第3課は「場所」の課です。第2課で物を指した これ・それ・あれ を、場所を指す ここ・そこ・あそこ と、丁寧に方向を示す こちら・そちら・あちら に広げ、建物の中で場所を聞く・案内する、初対面の相手に国と会社を聞く、店で品物の産地と値段を聞いて買う、までができるようになります。文型は7つありますが、芯は「ここはNです」と「Nはここです」の語順の違いと、百・千・万の数字です。動詞はまだ出ないので、「です」だけで物や人の居場所が言えることを学習者に納得させるのが、この課の教師の仕事です。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(復習とつなぎ) | 10分 | 第2課の これ・それ・あれ を実物で復習し、教師の立つ位置を変えて「物」から「場所」へ移す。第1課の国名・会社名のカードを黒板の端に残しておく(文型5・6で使う) |
| 文型1・2 | 30分 | 「ここはNです」と「Nはここです」を続けて導入し、同じ語を入れ替えた2文を板書で対比する。質問「ここはどこですか」「Nはどこですか」もここで |
| 文型3・4 | 30分 | 見取り図で場所の名前(-階・部屋)による居場所、-階の読み方。次に同じ絵を受付の人の役で言い直し、こちら・そちら・あちら・どちらの丁寧さを入れる |
| 文型5 | 15分 | 第1課の自己紹介に戻って「お国はどちらですか」「会社はどちらですか」。「お」の付け方 |
| 文型6・7 | 45分 | 「の」の新しい意味(産地・メーカー)と「どこのNですか」。数字の百・千・万と音の変化をまとめて練習してから「いくらですか」「-円です」へ |
| 会話 | 20分 | デパートの売り場で店員と客。決まり文句(いらっしゃいませ・見せてください・ください・どうも)を場面ごと覚える。音声を聞いて役割練習 |
| 練習C・問題 | 30分 | 場所を聞く/国と会社を聞く/買い物の3つのやり取りを場面を替えて。問題は数字と場所の聞き取りを中心に。宿題を出して第4課の時刻へつなぐ |
ここ・そこ・あそこ は場所を指す指示詞です。話し手のいる場所が「ここ」、聞き手のいる場所が「そこ」、2人から離れた場所が「あそこ」で、第2課の これ・それ・あれ と同じ3つの分け方です。「ここはNです」は、話し手が今いる場所や指している場所が「何の場所か」を言う文で、質問は「ここはどこですか」です。文法用語で言えば、コソアド(指示詞)のうち目の前の場所を指す「現場指示」の用法で、話し手と聞き手の位置で指す先が決まるダイクシスの典型です。
ここ/そこ/あそこ(場所の指示詞)+は+N(場所の名前)+です
練習Bの型: 教室・食堂・事務所・トイレ・受付の絵カードを見せ、教師「ここは?」→学生「ここは食堂です」。慣れたら「ここはどこですか」と質問の形で。練習Cの型: 学校の見取り図を2人で見て、案内する側が指さしながら「ここは〜です」、聞く側が「ここはどこですか」と聞く役割交代。
物や人が「どこにあるか・いるか」を、指示詞で答える文です。「トイレはあそこです」「田中さんはそこです」のように、主題が物や人で、述語が場所になります。文型1と語順が逆で、文型1は「この場所は何か」、文型2は「Nはどこか」を言います。第10課の「〜にあります/います」を習う前に、「です」だけで居場所が言える最初の形です。質問は「Nはどこですか」です。文の型で言えば、「どこに何があるか」を言う存在文に対して、「Nはどこにあるか」を言う所在文を、「です」だけで言った形です。
N(物・人・場所)+は+ここ/そこ/あそこ+です
練習Bの型: 教室の実物(教師のかばん・学生の辞書・時計)の置き場所を変えながら「〜はどこですか」→「ここ/そこ/あそこです」。答える学生の位置で指示詞が変わることを、同じ物について別の席の学生に答えさせて見せる。練習Cの型: 建物の見取り図を使い、訪問客が「〜はどこですか」、受付の人が指さして答える。
