに話しますが、店の決まりどおりにはいかない希望を頼むときは、さらに言葉を選びます。教室では「人数・日時・予算・料理の希望・個室・時間の延長」を書いた希望カードを幹事役に、「できること・できないこと」を書いた店のカードを店員役に配り、条件が合わないところをどう頼むかを練習します。

  • 留学生:もしもし、来月の15日の夜に、20人で予約をお願いしたいんですが。
  • 店員:はい、15日の夜ですね。何時からでしょうか。
  • 留学生:7時からです。予算は一人3,000円ぐらいで考えているんですが、コースはありますか。
  • 店員:コースは3,500円からになりますが……。
  • 留学生:そうですか。料理を少し減らして、3,000円でお願いできないものでしょうか。
  • 店員:少々お待ちください。……はい、品数を一つ減らせば大丈夫です。
  • 留学生:ありがとうございます。それと、肉が食べられない人が二人いるんですが、その二人だけ別の料理にしていただけないものでしょうか。
  • 店員:かしこまりました。野菜の料理にお替えします。
学習項目 1 〜ないものでしょうか

意味・はたらき

「Vないものでしょうか」は、実現が難しいとわかっていることについて、「なんとか〜できないだろうか」と相手に可能性を尋ねる形で、遠回しに強い希望を伝える言い方です(「もう少し安くならないものでしょうか」「予約の日を変えていただけないものでしょうか」)。ST5 では、幹事が店の決まりや条件どおりにはいかない希望を、店の人に押しつけずに頼むときに使います。「〜ていただけませんか」はふつうのていねいな依頼、「〜ていただけないでしょうか」はさらに控えめな依頼ですが、「〜ないものでしょうか」は「難しいのは承知のうえで、何か方法はないか」と相手の判断にゆだねる響きがあり、無理なお願いや交渉の場面に向きます。「なる」「できる」「〜ていただける」のナイ形につくことが多く、ひとりごとで「なんとかならないものか」と言うこともあります。簡単な頼みごとに使うと大げさに聞こえます。

接続

Vない形+ものでしょうか(「ならない」「できない」「〜ていただけない」「〜てもらえない」につくことが多い。くだけた形は「〜ないものか」)

形
もう少し安くならないものでしょうか3,000円でお願いできないものでしょうか時間を少し延ばしていただけないものでしょうかなんとかならないものか(ひとりごと)

導入

  • 頼みにくさの階段を作る教師が店員役になり、学習者に「水をください」「窓側の席にしていただけませんか」と頼ませたあと、「コースの値段を500円下げてほしい」という難しい希望のカードを渡す。学習者が困ったところで、教師が「500円安くならないものでしょうか」と言ってみせる。板書に頼みにくさの順に「〜てください」「〜ていただけませんか」「〜ていただけないでしょうか」「〜ないものでしょうか」を階段にして並べ、いちばん上の段に「難しいとわかっている」と書き添える。

板書案

Vない + もの + でしょうか
〔赤〕頼みにくさの階段:〜てください → 〜ていただけませんか → 〜ていただけないでしょうか → 〜ないものでしょうか
3,000円で お願いできないものでしょうか。
〔青〕よく使う形:〜ならない・〜できない・〜ていただけない

場面と発話(自作)

  • レストランに予約の電話をかけ、人数が増えたことを伝える。5人増えてしまったんですが、同じ部屋になんとか入れないものでしょうか。
  • 地域の会館の事務所に、イベントの会場の使用時間について相談する。片付けのために、終わりの時間を30分延ばしていただけないものでしょうか。
  • 大学の事務室で、締め切りを過ぎた書類について頼む。一日遅れてしまったんですが、受け付けていただけないものでしょうか。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭では、まず「安くなる」「できる」「〜ていただける」のナイ形を作ってから「〜ないものでしょうか」をつけさせる。次に希望カードを、通りやすいもの(窓側の席)と難しいもの(値段を下げる・時間を延ばす)に分けさせ、難しいものだけを「〜ないものでしょうか」で頼ませる。最後に ST5 のロールプレイで、店員役の「それはちょっと難しいですね」に、理由を添えて一度だけ頼み直すところまで続けさせる。

  1. 口頭教師が「安くなる」「延ばせる」「入れる」「お願いできる」「〜ていただける」のカードを出し、全体でナイ形にしてから「〜ないものでしょうか」をつけさせる。次に希望カード(窓側の席・お水・値段を下げる・時間を延ばす・人数を増やす)を通りやすいものと難しいものに仕分けさせ、難しいものだけを個人でこの形で頼ませる。
  2. ペア予約の電話ロールプレイ:幹事役は希望カード(人数・日時・予算・料理・時間の延長)を、店員役は店のカード(できること・できないこと・代わりの案)を持ち、互いのカードは見せない。幹事は難しい希望だけ「〜ないものでしょうか」で頼み、店員は「それはちょっと……」か代わりの案で答える。幹事は代わりの案を受けるか、理由を足して一度だけ頼み直す。交替する。
  3. 産出幹事の予約電話:グループでクラスの集まりの条件(人数・予算・食べられないもの・終わりの時間)を実際に決め、代表が教師の店員役に電話をかけて、最後に内容を確認して予約を決めるまで通す。ほかの人は聞きながら、頼み方がていねいだったところを一つメモする。教師は ①「ない+もの+でしょうか」の形 ②簡単な頼みにまで使っていないか ③断られたあとの頼み直しが押しつけになっていないか、を見る。

