この課で受身形(〜れます/られます)が初めて出ます。受身は、ある出来事を「した人」からではなく「された人」の側から言う文で、この課ではされた人が主語になる受身を三つの型に分けて扱います。この教案では、受身(1)を直接の受身(母にしかられる)、受身(2)を持ち主の受身(足を踏まれる)、受身(3)を迷惑の受身(自動詞の受身・子どもに泣かれる)として教えます。三つとも主語は「わたし」になることが多く、違うのは「を」の後ろに何が残るか・自動詞かどうかなので、板書に能動の文と受身の文を上下に並べ、矢印で語の動きを見せながら進めると混乱が少なくなります。物が主語になる受身と「〜によって」は次の第31課なので、この課では人が主語の文に絞ります。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第27課の「〜てしまいました」で、けさ困ったことを2〜3人に聞く。そのあと教師が二人の人の絵(先生と学生)を見せ、「先生は学生をしかりました」を言ってから「学生はどう言いますか」と問いかけ、された人の側から言う新しい形が要ることを予告する |
| 受身形の作り方 | 35分 | ない形から作る。グループⅠ(ない→れます。買わない→買われます)→グループⅡ(ない→られます)→グループⅢ(されます・こられます)の順に動詞カードで速く言い換え、第22課の可能形(書けます・食べられます)と並べて違いを確かめる |
| 学習項目1 受身(1)直接の受身 | 50分 | しかる・ほめる・呼ぶ・誘う の絵で、能動の文と受身の文を上下に板書する。「を」の人が主語に、「が」の人が「に」になる動きを矢印で見せる |
| 学習項目2 受身(2)持ち主の受身 | 45分 | 電車で足を踏まれる絵で導入。「わたしの足を」の「わたし」だけが前に出て、「足を」が残ることを板書で見せ、持ち物(かばん・日記・名前)に広げる |
| 学習項目3 受身(3)迷惑の受身 | 50分 | 夜中に赤ちゃんが泣いて寝られなかった絵で導入。自動詞にも受身があり、それは「困った」という気持ちを表すことを、能動の文との比べで見せる |
| まとめの活動 | 50分 | 「ついていない一日」を4コマの絵で話す活動。ペアで一人がその日にされたことを受身(1)〜(3)を混ぜて話し、もう一人が「それは大変でしたね」と受けて、どの型の受身だったかを最後に二人で確かめる |
| 各コマの始めと終わりの確認 | 30分 | 2コマ目・3コマ目の始めに、動詞カードで受身形を言い換える復習を10分ずつ。最後のコマの終わりに10分の小テスト(受身形を作る5問と、絵を見て受身(1)(2)(3)の文を1つずつ書く問題)をして、宿題の説明をする |
動詞の受身形「〜れます/られます」を作ります。この本ではない形がもう出ているので、受身形はない形から作ると教えると、グループⅠの「わ」もそのまま使えます。グループⅠはない形の「ない」を「れます」に替え(書かない→書かれます・買わない→買われます)、グループⅡは「ない」を「られます」に替え(食べない→食べられます)、グループⅢは「します→されます」「来ます→こられます」です。できた受身形はグループⅡの動詞と同じように形が変わるので、て形・た形・ない形は「ほめられて」「ほめられた」「ほめられない」になります。グループⅡと「来ます」の受身形は第22課の可能形と同じ形になるので、どちらの意味かは文の形(「〜に」があるか・何が主語か)で見分けます。
ない形から作る。Ⅰ: 〜ない→〜れます(書かない→書かれます)/Ⅱ: 〜ない→〜られます/Ⅲ: します→されます、来ます→こられます(受身形はグループⅡと同じように活用する)
代入練習では、教師が動詞カード(ます形)をグループを混ぜて1枚ずつ見せ、受身形をすぐ言わせる。慣れたら「受身形のた形」(ほめられた・踏まれた)や「受身形のて形」(呼ばれて)まで一息で言わせる。最後に可能形のカードと受身形のカードを混ぜて出し、教師が言った形が可能形か受身形かを手を挙げて答えさせる。
この教案では受身(1)を直接の受身として扱います。「母が子どもをしかりました」のように、ある人がほかの人に何かをした出来事を、された人の側から「子どもは母にしかられました」と言う文です。能動の文で「を」(動詞によっては「に」)が付いていた人が主語になり、「が」が付いていた人(した人)には「に」を付けます。ほめる・しかる・呼ぶ・頼む・誘う・招待する・注意する など、人が人に向けてする動作の動詞でよく使い、うれしいこともいやなことも言えます。日本語では、自分にかかわる出来事は「わたし」を主語にして話すことが多いので、「母がわたしをしかりました」より「(わたしは)母にしかられました」のほうが自然に聞こえる傾向があります。
(わたしは)[した人]に+受身形(しかられます・呼ばれます・誘われます)。能動の「Aが Bを V」→ 受身の「Bは Aに V(ら)れる」
代入練習では、した人とされた人の絵カード(先生と学生・母と子ども・部長と社員)と動詞カードを組み合わせて見せ、まず能動の文、次に「〜は〜に〜(ら)れました」と言い換えさせる。慣れたら能動の文を言わずにすぐ受身の文を言わせる。場面のやり取りでは、「きのう、だれに何をされましたか」「〜に〜(ら)れました」「そうですか。よかったですね/それは大変でしたね」をペアで回し、うれしい話といやな話の両方を出させる。
この教案では受身(2)を持ち主の受身として扱います。ほかの人が自分の体の一部や持ち物に何かをしたとき、体や持ち物ではなく持ち主(わたし)を主語にして「わたしは電車で足を踏まれました」と言う文です。能動の文「隣の人がわたしの足を踏みました」の「わたしの」が前に出て主語になり、「足を」はそのまま「を」で残ります。した人には受身(1)と同じく「に」を付けます。この形は、持ち主が困った・いやだったと感じたときに使うことが多く、話し手の気持ちが伝わります(「お客さんに料理をほめられました」のようにうれしいことにも使えます)。
