みんなの日本語 初級Ⅱ 第30課「非常袋を準備しておかないと」の教案
『みんなの日本語 初級Ⅱ 第2版 本冊』 ・ 会話「非常袋を準備しておかないと」
て形に「あります」「おきます」が付く二つの言い方を扱う課です。前半の「〜てあります」は、だれかが目的があってした動作の結果が、いまも残っている様子を言います。第29課の「窓が開いています」(自動詞+ています)と並べて、「窓が開けてあります」(他動詞+てあります)には、開けた人と理由がある、という一本の線を引くのがこの課の芯です。後半の「〜ておきます」は、あとのために前もってする「準備」、使ったあとに片づけておく「措置」、いまの状態をそのままにする「放置」の三つの使い方を、場面を変えて一つずつ入れます。
このページについて教科書の会話・例文・練習の文は載せていません。例文と場面はすべて自作です。文型の表記は出版社のシラバス一覧に合わせています。
学習項目5時間90分×2コマ
この課のねらい(Can-do)
- 「壁にカレンダーが掛けてあります」で、だれかが目的があって置いたり掛けたりした物の様子を言える
- 「カレンダーは壁に掛けてあります」で、聞かれた物がどこにどうしてあるかを答えられる
- 「旅行の前にホテルを予約しておきます」で、あとのために前もってすることを言える
- 「食べたら、お皿を洗っておいてください」「窓はそのままにしておいてください」で、片づけや、状態をそのままにすることを頼める
進め方と時間配分
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 導入(復習とつなぎ) | 10分 | 第29課の自動詞・他動詞のペア(開く/開ける、閉まる/閉める、つく/つける)を絵カードで回し、「窓が開いています」を言わせてから、教師が窓を開ける動作を見せて次の文型につなぐ |
| 文型1(〜に〜が〈Vて形〉あります) | 35分 | 教室の壁・机に物を掛けたり並べたりしてから、「壁に地図が貼ってあります」。板書で「地図を貼ります」の「を」を「が」に変え、第29課の「〜ています」と左右に並べて、だれかがしたかどうかの違いを示す |
| 文型2(〜は〜に〈Vて形〉あります) | 20分 | 「地図はどこですか」と聞いて「地図は壁に貼ってあります」と答える。文型1と同じ事実を、聞かれた物を「は」で前に出して言い換える練習 |
| 文型3(〜ておきます・準備) | 30分 | 旅行や会議の予定表を見せて、「その前に何をしますか」。「切符を買います」と「切符を買っておきます」を並べ、「あとのために、前に」と板書する。文型1の「〜てあります」とのつながり(買っておいた→買ってあります)も一行で見せる |
| 文型4・5(〜ておきます・措置/放置) | 35分 | ホチキスを使ったあと箱に戻す動作で「使ったら、箱に戻しておいてください」(措置)。次に、開いている窓を指して「暑いですから、開けておいてください」「そのままにしておいてください」(放置)。三つの「おきます」を板書の一つの表にまとめる |
| 会話 | 25分 | 地震などの災害に備えて、非常袋に何を入れておくかを話す流れ。題の「準備しておかないと」は文型3の「〜ておきます」の後ろに否定と「と」が付いた形で、かたまりで意味をつかませる |
| 練習C・問題 | 25分 | 練習Cは「部屋の様子を説明する」「パーティーの前の準備を相談する」「使った物の片づけを頼む」の三つの場面で。問題は聞き取りを教室で、残りは宿題に |
学習項目 1 〜に〜が〈Vて形〉あります
意味・はたらき文型 1
「壁にカレンダーが掛けてあります」のように、だれかが目的があってした動作の結果が、いまもそのまま残っている様子を言う文型です。使えるのは「掛けます・貼ります・置きます・並べます」のような他動詞だけで、もとの文の「を」は「が」になります(カレンダーを掛けます→カレンダーが掛けてあります)。第29課の「窓が開いています」(自動詞+ています)は目の前の状態を言うだけですが、「窓が開けてあります」は、だれかが何かのために開けた、という気持ちが入ります。動作をした人は文に出しません。
接続
〈場所〉に+N(物)が+他動詞のて形+あります(もとの文の「を」→「が」)
形
壁にカレンダーが掛けてあります机の上に資料が並べてあります入り口に地図が貼ってあります窓が開いています(自動詞・状態だけ)/窓が開けてあります(他動詞・だれかが目的があって開けた)
導入
