できる日本語 中級 第10課「日本を旅する」の教案
『できる日本語 中級 本冊 第2版』 ・ できること5つ(見つけた!・耳でキャッチ・こんなときどうする?・耳でキャッチ・伝えてみよう)
旅行の前・旅先・旅のあとの三つの段階で日本語を使う課です。1でツアーのパンフレットを読み比べて自分に合うものを選び、2と4で観光ガイドの説明と車内放送という改まった話し言葉を聞き取り、3で忘れ物を電話で問い合わせ、5で心に残った旅を人に紹介します。2と4に出る「〜(さ)せていただきます」「ご・お〜いたします」「〜ております」「〜かねます」は、学習者が自分で言う機会より耳にする機会のほうがずっと多いので、まず聞いてだれが何をするのかがわかることを優先し、話す練習は案内する側の役を短く演じる程度にとどめます。初中級で習った尊敬語・謙譲語を、旅先で出会う形として広げる課でもあります。
このページについて教科書の会話・例文・練習の文は載せていません。例文と場面、やり取りの例はすべて自作です。課・ST の題と学習項目の表記は出版社のシラバス一覧(第2版)に合わせています。
学習項目12時間90分×3コマ場面5
この課のねらい(Can-do)
- ツアーのパンフレットを読み比べて、見どころや料金に含まれるものをつかみ、自分の興味に合うツアーを選べる
- 観光ガイドの説明を聞いて、見どころと気をつけることを聞き取れる
- 物を置いた場所や時間を思い出しながら、電話で忘れ物について問い合わせられる
- 電車の車内放送を聞いて、遅れ・乗り換え・車内での注意などの情報を聞き取れる
- 心に残った旅行について、驚いたことやよかったことを交えて周りの人に紹介できる
進め方と時間配分
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 導入 | 10分 | 最近行った場所・行ってみたい場所を聞き合い、旅行のどの段階で日本語が要るか(調べる・現地で聞く・困ったとき・あとで話す)を板書で整理する。初中級の謙譲語(おVします/ごNします)を短く思い出させておく |
| 1 見つけた! | 50分 | 自作のツアーパンフレット2種を読み比べ、「〜といったら」「とても〜ない」「〜はもちろん/〜はもとより」を見つけて意味を確かめ、どちらのツアーを選ぶかを理由つきで話す |
| 2 耳でキャッチ | 45分 | 観光ガイドの説明(教師の読み上げか自作の録音)を聞いて、見どころ・集合の時間と場所・注意をメモする。「〜(さ)せていただきます」「ご・お〜いたします」は、だれが何をするのかが聞いてわかることを先に |
| 3 こんなときどうする? | 50分 | 忘れ物の電話のロールプレイ。置いた場所・時間・物の特徴を、自分ではそうしたと思っていることは「〜たつもりだ」で、はっきりしない記憶は「〜ように思う」で伝える |
| 4 耳でキャッチ | 45分 | 車内放送(停車駅・遅れ・乗り換え・車内のお願い)を路線図を見ながら聞いて情報を書き込む。「〜ております」「〜かねます」を、どちらの側が言う形かとあわせて確かめる |
| 5 伝えてみよう | 50分 | 心に残った旅行を写真を見せながら2分ほどで紹介する。「〜ことに(は)」「〜だけあって/〜だけのことはある」「〜ついでに」で、気持ち・評価・ついでの出来事を入れ、聞き手は質問を一つずつする |
| 課のまとめ | 20分 | グループで架空の旅行を一続きで演じる:パンフレットでツアーを選ぶ→ガイドの説明と車内放送を聞く→忘れ物の電話をかける→帰ってきてクラスに紹介する |
1 見つけた!
できること旅行会社のツアーのパンフレットを読み比べて、自分の興味に合うツアーを選べる。
場面
旅行を計画している留学生が、旅行会社の店頭や駅で手に入れたパンフレットを見比べる場面です。教室では、架空の温泉町と港町の日帰りツアーを紹介するA4一枚のパンフレットを2種類自作し、行き先の特色・料金に含まれるもの・行程を読み取らせてから、「自分ならどちらにするか」を理由つきで言わせます。
- パンフレット:みどり温泉といったら、川沿いに並ぶ古い木造の旅館。
- パンフレット:夜には川面にちょうちんの明かりが映り、写真ではとても伝えられない美しさです。
- パンフレット:名物の温泉まんじゅうはもちろん、地元の野菜を使った昼食もお楽しみいただけます。
- パンフレット:歴史好きの方はもとより、初めて訪れる方にも分かりやすいガイド付き。
- パンフレット:料金には往復のバス代・昼食・入浴券が含まれます。
- パンフレット:※見どころが多いため、一日ではとても全部は回れません。気になる場所を二、三か所お選びください。
学習項目 1 〜といったら
意味・はたらき
「Nといったら」は、ある話題を出して、それと聞いてまず思い浮かぶ代表的なもの・いちばんの特色を続けて言う形です。パンフレットでは「この町といったら〇〇」のように、行き先の看板になるものを示すのによく使われます。似た「〜といえば/〜というと」とほぼ同じ場面で使えますが、「〜といったら」は話し言葉的で、気持ちのこもった言い方になりやすい傾向があります。もう一つ、「Nの美しさといったら(ない)」のように、程度がとても大きいことを驚きをこめて言う使い方もあり、こちらは紹介文や語りの中で見かけます。
接続
N+といったら(程度を強める使い方は、Nの+イA・ナAの語幹+さ+といったら)
形
北海道といったら、海産物ですこの町の名物といったら、やっぱりそばだ山頂からの景色の美しさといったら、言葉にできないほどだった
導入
- 地名を言って、思い浮かぶものを出させる教師が地名のカード(学習者の出身地も混ぜる)を1枚ずつ出し、「〇〇と聞いて何を思い出しますか」と聞く。出てきた答えを使って「〇〇といったら、△△です」と言い直し、板書は「[場所・もの]といったら、[代表・特色]」の枠にする。程度を強める使い方は、ST1 のパンフレットに出たときに「とても〜だ、と言いたいときの形」とだけ添える。
板書案
[話題]といったら、[いちばんの代表・特色]
この町といったら、やっぱり朝市です。
〔赤〕といったら 〔青〕右側は「代表・特色」に固定
[N]の[イA・ナAの語幹]さといったら、ない
〔緑〕程度の強調は下の段に分けて小さく
場面と発話(自作)
- 旅行会社のパンフレットで、港町の紹介の見出しを読む。港町・青浜といったら、朝とれたばかりの魚が並ぶ朝市。
- 日本人の友達に、自分の国の観光地を勧める。わたしの国で海といったら、やっぱり南の島ですね。
- 旅行から帰って、山の上で見た星の話をする。あの夜の星の多さといったら、なかったよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が地名や季節のカード(京都・沖縄・冬の北海道など)を出し、学習者が「〜といったら、〜です」と代表的なものを言う。続いて、学習者が自分の町を紹介するパンフレットの見出しを一行書き、ペアで読み合って、相手の町について質問させる。
- 口頭地名・季節・食べ物のカードを出し、全体→個人で「〜といったら、〜です」と言わせる。キューの例: 「京都」→「京都といったら、お寺です」、「冬の北海道」→「冬の北海道といったら、雪まつりです」、「学習者の出身地」→その学習者が答え、ほかの学習者が「本当?」と返す。答えが事実(駅から近い など)になったら、右側の「代表・特色」を指して言い直させる。
- ペアA は自分の町のカード(名物・景色・季節の行事を3つ書く)、B は何も持たない。B が「〜といったら、何ですか」と聞き、A が答えて理由を一つ添える。B は聞いたことをメモし、交替後にメモを見て相手の町を一文で紹介する。
- 産出「ひとことパンフレット」: 自分の町や国の観光地を、「〜といったら、〜」の見出し1行と説明2行で紙1枚にまとめ、壁に貼って読み歩きする。読んだ人は行きたい町に付箋で質問を一つ残す。教師は見出しの右側が代表・特色になっているか、前が名詞になっているかを見る。
つまずきと手当て
- 代表や特色ではなく、ただの事実を続けて「この町といったら、駅から10分です」のように言う。誤りではないが、この形は「いちばんの特色・代表」を出すときに使う、と枠の右側を「代表・特色」に固定して見せる
- 「*有名なといったら」のように、形容詞をそのまま前に置く。前には名詞が来る(「有名なものといったら」)と確かめる
- 程度を強める「〜の美しさといったら」を、話題を出す使い方と混同して、後ろに代表を続けようとする。「〜さといったら」の後ろには「ない」「言葉にできない」など程度の大きさが来る、と例を2つ並べて比べる
既習の文型との違い
- 〜といえば/〜というと(中級第6課)どれも話題を出して連想するものを続ける形で、多くの場面で言い換えられます。「〜といったら」は話し言葉的で気持ちがこもりやすく、「〜の美しさといったら(ない)」のように程度を強める使い方は「〜といえば」にはありません。学習者が「景色の美しさといえば、なかった」と混ぜたら、程度の強調は「といったら」だけ、と板書の下の段で確かめます。
関連する文型
学習項目 2 とても〜ない
意味・はたらき
初級の「とても」は「とても広い」のように程度が高いことを表しましたが、「とても〜ない」は後ろに可能の否定(〜られない・〜できない)や「〜とは思えない」が来て、「どうがんばっても無理だ」と強く否定する言い方です。パンフレットでは「一日ではとても回れない」「写真ではとても伝えられない」のように、見どころの多さや美しさをかえって強調するのに使われます。「あまり〜ない」(程度が低い)や「全然〜ない」(まったく〜ない)とは違い、できない・ありえないという不可能の気持ちが中心です。より硬い書き言葉では「とうてい〜ない」とも言います。
接続
