述語の形が正しくても、助詞を一つ間違えれば文は崩れます。日本語は語順が比較的自由なぶん、語と語の関係を助詞が背負っている言語だからです。この記事では、格助詞と取り立て助詞の違いから始めて、「は」と「が」、連体修飾、条件表現、複文の階層までを一本の線でつなぎます。前編(述語のまわり)と対にして読むと、区分5の文法分野がひととおりそろいます。
日本語の助詞は、単独では使えず、語や節に付いて働く付属語です。学校文法では格助詞・接続助詞・副助詞・終助詞の四つに分けるのが一般的ですが、日本語教育では働きに注目して格助詞と取り立て助詞を対にして扱うことが多くなります。
格助詞は名詞に付いて、その名詞が述語に対してどのような関係にあるか(格)を示します。「太郎が花子に本を渡した」の が・に・を がそれです。これに対し取り立て助詞は、文中のある要素を取り上げて同類の他のものとの関係——限定・累加・極端な例——を示します。「ビールも飲む」は他にも飲むものがあることを、「ビールだけ飲む」は他は飲まないことを、言外に含意します。
両者は共起のしかたも違います。取り立て助詞は「が・を」とは共起せず置き換わり(×本をだけ読む → ○本だけ読む)、「に・で・から」とは重ねられます(学校には行く/東京からも来る)。この非対称は試験でもそのまま問われます。
もう一つ、名前が似ていて混同されるのが接続助詞と接続詞です。「雨が降ったので、中止した」の「ので」は節と節をつなぐ接続助詞(付属語)、「雨が降った。だから中止した」の「だから」は独立した語です。品詞が違う点を入れ替えた選択肢が作られます。
| 種類 | 働きと例 |
|---|---|
| 格助詞が・を・に・へ・と・で・から・より | 名詞と述語の関係(格)を示す。太郎が花子に本を渡した |
| 取り立て助詞は・も・こそ・さえ・でも・だけ・しか・ばかり | 要素を取り上げ、他との関係を含意する。副助詞・係助詞とも呼ばれる |
| 接続助詞ので・から・ば・たら・ても・が・けれど | 節と節をつなぎ従属節を作る。独立語である接続詞とは品詞が違う |
| 終助詞ね・よ・よね・な・か・かしら | 文末に付いて聞き手に対する話し手の態度を表す |
格助詞のうち学習者の誤用が最も集中するのが、多義的な「に」と「で」です。どちらも場所を表せるうえ、母語では一つの前置詞に対応してしまうことが多いためです。
ニ格は、時点(7時に起きる)、着点・方向(学校に行く)、相手(友達に渡す)、存在の場所(机の上にある)、変化の結果(医者になる)、動作の目的(買い物に行く)を表します。デ格は、動作の行われる場所(教室で勉強する)、手段・道具(はさみで切る)、材料(木で作る)、原因・理由(病気で休む)、範囲・限度(三人で行く/一時間でできる)を表します。
場所の使い分けの原則は、存在はニ格、動作はデ格です。「教室にいます」「教室で勉強します」。ここから×公園で子どもがいます → ○公園に子どもがいますという誤用が生まれ、逆向きに×図書館に本を読みます → ○図書館で本を読みますも起こります。応用試験の誤用分析でも定番の素材です。
ほかにも、対で押さえると整理しやすい組み合わせがあります。着点の「に」と方向の「へ」は多くの場面で置き換えられますが、相手を表す「友達に会う」を「×友達へ会う」とは言えません。起点の「から」と限界の「まで」、比較の基準の「より」、共同の相手の「と」も、初級で格の枠組みを作る中心になります。
取り立て助詞で試験のねらいどころになるのは、共起の制約と含意の二点です。
最も明確なのは「しか」で、必ず否定と共起します。「水しかない」「千円しか持っていない」。学習者の×水しかあります → ○水しかありませんという誤用は、この制約の未習得として説明されます。同じ限定でも「だけ」は肯定・否定のどちらでも使え、さらに「しか〜ない」にはそれだけでは足りないという否定的な評価が伴う点で異なります。「千円だけ持っている」は事実の記述ですが、「千円しか持っていない」には不足の含みがあります。
