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できる日本語 中級 第8課「気持ちを伝える」の教案
『できる日本語 中級 本冊 第2版』 ・ できること5つ(こんなときどうする?・見つけた!・耳でキャッチ・こんなときどうする?・伝えてみよう)
感謝・お願い・不満・励ましといった気持ちを、相手と場面に合わせて伝えたり受け止めたりする 課です。1 では目上の人に理由を添えて許可を求め、2 では感謝の伝え方についての記事を読み、3 では友達の愚痴を聞いて気持ちをくみ取り、4 では落ち込んだ友達への励ましのメールを読み、5 で気持ちの伝え方について自分の考えを理由とともに話します。文型も、原因をよい結果として言う「おかげで」と悪い結果として言う「せいで」、非難の「くせに」、決めつけの「にきまっている」、相手の立場に立つ「にしたら」のように、同じ事実にどんな気持ちを乗せるか で形が変わるものが中心です。初中級の授受・敬語(いただきます・Vていただけませんか)と使役 動詞をそのまま使うので、課の入口で思い出させてから入ります。
このページについて 教科書の会話・例文・練習の文は載せていません。例文と場面、やり取りの例はすべて自作です。課・ST の題と学習項目の表記は出版社のシラバス一覧(第2版)に合わせています。
学習項目 14時間 90分×4コマ場面 5
このページの内容
この課のねらい(Can-do)
進め方と時間配分
1 こんなときどうする?
2 見つけた!
3 耳でキャッチ
4 こんなときどうする?
5 伝えてみよう
語彙の扱い
宿題と次のコマ
よくある質問
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課のねらい(Can-do)
目上の人に、まず用件を切り出し、事情を説明してから、自分の行動の許可を丁寧に求められる
気持ちの伝え方を扱った記事を読んで要点をつかみ、感謝を具体的に伝える工夫を自分の生活で使える
友達の愚痴を聞いて、何に不満を感じているのかを理解し、気持ちに寄り添う一言を返せる
友達からの励ましのメールを読んで、相手が何を心配し、どう励まそうとしているのかを理解できる
気持ちを伝えるときに大切だと思うことを、自分の経験と理由を添えて話せる
進め方と時間配分 目安は 90分×4コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
段 時間 やること
導入 10分 「最近うれしかったこと・困ったこと・言えなくて後悔したこと」を一つずつ短く話させ、気持ちを伝えるのが難しかった場面を黒板に集める。初中級の「Vていただけませんか」と使役動詞(休ませる・使わせる)を2〜3例で思い出させ、課の入口にする
1 こんなときどうする? 70分 アルバイトの店長にシフトの変更を頼む場面。「〜のことなんですが」で切り出す →「〜ものですから」で事情 →「〜(さ)せていただけませんか」で許可 →「〜の代わりに」で代案、の4段を1本のやり取りに組み立て、ロールプレイ で店長役を交代させる
2 見つけた! 60分 感謝の伝え方を扱った短い自作の記事を読み、「何をしてもらったか」「そのおかげでどうなったか」を添えると伝わる、という要点をつかむ。「〜おかげで」を使って、お世話になった人への一言メッセージを書く
3 耳でキャッチ 80分 ルームメイトについての友達の愚痴を音声で聞き、何に怒っているか・本当はどうしてほしいかを聞き取る。「くせに・せいで・にきまっている・(さ)せる(誘発)」の気持ちの色を確かめ、聞き手としての相づちと寄り添う一言を練習する
4 こんなときどうする? 70分 試験に落ちて落ち込んでいる人に届いた励ましのメールを読み、書いた人の気持ちを読み取る。「〜ことはない」「〜のことになると」「〜にしてみれば」を使って、自分も友達に励ましの返信を書く
5 伝えてみよう 50分 「気持ちは言葉にしないと伝わらないか」をテーマに、経験(〜たびに)と後悔(〜ば、〜のに)を入れて1分ほど意見を話す。聞き手は理由を一つ質問する
課のまとめ 20分 同じ出来事(友達が約束に遅れた・先輩が手伝ってくれた)を、感謝・不満・励まし・お願いのどの気持ちで言うかによって形がどう変わるかを、板書の表で並べて確かめる
1 こんなときどうする?
できること 目上の人に事情を説明し、自分がしたいことを丁寧な形で認めてもらえるよう頼める。
場面 アルバイト先の留学生が、店長に来週のシフトを休ませてほしいと頼む場面です。相手は目上で、頼むのは自分の都合 なので、いきなり本題に入らず、話題を切り出してから事情を言い、自分の行動の許可を「させていただけませんか」で求め、代わりの案まで出すと受け入れてもらいやすくなります。教室では店長・先生・大家さんの役割カードと「頼みたいこと」のカード(シフトを休む・試験日を変える・部屋に友達を泊める)を用意し、教師がまず店長役をします。
留学生:店長、今ちょっとよろしいですか。来週の金曜日のシフトのことなんですが……。
店長:うん、どうしたの?
留学生:実は、その日に大学の面接が入ってしまったものですから、休ませていただけませんか。
店長:金曜日か。人が足りないんだよね。
留学生:その代わりに、土曜日の午後に入ります。それから、同じクラスの山田さんが、わたしの代わりに金曜日に入れると言っていました。
店長:それなら大丈夫。面接、頑張って。
留学生:ありがとうございます。無理を言って、すみません。
学習項目 1 〜のことなんですが
意味・はたらき
相手に相談やお願いをする前に、何についての話なのかを先に示して切り出す 言い方です。「〜んですが」の「が」は前置きで、このあとに事情や頼みごとが続くことを相手に知らせます。目上の人にいきなり本題を言わず、相手が話を聞く準備をできるようにするはたらきがあります。似た形の「〜についてなんですが」はやや改まった言い方、「〜の件なんですが」は仕事やメールでよく使う硬い言い方です。
接続 N+のことなんですが(動詞の内容は「Vことなんですが」か、名詞にして「Nのことなんですが」)
形
来週のシフトのことなんですが あしたの試験のことなんですが (硬い)先日の件なんですが
導入
いきなり頼む・切り出してから頼むを比べる 教師が店長役の学習者に、まず前置きなしで「金曜日、休みたいです」と言ってみせ、店長役にどう感じたかを聞く。次に「店長、今よろしいですか。金曜日のシフトのことなんですが……」と言い直し、相手がどこで話の準備ができたかを考えさせる。板書は「[話題]のことなんですが、→ 事情 → お願い」の3段の枠にする。
板書案
[話題]〔赤〕のことなんですが、→ 事情 → お願い
N+のこと/V辞書形+こと
店長、来週のシフトのことなんですが……。
〔青〕親しい人には → シフトのことなんだけど
〔赤〕「が」のあとは必ず続ける(黙らない)
場面と発話(自作)
授業のあと、先生のところへ行って課題の締め切りについて相談したい。 先生、レポートのことなんですが、少しご相談してもよろしいでしょうか。
大家さんに、来月の家賃の払い方について聞きたい。 来月の家賃のことなんですが、振り込みでもいいでしょうか。
会社の先輩に、あしたの会議の資料について確かめたい。 あしたの会議の資料のことなんですが、何部コピーすればいいですか。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が話題のカード(シフト・試験・家賃・資料・駐車場)を見せ、「〜のことなんですが」で切り出す部分だけを言わせる。慣れたら、相手のカード(店長・先生・大家さん)と組み合わせて、声をかける一言から切り出しまでを続けて言い、相手役が「はい、何でしょう」と受けるところまで回す。
口頭 教師が話題のカードを見せ、全体 → 列 → 個人の順で切り出しの部分だけを言わせる。キューは「シフト」→「シフトのことなんですが」、「レポートの締め切り」→「レポートの締め切りのことなんですが」、「駐車場」→「駐車場のことなんですが」、動詞のカード「休む」→「休むことなんですが」→ 名詞にして「お休みのことなんですが」。2周目に相手のカード(店長・先生・友達)を混ぜ、友達のときは「〜のことなんだけど」に切り替えさせる。
ペア A は相手役のカード(店長・先生・大家さん)を伏せて持ち、B は話題と事情が書かれたカードを持つ。B が声をかける → 切り出す → 事情を言い、A は「はい、何でしょう」「それで?」で受ける。A が忙しそうに「手短にね」と受けたら、B は「すぐ済みます」と一言足す。3回で役を交替する。
産出 「切り出し30秒チャレンジ」。学習者が実際にいま相談したいこと(学校・アルバイト・住まい)を一つ選び、教師を相手に、声かけ → 切り出し → 事情までを30秒で言う。教師が見るのは、動詞のあとに「の」を入れていないか、「が」のあとで黙らずに事情が続くか、相手が友達のときに普通形に切り替えられるかの3点。
つまずきと手当て
「*金曜日に休むのことなんですが」と、動詞のあとに「の」を入れる。動詞なら「休むことなんですが」、名詞なら「休みのことなんですが」と、つなぎ方を2行で板書する
切り出したあと「〜のことなんですが。」で黙ってしまい、相手が何を求められているかわからない。「が」のあとに事情とお願いが必ず続くと、3段の枠で確かめる
友達との軽い会話でも毎回この形を使い、かえって改まって聞こえる。親しい人には「シフトのことなんだけど」と普通形にする、と相手別に並べて見せる
既習の文型との違い
〜んですが、〜(初中級第4課) 初中級の「〜んですが」は、「道がわからないんですが」のように事情そのもの を前置きにして頼む形です。「〜のことなんですが」は事情より先に話題の名前だけ を出すので、相手は何の話かを知ってから事情を聞けます。混ぜると「シフトのことなんですが、休みたいんですが、……」と前置きが重なって長くなるので、「話題 → 事情 → お願い」の3段に一つずつ置かせます。
〜たいことがあるんですが(第4課) 第4課の「聞きたいことがあるんですが」は、話題をまだ言わずに相談がある ことだけを知らせる形です。「〜のことなんですが」は話題を名指しします。二つを続けて「ご相談したいことがあるんですが……来週のシフトのことなんですが」とすると、目上の人にもいっそう丁寧に切り出せます。
関連する文型
学習項目 2 〜(さ)せていただけませんか
意味・はたらき
自分がしたいことを、相手に認めてもらえるよう丁寧に頼む 言い方です。使役のテ形「休ませて」に「いただけませんか」がつき、「わたしが休むことを許してもらえないか」という意味になります。初中級の「Vていただけませんか」が相手に何かをしてもらう依頼なのに対し、この形はする人が自分 である点が違います。「Vてもいいですか」より丁寧で、目上の人や仕事の場面に合い、「〜させていただけないでしょうか」とするとさらに丁寧になります。
接続 使役形のテ形+いただけませんか(1グループ:休む→休ませて/2グループ:見る→見させて/3グループ:する→させて・来る→来させて)
形
金曜日は休ませていただけませんか この資料をコピーさせていただけませんか 少し考えさせていただけませんか (さらに丁寧)発表させていただけないでしょうか
導入
