日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策の問題集

学ぼう!にほんご 初級Ⅱ 第37課「この傘は田中さんにお借りしました」の教案

『学ぼう!にほんご 初級Ⅱ』

前の第36課で、相手の行為を高める尊敬語(お〜になります・いらっしゃいます など)を学んだのを受けて、この課では自分(や自分の側の人)の行為を低く言って、その行為が向かう相手を立てる謙譲語が初めて出ます。形は「お持ちします」「ご案内します」のように作る言い方、それを一段改まった場面で使う「お持ちいたします」、そして「参ります・申します・拝見します・伺います」のような特別な語の三つです。芯は「だれがするか」で尊敬語と謙譲語を選ぶことで、「お〜になります」と「お〜します」は形がよく似ているので、第36課の形を左、この課の形を右に並べた二列の板書を課の終わりまで消さずに使います。第35課の「いただきます」「さしあげます」も謙譲の仲間なので、ここで敬語の表の中に置き直すと、授受と敬語が一本につながります。

このページについて教科書の本文・例文・練習の文は載せていません。例文と場面はすべて自作です。課の題と学習項目の表記は本の目次に合わせています。
学習項目3時間90分×2コマ

この課のねらい(Can-do)

  • 目上の人のために自分がすること(持つ・貸す・借りる・知らせる・案内する)を「お〜します/ご〜します」で申し出たり伝えたりできる
  • 行為をするのが相手か自分かで、「お〜になります」と「お〜します」を取り違えずに選べる
  • 店・受付・面接・仕事のメールのような改まった場面で「お〜いたします/ご〜いたします」を使い、「お〜します」との丁寧さの違いを説明できる
  • 参ります・申します・おります・いたします・伺います・拝見します・いただきます などの特別な謙譲語で、改まった自己紹介や自分の予定、目上の人を訪ねることを言える

進め方と時間配分

目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。

段時間やること
導入(前の課とのつなぎ)10分第36課の尊敬語を絵カードで数枚回し(先生がお帰りになります・召し上がります・いらっしゃいます)、「だれがしますか」と聞いて主語が先生だと確かめる。続けて教師が資料の箱を運んでいる先生役の学生に近づいて「わたしがお持ちします」と言い、主語が自分の敬語もあることを見せて、板書を「先生がする」「わたしがする」の二列にする
学習項目1 お〜します/ご〜します40分荷物・傘・本などの実物で申し出の場面を作り、ます形→お〜します、N+します→ご〜します の言い換えを口頭で。この形にならない動詞(見ます・来ます・します)は表に空欄のまま残し、学習項目3につなぐ
学習項目2 お〜いたします/ご〜いたします30分同じ申し出を「持とうか→お持ちしましょうか→お持ちいたしましょうか」の三段で言い、友達・先生・店のお客さんの絵カードでどの段を使うかを選ばせる。店・受付・アナウンスの言葉として耳に入れる。1コマ目はここまで
学習項目3 謙譲表現(相手に向かう語)35分2コマ目の始めに、1コマ目の二列の板書を出し直して「お〜します」を数個言わせてから入る。「ふつうの動詞|尊敬語|謙譲語」の三列の表を作り、尊敬語の列は学生に言わせてから、伺います・拝見します・いただきます・お目にかかります を教師が足す。先生の研究室を訪ねる場面で使わせる
学習項目3 謙譲表現(自分のことを改まって言う語)30分参ります・申します・いたします・おります・存じております を、面接の自己紹介の場面で入れる。相手に向かう語との違いは「向かう先に立てる人がいるか」の一本の線で示す
まとめの活動35分面接のロールプレイ。面接官役は尊敬語で質問し、受ける役は謙譲語で答える。最後に同じ内容を友達・先生・会社のお客さんに言い分けて、初級で習った丁寧さの段(普通体・です/ます・尊敬語と謙譲語)を一枚の板書にまとめる