とても+可能の否定(行けない・食べられない・できない)/とても+〜とは思えない
形
一日ではとても全部は回れないこんなにたくさん、とても食べられませんこの値段で温泉付きとは、とても思えない
導入
- 無理な計画を見せる教師が「一日で京都のお寺を30か所回る」という無茶な予定表を見せ、「できますか」と聞いて「無理です」を引き出す。そこで「一日ではとても回れません」と言い直し、板書で初級の「とても+イA(とても広い)」と「とても+可能の否定(とても回れない)」を上下に並べる。
板書案
とても + 可能の否定
一日では とても 回れません。
〔青〕初級:とても+イA(とても広い)
〔赤〕中級:とても+〜れない/〜とは思えない
〔赤〕文末の否定に丸
場面と発話(自作)
- ツアーのパンフレットの注意書きを読む。見どころが多く、半日ではとても全部は見られません。
- 旅館の夕食が出てきて、量の多さに驚く。おいしそうだけど、こんなにたくさん、とても食べられないよ。
- 格安ツアーの料金を見て、友達と話す。二泊でこの値段?とても本当とは思えないね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が「一日で日本一周」「10キロの荷物を持って山に登る」などの状況カードを出し、学習者が「〜ではとても〜られません」と言う。そのあと、ST1 のパンフレットの見どころの多さを人に伝える文を「とても〜ない」で一つ作らせる。
- 口頭無理な状況のカードを出し、全体→個人で「〜ではとても〜ません」と言わせる。キューの例: 「一日で日本一周」→「一日ではとても回れません」、「ケーキを10個」→「とても食べられません」、「三日で漢字500」→「とても覚えられません」。可能形が崩れた学習者には、先に可能形だけを言わせてから「とても」を前に付ける。
- ペアA は旅行の計画カード(日程と行き先が詰めこみすぎのもの)を読み上げ、B は「それはとても〜ないよ」と返し、代わりの案を一つ出す。A は案を受けるか断るかを言って交替する。計画カードはペアで別々のものを持たせ、B は内容を知らない状態で聞く。
- 産出「無茶な旅プラン相談会」: 各自が自分で無理のある旅行の計画を書いて発表し、聞き手が「とても〜ない」で問題点を言い、計画を直す案を出す。教師は「とても」のあとが可能の否定か「〜とは思えない」になっているか、程度を弱めたいだけの文(あまり〜ない)に使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- 「とても行かない」のように可能でない否定と組み合わせ、言いたい「無理だ」が伝わりにくくなる。後ろは可能の否定(とても行けない)に、と板書の枠で示す
- 「それほど〜ない」と程度を弱めたいときに「とても〜ない」を使う。程度を弱めるのは「あまり高くない」、不可能を強めるのは「とても買えない」、と並べて比べる
- 読むときに「とても」を見て肯定の強調だと思い、文末の否定を見落とす。パンフレットの文を読ませるときは、「とても」に印を付けてから文末まで目で追わせる
既習の文型との違い
- とても・少し/あまり〜ない(初級第4課)初級の「とても」は肯定の文で程度が高いことを言い、否定の文では「あまり〜ない」で程度が低いことを言いました。この課の「とても〜ない」は、否定と組んで「どうしてもできない」という不可能を言います。「このホテルはとても高くない」と程度の否定のつもりで言ったら、程度なら「あまり高くない」、不可能なら「とても払えない」と二つの文を並べます。
- 可能動詞(初中級第1課)「とても〜ない」の後ろには、初中級で習った可能動詞の否定がそのまま入ります。可能形の作り方があやふやだと「*とても行けれない」のように崩れるので、先に可能形の否定だけを口頭で回してから組み合わせます。
関連する文型
学習項目 3 〜はもちろん/〜はもとより
意味・はたらき
「N1はもちろん、N2も」は、N1は言うまでもなく当然で、それに加えてN2もそうだ、と範囲を広げて言う形です。N1にはだれでも思いつく当たり前のもの、N2には意外なもの・範囲の広いものを置きます。「〜はもとより」は意味はほぼ同じですが、より硬い書き言葉で、パンフレットや案内文・あいさつ文に向きます。「〜だけでなく〜も」が二つを対等に並べるのに対し、この形には「N1は当然」という気持ちが入るのが違いです。
接続
N1+はもちろん/はもとより、N2+も(まで・にも)
形
温泉はもちろん、料理もすばらしい子どもはもちろん、大人も楽しめる地元の方はもとより、海外からのお客様にも人気です
導入
- だれでも当然と思うものから広げる教師が遊園地の絵を見せて「子どもは楽しめますか」「大人は?」「お年寄りは?」と聞き、全部「はい」になるのを確かめる。「子どもはもちろん、大人も楽しめます」と言い、板書は「[当然のもの]はもちろん、[広げたもの]も」。続けて同じ文を「はもとより」に置き換えたパンフレット風の一文を見せ、書き言葉で硬いことを示す。
板書案
[当然のもの]はもちろん、[広げたもの]も
温泉はもちろん、料理も楽しめます。
〔青〕はもとより=書き言葉・案内文
〔赤〕後ろの「も・まで・にも」に丸
〔緑〕左が小さい円、右が大きい円(範囲が広がる図)
場面と発話(自作)
- ツアーのパンフレットで、料金に含まれるものを読む。往復の交通費はもちろん、昼食と入浴券も料金に含まれています。
- 観光案内所のポスターを読む。この祭りは、地元の人はもとより、遠くから来る観光客にも親しまれています。
- 日本人の友達に、自分の国の料理の店を勧める。あの店は料理はもちろん、店の雰囲気もいいんだよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が二つの語のカード(温泉/料理、子ども/大人、夏/冬)を出し、学習者が当然のほうを前に置いて「〜はもちろん、〜も」の文を作る。慣れたら、自分の町を紹介するパンフレットの一文を「〜はもとより」で書かせ、話し言葉の「はもちろん」の文と読み比べる。
- 口頭二つの語のカードを出し、どちらが当然かを学習者に選ばせてから文にする。キューの例: 「子ども/大人」→「子どもはもちろん、大人も楽しめます」、「日本語/英語」→「日本語はもちろん、英語も使えます」、「夏/冬」→「夏はもちろん、冬も人が多いです」。全体で言ったあと、個人に当てて後ろの「も」が落ちていないかを聞く。
- ペア二人に別々のツアーのパンフレット(自作・料金に含まれるものの欄つき)を渡す。A が「そのツアーは何が含まれていますか」と聞き、B が「〜はもちろん、〜も含まれています」と答える。A は聞いた内容を表に書き、交替後に二つのツアーを比べてどちらがお得かを話し合う。
- 産出「ツアー広告コピーづくり」: グループで架空のツアーを一つ考え、パンフレットの宣伝の一文を「〜はもとより」で書き、会話で勧める一文を「〜はもちろん」で言う。教師は前後の順(当然→意外)と、書き言葉と話し言葉で形を分けているかを見る。
つまずきと手当て
- 当然のものと意外なものを逆に置き、遊園地の話で「大人はもちろん、子どもも楽しめる」と言う。文の形は誤りではないが、聞き手は意外に思う。前には「だれでも当然と思うもの」が来る、と遊園地の絵で確かめる
- 後ろの「も」を落として「*温泉はもちろん、料理がすばらしい」と言う。後ろは「も・まで・にも」で受ける、と板書の枠で示す
- 友達との会話で「はもとより」を使い、硬すぎて聞こえる。会話では「はもちろん」、書いた案内では「はもとより」と使い分ける
既習の文型との違い
- 〜だけじゃなくて、〜も〜(初中級第15課)初中級の「〜だけじゃなくて、〜も」は二つを対等に並べて加える言い方です。この課の形は「前のほうは言うまでもない」という気持ちが入り、前に当然のもの、後ろに意外なもの・範囲の広いものを置きます。「料理だけじゃなくて温泉もいい」と「温泉はもちろん料理もいい」を並べ、後者では温泉が当たり前の前提になっていることを見せます。
関連する文型
この場面のことば・表現
- 観光地の特徴について説明するときに使われることば・表現パンフレットは名詞で終わる短い文や決まった言い回しが多いので、読む前に特色を表す語をまとめて見せ、どの語がどの見どころの説明かを線で結ばせます。「〜が楽しめる」「〜をお楽しみいただけます」のような読み手にすすめる形も、ここで合わせて扱います。例:「〜で知られる町」「昔ながらの町並み」「四季折々の景色」「〜が一望できる」「名物の〜」「〜をお楽しみいただけます」
2 耳でキャッチ
できること観光地でガイドの話から、見どころと気をつけることを聞き取れる。
場面
バスツアーの車内や観光地の入り口で、ガイドが参加者に見どころと注意を説明する場面です。教室では、教師がガイド役になって自作の説明(1分ほど)を読み上げるか録音しておき、学習者は「見どころ・集合の時間と場所・してはいけないこと」の三つの欄があるメモ用紙に書き取ります。
- ガイド:皆様、おはようございます。本日ガイドを務めさせていただきます、青空観光の森でございます。
- ガイド:これから、山の上のお寺までご案内いたします。
- ガイド:本堂の中は写真を撮ることができませんので、カメラはしまってお入りください。
- ガイド:お寺の見学のあとは、門前の通りで40分ほど自由時間とさせていただきます。
- ガイド:集合は11時半、こちらの駐車場でございます。
- ガイド:帰りのバスの時刻は、のちほど改めてお知らせいたします。
学習項目 1 〜(さ)せていただきます
意味・はたらき
