動詞の使役形が初めて出る課です。前半は「母は弟を塾へ行かせました」「先生は学生に作文を書かせました」のように、上の立場の人が下の立場の人に何かをさせる(強制)文、後半は同じ形で「父は娘を留学させました」のように、本人がしたいことをさせてあげる(容認)文を扱い、最後に「休ませていただけませんか」で、自分がしたいことを目上の人に丁寧に願い出る言い方まで進みます。この課の最大のつまずきは助詞で、もとの動詞が自動詞なら「人を」、他動詞なら「人に〜を」になります。使役形の作り方は最初の時間で片づけ、文型1と2を同じ板書の上下に並べて、「を」が二つ並ばないように「に」に替わる、という一本の筋で助詞を見せるのがこの課の芯です。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(復習とつなぎ) | 10分 | 第37課の受身形と第27課の可能形を並べた板書を出し、「書かれる」「書ける」の右に一列空けておく。教師が学生に「立ってください」「読んでください」と言ってやらせ、「先生は川口さんを立たせました」と聞かせて、空けた列に「書かせる」を書き込む |
| 使役形の作り方 | 30分 | グループI(ない形の あ段+せる)→ II(させる)→ III(させる・来させる)の順に板書し、ます形→使役形の口頭練習。使役形もグループII として活用することと、受身形の「〜れる」と「〜せる」の一字の違いを確かめる |
| 文型1・2(強制) | 45分 | 学校や会社の上下関係の絵で、「先生は学生を立たせました」(自動詞)と「先生は学生に作文を書かせました」(他動詞)を板書の上下に並べる。もとの文「学生が立ちます」「学生が作文を書きます」から矢印で作り、「を」の位置を色チョークで比べる |
| 文型3・4(容認) | 30分 | 子どもが「行きたい」「やりたい」と言っている吹き出しの絵を見せ、「父は娘を留学させました」「母は子どもに好きなおもちゃを買わせました」。形は文型1・2と同じで、本人がしたいかどうかで意味が分かれることを、吹き出しの有無で見せる |
| 文型5(〜(さ)せていただけませんか) | 30分 | 教師が部長、学生が社員の役で、「熱があるんですが、早く帰らせていただけませんか」。第26課の「〜ていただけませんか」と並べ、「だれがするか」で使役が入ることを板書で示す。理由→お願い→返事の三段のやり取りまで |
| 会話 | 15分 | 部下が上司に休みをもらえるか願い出る流れ。都合を聞く、理由を「〜んですが」で言う、「休ませていただけませんか」でお願いする、の三段に分けて再現させる |
| 練習C・問題 | 20分 | 練習Cは「子どもに何をさせますか」「させてくれた親・先生」「休み・早退のお願い」の三つの場面。問題は聞き取りを教室で、残りは宿題に |
「行きます→行かせる」「食べます→食べさせる」のように、ある人がほかの人に動作をさせることを言う動詞の形を使役形と呼びます。作り方は受身形と同じく三つのグループで決まり、グループI はない形の「〜ない」を「〜せる」に替え(行かない→行かせる)、グループII は ます を させる に替え、グループIII は「します→させる」「来ます→来させる(こさせる)」です。できた使役形はすべてグループII の動詞なので、ます形・ない形・て形・た形はグループII の作り方で作れます。受身形とは「れる」と「せる」の一字違いなので、二つを並べて耳でも目でも区別させます。
ない形 → 使役形(グループI: あ段+せる/グループII: ます→させる/グループIII: させる・来させる)。使役形はグループII として活用する(行かせる→行かせます・行かせない・行かせて・行かせた)
絵カード20枚を速いテンポで「ます形→使役形」。I・II・III を混ぜて出し、間違えたカードだけ戻してもう一度。次に「ます形→受身形→使役形」を同じカードで1周して二つの形を言い分けさせ、最後に「使役形→使役形のた形(行かせる→行かせた)」「→ます形の過去(行かせました)」を回して、文型1・2の過去の文で崩れないようにする。
「母は弟を塾へ行かせました」「課長は新しい社員を支店へ研修に行かせました」のように、上の立場の人(親・先生・上司)が、下の立場の人に動作をさせることを言う文型で、もとの動詞が「行く・帰る・休む・泳ぐ」のような自動詞のときの形です。させる人を「は」で、する人を「を」で示します。もとの文「弟が塾へ行きます」の「が」が「を」になり、「へ」「で」など場所の助詞はそのまま残ります。ただし「道を渡る」「公園を散歩する」のように、もとの文にすでに「を」があるときは、「を」が二つ並ぶのを避けて、する人を「に」で言うことが多いです(子どもに一人で道を渡らせる)。