学習項目 1 お〜します/ご〜します

意味・はたらき学習項目 1

自分の行為を「お+ます形の ます を取った形+します」で言うと、その行為が向かう相手(目上の人・お客さん)を立てる謙譲語になります。主語は自分か、家族や同じ会社の人のような自分の側の人で、荷物を持つ・傘を貸す・本を借りる・知らせる のように、相手のためにする行為や相手に向かう行為に使います。第36課の「お〜になります」は相手が主語の尊敬語で、形はよく似ていても主語が反対です。「案内します・説明します・連絡します」のような「N+します」の動詞は、多くの場合「ご+N+します」になります。

接続

お+ます形(ます を取る)+します/ご+N(漢語の名詞)+します。ます を取ると1拍になる動詞(見ます・寝ます・います・着ます・来ます・します)はこの形にならない

形
グループⅠ: 持ちます→お持ちします、待ちます→お待ちします、貸します→お貸しします、返します→お返しします、送ります→お送りしますグループⅡ: 借ります→お借りします、知らせます→お知らせします、届けます→お届けします、見せます→お見せしますグループⅢ: 案内します→ご案内します、説明します→ご説明します、連絡します→ご連絡します(電話します→お電話します、約束します→お約束します のように「お」がつく語もある)申し出の形: お持ちしましょうか/駅までご案内しましょうか(この形にならない 見ます・来ます・します は学習項目3の特別な語で言う)

導入

  • 主語が「わたし」の敬語を見せる学生の一人に先生役を頼み、机の上に本を何冊も積んでおく。先生役が本を持ち上げようとしたところで、教師が学生役になって「先生、お持ちします」と言い、続けて傘・地図・資料を出して「お貸しします」「お見せします」「お送りします」と申し出る。板書は「お+(ます形の ます を取った形)+します」の枠にし、「持ちます」の「ます」を消して前に「お」、後ろに「します」を書いて、主語の欄に大きく「わたし」と書く。
  • 第36課の板書と並べる第36課の「お〜になります」を左、この課の「お〜します」を右に書き、左の上に「先生が」、右の上に「わたしが」と書く。同じ「待ちます」で「先生がお待ちになります」「わたしがお待ちします」を並べ、違いは後ろの「になります」と「します」だけで主語が反対になることを色チョークで示す。「案内します」「説明します」も同じ二列に入れて、どちらの列でも「ご」がつくことを見せる。

板書案

〔左〕先生が お待ち になります | 〔右〕わたしが お待ち します
お+Vます(ます を取る)+します / ご+N(漢語)+します
部長、その資料、お持ちしましょうか。
先週の本は、あしたお返しします。 駅までご案内します。
〔赤〕主語の「わたし」に丸 〔青〕「になります」と「します」に下線
見ます・来ます・します → 空欄のまま(学習項目3で埋める)

場面と発話(自作)

  • 会社で、部長がたくさんの資料を一人で会議室へ運ぼうとしている。若い社員が手伝いを申し出る。部長、その資料、お持ちしましょうか。
  • 授業のあとで、留学生が先生に、前の週に借りた本を返す日を伝える。先生にお借りした本は、あしたお返しします。
  • 日本語学校の見学に来た人が受付で困っている。そこにいた学生が事務室まで連れていく。事務室までご案内します。こちらへどうぞ。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭の代入練習では、動詞のカード(持ちます・貸します・借ります・送ります・知らせます・案内します・説明します)を見せて「お〜します/ご〜します」に言い換えさせ、ときどき「見ます」「来ます」を混ぜて「この形にはなりません」と答えさせる。場面のやり取りでは、困っている目上の人の絵(重い荷物・道が分からない・傘がない)を見せて「お〜しましょうか」で申し出させ、相手役は「ありがとう。お願いします」と答える。