使役の「(さ)せる」に「〜ていただく」がついた形で、「相手の許しを受けて、自分がそうする」という気持ちを表す、へりくだった言い方です。ガイドや司会、店の人が、これから自分がすることを客に知らせるときによく使います(「ご案内させていただきます」「休憩とさせていただきます」)。前に習った「〜(さ)せていただけませんか」は許可を求める形ですが、この形は許可を得たものとして知らせる形です。「ご・お〜いたします」よりも「相手の許しや恩恵を受けて」という意味合いが強く、使いすぎるとくどく聞こえることがあります。
接続
V使役形のテ形+いただきます(五段動詞:行かせて・待たせて/一段動詞:食べさせて/する→させて/来る→来(こ)させて)
形
本日のご案内を務めさせていただきますここで15分、休憩とさせていただきます先に料金を確認させていただきます
導入
- ガイド役の教師があいさつする教師が小さな旗を持ってガイドになり、「本日ご案内させていただきます、〇〇です」とあいさつしてから、「ここで10分、休憩とさせていただきます」と続ける。そのあと「だれが案内しますか」「だれに許してもらっていますか」と聞き、板書で「(客の許しを受けて)わたしが〜する」と矢印の図にする。使役形の作り方は、初中級の使役動詞を3つ思い出してから形に入る。
板書案
(客の許しを受けて)わたし が V(さ)せて いただきます
本日、ご案内させていただきます。
〔青〕使役形をつくる → て形 → いただきます
〔赤〕だれが動く?=話し手(矢印は話し手から)
〔緑〕〜(さ)せていただけませんか=許可を求める(第8課)
場面と発話(自作)
- バスツアーの出発前に、ガイドが参加者にあいさつする。本日一日、皆様のご案内をさせていただきます。
- ホテルのフロントで、チェックインのときに係の人が言う。お部屋のご説明をさせていただきます。
- 観光船が出る前に、船内放送が入る。出航の前に、救命胴衣の使い方を説明させていただきます。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
まず聞く練習として、教師がガイドのあいさつを読み、学習者は「だれが・何をするか」をメモする。次に動詞カード(案内する・説明する・休む・始める・確認する)を出し、「〜(さ)せていただきます」に変えて言う。最後にガイド役を交代で演じ、ツアーの始めのあいさつを3文で言わせる。
- 口頭まず聞き取り: 教師がガイドのあいさつを3文読み、学習者は「だれが・何をするか」を言う。次に動詞カードを出し、使役形→「〜(さ)せていただきます」の順で全体→個人に言わせる。キューの例: 「案内する」→「ご案内させていただきます」、「休む」→「休ませていただきます」、「確認する」→「確認させていただきます」、「始める」→「始めさせていただきます」。
- ペアA はガイド役で、予定表のカード(集合・休憩・出発の時刻)を見ながら客に予定を知らせ、B は客役で聞いた予定を時刻の表に書き込む。B は表にない質問を一つ必ずし、A は「〜させていただきます」で答える。交替時に別の予定表を使う。
- 産出「ツアーの始めのあいさつ」: 各自がガイドになって、名乗り・その日の予定・お願いを30秒で話す。聞き手はガイドが何をすると言ったかを一つメモする。教師は五段動詞の「*行かさせて」型の誤りと、同じ形を何度も重ねていないかを見る。
つまずきと手当て
- 五段動詞で「*行かさせていただきます」「*読まさせていただきます」と「さ」を入れる。五段動詞の使役は「〜せる」(行かせる・読ませる)なので、使役形を作ってから「ていただきます」をつなぐ手順で確かめる
- 「待っていただきます」(客に待ってもらう)と「待たせていただきます」(自分が待つ)を取り違える。だれが動くのかを、板書の矢印の図で確かめる
- 一つの説明の中で何度も使い、くどく聞こえる。相手の許しを特に意識しない場面では「ご・お〜いたします」や「〜ます」で足りる、と言い換えを並べて見せる
既習の文型との違い
- 〜(さ)せていただけませんか(中級第8課)第8課の形は、相手にまだ許可をもらっていないときに「そうしてもいいか」と頼む形です。この課の形は、許可を得たものとして自分の行動を知らせる形で、返事を待ちません。休みを頼む場面でいきなり「明日休ませていただきます」と言うと、決まったことの通知に聞こえて失礼になることがある、と二つを場面で並べます。
- Vていただきます(初中級第8課)「Vていただきます」は相手に何かをしてもらうことで、動くのは相手です。「(さ)せていただきます」は使役が入るので、動くのは話し手です。「待っていただきます」と「待たせていただきます」を対にし、矢印の向きで確かめます。
関連する文型
学習項目 2 ご・お〜いたします
意味・はたらき
初中級で習った謙譲の「おVします/ごNします」の「します」を「いたします」にした形で、一段とていねいな謙譲表現です。話し手(とその側)が、聞き手のために何かをすることを、へりくだって伝えます。ガイドやホテル・駅の人が「ご案内いたします」「お知らせいたします」「お荷物をお預かりいたします」のように使うので、まずは聞いて、だれがだれに何をするのかがわかることを目標にします。「行く・見る・言う」などはこの形にせず、特別な謙譲語(参ります・拝見します・申し上げます)を使います。
接続
お+Vます形の語幹+いたします(和語の動詞:お知らせ・お待ち・お持ち)/ご+漢語の「Nする」動詞のN+いたします(ご案内・ご説明・ご連絡)
形
山頂までご案内いたします集合時間はのちほどお知らせいたしますお荷物をお預かりいたしますパンフレットをお配りいたします
導入
- 「します」と「いたします」を聞き比べる教師が客の荷物を持つ場面を二通りに言い、「お持ちします」と「お持ちいたします」を聞き比べさせて、どちらがよりていねいかを選ばせる。板書は初中級の「おVします/ごNします」の下に「おVいたします/ごNいたします」を並べ、「お」と「ご」の付け方を和語・漢語で色分けする。
板書案
お + Vます形の語幹 + いたします
ご + N(漢語)+ いたします
お荷物をお預かりいたします。
〔青〕和語→お 〔赤〕漢語→ご
〔緑〕特別な形:参ります・拝見いたします・申し上げます
場面と発話(自作)
- 観光地の入り口で、ガイドが参加者に話す。それでは、本堂までご案内いたします。
- チェックインの時間より早く旅館に着いた。お部屋のご用意ができるまで、お荷物をお預かりいたします。
- バスの中で、ガイドが予定の変更を伝える。昼食の場所が変わりましたので、のちほど改めてご説明いたします。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
聞く練習では、ガイドの説明の中の「ご・お〜いたします」の文を聞き、だれが何をするのかを答えさせる。話す練習は、動詞カード(案内する・知らせる・待つ・持つ・説明する)を「ご・お〜いたします」に変え、ホテルの人や案内係の役で一言ずつ言う。
- 口頭動詞カードを和語と漢語に色で分けて出し、「おVします」→「おVいたします」の順に全体で言ってから個人に当てる。キューの例: 「待つ」→「お待ちいたします」、「案内する」→「ご案内いたします」、「知らせる」→「お知らせいたします」、「連絡する」→「ご連絡いたします」。この形にしない動詞(見る・行く)のカードも混ぜて、特別な形に言い換えさせる。
- ペアA はホテルのフロント係、B は客。B は頼みごとのカード(荷物を預けたい・タクシーを呼んでほしい・地図がほしい)を持ち、A は内容を知らない。B が頼み、A が「〜いたします」で引き受ける。B はカードの頼みが全部引き受けられたかを確かめて交替する。
- 産出「旅館のフロント一日体験」: グループで旅館の係と客に分かれ、到着から部屋の案内、夕食の時間の知らせまでを続けて演じる。係は「ご・お〜いたします」を3つ以上使う。教師は相手の行動に「いたします」を使っていないか、「お」と「ご」の付け方を見る。
つまずきと手当て
- 相手の行動に使い、「*どうぞこちらにお座りいたしてください」と言う。相手がすることは尊敬語の「お座りください」で、「いたします」は自分の側がすることだけ、と板書を自分の側・相手の側に分けて確かめる
- 「*お説明いたします」「*ご待ちいたします」と「お」と「ご」を取り違える。和語の動詞は「お」、漢語は「ご」が基本、と色分けした板書で確かめる(「お電話いたします」のような例外は出てきたときに扱う)
- 「*お見いたします」「*お行きいたします」と、この形にしない動詞に当てはめる。見る→拝見いたします、行く→参ります、言う→申し上げます、と特別な謙譲語を並べて見せる
既習の文型との違い
- おVします/ごNします(初中級第7課)形の作り方は同じで、「します」が「いたします」になるだけです。「いたします」のほうが一段ていねいで、店や駅の人が客に言うときによく聞きます。学習者には、自分が使うのは「おVします」で十分なことが多く、「いたします」はまず聞いてわかればよい、と役割を分けて伝えます。
- おVになります(初中級第7課)「おVになります」は相手の動作を高める尊敬語、「おVいたします」は自分の動作を低める謙譲語です。どちらも「お」で始まるので、「*お客様がお待ちいたしています」のように混ざります。板書を自分の側・相手の側の二つに分け、主語を指してから形を選ばせます。
関連する文型
この場面のことば・表現
- 観光ガイドの説明でよく使われる表現ガイドの説明は「見どころの紹介・時間と場所の連絡・注意」の三つに分けて聞くと聞き取りやすいので、表現もこの三つに分けて板書します。注意を伝える表現は文末まで聞かないと、してよいのかいけないのかが分からないことを、聞く前に確かめておきます。例:「右手に見えてまいりますのが〜です」「〜と言われています」「集合は〜でございます」「〜はご遠慮ください」「足元にお気をつけください」「時間になりましたら〜までお戻りください」
3 こんなときどうする?
