友達や後輩から悩みを相談されたとき、相手の問題に合わせてアドバイスすることが目標の課です。上手なアドバイスには、心配しすぎている相手を安心させる(〜ことはない)、ほかに方法がないことを示す(〜しかない)、別の案や交換の条件を出す(〜かわりに)、本来の人に代わって役目を引き受ける(〜にかわって…が)、そしてすすめる(〜ほうがいい)という、いくつかの動きがあります。この課の芯は、同じアドバイスでも強さが違うことを見せることで、「〜てみたら?」から「〜しかない」までを一本のものさしに並べ、相手と場面で選ばせます。もう一つの山は「〜かわりに」と「〜にかわって」の区別で、物や行動を取り替える・つり合わせるのか、人が本来の人の役目を引き受けるのかを、板書の絵で分けて見せます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 「最近、困っていることはありますか」と聞き、寝不足・アルバイト・家族への連絡などの悩みを一言ずつ黒板に集める。教師が一つ取り上げて、強い言い方とやわらかい言い方の二通りでアドバイスしてみせ、この課は相手の問題に合わせて、言い方の強さまで選んでアドバイスする課だと予告する |
| 学習項目1 〜ことはない | 25分 | 落ち込んでいる学生の絵で「そんなに〜ことはない」を導入し、相手の心配を打ち消して安心させる言い方だと見せる。「〜なくてもいい」と並べて違いを確かめ、経験の「Vたことはない」とは前の形で分ける |
| 学習項目2 〜しかない | 25分 | 終電に乗り遅れた場面で帰る方法を一つずつ消し、残った方法を「〜しかない」で言う。「〜ほうがいい」との強さの違いを比べ、量の「Nしか〜ない」とも分ける |
| 学習項目3 〜かわりに… | 35分 | 物の取り替え(ペン→鉛筆)から「Nのかわりに」「Vるかわりに」へ。天びんの絵で交換(手伝ってもらうかわりに、おごる)と代償(広いかわりに、遠い)を見せ、相談への別の案と「その代わり」の条件づけに使う |
| 学習項目4 〜にかわって…が | 25分 | 名札を付け替える教師の動作で、本来の人の役目を別の人が引き受ける形を導入する。学習項目3の板書と並べ、物・行動の取り替えか、人の代理かを分け、改まった場面の「にかわりまして」まで |
| 学習項目5 〜ほうがいい | 20分 | 初級の復習。強さのものさし(〜てみたら?/〜たらどうですか/〜たほうがいい/〜しかない)の上で、相手(友達・先輩・先生)に合わせて言い方を選ばせる |
| 目標の活動(ロールプレイ) | 30分 | 悩みのカードを持つ人と、相談を受ける人のペアを作る。相談を受ける人は、①気持ちを受け止める一言 ②「〜ことはない」で安心させる ③「〜かわりに〜たらどう?」で案を出す ④必要なら「〜しかない」 ⑤「〜ほうがいいと思う」でまとめる、の順でアドバイスする。相手のカード(友達・先輩・先生)を替えてもう一度行い、見ている学生は言い方の強さが相手に合っていたかを伝え合う |
| まとめ | 10分 | 「〜かわりに/〜にかわって」の二択を5問ほどと、アドバイスの言い方を強さの順に並べ替える問題で確かめ、ロールプレイで出た悩みの一つに返事を書く短い作文を宿題にする |
「V(辞書形)ことはない」は、そうする必要はないという話し手の判断を表します。相談の場面では、心配したり無理をしようとしたりしている相手に「そこまでしなくて大丈夫だ」と伝えて安心させるのに使います。「そんなに」「わざわざ」「何も」「一人で」とよくいっしょに使われ、「〜なくてもいい」より、相手の心配や考えを「しなくていいことだ」と打ち消す気持ちが強く出ます。過去の「〜ことはなかった(のに)」は、終わったことについて「する必要はなかった」と言う形で、言い方によっては相手をやさしく責める響きになります。
V(辞書形)+ことはない(丁寧は「ことはありません」「ことはないですよ」、過去は「ことはなかった」)。経験を言う「Vたことはない」とは前の形が違う
まず相手の心配のカード(小テストの点が悪い・道に迷った・約束に少し遅れそうだ)を見せ、「そんなに/わざわざ/一人で〜ことはないよ」で安心させる一言を言わせる。次に同じ相談に「〜なくてもいいよ」と「〜ことはないよ」の両方で答えさせ、どちらが相手の心配を打ち消す感じが強いかを話し合う。最後に、安心させる一言のあとに理由を一文足させ(〜から、〜ことはないよ)、目標の活動の材料にする。