する人はだれかを矢印で示す 黒板に「店長」と「わたし」を描き、「店長がシフト表を見せる」場面と「わたしが休む」場面の2枚の絵を出す。前者は「見せていただけませんか」(する人は店長)、後者は「休ませていただけませんか」(する人はわたし)と言い分け、矢印で行為をする人を示す。板書は「(わたしが)休む → 休ませる → 休ませて+いただけませんか」と、使役形を経由する作り方を縦に並べる。
板書案
(わたしが)休む → 休ませる → 〔赤〕休ませて+いただけませんか
1グループ 帰る→帰らせて/2グループ 見る→見させて/する→させて
熱があるので、早めに帰らせていただけませんか。
〔青〕見せていただけませんか=する人は相手 〔赤〕見させていただけませんか=する人はわたし(矢印)
〔赤〕×休まさせて(さ入れ)
場面と発話(自作)
体調が悪く、アルバイトを早く帰りたいことを店長に頼む。 熱があるので、今日は早めに帰らせていただけませんか。
ゼミで、先生に自分の研究について話す時間をもらいたい。 次のゼミで、少し発表させていただけませんか。
会社の説明会で、配られなかった資料の写真を撮りたい。 こちらの資料、写真を撮らせていただけませんか。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、動詞のカード(休む・帰る・使う・見る・考える・説明する・来る)を見せて、使役のテ形を作ってから「〜せていただけませんか」をつける。グループごとに速く回したあと、ST1 の役割カードで「〜のことなんですが」から許可を求めるところまでを続けて言い、相手役は受け入れるか、条件をつけて答える。
口頭 動詞のカードを見せて、使役形 → 使役のテ形 →「いただけませんか」の順に作らせる。キューは「休む」→「休ませていただけませんか」、「使う」→「使わせていただけませんか」、「考える」→「考えさせていただけませんか」、「説明する」→「説明させていただけませんか」。次に、だれが動作をするかの絵カード(先生が資料を見せる/わたしが資料を見る)で「見せていただけませんか」と「見させていただけませんか」を言い分けさせる。
ペア A は店長・先生役で、「OK」「条件つき」「難しい」のどれかが書かれた返事カードを伏せて持つ。B は頼みたいことのカード(シフトを休む・ゼミで発表する・部屋を見る)で「〜させていただけませんか」と頼む。A はカードどおりに「いいですよ」「〜ならいいですよ」「ちょっと難しいですね」と答え、B は条件に合わせて言い直すか、「わかりました」と引く。交替する。
産出 「お願いメール」。学習者が実際に目上の人に頼みたいこと(授業を早退する・資料を写真に撮る・面接の日を変える)を一つ選び、件名・切り出し・事情・「〜させていただけないでしょうか」・お礼の5行のメールを書く。教師が見るのは、動作をする人の取り違え、1グループのさ入れ、事情とお願いの順の3点。
つまずきと手当て
「*休まさせていただけませんか」と、1グループの動詞に「さ」を余分に入れる(いわゆる「さ入れ」)。1グループは「ない形の a 段+せる」で「休ませる」、「させる」になるのは2グループと「する」だけ、とグループ別に表で確かめる
自分がしたいことなのに「休んでいただけませんか」と言い、相手に休んでもらう意味になる。文としては正しいが言いたいことと逆になるので、する人がだれかを矢印の図で毎回確かめる
許可が要らない小さなことにまで使い、大げさに聞こえる(友達に「ペンを使わせていただけませんか」)。誤りではないが、親しい人には「ペン借りていい?」で十分と、相手と内容の重さで使い分けさせる
既習の文型との違い
Vていただけませんか(初中級第5課) 初中級の形は相手に何かをしてもらう 依頼で、「書いていただけませんか」は相手が書きます。この課の形は使役を通すので、動作をする人は自分 です。「休んでいただけませんか」と言うと相手に休んでもらう意味になるので、どちらの文にも動作をする人の絵を描いて矢印を引かせます。
〜(さ)せていただきます(第10課) 第10課の「〜させていただきます」は、自分の行動を丁寧に知らせる 形で、相手の返事を待ちません。「〜させていただけませんか」は相手に決めてもらうお願い です。休みを頼む場面で「休ませていただきます」と言うと、もう決めたことの報告に聞こえる、と並べて見せます。
Vてもいいですか(初級第10課) 「休んでもいいですか」も許可を求める形ですが、丁寧さは一段下で、先生や友達に気軽に聞くときに向きます。仕事の場や、頼む内容が相手の負担になるときは「させていただけませんか」と、頼む内容の重さと相手で選ばせます。
関連する文型
学習項目 3 〜ものですから/〜ものだから/〜もので
意味・はたらき
理由を述べる言い方で、特に相手に迷惑をかけるときや頼みごとをするときに、自分ではどうにもならない事情だったと説明する はたらきがあります。「から」で言い訳をすると自分の判断を押し出すように聞こえやすいのに対し、「ものですから」は事情をやわらかく差し出す感じになります。「ものですから」は丁寧、「ものだから」は普通の話し言葉、「もので」は短く控えめで、話し言葉では「もんだから」「もんで」にもなります。後ろに「〜しなさい」のような命令や強い指示は来にくく、お願いは「〜させていただけませんか」のような控えめな形と組み合わせると自然です。
接続 V普通形・イA普通形+ものですから/ナAな・Nな+ものですから(過去はナAだった・Nだった+ものですから)
形
電車が止まってしまったものですから 朝から頭が痛いものですから まだ日本語が下手なもので 引っ越したばかりなものだから
導入
遅刻の言い訳を2通りで言う 教師が遅れて教室に入る演技をし、まず「電車が止まったから、遅れました」、次に「すみません、電車が止まってしまったものですから……」と言ってみせ、学習者にどちらが謝っているように聞こえるかを聞く。板書は「[事情]ものですから、[おわび・お願い]」の枠にし、品詞ごとの接続(休む・痛い・下手な・雨な)を下に並べる。
板書案
[事情]〔赤〕ものですから、[おわび/お願い]
休む・痛い+ものですから 〔赤〕下手な・雨な+ものですから
すみません、電車が止まってしまったものですから……。
丁寧:ものですから → 普通:ものだから → 短く:もので
〔青〕後ろに「〜てください」は来にくい
場面と発話(自作)
約束の時間に遅れて、待っていた先輩に謝る。 すみません。道が混んでいたものですから。
飲み会に誘われたが、次の日に試験があるので断る。 あしたテストなもので、今日は失礼します。
大家さんに、夜の洗濯の音について注意され、事情を説明する。 仕事から帰るのが遅いものだから、つい夜に洗濯してしまって……。すみません。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、事情のカード(電車が遅れた・熱がある・初めてだ・雨だ)を見せて「〜ものですから」に変えさせ、ナAとNの「な」を特に確かめる。次に「事情+おわび」「事情+許可を求める」の2つの型で言わせ、ST1 のロールプレイの事情を説明する部分に入れる。
口頭 事情のカードを見せて「〜ものですから」に変えさせる。キューは「電車が遅れた」→「電車が遅れたものですから」、「頭が痛い」→「頭が痛いものですから」、「初めてだ」→「初めてなものですから」、「雨」→「雨なものですから」。2周目は相手のカード(先生/友達)を一緒に出し、先生なら「ものですから」、友達なら「ものだから・もんで」と言い分けさせる。
ペア A は待っていた人の役(先生・先輩・友達)のカード、B は遅れてきた人で事情カードを引く。B が「すみません、〜ものですから」とおわびし、A は「そうでしたか。次は連絡してくださいね」のように返す。A の役が変わるたびに B が丁寧さを変えられるかを、A がチェックする。交替する。
産出 「事情説明ロールプレイ」。ST1 の役割カードを使い、声かけ → 切り出し →「〜ものですから」で事情 →「〜させていただけませんか」まで一続きで言う。教師が見るのは、N・ナAの「な」、後ろが相手への指示になっていないか、事情が長すぎて言い訳に聞こえていないか。
つまずきと手当て
「*学生のものですから」「*雨のものですから」と、名詞に「の」をつける。名詞とナ形容詞は「な」でつなぐ(学生なものですから・雨なものですから)と、品詞別の表で確かめる
目上の人への謝罪で「から」を使い、「電車が遅れたから、遅刻しました」と言い切る。誤りではないが、責任を外に押し出すように聞こえることがあるので、謝る場面では「ものですから」か「〜てしまって」にする
「〜ものですから、早く来てください」のように、後ろに相手への指示を続ける。不自然に聞こえるので、後ろはおわびか、自分の行動についての控えめなお願いにする
既習の文型との違い
〜ので、〜(初中級第1課) 「ので」は理由を落ち着いて述べる形で、場面を選ばず使えます。「ものですから」は自分ではどうしようもなかった という気持ちを添えるので、おわびや頼みごとの理由に向きます。ふだんの説明(「駅に近いので便利です」)に「ものですから」を使うと、言い訳がましく聞こえます。
〜て、〜(理由)(初中級第5課) 「遅れて、すみません」は理由とおわびを短くつなぐ形で、後ろはおわびや気持ちの言葉に限られます。「ものですから」は事情を一文として説明でき、お願いにもつなげられます。短いおわびなら「て」、事情を一文で説明するなら「ものですから」と分けます。
関連する文型
学習項目 4 〜の代わりに/〜に代わって
意味・はたらき
どちらも本来のものや人の代わりを、別のものや人が務める ことを表します。「Nの代わりに」は話し言葉で広く使い、人にも物にも使えます(「ペンの代わりに鉛筆を使う」「店長の代わりにわたしが行く」)。「Nに代わって」は改まった言い方で、あいさつや放送、書き言葉に多く出ます。古いものが新しいものに置き換わるときにも使いますが(第6課)、この課では人の役目をほかの人が引き受ける 用法を扱います(「社長に代わって、部長がごあいさつします」)。ST1 では、休ませてもらう代わりに自分が別の日に入る・友達が自分の代わりに入る、という代案を出すときに使います。
接続 N+の代わりに/N+に代わって(「その代わりに」で前の文を受けることもできる)
形
わたしの代わりに、山田さんが入ります その代わりに、土曜日に入ります パンの代わりにご飯を食べる (改まって)店長に代わって、お礼を申し上げます
導入
シフト表のカードを入れ替える 黒板にシフト表を描き、金曜日の欄に学習者の名前カードを貼る。そのカードを外して友達の名前カードと入れ替えながら、「わたしの代わりに、山田さんが入ります」と言ってみせる。続けて、式のあいさつの場面の絵(社長が来られず部長が話す)を出し、「社長に代わって、部長があいさつします」と改まった言い方を並べる。板書は「Nの代わりに(話し言葉・人も物も)」「Nに代わって(改まった言い方・人の役目)」の2行にする。
板書案
本来の人・物 → 〔赤〕Nの代わりに → 代わりの人・物
わたしの代わりに、山田さんが入ります。
パンの代わりに、ご飯にします。
〔青〕Nに代わって(改まった言い方・人の役目)
社長に代わって、部長がごあいさつします。
場面と発話(自作)
当番の日に用事ができ、ルームメイトにごみ出しを代わってもらった。 きのう、ルームメイトがわたしの代わりにごみを出してくれました。
