前の第36課で、相手の行為を高める尊敬語(お〜になります・いらっしゃいます など)を学んだのを受けて、この課では自分(や自分の側の人)の行為を低く言って、その行為が向かう相手を立てる謙譲語が初めて出ます。形は「お持ちします」「ご案内します」のように作る言い方、それを一段改まった場面で使う「お持ちいたします」、そして「参ります・申します・拝見します・伺います」のような特別な語の三つです。芯は「だれがするか」で尊敬語と謙譲語を選ぶことで、「お〜になります」と「お〜します」は形がよく似ているので、第36課の形を左、この課の形を右に並べた二列の板書を課の終わりまで消さずに使います。第35課の「いただきます」「さしあげます」も謙譲の仲間なので、ここで敬語の表の中に置き直すと、授受と敬語が一本につながります。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第36課の尊敬語を絵カードで数枚回し(先生がお帰りになります・召し上がります・いらっしゃいます)、「だれがしますか」と聞いて主語が先生だと確かめる。続けて教師が資料の箱を運んでいる先生役の学生に近づいて「わたしがお持ちします」と言い、主語が自分の敬語もあることを見せて、板書を「先生がする」「わたしがする」の二列にする |
| 学習項目1 お〜します/ご〜します | 40分 | 荷物・傘・本などの実物で申し出の場面を作り、ます形→お〜します、N+します→ご〜します の言い換えを口頭で。この形にならない動詞(見ます・来ます・します)は表に空欄のまま残し、学習項目3につなぐ |
| 学習項目2 お〜いたします/ご〜いたします | 30分 | 同じ申し出を「持とうか→お持ちしましょうか→お持ちいたしましょうか」の三段で言い、友達・先生・店のお客さんの絵カードでどの段を使うかを選ばせる。店・受付・アナウンスの言葉として耳に入れる。1コマ目はここまで |
| 学習項目3 謙譲表現(相手に向かう語) | 35分 | 2コマ目の始めに、1コマ目の二列の板書を出し直して「お〜します」を数個言わせてから入る。「ふつうの動詞|尊敬語|謙譲語」の三列の表を作り、尊敬語の列は学生に言わせてから、伺います・拝見します・いただきます・お目にかかります を教師が足す。先生の研究室を訪ねる場面で使わせる |
| 学習項目3 謙譲表現(自分のことを改まって言う語) | 30分 | 参ります・申します・いたします・おります・存じております を、面接の自己紹介の場面で入れる。相手に向かう語との違いは「向かう先に立てる人がいるか」の一本の線で示す |
| まとめの活動 | 35分 | 面接のロールプレイ。面接官役は尊敬語で質問し、受ける役は謙譲語で答える。最後に同じ内容を友達・先生・会社のお客さんに言い分けて、初級で習った丁寧さの段(普通体・です/ます・尊敬語と謙譲語)を一枚の板書にまとめる |
自分の行為を「お+ます形の ます を取った形+します」で言うと、その行為が向かう相手(目上の人・お客さん)を立てる謙譲語になります。主語は自分か、家族や同じ会社の人のような自分の側の人で、荷物を持つ・傘を貸す・本を借りる・知らせる のように、相手のためにする行為や相手に向かう行為に使います。第36課の「お〜になります」は相手が主語の尊敬語で、形はよく似ていても主語が反対です。「案内します・説明します・連絡します」のような「N+します」の動詞は、多くの場合「ご+N+します」になります。
お+ます形(ます を取る)+します/ご+N(漢語の名詞)+します。ます を取ると1拍になる動詞(見ます・寝ます・います・着ます・来ます・します)はこの形にならない
口頭の代入練習では、動詞のカード(持ちます・貸します・借ります・送ります・知らせます・案内します・説明します)を見せて「お〜します/ご〜します」に言い換えさせ、ときどき「見ます」「来ます」を混ぜて「この形にはなりません」と答えさせる。場面のやり取りでは、困っている目上の人の絵(重い荷物・道が分からない・傘がない)を見せて「お〜しましょうか」で申し出させ、相手役は「ありがとう。お願いします」と答える。
「お〜します/ご〜します」の「します」を「いたします」(「します」を改まって言う語)に替えた形です。行為が向かう相手を立てるのは「お〜します」と同じですが、それに加えて、いま話を聞いている相手に対しても改まった丁寧さを表すので、「お〜します」より一段丁寧になります。先生や学校の上の人とのふだんの会話なら「お〜します」で十分で、店員がお客さんに、会社の人が取引先に話すとき、面接・アナウンス・仕事のメールのようなもっと改まった場面で「お〜いたします」がよく使われます。「お」と「いたす」が重なっていますが、誤りとされる二重敬語ではなく、ふつうに使われる形です。
お+ます形(ます を取る)+いたします/ご+N+いたします。この形になる動詞・ならない動詞は「お〜します/ご〜します」と同じ