(わたしは)[した人]に+[体・持ち物]を+受身形(足を踏まれます・かばんを開けられます)
代入練習では、した人の絵カードと体・持ち物の絵カードを重ねて見せ、「〜に〜を〜(ら)れました」を言わせる。最初は能動の文「〜が わたしの〜を〜ました」を言ってから言い換え、慣れたらすぐ受身で言わせる。場面のやり取りでは、「どうしましたか」「〜に〜を〜(ら)れました」「それは困りましたね」の型で、困ったことを報告し合う。
この教案では受身(3)を迷惑の受身(自動詞の受身)として扱います。泣く・来る・帰る・休む・座る・降る のような「を」を取らない動詞(自動詞)でも受身形が作れ、その場合はほかの人や天気のせいで、自分が困ったという気持ちを表します。能動の文「赤ちゃんが泣きました」には「わたし」が出てきませんが、受身の文「(わたしは)赤ちゃんに泣かれました」にすると、そのせいで自分が困ったことになります。泣いた人・来た人(天気なら「雨」)には「に」を付けます。「雨に降られる」はこの形のよく使われる言い方です。困った気持ちを表す形なので、うれしいことには使いません。なお、「夜遅くまでピアノを弾かれる」のように「を」を取る動詞でも同じような迷惑の受身が作れますが、この課では自動詞の文に絞ります。
(わたしは)[人・天気]に+自動詞の受身形(泣かれます・来られます・休まれます)。あとに「〜て、困りました」「〜て、…できませんでした」を続けることが多い
代入練習では、自動詞の絵カード(泣く・来る・休む・座る・帰る・降る)と人の絵カードを見せて「〜に〜(ら)れました」を言わせ、次に結果のカード(寝られない・見えない・一人で働く)を足して「〜に〜(ら)れて、〜」と一文で言わせる。場面のやり取りでは、「ゆうべ、どうでしたか」「〜に〜(ら)れて、〜ました」「それは大変でしたね」の型で、困ったことを話し合う。
この課の練習で使う語は、受身でよく使う動詞(ほめる・しかる・呼ぶ・誘う・踏む・かむ・注意する など)と、困った出来事の場面(満員電車・寮・アルバイト先)の言葉にしぼります。動詞はます形のカードで入れ、裏にない形と受身形を書いておくと、作り方の練習と語彙の確認が一度にできます。人が人にする動作の動詞(受身(1)向き)と、泣く・休む・降る のような自動詞(受身(3)向き)はカードの色を分けておくと、どの型の受身になるかを選ばせる練習に使えます。
宿題は、①動詞15個(グループを混ぜる)の受身形を書くこと、②自分が最近人にされたことを受身(1)(2)(3)で1文ずつ書くこと(うれしいことでもいやなことでもよいが、(3)は困ったことで)、③可能形と受身形が同じ形になる動詞を3つ書いて、それぞれの意味の文を1つずつ作ること。次のコマの最初に宿題の文をペアで読み合い、「それは大変でしたね」と受ける練習をしてから、「わたしの財布」のように物が主語になる文を見せて、第31課の受身(4)(5)に入ります。
第30課の受身はどの順で教えればいいですか?
先に受身形の作り方をない形から練習し、形がすぐ言えるようになってから、受身(1)直接の受身→(2)持ち主の受身→(3)迷惑の受身の順に入ります。(1)で「を」の人が主語になり、した人に「に」が付く動きを矢印で見せておくと、(2)は「を」が一つ残る形、(3)は「を」がない動詞でもできる形として、(1)との違いだけを足していけます。物が主語の受身は第31課なので、この課では人が主語の文に絞ります。
受身形と可能形が同じ形になるのはどう教えればいいですか?
グループⅡと「来ます」は、受身形と可能形が「食べられます」「こられます」で同じ形になります。可能形と受身形の2列の表を作り、グループⅠは形が違う、グループⅡと「来ます」は同じ、の二つだけを覚えさせます。意味は文の形で決まり、「〜に」があってされた側が主語なら受身、「〜が」で何ができるかを言うなら可能だと、短い2文を並べて見せます。
「足を踏まれました」を「わたしの足が踏まれました」と言うのはなぜ不自然なのですか?
日本語では、体の一部や持ち物に何かされたとき、それを主語にするより、持ち主を主語にして「〜を」を残すほうが自然に聞こえます。持ち主が困った・いやだったという気持ちも、持ち主が主語のほうがよく伝わります。物が主語の受身は第31課で出てくるので、この課では「(わたしは)〜に〜を〜(ら)れました」の形に慣れさせ、「わたしの足が」と言った学生には板書の四角に戻って言い直させます。
「雨に降られる」のような迷惑の受身は、初級でどこまで教えればいいですか?
この課では、泣く・休む・来る・座る・降る のような身近な自動詞で、困った出来事を一文で言えれば十分です。困った気持ちを表す形だと分かるように、「〜に〜(ら)れて、〜」と結果の文を続けて言わせます。「を」を取る動詞の迷惑の受身(夜遅くまでピアノを弾かれる)は無理に広げず、出てきたときに同じ仲間だと伝える程度でよいでしょう。
第30課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目で受身形の作り方と受身(1)、2コマ目で受身(2)と(3)、3コマ目で3つの型を混ぜたまとめの活動と小テストをします。受身形の作り方が定着していないと後が止まるので、クラスの様子によっては1コマ目を形の練習だけにして、4コマに延ばしてもかまいません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。