発話は情報を述べるだけでなく、依頼・約束・命令・謝罪といった行為そのものを遂行する。オースティン(Austin)はこれを、発話を行うこと(発語行為)、それによって何かをすること(発語内行為)、聞き手に効果をもたらすこと(発語媒介行為)の3層に分けた。
サール(Searle)は発語内行為を断定・行為指示・行為拘束・表出・宣言などに分類し、文の形式と実際の行為の種類がずれる場合を間接発話行為と呼んだ。「窓を開けていただけませんか」は形式は疑問文だが機能は依頼であり、「寒くない?」が「窓を閉めて」の依頼として働くのも同様である。
間接的な形をとるのは、相手の行動の自由を侵さないための配慮=ネガティブ・ポライトネスと結びつく。学習者が形式だけを字義どおりに受け取って「はい、開けられます」と答えてしまう例は、語用論的な失敗として扱われる。
教室が暑いときに学習者が「先生、この部屋、暑いですね」と言えば、形は感想を述べる平叙文だが、窓を開けてほしい、エアコンを入れてほしいという依頼として働きうる。教師が「そうですね」とだけ返すと、学習者の意図は受け取られなかったことになる。反対に、学習者が間接的な依頼を受けたときに気づけるよう、場面と発話の組を示して「この人は何をしてほしいのか」を考えさせる練習も有効である。
アルバイト先で店長に「あしたも来られる?」と聞かれた学習者が、「はい、来られます」とだけ答えて、来るかどうかを言わないことがある。この問いは能力の確認ではなく出勤の依頼なので、「はい、来ます」「すみません、あしたはちょっと…」のように、依頼への応答として答える必要がある。
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