第7課の「あげます・もらいます」に、ほかの人がわたしに物をくれる「くれます」を足し、さらにそれを行為に広げて「〜てあげます・〜てもらいます・〜てくれます」を学ぶ課です。物でも行為でも、日本語はだれからだれへ向かうかで動詞を選び分け、「わたし」に向かってくるときは「くれます」を使います。同じ出来事を「友だちが手伝ってくれました」とも「友だちに手伝ってもらいました」とも言えること、どちらも話し手のありがたい気持ちが入ることを、矢印の板書で何度も確かめます。会話は引っ越しの手伝いを申し出る場面で、「〜てあげます」を相手に直接言わず「〜ましょうか」で申し出る使い分けもここで押さえます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(第7課の復習とつなぎ) | 10分 | 誕生日のプレゼントを話題に、第7課の「わたしは〜に〜をあげました」「わたしは〜に〜をもらいました」を学生に言わせる。板書に人の絵を二人描き、矢印の向きで あげます・もらいます を整理しておく。最後に「友だちはわたしに〜を……」と教師が言いよどみ、あげますが使えない向きがあることに気づかせて文型1へ |
| 文型1・2(くれます) | 40分 | 矢印が「わたし」に向かうときは「くれます」。教師が学生から物を受け取る実演で導入し、「このかばんは姉がくれました」の形で持ち物を紹介させる |
| 文型3(〜てもらいます) | 40分 | 物の矢印を行為に広げる。教師が学生に頼んで窓を開けてもらい、「わたしは〜さんに窓を開けてもらいました」。してくれた人に「に」が付くことを板書で固定 |
| 文型4(〜てくれます) | 30分 | 文型3と同じ出来事を、してくれた人を主語にして言い直す。二つの文を板書で上下に並べ、助詞の違い(〜に/〜が)を比べる |
| 文型5(〜てあげます) | 30分 | 自分が人のためにしたこと。過去の話として「〜てあげました」で言わせ、相手に直接言うときは第14課の「〜ましょうか」を使う、と対比する |
| 会話 | 15分 | 引っ越しの手伝いを申し出る場面。「手伝いに行きましょうか」の申し出と、受けるとき・断るときの言い方をかたまりで |
| 練習C・問題 | 15分 | 最近助かったこと・人にしてあげたことをペアで話す。問題の聴解は授業内で、書く練習は宿題に |
ほかの人が話し手(わたし)に物を渡すとき、「あげます」ではなく「くれます」を使います。第7課の「あげます」は「わたし」から外へ向かう動詞で、外から「わたし」に向かってくるときは使えません。受け取る人が話し手の家族など、話し手の側の人のときにも「くれます」を使うことがありますが、この課では「わたし」に絞って教えます。「わたしに」は分かりきっているので、実際の会話では省くことが多いです。文法の用語では、あげます・もらいます・くれます をまとめて授受動詞(やりもらいの動詞)と呼び、このうち「くれます」だけが、物が話し手の側へ向かってくることを動詞そのもので表します。
〈人〉+は/が+(わたしに)+N+を+くれます(くれます・くれました。主語は渡す人)
人と物の絵カードを組にして「〜さんはわたしに〜をくれました」と言わせる代入練習(練習Bの型)から、矢印の向きを変えたカードを混ぜて「あげました・もらいました・くれました」を選ばせる練習へ。最後にペアで、誕生日や国に帰ったときにもらった物を話す(練習Cの型)。
持ち物について話すとき、物を話題(は)にして「この時計は父がくれました」と言う形です。物が「は」で前に出たので、くれた人には「が」が付きます。「この時計は何ですか」「すてきですね」のように、ある物が話題になったときに、その物の出どころを答える自然な言い方です。だれがくれたかを聞くときも「その時計はだれがくれましたか」とこの形になります。文の組み立てで言うと、物が「は」で取り立てられて文の題目になり、くれた人が新しい情報として「が」で示される形です。
(この/その+N+は)+〈人〉+が+くれました(くれた人は「が」。「は」は物に付く)