牛乳が飲めない友達に、カフェで別の飲み物をすすめる。 牛乳の代わりに、豆乳にもできるよ。
学生代表が欠席したため、別の学生が卒業式でスピーチをする。 本日は、代表の山本さんに代わって、わたしがごあいさつします。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「本来の人・物」と「代わりの人・物」の2枚のカード(店長/わたし、ボールペン/鉛筆、電車/バス)を見せて「〜の代わりに〜」を言わせる。次に、式やアナウンスの場面カードのときだけ「〜に代わって」を使わせ、最後に ST1 のロールプレイで、休ませてもらう代わりの案を出す一言に入れる。
口頭 「本来」と「代わり」の2枚のカードを見せて言わせる。キューは「ボールペン/鉛筆」→「ボールペンの代わりに鉛筆を使います」、「バス/電車」→「バスの代わりに電車で行きます」、「店長/わたし」→「店長の代わりにわたしが行きます」。「その代わりに」のカードを出したら、前の文を受けて代案を言わせる。式やアナウンスの絵カードのときだけ「〜に代わって」を使わせる。
ペア 情報差で行う。A は来週休む人に印がついたシフト表、B は代わりに入れる人と曜日の一覧を持つ。A が「金曜日、佐藤さんが休むんですが」と言い、B が「じゃあ、佐藤さんの代わりに山本さんが入れます」と答えて A が表を埋める。最後に A が副店長の役で「店長に代わって、お礼を申し上げます」と改まった一言で締める。交替する。
産出 「代案を出すロールプレイ」。ST1 の場面で、休ませてもらう代わりに自分ができることを「その代わりに」で二つ出し、相手役の反応に合わせて一つ選び直す。教師が見るのは「の代わりに/に代わって」のつなぎ方、ふだんの会話に「に代わって」が混ざっていないか、代案が相手の困りごとに答えているか。
つまずきと手当て
「*店長に代わりに」「*店長の代わって」と、2つの形のつなぎ方を混ぜる。「の+代わりに」「に+代わって」を組にして、カードで何度も組み合わせる
友達との会話で「田中さんに代わって、わたしが買ってくるよ」と改まった形を使い、硬く聞こえる。誤りではないが、ふだんの会話は「田中さんの代わりに」がふつうと、場面のカードで分ける
「休む代わりに、土曜日に入ります」の「休む代わりに」(交換の意味)と混ぜて、「*休むの代わりに」と動詞に「の」をつける。動詞のときは「の」を入れないことと、交換の意味の「〜代わりに」は第15課でくわしく扱うことを伝える
既習の文型との違い
〜に代わって/〜に代わり(第6課) 「〜に代わって」は第6課にも出ています。社会や歴史の話題では「手紙に代わって、メールが使われるようになった」のように、物事が入れ替わる 書き言葉の意味でよく使われます。この課では人の役目を引き受けるあいさつの用法が中心です。どちらも硬い言い方で、ふだんの会話は「〜の代わりに」で足りると確かめます。
〜代わりに(第15課) 第15課の「〜代わりに」は動詞などに直接つき(「手伝う代わりに、昼ご飯をおごって」)、何かと引き換えに という交換の意味になります。この課の「Nの代わりに」は名詞の入れ替えなので「の」が要ります。「*休むの代わりに」が出たら、名詞か動詞かで「の」の有無が変わると2行で比べます。
関連する文型
この場面のことば・表現
目上の人に丁寧に許可を求めるときに使う表現 目上の人へのお願いは、声をかける → 用件を切り出す → 事情 → 許可を求める → 代案・お礼 の順に組み立てると通りやすくなります。いきなり「休みたいです」と言わず、相手の時間をもらう一言と、最後のおわびやお礼をセットで覚えさせます。断られたときに「わかりました」と引く言い方も一緒に練習します。例:「お忙しいところすみません」「今ちょっとよろしいでしょうか」「実は……」「〜させていただけないでしょうか」「無理を言ってすみません」「ご迷惑をおかけします」
2 見つけた!
できること 感謝の伝え方を扱った記事を読んで要点をつかみ、自分のメッセージの書き方に生かせる。
場面 生活情報のサイトや雑誌に載っている「『ありがとう』をもっと伝わるように言うには」という短い記事を読む場面です。教科書の素材は使わず、教師が400字ほどの記事を自作して配ります(「ありがとう」だけで終わらせず、何をしてもらったか・そのおかげでどうなったかを一つ添える、という内容)。読む前に「最近だれにありがとうと言ったか」を聞き、読んだあとで実際にお世話になった人への一言カードを書かせます。
記事:「ありがとう」は、だれでも毎日のように使う言葉です。
記事:しかし、「ありがとう」だけでは、何に感謝しているのかが相手に伝わらないこともあります。
記事:そこでおすすめしたいのが、感謝の言葉に「理由」を一つ添えることです。
記事:たとえば「資料を送ってくれて、ありがとう。おかげで会議の準備が早く終わったよ」と言われると、相手は自分のしたことが役に立ったとわかります。
記事:短くてもかまいません。具体的なひと言が、次の協力につながるのです。
学習項目 1 〜おかげで/〜おかげだ
意味・はたらき
ある原因によってよい結果になったことを、感謝の気持ちを込めて 言う形です。「先輩が教えてくれたおかげで、合格できた」のように、結果がよかったのはその人や物事のおかげだと伝えます。ST2 の記事では、感謝の言葉に「そのおかげでどうなったか」を添えると相手に伝わる、という使い方で出ます。悪い結果には ST3 の「せいで」を使い、「おかげで」を悪い結果に使うと皮肉に聞こえます(「きみのおかげで、遅刻したよ」)。「おかげさまで」は、元気かどうかなどを聞かれたときに相手の気づかいへの礼として使う決まった挨拶です。
接続 V普通形・イA普通形+おかげで/ナAな・Nの+おかげで(文末は「〜おかげだ」「〜おかげです」)
形
先輩が教えてくれたおかげで、間に合いました 駅から近いおかげで、通学が楽です みなさんのおかげで、楽しい一年でした 合格できたのは、先生のおかげです
導入
「ありがとう」に理由を足す 教師が「友達がノートを貸してくれた → テストでいい点が取れた」の2枚の絵を出し、まず「ノート、ありがとう」とだけ言う。次に「ノートを貸してくれたおかげで、いい点が取れたよ。ありがとう」と言い直し、どちらがうれしいかを聞く。板書は「[相手がしたこと]おかげで、[よい結果]」の枠にし、接続(貸してくれた・近い・便利な・先生の)を並べる。
板書案
[相手がしたこと・原因]〔赤〕おかげで、[よい結果]
教えてくれた・近い・便利な・先生の+おかげで
ノートを貸してくれたおかげで、いい点が取れたよ。
〔青〕文末:合格できたのは、先生のおかげです。
〔赤〕悪い結果 → せいで(3で)
場面と発話(自作)
引っ越しを手伝ってくれた友達に、次の日にメッセージを送る。 きのうはありがとう。手伝ってくれたおかげで、一日で片付いたよ。
お世話になった日本語の先生に、卒業のときにカードを書く。 先生のおかげで、日本語で話すのが好きになりました。
ホストファミリーに「日本の生活には慣れた?」と聞かれる。 はい、おかげさまで、だいぶ慣れました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「してもらったこと」と「よい結果」の2枚のカードを組み合わせて「〜おかげで、〜」を言わせ、ナAとNの接続を確かめる。次に「合格できたのは〜おかげです」と文末に置く形にも言い換えさせ、最後に ST2 の記事のまとめとして、実際にお世話になった人への一言カードを書かせる。
口頭 「してもらったこと」と「よい結果」の2枚のカードを組み合わせて言わせる。キューは「先輩が教えてくれた+間に合った」→「先輩が教えてくれたおかげで、間に合いました」、「駅から近い+通学が楽」→「駅から近いおかげで、通学が楽です」、「みなさん+楽しい一年」→「みなさんのおかげで、楽しい一年でした」。2周目は文末に置く形「〜のは、〜おかげです」に言い換えさせる。
ペア A が「最近、だれかに助けてもらったことはありますか」と聞き、B が「〜さんが〜てくれたおかげで、〜」と答える。A は「それはよかったですね」と受け、「それで、どうなりましたか」ともう一つ聞く。答えの中で「てくれた」が抜けていたら A が指摘する。交替する。
産出 「ありがとうカード」。実際にお世話になった人(先生・ホストファミリー・アルバイトの先輩)に、してもらったこと+そのおかげでどうなったか+お礼の3文でカードを書く。教師が見るのは、N の「の」・ナA の「な」、結果がよい結果になっているか、「〜てくれた」の授受が抜けていないか。
つまずきと手当て
「*先生おかげで」「*便利のおかげで」と、つなぎ方を誤る。名詞は「の」、ナ形容詞は「な」と、品詞別の表で確かめる
悪い結果に「雨が降ったおかげで、試合が中止になった」と使い、皮肉のつもりがないのに皮肉に聞こえる。よい結果か悪い結果かを先に判断させ、悪いときは「せいで」(ST3)を予告する
「おかげさまで」を、実際に相手が何もしていないのに使ってよいか迷い、使わない。体調や近況を聞かれたときの決まった挨拶として、相手の気づかいへの礼で使えると伝える
既習の文型との違い
[原因]で(初級第15課) 初級の「台風で電車が止まった」は原因を中立に述べるだけで、気持ちは入りません。「おかげで」は、結果がよかったことへの感謝 を乗せる形です。お礼を言う場面で「先生の説明で、わかりました」と言うと事実の報告に聞こえるので、「おかげで」に言い換えさせます。
〜せいで/〜せいか/〜せいだ(この課の3) 組み立ては同じで、結果が悪いと「せいで」になります。「雨のおかげで傘が売れた」「雨のせいで遠足が中止になった」のように、だれの立場から見てよいか悪いかで形が決まると、同じ絵で比べます。
関連する文型
この場面のことば・表現
気持ちを伝える挨拶表現 決まった挨拶表現は、意味よりどんな場面で、だれに言うか で覚えさせます。メールやカードの書き出しと結びに使うものと、会ったときに口で言うものを分けて板書し、「おかげさまで」は相手のおかげでなくても、気づかってもらったことへのお礼として使うことにも触れます。例:「いつもお世話になっております」「おかげさまで、元気にしています」「その節はありがとうございました」「先日はごちそうさまでした」「〜さんによろしくお伝えください」「どうぞお大事に」
3 耳でキャッチ
できること 友達の愚痴を聞いて、何に困って何に腹を立てているのかを理解し、気持ちをくみ取った返事ができる。
場面 学校の帰りに、シェアハウスに住む友達がルームメイトについて愚痴を言うのを聞く場面です。教師が友達どうしの会話を1分ほど自作して録音し(または二人で演じ)、1回目は「何について怒っているか」、2回目は「本当はどうしてほしいのか」を聞き取らせます。愚痴は言い方が強くても、聞き手に求められているのは解決策より共感 であることが多いので、聞いたあとに返す一言まで練習します。
友達:もう、聞いてよ。ルームメイトがまた台所を片付けてないの。
友達:自分は掃除当番を一回もやってないくせに、わたしにはうるさく言うんだよ。
留学生:それは嫌だね。
友達:きのうも夜中に音楽を大きな音で聞いてたせいで、全然眠れなかったし。
友達:今日帰っても、どうせまた散らかしてるにきまってる。
留学生:大変だったね。一度ちゃんと話してみたら?
