日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策の問題集

教授法の流れ — それぞれが何を重視し、何を捨てたのか

区分4 言語と教育 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

教授法は名前と特徴を丸暗記しても、選択肢の言い換えに対応できません。どの教授法にも「言語をどう捉えるか」(言語観)と「どう身につくと考えるか」(学習観)があり、新しい教授法はたいてい直前の教授法の弱点への反発として生まれています。この記事では成立順に、それぞれが何を得て何を捨てたのかをたどります。

文法訳読法 — 読み書きのための言語

ヨーロッパでラテン語やギリシャ語の古典を読むために発達した方法が、そのまま近代語の教育に持ち込まれたものです。文法規則を母語で説明し、対訳しながら文章を読み進めます。

長所は、教師に高い会話力が要らず、大人数の教室でも成立し、読解力と文法知識が体系的に身につくこと。短所は明確で、聞く・話す力がほとんど育たない点にあります。言語を「規則と語彙の知識」と捉える言語観に立っており、以降のすべての教授法は、この弱点への応答という側面を持っています。

直接法とオーディオリンガル・メソッド — 母語を使わない

19世紀末、母語を介さずに目標言語だけで教える直接法が現れます。子どもが母語を身につける過程を模し、実物や絵、動作を使って意味を伝え、聞く・話すを重視しました。ベルリッツなどの語学学校で広まった方法です。

その流れを、行動主義心理学と構造言語学が理論的に裏づけたのがオーディオリンガル・メソッドです。言語習得は習慣形成であるという前提に立ち、パターン・プラクティスによる反復で正しい形を定着させ、誤りは悪いくせとして生じる前に防ぐ。第二次世界大戦中の米軍の語学教育を背景に、1950〜60年代に全盛を迎えました。

しかし、教室では正確に言えるのに実際の場面で使えない、機械的な練習が退屈だ、といった問題が指摘されます。チョムスキーによる行動主義批判——人は聞いたことのない文を無限に作れる——も理論的な打撃になりました。これを受け、規則を意識的に理解してから練習する認知学習理論に基づく立場も現れます。

まぎらわしい選択肢の注意点「直接法=媒介語を使わない教え方の総称」「オーディオリンガル=行動主義+構造言語学」。オーディオリンガルを直接法の一種として整理する立場もありますが、理論的背景(行動主義・習慣形成)で識別するのが基本です。

コミュニカティブ・アプローチ — 「正しさ」から「使えること」へ

1970年代、ハイムズがコミュニケーション能力という概念を提示します。文法的に正しい文を作れることと、場面や相手に応じて適切に使えることは別だ、という主張です。ここから、教育の目標そのものが「正確さ」から「実際に使えること」へと移りました。

コミュニカティブ・アプローチは特定の手順をもつ一つの方法ではなく、この目標を共有する考え方の総称です。実際の教室では、情報の差を埋めるために話さざるを得ない状況を作るインフォメーション・ギャップ、場面を設定して演じるロールプレイ、意味のやり取りを中心に据えた活動が用いられます。

誤りの扱いも変わりました。オーディオリンガルが誤りを避けるべきものとしたのに対し、こちらは意味が伝わっているうちは流れを止めないことを重視します。授業の流れを保ったまま正しい形を示すリキャストが使われるのはこのためです。

1970年代の個性的な教授法群

同じ頃、学習者の心理面に注目した教授法がいくつも提案されました。試験では提唱者と特徴の組み合わせが問われます。

教授法特徴
TPR全身反応教授法・アッシャー教師の指示に体を動かして反応する。話すことを強制せず、聞く力が十分育つまで沈黙期を認める
サジェストペディアロザノフ音楽や快適な環境で緊張と不安を取り除き、学習の心理的な壁を下げる
サイレント・ウェイガテーニョ教師が沈黙し、色つきの棒などを使って学習者自身に発見させる
コミュニティ・ランゲージ・ラーニングカラン学習者が話したいことを教師が訳して支え、集団の人間関係のなかで学ぶ
ナチュラル・アプローチクラッシェン&テレル理解可能なインプットを大量に与え、産出を焦らせない。情意フィルターを下げる

TBLT — 課題を通して身につける

1980年代以降に有力になったのがTBLT(タスク中心の教授法)です。ここでのタスクとは、言語そのものではなく言語を使って達成すべき目標を指します。「地図を見て道を説明し、相手に目的地までたどりつかせる」のように、成果によって達成が測れるものです。