物の絵カードに「父」「姉」などの札を付けて見せ、「この〜は〜がくれました」と言わせる代入練習(練習Bの型)。仕上げはペアで、持ってきた物を見せ合って「その〜はだれがくれましたか」「〜がくれました」とやり取りする(練習Cの型)。
ほかの人が自分のために何かをしてくれて、自分が助かったことを、受ける側(わたし)を主語にして言う形です。第7課の「もらいます」は物を受け取る動詞でしたが、ここでは物の代わりに「行為」を受け取ると考えます。してくれた人には「に」が付きます。ただ事実を言うのではなく、「してもらってありがたい」という気持ちが入るのがこの形の大事な点です。文法では補助動詞の「〜てもらう」と呼び、本動詞の「もらう」の受け取る意味が、行為から受ける恩恵に広がったものと説明します。相手に頼んでしてもらった場合にも、相手が自分から進んでしてくれた場合にも使えますが、自分が頼んだことがはっきりしているときは「〜てもらいました」のほうが自然に聞こえます。
わたしは+〈人〉+に+Vて形+もらいます(動詞の目的語などはそのまま。例: 〈人〉に 荷物を 持って もらいます)
人の絵カードと行為の絵カード(荷物を持つ・写真を撮る・道を教える など)を組にして「〜に〜てもらいました」と言わせる代入練習(練習Bの型)。次に教室で実際に小さな頼みごと(ペンを貸す・窓を閉める)をペアでさせ、終わったら「〜さんに〜てもらいました」と報告させる。
ほかの人が自分のために何かをしてくれたことを、してくれた人を主語にして言う形です。文型3の「〜てもらいます」と同じ出来事を、見る側を変えて言っていると考えると分かりやすく、どちらにも「ありがたい」という気持ちが入ります。行為を受ける人の示し方は、もとの動詞の助詞のままです。「貸します」なら「わたしに」、「送ります(人を駅まで)」なら「わたしを」、物が自分の持ち物なら「わたしの〜を」になります。文法では補助動詞の「〜てくれる」と呼び、文型1の「くれます」と同じく、恩恵が外から話し手の側へ向かうことを表します。してくれた人が自分から進んでしたことにも、こちらが頼んだことにも使えます。
〈人〉+は/が+Vて形+くれます(受ける人は動詞に合わせて「わたしに/わたしを/わたしの〜を」。言わないことも多い)
文型3の絵カードをそのまま使い、「〜に〜てもらいました」を「〜が〜てくれました」に言い換える練習(練習Bの型)。続けて「貸す・送る・持つ・案内する・紹介する」で受ける人の助詞を変える練習へ。仕上げは「日本に来て、うれしかったこと」をペアで話し、「〜が〜てくれました」で言わせる(練習Cの型)。
話し手が、ほかの人のために何かをすることを言う形です。第7課の「あげます」で物を渡したように、ここでは行為を相手のためにします。受ける人の示し方は文型4と同じで、もとの動詞の助詞のままです(「友だちに本を貸してあげます」「友だちを駅まで送ってあげます」「友だちの荷物を持ってあげます」)。「してあげる」は自分が相手に恩をかけている言い方なので、その相手に向かって直接言うと押しつけがましく聞こえます。相手に申し出るときは第14課の「〜ましょうか」を使い、「〜てあげました」はその場にいない人に、自分がしたことを話すときに使うのが自然です。文法では補助動詞の「〜てあげる」と呼びます。ポライトネスの見方では、相手に直接「〜てあげます」と言うことは、相手に借りを負わせる言い方になり、相手の面子を脅かすことがある、と説明できます。
わたしは+〈人〉に(〈人〉を/〈人〉のNを)+Vて形+あげます(受ける人は動詞に合わせる)
行為の絵カードを見せて「わたしは〜に〜てあげました」と言わせる代入練習(練習Bの型)から、文型3・4の絵カードを混ぜて、教師が指す人の立場で「あげました・もらいました・くれました」を選ばせる練習へ。仕上げは、困っている人の場面カード(荷物が重い・道が分からない・写真を撮りたい)を引いて、相手に「〜ましょうか」と申し出る練習(練習Cの型)。