友達:うん。でも言い方を間違えて、相手を怒らせたくないんだよね。
学習項目 1 〜くせに
意味・はたらき
「〜なのに」と同じく、前のことから予想されることと後ろのことが合わないことを表しますが、その人を非難したり軽蔑したりする気持ち が強く出ます。「自分は掃除しないくせに、人には文句を言う」のように、主に他人の態度への不満や愚痴で使います。前と後ろの主語は同じ人でなければなりません。「のに」は自分についての残念な気持ちにも使えて中立的なのに対し、「くせに」は感情的な話し言葉なので、目上の人に直接言うと強い非難になります。
接続 V普通形・イA普通形+くせに/ナAな・Nの+くせに(前後の主語は同じ)
形
知っているくせに、教えてくれない 自分は遅れるくせに、人には厳しい 下手なくせに、すぐ自慢する 子どものくせに、生意気だ
導入
「のに」と「くせに」を聞き比べる 教師が二人の会話を演じ、まず「兄は料理が上手なのに、あまり作らない」と淡々と言い、次に顔をしかめて「兄は料理が上手なくせに、全然作らないんだよ」と言う。学習者に、どちらが怒っているかを聞く。板書は「[その人の性質・立場]くせに、[合わない態度](主語は同じ人)」とし、前後の主語に同じ記号をつけて示す。
板書案
[その人の性質・立場]〔赤〕くせに、[合わない態度]
〔青〕前と後ろの主語=同じ人(□で囲む)
兄は料理が上手なくせに、全然作らないんだよ。
知っている・遅れる+くせに/下手な・子どもの+くせに
〔赤〕のに=中立・自分のことにも くせに=相手への非難(親しい人との話だけ)
場面と発話(自作)
グループ発表の準備を何もしなかった人が、本番で自分がやったように話していた。 何も手伝わなかったくせに、自分が全部やったみたいに言うんだよ。
弟が、自分は一度もお土産を買ってこないのに、催促してくる。 自分は買ってこないくせに、お土産はまだかって言うんだ。
いつもお金がないと言っている友達が、高いゲームを買っていたことを別の友達に話す。 お金がないって言ってたくせに、新しいゲーム買ってたよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「その人の性質」と「合わない態度」の組のカード(知っている/教えない、お金がある/おごらない、上手だ/作らない)を見せて「〜くせに」でつながせる。慣れたら、ST3 の愚痴の音声を聞いたあと、聞き取った不満を「ルームメイトは〜くせに、〜」とまとめさせ、聞き手役は「それはひどいね」と返す。
口頭 「その人の性質」と「合わない態度」の組のカードでつながせる。キューは「知っている+教えない」→「知っているくせに、教えてくれない」、「お金がある+おごらない」→「お金があるくせに、おごらない」、「下手だ+自慢する」→「下手なくせに、すぐ自慢する」、「子ども+生意気」→「子どものくせに、生意気だ」。教師が怒った顔のカードを出したときは「くせに」、ふつうの顔のときは「のに」と言い分けさせる。
ペア A は愚痴のカード(ルームメイト・弟・グループ発表の仲間)の内容を「〜くせに、〜んだよ」と言い、B は「それはひどいね」「大変だったね」と相づちと寄り添う一言を返す。B は A の文の前と後ろの主語が同じかを確かめる役も兼ねる。交替する。
産出 「ちょっと聞いてよ・1分愚痴」。架空の人物(ルームメイト・兄弟など)への不満を1分話し、聞き手は相づちを打って最後に一言返す。実在のクラスメートや先生は話題にしない、と先に約束しておく。教師が見るのは、前後の主語が同じか、ナA の「な」・N の「の」、目上の人に向かって言う形になっていないか。
つまずきと手当て
「*ルームメイトは掃除しないくせに、わたしが片付けなければならない」と、前後で主語が変わる。「くせに」は同じ人の話だけ、と主語に同じ記号をつけて確かめる。主語が変わるなら「のに」を使う
目上の人や仕事の場で、「部長は知っているくせに」と言ってしまう。強い非難になるので、愚痴を言える親しい相手との会話だけで使うと伝える
「*上手のくせに」と、ナ形容詞に「の」をつける。ナ形容詞は「な」、名詞は「の」と並べて確かめる
既習の文型との違い
〜のに、〜(初中級第10課) 「のに」は「勉強したのに、合格できなかった」のように自分のことの残念さにも使える中立的な形で、前後の主語が違ってもかまいません。「くせに」は同じ人 の性質と態度のずれを責める形で、話し手の非難が強く出ます。自分のことに「くせに」を使うと自分を責める響きになるので、ふつうは「のに」に戻させます。
〜にしては(第7課) 「初めてにしては上手だ」は予想との違いを評価 する形で、ほめる文にも使えます。「くせに」はいつも非難の気持ちが入ります。「初心者のくせに上手だ」と言うと、皮肉やねたみに聞こえると比べます。
関連する文型
学習項目 2 〜せいで/〜せいか/〜せいだ
意味・はたらき
ある原因によって悪い結果になった ことを言い、その原因を責める気持ちが入ります。「夜中の音楽のせいで、眠れなかった」のように、愚痴でよく使います。「せいか」は「はっきりとはわからないが、それが原因かもしれない」という推測で、「寝不足のせいか、頭が痛い」のように使います。よい結果は ST2 の「おかげで」、中立に原因を述べるなら書き言葉の「〜ために」や「で」を使います。
接続 V普通形・イA普通形+せいで/ナAな・Nの+せいで(「せいか」「せいだ」も同じ)
形
隣がうるさいせいで、眠れなかった 台風のせいで、電車が止まった 寝不足のせいか、集中できない 失敗したのは、わたしのせいです
導入
同じ出来事を「おかげ」と「せい」で言う 「雨が降った」の絵を中心に、左に「傘が売れた(店の人)」、右に「遠足が中止になった(子ども)」の絵を置く。店の人の立場で「雨のおかげで、傘がよく売れた」、子どもの立場で「雨のせいで、遠足が中止になった」と言ってみせる。板書は「よい結果 → おかげで/悪い結果 → せいで/原因がはっきりしない → せいか」の3行にする。
板書案
[原因]〔赤〕せいで、[悪い結果]
〔青〕よい結果 → おかげで/悪い結果 → せいで/たぶん → せいか
隣がうるさいせいで、眠れなかった。
寝不足のせいか、頭が痛い。
うるさい・台風の・下手な+せいで
場面と発話(自作)
友達が、ルームメイトのせいで寝不足だと愚痴を言う。 ルームメイトが夜中に電話してたせいで、全然眠れなかったよ。
最近疲れている理由を同僚に聞かれる。 引っ越しの片付けが続いたせいか、ちょっと疲れが取れなくて。
チームの試合に負けて、自分のミスだったと謝る。 負けたのは、わたしがパスを失敗したせいです。すみません。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、原因と結果のカードを組み合わせ、結果がよいか悪いかを判断させてから「おかげで」か「せいで」を選ばせる。原因に自信がないカード(たぶん寒さ・たぶんコーヒー)では「せいか」を使わせる。最後に ST3 の愚痴の音声で聞き取った原因と結果を「〜せいで、〜」でまとめさせる。
口頭 原因と結果のカードを出し、まず結果がよいか悪いかを〇×で言わせてから文にする。キューは「台風+電車が止まった」→「台風のせいで、電車が止まった」、「先輩のアドバイス+合格した」→「先輩のアドバイスのおかげで、合格した」、「たぶん寒さ+のどが痛い」→「寒さのせいか、のどが痛い」、「わたしのミス+負けた」→「負けたのは、わたしのせいです」。
ペア A が状態のカード(最近疲れている・眠れない・成績が上がった)を引いて言い、B が「どうして?」と聞く。A は理由を考えて「〜せいで」「〜せいか」「〜おかげで」から選んで答え、B はよい結果か悪い結果かを判定する。交替する。
産出 「愚痴まとめメモ」。ST3 の音声を聞いて、話し手が困っている原因と結果を「〜せいで、〜」で3つメモにまとめ、最後に寄り添う一言を書き添える。教師が見るのは、原因と結果の取り違え、接続、だれかを強く責めすぎる書き方になっていないか。
つまずきと手当て
「先生が教えてくれたせいで、合格した」と、よい結果に使い、皮肉に聞こえる。「せい」はふつう悪い結果に使う、と左右の絵で毎回確かめる
「*雨なせいで」「*台風せいで」と、つなぎ方を誤る。名詞は「の」、ナ形容詞は「な」と、「おかげで」と同じ表で確かめる
原因がはっきりしていて自分の判断を言いたいのに「せいか」を使い、あいまいに聞こえる。「せいか」は「たぶん」と言いたいときだけ、と使い分けさせる
既習の文型との違い
〜ために、〜(原因)(初中級第15課) 「台風のために電車が止まった」は原因を中立に述べる書き言葉寄りの形で、ニュースや報告に向きます。「せいで」は話し手が原因を責める 気持ちを乗せるので、報告書に「担当者のミスのせいで」と書くと感情的に見えます。
〜ばかりに(第15課) 第15課の「〜ばかりに」は、それだけのことが原因で 思いがけず悪い結果になったという後悔や残念さが強い形です。「せいで」は原因を責める気持ちが中心で、他人のせいにも自分のせいにも使えます。
〜おかげで/〜おかげだ(この課の2) 組み立ては同じで、結果がよいか悪いかで選びます。よい結果に「せいで」を使う誤りが多いので、同じ原因の絵で立場を入れ替えて言わせます。
関連する文型
学習項目 3 〜にきまっている
意味・はたらき
