情報を一時的に保持しながら、同時にその情報を処理する記憶の仕組み。作動記憶・作業記憶とも呼ばれる。バドリー(Baddeley)らのモデルが広く知られ、音韻ループ・視空間スケッチパッド・中央実行系などの構成要素が想定されている。
定義の核は「保持」と「処理」の同時進行であり、単に短時間ためておくだけの短期記憶とは区別される。聴解で前の内容を覚えながら次を聞き取る、読解で前文の情報を保ちながら指示語を解釈する、といった場面で働き、容量には個人差がある。
記憶の全体像は、感覚記憶 → 短期記憶 → 長期記憶(宣言的記憶=意味記憶・エピソード記憶/手続き的記憶)という流れで整理される。ワーキングメモリは、この短期記憶の考え方を、保持に処理の働きを加えたものとして捉え直した概念である。長期記憶への定着には、機械的な繰り返し(維持リハーサル)より、意味づけや関連づけを伴う精緻化リハーサル、間隔をあけて繰り返す分散学習、思い出す練習(検索練習)が有効とされる。
聴解で「田中さんは駅で山田さんに会う予定でしたが、電車が遅れたので、先に店に行くことにしました」と聞き、最初に会う予定だった場所を答えるには、前半の情報を保ったまま後半を処理する必要がある。この「覚えながら考える」働きを担うのがワーキングメモリである。初級の学習者は語を聞き取るだけで容量を使い切りやすく、長い文の内容を保てないことがある。
教室では、指示を一度に三つ出さず一つずつ出す、長い文章を読む前に語彙を確認しておく、キーワードを板書に残しておく、といった工夫でワーキングメモリへの負担を減らすことができる。読みながら知らない語を辞書で引き続けると内容が頭に残らない、という学習者の訴えも、この負担の観点から説明できる。
読んだ用語を1冊で引き直す・体系で押さえ直すなら。