「V(辞書形)しかない」は、ほかに方法がないので、そうするより仕方がないという意味です。アドバイスの場面では、相手がいろいろ考えて迷っているときに「もうこの方法しかない」と道を一つに絞って示すのに使い、「〜たほうがいい」より強く、決めつける言い方になります。自分のことに使うと「やるしかない」のように覚悟や決心も表します。「Nしか〜ない(財布に千円しかない)」は「Nだけで少ない」という量・範囲の意味で、形は似ていますが、この課の「Vしかない」は方法・選択肢が一つだけだという意味だと分けて教えます。
V(辞書形)+しかない(丁寧は「しかありません」。「Vるほかない」「Vるよりしかたがない」も近い意味で、やや硬い)
困った場面のカード(終電に乗り遅れた・部屋の鍵をなくした・在留カードの期限が近い)を見せ、ペアでほかの方法を挙げてから一つずつ消させ、残った方法を「〜しかない」で言わせる。次に同じ相談に「〜ほうがいい」と「〜しかない」で答え分けさせ、どちらの場面に合うかを確かめる。最後に、自分が「やるしかない」と思った経験を一文で話させる。
「かわりに」には大きく二つの使い方があります。一つは代わりにする(取り替え)で、「Aのかわりに、B」が「Aではなく、Bを使う・Bをする」という意味になります(ペンのかわりに鉛筆で書く/電車で行くかわりに、自転車で行く)。もう一つは交換・代償(つり合い)で、「Aかわりに、B」が「Aをしてもらう(Aといういいことがある)、その分Bをする(Bという悪いこともある)」という関係を表します(宿題を手伝ってもらうかわりに、昼ご飯をおごる/この部屋は広いかわりに、駅から遠い)。取り替えではAがなくなり、つり合いではAもBも両方あるのが違いです。アドバイスの場面では、相手の案を別の案に替えて示したり、「その代わり、〜てね」と条件を付けたりするのに役立ちます。
N+の+かわりに/V(辞書形・た形・ない形)+かわりに/い形(〜い)+かわりに/な形(〜な)+かわりに(文の初めでは「その代わり(に)」。漢字で書くと「代わりに」)
まず物のカード(ペン→鉛筆・砂糖→はちみつ)で「Nのかわりに」、行動のカード(タクシー→バス・エレベーター→階段)で「Vるかわりに」を言わせる。次に天びんのカードでペアに交換の約束を作らせ(〜てもらうかわりに、〜する)、部屋やアルバイトの広告を見て「〜かわりに、〜」でいい点と悪い点を一文にまとめさせる。最後に、友達の相談に別の案を出す一言(〜かわりに、〜たらどう?)と、条件を付ける一言(いいよ。その代わり、〜てね)を言わせる。
「N1にかわって、N2が〜する」は、本来N1がするはずのことを、N2が代わりにする(代理)という意味です。N1は、その役目を持っている人(担当者・社長・先生・司会など)で、病気や留守などでその人ができないときに使います。後ろの「が」は、だれが代わりにするのかを新しく知らせる働きをしていて、「私が」「森が」のように代わりにする人が来ます。あいさつ・案内・会議など改まった場面の言い方で、会話では「Nのかわりに」、さらにくだけると「(私が)代わりに〜する」と言うのがふつうです。学習項目3の「かわりに」が物や行動を取り替える・つり合わせるのに対して、「にかわって」は人が本来の人の役目を引き受けることに中心があります。社会の移り変わりを言う文(手紙にかわって、メールが使われるようになった)では、人以外も入ります。
N1(人・役目)+にかわって、N2+が+V(改まった話し言葉は「にかわりまして」、書き言葉は「にかわり」、名詞の前は「にかわるN」:石油にかわるエネルギー。漢字で書くと「代わって」)
役目のカード(司会・担当者・店長・クラスの代表)と、その人ができない理由のカード(病気・出張・急用)を引かせ、「〜は〜ので、〜にかわって私が〜」と言わせる。次に同じ内容を、友達との会話(〜のかわりに/私が代わりに)と改まったあいさつ(〜にかわりまして)で言い分けさせる。最後に、目標の活動に向けて、友達の困りごとに「私が代わりに〜しようか」と申し出る形を練習し、友達には「にかわって」より「代わりに」が自然なことを確かめる。
初級で習った形の復習です。この課では、相談された問題に対してどのくらいの強さでアドバイスするかを選ぶ中で使います。「Vたほうがいい」「Vないほうがいい」は、話し手が二つを比べて、こちらがいいとはっきりすすめる言い方で、言い切ると強く、目上の人には押しつけに聞こえることがあります。「〜たらどうですか」は相手に考えてもらう提案で少しやわらかく、「〜てみたら?」はさらに軽い言い方です。逆に、より強いほうには学習項目2の「〜しかない」があり、文の終わりに「〜と思います」「〜かもしれません」を付けると、どの形も一段やわらかくなります(この課の題のように「〜させたほうがいいと思います」と使役と組み合わせることもできます)。
