日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策の問題集

第二言語習得の理論 — 5つの仮説と学習者のなかで起きていること

区分3 言語と心理 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

区分3「言語と心理」は、用語だけを丸暗記すると名前と中身を入れ替えた選択肢で必ず崩れます。この記事では、第二言語習得研究がどんな順序で問いを立て直してきたかをたどりながら、クラッシェンの5仮説・中間言語・動機づけを一本の線でつなぎます。個々の用語は用語集で確認できるので、ここでは理論どうしの関係を押さえてください。

出発点 — 誤りは「悪いくせ」なのか

1950〜60年代の外国語教育は、行動主義心理学に立っていました。言語習得は習慣形成であり、母語の習慣が邪魔をして誤りが起きる。だから母語と目標言語を比較すれば、つまずく箇所は事前に予測できる——これが対照分析仮説の考え方です。オーディオリンガル・メソッドが徹底した反復練習で誤りを未然に防ごうとしたのは、この理論的背景があったからです。

ところが実際の学習者を観察すると、予測どおりに誤らない箇所があり、逆に母語と無関係な誤りが大量に見つかりました。そこで研究の関心は「事前に予測する」ことから「実際に出た誤りを分類して、学習者の頭の中を推測する」ことへ移ります。これが誤用分析です。

誤用分析は、誤りを母語の影響による言語間の誤りと、目標言語の規則の過剰般化(過剰一般化)などによる言語内の誤りに分けました。「大きい→大きくない」の類推で「きれい→きれいくない」と作るような誤りは、母語が何であれ起こります。誤りは悪いくせではなく、学習者が規則を仮説として立てている証拠だという見方への転換が、ここで起きました。

ここで使われる言語転移という考え方も押さえておきます。既に知っている言語(多くは母語)の知識が、第二言語の学習や使用に影響することを指し、習得を助ける方向に働く場合を正の転移、誤用につながるなど妨げる方向に働く場合を負の転移といいます。母語からの負の転移は母語干渉とも呼ばれます。中国語を母語とする学習者が漢字の知識に助けられて日本語の漢字語を理解しやすいのは正の転移の例で、同じ学習者でも、母語と日本語で意味のずれる漢字の語では負の転移が起こりえます。転移は音声・語彙・文法・語用など、さまざまな層で見られ、上級になれば完全に消えるというものでもありません。ただし、ある誤用を負の転移と判断するには、既に知っている言語の影響だという根拠が必要で、過剰般化のような言語内の誤りとは区別します。

対照分析と誤用分析の順序対照分析=母語と目標言語を比べて誤りを予測(事前)/誤用分析=実際の誤りを分類して習得過程を推測(事後)。研究はこの順に進んだので、前後関係を入れ替えると誤りになります。

中間言語 — 学習者は独自の文法を持っている

この転換を一つの概念にまとめたのが、セリンカーの中間言語です。学習者の言語は、母語でも目標言語でもない、独自の規則をもった体系である。しかもそれは学習が進むにつれて作り替えられていく、動的なものである——そう捉えます。

中間言語には、母語の影響、目標言語の規則の過剰般化、指導の影響、学習ストラテジーやコミュニケーション・ストラテジーの影響など、複数の要因が入り込みます。だから学習者の発話は「不完全な日本語」ではなく、その時点での体系として一貫していると見るのが正しい理解です。

そして一部の学習者では、ある段階で言語形式が固定してしまい、それ以上変化しなくなることがあります。これが化石化です。意思疎通に困らなくなると訂正の必要を感じにくくなるため、流暢に話す上級者にも起こる点が重要で、「初級段階でつまずくこと」と説明した選択肢は誤りになります。

クラッシェンの5仮説 — 名前と中身を対で覚える

1980年代前後、クラッシェンは第二言語習得を説明する5つの仮説をまとめました。総称してモニターモデルと呼びます。これはこの分野の中心となる部分であり、同時に名称と内容を入れ替えた選択肢が最も作りやすい部分でもあります。5つを一覧で対にして覚えてください。

仮説主張の中身
習得・学習仮説acquisition / learning無意識に身につく習得と、意識的に規則を学ぶ学習は別物で、学習したものは習得に変わらない
自然習得順序仮説natural order文法項目には母語や指導順序によらない共通の習得順序がある。教えた順に身につくわけではない
モニター仮説monitor学習して得た知識は、産出を点検・修正する監視装置としてしか働かない
インプット仮説i+1現在の力より少しだけ上の理解可能なインプットを受け取ることで習得が進む
情意フィルター仮説affective filter不安・自信のなさ・動機の低さが心理的なフィルターとなり、インプットの取り込みを妨げる
注意したいひっかけ「i+1=インプット仮説」「不安=情意フィルター仮説」「指導順序では変えられない=自然習得順序仮説」の3点は必ず対で。とくにインプット仮説と情意フィルター仮説の入れ替えに注意してください。