- 教師の動作から結果を見せる学生の前で、教師が壁にポスターを貼り、机にノートを3冊並べ、花をテーブルに置く。手を止めてから、「わたしが貼りました。いま、壁にポスターが……」と言って「貼ってあります」を聞かせる。板書は「ポスターを貼ります」→「を」を消して「が」→「ポスターが貼ってあります」の順で、色チョークで「を→が」を囲む。
- 第29課の「〜ています」と左右に並べる板書の左に「窓が開いています」、右に「窓が開けてあります」を書き、右にだけ人の絵(棒人間)と「暑いですから」という吹き出しを描く。「左は窓の様子だけ。右はだれかが、わけがあって開けた」と一言で区別する。左は自動詞、右は他動詞、と動詞の下に書き分けておく。
板書案
〈場所〉に + N が + Vて(他動詞)+ あります
ポスターを 貼ります → 壁に ポスターが 貼って あります。
〔赤〕「を」に×をして横に「が」、二つを丸で囲む
左: 窓が 開いて います(自動詞・様子だけ)|右: 窓が 開けて あります(他動詞・だれかが わけがあって)
〔青〕右の文にだけ棒人間と「暑いですから」の吹き出し
場面と発話(自作)
- 新しいアパートに友達が遊びに来た。部屋の壁を見て、何があるか説明する。壁に国の写真が貼ってあります。母が撮った写真です。
- 会議の前に会議室へ行ったら、もう準備ができていた。同僚に部屋の様子を伝える。机の上に資料が並べてありますよ。
- 寒い日、教室の窓が開いていた。先生に聞くと、空気を入れ替えるために先生が開けたと分かった。ああ、窓が開けてあるんですね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
絵カード(物と動作)で「ポスターを貼ります→壁にポスターが貼ってあります」の言い換え(練習Bの型)を10枚。続けて、部屋の絵を見せてペアで「机の上に何がありますか」「〜が〜てあります」の問答を回し、最後に自分の部屋の様子を三文で説明するやり取り(練習Cの型)にする。
- 口頭教師が教室で貼る・掛ける・飾る・並べる動作を一つずつ見せたあと、絵カードで「ポスター・貼ります」「カレンダー・掛けます」「花・飾ります」「いす・並べます」とキューを出し、全体で「ポスターが貼ってあります」。次に場所を足したキュー(「壁・ポスター・貼ります」)で「壁にポスターが貼ってあります」まで伸ばし、個人に当てる。最後に第29課の自動詞のカード(開きます・つきます)を混ぜ、自動詞なら「〜ています」、他動詞なら「〜てあります」と言い分けさせる。
- ペア情報差の練習。Aには物が飾ったり並べたりしてある部屋の絵、Bには家具だけの空の部屋の絵を渡す。Bが「壁に何がありますか」「机の上に何がありますか」と聞き、Aが「〜に〜が〜てあります」で答え、Bは聞いたとおりに絵に描き込む。3つ聞いたら二人で絵を見比べ、カードを替えて役を交替する。
- 産出「わたしの部屋紹介」。自分の部屋(または住みたい部屋)の様子を、写真か簡単な絵を見せながら三文で紹介する。教師が見るのは、助詞が「が」になっているか、「〜てあります」の前が他動詞か、「*窓が開けています」のように「〜ています」と混ざっていないか。紹介のあとに聞き手から「だれが飾りましたか」と一つ質問させると、「だれかがした」という意味の確認にもなる。
つまずきと手当て
- 自動詞に「〜てあります」を付ける(×窓が開いてあります、×電気がついてあります)。「てあります」の前は「〜を〜ます」と言える動詞だけ、と板書の動詞の下に「を」を書いておく
- 「を」のまま使う(壁にカレンダーを掛けてあります)。日本語として誤りではなく、だれかがした動作のほうに少し重心が寄る言い方だが、初級では「が」の文と混ざって助詞が揺れるもとになる。この課は「が」で統一する、と最初に言っておき、学習者から「を」が出ても誤りとしては直さない
- 他動詞に「〜ています」を付けて様子を言う(×窓が開けています)。「開けています」は、いま開けている最中の動作になる。様子を言うなら「開いています」か「開けてあります」の二つだけ、と板書の左右を指す
既習の文型との違い
- Nが〈V(自動詞)て形〉います(第29課)「窓が開いています」は自動詞で、いまの窓の様子だけを言い、だれが開けたかには関心がありません。「窓が開けてあります」は他動詞で、だれかが目的があって開けた結果を言います。学習者は「*窓が開けています」「*窓が開いてあります」と両方を混ぜるので、動詞のペアのカードで、まず自動詞か他動詞かを決めてから形を選ばせます。