つまずきと手当て

  • 「*安くならないのものでしょうか」「*できないものですでしょうか」と形を崩す。「ない+もの+でしょうか」の3つの部品をカードにして並べてから言わせる
  • 簡単な頼みにも使い、「お水をいただけないものでしょうか」と言って大げさに聞こえる。頼みにくさの階段のどの段かを先に選ばせる
  • 店の人に「難しいです」と言われても同じ形で何度もくり返し、押しつけに聞こえる。2回目は理由を足すか、「では、〜はいかがでしょうか」と別の案を出す言い方を教える

既習の文型との違い

  • 〜ていただけないでしょうか(中級第17課)「〜ていただけないでしょうか」は控えめな依頼で、ふつうの頼みごとにも広く使えます。「〜ないものでしょうか」は「難しいのはわかっているが、何か方法はないか」と相手の判断にゆだねる響きがあり、店の決まりを外れる頼みや交渉に向きます。二つを合わせた「〜ていただけないものでしょうか」は、いちばん控えめな言い方になります。
  • Vていただけませんか(初中級第5課)「〜ていただけませんか」は、相手がふつうに引き受けられることを頼むていねいな形です。値段を下げてもらうような無理な頼みにこの形を使うと、当然のように求めている響きになることがあるので、頼みにくさの階段のどの段かを先に考えさせます。
関連する文型

この場面のことば・表現

  • 希望を伝えて予約するときに使う表現予約の電話では、人数・日時・予算・料理・席の順に、店の人が聞きたいことを先に伝えると話が速く進みます。希望カードを見ながら、通りそうな希望は「〜でお願いしたいんですが」、通るかわからない希望は「〜は可能でしょうか」「〜ないものでしょうか」と、頼みにくさに合わせて言い方を変えさせます。例:「〜名で予約をお願いしたいんですが」「予算はお一人様〜円ほどで」「個室は空いていますか」「食べられないものがある人がいるんですが」「〜時まで延長は可能でしょうか」「最終的な人数は前日にお伝えしてもいいですか」

語彙の扱い

この課の語は、価値観と優先順位(優先する・欠かせない・余裕)、幸せを測ること(幸福度・指標・満足度・数値化)、会社の考え方(経営理念・創業・地域に根ざす)、人生の決断(決意・修業・師匠・手放す)、予約(幹事・予算・個室・延長)の5つのかたまりに分かれます。記事やインタビューの漢語は、読んでわかればよい語と、自分の意見を言うために使えるようにする語を分け、後者は1の話し合いと課のまとめで必ず口に出させます。抽象的な語が多い課なので、語を出すたびに学習者自身の生活の例を一つ言わせると定着します。

この課の練習で使う語(12語・意味・連語・例文)

  • 優先します(ゆうせんします) いくつかあるものの中で、あるものをほかより先に、または大切に扱う。 仕事を〜・家族を〜・〜順位
    幸せに欠かせないものの順番を説明する。
    わたしは、お金よりも自由な時間を優先したいです。
  • 欠かせません(かかせません) それがないと成り立たないほど大切だ。 生活に〜・〜存在・〜もの
    いちばん上に置いたカードの理由を言う。
    わたしにとって、友達との時間は生活に欠かせません。
  • 余裕(よゆう) 時間・お金・気持ちなどに、まだ使える分が残っていること。 〜がある・〜がない・心の〜
    お金を二番目にした理由を話す。
    生活が安定していないと、心の余裕がなくなると思います。
  • 満足度(まんぞくど) どのくらい満足しているかの程度。数字で表すことが多い。 〜が高い・生活の〜・〜を調べる
    記事の内容を友達に説明する。
    その調査では、住んでいる人の生活の満足度を点数にしているんだって。
  • 数値化します(すうちかします) 目に見えないものや性質を、数字で表す。 幸せを〜・結果を〜・〜しにくい
    幸せを点数にすることについて意見を言う。
    幸せを数値化すると比べやすいけど、大切なものが抜けてしまう気がします。
  • 実感(じっかん) 本当にそうだと、自分の体験として感じること。 〜がわく・〜する・〜がない
    自分の国の順位を見た感想を言う。
    順位は低かったけど、わたしの実感とはちょっと違いました。
  • 理念(りねん) 会社や団体が、いちばん大切にしている基本の考え方。 会社の〜・〜を守る・〜を掲げる
    インタビューを聞いたあと、会社の考え方をまとめる。
    あの会社の理念は、働く人を大切にすることだと思いました。
  • 決断します(けつだんします) 迷ったあとで、はっきりと決める。大きなことに使う。 〜を迫られる・大きな〜・〜力
    社長が苦しい時期に決めたことを言う。
    社長は悩んだ末に、店を続けることを決断したそうです。
  • 手放します(てばなします) 持っていたものや立場を、自分から人に渡したり、やめたりする。 家を〜・安定を〜・仕事を〜
    人物紹介の記事の年表に書き込む。
    その人は、安定した仕事を手放してまで職人の道を選んだ。
  • 師匠(ししょう) 技や芸を教えてくれる先生。職人や芸の世界で使うことが多い。 〜につく・〜のもとで・〜に教わる
    人物紹介の記事を読んで、経歴をまとめる。
    彼は五年間、師匠のもとで紙のすき方を学んだそうだ。
  • 幹事(かんじ) 会や集まりの準備をして、まとめ役をする人。 〜を引き受ける・飲み会の〜・〜役
    修了パーティーの準備の役を決める。
    今回の集まりは、わたしが幹事をやります。
  • 延長します(えんちょうします) 決まっていた時間や期間を、もっと長くする。 時間を〜・30分〜・〜料金
    店に予約の電話をかけ、終わりの時間を相談する。
    終わりの時間を30分延長していただけないものでしょうか。