できること物を置いた場所や時間を思い出しながら、電話で忘れ物について問い合わせられる。
場面
旅先で電車やバスに荷物を忘れたことに気づき、鉄道会社の忘れ物の窓口に電話する場面です。係の人からは「いつ・どこで・どんな物か」を順に聞かれるので、教室では、忘れた物の絵と「乗った時間・置いた場所・色や形・中身」のメモ(はっきりしない欄には「?」)が書かれたカードを配り、あいまいな記憶も含めて答えるロールプレイにします。
- 係員:はい、みなみ鉄道お忘れ物センターでございます。
- 留学生:すみません、今日の午後、電車に紙袋を忘れてしまったんですが。
- 係員:何時ごろの電車でしたか。
- 留学生:2時15分ごろの快速だったように思います。
- 係員:どのあたりに置かれましたか。
- 留学生:網棚の上です。降りるときに持って出たつもりだったんですが、駅を出てから気がついて。
- 係員:中には何が入っていましたか。
- 留学生:お土産のお菓子の箱が二つと、青いマフラーです。
学習項目 1 〜つもりだ
意味・はたらき
初中級の「Vるつもりです」は予定・意志でしたが、ここでは「Vた/Vている+つもりだ」の形で、自分ではそうしたと思っている(でも実際はそうでなかったかもしれない)という気持ちを表します。忘れ物の電話では「降りるときに持って出たつもりだったんですが」のように、自分の記憶と事実がずれていることを伝えるのに使います。「〜と思う」がただの判断であるのに対し、この形は「自分ではそのつもり」という本人の思い込みに重心があり、後ろに「〜が」「〜のに」が続いて、事実が違っていたことを言うことが多いです。「イA/ナAな/Nの+つもりだ」で「自分ではまだ若いつもりだ」のように、本人の思い込みを言うこともできます。
接続
Vた/Vている/イA/ナAな/Nの+つもりだ(予定・意志は「V辞書形/Vない+つもりだ」)
形
かばんに入れたつもりだったちゃんと説明したつもりです自分ではまだ若いつもりだ鍵をかけたつもりだったのに、開いていた
導入
- 教師の「入れたはずなのに」の話教師が空の筆箱を見せ、「けさ、ペンを入れました。……でも、ありません」と話す。「わたしは入れたと思っていました」を「入れたつもりでした」と言い直し、板書で初中級の「行くつもり(これからの予定)」と「入れたつもり(自分ではしたと思っている)」を時間の矢印の上に並べる。
板書案
Vた + つもりだ(自分ではしたと思っている)
かばんに入れたつもりだったんですが……
〔青〕Vる+つもり=これからの予定(初中級)
〔赤〕Vた+つもり=したと思っている
〔緑〕時間の矢印:思ったこと ≠ 事実
場面と発話(自作)
- 旅館に忘れ物をして、フロントに電話する。出るときに全部確かめたつもりだったんですが、充電器を部屋に置いてきてしまったようなんです。
- 駅の窓口で、切符が見つからないことを説明する。切符はポケットに入れたつもりなんですが、見つからないんです。
- 旅行の集合時間が友達に伝わっていなかった。集合時間はちゃんと伝えたつもりだったんだけど、ごめんね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が「鍵をかけた→開いていた」「メールを送った→届いていない」のような「思ったことと事実」のカードを出し、学習者が「〜たつもりだったんですが、〜」でつなぐ。続いて忘れ物の電話のロールプレイで、係員の「どこに置きましたか」「持って降りませんでしたか」に「〜たつもりなんですが」で答えさせる。
- 口頭「思ったこと→事実」の2枚組みのカードを出し、全体→個人で「〜たつもりだったんですが、〜」とつながせる。キューの例: 「鍵をかけた→開いていた」→「鍵をかけたつもりだったんですが、開いていました」、「メールを送った→届いていない」、「財布をかばんに入れた→ない」。予定の「Vるつもり」のカードも1枚混ぜて、前の形で意味が変わることを確かめる。
- ペアA は忘れ物をした客、B は旅館のフロント係。A のカードには「自分ではそうしたと思っていること」と「実際になかったこと」が書いてあり、B は「どこに置きましたか」「出るときに確かめましたか」と聞く。A は「〜たつもりなんですが」で答え、B は聞いた内容を受付票に書く。交替して別のカードで。
- 産出「わたしのうっかり話」: 自分が「やったつもり」で失敗した体験を、三文(したと思っていたこと・実際・どうしたか)で話す。聞き手は質問を一つする。教師はタ形と辞書形の取り違え、名詞・ナAの接続、他人について言うときの言い方を見る。
つまずきと手当て
- 予定の「つもり」と混同し、「かばんに入れるつもりでした」(入れる予定だった)と「入れたつもりでした」(入れたと思っていた)を取り違える。時間の矢印で、「つもり」の前が辞書形かタ形かを確かめる
- 接続で「*置いたのつもり」「*きれいのつもり」と言う。動詞はそのまま、ナAは「な」、名詞は「の」と、品詞ごとに板書する
- 他人について「田中さんは上手なつもりです」と言う。誤りではないが、本人の思い込みを外から言うので皮肉や批判に聞こえやすい、と添える
既習の文型との違い
- Vるつもりです/Vないつもりです(初中級第3課)初中級の「つもり」は辞書形・ナイ形について、これからの予定や意志を表しました。この課ではタ形・テイル形について「自分ではそうしたと思っている」を表します。「入れるつもりでした」(入れる予定だった)と「入れたつもりでした」(入れたと思っていた)を時間の矢印の上に並べ、前の形で見分けさせます。
- 〜はずだ(中級第2課)「入れたはずだ」は、記憶や理屈から「入れたに違いない」と話し手が確信している言い方です。「入れたつもりだ」は「自分ではそう思っていたが違ったかもしれない」という含みがあり、事実が違っていたとわかったあとの説明によく使います。忘れ物の電話では「つもり」のほうがやわらかく、相手を疑う響きが出にくくなります。
関連する文型
学習項目 2 〜ように思う
意味・はたらき
普通形に「ように思う」をつけて、記憶や印象がはっきりしないことや、言い切りたくないことを、やわらかく言う形です。忘れ物の電話では「2時ごろの電車だったように思います」のように、確かではないけれど自分が覚えている範囲を伝えるのに使えます。「〜と思う」が自分の判断・意見をはっきり言うのに対し、「〜ように思う」は「そういう感じがする」という印象に近く、より控えめです。「〜気がする」も近い意味ですが、「〜ように思う」のほうが改まった場面にも合います。自分の意志や予定(行こうと思う)には使いません。
接続
V・イAの普通形/ナAな・ナAだった/Nの・Nだった+ように思う
形
窓側の席だったように思います赤いかばんだったように思うんですが前に来たときより人が多いように思うこの町は少し静かになったように思います
導入
- あいまいな記憶を聞き出す教師が「先週の月曜日の昼ごはん、何を食べましたか」と聞き、学習者の「たぶん……カレー?」という答えを引き出す。「カレーだったように思います」と言い直し、板書で「カレーでした(確か)」「カレーだったと思います」「カレーだったように思います(はっきりしない)」の三段を、確かさの矢印に沿って並べる。
板書案
[普通形]+ ように思う
窓側の席だったように思います。
〔青〕確か:〜でした → 〜と思います → 〜ように思います(はっきりしない)
〔赤〕Nの/ナAな/〜だった に丸
〔緑〕意志は「行こうと思います」(別の枠)
場面と発話(自作)
- バスの忘れ物を電話で問い合わせ、乗った時間を聞かれる。たしか3時台のバスだったように思います。
- 観光案内所で、昨日寄った店の場所を尋ねる。駅前の通りの、郵便局の近くだったように思うんですが。
- 旅行のアンケートに感想を書く。以前に比べて、外国語の案内が増えたように思います。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、教師が「先週の天気」「日本に来た日の気温」など、はっきり覚えていないことを聞き、学習者が「〜ように思います」で答える。忘れ物の電話のロールプレイでは、カードの「?」が付いた欄だけ「〜ように思います」で答え、確かな欄は「〜です」で答えるように分けさせる。
- 口頭はっきり覚えていないことを質問し、全体→個人で「〜ように思います」で答えさせる。キューの例: 「先週の月曜日の天気」→「雨だったように思います」、「この前、駅で見たかばんの色」→「黒かったように思います」、「去年の夏の気温」→「今年より暑かったように思います」。品詞の違うキュー(名詞・ナA・イA・動詞)を交互に出す。
- ペアA は忘れ物をした客で、カードには物の特徴と時間が書いてあるが、いくつかの欄に「?」が付いている。B は駅の遺失物係で、特徴と時間を順に聞く。A は確かな欄は「〜です」、「?」の欄は「〜ように思います」で答え分ける。B は受付票に書いたあと、確かな情報とあいまいな情報を言い分けて読み返す。