話し手が「絶対にそうだ」と強く思い込んでいる ことを表す話し言葉です。根拠を示さずに言い切るので、愚痴の中では「どうせ〜にきまってる」のように相手を決めつける気持ちが出ます。似た形の「〜はずだ」は理由や根拠があって当然そう考える言い方、「〜に違いない」は強い確信ですがやや書き言葉的です。「にきまっている」は感情が出やすい口語なので、レポートや改まった場面では使いません。話し言葉では「にきまってる」と縮まります。
接続 V普通形・イA普通形+にきまっている/ナA・N+にきまっている(ナA・N は「だ」をつけない)
形
どうせまた遅れてくるにきまってる そんなの無理にきまってるよ 新しいほうがいいにきまっている 犯人はあの人にきまっている
導入
根拠があるか・思い込みかを比べる 教師が「友達はいつも10分遅れる」というカードを見せ、「今日も遅れるはずだ」(これまでの経験という根拠)と、腕を組んでいらいらした様子で「どうせ今日も遅れるにきまってる」(思い込み・不満)を言い分ける。学習者に、どちらが怒っているかを聞く。板書は「〜はずだ=根拠から考える」「〜にきまっている=強く決めつける(話し言葉)」の2行にする。
板書案
〔赤〕〜にきまっている(話し言葉:にきまってる)=強く決めつける
行く・いい+にきまっている 〔赤〕無理・あの人+にきまっている(「だ」は入れない)
どうせまた遅れてくるにきまってるよ。
〔青〕〜はずだ=根拠から考える 〜に違いない=強い確信(書き言葉寄り)
場面と発話(自作)
いつも約束を忘れる友達のことを、別の友達に愚痴る。 今日の約束も、どうせ忘れてるにきまってるよ。
迷っている友達に、高い店と安い店のどちらで買うかを聞かれる。 同じ物なら、安いほうがいいにきまってるじゃない。
人気のコンサートのチケットが取れるか心配している友達に、明るく返す。 あんなに早くから並んだんだから、取れるにきまってるよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、状況カード(毎回遅れる友達・人気のある店・ずっと練習してきた人)を見せ、「〜にきまってる」で強く言い切らせる。次に同じカードで「〜はずだ」と根拠を添えて言い直させ、気持ちの違いを話し合う。最後に ST3 の音声の「にきまってる」が、話し手のどんな気持ちを表しているかを聞き取らせる。
口頭 状況カードを見せて言い切らせる。キューは「毎回遅れる友達」→「今日も遅れるにきまってる」、「人気の店・土曜日」→「混んでるにきまってる」、「ずっと練習してきた人」→「合格するにきまってる」、「一日で全部覚える」→「そんなの無理にきまってるよ」。同じカードで、根拠を添えて「〜はずだ」でも言い直させる。
ペア 「決めつけと根拠」。A は状況カードを読んで「〜にきまってるよ」と決めつけ、B は「どうしてそう思うの?」と聞き返す。A は根拠を言って「〜から、〜はずだよ」と言い直す。B の聞き返しは、愚痴を聞くときに決めつけをやわらげる聞き手の技術としても使える、と最後に確かめる。交替する。
産出 「どっちがいい?即答トーク」。二択の質問カード(夏と冬・都会と田舎・メールと電話)に「〜にきまってるじゃない」で即答し、理由を一つ添える。冗談めかした軽い会話の中で使えるかを見る。教師が見るのは、ナA・N に「だ」を入れていないか、言い切ったあとに理由が言えるか、相手の意見を否定する形になっていないか。
つまずきと手当て
「*無理だにきまっている」「*学生だにきまっている」と、ナ形容詞・名詞に「だ」を入れる。ナA・N はそのままつなぐと、接続の表で確かめる
レポートや面接で「この方法がいいにきまっています」と書いたり言ったりして、感情的・独断的に聞こえる。根拠を示す場面では「〜はずだ」「〜と考えられる」にする
相手の考えを否定するときに使い、強く聞こえて相手を傷つける(「そんなの失敗するにきまってるよ」)。愚痴を聞く練習では、聞き手は使わずに受け止める側に回ると伝える
既習の文型との違い
〜はずだ(第2課) 「はずだ」は、時刻表や経験などの根拠から当然そうだと考える 形で、説明やレポートにも使えます。「にきまっている」は根拠を示さずに強く言い切る話し言葉で、感情や決めつけが出ます。同じ「遅れる」でも、根拠を言えるなら「はずだ」と書き分けさせます。
〜に違いない(第18課) 「に違いない」も強い確信ですが、やや書き言葉寄りで、推理や説明の文に向きます。「にきまっている」は会話で使い、「どうせ」「〜じゃない」と一緒に出ると不満や決めつけが強く聞こえます。
関連する文型
学習項目 4 〜(さ)せる(誘発)
意味・はたらき
使役の形で、ある人の行動が原因になって、ほかの人にある気持ちを起こさせる ことを表します(誘発の使役)。「親を心配させる」「友達を怒らせる」「みんなを笑わせる」のように、心配する・怒る・困る・笑う・泣く・がっかりする・驚くなどの気持ちの動詞に使います。初中級で学んだ使役が「命令して・許してさせる」だったのに対し、こちらはそうしようと思っていなくても、結果として相手の気持ちを動かしてしまう ことも表せます。気持ちが起こる人は「を」で表します。
接続 [人]を+気持ちの動詞の使役形(怒る→怒らせる・困る→困らせる・心配する→心配させる・驚く→驚かせる)
形
相手を怒らせたくない 親を心配させてしまった 冗談でみんなを笑わせた 友達をがっかりさせた
導入
受身と使役の向きを入れ替える 「わたし」と「母」の絵を描き、「わたしが連絡しなかった → 母が心配した」の2コマを見せる。まず母の立場の文「母が心配した」を書き、矢印を母に向けて「わたしが母を心配させた」と言い直す。続けて「わたしは先生に叱られた(受身 )」と「わたしが先生を怒らせた(使役)」を並べ、気持ちを起こした人と起こされた人の向きを確かめる。板書は「[原因の人]が[気持ちが動く人]を+使役形」とする。
板書案
[原因の人]が[気持ちが動く人]〔赤〕を+使役形
怒る→怒らせる 心配する→心配させる 驚く→驚かせる
連絡しなくて、母を心配させてしまった。
〔青〕わたしが先生を怒らせた(使役)⇔ わたしは先生に怒られた(受身)
〔赤〕×母に心配させた
場面と発話(自作)
友達がルームメイトとのけんかを避けたいと言う。 言い方を間違えて、相手を怒らせたくないんだよね。
旅行中に連絡しなかったことを、家族に謝る。 連絡しなくて、心配させてごめんね。
クラスのパーティーで、留学生が国の歌を歌って盛り上げた。 留学生の友達の歌で、みんなを笑わせていたよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、気持ちの動詞のカード(心配する・怒る・困る・笑う・泣く・驚く・がっかりする)を見せて使役形を作らせ、次に「原因の出来事」のカードと組み合わせて「〜て、〜を〜せてしまった」と言わせる。最後に ST3 の愚痴のあと、聞き手として「相手を怒らせないように、どう伝えるか」を話し合わせる。
口頭 気持ちの動詞のカードで使役形を作らせ、次に出来事と組み合わせる。キューは「心配する」→「心配させる」、「困る」→「困らせる」、「笑う」→「笑わせる」、「驚く」→「驚かせる」、「がっかりする」→「がっかりさせる」。続けて「連絡しなかった+母」→「連絡しなくて、母を心配させてしまいました」、「冗談+みんな」→「冗談でみんなを笑わせました」。
ペア 「向きを入れ替えて」。A が受身の文を言い(「わたしは先生に怒られた」)、B が使役の文に言い換える(「わたしが先生を怒らせた」)。次に A が出来事カードで「〜を〜せてしまった」と言い、B が「それで、どうしたの?」と聞いて、二人で謝り方を考える。交替する。
産出 「ごめんねメッセージ」。最近だれかを心配させた・困らせた・がっかりさせた経験を一つ選び、その人へのおわびのメッセージを3文で書く(出来事 →「〜せてしまって、ごめんね」→ これからどうするか)。教師が見るのは「を/に」、使役形の作り方、だれの気持ちが動いたかの向き。
つまずきと手当て
「*母に心配させた」「*友達に怒らせた」と、気持ちが動く人を「に」で表す。気持ちを起こさせる使役は「を」と、板書の枠で固定する
「先生を怒らせた」と「先生に怒られた」を混ぜて、だれが原因でだれの気持ちが動いたのか、向きがわからなくなる。「先生を怒らせた(わたしが原因)」「先生に怒られた(わたしが受けた)」の2文を矢印で並べて確かめる
「驚く」を「*驚かさせる」とする。1グループは「驚かせる」(話し言葉では「驚かす」もある)と、使役形の作り方をもう一度確かめる
既習の文型との違い
使役動詞(初中級第13課) 初中級の使役は「子どもに野菜を食べさせる」のように、命令したり許したりして相手に行動させる ものでした。誘発の使役は気持ちの動詞につき、そうさせるつもりがなくても、結果として相手に気持ちを起こさせる意味になります。気持ちが動く人は「を」で表すので、「*母に心配させた」が出たら二つの文を並べて助詞を比べます。
受身(初中級第10課) 「先生に怒られた」は気持ちを向けられた側(わたし)から見た文、「先生を怒らせた」は原因を作った側から見た文です。同じ出来事でも、自分の責任を言うおわびの場面では使役のほうが合う、と矢印で示します。
関連する文型
この場面のことば・表現
愚痴を言うときの表現 愚痴の表現は、聞いて理解できればよいものと、自分でも使えるとよいもの を分けて扱います。親しい人どうしの話し言葉なので、目上の人や仕事の場面では使わないことを確かめ、聞き手として返す相づち(「それは大変だね」「わかる」「ひどいね」)も同時に練習します。例:「もう、聞いてよ」「ほんとに嫌になっちゃう」「〜てばっかりなんだよ」「信じられなくない?」「やってられないよ」「どうせ〜だし」
4 こんなときどうする?