N(させる人)+は+N1(する人)+を+〈場所など〉+使役V(もとの動詞が自動詞。もとの文の「が」→「を」)
「子どもが塾へ行きます」のような、もとの文のカードを見せて「母は子どもを塾へ行かせます」に言い換える代入練習(練習Bの型)を、自動詞だけで10枚。次に「親」「先生」「部長」のカードを替えながら、させる人が変わっても助詞は変わらないことを確かめる。最後に「子どものとき、親はあなたをどこへ行かせましたか」とペアで聞き合う(練習Cの型の前段)。
「先生は学生に作文を書かせました」「母は子どもに野菜を食べさせます」のように、もとの動詞が「書く・食べる・掃除する」のような他動詞(「〜を」を取る動詞)のときの使役の文です。もとの文の「を」はそのまま残るので、する人は「を」ではなく「に」で示します。文型1の「人を」と並べると、「を」が一つの文に二つ並ばないように、する人の助詞が「に」に替わる、と一本の筋で説明できます。意味は文型1と同じで、上の立場の人が下の立場の人にさせることです。
N(させる人)+は+N1(する人)+に+N2(もとの目的語)+を+使役V(もとの動詞が他動詞。もとの文の「が」→「に」、「を」はそのまま)
もとの文のカード(「学生が作文を書きます」など)から「先生は学生に作文を書かせます」への言い換え(練習Bの型)を他動詞で10枚。次に自動詞と他動詞のカードを混ぜて出し、学生がまず「を」か「に」かを言ってから文を言う形で、文型1との言い分けを回す。最後に「子どものとき、親はあなたに何をさせましたか」をペアで聞き合い、答えを板書に書きためて文型3・4の材料にする。
「父は娘を留学させました」「子どもを公園で遊ばせます」のように、本人がしたいと思っていることを、上の立場の人が許す・させてあげる、という意味の使役の文です。形は文型1とまったく同じで、自動詞のとき、する人を「を」で示します。強制か容認かは形では分からず、本人がそれをしたいかどうかという場面で決まります。「行きたいと言ったので」「好きなだけ」「自由に」のようなことばや、「〜させてくれました」「〜させてあげます」の形があると、許す意味がはっきりします。
N(許す人)+は+N1(する人)+を+〈場所など〉+使役V(形は文型1と同じ・もとの動詞が自動詞)。「〜させてくれます/〜させてあげます」と組むことも多い
吹き出しつきの絵カード(子どもが「〜たい」と言っている)を見せて、「母は子どもを〜させました」に言い換える代入練習(練習Bの型)。次に吹き出しのある絵とない絵を混ぜて出し、学生に「強制」「容認」の札を挙げさせてから文を言わせる。最後に「子どものとき、親はあなたをどこへ行かせてくれましたか」をペアで聞き合う(練習Cの型の前段)。
「母は子どもに好きなおもちゃを選ばせました」「先生は学生に辞書を使わせました」のように、他動詞の使役で、本人がしたいことを許す・させてあげる、という意味を言う文です。形は文型2と同じで、する人を「に」、もとの目的語を「を」で示します。強制か容認かは、文型3と同じく本人がしたいかどうかで決まり、「好きな」「自由に」「〜たいと言ったので」や「〜させてくれます」があると許す意味が分かりやすくなります。文型5の「〜させていただけませんか」は、この容認の使役を自分に向けて願い出る形なので、ここで「許す使役」をしっかり作っておきます。
N(許す人)+は+N1(する人)+に+N2+を+使役V(形は文型2と同じ・もとの動詞が他動詞)。「〜させてくれます/〜させてあげます」と組むことも多い
吹き出しつきの絵カード(「〜を使いたい」「〜を作りたい」)で「〜は〜に〜を〜させてくれました」への言い換え(練習Bの型)を10枚。次に文型2の強制のカードと混ぜ、「強制」「容認」の札を挙げてから文を言わせる。最後に「親・先生・会社の人があなたに何をさせてくれましたか」をペアで聞き合い、うれしかったことを一つずつ発表させる(練習Cの型)。
「早く帰らせていただけませんか」「この部屋を使わせていただけませんか」のように、自分がしたいことを、目上の人に許してもらえるよう丁寧に願い出る言い方です。使役形のて形(帰らせて)に、第26課の「〜ていただけませんか」が付いた形で、「(あなたが)わたしに帰ることを許してくださいませんか」という意味になります。第15課の「〜てもいいですか」も許可を求める言い方ですが、「〜させていただけませんか」のほうがずっと丁寧で、上司や先生への願い出、仕事の場面で使います。前に「〜んですが」で理由を言ってから願い出るのが自然な流れです。