- 〈場所〉にN(物)があります(第10課)「机の上に本があります」は物がそこにあるという存在だけを言います。「机の上に本が置いてあります」は、だれかが置いた、という動作の跡まで言います。置いた物を「あります」だけで言っても誤りではないので、「わけがあってそこにある」と伝えたいときに「〜てあります」を選ぶ、と整理します。
関連する文型
学習項目 2 〜は〜に〈Vて形〉あります
意味・はたらき文型 2
文型1と同じ「〜てあります」を、話題にしたい物を「は」で前に出して言う形です。「カレンダーはどこですか」と聞かれて「カレンダーは壁に掛けてあります」と答えるように、どこにどうしてあるかを説明するときに使います。第10課の「Nは〈場所〉にあります」と同じ関係で、「が」の文(何がありますか)と「は」の文(〜はどこですか)を、質問によって使い分けます。
接続
N(物)は+〈場所〉に+他動詞のて形+あります
形
カレンダーは壁に掛けてありますかぎは引き出しに入れてありますごみの日のお知らせは玄関に貼ってあります(何が?)壁にカレンダーが掛けてあります/(どこ?)カレンダーは壁に掛けてあります
導入
- 物を探す場面を作る教師が「はさみはどこですか」と困った顔で探すふりをし、学生に引き出しを開けさせる。見つかったら「はさみは引き出しに入れてあります」と言い、板書の文型1の文(引き出しにはさみが入れてあります)の下に並べて、「は」と「が」の位置が入れ替わるだけ、と矢印で示す。
板書案
N は + 〈場所〉に + Vて + あります
(何が?)引き出しに はさみが 入れて あります。
(どこ?)はさみは 引き出しに 入れて あります。
〔赤〕「が」と「は」を丸で囲み、二つの文の間に入れ替わりの矢印
〔青〕第10課: 〜に 〜が あります / 〜は 〜に あります を横に小さく
場面と発話(自作)
- ホームステイの家で、家族が出かける前に、自転車のかぎの場所を教えてくれる。自転車のかぎは玄関の机の上に置いてあります。
- 寮の新しい学生に「ごみの出し方が分からない」と言われた。説明が書いてある紙の場所を教える。ごみの出し方は、台所の壁に貼ってありますよ。
- 会社で、同僚に会議の資料がどこにあるか聞かれた。資料はもうコピーして、会議室の机に並べてあります。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
部屋の絵を見ながら教師が「〜はどこですか」とキューを出し、学生が「〜は〜に〜てあります」で答える(練習Bの型)。次にペアで、一人が自分の部屋の物を一つ選んで「〜はどこにありますか」と聞き、もう一人が想像で答えるやり取りにする。
- 口頭物と場所と動詞の絵カード(かぎ・引き出し・入れます/地図・入り口・貼ります/花・テーブル・置きます/カレンダー・壁・掛けます)を見せ、教師が「かぎはどこですか」と聞いて、全体で「かぎは引き出しに入れてあります」。慣れたら、教師の質問を「引き出しに何が入れてありますか」と「かぎはどこですか」で交互に出し、質問に合わせて「が」の文と「は」の文を切り替えさせる。
- ペア「物さがし」。Aは物の場所が描いてある部屋の絵、Bは物の名前だけが書いてあるリストを持つ。Bが「〜はどこですか」と聞き、Aが「〜は〜に〜てあります」で答え、Bは空の部屋の図に印を付ける。4つ聞いたら絵を替えて交替し、最後に答え合わせをする。
- 産出「ありかメモ」。自分が家を何日か空けるあいだ、ルームメイトや家族が困らないように、物の場所を伝えるメモを三文で書き、ペアの相手に読んで聞かせる(かぎ・ごみの出し方の紙・薬など、実際の自分の物で)。教師が見るのは、「は」で前に出した物を後ろでもう一度言っていないか、場所が「に」になっているか、他動詞の「〜てあります」になっているか。
つまずきと手当て
- 「は」の文の中に「が」も残す(×カレンダーは壁にが掛けてあります、×カレンダーは壁にカレンダーが掛けてあります)。「は」で前に出した物は、後ろではもう言わない
- 質問と答えの形がずれる(「何が掛けてありますか」に「カレンダーは掛けてあります」)。何を聞かれたか、で「が」と「は」を選ぶことを、第10課の「〜に〜があります/〜は〜にあります」の板書で思い出させる
- 場所の助詞を「で」にする(*カレンダーは壁で掛けてあります)。物が付いている・置いてある場所は「に」、と第10課の「〜にあります」の板書を指して戻す
既習の文型との違い