この課の新出語は「くれます」のほか、人のためにする行為の動詞(直します・連れて行きます・送ります(人を)・紹介します・案内します・説明します など)が中心で、そのまま「〜てあげます・〜てもらいます・〜てくれます」の材料になります。動詞は絵カードで先に出し、て形まで言えるようにしてから文型に入ると、練習が止まりません。「送ります」は第7課の「手紙を送ります」と違って人を目的語にとる使い方なので、「人を駅まで送ります」の形でかたまりで覚えさせます。
会話は、引っ越しを控えた友だちに、手伝いを申し出る場面です。題の「手伝いに行きましょうか」は、第13課の目的の「〜に行きます」と第14課の申し出の「〜ましょうか」を組み合わせた言い方で、この課の「〜てあげます」を相手に直接使わずに親切を申し出る形になっていることを最初に確認します。教室では、教師が段ボール箱を前に困っている役をし、学生に申し出させるところから始め、申し出を受けるとき(「ありがとうございます。お願いします」)と、一度遠慮するとき(「いいえ、大丈夫です」)の両方の返し方を練習します。ロールプレイは、引っ越し・パーティーの準備・重い荷物、と場面を替えて二回。最後に、当日手伝ってもらったことを別の人に話す役を作り、「〜が手伝ってくれました」「〜に手伝ってもらいました」で報告させると、申し出(〜ましょうか)と報告(〜てくれました)の使い分けがつながります。
練習Bを書いて提出。問題の聴解は授業内で済ませ、読んで書く部分を宿題にする。あわせて「日本に来て、人にしてもらってうれしかったこと」を「〜が〜てくれました」「〜に〜てもらいました」で三つ、「人にしてあげたこと」を「〜てあげました」で一つ書かせ、次のコマの最初にペアで読み合う。次のコマは第25課の「〜たら」「〜ても」に進むので、て形とた形の作り方を口頭で回しておく。
第24課の「くれます」と「あげます」の違いはどう教えればいいですか?
どちらも渡す人が主語なので、主語で区別させようとすると混乱します。板書に「わたし」と「友だち」を描き、物の矢印の先が「わたし」(話し手)なら「くれます」、それ以外なら「あげます」と、向きで選ばせます。第7課の「あげます・もらいます」を最初に矢印の図で復習しておき、その図に逆向きの矢印を足して導入すると、三つの動詞が一枚の図に収まります。
「〜てもらいます」と「〜てくれます」はどう使い分けますか?
同じ出来事を、受けた人(わたし)を主語にするのが「〜てもらいます」、してくれた人を主語にするのが「〜てくれます」です。してくれた人の助詞が「〜に」か「〜が/は」かで形が分かれます。どちらにも「ありがたい」気持ちが入るので、初級ではまず同じ絵で両方言える練習を十分にし、言い換えの練習で助詞を固めます。
「〜てあげます」を相手に直接言うのがよくないのはなぜですか?
「〜てあげます」は、話し手が相手のためにしてやる、と恩を示す言い方なので、その相手に向かって言うと押しつけがましく聞こえることがあります。特に目上の人には向けません。相手に申し出るときは第14課の「〜ましょうか」を使い、「〜てあげました」は、したことをあとで別の人に話すときに使う、と場面で分けて練習します。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は第7課の復習と「くれます」(文型1・2)、文型3「〜てもらいます」まで。2コマ目は文型4「〜てくれます」と文型5「〜てあげます」、会話と練習C、問題です。行為の動詞のて形があやしいクラスでは、1コマ目の最初に第14課のて形を5分回しておくと、文型3から先が止まりません。
授受の板書はどう組みますか?
黒板の左に「わたし」と「友だち」の絵を描き、あげます・もらいます・くれますを矢印で示した図を作って、課のあいだずっと残します。右側に文型の枠を置き、文型3と文型4は同じ出来事の文を上下に並べて、主語と助詞(〜に/〜が)を色を変えて示します。行為の文では、受ける人の部分(わたしに/わたしを/わたしの〜を)を枠で囲んでおくと、動詞ごとの違いが見えます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。