  1. 口頭教師が動詞カードを見せ、全体→列→個人の順で「お〜します/ご〜します」に言い換えさせる。キューは「持ちます→お持ちします」「送ります」「知らせます」「返します」「案内します」「説明します」「連絡します」。グループⅠ・Ⅱの和語をまとめて出してから漢語に移り、ときどき「見ます」「来ます」を混ぜて「この形になりません」と言わせる。次に、困っている先生の絵(重い荷物・傘がない・道が分からない)を見せて「お持ちしましょうか」「お貸ししましょうか」「ご案内しましょうか」と申し出の形で言わせる。
  2. ペアA は先生役で、困っている状況のカード(雨なのに傘がない・資料が多い・会議室の場所が分からない・本を返す日を知りたい など)を5枚持つ。B はカードを見ない。A がカードの状況を「雨ですね。傘を持っていません」のように言い、B が「お〜しましょうか」で申し出て、A は「ありがとう。お願いします」か「いいえ、だいじょうぶです」で答える。5枚終わったら役を替える。B が相手の行為を言う形(お待ちになりますか)と取り違えたら、A がカードの裏の「わたしが」を指して直す。
  3. 産出「お手伝い申し出カード」。学生がアルバイト先・学校・寮で目上の人が困っていた場面を一つ思い出してカードに書き、その場面を一文で説明してから「お〜しましょうか」「ご〜します」で申し出る文を二つ言う。クラスで順に発表し、聞いた人は相手役で答える。教師が見るのは、主語が自分の行為か、お/ご の付け分け、1拍になる動詞(見ます・来ます)を無理に使っていないか、目上の人に「〜てあげましょうか」と言っていないか。

つまずきと手当て

  • 相手の行為に使う(*先生もお待ちしますか、*部長、こちらでお待ちしてください)。お〜します は自分がする行為の形なので、相手の行為なら第36課の「お待ちになりますか」「お待ちください」と、二列の板書の左を指して戻す
  • 1拍になる動詞や、相手に向かわない自分だけの行為に使う(*お見します、*お寝します、*毎朝6時にお起きします)。前の二つは学習項目3の特別な語で言うと予告し、あとの一つは向かう相手がいないので使わない、と例を並べて見せる
  • 漢語の動詞に「お」を、ます形に「ご」をつける(*お案内します、*ご持ちします)。「N+します」の動詞は「ご」が多い、と板書の列で分け、「お電話します」「お約束します」は例外として出てきたものから覚えさせる
  • 目上の人に「〜てあげます」で申し出る(部長、資料を運んであげましょうか)。文法の誤りではないが、恩を着せるように聞こえて場面に合わないので、目上の人には「お運びしましょうか」「お持ちしましょうか」と言う、と第14課の「〜てあげました」の板書と並べて確かめる

既習の文型との違い

  • お〜になります/ご〜になります(第36課)お+ます形の ます を取った形 までは同じで、後ろが「になります」なら相手がする行為、「します」なら自分がする行為です。形がほとんど同じなので、後ろだけ聞いて主語を取り違える学習者が出ます(*先生もお待ちしますか)。二列の板書の上に「先生が」「わたしが」を書き、主語から先に選ばせます。
  • お〜/ご〜(第36課)第36課の「お待ちください」は相手にしてほしいことを頼む形で、この課の「お待ちします」は自分がすることを言う形です。この二つを混ぜると「*お待ちしてください」のような形が出ます。頼むときは「お〜ください」、自分がするときは「お〜します」と、板書の二列に分けて置きます。
  • 〜は…に―を〜てあげました(第14課)どちらも自分が相手のためにする行為ですが、「〜てあげます」は相手のためにしたことを言葉に出す言い方で、目上の人への申し出には使いにくくなります。文法の誤りではないものの「先生、持ってあげましょうか」は恩を着せるように聞こえるので、目上の人には「お持ちしましょうか」を使います。
関連する文型

学習項目 2 お〜いたします/ご〜いたします

意味・はたらき学習項目 2

「お〜します/ご〜します」の「します」を「いたします」(「します」を改まって言う語)に替えた形です。行為が向かう相手を立てるのは「お〜します」と同じですが、それに加えて、いま話を聞いている相手に対しても改まった丁寧さを表すので、「お〜します」より一段丁寧になります。先生や学校の上の人とのふだんの会話なら「お〜します」で十分で、店員がお客さんに、会社の人が取引先に話すとき、面接・アナウンス・仕事のメールのようなもっと改まった場面で「お〜いたします」がよく使われます。「お」と「いたす」が重なっていますが、誤りとされる二重敬語ではなく、ふつうに使われる形です。

