初級の最終課で、謙譲語が初めて出ます。第49課の尊敬語が「相手の行為を高める」形だったのに対し、この課は「自分の行為を低く言って、相手を立てる」形です。「お持ちします」「ご案内します」のように目上の人のために自分がする行為を言う形と、「伺います」「申します」「参ります」のような特別な語を扱います。行為をするのが相手か自分かで、尊敬語と謙譲語を選ぶのがこの課の芯で、「お〜になります」を自分に、「お〜します」を相手に使う取り違えを、二列の板書で毎回確かめます。特別な謙譲語は「相手に向かう行為に使う語」と「自分のことを改まって言う語」に分けて出すと、使う場面が整理しやすくなります。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(復習とつなぎ) | 15分 | 第49課の尊敬語を絵カードで数枚回し(先生がお帰りになります・召し上がります)、「だれがしますか」と聞いて主語が先生だと確かめる。次に教師が先生の荷物を持つ身ぶりで「わたしがお持ちします」と言い、板書を「先生がする(尊敬語)」「わたしがする(謙譲語)」の二列にする |
| 文型1(お〈Vます形〉します) | 35分 | 重い荷物・傘・地図の実物で、教師が申し出る場面を作り「お持ちしましょうか」「お貸しします」。ます形→お〜します の口頭練習を、使えない動詞(見ます・います・寝ます・来ます・します)の確認まで |
| 文型2(ごNします) | 20分 | 学校の案内・説明・連絡の場面で「ご案内します」「ご説明します」。「お」は ます形 に、「ご」は「N+します」の動詞に付くことが多い、と板書の二列で分け、「お電話します」は例外として一つだけ見せる |
| 文型3(特別な謙譲語・目上のための行為) | 35分 | 「ふつうの動詞|尊敬語|謙譲語」の三列表を作り、伺います・拝見します・いただきます・お目にかかります・申し上げます などを埋める。尊敬語の列は学生に言わせ、謙譲語の列を教師が足す。相手のところへ行く・相手の物を見る、と矢印で向かう先を示す |
| 文型4(特別な謙譲語・自分自身のこと) | 30分 | 改まった自己紹介と自分の予定で「〜と申します」「明日は大阪へ参ります」「午後は会社におります」「わたしがいたします」。文型3との違いは、向かう先に立てる相手がいるかどうか、で一本だけ線を引く |
| 会話 | 20分 | 改まった場でお礼を述べる会話。謙譲語・尊敬語の部分に線を引かせてだれの行為かを言わせ、学生自身のお礼の相手と内容に置き換えて短いスピーチにする |
| 練習C・問題・初級のまとめ | 25分 | 練習Cは目上の人とのやり取り(申し出る・訪ねる・自分の予定を伝える)。問題は聞き取りを教室で。最後に同じ内容を「友達に(普通体)」「クラスの人に(です・ます)」「先生や会社の上の人に(敬語)」の三つで言い分けて、初級の丁寧さの段階を一枚の板書にまとめる |
この項目は謙譲の形「お〜します」の作り方として扱います。「持ちます→お持ちします」「待ちます→お待ちします」のように、ます形の「ます」を取った形の前に「お」を付け、後ろに「します」を続けると謙譲の形になります。謙譲語は、自分(や自分の側の人)の行為を低く言って、その行為が向かう相手を立てる言い方なので、主語はいつも自分です。荷物を持つ・傘を貸す・知らせる のように、相手のためにする行為や相手に向かう行為に使い、「〜ましょうか」を付けて申し出るときによく使います。もっと改まった場では「します」を「いたします」にして「お持ちいたします」とも言います。文化審議会の「敬語の指針」の分け方では、お〜します は謙譲語Ⅰの代表的な形で、お〜いたします は謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ(丁重語)を重ねた形とされます。
お+ます形(ます を取る)+します。ます の前が1拍の動詞(見ます・います・寝ます・着ます・来ます・します)には使わない