- N(物)は〈場所〉にあります(第10課)第10課の「辞書は机の上にあります」と、この課の「辞書は机の上に置いてあります」は、「は」で物を前に出して場所を答えるという点で同じ形です。違いは、だれかが置いたという動作の跡を言うかどうかだけです。第10課の「〜に〜があります/〜は〜にあります」の使い分けがそのまま使えるので、板書を並べて思い出させます。
- 〜に〜が〈Vて形〉あります(文型1)文型1は「何がありますか」に答える形、文型2は「〜はどこですか」に答える形で、言っている事実は同じです。学習者は「*カレンダーは壁にが掛けてあります」のように両方の助詞を残すことがあるので、「は」に替えた語は後ろから消える、と板書の矢印で見せます。
関連する文型
学習項目 3 〈Vて形〉おきます(準備)
意味・はたらき文型 3
「旅行の前にホテルを予約しておきます」のように、あとで困らないように、また、あとのことがうまくいくように、前もってしておく動作を言います。「〜の前に」「〜までに」と一緒に使うことが多いです。「予約します」だけでも事実は伝わりますが、「予約しておきます」と言うと「あとのために」という目的がはっきりします。前もってしたことの結果がいま残っているときは、文型1の「〜てあります」で言えます(予約しておきました→予約してあります)。
接続
Vて形+おきます(「おく」はグループIの動詞として活用する: おきます・おきました・おいてください・おかない)
形
旅行の前にホテルを予約しておきますあした試験がありますから、今晩漢字を復習しておきますパーティーまでに飲み物を冷やしておいてください会議の資料はもうコピーしておきました(→コピーしてあります)
導入
- 予定表から「その前に」を引き出す黒板に「土曜日: 友達と旅行」と書き、「旅行の前に、何をしますか」と学生に聞く。出てきた答え(切符を買う・ホテルを予約する・天気を調べる)を「切符を買います」と書いてから、横に「おきます」を足して「切符を買っておきます」にする。板書の上に「あとのために、前に」と大きく書く。
- 「〜てあります」と時間の線でつなぐ時間の線を描き、左に「きのう: 切符を買っておきました」(動作)、右に「いま: 切符が買ってあります」(結果)を書く。「おきます」は動作、「あります」はそのあとの様子、と矢印でつなぐだけにとどめ、説明は長くしない。
板書案
Vて + おきます 〔赤〕あとの ために、前に
旅行の 前に、ホテルを 予約して おきます。
〔赤〕「おきます」は ひらがな(物を「置きます」とは 別)
時間の線: きのう 切符を 買って おきました → いま 切符が 買って あります
〔青〕「を」(動作)→「が」(様子)の矢印
場面と発話(自作)
- 来週、友達が国から遊びに来る。ルームメイトに、来る前に何をするか話す。友達が来る前に、部屋を掃除しておきます。
- 先生が、あしたの授業で使う言葉を学生に伝えている。あしたの授業の前に、この言葉の意味を調べておいてください。
- あした朝早く出発する。家族に、朝のために何をしたか話す。朝は時間がありませんから、かばんにもう全部入れておきました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
「旅行・パーティー・試験・引っ越し」の絵カードを出し、それぞれの前にすることを「〜の前に〜ておきます」で言わせる(練習Bの型)。次に、ペアで週末のパーティーの準備を相談し、「わたしは飲み物を買っておきます」「じゃ、わたしは部屋を片づけておきます」と役割を決めるやり取り(練習Cの型)にする。
- 口頭まず変換だけ。動詞カード(買います・調べます・掃除します・復習します・片づけます)で「買います→買っておきます」を全体で回し、「おきました」「おいてください」の形も一度ずつ言わせる。次に予定のカード(旅行・パーティー・試験・引っ越し・友達が来る)と動作のカードを組み合わせて「旅行の前に、切符を買っておきます」と言わせ、個人に当てる。最後に予定のカードだけを見せて、何をしておくかを学生に考えさせる。
- ペア「出発前の確認」。Aは旅行の前にすることのリスト(済んだものに印あり)を持ち、Bはリストを見ないで「ホテルはもう予約しましたか」と一つずつ聞く。Aは印があれば「はい、予約しておきました」、なければ「いいえ、まだです。あした予約しておきます」と答える。4つ聞いたらリストを替えて交替する。
- 産出「パーティー準備会議」。3〜4人で週末のパーティーを計画し、準備することを出し合って、「わたしは飲み物を買っておきます」「じゃ、わたしは部屋を片づけておきます」とだれが何をするかを決め、黒板の表に名前を書いて発表する。教師が見るのは、「を」の文になっているか(*飲み物が買っておきます)、「おきます」の活用、準備の目的がある文になっているか。