接続

お+ます形(ます を取る)+いたします/ご+N+いたします。この形になる動詞・ならない動詞は「お〜します/ご〜します」と同じ

形
お持ちします→お持ちいたします、お待ちします→お待ちいたしますお届けします→お届けいたします、お呼びします→お呼びいたします(受付でお客さんの名前を呼ぶとき)ご案内します→ご案内いたします、ご連絡します→ご連絡いたします、ご説明します→ご説明いたします丁寧さの段: 持とうか(友達に)→お持ちしましょうか(先生に)→お持ちいたしましょうか(店のお客さんに)

導入

  • 同じ申し出を三段で言う重い箱の絵を黒板に貼り、その横に相手の絵カード(友達・先生・店のお客さん)を順に置きながら、教師が「持とうか」「お持ちしましょうか」「お持ちいたしましょうか」と言い分ける。板書は三段の階段の形にし、いちばん上の段の「いたします」に線を引いて、「します」を改まって言う語だと一言添える。学生には相手のカードを替えて、どの段で言うかを選ばせる。
  • 店と受付の言葉を集めるデパートの店員・会社の受付・駅のアナウンスの絵を見せ、「こういう所では、どの段の言葉が聞こえますか」と聞く。教師が店員役で「お荷物、お預かりいたします」「売り場までご案内いたします」と言って聞かせ、聞こえた形を学生に板書させる。そのあと一つずつ「お〜します」の形に戻して言わせ、違いが「します」と「いたします」だけだと確かめる。

板書案

持とうか(友達)→ お持ちしましょうか(先生)→ お持ちいたしましょうか(お客さま)
お〜します → お〜いたします 〔赤〕します → いたします
こちらのテーブルは、土曜日にお届けいたします。
〔青〕ご案内いたします ご連絡いたします ご説明いたします
〔囲み〕店・受付・面接・アナウンス・仕事のメール

場面と発話(自作)

  • 家具の店で、テーブルを買ったお客さんに、店員が配達の日を伝える。こちらのテーブルは、土曜日にご自宅までお届けいたします。
  • 病院の受付で、診察券を出した患者に、受付の人が待ち方を伝える。お名前をお呼びいたしますので、あちらの席でお待ちください。
  • 留学生が、大学の先生にレポートの提出についてメールを書く。あしたの朝までに、レポートをお送りいたします。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭の代入練習では、教師が「お〜します」の文を言い、学生が「お〜いたします」に言い換える。慣れたら相手の絵カード(友達・先生・お客さん)を見せて、三段のどれで言うかを選ばせる。場面のやり取りでは、店員とお客さん、会社の受付と来客の役を決め、店員・受付役が「お〜いたします/ご〜いたします」で案内や申し出をするロールプレイにする。

  1. 口頭教師が「お〜します/ご〜します」の文を言い、学生が「お〜いたします/ご〜いたします」に言い換える。キューは「お送りします」「お届けします」「お呼びします」「ご説明します」「ご連絡します」「ご案内します」。慣れたら相手の絵カード(友達・先生・店のお客さま)と動作カード(持つ・送る・案内する)を重ねて出し、三段の階段のどの段で言うかを選ばせる。全体で言わせたあと、個人に当てて速さを上げる。
  2. ペア店員とお客さまの役。お客さま役は「買い物メモ」(買った物・届けてほしい日・説明を聞きたいこと)を持ち、店員役はそれを見ない。店員役は「お届けいたしましょうか」「何曜日にお届けいたしましょうか」「使い方をご説明いたします」と申し出や確認をしながら、お客さまの答えを伝票に書き取る。終わったらメモと伝票を見比べ、役を替える。お客さま役は尊敬語を使わなくてよく、ふつうの です・ます で答えさせる。
  3. 産出「学校のアナウンス原稿」。スピーチ大会や学校の見学会の案内を、お知らせいたします・ご案内いたします・ご連絡いたします を入れて3〜4文で書き、マイクを持ったつもりでクラスの前で読む。聞く人は、来た人の行為に「いたします」を使っていないかを聞き取る係にする。教師が見るのは、相手の行為に使っていないか(*皆さまがお待ちいたします)、向かう相手のない自分の行為に お・ご をつけていないか、「します」と「いたします」が一つの原稿の中で混ざりすぎていないか。

