病院で具合の悪いところを伝え、医者の指示を聞いて確かめる課です。動詞のない形が初めて出て、それを使う「ないでください」「なければなりません」「なくてもいいです」の3つの文型と、目的語や時を前に出す「は」を学びます。教えるときの芯は3つ。ない形の変換を全員が言えるようにすること、「なければなりません」が「〜ません」で終わるのに否定ではないと体で分からせること、「なければなりません」と「なくてもいいです」を必ず問いと答えのペアで練習することです。活用の負荷が高い課なので、文型ごとに動詞の数を絞って回します。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(復習と前の課のつなぎ) | 10分 | 第14・15課の絵カードで「〜てください」「〜てもいいですか」「〜てはいけません」を速く言わせる。動詞のグループ表(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)を黒板に残し、「今日はこの表で新しい形を作ります」と予告する |
| ない形の作り方 | 40分 | グループ表の上でます形→ない形の変換を板書。カードで20語ほど回し、「〜います→〜わない」「きます→こない」を多めに。ここで文末に「ない」で言い切る文は作らせない。最後に「ない形ビンゴ」で全員の変換を確かめる |
| 文型1 〜ないでください | 40分 | 病院の絵カードで導入し、「〜てください」との対で板書。練習Bは絵カード、練習Cは医者と患者のやり取り。1コマ目はここまで |
| 文型2・3 〜なければなりません/〜なくてもいいです | 40分 | 2コマ目はない形のカードを3分回してから。2つを続けて入れ、「〜なければなりませんか」→「はい、〜なければなりません/いいえ、〜なくてもいいです」の対で練習する。「なければなりません=します」を板書に大きく残す |
| 文型4 〜は(取り立て) | 15分 | 「薬を飲みます」「お酒を飲みます」の絵を並べ、「薬は/お酒は」で対比。文型1〜3の文を「は」で言い換える練習 |
| 会話「どうしましたか」 | 15分 | 絵で場面を確かめてから音声を聞き、「どこで・だれが・何を言われたか」を聞き取る。「どうしましたか」「お大事に」は表現として覚えさせ、医者役・患者役で役割練習 |
| 練習C・問題 | 20分 | 練習Cを場面を替えて2〜3往復。問題の聴解は教室で、書く問題は宿題に。最後にない形のカードをもう一度回して閉じる |
ない形は「〜ません」の普通の形で、この課では「ないでください」「なければなりません」「なくてもいいです」の3つの文型の部品として出ます。初級Ⅰのこの段階では、文の終わりを「〜ない」で言い切る普通体はまだ教えないので(第20課)、この課では必ず後ろに文型を付けて練習します。作り方は動詞のグループで決まり、て形のような音の変化(いて・って・んで)はありません。学校文法でいえば「未然形+助動詞ない」にあたります。日本語教育では活用を「ない形」「て形」のように後ろに付く語で呼ぶので、学校文法の名前とも対応させて説明できるようにしておくと、学習者や同僚に聞かれたときに困りません。
Ⅰグループ: ます形の「ます」の前の音をい段からあ段に替えて「ない」(かきます→かかない)。Ⅱグループ: 「ます」を取って「ない」(たべます→たべない)。Ⅲグループ: します→しない、きます→こない
カード20枚ほどを「ます形→ない形」で速く回す。Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを混ぜ、「〜います」(かいます・あいます)と「きます」を多めに入れる。グループが分からない学生には、先に「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」と言わせてから変換させる。
相手に「〜しないで」と頼む表現です。第14課の「〜てください」の否定にあたります。第15課の「〜てはいけません」が規則としての禁止で強いのに対して、「〜ないでください」は話し手の頼みや気遣いとして使うので、医者の指示や係の人の案内に合います。「心配しないでください」のように、相手の気持ちを和らげる言い方にもなります。形の面では、第14課の「〜てください」の「て」の位置に「ないで」が入った形で、肯定と否定の依頼が一組になります。
Vない形+でください(のまない+でください→のまないでください)
練習Bの型: 絵カード(たばこ・お菓子・電話・お風呂・忘れ物)を見せて「〜ないでください」。練習Cの型: 「どうしましたか」「頭が痛いです」「じゃ、今日は〜ないでください」のやり取りを、学生が患者役と医者役で交代する。
「〜する必要がある」「〜しないと困る」という義務・必要を表します。形は否定が2つ重なっていますが、意味は肯定で、「します」の側です。自分のこと(予定・決まり・医者に言われたこと)を言うときに使うことが多く、「〜なければなりませんか」と聞かれたら、「いいえ」の答えは文型3の「〜なくてもいいです」になります。「〜ません」で終わるのに否定ではないことが、学習者のいちばん大きな混乱のもとです。文法用語ではモダリティのうち義務・必要を表す形です。話し言葉では「〜なければいけません」「〜なきゃ」も聞きますが、この課では「なりません」の形にそろえて練習します。
Vない形の「い」を取って「ければなりません」(のまない→のまなければなりません)
練習Bの型: 絵カード(薬・会社・銀行・宿題・早く起きる)で「〜なければなりません」。活用の負荷が高いので、最初は教師がない形まで言い、学生が「ければなりません」を付ける段階を入れてから、ます形のカードだけで言わせる。練習Cの型: 誘いを断る場面で「すみません、〜なければなりません」。