つまずきと手当て
- 「おきます」を「置きます(物を置く)」の意味だと思い、物を置く動作だと取る。板書で「おきます」はひらがなで書き、「物を置く」とは別、と最初に言っておく
- 「〜ておきます」の文で助詞を「が」にする(×切符が買っておきます)。「おきます」は「を」と動作、「あります」は「が」と様子、と板書の時間の線に戻す
- 準備の意味がない場面で何にでも付ける(毎日の「朝ご飯を食べておきます」)。あとの予定や目的があるときに使う、と予定表の板書を指す
既習の文型との違い
- 〈V辞書形〉/Nの/〈期間〉まえに、〜(第18課)「旅行の前に切符を買います」は、二つの動作の順番を言うだけです。「旅行の前に切符を買っておきます」と言うと、旅行のための準備だという目的が加わります。「前に」があれば「〜ておきます」がなくても誤りではありませんが、準備を相談する場面では「〜ておきます」を使うほうが自然だ、と並べて聞かせます。
- 〜に〜が〈Vて形〉あります(文型1)「切符を買っておきました」は前もってした動作、「切符が買ってあります」はその結果のいまの様子です。助詞も「を」と「が」で替わるので、学習者は「*切符が買っておきます」と混ぜます。時間の線の板書で、動作(おきます)が先、様子(あります)があと、と位置で覚えさせます。
関連する文型
学習項目 4 〈Vて形〉おきます(措置)
意味・はたらき文型 4
物を使ったあとや、何かが終わったあとに、次に困らないように片づけたり元に戻したりしておく、という使い方です。「食べたら、お皿を洗っておいてください」「会議が終わったら、いすを並べておいてください」のように、頼む形や、第25課の「〜たら」と一緒に出ることが多いです。文型3の準備と同じ「あとのために」ですが、こちらは「使った・終わった」あとの始末に重心があります。
接続
Vて形+おきます。頼むときは「〜ておいてください」
形
ホチキスを使ったら、箱に入れておいてください雑誌は読んだら、本棚に戻しておいてください会議が終わったら、いすを片づけておきます使ったコップは洗っておきました
導入
- 教師の動作で「使ったあと」を見せる教師が箱からホチキスを出してプリントをとめ、使い終わったら箱に戻してふたを閉める。学生に同じことをさせる前に「ホチキスを使ったら、箱に戻しておいてください」と頼む。板書は「使ったら、→ 戻しておいてください」と、矢印の左に「使う・終わる」、右に「片づける・戻す・しまう」を書く。
板書案
Vたら、+ Vて + おいて ください
ホチキスを 使ったら、箱に 戻して おいて ください。
〔赤〕左: 使う・終わる → 〔青〕右: 片づける・戻す・しまう・洗う
おきます → おいて(書きます → 書いて と同じ)
場面と発話(自作)
- 寮の台所で、新しく入った学生にルールを説明する。なべを使ったら、洗って、棚に戻しておいてください。
- 会社で会議が終わった。部長に、会議室をどうするか聞かれた。いすとテーブルは、わたしが片づけておきます。
- 先生が、教室の辞書を借りたい学生に言う。辞書は使ったら、先生の机に置いておいてください。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教室にある物(ホチキス・辞書・ペン・コップ)の絵カードで、「使ったら、〜に〜ておいてください」の代入練習(練習Bの型)。次に、教室や寮のルールを学生が考えて、新しい人に「〜たら、〜ておいてください」で説明する役割練習(練習Cの型)にする。
- 口頭物と後始末の絵カード(ホチキス・箱・しまいます/辞書・本棚・戻します/コップ・洗います/いす・並べます/ごみ・ごみ箱・捨てます)を見せ、全体で「ホチキスを使ったら、箱にしまっておいてください」。慣れたら前半を「会議が終わったら」「食べたら」に替えたキューを出す。あわせて自分がする言い方「わたしが片づけておきます」「洗っておきましょうか」にも切り替えさせる。
- ペア「先輩と新入り」。Aは寮(または会社)のルールのカードを持つ先輩役で、Bに「なべを使ったら、洗っておいてください」と伝える。Bは「はい、洗っておきます」と復唱する。3枚で交替し、二回目はBのほうから「辞書は使ったら、どうしますか」と質問させ、Aが答える形にする。