使役形のて形+いただけませんか(帰ります→帰らせて→帰らせていただけませんか/説明します→説明させていただけませんか)。前に「〜んですが、」で理由を添えることが多い
「早く帰りたい」「ここで写真を撮りたい」のような、したいことのカードを見せて「〜させていただけませんか」に言い換える代入練習(練習Bの型)。次に理由のカード(熱がある・家族が来る・試験がある)を組み合わせ、「〜んですが、〜させていただけませんか」「いいですよ/すみません、ちょっと……」の三段のやり取りをペアで回す(練習Cの型)。断られたときの「そうですか。分かりました」まで言わせて場面を閉じる。
この課の新出語は、使役の練習に使う動詞(下ろす・届ける・世話をする など)と、親と子・先生と学生・会社の上下関係を作る語(塾・生徒・親 など)、休みを願い出る場面の語が中心です。動詞は ます形と使役形を1組にして絵カードで出し、自動詞か他動詞かが分かるように、他動詞のカードには「〜を」を書いておくと文型1・2の助詞の練習にそのまま使えます。願い出や返事の言い方(かまいません など)は、文型5のやり取りの中で文ごと覚えさせます。
会話は、部下が上司の都合を確かめてから、理由を添えて休みをもらえないかと願い出る、という流れです。題の「休ませていただけませんか」が芯で、前に第26課の「〜んですが」で理由を言い、使役のて形に「いただけませんか」を付けて願い出ることを、この会話で通して確かめます。最初はCDか教師の読みで、相手の都合を聞く・理由を言う・お願いする・返事をもらう、の四つの段を板書に書き出してつかませ、役割を替えて二回読んだら、理由(家族が来る・試験がある・病院へ行く)と休む日数を入れ替えて、学生自身のお願いとして再現させます。会話の文はここに載せていないので、手元の教科書で確かめてください。
宿題は問題の文法部分と、「子どものころ、親がわたしにさせたこと・させてくれたこと」を五文(文型1か2を二つ・文型3か4を二つ・「〜させてくれました」を一つ)で書くこと。あわせて、アルバイトや学校で目上の人に願い出たい場面を一つ考え、「〜んですが、〜させていただけませんか」で一文書いてくる。次のコマの最初に使役形のカードテスト(ます形→使役形・10語、受身形と混ぜて)をしてから作文を発表させ、第49課の尊敬語につなぐ。可能形・受身形・使役形を並べた板書は、敬語の課でも「られる」の見分けに使うので写真に撮っておく。
第48課の使役で、「人を」と「人に」はどう教え分ければいいですか?
使役の文を作る前に、もとの文(「弟が塾へ行きます」「学生が作文を書きます」)を必ず板書します。もとの文に「を」が無ければ、する人は「を」、「を」があれば「を」が二つ並ばないように、する人は「に」です。「を」は一つの文に一つ、という一本の決まりにまとめると、学習者が自分で判断できます。自動詞でも「に」を使う言い方はありますが、この課では「を」でそろえて練習します。
使役の「強制」と「容認」は、学習者にどう見分けさせますか?
形はまったく同じなので、形ではなく、する人がそれをしたいかどうかで分けます。導入では同じ文の絵を二枚並べ、片方の子どもにだけ「〜たい」の吹き出しを付けます。容認の話では「〜させてくれました」「〜させてあげます」を付ける、と使い方を一つ持たせておくと、親や先生への感謝の話で誤解されません。
「〜させていただけませんか」と「〜ていただけませんか」の違いは何ですか?
「〜ていただけませんか」(第26課)は相手に何かをしてもらう頼み、「〜させていただけませんか」は自分がすることを相手に許してもらう頼みです。「書いていただけませんか」と「書かせていただけませんか」を並べ、横に「だれが書く?」と書いて答えさせるのがいちばん早い見せ方です。使役の「せ」が入ると、する人が自分に変わります。
使役形と受身形を混ぜてしまう学習者には、どう対応すればいいですか?
可能形・受身形・使役形を三列に並べた板書を作り、課の終わりまで消さずに残します。グループI はどちらもない形から作り、違いは「れる」と「せる」の一字なので、その字に印を付けておきます。教師が二つの形を続けて言い、どちらが使役かを手を挙げて答えさせる短い聞き分けを、毎時間の最初に入れると定着します。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は復習、使役形の作り方、文型1・2(強制)まで、2コマ目は文型3・4(容認)、文型5「〜させていただけませんか」、会話、練習Cと問題です。使役形の作り方が定着しないクラスでは、2コマ目の最初に変換の小テストを5分入れてから容認に入ります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。