できること 友達から届いた励ましのメールを読んで、書いた人が何を心配し、どう励まそうとしているのかを理解できる。
場面 日本語能力試験 に落ちて落ち込んでいる留学生に、同じ日本語学校を卒業した先輩から励ましのメールが届いた場面です。教師が10行ほどのメールを自作して配り、「先輩は何を心配しているか」「どんな言葉で励ましているか」に線を引かせます。読んだあとは、メールを受け取った本人として返信を書くか、落ち込んでいる別の友達に自分が励ましのメッセージを書く活動につなげます。
メール:結果のこと、聞きました。残念だったね。
メール:でも、そんなに自分を責めることはないよ。
メール:〇〇さんは日本語のことになると、いつもクラスでいちばん一生懸命だったよね。
メール:先生にしてみれば、毎日質問に来る〇〇さんがきっと頼もしかったと思う。
メール:わたしも一回目は落ちたけど、二回目で合格できたよ。
メール:無理しないで、少し休んでから、また一緒に頑張ろう。
学習項目 1 〜ことはない
意味・はたらき
「そうする必要はない」と相手に伝え、気持ちを楽にさせる 言い方です。「そんなに心配することはないよ」のように、落ち込んだり不安になったりしている人を励ますときや、遠慮している人に「わざわざ〜しなくていい」と言うときによく使います。「Vなくてもいい」が単に必要がないことを述べるのに対し、「ことはない」は相手の心配や遠慮を打ち消して励ます気持ちが強く出ます。上から助言するように聞こえることもあるので、目上の人には「〜なくても大丈夫ですよ」などを使うほうが無難です。
接続 V辞書形+ことはない(話し言葉では「ことないよ」)
形
そんなに落ち込むことはないよ わざわざ来ることはない 謝ることないよ 一人で悩むことはありません
導入
落ち込んでいる人に声をかける 教師が「試験に落ちた」と言ってうなだれる学習者役を演じ、別の学習者に励ましの一言を考えさせる。出てきた「大丈夫だよ」「気にしないで」を受けて、教師が「そんなに自分を責めることはないよ」と言ってみせる。板書は「V辞書形+ことはない(=しなくていいよ、と励ます)」とし、「行ったことがない(経験)」と並べて形の違いを示す。
板書案
V辞書形+〔赤〕ことはない(=しなくていいよ、と励ます)
そんなに自分を責めることはないよ。
〔青〕話し言葉:〜ことないよ
〔赤〕責めたことはない → 経験がない、という別の意味に変わる
目上の人へは →「〜なくても大丈夫ですよ」
場面と発話(自作)
発表で緊張して失敗した友達が、ずっと気にしている。 一回失敗しただけでしょ。そんなに気にすることはないよ。
お土産のお礼をしに、友達がわざわざ遠くから来ようとしている。 わざわざ来ることないよ。メッセージで十分だから。
困っている後輩が、相談しにくそうにしている。 一人で悩むことはないよ。いつでも話して。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「相手の心配・遠慮」のカード(失敗を気にしている・謝ってばかりいる・遠くから来ようとしている)を見せ、「〜ことはないよ」で打ち消して励まさせる。そのあと ST4 のメールの中から励ましの文を探し、同じ形で自分が友達に送る返信を書かせる。
口頭 相手の心配・遠慮のカードを見せて打ち消させる。キューは「失敗を気にしている」→「そんなに気にすることはないよ」、「何度も謝っている」→「謝ることないよ」、「遠くから来ようとしている」→「わざわざ来ることはないよ」、「一人で悩んでいる」→「一人で悩むことはないよ」。タ形のカード(行った)を混ぜ、「〜たことはない」が経験の意味になることを言わせて確かめる。
ペア 「落ち込み相談」。A は落ち込みのカード(試験に落ちた・発表で失敗した・アルバイトで注意された)を読み、B が「〜ことはないよ」で打ち消して、もう一言(〇〇さんなら大丈夫だよ)を足す。A は「ありがとう。少し楽になった」で受ける。交替する。
産出 「励ましの返信」。ST4 のメールを受け取った人の友達として、落ち込んでいる友達に5〜6行の励ましのメッセージを書く。「〜ことはない」を一つ以上入れ、最初に相手の気持ちを受け止める一言を置く。教師が見るのは辞書形になっているか、受け止め → よいところ → これから の順になっていて押しつけに聞こえないか。
つまずきと手当て
「心配したことはないよ」とタ形につけると、「経験がない」という意味に変わる。励ます「ことはない」は辞書形だけ、と「行ったことがない」と並べて形を確かめる
目上の人に「部長、心配なさることはありません」と言い、上から助言しているように聞こえる。目上の人には「ご心配いただかなくても大丈夫です」などを使うと伝える
励ますつもりで「心配しないことはない」と否定を重ね、「心配しないわけではない」という別の意味になる。打ち消すのは「ことはない」の部分だけ、と枠で示す
既習の文型との違い
Vなくてもいいです(初級第14課) 「来なくてもいいです」は必要がないことを事実として伝える形で、規則の説明にも使えます。「来ることはないよ」は相手の心配や遠慮を打ち消して気持ちを楽にさせる 形で、励ましや思いやりの場面で使います。規則の案内に「提出することはありません」と書くと、相手をなぐさめているような響きになると比べます。
Vたことがあります(初級第13課) 形が似ていますが、タ形につく「行ったことがない」は経験の有無です。励ましの「ことはない」は辞書形だけにつきます。「心配したことはないよ」と言うと「心配した経験がない」になるので、2つを上下に板書して動詞の形だけ色で比べます。
関連する文型
学習項目 2 〜のことになると/〜のこととなると
意味・はたらき
ある話題になると、その人がふだんと違う態度になる ことを表します。「彼はサッカーのことになると、話が止まらない」のように、夢中になる・急に真剣になる・人が変わったようになる、といった様子を言うときに使います。後ろには、その人のいつもの傾向が来るのがふつうで、一回だけの出来事にはあまり使いません。「〜のこととなると」はやや改まった、書き言葉寄りの言い方です。似た形の「〜といえば」は話題から連想することを言うだけで、人の態度の変化は表しません。
接続 N+のことになると/N+のこととなると
形
日本語のことになると、だれよりも一生懸命だ 子どものことになると、人が変わる お金のこととなると、急に厳しくなる
導入
クラスの「好きな話題」を集める 教師が「わたしはふだん静かですが、ラーメンの話になると30分話します」と自分の例を言い、学習者にも「この話題になると止まらない」ものを一つずつ聞いて黒板に書く。それを「〜さんはアニメのことになると、話が止まらない」とまとめてみせる。板書は「[人]は[話題]のことになると、[ふだんと違う態度]」とする。
板書案
[人]は[話題]〔赤〕のことになると、[ふだんと違う態度]
父は車のことになると、話が止まらない。
〔青〕その人のいつもの傾向(一回だけの出来事には使わない)
勉強する → 〔赤〕勉強のことになると(名詞にする)
〜のこととなると(やや改まった言い方)
場面と発話(自作)
いつも冷静な友達が、好きな野球チームの話だけは熱くなる。 佐藤さんは野球のことになると、急に声が大きくなるよね。
ふだん優しい母が、勉強の話だけは厳しかったことを話す。 母は勉強のことになると、本当に厳しかったです。
ふだんは無口な寮の先輩が、映画の話になると止まらないことを友達に話す。 先輩は映画のことになると、何時間でも話してくれるんです。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、人物と話題のカード(父/車、先輩/ゲーム、店長/お客さんのマナー)を見せて、その人がどう変わるかを想像させ「〜のことになると、〜」と言わせる。そのあと ST4 のメールで、書いた人が相手のどんなよいところを「〜のことになると」で伝えているかを読み取らせる。
口頭 人物と話題のカードに、態度の語のカード(話が止まらない・人が変わる・急に真剣になる・厳しくなる)を組み合わせて言わせる。キューは「父/車」→「父は車のことになると、話が止まらない」、「先輩/ゲーム」→「先輩はゲームのことになると、急に真剣になる」、「母/健康」→「母は健康のことになると、厳しくなる」、「わたし/ラーメン」→ 自分のことで言う。
ペア 「この人、だれ?クイズ」。A は架空の人物カード(職業・趣味・こだわりが書いてある)を持ち、B に「この人は〜のことになると、〜」というヒントを3つ出す。B は人物の職業や趣味を当てる。当たったら交替する。
産出 「わたしの止まらない話題」スピーチ。自分が夢中になる話題を一つ選び、「わたしは〜のことになると、〜」で始めて30秒話し、聞き手が一つ質問する。教師が見るのは、動詞を名詞にしてつないでいるか、後ろが態度の変化になっているか、いつもの傾向として言えているか。
つまずきと手当て
「*勉強するのことになると」と、動詞に「の」をつける。名詞にして「勉強のことになると」と言う、と板書で直す
「きのう、サッカーのことになると、ずっと話していた」のように一回の出来事に使い、不自然になる。その人のいつもの傾向を言う形だと、「いつも」「必ず」を補って確かめる
「〜といえば」と混ぜて、「サッカーのことになると、ブラジルです」と連想を言う。後ろは人の態度の変化だと、2つの形を並べて確かめる
既習の文型との違い
〜といえば/〜というと(第6課) 「夏といえば花火だ」は、話題から思い浮かぶもの を言う形で、人の態度は表しません。「のことになると」は、その話題が出たときの人の態度の変化 を言います。「サッカーのことになると、ブラジルです」のような文が出たら、後ろに人の様子が来ているかを確かめます。
〜にかけては(第16課) 第16課の「〜にかけては」は「料理にかけてはだれにも負けない」のように、その分野での能力の高さ を評価する形です。「のことになると」は能力ではなく、夢中になる・人が変わるといった態度を言います。
関連する文型
学習項目 3 〜にしたら/〜にすれば/〜にしてみたら/〜にしてみれば
意味・はたらき
その人の立場に立って考えると 、という意味で、自分とは違う人の気持ちや考えを想像して言うときに使います。「先生にしてみれば、毎日質問に来る学生は頼もしいだろう」のように、後ろには「〜だろう」「〜と思う」「〜かもしれない」など、想像や推測の言い方が多く来ます。「〜にしてみたら/〜にしてみれば」は「その人の身になってみると」という気持ちがより強く出ます。似た形の「〜にとって」は「学生にとって大切だ」のように評価を言うのに対し、こちらはその人の気持ちや言い分 を思いやる点が違います。人や組織について使い、物には使いません。
接続 N(人・組織)+にしたら/にすれば/にしてみたら/にしてみれば
形