インプットだけで足りるのか — アウトプット・やり取り・気づき

クラッシェンの主張は「理解可能なインプットさえあれば習得は進む」という強いものでした。しかしイマージョン教育の観察から、大量のインプットを浴びた学習者でも産出の正確さが伸び悩むことが分かってきます。ここから、インプットを補う3つの理論が出てきました。

スウェインのアウトプット仮説は、話す・書くことで初めて「言いたいことが言えない」という穴に気づき、意味の理解では素通りできた文法形式に注意が向く、と主張します。ロングのインターアクション仮説は、聞き返しや言い直しといった意味交渉のやり取りを通じて、インプットが学習者に合わせて調整されることを重視します。そしてシュミットの気づき仮説は、インプットが習得に取り込まれるには、学習者がその形式に意識的に気づく必要があると述べます。

教室で使われるリキャスト——学習者の誤りを、会話の流れを止めずに正しい形で言い直す手法——は、この文脈に位置づくと理解しやすくなります。訂正されたと気づかれなければ効果が薄い、という指摘は、まさに気づき仮説からの批判です。

学習者側の要因 — 動機づけ・年齢・記憶

同じ教室で同じ授業を受けても習得に差が出るのはなぜか。この問いを扱うのが学習者要因の研究です。

動機づけには2つの有名な対があり、混同しやすいところです。ガードナーとランバートの統合的動機づけ(その言語の話者や文化に近づきたい)と道具的動機づけ(進学・就職など実利のため)は目標の方向による分類です。これに対し内発的動機づけ(学ぶこと自体が楽しい)と外発的動機づけ(報酬や評価のため)は動機の源による分類で、まったく別の軸です。「統合的=内発的」と結びつけた選択肢は誤りです。

年齢については臨界期仮説があります。一定の年齢を過ぎると母語話者並みの習得が難しくなるという主張ですが、影響が最も明確なのは発音であり、語彙や文法では年長者のほうが初期の学習速度が速いという知見もあります。「子どものほうがあらゆる面で有利」と言い切った選択肢は誤りです。

さらに、情報を一時的に保持しながら処理するワーキングメモリの容量差、自分の学習を計画・監視・評価するメタ認知ストラテジーの使い方、そして言語適性の個人差が、習得の速さと到達度に関わるとされています。

試験に向けての整理

この記事の流れを、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。

①研究は対照分析(予測)→誤用分析(事後の分類)→中間言語(独自体系)と進んだ。②中間言語が固定する現象が化石化で、上級者にも起こる。③クラッシェンの5仮説は名称と中身を対で。④インプット一本槍への補完としてアウトプット・インターアクション・気づきが出た。⑤動機づけは統合的/道具的と内発的/外発的で軸が違う。⑥臨界期の影響が最も明確なのは発音。

この6点が言えれば、区分3の選択肢はほとんど機械的に切れます。細部は用語集の各ページで確認してください。

この記事に出てくる用語

1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。

参照した一次資料

この記事の記述は、次の公的資料と突き合わせて書いています。制度の細部は必ず原文で確かめてください。

この記事の練習問題(45問)