「も」は同類の追加(ビールも飲む)のほか、程度の大きさを強調する用法(三時間も待った)をもちます。「さえ」は極端な例を挙げて他を推し量らせる助詞で、「子どもさえ知っている」は「まして大人なら当然知っている」を含意します。「こそ」は他ではなくそれだ、と強く限定し(今度こそ合格する)、「でも」は「お茶でも飲みませんか」のように、一例として軽く提示する用法が会話で頻出します。
取り立て助詞は含意を生む道具なので、文法的な正誤よりも何が言外に伝わるかが問われます。「山田さんは来ました」が対比の読みを生み、「山田さんも来ました」が他の来訪者の存在を前提にする、といった読み取りです。
「は」と「が」は、そもそも品詞が違います。「は」は主題や対比を表す取り立て助詞(係助詞)、「が」は主格を示す格助詞です。「主語につく助詞が二つある」という捉え方をやめ、この整理から出発すると、使い分けの説明が組み立てやすくなります。
情報構造の面では、「は」が既知の主題を示して後ろに説明を導き(象は鼻が長い)、「が」は新情報を担います。「だれが行きますか——私が行きます」のように答えを一つに絞る用法を総記、「あ、雨が降っている」のように事態をそのまま描く用法を中立叙述と呼びます。疑問詞は「が」を取り、その答えも「が」で受ける(×だれは行きますか)という規則は、初級でそのまま使える手がかりです。
談話の中では、初出は「が」、既出は「は」という流れが基本になります。「昔々、おじいさんがいました。おじいさんは山へ…」という昔話の書き出しがその典型で、旧情報と新情報の交替がそのまま助詞に現れています。
文法的な制約としては、従属節の中では「は」が現れにくく「が」になる点が頻出です。「雨が降ったら中止です」「私が作った料理」。ただし対比の「は」は従属節の中にも現れます(お金はないが、時間はある)。学習者は「は」を多用しがちで、「昨日、私は友達に会いました。その友達は…」のように主題が次々乗り換わる、まとまりの悪い文章になりやすいところです。
節が名詞を修飾する構造が連体修飾です。日本語には関係代名詞がなく、修飾節がそのまま名詞の前に置かれます。「昨日、駅前の店で買った本」の「昨日、駅前の店で買った」がまるごと「本」に掛かります。
寺村秀夫は、被修飾名詞を修飾節の中の格成分に戻せるかどうかで二種類に分けました。「魚を焼いた人」の「人」は「(人が)魚を焼いた」と主語の位置に戻せるので内の関係です。「魚を焼いたフライパン」も「(フライパンで)魚を焼いた」と道具の位置に戻せるので、やはり内の関係になります。
これに対し「さんまを焼くにおい」の「におい」は、節の中の主語にも目的語にも道具にも戻せません。「におい」は節が表す出来事の内容を補う関係にあり、これを外の関係と呼びます。「日本へ行くという約束」「首相が辞任するといううわさ」のような、内容を受ける名詞の類も同じです。
指導上の問題は二つあります。一つは読解で、長い修飾節が続くと学習者は主節の述語を見失います。もう一つは作文で、外の関係では「〜という」が必要になる場合があることです。「〜という」を付けるかどうかは名詞によって決まるため、名詞ごとに覚えていく面があります。
条件表現は、前件と後件を条件の関係で結ぶ表現です。日本語ではと・ば・たら・ならの四形式が機能を分担していますが、意味の重なりが大きいため、学習者にとって最大級の難所になります。
使い分けの手がかりは二つ。後件に何を置けるかと、前件と後件の時間関係です。
| 形式 | 働きと制約 |
|---|---|
| と自動的・恒常的 | 前件から後件が必然的に導かれる。春になると桜が咲く/このボタンを押すと切符が出ます。後件に意志・命令・依頼・勧誘を置けない(×駅に着くと電話してください) |
| ば一般的な仮定 | 安ければ買います/押せば開きます。ことわざなど一般的な真理を述べる文になじむ(塵も積もれば山となる)。前件が状態性なら後件に意志表現も置ける(時間があれば行きます) |
| たら個別的・一回的 | 駅に着いたら電話してください。前件が済んでから後件、という時間的な前後関係を表しやすく、後件に置ける表現の制限が最も少ない |