親にしたら、心配なのは当然だ 店にすれば、困ったお客さんだろう 先生にしてみれば、うれしかったと思う ルームメイトにしてみたら、悪気はなかったのかもしれない
導入
同じ出来事を二人の立場から見る 「留学生が夜遅くまで帰らなかった」の絵の左右に、留学生本人と心配して待つホストファミリーの顔の絵を置く。本人の立場では「友達と話していて楽しかった」、ホストファミリーの立場では「ホストファミリーにしたら、とても心配だっただろう」と言ってみせる。板書は「[人]にしたら、[その人の気持ち]だろう」とし、「〜にとって+評価」と並べて違いを示す。
板書案
[人]〔赤〕にしたら/にすれば/にしてみれば、[その人の気持ち]〔青〕だろう
ホストファミリーにしてみれば、とても心配だっただろう。
〔赤〕にとって+評価(大切だ・難しい) にしたら+気持ち・言い分
人・組織だけ(×このパソコンにしたら)
場面と発話(自作)
ルームメイトとけんかした友達に、相手の気持ちも考えるよう言う。 ルームメイトにしてみれば、悪気はなかったのかもしれないよ。
急にアルバイトを休んだことを反省し、友達に話す。 店長にすれば、急に休まれて困っただろうな。
日本人の友達が、留学生の家族の気持ちを想像する。 ご家族にしたら、遠くにいる子どものことが心配だよね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、出来事のカードと立場のカード(親・店長・先生・隣の人・ルームメイト)を組み合わせて、「〜にしたら、〜だろう」とその人の気持ちを想像させる。次に同じ出来事を自分の立場と相手の立場の両方から言わせ、最後に ST4 のメールのように、相手の立場に触れながら友達を励ます一文を書かせる。
口頭 出来事と立場のカード、文末のカード(だろう・と思う・かもしれない)の3枚を組み合わせて言わせる。キューは「夜遅く帰った+ホストファミリー」→「ホストファミリーにしたら、心配だっただろう」、「急に休んだ+店長」→「店長にすれば、困っただろう」、「毎日質問に来る学生+先生」→「先生にしてみれば、うれしいと思う」、「夜中の音楽+隣の人」→「隣の人にしたら、迷惑かもしれない」。
ペア 「立場を入れ替えて」。出来事カード1枚について、A は本人の立場から理由を言い(「友達と話していて楽しかったんだ」)、B は相手の立場から「でも、〜にしてみれば〜だろう」と返す。同じカードで役を入れ替えてもう一度行う。
産出 「相手の身になる励まし」。けんかや失敗で落ち込んでいる友達に、相手の立場を想像する一文(「〜にしてみれば、〜かもしれないよ」)を入れた励ましのメッセージを書く。教師が見るのは、他人の気持ちを断定していないか、「〜にとって」との混同、人以外に使っていないか。
つまずきと手当て
「*このパソコンにしたら、古すぎる」と、物について使う。人や組織の立場で気持ちを想像する形だと、絵の顔を指して確かめる
「学生にしたら、日本語は大切だ」のように評価だけを言い、「〜にとって」と区別がつかない。評価なら「〜にとって」、その人の気持ちや言い分を想像するなら「〜にしたら〜だろう」と、文末とセットで練習する
後ろを言い切りにして「先生にしてみれば、うれしかった」と、他人の気持ちを断定する。他人の気持ちには「〜だろう」「〜と思う」をつける、と文末を確かめる
既習の文型との違い
〜にとって(第3課) 「留学生にとって、住む場所は大切だ」は、その人から見た評価 (大切だ・難しい・便利だ)を言う形です。「〜にしたら」は、その人の気持ちや言い分 を想像する形で、文末が「だろう」「と思う」になることが多い、と文末とセットで比べます。
〜からすると/〜からすれば/〜から見ると/〜から見れば(第11課) 第11課の形は、ある立場や観点から判断する 言い方で、「データからすると」のように人以外の観点にも使えます。「にしたら」は人の身になって気持ちを思いやる形なので、データや物には使いません。
関連する文型
この場面のことば・表現
友達を励ますときの表現 励ましは、相手の気持ちをまず受け止める言葉 → 相手のよいところ → これからへの一言 の順にすると押しつけになりにくい、と組み立てで教えます。「頑張って」だけを重ねると、すでに頑張っている人を追い詰めることもあるので、言い換えの表現を並べて選ばせます。例:「残念だったね」「気にしないで」「〇〇さんなら大丈夫だよ」「無理しないでね」「いつでも話を聞くよ」「応援してるからね」
5 伝えてみよう
できること 気持ちの伝え方について、自分の経験をもとに理由を挙げて考えを述べられる。
場面 クラスで「気持ちは言葉にしなければ伝わらないか」「感謝はメッセージより直接会って言うべきか」といったテーマを一つ選び、一人1分ほど意見を話す場面です。話す前にメモの枠(考え → 理由 → 経験 → まとめ)を配り、経験の部分に「〜たびに」、後悔の部分に「〜ば、〜のに」を入れて組み立てさせます。聞き手は話のあとに理由について一つ質問します。
留学生:わたしは、気持ちはきちんと言葉にしたほうがいいと思います。
留学生:なぜなら、言わなくても伝わるだろうと思っていても、相手は意外とわかっていないことが多いからです。
留学生:わたしは国の母と電話で話すたびに、最後に「ありがとう」と言うようにしています。
留学生:というのは、日本に来る前に一度もお礼を言わなかったことを後悔しているからです。
留学生:あのとき素直に言っていれば、母も安心したのに、と今でも思います。
留学生:ですから、恥ずかしくても、短い言葉で伝えることが大切だと考えています。
学習項目 1 〜たびに
意味・はたらき
あることをするといつも必ず、同じことが起こる・同じ気持ちになる ことを表します。「母と話すたびに、元気が出る」のように、くり返す出来事とそのつど起こる結果や気持ちを結びます。「〜とき」は一回のことにも使えるのに対し、「たびに」は何度もくり返すことの一回一回 を強調します。「〜と、〜」の習慣の言い方とも近いですが、「たびに」のほうが、毎回そうなるという話し手の実感が強く出ます。ST5 では、意見の根拠となる自分の経験を話すのに使います。
接続 V辞書形+たびに/N+の+たびに
形
母と電話で話すたびに、元気が出る この歌を聞くたびに、国を思い出す 帰国のたびに、家族にお土産を買う
導入
くり返す出来事を数える 教師が「この店の前を通る → いつもパンを買ってしまう」の絵を3回くり返し貼り、「この店の前を通るたびに、パンを買ってしまいます」と言う。学習者にも「〜するたびに、いつも〜」という自分の習慣を聞いて書き出させる。板書は「V辞書形/Nの+たびに、[毎回起こること・気持ち]」とし、「とき」は一回でも使えるが「たびに」は毎回、と注を添える。
板書案
V辞書形/Nの+〔赤〕たびに、[毎回起こること・気持ち]
この歌を聞くたびに、国を思い出します。
帰国のたびに、家族にお土産を買います。
〔青〕とき=一回でもよい たびに=くり返すことの毎回
〔赤〕×会ったたびに → 会うたびに
場面と発話(自作)
日本人の友達に、国の家族への気持ちを話す。 家族の写真を見るたびに、早く会いたくなります。
意見の発表で、手紙を書く大切さの根拠として自分の経験を話す。 祖母から手紙が届くたびに、何度も読み返しています。
アルバイトの同僚に、客から「ありがとう」と言われたときの気持ちを話す。 お客さんに「ありがとう」って言われるたびに、この仕事を続けてよかったと思います。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、くり返す出来事のカード(この歌を聞く・雨が降る・引っ越し・試験)と、気持ちや結果のカードを組み合わせて「〜たびに、〜」を言わせ、Nのときの「の」を確かめる。次に ST5 の意見のメモの「経験」の欄に、自分の「〜たびに」の文を一つ入れさせる。
口頭 くり返す出来事と、毎回の結果・気持ちのカードを組み合わせる。キューは「この歌を聞く+国を思い出す」→「この歌を聞くたびに、国を思い出します」、「引っ越し+荷物が増える」→「引っ越しのたびに、荷物が増えます」、「試験+緊張する」→「試験のたびに、緊張します」、「雨が降る+電車が遅れる」→「雨が降るたびに、電車が遅れます」。「きのう」と書いた一回だけのカードを混ぜ、「たびに」が使えないことに気づかせる。
ペア A が質問カード(家族と電話する・日本の祭りを見る・試験の結果が出る)で「〜たびに、どんな気持ちになりますか」と聞き、B が自分の経験で答える。A は「それはいつからですか」ともう一つ聞く。交替する。
産出 「経験メモ」。ST5 の意見メモ(考え → 理由 → 経験 → まとめ)の「経験」の欄に「〜たびに」の文を入れ、ペアに読んで聞かせる。教師が見るのは辞書形・Nの、くり返しの出来事になっているか、後ろの文が意見の根拠として働いているか。
つまずきと手当て
「*会ったたびに」と、タ形につける。「たびに」の前は辞書形(会うたびに)と、板書で固定する
「きのう国に帰るたびに、家族に会った」のように、一回だけの出来事に使って不自然になる。くり返すことにしか使えないので、「いつも」「毎回」が補えるかを確かめさせる
名詞に「の」を落として「*帰国たびに」とする。名詞は「帰国のたびに」と、動詞と名詞を2行で並べる
既習の文型との違い
〜とき、Vます(初級第11課) 「国に帰るとき、お土産を買います」は一回の予定にも習慣にも使えます。「帰国のたびに」は何度もある出来事の毎回 を強調し、話し手の実感がこもります。一回だけの出来事には使えないので、「きのう」「来週」とは一緒に使わないことを確かめます。
Vると、〜(初級第14課) 「春になると、桜が咲く」のような「と」は、自然の決まりや習慣を中立に述べます。「たびに」は自分の経験として毎回そう感じていることを言う形で、意見の根拠を話す場面に合います。
〜につけ(て)(第7課) 第7課の「〜につけ」は「写真を見るにつけ、故郷を思い出す」のように、ある出来事に触れると自然に気持ちが起こる ことを言う、硬い書き言葉の形です。会話では「たびに」が自然です。
関連する文型
学習項目 2 〜ば/〜なら(ば)/〜たら、〜(のに/けど/が/…)
意味・はたらき
実際とは反対のことを仮定して、残念な気持ちや後悔、不満 を表す言い方です(反実仮想)。「もっと早く言ってくれれば、手伝ったのに」は、実際には言ってくれなかったので手伝えなかった、という意味になります。文末の「のに」は後悔や相手への不満、「けど」「が」はやわらかい残念な気持ちを表し、「〜ばよかった」もよく使われます。ふつうの条件文(「雨が降れば、中止します」)とは違い、前の部分は実際には起こらなかったこと だと、文末の「〜た+のに/けど」で聞き手にわかります。ST5 では、意見の根拠として自分の後悔の経験を話すときに使います。
接続 V・イA の条件形(〜ば)/ナA・N+なら(ば)/V・イA・ナA・N のタ形+ら、+文末(〜たのに・〜たんだけど・〜たが・〜ばよかった)