つまずきと手当て

  • 向かう相手のいない自分の行為にも「お・ご」をつける(*あしたから毎日ご運動いたします)。自分のことを改まって言うだけなら「お・ご」をつけずに「運動いたします」「出発いたします」でよい、と学習項目3の「いたします」と結んで見せる
  • 相手の行為に使う(*お客さまが受付でお待ちいたしております)。お客さまが待つなら尊敬語で「お待ちになっています」「お待ちです」と言う、と二列の板書の左に戻す
  • どの相手にも「お〜いたします」を使い、友達やクラスの人にまで「このペン、お貸しいたします」と言う。文法の誤りではないが距離が遠く聞こえ、場面に合わないので、三段の階段の板書に戻って相手で選ばせる
  • 「お〜いたします」は二重敬語だから間違いだと聞いて、使うのを避ける学習者がいる。広く使われている正しい形だと一言添え、店やアナウンスで実際に聞く例を集めさせると安心して使えるようになる

既習の文型との違い

  • さしあげます/〜てさしあげます(第35課)どちらも目上の人のためにする行為を言いますが、「〜てさしあげます」は相手のためにしてあげたという気持ちが残るので、その人に向かって「先生、駅まで送ってさしあげます」と言うと失礼に聞こえます。文法の誤りではありませんが、本人への申し出には「駅までお送りいたします」を使う、と第35課の授受の板書の横に置いて見せます。
  • 普通表現(第17課)第17課で、友達には普通体、先生やよく知らない人には です・ます と、相手で文の形を選ぶことを学びました。「お〜いたします」はその段の上にもう一つ改まった段を足すもので、普通体→です・ます→お〜します→お〜いたします と並べると、相手によって段を選ぶ考え方が一本につながります。
関連する文型

学習項目 3 謙譲表現

意味・はたらき学習項目 3

「お〜します」の形ではなく、別の語で謙譲を表す動詞です。二つに分けると教えやすくなります。一つは、行為が向かう先に立てる相手がいるときに使う語で、伺います(行きます・聞きます・訪ねます)・拝見します(見ます)・いただきます(もらいます・食べます・飲みます)・お目にかかります(会います)・申し上げます(言います)がこれに当たります。もう一つは、自分のことを聞き手に改まって丁寧に伝える語で、参ります(行きます・来ます)・申します(言います)・いたします(します)・おります(います)・存じております(知っています)がこれに当たり、向かう先に相手がいなくても使えます。ただし「食べます・飲みます」の いただきます は、出してくれた人がいない場面(お昼は外でいただきます)では、自分のことを丁寧に言う語に近くなります。文化庁の「敬語の指針」の謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱにほぼ当たりますが、教室では「相手に向かう語」と「自分のことを丁寧に言う語」と言えば十分です。

接続

特別な語を ます の形で使う(参ります・申します・おります は、ふつう ます の形で話す)。「〜ています」は「〜ております」になる

形
相手に向かう語: 行きます・聞きます→伺います、見ます→拝見します、もらいます・食べます・飲みます→いただきます、会います→お目にかかります、言います→申し上げます自分のことを改まって言う語: 行きます・来ます→参ります、言います→申します、します→いたします、います→おります、知っています→存じております〈名前〉と申します/〜ております(大阪に住んでおります・お待ちしております)三列の表の例: 行きます|いらっしゃいます|参ります・伺います、見ます|ご覧になります|拝見します