文型を教えてから練習するのではなく、タスクに取り組むなかで必要な言語形式に注意が向く、と考えます。「〜てください」を練習してから使うのではなく、道案内をやってみて言えなかったところから学ぶ、という順序です。

つまりシラバスの単位が「文法項目」から「課題」へ移りました。この発想は、能力を「何ができるか」で記述するCEFRや日本語教育の参照枠のCan doとも地続きです。学習者を社会的に行動する存在と捉える点で、現在の枠組みの主流に直接つながっています。

注意したいひっかけ「タスク=文法練習の一種」「タスク=ゲーム的な活動」と説明した選択肢は誤り。タスクの要件は意味のやり取りが中心にあり、達成の成否が言語以外の成果で判断できることです。

試験に向けての整理

全体を一本の線にまとめておきます。

①文法訳読法=読み書き中心・母語で説明。話せない。②直接法=母語を使わず目標言語だけ。③オーディオリンガル=行動主義+構造言語学、パターン・プラクティスで習慣形成、誤りは防ぐ。④チョムスキーの批判と「教室ではできるのに使えない」問題。⑤コミュニカティブ・アプローチ=ハイムズのコミュニケーション能力、目標が「使えること」へ。⑥TPR・サジェストペディア・サイレント・ウェイ・CLL・ナチュラル・アプローチ=心理面・情意面への注目。⑦TBLT=課題を単位に。参照枠のCan doへ接続。

この順序が頭に入っていれば、「どの理論的背景に立つか」を問う選択肢はほぼ確実に切れます。個々の教授法の詳細は用語集の各ページで確認してください。

この記事に出てくる用語

1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。

参照した一次資料

この記事の記述は、次の公的資料と突き合わせて書いています。制度の細部は必ず原文で確かめてください。

この記事の練習問題(20問)

この記事の内容から作った問題です。1問ずつ解いて、解説まで読めます。

教授法と、その教授法が言語や学習を捉える際に直接の基盤とする理論の組み合わせとして、…基礎試験 練習問題 1115
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内容(Content)・言語(Communication)・思考(Cognition…基礎試験 練習問題 1116
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オーディオリンガル・メソッドのパターン・プラクティスと、それに対する批判に関する記述…基礎試験 練習問題 1117
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エリス(Ellis)の基準に基づく、TBLTにおける「タスク」の要件に関する記述とし…基礎試験 練習問題 1118
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直接法に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1273
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リキャストの説明として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1282
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TPR(全身反応教授法)に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1289
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インフォメーション・ギャップのある活動として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1294
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相手しか知らない予定を質問で確かめ、二人で会える日時をその場で決めるロールプレイを行…基礎試験 練習問題 1300
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「語形変化や語順などの規則を明示的に学び、学習する言語のテキストを母語に置き換えたり…基礎試験 練習問題 1356
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オーディオリンガル・メソッドで重視される、教師のキュー(合図)に合わせて文型を反復・…基礎試験 練習問題 1377
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「言語の形式ではなく、意味に焦点があり、情報や意見の差を埋める必要があり、達成すべき…基礎試験 練習問題 1396
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教科や社会の内容と言語を一つの授業で統合して学び、内容・コミュニケーション・思考・文…基礎試験 練習問題 1397
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学習者が「きのう映画を見ます」と言ったのに対し、教師が「ああ、きのう映画を見たんです…基礎試験 練習問題 1459
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学習者の母語や、学習者と教師に共通する言語を使わず、実物や絵、動作、場面を手がかりに…基礎試験 練習問題 1460
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文法的に正しい文を作れることと、場面や相手に応じて適切に使えることは別だ、というハイ…基礎試験 練習問題 1489
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ブルガリアのロザノフが提唱した教授法で、学習者が新しい名前と役柄を与えられてその人物…基礎試験 練習問題 1510
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子どもが母語を身につける過程を手本にした教授法で、学習者は「立ってください」「ドアを…基礎試験 練習問題 1528
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言語の習得を正しい習慣づくりととらえ、教師のモデル文を聞いてまね、覚えるまで繰り返さ…基礎試験 練習問題 1548
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「道に迷った旅行者」と「通りかかった地元の人」のように、場面と、それぞれがどんな立場…基礎試験 練習問題 1570
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この記事の練習問題を続けて解く問題演習で、この記事のテーマ(区分「言語と教育」)だけを一問ずつ出題します
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