- 産出「わたしの寮のルール」。学生が自分の住んでいる寮・家・教室のルールを三つ考え、新しく来た人に説明するロールプレイをする(説明役と新しく来た人の役)。教師が見るのは、「〜たら」の形、「おいて」の形、頼む文が「〜ておいてください」になっているか、後始末の意味の動詞(片づける・戻す・しまう)を選べているか。
つまずきと手当て
- 「〜ておいてください」の「おいて」を落として「戻してください」とだけ言う。意味は通じるが、「次のために片づけて」という気持ちが消える、と二つを並べて聞かせる
- 「おいて」を「おきて」「おって」と言う。「おく」はグループIで、て形は「おいて」、と「書きます→書いて」と並べて確かめる
- 「〜たら」の形を作りそこなう(*使いたら、*片づけるたら)。第25課の「〜たら」はた形に「ら」を付ける、と「使いました→使った→使ったら」の3段を板書で一度だけ確かめる
既習の文型との違い
- 〈Vて形〉ください(第14課)「戻してください」は相手に戻す動作を頼むだけです。「戻しておいてください」は、次に使う人が困らないように、という後始末の気持ちが加わります。どちらも誤りではないので、場面(ルールの説明・片づけの依頼)では「〜ておいてください」のほうがよく使われる、と二つを並べて聞かせます。
- 〈Vて形〉おきます(準備)形は同じ「〜ておきます」ですが、準備は予定の前にすること、措置は使ったあと・終わったあとにすることです。前半が「〜の前に」なら準備、「〜たら」なら措置になることが多いので、文の前半を手がかりに意味をつかませます。学生に用法の名前を言わせる必要はありません。
関連する文型
学習項目 5 〈Vて形〉おきます(放置)
意味・はたらき文型 5
いまの状態を変えないで、そのままにしておく、という使い方です。「暑いですから、窓を開けておいてください」は、窓がもう開いているなら「閉めないでください。いまのままがいいです」という意味になります。「そのままにしておいてください」もよく使います。相手が変えようとしたときにも、「窓を閉めましょうか」「いいえ、そのままにしておいてください」のように、相手の申し出を断る場面でよく出ます。
接続
Vて形+おきます。「そのままにしておきます」「〜を〜ておいてください」
形
暑いですから、窓を開けておいてくださいあとで使いますから、電気はつけておいてください「窓を閉めましょうか」「いいえ、暑いですから、そのままにしておいてください」あした続きをしますから、黒板の字はそのままにしておきます
導入
- 開いている窓で「変えない」を見せる窓を開けた教室で、学生に窓を閉めに行かせ、途中で「あ、暑いですから、開けておいてください」と止める。学生が手を止めたら、板書に「開いている窓 → 閉めない → 開けておきます」と書き、「同じ形でも、もう開いているときは『そのまま』」と一言添える。続けて「そのままにしておいてください」を板書に足す。
- 三つの「おきます」を一つの表にする板書の表に、準備(前に・あとのために)、措置(使ったあと・片づける)、放置(いまのまま・変えない)の三列を作り、学生から出た文を入れていく。形は全部同じなので、どれかを当てさせるより、場面を見て意味を言わせる。
板書案
(いまの まま)Vて + おきます
暑いですから、窓を 開けて おいて ください。
「窓を 閉めましょうか。」「いいえ、そのままに して おいて ください。」
〔赤〕開いている窓 → 閉めない → 開けて おきます
表: 準備(前に)|措置(使ったあと)|放置(いまのまま)
場面と発話(自作)
- 夜、ルームメイトが部屋の電気を消そうとした。まだ本を読むので止める。まだ読みますから、電気はつけておいてください。
- 会社で、同僚が「エアコンを消しましょうか」と言った。すぐ次の会議がある。いいえ、すぐ次の会議がありますから、そのままにしておいてください。
- 授業のあと、学生が黒板を消そうとした。先生は次の授業でも同じ板書を使う。あ、次の授業でも使いますから、黒板はそのままにしておいてください。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教室の物の状態(窓が開いている・電気がついている・机の上に本がある)を指して、「〜から、〜ておいてください」の代入練習(練習Bの型)。次に、片づけを申し出る人と、「いいえ、そのままにしておいてください」と断る人のやり取りを、理由をつけて回す(練習Cの型)。
- 口頭教室の実物の状態を指さしてキューを出す(開いている窓+「暑い」/ついている電気+「あとで使う」/黒板の字+「あした続きをする」/机の上のプリント+「次の授業で使う」)。全体で「暑いですから、窓を開けておいてください」。続けて教師が「プリントを片づけましょうか」「電気を消しましょうか」と申し出て、全体で「いいえ、あとで使いますから、そのままにしておいてください」と断る応答を回し、個人に当てる。