導入

  • 三列の表を埋める黒板に「ふつうの動詞|尊敬語(先生が)|謙譲語(わたしが)」の三列の表を書き、行きます・来ます・言います・見ます・食べます・います・します・会います・知っています を縦に並べる。尊敬語の列は第36課の復習として学生に言わせ、謙譲語の列を教師が一つずつ埋める。学習項目1で空欄にしておいた「見ます」「来ます」「します」にも、ここで形が入ることを見せる。
  • 二つの場面で二つの組を分ける左に「先生の研究室を訪ねる」絵、右に「会社の面接で自己紹介する」絵を貼る。左の場面では「研究室に伺います」「お写真を拝見します」「お茶をいただきます」と、相手のところへ向かう行為を言う。右の場面では「〜と申します」「去年日本へ参りました」「今、大阪に住んでおります」と自分のことを改まって言う。謙譲語の列の語に「左」「右」の印をつけ、伺います・拝見します は向かう相手がいるときだけ、参ります・おります は自分の予定や様子を言うときにも使える、と分けて見せる。

板書案

ふつう|尊敬語(先生が)|謙譲語(わたしが)
行きます|いらっしゃいます|参ります・伺います  見ます|ご覧になります|拝見します
食べます|召し上がります|いただきます  言います|おっしゃいます|申します・申し上げます
います|いらっしゃいます|おります  会います|お会いになります|お目にかかります
〔赤〕相手に向かう:伺う・拝見する・いただく・お目にかかる 〔青〕自分を改まって言う:参る・申す・いたす・おる・いただく(食べる・飲む)
日本語学校の佐藤と申します。去年日本へ参りました。

場面と発話(自作)

  • 会社に入ったばかりの社員が、取引先の会社を初めて訪ねて、受付の人にあいさつする。はじめまして。さくら電気の山本と申します。3時に営業部の鈴木さまとお約束しております。
  • 留学生が、レポートのことで質問したいので、先生に研究室を訪ねる時間を聞く。あしたの3時に、先生の研究室へ伺ってもいいですか。
  • 先生が旅行で撮った写真を見せてくれた。学生がもっと見たいと思う。きれいですね。ほかの写真も拝見してもいいですか。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

口頭の代入練習では、動詞のカードに「先生が」「わたしが」のカードを重ねて見せ、尊敬語か謙譲語のどちらかで言わせる(先生が行きます→いらっしゃいます/わたしが行きます→参ります・伺います)。場面のやり取りでは面接のロールプレイにし、面接官役が「いつ日本へいらっしゃいましたか」「今どちらに住んでいらっしゃいますか」と尊敬語で聞き、受ける役が「去年の4月に参りました」「大阪に住んでおります」と謙譲語で答える。

  1. 口頭主語のカード(先生が/わたしが)と動詞のカード(行きます・見ます・食べます・言います・います・会います・します・知っています)を一枚ずつめくり、全体→個人で尊敬語か謙譲語にして言わせる。例「先生が・見ます→ご覧になります」「わたしが・見ます→拝見します」「わたしが・います→おります」。取り違えたら三列の表の同じ行の左右を指して選び直させ、慣れたらめくる速さを上げる。
  2. ペア「研究室を訪ねる」役割カードで練習する。先生役のカードには研究室にいる時間・見せたい写真・出すお茶が書いてあり、学生役のカードには聞きたいことと行きたい日が書いてある。学生役は「〜に伺ってもいいですか」「その写真を拝見してもいいですか」「いただきます」を使い、先生役は「どうぞ、いらっしゃってください」「召し上がってください」のように尊敬語で受ける。カードを替えて2回、役を替えて2回。
  3. 産出「研究室を訪ねるお願いメール」。先生に質問があるので研究室を訪ねたい、というメールを、〜と申します・伺います・拝見します・お目にかかります から3つ以上使って4〜5文で書く。ペアで交換して読み、相手の行為に謙譲語を使っていないかを確かめ合ってから教師に出す。教師が見るのは、申します/申し上げます と 参ります/伺います の選び方、先生の行為を謙譲語で書いていないか(*先生は研究室に参りますか)、「〜ております」の形。

