初級Ⅱの最後の課で、第39課の使役形に第30〜31課の受身をかさねた使役受身形(〜させられる/〜される)を学びます。使役受身は「ほかの人に言われて、したくないことをした」と、した本人の側から言う形で、子どものころの思い出・アルバイトや会社でのいやな経験など、学習者に話したいことがたくさんある場面で使えます。後半は受身・使役・使役受身の三つを同じ出来事で並べ、「だれが言ったか」「だれがしたか」「だれが困ったか」を整理し、最後に初級Ⅱ(第21〜40課)で学んだ形を組み合わせて使う活動で本を締めくくります。板書は「する(能動)→ させる(使役)→ させられる(使役受身)」の3段と、「される(受身)」を横に置いた表を課の最後まで残すと、三つの関係が一目で見えます。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第39課の使役を2〜3問で復習する(「お父さんは子どもに何をさせますか」と絵で聞き、「部屋を掃除させます」の型)。そのあと同じ絵の子どもの顔(いやそうな顔)を指して「子どもはどんな気持ちですか」と聞き、子どもの側から言う形がこの課の形だと予告する |
| 使役受身形の作り方 | 40分 | 使役形(グループⅡの動詞になる)に受身の「られる」をつける、の1本で作り方を見せ、グループごとに変換練習。グループⅠの「〜される」(せら→さ)は長い形が言えるようになってから足す |
| 学習項目1 〜せられます/〜させられます 使役受身 | 70分 | 教師の子どものころの話で導入し、「わたしは〈人〉に〜させられました」の枠で、子どものころ・アルバイト・学校でしかたなくしたことを言わせる。「〜させてもらいました」と比べて気持ちの違いを確かめる |
| 学習項目2 受身・使役・使役受身の総まとめ | 50分 | 一つの出来事を4つの文(能動・受身・使役・使役受身)で並べ、「に」の人がだれかを表で整理する。だれがしたかを答えるクイズで定着させる |
| 学習項目3 復習 | 70分 | 初級Ⅱの活用形を一枚の表で振り返り、形を組み合わせて話す活動(「日本に来てから変わったこと」のスピーチ・敬語のロールプレイ)を行う |
| まとめの活動 | 30分 | スピーチを録音して聞き直し、使えた形に印をつける。初級Ⅱの終わりとして、できるようになったことを学習者自身が3つ書いて発表する |
使役受身形は、第39課の使役形に受身の「られる」をつけた形です。使役形(書かせる・食べさせる・させる・こさせる)はどれもグループⅡの動詞と同じように活用するので、受身は「〜られる」になります。グループⅠの動詞には、「せら」を「さ」にした短い形(書かせられる→書かされる)もあり、話し言葉ではこちらがよく使われます。ただし、「話す・貸す」のように「す」で終わる動詞は短い形にせず、「話させられる」だけを使います。
グループⅠ: ない形の「〜a」+せられる(書か+せられる)、または「〜a」+される(書か+される。す で終わる動詞を除く)/グループⅡ: 〜る→〜させられる/グループⅢ: する→させられる、来る→こさせられる。使役受身形はグループⅡの動詞として活用する(させられます・させられた・させられて)
口頭の変換練習では、動詞カードを1枚ずつ見せて「使役形→使役受身形」の順に言わせ、グループⅠは長い形と短い形の両方を言わせる。慣れたら教師が使役受身形を言い、学生が辞書形に戻す逆向きの練習も入れる。カードの中に「話す・貸す・出す」を混ぜて、短い形にしないかを確かめる。
使役受身は、ほかの人に言われて(命令されて)、自分がしたくないことをしたことを、した本人を主語にして言う形です。「わたしは父に部屋を掃除させられました」では、部屋を掃除したのは「わたし」で、掃除するように言ったのは「父」です。多くの場合「いやだったけれど、しかたなくした」という気持ちが入ります。同じことを使役で言うと「父はわたしに部屋を掃除させました」となり、主語が言った人(父)に替わります。また「この映画には考えさせられました」のように、何かを見たり聞いたりして自然にそういう気持ちになった、という意味で使うこともありますが、この課では「しかたなくした」の意味を中心に扱います。