- 産出「遺失物センターへの電話」: 各自が忘れた物を一つ決め、物の特徴・置いた場所・時間を電話で伝えるロールプレイをする。確かなことと、はっきりしないことを最低一つずつ入れる。教師は名詞・ナAの接続の誤りと、確かなことまで「ように思う」にしていないかを見る。
つまずきと手当て
- 名詞・ナAの接続で「*窓側だように思います」「*静かだように思う」と言う。名詞は「の」か「だった」、ナAは「な」か「だった」と、品詞ごとに板書する
- 自分の予定を言うつもりで「週末、京都に行くように思います」と言い、「行くかどうか自分でも分からない」ように聞こえる。意志は「行こうと思います」と、初中級の意向形の枠と並べる
- 何でも「ように思う」にして、確かなことまであいまいに聞こえる。忘れ物の電話では、色や数など確かなことははっきり言ったほうが見つけてもらいやすい、と場面で確かめる
既習の文型との違い
- 〜と思います(推量・初級第15課)「〜と思います」は、話し手が判断したことをそのまま言う形です。「〜ように思います」は、はっきりしない印象や記憶を言う形で、より控えめに聞こえます。「赤だったと思います」と「赤だったように思います」を確かさの矢印の上に並べ、後者がよりあいまいだと見せます。
- 〜ようです(様態・初中級第10課)「〜ようです」は見たり聞いたりした様子から判断する形で、根拠が外にあります。「〜ように思う」は自分の記憶や感じ方が中心で、「わたし」の受け止めを前に出します。忘れ物の電話で係の人が「置き忘れたようですね」と言い、客が「座席の下だったように思います」と答える、というように話し手の立場で分けます。
関連する文型
この場面のことば・表現
- 電話で忘れ物の問い合わせをするときの表現係の人はほぼ決まった順で聞いてくるので、「いつ・どこで・何を・どんな物か・連絡先」の順に表現を並べ、学習者が言うことをメモしてから電話をかけられるようにします。物の特徴(色・形・大きさ・素材・中身)を言うことばも合わせて確かめます。例:「〜に〜を忘れてしまったんですが」「〜時ごろの〜行きの電車です」「前から3両目だったように思います」「黒い布のかばんで、中に〜が入っています」「見つかったら、こちらの番号にご連絡いただけますか」「受け取りにはどちらに伺えばいいでしょうか」
4 耳でキャッチ
できること電車の車内放送を聞いて、遅れ・乗り換え・車内での注意などの情報を聞き取れる。
場面
旅先で初めて乗る路線の電車で、停車駅・遅れ・乗り換え・車内のお願いについての放送が流れる場面です。教室では、教師が車掌役になって自作の放送文を少し速めに読み上げ(駅の雑音を流してもよい)、学習者は路線図の上に「次の駅・遅れの時間・乗り換えの路線・してはいけないこと」を書き込みます。
- 車内放送:本日も、ひかり線をご利用いただきまして、ありがとうございます。
- 車内放送:この電車は、快速みなと行きです。次は中央、中央です。
- 車内放送:ただいま、信号の点検のため、この電車は5分ほど遅れております。
- 車内放送:お急ぎのところ、ご迷惑をおかけしております。
- 車内放送:中央で、みなと線にお乗り換えいただけます。
- 車内放送:なお、車内では切符の払い戻しはいたしかねます。駅の窓口をご利用ください。
学習項目 1 〜ております
意味・はたらき
「〜ています」の「いる」を改まった「おる」にした形で、話し手の側のことを聞き手にていねいに伝えます。車内放送や駅の放送では「5分ほど遅れております」「ご利用をお待ちしております」のように、鉄道会社の側の状態や行いを客に伝えるのに使われ、電車や設備のような物が主語の文にも使います。主語が客や目上の人のときは使わず、尊敬語の「〜ていらっしゃいます」「お〜です」を使います。聞き取りでは、「〜ております」は「〜ています」と同じ情報だと受け取ればよいことを先に確かめます。
接続
Vて形+おります(「〜ています」と同じ使い方。否定は「〜ておりません」)
形
5分ほど遅れております皆様のご利用をお待ちしております車内は禁煙となっております本日の受付は終了しております
導入
- 同じ知らせを二つの言い方で教師が「電車が遅れています」と言ったあと、帽子をかぶって車掌になり「電車が遅れております」と言い直す。学習者に「どちらが放送らしいか」「意味は同じか」を聞き、板書で「〜ています(ふつう)→〜ております(改まって・こちらの側のこと)」と並べ、客がすることは「お待ちになっています」と別の枠に書く。
板書案
Vて + おります(=〜ています・こちらの側)
電車が5分ほど遅れております。
〔青〕ふつう:〜ています → 改まって:〜ております
〔赤〕主語がお客様なら×(お待ちになっています)
〔緑〕聞いたら「〜ています」に戻して意味をとる
場面と発話(自作)
- 電車の中で、大雨についての放送が入る。ただいま、大雨のため、運転を見合わせております。
- 駅の窓口で、留学生が切符の買い方を聞く。自由席の切符は、あちらの機械で販売しております。
- 観光案内所に夕方電話して、留守番電話の案内を聞く。本日の受付は終了しております。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
聞く練習では、放送の文を聞いて「〜ております」の部分を「〜ています」に戻して言わせ、何の情報か(遅れ・販売・終了など)をメモさせる。話す練習は、駅員や店員の役で「〜ております」を使って一言ずつ客に知らせる(「本日は満席になっております」など)。
- 口頭まず聞き取り: 教師が車内放送の文を読み、学習者は「〜ています」に戻して言う。次に、全体→個人で「〜ています」の文を「〜ております」に変える。キューの例: 「電車が遅れています」→「遅れております」、「入口は閉まっています」→「閉まっております」、「お待ちしています」→「お待ちしております」。主語が客のカードを混ぜて、そのときは変えないことを確かめる。
- ペアA は駅員、B は客。A は運行状況のカード(遅れ・運転見合わせ・ホームの変更)を持ち、B は何も知らない状態で「〜線は動いていますか」と聞く。A は「〜ております」で答え、B は聞いた情報を路線図に書き込む。交替後に別の状況カードで。
- 産出「車内放送アナウンサー」: 各自が路線図と状況カードを一枚引き、遅れ・乗り換え・お願いを入れた20秒ほどの車内放送を作って読む。聞き手は路線図に情報を書き込む。教師は客のことに「おります」を使っていないか、ふつうの会話にまで使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- 客や目上の人のことに使い、「*お客様がホームで待っております」と言う。客が主語なら「お待ちになっています」「お待ちです」と、板書の枠で主語を確かめる
- 「おります」を聞いて「降ります」や別の語だと思い、内容を取り違える。「〜て+おります=〜ています」と分かればよいと、放送の文を何度か聞かせて確かめる
- 友達との会話でも「〜ております」を使い、硬く聞こえる。改まった場面で、こちらの側のことを言うときの形だと、場面を分けて示す
既習の文型との違い
- Vています(動作の進行・初級第7課)「〜ております」は「〜ています」を改まった言い方にしたもので、意味(進行・結果の状態など)は変わりません。聞き取りでは、「おります」を「います」に戻せば初級で習った意味がそのまま当てはまる、と示します。学習者が「おります」を別の動詞と思わないよう、同じ文を二つの形で続けて聞かせます。
- おVになります(初中級第7課)「〜ております」は話し手の側のことを言う形なので、客や目上の人が主語のときは使えず、「お待ちになっています」のような尊敬語になります。放送では鉄道会社の側の状態は「〜ております」、客にしてほしいことは「お〜ください」と分かれている、と放送の文で確かめます。
関連する文型
学習項目 2 〜かねます
意味・はたらき
動詞のます形の語幹に「かねる」をつけて、「そうしたい気持ちはあるが、立場や事情があってできない」と、ていねいに断る形です。店や駅、ホテルなどが客の希望を断るときに使い、「お答えいたしかねます」「お預かりいたしかねます」のように「いたしかねます」の形でよく聞きます。泳げない・読めないのような能力がないことには使いません。形は「〜かねない」とよく似ていますが、「〜かねない」は「悪いことが起こるかもしれない」という意味で、まったく別の表現です。
接続
Vます形の語幹+かねます(「いたしかねます」「わかりかねます」の形が多い)
形
その件については、お答えいたしかねますこちらでは、お荷物はお預かりいたしかねます申し訳ございませんが、わかりかねます
導入