つまずきと手当て

  • 相手の行為に謙譲語を使う(*先生はあした学校へ参りますか、*先生、この料理をどうぞいただいてください)。三列の表の上の「先生が」「わたしが」に戻して、相手の行為なら「いらっしゃいますか」「召し上がってください」と尊敬語の列から選ばせる
  • 自分の行為に尊敬語を使う(*わたしもその映画をご覧になりました)。主語が自分なら謙譲語の列の「拝見しました」になる、と同じ行の左右を指して見せる
  • 向かう先に立てる相手がいないのに「伺います」を使う(*日曜日は一人で動物園へ伺います)。自分の予定を改まって言うなら「参ります」、と二つの組の線に戻す。なお「お伺いします」は「お」と「伺う」が重なるが、習慣として広く使われているので、学習者が言っても直さなくてよい
  • 「申します」と「申し上げます」、「おります」と「あります」を取り違える(*〈名前〉と申し上げます、*机の上に本がおります)。名前を名のるのは「申します」と決まった形で覚えさせ、「おります」は人(自分)がいるときの「います」だと第8課の「います/あります」の板書を思い出させる
  • 会社の外の人に、自分の会社の上の人のことを尊敬語で言う(部長はいま席にいらっしゃいません)。初級では深入りしないが、仕事で日本語を使う学習者には「外の人に話すときは、自分の会社の人のことは謙譲語で言う(部長の山本はいま席を外しております)」と一言だけ紹介する

既習の文型との違い

  • 尊敬表現(第36課)三列の表の同じ行に、相手が主語の語(いらっしゃいます・ご覧になります)と自分が主語の語(参ります・拝見します)が並びます。形が別々なので一つずつ覚えると、どちらの列の語かを忘れて「*先生はあした参りますか」「*わたしは3時に研究室にいらっしゃいます」のような誤りが出ます。語は必ず「先生が」「わたしが」の主語つきで覚えさせます。
  • いただきます/〜ていただきます(第35課)第35課では「いただきます」を「もらいます」の謙譲として学びました。この課では「食べます・飲みます」の謙譲としても使い、「先生に本をいただきました」と「お茶をいただきます」が同じ語だと見せます。どちらも主語は自分で、向かう先(くれた人・出してくれた人)を立てる点は変わりません。
関連する文型

語彙の扱い

この課の語は、特別な謙譲語を中心に、店・受付・面接のような改まった場面の言葉が加わります。謙譲語は単語だけで覚えさせず、「ふつうの動詞|尊敬語|謙譲語」の三列の表に第36課の尊敬語と並べて置き、カードの表に「わたしが 参ります」のように主語つきで書くと、だれの行為に使う語かが目で分かります。「伺います」「いただきます」のように一つの語が二つ以上の動詞に当たるものは、表の行をまたいで線で結んでおきます。

この課の練習で使う語(12語・意味・連語・例文)

  • 伺います(うかがいます) 目上の人のところへ行くことや、目上の人に聞くことを、へりくだって言う語です。 研究室へ〜・お話を〜・お宅に〜
    レポートのことで先生に質問したい。
    「あしたの午後、研究室に伺ってもいいですか。」
  • 拝見します(はいけんします) 目上の人のものを見ることを、へりくだって言う語です。 写真を〜・お手紙を〜・資料を〜
    先生が旅行の写真を持ってきた。
    「その写真、拝見してもいいですか。」
  • 参ります(まいります) 自分が行く・来ることを、聞いている人に改まって言う語です。 日本へ〜・すぐ〜・駅まで〜
    面接で、いつ日本に来たかを聞かれた。
    「去年の4月に日本へ参りました。」
  • 申します(もうします) 自分の名前や自分の言うことを、改まって言う語です。 〈名前〉と〜
    日本語学校の事務の人が、会社に電話をかける。
    「もしもし、日本語学校の佐藤と申します。」
  • おります(おります) 自分が「います」「〜ています」を、改まって言う語です。 家に〜・大阪に住んで〜・お待ちして〜
    先生に、週末いつ家にいるかを聞かれた。
    「土曜日は一日家におります。」
  • いただきます(いただきます) 目上の人から物をもらうことや、食べる・飲むことを、へりくだって言う語です。 お茶を〜・先生に本を〜・おみやげを〜
    先生の家で、お茶とお菓子を出された。
    「ありがとうございます。いただきます。」
  • お目にかかります(おめにかかります) 目上の人に会うことを、へりくだって言う語です。 先生に〜・部長に〜・初めて〜
    取引先の会社の部長に、初めてあいさつする。
    「はじめまして。お目にかかれてうれしいです。」
  • 存じております(ぞんじております) 「知っています」を、改まって言う言い方です。 お名前は〜・そのことは〜
    会社の上の人に、来週の会議の時間を知っているか聞かれた。
    「はい、存じております。3時からですね。」
  • 案内します(あんないします) 場所が分からない人と、いっしょに行って教えます。 駅まで〜・教室を〜・ご〜いたします
    学校の見学に来た人が、教室の場所が分からない。
    「教室までご案内します。こちらへどうぞ。」
  • 届けます(とどけます) 物を、相手のところまで持っていきます。 荷物を〜・家まで〜・お〜いたします
    店で大きい本だなを買ったお客さんに、配達の日を伝える。
    「あした、お宅までお届けいたします。」
  • 預かります(あずかります) 人の物を、しばらく自分のところに置いて守ります。 荷物を〜・コートを〜・かぎを〜
    ホテルの受付で、部屋に入る前のお客さんが重い荷物を持っている。
    「お荷物、お預かりいたしましょうか。」
  • 少々(しょうしょう) 「少し」を改まって言う言い方です。 〜お待ちください
    会社の受付に来たお客さんに、担当の社員がすぐ来ることを伝える。
    「少々お待ちください。担当の者がすぐ参ります。」