口頭の代入練習では、教師が「お〜します」の文を言い、学生が「お〜いたします」に言い換える。慣れたら相手の絵カード(友達・先生・お客さん)を見せて、三段のどれで言うかを選ばせる。場面のやり取りでは、店員とお客さん、会社の受付と来客の役を決め、店員・受付役が「お〜いたします/ご〜いたします」で案内や申し出をするロールプレイにする。
「お〜します」の形ではなく、別の語で謙譲を表す動詞です。二つに分けると教えやすくなります。一つは、行為が向かう先に立てる相手がいるときに使う語で、伺います(行きます・聞きます・訪ねます)・拝見します(見ます)・いただきます(もらいます・食べます・飲みます)・お目にかかります(会います)・申し上げます(言います)がこれに当たります。もう一つは、自分のことを聞き手に改まって丁寧に伝える語で、参ります(行きます・来ます)・申します(言います)・いたします(します)・おります(います)・存じております(知っています)がこれに当たり、向かう先に相手がいなくても使えます。ただし「食べます・飲みます」の いただきます は、出してくれた人がいない場面(お昼は外でいただきます)では、自分のことを丁寧に言う語に近くなります。文化庁の「敬語の指針」の謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱにほぼ当たりますが、教室では「相手に向かう語」と「自分のことを丁寧に言う語」と言えば十分です。
特別な語を ます の形で使う(参ります・申します・おります は、ふつう ます の形で話す)。「〜ています」は「〜ております」になる
口頭の代入練習では、動詞のカードに「先生が」「わたしが」のカードを重ねて見せ、尊敬語か謙譲語のどちらかで言わせる(先生が行きます→いらっしゃいます/わたしが行きます→参ります・伺います)。場面のやり取りでは面接のロールプレイにし、面接官役が「いつ日本へいらっしゃいましたか」「今どちらに住んでいらっしゃいますか」と尊敬語で聞き、受ける役が「去年の4月に参りました」「大阪に住んでおります」と謙譲語で答える。
この課の語は、特別な謙譲語を中心に、店・受付・面接のような改まった場面の言葉が加わります。謙譲語は単語だけで覚えさせず、「ふつうの動詞|尊敬語|謙譲語」の三列の表に第36課の尊敬語と並べて置き、カードの表に「わたしが 参ります」のように主語つきで書くと、だれの行為に使う語かが目で分かります。「伺います」「いただきます」のように一つの語が二つ以上の動詞に当たるものは、表の行をまたいで線で結んでおきます。
宿題は、会社やアルバイトの面接で話すつもりで、申します・参りました・おります を使った改まった自己紹介を4〜5文書くことと、三列の表の謙譲語の欄を埋めること。次のコマの最初に、教師が面接官になって尊敬語で質問し、学生が宿題の自己紹介を使って謙譲語で答えるやり取りで復習します。尊敬語と謙譲語の取り違えが残っている学生には、二列の板書をもう一度見せて「だれがしますか」で選ばせてから、第38課の複合動詞に入ります。
第37課の謙譲語はどの順で教えればいいですか?
作る形の「お〜します/ご〜します」から始め、次に一段改まった「お〜いたします」、最後に伺います・拝見します・参ります・申します のような特別な語を入れます。作る形で「主語が自分の敬語」の感覚を先に作り、この形にならない「見ます・来ます・します」を表の空欄に残しておくと、特別な語を覚える理由が学習者に見えます。
尊敬語と謙譲語を学習者が混同するとき、どう整理させればいいですか?
「だれがしますか」の一問で選ばせます。第36課の「お〜になります」を左、この課の「お〜します」を右に書き、上に「先生が」「わたしが」と書いた二列の板書を課の終わりまで消さずに使います。特別な語も「先生が いらっしゃいます」「わたしが 参ります」と主語つきのカードで覚えさせると、取り違えが減ります。
「お〜します」と「お〜いたします」の違いは何ですか?
行為が向かう相手を立てる点は同じで、「お〜いたします」はそれに加えて、話している相手に改まった丁寧さを表すので一段丁寧になります。先生や学校の上の人とのふだんの会話なら「お〜します」で十分で、店・受付・面接・アナウンス・仕事のメールでは「お〜いたします」がよく使われます。お と いたす が重なっていますが、広く使われる正しい形です。
「参ります」と「伺います」はどう教え分けますか?
「向かう先に立てる相手がいるか」の一本の線で分けます。先生の研究室や取引先の会社のように、行く先に立てる人がいるときは「伺います」が基本です。「週末は京都へ参ります」のように自分の予定を聞き手に改まって言うときは「参ります」で、この文を「伺います」にすると向かう相手がいないので不自然になります。
第37課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入と学習項目1「お〜します」・学習項目2「お〜いたします」まで、2コマ目は学習項目3の特別な語と、まとめの面接ロールプレイです。第36課の尊敬語が定着していないクラスでは、2コマ目の始めに尊敬語の三列の表を埋め直す時間を10分ほど取ります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。