形
早く言ってくれれば、手伝ったのに あのとき素直に謝っていたら、けんかにならなかったんだけど もう少し安ければ、買ったのに 学生なら、割引があったのに
導入
実際と、そうだったらよかったことを並べる 教師が「友達が引っ越しを一人でした(言ってくれなかった)」の絵を見せ、「実際:言わなかった → 手伝えなかった」と板書する。その下に「もし言ってくれたら → 手伝えた」の矢印を書き、二つをつないで「言ってくれれば、手伝ったのに」と残念そうに言ってみせる。板書は「[実際と反対のこと]ば/なら/たら、[起こったはずのこと]た+のに/けど」とする。
板書案
[実際と反対のこと]〔赤〕ば/なら/たら、[起こったはずのこと]〔赤〕た+のに/けど
実際:言わなかった → 手伝えなかった
言ってくれれば、手伝ったのに。
学生なら、割引があったのに。
〔青〕自分の後悔 → 〜ばよかった
場面と発話(自作)
友達が一人で困っていたことをあとで知り、残念に思って言う。 言ってくれたら、相談に乗ったのに。
意見の発表で、気持ちを伝えなかった後悔の経験を話す。 あのとき「ありがとう」と言えば、祖父も喜んだのにと、今でも思います。
セールが終わった次の日に店に行き、友達にこぼす。 きのう来ていれば、半額だったんだけどなあ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「実際に起こったこと」のカード(遅刻した・言わなかった・雨が降った・高かった)を見せ、反対のことを仮定して「〜ば/〜たら、〜たのに」を言わせる。ナAとNは「なら」を使う練習を加える。最後に ST5 の意見のメモの「経験」の欄で、後悔したことを一文入れて発表させる。
口頭 「実際に起こったこと」のカードを見せ、反対のことを仮定して言わせる。キューは「遅刻した」→「もう少し早く出れば、間に合ったのに」、「言ってくれなかった」→「言ってくれたら、手伝ったのに」、「高かった」→「もう少し安ければ、買ったのに」、「学生じゃない」→「学生なら、割引があったのに」。文末のカード(のに・けど・ばよかった)を替えて言い分けさせる。
ペア A が残念だった出来事のカード(セールが終わっていた・終電に乗れなかった・チケットが売り切れた)を言い、B が「〜ば、〜たのにね」と共感して返す。A は自分の後悔として「〜ばよかった」で言い直す。交替する。
産出 「後悔から考える1分スピーチ」。ST5 のテーマで、自分の後悔の経験を「あのとき〜ば、〜のに」で入れ、「だから今は〜ようにしています」と意見につなげて1分で話す。教師が見るのは、ナA・N の「なら」、文末の「た」、相手を責める響きになっていないか、意見のまとめにつながっているか。
つまずきと手当て
「*学生ば」「*好きければ」と、名詞やナ形容詞に「ば」をつける。ナA・N は「なら(ば)」、動詞・イ形容詞は条件形、と品詞別の表で確かめる
実際とは反対の仮定なのに文末を「〜ます」のまま言い、ふつうの条件に聞こえる(「早く起きれば、間に合います」)。過去の後悔を言うときは「〜たのに」「〜たんだけど」まで言う、と文末を固定する
「のに」を相手のいる前で使い、責めているように聞こえる(「言ってくれれば手伝ったのに」)。誤りではないが、言い方しだいで不満に聞こえるので、自分の後悔なら「〜ばよかった」も使えると並べて示す
既習の文型との違い
〜たら(仮定条件)(初級第15課) 初級の「雨が降ったら、中止します」はこれから起こるかもしれないこと の仮定です。この課の形は実際には起こらなかった過去 を仮定し、文末が「〜たのに/〜たんだけど」になります。文末が「〜ます」のままだとふつうの条件に聞こえるので、二つを並べて文末に色をつけます。
〜のに、〜(初中級第10課) 初中級の「のに」は文と文をつなぐ逆接(勉強したのに、落ちた)でした。この課の文末の「のに」は、後ろを言わずに残念な気持ちだけを残す 使い方です。言い方によっては相手を責めるので、自分の後悔なら「〜ばよかった」と比べます。
条件形(初中級第9課) 「〜ば」の作り方は初中級で学んでいます。この課ではナA・N は「なら(ば)」になることを確かめ、「*好きければ」「*学生ば」を品詞別の表で直します。
関連する文型
この場面のことば・表現
自分の考えを理由と一緒に言うときに使う表現 意見を話すときは、考えを先に一文で言い、理由と経験をあとから足す 型を板書で固定します。理由の表現は「から」で終える文末とセットで練習し、「なぜなら」で始めたのに文末が「からです」で終わらないずれを確かめます。例:「わたしは〜と思います」「なぜなら、〜からです」「というのは、〜からです」「たとえば、〜」「このような経験から、〜」「ですから、〜と考えています」
語彙の扱い
この課の語は、気持ちを表す語(うれしい・悔しい・腹が立つ・落ち込む・ほっとする)、気持ちを伝える行為(お礼を言う・謝る・励ます・愚痴を言う・頼む)、人間関係の場面の語(シフト・当番・ルームメイト・先輩・大家さん)の3つのかたまりに分かれます。気持ちを表す語は、ST3 の誘発の使役(〜を怒らせる・がっかりさせる)や ST2 の「おかげで」の練習の中で、だれの気持ちかを確かめながら使わせます。挨拶表現や励ましの言い方は、意味より相手と場面で覚えさせるため、各 ST の「この場面のことば・表現」で扱います。
この課の練習で使う語(12語・意味・連語・例文)
都合 (つごう) 予定や事情から見て、何かをするのによいか悪いかということです。 〜がいい/悪い・〜で休む・〜をつける 店長に、来週の金曜日に入れるか聞かれる。すみません、金曜日はちょっと都合が悪いんです。
事情 (じじょう) ある出来事がそうなった理由や、そのときの様子です。 〜を説明する・家の〜・〜があって 授業を休むことを、前もって先生に伝える。家の事情で、来週の授業を休ませていただけませんか。
許可 (きょか) してもいいと認めることです。 〜をもらう・〜を求める・〜が出る 教室で動画を撮りたいと、友達に相談する。撮るなら、先に先生の許可をもらったほうがいいよ。
代わり (かわり) 本来の人や物の役目を、ほかの人や物がすることです。 〜の人・〜を探す・その〜に アルバイトを休みたいと言ったら、店長に代わりの人を聞かれた。代わりに入れる人を探してみます。
感謝 (かんしゃ) してもらったことを、ありがたいと思う気持ちです。 〜の気持ち・〜を伝える・心から〜する 卒業式のあと、お世話になった先生にあいさつする。先生には本当に感謝しています。
愚痴 (ぐち) どうにもならない不満を、ほかの人に言うことです。 〜を言う・〜をこぼす・〜を聞く 疲れた顔の友達が話しかけてくる。ちょっと愚痴を聞いてくれる?
腹が立つ (はらがたつ) 人のしたことなどに、怒りの気持ちが起こります。 本当に〜・〜ことがある ルームメイトが約束を守らなかったことを友達に話す。何度言ってもごみを出さないから、腹が立つんだよ。
落ち込む (おちこむ) よくないことがあって、元気がなくなります。 試験に落ちて〜・すっかり〜・〜ことはない 試験の結果が出たあと、友達に気持ちを話す。思ったより点が悪くて、ちょっと落ち込んでる。
励ます (はげます) 元気がない人に言葉をかけて、元気を出させます。 友達を〜・〜メッセージ・〜言葉 落ち込んでいる後輩のことを、先輩に話す。きのう、後輩を励ますメッセージを送りました。
責める (せめる) 失敗や悪いことを、その人のせいだと強く言います。 自分を〜・人を〜・〜ような言い方 発表で失敗した友達が、ずっと謝っている。そんなに自分を責めることはないよ。
後悔 (こうかい) したこと、しなかったことを、あとで残念に思うことです。 〜する・〜が残る・〜しないように 留学する前のことを、日本人の友達に話す。もっと家族と話しておけばよかったと、後悔しています。
素直 (すなお) 気持ちを隠したり飾ったりしないで、そのまま表す様子です。 〜に謝る・〜な気持ち・〜に言う けんかした友達と仲直りしたいと、別の友達に話す。今日こそ素直に謝ろうと思う。
宿題と次のコマ 宿題は、最近だれかに伝えたかったのに伝えられなかった気持ちを一つ選び、その人へのメッセージ(お礼・おわび・励ましのどれか)を200字ほどで書いてくること。「〜おかげで」「〜ことはない」「〜ば、〜のに」のどれかを一つ入れさせます。次のコマの最初に何人かに読んでもらい、聞いた人に「〜さんにしてみれば、うれしいと思う」と相手の立場からの感想を言わせてから、第9課の1「見つけた!」に入ります(この課で気持ちを伝える言葉に注目したことが、第9課で言葉そのものの豊かさを味わう活動につながります)。
よくある質問
『できる日本語 中級』第8課は何コマで終わりますか?
学習項目が14と多いので、90分×4コマを目安にしています。1と3は文型が4つずつ入るのでそれぞれ1コマ近く使い、2と5は読む・話す活動が中心なので短めにします。時間が足りないときは「〜のことになると」「〜たびに」のように意味のつかみやすい項目を導入 だけにして、練習を宿題に回します。
「おかげで」と「せいで」の違いはどう教えればいいですか?
同じ原因の絵を一枚置き、立場の違う二人の結果(傘が売れた店の人/遠足が中止になった子ども)を左右に並べて言い分けると、結果がよいか悪いかで形が決まることが見えます。接続はどちらも「Nの・ナAな」なので、表を一つにまとめます。悪い結果に「おかげで」を使うと皮肉に聞こえることも、この絵の続きで見せます。
「〜させていただけませんか」と「〜ていただけませんか」を学習者が混ぜます。どうすればいいですか?
違いは動作をする人 です。文ごとに動作をする人の絵に矢印を引かせ、相手がするなら「〜ていただけませんか」、自分がするなら使役を通して「〜させていただけませんか」と選ばせます。先に使役形を作る練習を短く入れておくと、「*休まさせて」のようなさ入れも減ります。
「くせに」「にきまっている」のような強い表現は、使えるところまで練習させるべきですか?
聞いて話し手の気持ちがわかることを第一の目標にし、使う練習は親しい人との愚痴の場面に限ります。目上の人や仕事の場で使うと強い非難や決めつけになるので、相手のカードを使って「使える相手・使えない相手」を必ず確かめます。クラスメートや先生を愚痴の話題にしない、という約束も先に決めておきます。
誘発の使役(〜を怒らせる)は、どこでつまずきますか?
初中級の使役(〜に〜させる)と助詞が違うことと、受身との向きの取り違えです。気持ちの動詞(怒る・心配する・驚く・がっかりする)に限って使うこと、気持ちが動く人は「を」で表すことを板書の枠で固定し、「先生に怒られた/先生を怒らせた」の2文を矢印で並べて確かめます。
この課に関係する用語・解説・練習問題 この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。