第14課の「あげます・もらいます・くれます」に上下の関係を足して、目上の人とのやり取りを「くださいます・いただきます・さしあげます」、年下の家族・動物・植物へのやり取りを「やります」で言い分ける課です。物の動く向き(だれからだれへ)と、だれの側から言うかの決まりは第14課とまったく同じなので、板書は第14課の矢印の図をそのまま使い、人の絵を「上・横・下」の高さに貼り直すだけにすると、学習者は新しい動詞を「向き」と「高さ」の二つで選べるようになります。新しい活用はありませんが、「くださる」のます形が「くださいます」になる点だけは例外として最初に押さえます。卒業や帰国の前に、お世話になった先生や上司にお礼を言う場面がそのまま使える課で、「〜てくださって、ありがとうございました」が言えることを最後の目標にします。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第34課の「〜ことになりました」で、卒業・帰国・引っ越しの予定を2〜3人に聞く(「来月、国へ帰ることになりました」)。そこから「お世話になった人に何をあげますか」と話をつなぎ、第14課の「あげます・もらいます・くれます」の矢印の図を黒板に描いて思い出させる。そのあと人の絵を「上(先生・上司)・横(友達)・下(弟・犬・花)」の高さに貼り直し、この課は「高さ」で動詞が変わる課だと予告する |
| 学習項目1 くださいます/〜てくださいます | 40分 | 上の人から「わたし」へ向かう矢印に「くださいます」と書く。「くれます」の文を先生の文に言い換える練習から入り、ます形が「くださいます」になる例外を赤で板書。行為の「〜てくださいました」と、お礼の「〜てくださって、ありがとうございました」まで |
| 学習項目2 いただきます/〜ていただきます | 35分 | 学習項目1の場面を受け取った側から言い直す。矢印はそのままで「は」の印を「わたし」に移し、「先生が〜くださいました」「先生に〜いただきました」を上下に並べて板書する。食事のあいさつの「いただきます」と同じ言葉だと結びつける。1コマ目はここまでで、最後に上下の文の言い換えを全員で1周して終える |
| 学習項目3 さしあげます/〜てさしあげます | 35分 | 2コマ目の最初に、くださいます⇔いただきます の言い換えを絵カードで1分復習してから入る。「わたし」から上の人へ向かう矢印に「さしあげます」と書く。人に報告する文で練習したあと、目上の人の前でそのまま言うとどう聞こえるかを考えさせ、申し出には「〜ましょうか」を使うことを確かめる |
| 学習項目4 やります/〜てやります | 25分 | 下へ向かう矢印に「やります」と書き、弟・自分の子ども・犬・花のカードを貼る。「花に水をやる」「犬にえさをやる」を生活の言葉として入れ、いまは「あげます」で言う人も多いことを伝える |
| まとめの活動 | 35分 | 上・横・下の高さと向きで七つの動詞(あげます・さしあげます・やります・もらいます・いただきます・くれます・くださいます)を図に書き入れて完成させる。最後に、お世話になった目上の人に向けた短いお礼のスピーチ(「〜てくださって、ありがとうございました」を一つ以上入れる)を一人ずつ発表する |
第14課の「くれます」の敬語の形です。先生・上司・お客様のような目上の人が、「わたし」や、わたしの家族のような話し手の側の人に物を渡すときに「くださいます」を使います。渡す人は「が」(または「は」)で表し、受け取るのが「わたし」なら「わたしに」は言わないことが多いです。何かをしてくれたときは「Vて+くださいます」で、相手への感謝の気持ちが入ります。辞書形は「くださる」ですが、ます形は「くださります」ではなく「くださいます」になります。第11課の「〜てください」の「ください」も、もとはこの動詞の形です。
目上の人+が+(わたしに)+物+を+くださいます/くださいました。行為は Vて+くださいます(くださる はグループⅠ。て形 くださって・た形 くださった・ます形だけ くださいます)