指示詞ではなく、場所の名前(部屋の名前・-階・国名など)で物や人の居場所を言う文です。「電話は2階です」「山田さんは会議室です」の「です」は「電話=2階」という意味ではなく、「〜にあります/います」の代わりに居場所を示す働きです。「-階」はこの文型で初めて出るので、読み方(1階 いっかい・3階 さんがい・何階 なんがい・地下1階)を先に押さえます。日本語学では、この「です」は文脈で分かる述語(ここでは「にあります/います」)の代わりをしていると見ることができ、「ぼくはうなぎだ」の型(うなぎ文)と並べて説明されることがあります。
N(物・人)+は+場所の名詞(〈部屋〉・-階・地下-階・国名など)+です
練習Bの型: 見取り図と物の絵カードで「〜は何階ですか」→「-階です」を全員で回し、1・3・6・8・10階と地下1階の読みに重点を置く。次に名前カードを動かして「〜さんはどこですか」→「〈部屋〉です」。練習Cの型: デパートの案内係と客で、売り場を聞いて「どうも」で終える。
ここ・そこ・あそこ の丁寧な言い方です。もともと「こちら=こっちの方向」のように方向を指す語なので、受付や店で手で方向を示しながら案内するときによく使います。質問は「どちら」です。第1課で人を紹介した「こちらは〜さんです」と同じ語で、場所・方向・人のどれにも使える丁寧な指示詞です。待遇表現として見ると、敬語の動詞を使わずに指示詞を替えるだけで丁寧さを出す例で、店や受付の人が客に向かって使うのが典型です。
N+は+こちら/そちら/あちら+です(ここ/そこ/あそこ の丁寧形。質問は どちら)
練習Bの型: 文型2の絵カードをそのまま使い、「受付の人になって」と指示して こちら/そちら/あちら で答え直す。練習Cの型: 受付の人と客のペアで、客が「すみません、〜はどちらですか」、受付が「〜はこちら/あちらです」、客が「どうも」。場所をロビー・エレベーター・階段・自動販売機と替えて回す。
相手の国や会社を丁寧に尋ねる「お国はどちらですか」「会社はどちらですか」と、その答え「〜です」です。ここの「どちら」は場所を指すのではなく、国名・会社名を聞く問いで、答えは名前になります。「お国」の「お」は相手のことに付ける丁寧の接頭辞で、自分の国には付けません。「うちはどちらですか」(住んでいる所)も同じ型です。
〔お〕国/会社/うち+は+どちらですか → 〔国/会社は〕+国名・会社名・地名+です
練習Bの型: 国旗カードと会社名カード(第1課の会社)を見せ、教師「お国は?」「会社は?」→学生が「〜です」。次に学生同士で質問の形まで言わせる。練習Cの型: パーティーで初対面の設定。名前→国→会社の順に聞いて「そうですか」で受ける。
「の」で、物が作られた国やメーカー(会社)を表します。「日本の車」「スイスの時計」のように、N1が国名・会社名、N2が物です。質問は「どこのNですか」で、答えは「〜のNです」または「〜のです」と短くもできます。第2課の「N1のN2(内容)」「N1のN2(持ち主)」と同じ形で、「の」の意味がもう1つ増えることになります。
国名・会社名+の+N(物)/質問は どこの+N
練習Bの型: 物の絵カードと国旗カードを組み合わせて見せ、「どこの〜ですか」→「〜の〜です」。慣れたら答えを「〜のです」と短くする。練習Cの型: 店で客が品物について「どこの〜ですか」と聞き、店員が答え、そのまま文型7の「いくらですか」に続ける。
値段を言う文と、値段を尋ねる「いくらですか」です。数字は第1課の1〜100に百・千・万が加わり、日本語の4桁区切り(1万=10,000)がここで初めて出ます。300・600・800・3,000・8,000 の音の変化(さんびゃく・ろっぴゃく・はっぴゃく・さんぜん・はっせん)と、1万を「いちまん」と読むことが聞き取り・発音の要点です。音の変化を日本語学の用語で言えば、さんびゃく・さんぜんは連濁、ろっぴゃく・はっぴゃく・はっせんは促音化(ろっぴゃく・はっぴゃくではさらに「ひ」が「ぴ」に変わる)で、数と単位が結びつくときの典型的な例です。
N+は+数字+円+です/質問は Nはいくらですか
練習Bの型: 数字カードを見せて速く読む練習のあと、値札付きの絵カードで「〜はいくらですか」→「-円です」。聞き取りも入れ、教師が言った値段を学生が数字で書く。練習Cの型: 店で客が2つの品物の値段を聞き、「じゃ、これをください」で買う(会話につなぐ)。