- 窓口で断られる場面を見せる教師が駅員役、学習者が客役になり、客に「この荷物を明日まで預かってもらえますか」と頼ませる。教師が頭を下げて「申し訳ございません。こちらではお預かりいたしかねます」と答え、「できる?できない?」「ていねい?」を聞く。板書は「〜かねます=(事情があって)できません(ていねい)」とし、その下に別の表現として「〜かねない=悪いことが起こるかもしれない」を小さく書く。
板書案
Vます形の語幹 + かねます
こちらではお預かりいたしかねます。
〔赤〕=(事情があって)できません・ていねいな断り
〔青〕能力のない「できない」には使わない(泳げません)
〔緑〕〜かねない=悪いことが起こるかもしれない(別の表現)
場面と発話(自作)
- 車内放送で、切符の扱いについての案内がある。車内では、切符の払い戻しはいたしかねます。
- ホテルのフロントで、ほかの店の営業時間を聞く。申し訳ございません、ほかのお店のことはわかりかねます。
- 観光案内所に、旅行中の荷物を数日あずけられないか聞く。申し訳ございません、数日にわたるお預かりはいたしかねます。駅のコインロッカーをご案内いたしましょうか。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
聞く練習では、店・駅・ホテルの断りの文を聞き、「できる/できない」を手で示させる。話す練習は、窓口係の役で客の無理なお願いのカード(荷物を一週間預かる・閉館後に入る など)に「申し訳ございませんが、〜かねます」と断り、代わりにできることを一つ添えさせる。
- 口頭まず聞き取り: 教師が店・駅・ホテルの断りの文を読み、学習者は「できる」なら○、「できない」なら×を手で示す。次に、全体→個人で「〜できません」を「〜かねます」に言い換える。キューの例: 「答えられません」→「お答えいたしかねます」、「わかりません」→「わかりかねます」、「預かれません」→「お預かりいたしかねます」。
- ペアA は窓口の係、B は客。B は無理なお願いのカード(荷物を一週間預ける・閉館後に入る・他社の料金を教えてほしい)を持ち、A は内容を知らない。A は「申し訳ございませんが、〜かねます」で断り、代わりにできることを一つ言う。B は代わりの案を受けるかどうかを言って交替する。
- 産出「上手な断り方コンテスト」: グループで窓口の場面を一つ選び、断り・理由・代わりの案の三つを入れた短いやり取りを作って演じる。見ている側は、断られても嫌な気持ちにならなかったかを一言で評価する。教師は接続(ます形の語幹)と、能力の「できない」に使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- 「〜かねない」と取り違え、「お答えいたしかねます」を「答えるかもしれない」と聞いてしまう。肯定の「かねます」はできない、否定の「かねない」は起こるかもしれない、と板書の上下で比べる
- 能力について「わたしは泳ぎかねます」と言う。この形は立場や事情で断るときのもので、能力は「泳げません」と、場面で確かめる
- 接続で「*答えるかねます」「*お答えいたすかねます」と言う。ます形の語幹(答え・いたし)につなぐと確かめる
既習の文型との違い
- 可能動詞(初中級第1課)「答えられません」「預かれません」は、できないことをそのまま言う形です。「〜かねます」は、能力ではなく立場や規則のためにできないことを、相手への配慮をこめて断る形で、客に対して店や駅の人が使います。学習者が友達との会話で使うと硬すぎるので、自分が言うのはまず「すみません、ちょっと〜できないんです」で十分、と場面を分けます。
- 〜そうにないんですが(中級第5課)「〜そうにない」は、状況から見て実現しそうもないことを話し手が予測して伝える形です。「〜かねます」は予測ではなく、相手の頼みをはっきり断る形です。遅れそうなときは「間に合いそうにないんですが」、頼みを断る側は「お受けいたしかねます」と、だれが何を言う場面かで分けます。
関連する文型
この場面のことば・表現
- 車内アナウンスでよく聞くことば・表現車内放送は「停車駅・乗り換え・遅れ・車内のお願い」の四つの型がくり返されるので、型ごとに決まった言い方を板書し、聞くときはまずどの型の放送かを判断させます。駅名は聞き取りにくいので、路線図を見ながら聞かせます。例:「次は〜、〜です」「お出口は右側です」「〜線はお乗り換えです」「〜のため、運転を見合わせております」「お降りの際は、お忘れ物のないようご注意ください」「優先席の近くでは、携帯電話はマナーモードにしてください」
5 伝えてみよう
できること心に残った旅行について、驚いたことやよかったことを交えて周りの人に紹介できる。
場面
クラスや交流会で、自分の心に残った旅行について、写真を見せながら2分ほど話す場面です。教室では、学習者に写真を2〜3枚用意させ、「いつ・どこへ・だれと/心に残ったこと/おすすめ」のメモを作ってから話させ、聞き手には質問を一つずつ考えさせます。
- 留学生:わたしの心に残っている旅行は、去年の冬に行った山あいの温泉町です。
- 留学生:うれしいことに、着いた日の夜に雪が降って、町じゅうが真っ白になりました。
- 留学生:有名な温泉町だけあって、お湯がやわらかくて、本当に気持ちがよかったです。
- 留学生:温泉に行ったついでに、近くの酒蔵も見学しました。
- 日本人の友達:いいですね。ほかに何か驚いたことはありましたか。
- 留学生:驚いたことに、旅館の人がわたしの国の言葉であいさつしてくれたんです。
- 日本人の友達:それはうれしいですね。さすが人気の宿だけのことはありますね。
学習項目 1 〜ことに(は)
意味・はたらき
「驚いたことに」「うれしいことに」のように、気持ちを表すことばに「ことに(は)」をつけて文の頭に置き、これから言う事実について話し手がどう感じたかを先に示す形です。旅の紹介では、聞き手に「ここが話の山だ」と知らせる働きがあります。前に来るのは「驚く・困る・うれしい・残念だ・ありがたい・不思議だ」など気持ちを表す語にほぼ限られ、後ろには実際にあったこと(事実)が来ます。後ろに「〜したい」「〜てください」のような意志や依頼は来ません。やや書き言葉的ですが、まとまった話の中ではよく使われます。
接続
Vた/イA/ナAな+ことに(は)
形
驚いたことに、旅館の人がわたしの国の言葉を話したうれしいことに、帰りの日は晴れた残念なことに、お祭りは中止になっていたありがたいことには、駅の人が宿まで電話してくれた
導入
- 出来事の前に気持ちを言う教師が自分の旅行の写真を見せながら「港町の小さな食堂に入りました。驚いたことに、メニューが魚料理だけで30種類もありました」のように、気持ちを先に言ってから出来事を話す。学習者に「先生はどう感じましたか」と聞き、板書は「[気持ち]ことに、[あったこと]」の枠にして、前に入る気持ちの語を学習者から集める。
板書案
[気持ちの語]ことに(は)、[あったこと]
驚いたことに、旅館の人がわたしの国の言葉を話しました。
〔青〕前:驚いた・うれしい・残念な・困った・ありがたい
〔赤〕後ろ:実際にあったこと(〜たい・〜てください は×)
〔緑〕Vた/イA/ナAな+ことに
場面と発話(自作)
- クラスで旅行の思い出を話す。困ったことに、帰りの電車が雪で止まってしまいました。
- ホームステイ先の家族に、旅先の話をする。不思議なことに、旅行中一度も雨に降られなかったんです。
- 旅行のあとで、お世話になった宿にお礼のメールを書く。ありがたいことに、帰りの日はご主人が駅まで車で送ってくださいました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、気持ちの語のカード(驚く・うれしい・残念・困る・ありがたい)と出来事のカードを組み合わせて「〜ことに、〜」の文を作る。そのあと、自分の旅の紹介のメモに「〜ことに」の文を一つ入れさせ、どの気持ちを選んだかをペアで聞き合う。
- 口頭気持ちの語のカードと出来事のカードを組み合わせ、全体→個人で文を作らせる。キューの例: 「驚く+店員が日本語ができた」→「驚いたことに、店員が日本語を話しました」、「残念+雨」→「残念なことに、雨が降りました」、「ありがたい+宿の人が駅まで送ってくれた」。品詞ごとに接続が変わるので、ナAのカード(残念・不思議)を多めに混ぜる。
- ペアA は旅行の出来事を三つ書いたメモを持ち、B に出来事だけを話す。B は「それ、どう思った?」と聞き、A は気持ちを決めて「〜ことに」で言い直す。B は聞いた気持ちを表に書き、交替後に二人の旅で多かった気持ちを比べる。
- 産出「旅のハイライト一言」: 各自が旅行の写真を一枚見せ、話の山にあたる出来事を「〜ことに」で始まる一文で紹介し、そのあと二文で詳しく話す。教師は前に気持ちの語が来ているか、後ろが事実になっているか、ナAの「な」を見る。