「〜する必要はない」「〜しなくてもかまわない」という意味です。文型2「〜なければなりませんか」に「いいえ」で答える形として入れると、2つの文型が対になって覚えやすくなります。第15課の「〜てもいいです」(許可)と形が似ていますが、こちらは「しなくてよい」で、「してはいけない」(禁止)ではありません。モダリティでいえば「不必要」を表す形で、義務を表す「〜なければなりません」を否定したときの答えにあたります。
Vない形の「い」を取って「くてもいいです」(こない→こなくてもいいです)
練習Bの型: 文型2の絵カードをそのまま使い、教師が「〜なければなりませんか」と聞いて、〇のカードなら「はい、〜なければなりません」、×なら「いいえ、〜なくてもいいです」。練習Cの型: 新しい学校や会社の決まりを聞く場面で、学生同士が質問と答えを交代する。
主語ではない名詞(目的語・時・場所)を文の前に出して「は」を付け、話題にしたり、ほかのものと対比したりする使い方です。「を」「が」は「は」に置き換わり、「に」「で」「へ」は「には」「では」「へは」のように重ねます。この課では「薬は〜」「明日は〜」のように、文型1〜3と組み合わせて出てきます。「取り立て」は、文の中のある部分を特に取り上げて示す、という意味の文法用語です。格助詞の「を」「が」は「は」と重ねずに置き換え、それ以外の格助詞は「には」「では」のように重ねる、という区別が要点で、取り立て助詞と格助詞の違いを説明するときの基本の例になります。
Nを/Nが→Nは。Nに/Nで/Nへ→Nには/Nでは/Nへは。〈時〉は(助詞のない時の語にはそのまま「は」)。話し言葉では「に」「へ」が落ちて「は」だけになることも多い(日曜日は・お風呂は・会社は)
練習Bの型: 「を」の文を「は」の文に言い換える(薬を飲みます→薬は飲まなければなりません)。2枚の絵を見せて「Aは〜。Bは〜」と対比で言わせる。練習Cの型: 「明日は?」「土曜日は?」と予定を聞き合う。
病院の語(熱・風邪・薬・健康保険証・お風呂)と会社の語(残業します・出張します)が中心で、動詞が多めです。新しい動詞(忘れます・なくします・払います・返します・脱ぎます・心配します)はそのままない形の練習の材料にし、「〜までに」は文型2の「〜までに出さなければなりません」で場面と一緒に入れます。「大丈夫」「お大事に」は会話の決まった言い方として先に覚えさせると、役割練習が楽になります。
病院で患者が具合の悪いところを伝え、医者が診て今日の過ごし方を指示する会話です。まず絵で場面(どこで・だれが)を確かめ、音声を1回聞いて「医者は何をしないでくださいと言ったか」「何をしなければならないか」を聞き取らせます。「どうしましたか」「お大事に」は文型ではなく表現としてそのまま覚えさせ、「〜ないでください」「〜なければなりません」の文は文型の練習で作ったものに置き換えて、患者役・医者役で言い換えながら役割練習をします。会話の文はここに載せていないので、手元の教科書で確かめてください。
動詞表のない形の列を埋める(既習の動詞を全部)。練習Bの書く問題と、問題の読んで答える部分。次のコマの最初に、ない形のカードを速く回して答え合わせをしてから、第18課の辞書形へ進む(同じ動詞表を使い続ける)。
第17課のない形はどの順で教えればいいですか?
第14課で作ったグループ表をそのまま使い、Ⅰグループの「い段→あ段+ない」から入ります。すぐに「〜います→〜わない」(かいます→かわない)を別の列で見せ、ⅡとⅢは短く片づけて「きます→こない」だけを大きく残します。文型1に入る前に、ます形→ない形の1分間の書き取りか「ない形ビンゴ」で落ちた語を直しておくと、あとの3つの文型の練習が止まりません。
「〜ないでください」と「〜てはいけません」の違いは何ですか?
「〜ないでください」は話し手からのお願いで、医者や係の人の指示、友だちへの頼みに使えます。「〜てはいけません」は決まりとしての禁止で、規則を知らせる立場の人が使う言い方です。頼む場面で「〜てはいけません」を使うと強く聞こえるので、「すみませんが、〜ないでください」と言い換えさせます。
「〜なければなりません」を否定だと思う学習者にはどう教えますか?
導入で「飲みます? 飲みません? だめです」と状況を作ってから「飲まなければなりません」を出し、板書に「=飲みます」と大きく書きます。練習では1文ごとに「しますか、しませんか」と聞き、「します」と答えさせます。「ません」で終わっても否定ではないことを、形の説明より、何度も意味を確かめることで分からせます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目はない形の作り方と文型1「〜ないでください」まで。2コマ目は最初にない形を3分回してから、文型2・3を対で入れ、文型4、会話、練習Cと問題に進みます。ない形が弱いクラスは、第18課の辞書形に入る前に5分の小テストを入れると、活用の混乱が広がりません。
取り立ての「は」はこの課でどこまで教えますか?
「を」「が」は「は」に置き換え、「で」「に」「へ」は「では」「には」「へは」と重ねること、時の語にはそのまま「は」を付けることまでです。使い方は2つのものを比べる対比を中心にし、「薬は〜。お酒は〜」のように2文で練習します。「は」と「が」の違いや、1文にいくつも「は」が入る文には、この課では入りません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。