| なら相手の発話や場面を受けて | 京都へ行くなら、秋がいいですよ。相手から得た情報を前提に助言や判断を述べる。後件が前件より先に起こりうる点で他の三つと異なる |
「なら」の時間関係は、具体例で確かめておくと確実です。「京都へ行くなら、ガイドブックを買っておくといいですよ」ではガイドブックを買うのが先、京都へ行くのが後です。「京都へ行ったら、ガイドブックを買うといいですよ」なら順序は逆になります。学習者の誤用は後件の制約を破る形が最も多く、×時間があると、映画を見に行きましょう → ○時間があったら(あれば)、映画を見に行きましょうが典型です。
さて、二つ以上の節からなる文が複文です。従属節は主節との結びつきの強さがまちまちで、その違いを段階として捉える見方が複文と従属節の階層です。南不二男は、従属節の中に現れうる要素——独自の主語、主題の「は」、丁寧さ、モダリティ——を基準に、従属節をA類・B類・C類の三段階に整理しました。骨格は単純で、結びつきが強い(従属度が高い)節ほど、外側の要素を中に取り込めなくなるということです。
最も結びつきの強いA類は、独自の主語や「は」を取りにくい従属節です(〜ながら、〜つつ)。「テレビを見ながらご飯を食べる」の主語が主節と同じでなければならないのは、そのためです。中間のB類は独自のガ格主語を取れますが、「は」やモダリティは現れにくい(〜とき、〜ば、〜たら、〜ので)。最も独立性の高いC類は、「は」も丁寧形もモダリティも現れうる節です(〜が、〜けれども、〜から、〜し)。「雨が降りますが、行きます」とは言えるのに「×雨が降りますながら」とは言えない、という対比がこの階層で説明できます。なお、どの形式をどの類に入れるかは文献によって揺れがあります。細部を暗記するより、いま述べた骨格を押さえるほうが安全です。
節と節ではなく、文と文をつなぐのが接続詞です。順接(だから・それで・したがって)、逆接(しかし・ところが)、並列・添加(そして・また・さらに)、対比・選択(一方・または)、説明・補足(つまり・なぜなら・ただし)、転換(ところで・さて)に分類されます。接続詞は指示詞や省略と並んで文章のまとまりを支える結束性(コヒージョン)の装置であり、読解では論の展開を予測する手がかりになります。話し言葉と書き言葉で使う語がずれる(でも/しかし、だから/したがって)ため、作文指導では文体との対応が問題になります。
そして文の最も外側に来るのが終助詞です。基本の対立は、「ね」=情報や気持ちの共有・同意の確認(いい天気ですね)と、「よ」=聞き手が知らないと話し手が判断した情報の提示(財布、落としましたよ)。「よね」は自分の記憶を相手に確かめます(会議は三時でしたよね)。神尾昭雄の情報のなわ張り理論は、情報がだれに近いかで使い分けを説明する枠組みとしてよく引かれます。文法的に正しくても「ね」がないとそっけなく、「よ」が多いと押しつけがましく響くため、会話指導の重要項目であり、応用試験の事例問題でも扱われます。
文の組み立ての側を、解答の道具として圧縮しておきます。
①格助詞=名詞と述語の関係、取り立て助詞=他との関係の含意。取り立て助詞は「が・を」と置き換わり、「に・で」とは重なる。②場所は存在がニ格、動作がデ格。③「しか」は否定との共起が義務で、不足の評価を伴う。④「は」は主題の取り立て助詞、「が」は主格の格助詞。疑問詞とその答えは「が」、従属節の中も「が」。⑤連体修飾は被修飾名詞を節に戻せれば内の関係、戻せなければ外の関係。⑥条件は「と」の後件に意志・命令・依頼・勧誘を置けない、「なら」だけ後件が先に起こりうる。⑦従属節の階層は従属度が高いほど外側の要素を取れない。接続詞は文と文、接続助詞は節と節。⑧終助詞は「ね」=共有/「よ」=聞き手の知らない情報の提示。
この八点が言えれば、区分5のうち文の組み立てに関する選択肢はほとんど機械的に切れます。ヴォイス・テンス・アスペクト・モダリティといった述語のまわりは、前編の記事で扱っています。個々の用語は用語集の各ページで確認してください。
1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。