宿題と次のコマ

宿題は、会社やアルバイトの面接で話すつもりで、申します・参りました・おります を使った改まった自己紹介を4〜5文書くことと、三列の表の謙譲語の欄を埋めること。次のコマの最初に、教師が面接官になって尊敬語で質問し、学生が宿題の自己紹介を使って謙譲語で答えるやり取りで復習します。尊敬語と謙譲語の取り違えが残っている学生には、二列の板書をもう一度見せて「だれがしますか」で選ばせてから、第38課の複合動詞に入ります。

よくある質問

  • 第37課の謙譲語はどの順で教えればいいですか?

    作る形の「お〜します/ご〜します」から始め、次に一段改まった「お〜いたします」、最後に伺います・拝見します・参ります・申します のような特別な語を入れます。作る形で「主語が自分の敬語」の感覚を先に作り、この形にならない「見ます・来ます・します」を表の空欄に残しておくと、特別な語を覚える理由が学習者に見えます。

  • 尊敬語と謙譲語を学習者が混同するとき、どう整理させればいいですか?

    「だれがしますか」の一問で選ばせます。第36課の「お〜になります」を左、この課の「お〜します」を右に書き、上に「先生が」「わたしが」と書いた二列の板書を課の終わりまで消さずに使います。特別な語も「先生が いらっしゃいます」「わたしが 参ります」と主語つきのカードで覚えさせると、取り違えが減ります。

  • 「お〜します」と「お〜いたします」の違いは何ですか?

    行為が向かう相手を立てる点は同じで、「お〜いたします」はそれに加えて、話している相手に改まった丁寧さを表すので一段丁寧になります。先生や学校の上の人とのふだんの会話なら「お〜します」で十分で、店・受付・面接・アナウンス・仕事のメールでは「お〜いたします」がよく使われます。お と いたす が重なっていますが、広く使われる正しい形です。

  • 「参ります」と「伺います」はどう教え分けますか?

    「向かう先に立てる相手がいるか」の一本の線で分けます。先生の研究室や取引先の会社のように、行く先に立てる人がいるときは「伺います」が基本です。「週末は京都へ参ります」のように自分の予定を聞き手に改まって言うときは「参ります」で、この文を「伺います」にすると向かう相手がいないので不自然になります。

  • 第37課は何コマで終わりますか?

    90分×2コマが目安です。1コマ目は導入と学習項目1「お〜します」・学習項目2「お〜いたします」まで、2コマ目は学習項目3の特別な語と、まとめの面接ロールプレイです。第36課の尊敬語が定着していないクラスでは、2コマ目の始めに尊敬語の三列の表を埋め直す時間を10分ほど取ります。

この課に関係する用語・解説・練習問題

この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。