絵カード(持ちます・待ちます・貸します・送ります・呼びます・調べます・知らせます・見せます)で「ます形→お〜します」の言い換えを速いテンポで1周し、使えない動詞(見ます・来ます・寝ます)を混ぜて「使えません」と答えさせる。次に、困っている目上の人の絵を出し、学生が「お〜しましょうか」で申し出る問答(練習Bの型)にする。
「案内します→ご案内します」「説明します→ご説明します」のように、「N+します」の動詞で、Nの前に「ご」を付けて謙譲の形にする文型です。意味とはたらきは文型1の「お〜します」と同じで、主語は自分、相手のためにする行為や相手に向かう行為に使います。「ご」が付くのは主に漢字の言葉(漢語)の名詞ですが、「お電話します」のように「お」が付く語もあるので、出てきたものから一つずつ覚えます。「勉強します」「運動します」のように相手に向かわない行為には使いません。「敬語の指針」の分け方では、ご〜します は お〜します と同じく謙譲語Ⅰの形で、「ご〜いたします」にすると謙譲語Ⅱの丁寧さも重なります。
ご+N(案内・説明・連絡・紹介・相談 など)+します。もっと改まった場では ご+N+いたします
N+します の絵カード(案内・説明・連絡・紹介・相談・招待)で「ご〜します」の言い換えをし、そこに文型1の動詞を混ぜて「お」か「ご」かを選ばせる(練習Bの型)。次に「ご〜しましょうか」で申し出るやり取りをし、最後に「お客さんを案内する」「先生に説明する」の短い場面練習(練習Cの型)につなぐ。
「行きます・聞きます→伺います」「見ます→拝見します」「もらいます・食べます・飲みます→いただきます」のように、「お〜します」の形ではなく、別の語で謙譲を表す動詞があります。この項目の語は、目上の人のところへ行く、目上の人の物を見る、目上の人から物をもらう のように、行為が向かう先に立てる相手がいるときに使います。だから「先生のお宅に伺います」は言えますが、会う人もいない場所へ一人で行くだけのときは「伺います」を使いません。文化審議会の「敬語の指針」(2007年)でいう「謙譲語Ⅰ(向かう先の人物を立てる謙譲語)」にほぼ当たると考えてよいでしょう。「食べます・飲みます」の意味の「いただきます」は、向かう先の人がはっきりしない場面でも使われるので、教室では「出してくれた人やその場の人を立てて、自分が食べる・飲むことを言う形」と説明すると扱いやすくなります。
特別な謙譲語に「ます」を付けて使う(行きます・聞きます→伺います、見ます→拝見します、もらいます・食べます・飲みます→いただきます、会います→お目にかかります、言います→申し上げます、あげます→差し上げます)
三列表の「ふつうの動詞」を教師が言い、学生が尊敬語と謙譲語の両方を言う(行きます→いらっしゃいます/伺います)。次に絵カードで主語を変えて(先生が見ます/わたしが見ます)どちらの列かを選ばせる練習Bの型。最後に「先生の研究室を訪ねる」「上の人の家に呼ばれる」場面のやり取りで、伺います・拝見します・いただきます を使わせる。
「行きます・来ます→参ります」「います→おります」「言います→申します」「します→いたします」のように、自分のことを、聞いている相手に改まって丁寧に伝えるための語です。文型3の語と違って、行為が向かう先に立てる相手がいなくてもかまいません。「週末は京都へ参ります」は、京都に会う人がいなくても、聞き手に丁寧に伝える言い方として使えます。ふつうは「ます」の形で使い、自己紹介の「〜と申します」、「〜ています」を改まって言う「〜ております」、「ご〜いたします」の形でよく出ます。「敬語の指針」の「謙譲語Ⅱ(丁重語)」にほぼ当たると考えられますが、教室では「自分のことを丁寧に言う語」と言えば十分です。
特別な謙譲語に「ます」を付けて使う(行きます・来ます→参ります、います→おります、言います→申します、します→いたします、知っています→存じております、知りません→存じません)