宿題と次のコマ

宿題は、1で並べた自分の順番と、この課で読んだり聞いたりした人の考えを比べて、「わたしにとっての豊かさ」という題で600字ほどの意見文を書いてくること(この課の文型を三つ以上使う)。次のコマで読み合い、互いに一つずつ質問をして中級を締めくくります。中級を終えたあとは、新聞のコラムや社説を読んで要点と自分の意見を書く、ニュースやインタビュー番組を聞いて話し手の考えをまとめる、身近な問題について人と意見を交わす、といった練習を続けると、この教科書で積み上げた「読む・聞く・やり取りする・伝える」の力が上級の学びにつながります。

よくある質問

  • 『できる日本語 中級』第20課「豊かさと幸せ」は何コマで終わりますか?

    90分なら4コマが目安です。1コマ目に導入と「伝えてみよう」の4つの文型、2コマ目に幸せを数字にする記事の「見つけた!」と「耳でキャッチ」、3コマ目に人物紹介の記事の「見つけた!」と予約の電話の「こんなときどうする?」、4コマ目の後半を課のまとめに当てます。意見文を書く時間が足りないクラスは、意見文を宿題にして次のコマで読み合います。

  • 「〜てでも」と「〜てまで」の違いはどう教えますか?

    「〜てでも」はこれからの決意で、後ろに「〜たい」「〜つもりだ」が来る、と最初に後ろの形で分けます。「〜てまで」は手段の極端さに目を向け、「〜てまで〜たくない」の評価か、人物紹介のように実際にとった手段の説明に多く使います。同じ手段のカードで「借金してでも店を続けたい」「借金してまで店を続けた」「借金してまで店を続けたくない」の3文を並べると、使い分けが見えます。

  • 「〜というものではない」と「〜わけではない」「〜とは限らない」はどう区別させますか?

    「わけではない」は自分の気持ちや目の前の話の結論を打ち消し、「というものではない」は世の中の一般的な考えを打ち消す、と打ち消す相手で分けます。「とは限らない」は例外があるという事実を言うだけで、「というものではない」には「そう考えるのはよくない」という評価がこもりやすい、という差も添えます。「わたしは」で始まる文と「〜ば〜」の一般論の文を並べて選ばせると、混同が減ります。

  • 「〜末に」と「〜あげく」の違いは、この課でどこまで扱いますか?

    この課では「末に」はよい結果にも悪い結果にも使え、「あげく」は残念な結果が多い、の1点に絞ります。結果のカードをよい山と残念な山に分けて「末に」を言わせ、残念な山だけ「あげく」にも言い換えられることを確かめれば十分です。「あげく」を第18課で学んでいるので、インタビューの社長の決断を両方の形で言わせて、響きの違いを比べるのもよい練習です。

  • 「〜ないものでしょうか」は、ふつうの依頼とどう使い分けさせますか?

    板書で頼みにくさの階段を作り、「〜てください」「〜ていただけませんか」「〜ていただけないでしょうか」のさらに上の段に置きます。店の決まりを外れる頼み(値段を下げる・時間を延ばす)にだけ使う形で、お水や窓側の席のような簡単な頼みに使うと大げさに聞こえる、と希望カードの仕分けで体験させます。断られたら同じ形をくり返さず、理由を足すか別の案を出すところまでをロールプレイで練習します。

この課に関係する用語・解説・練習問題

この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。