V(た形)+ほうがいい/V(ない形)+ないほうがいい(「辞書形+ほうがいい」は、一般的にどちらがいいかを言うときに使われることが多い)。提案は V(た形)+らどうですか/らいかがですか
相談のカード(眠れない・お金が足りない・ルームメイトがうるさい)を引かせ、強さのものさしの上の形を一つ選んでアドバイスさせる。次に相手のカード(友達・先輩・先生)を替えて、同じ内容を強さを変えて言い直させる。最後に、「〜ことはない」で安心させてから「〜たらどうですか」で提案し、必要なら「〜しかない」で道を示す、という三段のアドバイスを一人ずつ作らせる。
この課の目標の場面で使う語は、悩みを言う語(悩む・困る・心配する・落ち込む・寝不足)、アドバイスをする語(相談する・すすめる・提案する・様子を見る・無理をする)、相手の気持ちに関わる語(安心する/安心させる・気にする・気を使う)の三つのかたまりに分けると扱いやすくなります。単語だけで覚えさせず、「そんなに気にすることはない」「無理をしないほうがいい」「家族を安心させたほうがいい」のように、この課の学習項目と組み合わせた形で練習します。「安心させる」は初級で習った使役の形で、アドバイスの中で「だれを安心させるか」を言うと、すすめる理由になることを一度取り上げます。
宿題は、ロールプレイで出た悩みの一つを選び、相談した人に返事のメッセージ(200字程度)を書くこと。「〜ことはない」で安心させる一文、「〜かわりに」か「〜しかない」で案を出す一文、「〜ほうがいいと思う」でまとめる一文を必ず入れる。次のコマの最初に何人かに読んでもらい、アドバイスの強さが相手に合っているかをクラスで確かめてから、第15課の予報・予測の表現(〜から〜にかけて・〜おそれがある)に入ります。アドバイスの強さのものさしは、第15課の「〜おそれがある」のような注意をうながす言い方とも比べられるので、ノートに残しておかせます。
「〜かわりに」と「〜にかわって」の違いは何ですか?
「〜かわりに」は、物や行動を別のものに取り替える(ペンのかわりに鉛筆)か、二つのことをつり合わせる(手伝ってもらうかわりにおごる・広いかわりに遠い)ときに使います。「〜にかわって…が」は、本来その役目を持つ人ができないときに、別の人がその役目を引き受けるという意味で、会議やあいさつのような改まった場面の言い方です。人の代理は「〜のかわりに」でも言えますが、改まった場面では「〜にかわって」「〜にかわりまして」になります。板書で、取り替えの天びんの絵と、名札を付け替える絵を並べて見せると分かれます。
「〜ことはない」と「〜なくてもいい」はどう違いますか?
「〜なくてもいい」は決まりや許可として「しなくてもかまわない」と伝える形で、質問への答えにも使えます。「〜ことはない」は、相手が心配していることやしようとしていることを見て「そこまでする必要はない」と打ち消し、安心させる言い方です。許可を聞かれた答えに「〜ことはない」を使うと強く響くので、答えには「〜なくても大丈夫です」を使わせます。前が辞書形で、経験の「〜たことはない」とは別の形だということも一緒に確かめます。
アドバイスの強さはどう教えればいいですか?
黒板に一本の線を引き、弱いほうから「〜てみたら?」「〜たらどうですか」「〜たほうがいいと思う」「〜たほうがいい」「〜しかない」と並べた「ものさし」を作ります。同じ相談に、相手(友達・先輩・先生)を替えて答えさせ、相手が上になるほど弱いほうを選ぶことを体験させます。「〜しかない」は、ほかの方法がないときにだけ使う一番強い言い方だと、方法を一つずつ消す導入で見せておきます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入と「〜ことはない」「〜しかない」、「〜かわりに」の取り替えの意味まで。2コマ目は「〜かわりに」の交換・代償、「〜にかわって…が」、「〜ほうがいい」の強さの比べ、目標のロールプレイとまとめです。「〜かわりに」と「〜にかわって」の区別が弱いクラスでは、2コマ目の初めに二択の問題を5分入れてから先に進みます。
「〜かわりに」の板書はどう組みますか?
上の段に「Aのかわりに B(取り替え:Aはなくなる)」の枠と、物を取り替える例を書きます。下の段に天びんの絵を描き、左の皿にA、右の皿にBを書いて「Aかわりに B(交換・代償:AもBもある)」の枠にします。名詞のあとの「の」は赤で書き、動詞や形容詞にはそのまま付くことを、上下の枠を比べて見せます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。