つまずきと手当て
- 「*残念のことに」「*驚いたのことに」と接続を誤る。ナAは「な」、動詞はタ形に直接つなぐ、と品詞ごとに板書する
- 後ろに意志や希望を置き、「*うれしいことに、また行きたいです」と言う。後ろは実際にあったこと、と枠の右側を「あったこと」に固定する
- 気持ちを表さない語に付けて「大きいことに、町の真ん中に城がありました」のように言い、不自然になる。前に来るのは気持ちや評価の語、と集めた語の一覧で確かめる
既習の文型との違い
- 〜なんて(驚き)(中級第3課)「〜なんて」は出来事を先に言ってから、それに対する驚きを後ろで表します(雪が降るなんて)。「〜ことに」は気持ちを先に出して、そのあと事実を言うので、聞き手に「これから驚く話をする」と予告する働きがあります。旅の紹介で話の山を作るなら「〜ことに」、聞いた話に反応するなら「〜なんて」と使い分けを見せます。
- 〜て、〜(理由)(初中級第5課)「驚いて、声が出ませんでした」は、驚いた結果どうなったかを後ろで言います。「驚いたことに、〜」は驚いた原因の出来事が後ろに来るので、前後の関係が逆です。学習者が「驚いたことに、声が出ませんでした」と言って意味がずれたら、後ろに来るのは驚いた理由の事実だ、と二つの文を並べて直します。
関連する文型
学習項目 2 〜だけあって/〜だけのことはある
意味・はたらき
「Xだけあって、Y」は、Xという評判・地位・努力などから期待されるとおりの、ふさわしい結果Yがあることを、感心して言う形です。「有名な温泉だけあって、お湯がいい」のように、よい評価に使うのがふつうです。「〜だけのことはある」は文の終わりに置いて、「さすが〜だけのことはある」と、結果を見て納得した気持ちを表します。似た「〜だけに」は、期待どおりのことにも、期待が大きかったぶん残念だったこと(「楽しみにしていただけにがっかりした」)にも使えますが、「〜だけあって」は残念な結果にはふつう使いません。「〜から」がただ理由を言うのに対し、この形には「さすがだ」という評価が入ります。
接続
V・イAの普通形/ナAな/N+だけあって(「Nである」「ナAである」は書き言葉)、文末は同じ接続で+だけのことはある
形
世界遺産だけあって、見ごたえがあった人気の宿だけあって、サービスがすばらしい長く続く店だけあって、味に深みがあるさすが地元の人が勧めるだけのことはある
導入
- 評判と結果を結ぶ教師が「星5つの評判のラーメン店」のカードと「とてもおいしかった」のカードを並べて見せ、「どうしておいしかったと思いますか」と聞く。「評判の店だけあって、おいしかったです」と言い、板書は「[評判・地位・努力]だけあって、[ふさわしいよい結果]」。続けて文末の形「さすが評判の店だけのことはありますね」を、話を聞いた側の感想として示す。
板書案
[評判・地位・努力]だけあって、[ふさわしいよい結果]
世界遺産だけあって、見ごたえがありました。
さすが プロ だけのことはある。(文末・納得)
〔青〕Nそのまま/ナAな/V・イAの普通形
〔赤〕残念な結果には使わない(→〜のに)
場面と発話(自作)
- 旅行の紹介で、泊まった旅館のことを話す。老舗の旅館だけあって、料理も部屋も本当にすばらしかったです。
- 友達の旅行の写真を見て、感心する。この景色、きれいだね。さすが県でいちばん高い展望台だけのことはあるね。
- 観光地で出会ったガイドの話をする。20年もガイドをしている人だけあって、説明がとても分かりやすかったです。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「評判・地位・努力」のカード(世界遺産・人気の店・毎日練習した)と「結果」のカード(見ごたえがある・いつも混んでいる・上手だ)を組み合わせて文を作る。慣れたら、ペアの一人が旅の話をし、もう一人が「さすが〜だけのことはあるね」と返すやり取りにする。
- 口頭「評判」のカードと「結果」のカードを組み合わせ、全体→個人で「〜だけあって、〜」を言わせる。キューの例: 「人気の店→いつも並んでいる」→「人気の店だけあって、いつも並んでいます」、「10年住んでいる→道に詳しい」、「有名な温泉→お湯がいい」。合わない組み合わせ(有名な店→おいしくない)を1枚混ぜて、使えないことを確かめる。
- ペアA は旅行の写真カード(見事な庭・おいしい料理・説明の上手なガイド)と、その背景(世界遺産・老舗・ガイド歴20年)を持つ。A が写真を見せて様子だけを話し、B が背景を聞き出して「さすが〜だけのことはあるね」と返す。交替して別のカードで。
- 産出「さすがリレー」: クラスで一人が旅の思い出を一文話すと、次の人が「さすが〜だけのことはあるね」と受けてから自分の思い出を「〜だけあって」で話す、をつないでいく。教師は結果がよい評価になっているか、ナAの「な」、ただの理由に使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- 期待はずれの結果に使い、「有名な店だけあって、あまりおいしくなかった」と言う。この形は評判どおりのよい結果のときに使い、残念なときは「〜のに」や「〜だけに」を使う、と並べて比べる
- 接続で「*有名だだけあって」と言う。ナAは「な」(有名なだけあって)、名詞はそのまま(プロだけあって)と、品詞ごとに板書する
- ただの理由に使い、「雨だけあって、電車が遅れた」のように言う。前には評判・地位・努力など「期待させるもの」が来る、とカードで確かめる
既習の文型との違い
- 〜にしては(中級第7課)「〜にしては」は、Xから予想されることと実際が違ったときに使います(初めてにしては上手だ)。「〜だけあって」はXから予想されるとおりの結果だったときに使い、向きがちょうど反対です。同じ場面で「プロだけあって上手」「初心者にしては上手」と並べると違いが見えます。
- どうして/〜から(初級第5課)「有名な温泉だから、お湯がいい」は理由を言うだけですが、「有名な温泉だけあって、お湯がいい」には「さすがだ」という感心や評価が入ります。学習者が「雨だけあって、電車が遅れた」とただの原因に使ったら、前に来るのは評判や努力のような「期待させるもの」だ、と「から」の文と並べて見せます。
関連する文型
学習項目 3 〜ついでに
意味・はたらき
「Xついでに、Y」は、本来の目的Xをする機会を利用して、そのときに一緒にYもする、という意味です。旅行の紹介では「出張で大阪に行ったついでに、奈良まで足をのばした」のように、もともとの目的とおまけの出来事を分けて話すのに使えます。「〜ながら」は二つの動作を同時にすること、「〜とき」はただの時を表すのに対し、「〜ついでに」には「せっかくの機会だから」という気持ちが入ります。辞書形は出かける前や途中のこと(「出かけるついでに」)、タ形はXをしたあとやその場所でのこと(「行ったついでに」)に使うことが多いです。
接続
V辞書形/Vた/Nの+ついでに
形
温泉に行ったついでに、酒蔵も見学した駅に行くついでに、手紙を出してきます買い物のついでに、観光案内所に寄った
導入
- もともとの用事とおまけを分ける教師が地図の上で「郵便局へ荷物を出しに行く」道を指でたどり、途中のコンビニで飲み物を買うふりをする。「何のために出かけましたか」「コンビニは?」と聞いて、もともとの用事とおまけを分けさせ、「郵便局に行くついでに、飲み物を買いました」と言う。板書は「[もともとの用事]ついでに、[おまけ]」とし、もともとの用事のほうを太く書く。
板書案
[もともとの用事]ついでに、[おまけ]
大阪に出張したついでに、奈良まで足をのばしました。
〔赤〕もともとの用事を太く
〔青〕V辞書形(行く前・途中)/Vた(行ったあと・その場で)/Nの
〔緑〕同時の動作は「〜ながら」
場面と発話(自作)
- 旅行の紹介で、出張先での観光を話す。大阪に出張したついでに、週末は奈良まで足をのばしました。
- ホテルを出るときに、フロントに寄る。朝ごはんに行くついでに、鍵を預けておきます。
- 旅先の友達の家に泊まり、近くの市場に行こうと誘われる。市場に行くついでに、駅で帰りの切符を買っておきたいんだけど、いいかな。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
口頭では、「もともとの用事」と「おまけ」のカード(郵便局に行く/ATMでお金をおろす、実家に帰る/高校の友達に会う)を組み合わせて文を作る。そのあと旅の紹介のメモに「〜ついでに」の文を一つ入れさせ、聞き手に「もともとの目的は何だったか」を答えさせる。
- 口頭「用事」と「おまけ」のカードを組み合わせ、全体→個人で「〜ついでに、〜」を言わせる。キューの例: 「郵便局に行く/ATMでお金をおろす」→「郵便局に行くついでに、お金をおろしてきます」、「京都に行った/友達に会った」→「京都に行ったついでに、友達に会いました」、「買い物/本屋に寄る」→「買い物のついでに、本屋に寄りました」。辞書形とタ形のどちらが合うかを、時間の線で選ばせる。