新出語は、建物の中の場所(教室・食堂・事務所・受付・ロビー・トイレ・階段・エレベーター・自動販売機)、売り場と品物(靴・ネクタイ・ワイン・たばこ)、数字(百・千・万)と -階・-円、買い物の決まり文句(いらっしゃいませ・見せてください・ください・どうも)の4つに分かれます。場所の語は学校の見取り図、品物は値札を付けた絵カードで、文型の練習の中で覚えさせるのが速い。-階と数字の音の変化は、文型3と文型7の前に語彙の段階で一度まとめて音読しておくと、文型の練習が止まりません。
デパートの売り場で、客が店員に声をかけ、品物を見せてもらい、どこの物か・いくらかを聞いて買う場面です。「いらっしゃいませ」「すみません」「〜を見せてください」「〜をください」「どうも」は、「を」や「〜てください」の文法(第6課・第14課)に触れず、この場面の決まり文句としてそのまま覚えさせます。場面の作り方は、教室の机を売り場にして、実物や絵カードに自作の値札と国名札を付け、店員役と客役に分ける。会話の流れ(声をかける→見せてもらう→産地と値段を聞く→買う→礼を言う)を板書に残し、まず教科書の音声で役割練習、次に品物(靴・ネクタイ・ワイン・時計)を替えて同じ流れで。ロールプレイに広げるときは、文型3・4の「〜売り場はどちらですか」から入って売り場までたどり着く、2つ見せてもらって「じゃ、これをください」で1つ選ぶ、のように前の文型をつなげると、課全体の復習になります。
宿題は2つ。①自分の学校か会社の建物の見取り図を描き、「〜は-階です」の文を5つ書く。②身の回りの物3つについて「これは〈国名〉の〜です。-円です。」と書く。次のコマは、百〜万の数字の聞き取り小テスト(教師が値段を読み、数字で書く)から入り、その数字の感覚のまま第4課の時刻(-時-分)につなぐ。
第3課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目で文型1〜4(ここ・そこ・あそこ、-階、こちら・あちら)まで、2コマ目で文型5〜7(お国・会社、どこのN、値段)と会話・練習Cを扱います。数字の100〜10,000は時間がかかるので、2コマ目の初めに数字だけを10分ほど音読してから文型7に入ると止まりません。
「ここはNです」と「Nはここです」の違いはどう教えればいいですか?
同じ語を使った2文を板書で上下に並べ、矢印で語の入れ替えを見せます。上は「この場所は何か」、下は「Nはどこか」を言う文だと、それぞれの質問文(ここはどこですか/Nはどこですか)を横に書いて示します。練習では、質問の「は」の前の語を答えの「は」の前にも置く、と1往復ずつ確かめると取り違えが減ります。
「ここ」と「こちら」はどう使い分けさせますか?
指す場所は同じで、こちら・そちら・あちら は丁寧な言い方だと説明します。受付・店・初対面の相手に使う言い方なので、受付の札を首にかけたときだけ こちら で答える、のように役で切り替える練習が分かりやすいです。指さしは ここ、手のひらで示すのは こちら、と動作もそろえておくと場面の中で自然に出ます。
300・600・800 の読み方はどう定着させますか?
板書で音が変わる数字(300・600・800・3,000・8,000)だけ色を変えて、目で区別させます。言う練習だけでは聞き取れないことが多いので、教師が読み上げた値段を数字で書く聞き取りを毎回入れます。次のコマの初めにも数字の小テストを入れると、第4課の時刻の練習に入りやすくなります。
「山田さんは会議室です」の「です」はどう説明しますか?
初級の学習者には、文法の説明より場面で「会議室にいる」の意味だと示します。名前カードを見取り図の部屋に置き、「山田さんはどこですか」と聞いてから答えさせると、居場所の意味だとすぐ分かります。「〜にいます/あります」は第10課で出るので、ここでは先に教えません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。