口頭の代入練習では、教師が「友達が〜をくれました」と言い、人のカードを先生・部長・お客様に替えて見せたら、学生が「先生が〜をくださいました」と言い換える。慣れたら行為の絵カード(直す・教える・案内する・待つ)で「〜てくださいました」に広げる。場面のやり取りでは、教師が目上の人の役になり、学生が前の日にしてもらったことを思い出して「〜てくださって、ありがとうございました」とお礼を言い、教師が「いいえ、どういたしまして」と返す。
第14課の「もらいます」の敬語の形(自分の側を低くして言う謙譲の形)です。「わたし」や話し手の側の人が、目上の人から物を受け取るときに使います。受け取る人を「は」、渡した目上の人を「に」または「から」で表します。同じ出来事を、渡した人を主語にすると「先生がくださいました」、受け取った人を主語にすると「先生にいただきました」になります。何かをしてもらったときは「Vて+いただきます」で、「〜ていただきました」は自分が頼んでしてもらったときによく使い、「〜てくださいました」は相手が進んでしてくれた気持ちが出やすい、という傾向があります。食事の前の「いただきます」も同じ言葉です。
受け取る人+は+目上の人+に(から)+物+を+いただきます/いただきました。行為は 目上の人+に+Vて+いただきます(いただく はグループⅠ。て形 いただいて・た形 いただいた)
口頭の代入練習では、教師が「先生が〜をくださいました」と言ったら、学生が「わたしは先生に〜をいただきました」と言い換える往復を速く回し、行為のカードでも「〜てくださいました⇔〜ていただきました」を言い換えさせる。場面のやり取りでは、ペアで「日本に来てから、だれに何をしていただきましたか」と聞き合い、答えを「〜さんは〜に〜ていただきました」とクラスに報告させる。
第14課の「あげます」の謙譲の形で、「わたし」や話し手の側の人が、先生・上司・お客様のような目上の人に物を渡すときに使います。渡す人を「は」、受け取る目上の人を「に」で表します。主に、目上の人に物を渡したことをほかの人に話すときや、改まった文章で使います。何かをしてあげるときの「Vて+さしあげます」は、敬語の形になっても「あなたのためにしてあげる」という意味が残るので、目上の人に面と向かって「荷物を持ってさしあげます」と言うと、恩を着せるような、押しつけがましい言い方に聞こえます。目上の人に手伝いを申し出るときは「持ちましょうか」や、第37課で習う「お持ちしましょうか」のような言い方にします。
渡す人+は+目上の人+に+物+を+さしあげます/さしあげました。行為は Vて+さしあげます(さしあげる はグループⅡ。て形 さしあげて)
口頭の代入練習では、人のカードを上(先生・社長・お客様)と横(友達・同僚)に貼り分け、教師が指したカードによって「〜に〜をあげました」「〜に〜をさしあげました」を選んで言わせる。場面のやり取りでは、目上の人が困っている絵(荷物が重い・ドアが開けられない・傘がない)を見せ、「〜ましょうか」で申し出て、相手役が「ありがとう、お願いします」と答える短いやり取りにする。
第14課の「あげます」を、自分より下の人や物に使う形です。弟・妹・自分の子どものような年下の家族、犬や猫などの動物、花や木などの植物に物を渡すときに使い、「花に水をやる」「犬にえさをやる」はよく使う言い方です。何かをしてあげるときは「Vて+やります」です。ただし、いまは動物や植物、自分の子どもにも「あげます」を使う人が多く、「やります」は少し乱暴に聞こえると感じる人もいます。よその家の子どもには「あげます」がふつうです。学習者には、聞いて分かること、自分で言うときは「あげます」でも誤りではないことを伝えます。
渡す人+は+年下の家族・動物・植物+に+物+を+やります/やりました。行為は Vて+やります(やる はグループⅠ。て形 やって)