- ペアA はこれから出かける人、B は家にいるルームメイト。A が「ちょっと〜に行ってくるね」と言い、B は自分のメモ(買ってきてほしい物・出してほしい手紙)を見て「じゃあ、〜ついでに、〜てくれない?」と頼む。A は引き受けるか断るかを言い、交替して別の行き先で。
- 産出「ついでの旅日記」: 本来の目的があって出かけた旅(帰省・出張・友達の結婚式など)で、ついでにしたことを入れて、旅の紹介を一分で話す。聞き手は「もともとの目的は何だったか」を答える。教師は前後の順、接続の「の」の有無、同時の動作に使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- もともとの用事とおまけを逆にし、「お土産を買ったついでに、京都を旅行した」と言う。前がもともとの用事、と板書の太字で確かめる
- 接続で「*行くのついでに」「*行ったのついでに」と言う。動詞は辞書形かタ形に直接、名詞は「の」でつなぐ、と品詞ごとに板書する
- 同時にする二つの動作に使い、「音楽を聞くついでに勉強した」と言う。同時にするなら「〜ながら」、機会を利用しておまけをするなら「〜ついでに」と比べる
既習の文型との違い
- Vながら、〜(初中級第11課)「〜ながら」は二つの動作を同時にすることで、どちらが本来の目的かは問いません。「〜ついでに」は本来の用事の機会を利用して別のことをするので、二つの動作は同時でなくてかまいません。「音楽を聞くついでに勉強した」と言ったら、同時なら「ながら」と二本の線を描いて見せます。
- 〜途中(で)/〜途中(に)(中級第4課)「行く途中で」は移動の途中の時間や場所を言うだけで、そこで起きたのが偶然の出来事でもかまいません。「行くついでに」は、その機会を利用しておまけの用事を済ませる気持ちが入ります。「駅に行く途中で雨が降った」は言えても「駅に行くついでに雨が降った」とは言えない、と意志のない出来事で確かめます。
関連する文型
この場面のことば・表現
- 旅行の思い出を紹介するときに使うことば・表現発表は「いつ・どこへ・だれと→心に残ったこと→おすすめ」の順で組み立てさせ、それぞれの段で使う表現をメモ用紙に並べておきます。気持ちや評価を表すことばを少し増やすと、「よかったです」のくり返しが減ります。例:「わたしが一番心に残っている旅行は〜です」「〜まで足をのばしました」「思っていた以上に〜」「今でも〜が忘れられません」「機会があったら、ぜひ〜てみてください」「〜がおすすめです」
語彙の扱い
この課の語は、観光地の特色を表す語(町並み・名物・景色)、案内や放送の決まった言い回し(ご案内・お乗り換え・見合わせる)、忘れ物を説明する語(網棚・座席・紙袋、色や形・素材)、旅の感想を表す語の四つに分かれます。案内や放送の言い回しは聞いて分かればよい語、特色や感想の語は自分の紹介で使う語として、扱いを分けます。忘れ物の語は、学習者が実際に持っている物でその場で言わせると定着しやすいです。
この課の練習で使う語(11語・意味・連語・例文)
- 名物(めいぶつ) その土地でよく知られている、特色のある食べ物や物。 町の〜・〜料理・〜を味わう
旅行の前に、友達と行き先の話をする。あの町の名物といったら、やっぱり焼き魚だよ。
- 見どころ(みどころ) 観光地などで、特に見る価値のあるところ。 〜が多い・いちばんの〜・〜を回る
パンフレットを見ながら、どのツアーにするか考える。このお寺は見どころが多くて、半日ではとても回れないね。
- 日帰り(ひがえり) 泊まらずに、出かけたその日のうちに帰ってくること。 〜旅行・〜で行く・〜ツアー
週末の予定をクラスメートと話す。温泉なら、日帰りでも十分楽しめるよ。
- 含まれる(ふくまれる) 全体の中に、その一部として入っている。 料金に〜・昼食が〜・税金が〜
ツアーの申し込みの前に、係の人に確かめる。入館料は料金に含まれていますか。
- 集合(しゅうごう) 決まった時間に、決まった場所へ人が集まること。 〜時間・〜場所・〜をかける
観光バスを降りるときに、ガイドが知らせる。集合は2時、こちらの駐車場でございます。
- 足をのばす(あしをのばす) 予定していた場所より、さらに遠くまで行く。 隣の町まで〜・少し〜・ついでに〜
旅行の紹介で、予定外に行った場所の話をする。京都に行ったついでに、奈良まで足をのばしました。
- 見合わせる(みあわせる) 事情があって、しばらくの間やめておく。電車の放送では、運転を止めていること。 運転を〜・出発を〜・しばらく〜
大雨の日に、駅で放送を聞く。ただいま、強風のため運転を見合わせております。
- 乗り換える(のりかえる) 乗っていた電車やバスから降りて、別のものに乗る。 〜線に〜・次の駅で〜・急行に〜
車内放送で、次の駅の案内を聞く。空港へおいでのお客様は、次の駅でお乗り換えください。
- 問い合わせる(といあわせる) わからないことや知りたいことを、電話などで尋ねて確かめる。 電話で〜・係に〜・忘れ物について〜
旅館を出たあと、充電器がないことに気づく。昨日泊まった旅館に、忘れ物がないか問い合わせてみます。
- 預かる(あずかる) 人の物を、頼まれてしばらくの間守っておく。 荷物を〜・鍵を〜・フロントで〜
チェックインの前に、旅館に着いた。お部屋のご用意ができるまで、お荷物をお預かりいたします。
- 払い戻し(はらいもどし) 使わなかった切符や料金のお金を、返してもらうこと。 〜を受ける・切符の〜・〜の手続き
電車が止まったので、駅の窓口に並ぶ。特急券の払い戻しは、こちらの窓口でお願いします。
宿題と次のコマ
宿題は、心に残った旅行の紹介を「〜ことに」「〜だけあって」「〜ついでに」のうち二つを入れて400字ほどにまとめ、写真を1枚持ってくること。次のコマの最初に何人かに紹介してもらい、聞き手に「クラスで多かった旅の目的は何か」を数えさせてから、第11課の1(耳でキャッチ)の、調査の結果を解説するニュースに入ります(旅の話を数えてまとめることが、調査の結果を聞き取る準備になります)。
よくある質問
『できる日本語 中級』第10課「日本を旅する」は何コマで終わりますか?
90分なら3コマが目安です。1コマ目に導入と1(パンフレットを読み比べる)と2の聞き取り、2コマ目に3の忘れ物の電話と4の車内放送、3コマ目に5の旅の紹介と課のまとめを置きます。謙譲語の復習が要るクラスは、2コマ目の頭に初中級第7課の「おVします/ごNします」を10分ほど入れると、「ご・お〜いたします」「〜ております」が聞き取りやすくなります。
「〜(さ)せていただきます」と「ご・お〜いたします」はどう違いますか?
どちらも話し手が自分のすることをへりくだって伝える形ですが、「〜(さ)せていただきます」には使役が入っていて、「相手の許しを受けて、自分がそうする」という意味合いがあります。「ご・お〜いたします」は相手のために自分が何かをすることを低めて言う形で、許しの含みはありません。ガイドの説明ではどちらもよく聞くので、まずは「どちらも動くのは話し手」と聞いてわかることを優先します。
この課の敬語の形は、学習者に言わせる練習までしたほうがいいですか?
「〜(さ)せていただきます」「ご・お〜いたします」「〜ております」「〜かねます」は、学習者が旅先で自分から言うより、ガイドや駅員・店員から聞く機会のほうがずっと多い形です。この教案では聞いてだれが何をするかがわかることを先に置き、話す練習はガイドや係の役を短く演じる程度にとどめています。客の立場で自分が言う必要があるのは、忘れ物の電話で使う「〜たつもり」「〜ように思う」のほうです。
「〜かねます」と「〜かねない」の違いはどう教えればいいですか?
形はよく似ていますが、「〜かねます」は事情があってできないとていねいに断る形、「〜かねない」は悪いことが起こるかもしれないという心配を表す形で、意味が別です。この課では「〜かねます」だけを扱い、板書の下に「〜かねない」を小さく書いて別の表現だと区別するにとどめます。詳しく比べるのは「〜かねない」が出てくる課に回すと、学習者の負担が増えません。
「〜だけあって」と「〜だけに」はどう違いますか?
どちらも「Xにふさわしい結果」を言えますが、「〜だけに」は期待が大きかったぶん残念だったこと(楽しみにしていただけにがっかりした)にも使えます。「〜だけあって」はふつう評判どおりのよい結果に使い、感心する気持ちが入ります。この課の旅の紹介ではよい評価を言う場面が中心なので、「〜だけあって」をよい結果に固定して練習し、「〜だけに」はそれが出てくる課で比べます。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。