この記事の内容から作った問題です。1問ずつ解いて、解説まで読めます。

強い対照分析仮説に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1067
▸
誤用分析における「エラー」と「ミステイク」の区別について、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1068
▸
「習った規則を例外にあたる語にまで当てはめてしまうことで生じる誤り。母語背景の異なる…基礎試験 練習問題 1069
▸
セリンカーの中間言語に関する記述として、適当でないものはどれか。基礎試験 練習問題 1070
▸
化石化に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1071
▸
クラッシェンのモニターモデルを構成する5つの仮説に含まれないものはどれか。基礎試験 練習問題 1072
▸
クラッシェンの習得・学習仮説について、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1073
▸
「文法項目には先に身につくものと後に身につくものがあり、その傾向は学習者の母語や指導…基礎試験 練習問題 1074
▸
クラッシェンがモニターの使用に必要とした3つの条件の組み合わせとして、最も適切なもの…基礎試験 練習問題 1075
▸
ロングのインターアクション仮説について、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1076
▸
「インプットが習得に取り込まれるためには、学習者がその言語形式を意識的に捉える必要が…基礎試験 練習問題 1077
▸
スウェインが挙げたアウトプットの機能の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1078
▸
第二言語学習の動機づけの分類について、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1079
▸
臨界期仮説と年齢要因に関する記述として、適当でないものはどれか。基礎試験 練習問題 1080
▸
「外国語を学ぶ速さや到達度に関わる学習者個人の素質。音声符号化能力や文法的感受性など…基礎試験 練習問題 1081
▸
学習ストラテジーと学習者オートノミーに関する記述として、適当でないものはどれか。基礎試験 練習問題 1082
▸
誤用分析における誤りの分類に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1264
▸
第二言語学習の動機づけの分類に関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1287
▸
内発的動機づけと外発的動機づけに関する記述として、最も適切なものはどれか。基礎試験 練習問題 1299
▸
言語転移に関する記述として、適当でないものはどれか。基礎試験 練習問題 1302
▸
「母語と目標言語の構造を前もって比べれば、違うところを学習上の困難点として予測できる…基礎試験 練習問題 1352
▸
ロングが提唱した、会話が通じにくいときに起こる聞き返し・確認・言い換えなどの意味交渉…基礎試験 練習問題 1353
▸
「母語の知識が第二言語の学習に影響し、誤用につながるなど習得を妨げる方向に働くこと」…基礎試験 練習問題 1354
▸
クラッシェンの仮説のうち、「意識的な学習で得た知識は、十分な時間があり、言語形式に注…基礎試験 練習問題 1372
▸
「学習者が実際に産出した文のうち、目標言語の規則から外れたものを集めて分類し、その原…基礎試験 練習問題 1373
▸
「言語習得には脳の発達と結びついた適切な時期があり、思春期ごろを過ぎると母語話者並み…基礎試験 練習問題 1374
▸
「学習者が言語の学習を効果的に進めるために意識的に用いる工夫や手立ての総称」を何とい…基礎試験 練習問題 1375
▸
クラッシェンが第二言語の知識を2種類に分けた区別で、「規則を意識的に覚えるのではなく…基礎試験 練習問題 1392
▸
クラッシェンの5つの仮説の中核で、「学習者の現在のレベルより少しだけ上の、理解できる…基礎試験 練習問題 1393
▸
誤用分析の分類で、母語などの影響によるものではなく、習った規則を例外にまで広げるなど…基礎試験 練習問題 1414
▸
報酬や評価、試験の合格のためではなく、活動そのものへの興味や楽しさ、充実感から生じる…基礎試験 練習問題 1415
▸
ガードナーとランバートの分類で、就職や進学、資格の取得、昇給など、実利的な目的のため…基礎試験 練習問題 1434
▸
母語などの知識が第二言語の学習に影響するとき、漢字圏の学習者が漢字の語の理解で有利に…基礎試験 練習問題 1435
▸
学習者が、限られた言語知識のままで意思疎通を成り立たせ、会話を続けるために、その場で…基礎試験 練習問題 1453
▸
誤用分析の分類で、学習者の母語など、目標言語以外にすでに知っている言語の影響によって…基礎試験 練習問題 1455
▸
セリンカーが提唱した、学習者の誤用を取り除くべき失敗ではなく習得の過程を映す資料とし…基礎試験 練習問題 1485
▸
クラッシェンの5つの仮説のうち、誤りをその場で細かく訂正するほど学習者が黙り込む、と…基礎試験 練習問題 1486
▸
スウェインが提唱した、話すことや書くことという産出そのものが習得を促進するという主張…基礎試験 練習問題 1487
▸
日本で長く暮らし、日常会話は流暢な学習者が、「きのう図書館に行くでした」のような形を…基礎試験 練習問題 1505
▸
聴解で、前に聞いた内容を頭にとどめておきながら、続く文を聞き取って話の筋を組み立てる…基礎試験 練習問題 1506
▸
学期の初めに、この学期は聴解に時間を使おうと決め、途中で自分がどこでつまずいているか…基礎試験 練習問題 1507
▸
ガードナーとランバートの分類で、日本人と結婚して日本の町に暮らす学習者が、近所の人た…基礎試験 練習問題 1526
▸
漢字の小テストで満点を取るとシールがもらえ、宿題を忘れると叱られるので勉強している子…基礎試験 練習問題 1546
▸
初級の学習者どうしのペアワークで、相手の言葉が分からないときに「え、何ですか」と聞き…基礎試験 練習問題 1547
▸
クラッシェンが1980年代前後にまとめた第二言語習得の理論の総称で、習得と学習は別物…基礎試験 練習問題 1565
▸
この記事の練習問題を続けて解く問題演習で、この記事のテーマ(区分「言語と心理」)だけを一問ずつ出題します
▸
PR参考書・問題集

読んだ用語を1冊で引き直す・体系で押さえ直すなら。

おすすめ教材の一覧はこちら