口頭の代入練習では、下の高さのカード(弟・妹・息子・犬・猫・花)と物・行為のカード(水・えさ・おもちゃ・宿題を見る・自転車を直す)を組み合わせて「〜に〜をやりました」「〜に〜てやりました」と言わせ、途中に上・横のカードを混ぜて七つの動詞から選ばせる。場面のやり取りでは、旅行の前に友達にペットや植物の世話を頼む会話(「えさをやってください」「何回やりますか」)をペアで行う。
この課の新出語は、お礼やお祝いの場面の言葉(お祝い・お見舞い・お土産など)と、目上の人を表す呼び方(部長・社長・お客様など)、動物や植物の世話の言葉(えさ・水をやる など)が中心になると考えられます。人の呼び方は、上・横・下の矢印の図に貼るカードとして使い回すと、語彙と動詞の選び分けの練習が一度にできます。「えさ」「水」は「やる」と、「お祝い」「お土産」は「いただく・さしあげる」と組にして、単語だけでなく動詞つきの形で覚えさせます。
宿題は、日本に来てからお世話になった目上の人を一人選び、その人に渡す短いお礼のカードを書くこと(「〜てくださって、ありがとうございました」か「〜ていただいて、ありがとうございました」を必ず一つ入れる)と、上・横・下の矢印の図に七つの動詞を書き入れて、それぞれの動詞で自分の経験の文を一つずつ作ること。次のコマの最初にカードを何人かに読ませ、教師が「だれに何をしていただきましたか」と聞いて復習してから、第36課の「〜れます/〜られます 尊敬」に入ります。目上の人の行為を高めて言う課なので、この課の「くださいます」が尊敬の言い方の入り口になると予告しておきます。
第35課の「くださいます」と「いただきます」はどう使い分けさせればいいですか?
同じ出来事を、だれを主語にして言うかの違いです。渡した目上の人が主語なら「先生がくださいました」、受け取った人が主語なら「わたしは先生にいただきました」になります。板書では矢印の図を動かさず、「は」の印だけを移して二つの文を上下に並べ、「くださいました=が」「いただきました=に」の組で覚えさせると、助詞の取り違えが減ります。
「〜てさしあげます」を目上の人に言ってはいけないのはなぜですか?
敬語の形になっても「あなたのためにしてあげる」という意味が残るので、相手に面と向かって言うと恩を着せるように聞こえるからです。「さしあげます」は、目上の人に何かをしたことをほかの人に話すときの言い方として練習します。申し出は「持ちましょうか」にし、第37課の「お持ちしましょうか」につなげます。
「やります」は今も教える必要がありますか?
「花に水をやる」「犬にえさをやる」は今も生活でよく聞くので、聞いて分かるようにしておく価値はあります。一方で、動物や植物、自分の子どもにも「あげます」を使う人が多いので、学習者が自分で言うときは「あげます」でも誤りにしません。「あげる」が使われるうちに丁寧さが薄れて広く使われるようになった例として、敬意逓減の説明に使われることもあります。
第35課は何コマで終わりますか?板書はどう組めばいいですか?
90分×2コマが目安で、1コマ目に「くださいます」「いただきます」、2コマ目に「さしあげます」「やります」とまとめの活動を入れます。板書は第14課の矢印の図を左に大きく描き、人の絵を上・横・下の高さに貼り分けて、2コマとも同じ図に動詞を書き足していくと、最後に七つの動詞の表が黒板に完成します。
「くださる」のます形が「くださいます」になるのはなぜですか?
「くださります」の「り」が「い」に変わった形が定着したもので、第36課で出る「いらっしゃる」「おっしゃる」「なさる」も「いらっしゃいます」「おっしゃいます」「なさいます」と同じ形になります。学習者には理由より先に、この課では「くださる→くださいます」の1語だけが例外だと示し、て形・た形はふつうのⅠグループと同じ(くださって・くださった)だと押さえれば十分です。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。