- ペア「申し出と断り」。Aは片づけのカード(窓を閉める・電気を消す・机を並べる・黒板を消す)を引いて「〜ましょうか」と申し出る。Bは理由のカード(暑い・あとで使う・まだ読む・もう終わった)を引き、理由に合わせて「お願いします」と受けるか、「いいえ、〜から、そのままにしておいてください」と断るかを決める。4枚で交替する。
- 産出「パーティーのあとロールプレイ」。自分の部屋でパーティーをしたあと、友達が片づけを手伝ってくれる場面。主人役は、片づけてほしい物(措置)とそのままにしておいてほしい物(放置)を自分で決め、友達役の申し出に応える。教師が見るのは、もう開いている窓に「開けておいてください」を使ったときに意味が「そのまま」になっているか、断るときに理由を付けているか、「片づけないでください」だけで強く断っていないか。
つまずきと手当て
- 「窓を開けておいてください」を、いつも「窓を開けて」の意味だけで取る。もう開いているときは「開いたままにして」の意味になる、と窓の場面を必ず実演する
- 「そのままにしておいてください」を言えず「片づけないでください」だけで断る。間違いではないが、相手の申し出を断る場面では強く聞こえることがある、とかたまりで入れる
- 準備・措置・放置の名前を覚えることに時間を使う。学生には名前は要らず、場面を見て意味が分かれば十分
既習の文型との違い
- 〈Vない形〉ないでください(第17課)「黒板を消さないでください」は、相手がしようとしている動作を止める言い方です。「黒板はそのままにしておいてください」は、いまの状態を保ってほしいと頼む言い方で、申し出を断る場面では柔らかく聞こえます。どちらも誤りではないので、断る場面では「〜から、そのままにしておいてください」をかたまりで使わせます。
- 〈Vて形〉おきます(措置)措置は使ったあとに状態を変える(片づける・戻す)こと、放置はいまの状態を変えないことです。同じ「窓を開けておいてください」でも、窓が閉まっているなら前もって開けておく準備、もう開いているなら閉めないで、という放置になります。形ではなく、いまの窓の状態で意味が決まることを、窓の実演で見せます。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は、「〜てあります」の材料になる「貼ります・掛けます・飾ります・並べます」のような物を置く・付ける動詞と、壁・引き出し・玄関のような部屋の場所の語、「〜ておきます」の材料になる「片づけます・しまいます・戻します・復習します」のような準備や片づけの動詞が中心です。物を置く動詞は、教師が実際に貼ったり掛けたりして動作と一緒に入れ、文型1の代入練習のカードにそのまま使います。非常袋に入れる物の語は、会話の前に実物か写真で見せておきます。
この課の練習で使う語(12語・意味・連語・例文)
- 貼ります(はります) 紙やポスターを、壁や戸に付けます。 ポスターを〜・壁に〜・地図を〜
教室に新しい地図を持ってきた。「この地図を入り口に貼りましょうか。」
- 掛けます(かけます) 物を、壁や棒に下がるように付けます。 カレンダーを〜・壁に〜・コートを〜
友達が部屋に来て、カレンダーを探している。「カレンダーは壁に掛けてあります。」
- 飾ります(かざります) 部屋がきれいになるように、花や写真などを置いたり付けたりします。 花を〜・写真を〜・部屋に〜
新しい部屋に友達を呼ぶ前。「友達が来る前に、花を飾っておきます。」
- 並べます(ならべます) いくつかの物を、まっすぐに順番に置きます。 いすを〜・資料を〜・机に〜
会議の前に会議室を準備した。「いすはもう並べてあります。」
- 片づけます(かたづけます) 使った物や散らかった物を、元の場所に戻して、部屋をきれいにします。 部屋を〜・机の上を〜・おもちゃを〜
パーティーが終わった。「わたしがテーブルを片づけておきます。」
- しまいます(しまいます) 物を、箱や引き出しなどの中に入れて、見えないようにします。 引き出しに〜・服を〜・かばんに〜
冬の服をもう着ない季節になった。家族に頼む。「冬の服は押し入れにしまっておいてください。」
- 戻します(もどします) 物を、前にあった場所に置きます。 元の所に〜・本棚に〜・辞書を〜
教室のCDを借りる学生に、先生が言う。「CDは聞いたら、棚に戻しておいてください。」