教師が普通の文(明日、空港へ行きます/3時まで会社にいます/それはわたしがします)を言い、学生が特別な謙譲語に言い換える(練習Bの型)。次に面接やアルバイト先への電話の場面で、改まった自己紹介と自分の予定を言うやり取り(練習Cの型)。文型3の語と混ぜたカードを出し、毎回「相手のところへ行きますか」と聞いて選ばせる。
この課の新出語は、特別な謙譲語(伺います・拝見します・申します・参ります など)と、改まった場のあいさつやお礼に使う言葉が中心です。特別な謙譲語は単語だけで覚えさせず、ふつうの動詞・尊敬語・謙譲語の三列表に書き込んで、1組で練習させます。お礼やあいさつの決まった言い方は、意味を分解せずかたまりで覚えさせます。
会話は、題のとおり、お世話になった人たちに改まった場でお礼を述べる流れです。「感謝いたします」の「いたします」は文型4の語で、聞いている人たち全体に向けて自分の気持ちを丁寧に述べる言い方になっていることを、三列表に戻して確かめます。最初はCDか教師の読みで流れをつかませ、謙譲語と尊敬語の部分に線を引かせて、だれの行為かを一つずつ言わせます。そのあと、学生自身がお礼を言いたい相手(先生・ホストファミリー・アルバイト先の人など)と内容に置き換えて、1分ほどの短いスピーチを作らせると、初級の締めくくりの活動になります。会話の文はここに載せていないので、手元の教科書で確かめてください。
宿題は問題の文法部分と、お世話になった人へのお礼のスピーチ(または手紙)を、お〜します/ご〜します を一つ、特別な謙譲語を二つ以上使って書くこと。次のコマで発表させ、尊敬語と謙譲語の取り違えだけをその場で直す。初級のまとめとして、三列表(ふつうの動詞・尊敬語・謙譲語)と、普通体・です/ます・敬語の言い分けの板書を学生に写させ、中級に進んでも使える一枚にしておく。
第50課の謙譲語と第49課の尊敬語は、どう区別させればいいですか?
形よりも先に「だれがしますか」で区別させます。板書を「先生が(尊敬語)」「わたしが(謙譲語)」の二列にして課の終わりまで消さず、迷うたびに主語から列を選ばせます。三列表(ふつうの動詞・尊敬語・謙譲語)を学生に埋めさせると、二つの課の語を一度に整理できます。
「伺います」と「参ります」の違いは、どう説明しますか?
「伺います」は先生のところへ行く・先生に聞く のように、行為が向かう先に立てる相手がいるときの語です。「参ります」は自分が行く・来ることを、聞いている人に丁寧に言う語で、行き先に人がいなくても使えます。教室では、先生の家の絵と一人で行く海の絵を並べ、海には「参ります」だけが使える、と見せるのが分かりやすいでしょう。
「お〜します」の「お」と「ご」は、どう教え分けますか?
ます形の動詞(持ちます・待ちます)には「お」、「N+します」の動詞(案内します・説明します)には「ご」が付くことが多い、とだけ伝えます。「お電話します」のような例外は、出てきたものから一つずつ覚えさせます。和語と漢語の規則を細かく説明するより、板書の二列に動詞を振り分ける練習のほうが定着します。
第50課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は復習と文型1・文型2、文型3の三列表の導入まで、2コマ目は文型3の練習と文型4、会話、練習C、初級のまとめです。尊敬語の定着が弱いクラスでは、1コマ目の最初に第49課の三列表を10分ほど復習してから始めると、取り違えが減ります。
初級の最後の課として、敬語はどこまで言えればいいですか?
「お〜しましょうか」で申し出る、「伺ってもいいでしょうか」で訪ねる約束をする、「〜と申します」で改まった自己紹介をする、の三つが言えれば十分です。会社の外の人に自分の会社の人のことを言う言い方(ウチとソト)や、二重敬語の扱いは、聞いて分かる程度にとどめ、中級で改めて扱います。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。