- 引き出し(ひきだし) 机やたんすの中にある、手前に引いて開ける箱です。 〜に入れます・〜を開けます・机の〜
同僚にかぎの場所を聞かれた。「かぎは机の引き出しに入れてあります。」
- 壁(かべ) 部屋のまわりにある、平らで高いところです。 〜に貼ります・〜に掛けます・教室の〜
新しい部屋を友達に見せる。「壁に国の写真が貼ってあります。」
- 復習します(ふくしゅうします) 習ったことを、もう一度勉強します。 漢字を〜・授業のあとで〜・きょうの文法を〜
あしたテストがある。「今晩、この課の漢字を復習しておきます。」
- そのままにします(そのままにします) いまの様子を変えません。そのとおりにしておきます。 部屋を〜・机の上を〜・窓を〜
会議のあと、同僚がホワイトボードを消そうとした。次の会議でも使う。「次の会議でも使いますから、そのままにしておいてください。」
- 準備します(じゅんびします) 何かをする前に、必要な物やことをそろえておきます。 旅行の前に〜・会議の前に〜
週末に友達とパーティーをする。「パーティーの準備は、土曜日の朝にしておきます。」
会話の扱い
会話は、地震などの災害が話題になり、もしものときのために非常袋を用意しておこう、何を入れておけばいいか、と話す流れです。題の「準備しておかないと」は、文型3の「準備しておきます」をない形にした「準備しておかない」に「と」が付き、後ろの「いけません」が省かれた形で、「準備しなければ」の意味だと、かたまりで入れます(分解して文法を説明しない)。最初はCDか教師の読みで流れをつかませ、役割を替えて二回読んだら、非常袋に何を入れておくかを学生同士で話させ、「〜を入れておきます」「〜も準備しておきましょう」と自分の言葉で広げさせます。会話の文はここに載せていないので、手元の教科書で確かめてください。
宿題と次のコマ
宿題は問題の文法部分と、「わたしの部屋」の説明を「〜に〜が〜てあります」で三文、「来週の予定の前にしておくこと」を「〜ておきます」で二文書くこと。次のコマの最初に、自動詞・他動詞のペアのカードで「〜ています/〜てあります」の言い分けを10枚確かめてから、宿題の部屋の説明を発表させ、第31課の意向形・「〜つもりです」につなぐ。三つの「おきます」の板書の表は写真に撮っておく。
よくある質問
第29課の「〜ています」と第30課の「〜てあります」の違いはどう教えればいいですか?
動詞の種類で分けるのがいちばん分かりやすいです。「窓が開いています」は自動詞で様子だけ、「窓が開けてあります」は他動詞で、だれかが目的があってした結果だと言います。板書の左右に二つを並べ、右の文にだけ人の絵と理由の吹き出しを描くと、「だれかがした」の違いが一目で伝わります。練習では自動詞・他動詞のペアのカードを混ぜて、形を選ばせます。
「〜てあります」と「〜ておきます」はどう違いますか?
「〜ておきます」はあとのために前もってする動作で、助詞は「を」です(切符を買っておきます)。「〜てあります」はその動作の結果が残っている様子で、助詞は「が」です(切符が買ってあります)。時間の線を引いて、動作が先、様子があと、と位置で見せると混ざりにくくなります。
「〜ておきます」の準備・措置・放置は、学生に区別させる必要がありますか?
名前を覚えさせる必要はありません。形は全部同じなので、場面を見て「前もって」「使ったあと」「いまのまま」のどれかが分かれば十分です。教師の側は、三つを別々の場面で一つずつ入れ、最後に一つの表にまとめると、導入が混ざらずに済みます。
「壁にカレンダーを掛けてあります」(「を」の形)は間違いですか?
日本語として誤りではありません。「を」の形は、だれかが掛けた動作のほうに少し重心が寄った言い方です。ただ初級では「が」の文と混ざって助詞が揺れるもとになるので、この課の練習は「が」で統一し、学習者から「を」が出ても誤りとしては直さない、という扱いが無難です。
第30課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は自動詞・他動詞の復習から文型1・2の「〜てあります」と、文型3の準備の導入まで(文型3の練習の残りは2コマ目の最初に回します)。2コマ目は文型4・5の措置と放置、三つの「おきます」の表、会話と練習C・問題です。自動詞・他動詞の区別が弱いクラスでは、1コマ目の導入を長めにとります。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。