〈した人〉は〈させた人〉に(Nを)+使役受身形(わたしは父に部屋を掃除させられました/わたしは先輩に1時間待たされました)。させた人には「に」をつける
口頭の代入練習では、「させた人」のカード(父・先生・店長・部長)と「したこと」の絵カード(部屋を掃除する・作文を書く・皿を洗う・荷物を運ぶ)を組み合わせて「〈人〉に〜させられました」と言わせ、グループⅠは短い形でも言わせる。場面のやり取りでは、ペアで「子どものころ、何をさせられましたか」「〜させられました」「いやでしたか」「ええ。でも、今は〜てよかったと思います」と、気持ちまで話させる。
受身・使役・使役受身は、形が似ているうえに、どれも「〈人〉に」が入るので混ざりやすい形です。区別のかぎは「に」の人がその文で何をしたかです。受身(わたしは弟に作文を読まれました)では「に」の人が動作をした人で、主語はそれで困った人やされた人です。使役(先生は弟に作文を読ませました)では「に」の人が動作をする人で、主語はそうさせた人です。使役受身(弟は先生に作文を読ませられました)では動作をしたのは主語で、「に」の人はそうさせた人です。形の上では、受身は「〜れる/〜られる」、使役は「〜せる/〜させる」、使役受身は両方が入った「〜させられる」と、語の後ろを見れば見分けられます。
受身: 主語は 〈した人〉に Vれる/Vられる/使役: 主語は 〈する人〉に(を) Vせる/Vさせる/使役受身: 主語は 〈させた人〉に Vせられる/Vさせられる(グループⅠは Vされる も)
口頭の練習では、教師が受身・使役・使役受身の文をばらばらに読み、学生が「読んだのはだれですか」「言ったのはだれですか」に答える聞き取りクイズを行う。次に、絵カード1枚(人が二人と動作)を見せ、教師が言う主語(「わたしは」「先生は」「弟は」)に合わせて受身・使役・使役受身のどれかで文を作らせる。場面のやり取りでは、「家族やアルバイトの思い出」を、された(受身)・させた(使役)・させられた(使役受身)の3文で話させる。
初級Ⅱで学んだことを振り返り、いくつかの形を組み合わせて、まとまった話ができるようにするための活動の時間です。初級Ⅱでは、可能形・意向形・命令形と禁止形・条件形(ば形)・受身形・使役形・使役受身形と、新しい活用形が次々に出てきました。それぞれの課では一つの形を練習してきましたが、実際に話すときには「日本語が話せるようになったので、アルバイトを始めようと思います」のように、いくつもの形が一つの話の中に入ります。この時間は、活用形の表で形を整え直したあと、推量(〜ようです・〜らしいです・〜そうです・〜かもしれません・〜はずです)や敬語のように、似た形が並ぶものを場面の中で選んで使う練習をします。
(文型ではない)
活用表を埋めたあと、教師が形の名前(「書く、ば形」「来る、使役受身形」)を言い、学生が速く答える練習を全員→一人ずつで回す。場面のやり取りは3つ用意する。①スピーチ「日本に来てから変わったこと」(可能・〜ようになりました・意向形)②敬語のロールプレイ(アルバイトの面接や先生へのお願いで、謙譲語・尊敬語・〜ていただけませんか)③天気や人の様子の絵を見て、推量の形を一つ選んで言う。どれも、使えた形をペアの相手がチェック表に印をつける。
この課の中心は新しい語よりも使役受身形そのものなので、語彙は「したくないのにさせられること」に使う動詞(運ぶ・掃除する・練習する・待つ・歌う・覚える など)を、すでに習った語から選び直して使います。動詞カードは辞書形・使役形・使役受身形を裏表に書いておき、変換練習とやり取りの両方で同じカードを使うと負担が減ります。気持ちを言う語(いや・つらい・恥ずかしい・しかたがない)は、文のあとに「どうでしたか」と聞いて答えさせる形で口に出させます。
宿題は、子どものころやアルバイト・学校でさせられたことを使役受身の文で3つ書き、それぞれに「どんな気持ちだったか」「今はどう思うか」を一文ずつ足すことと、初級Ⅱの活用表(9つの形)を4つの動詞で埋めること。次のコマの最初に宿題の文を読ませ、ほかの学生が「言ったのはだれですか」「したのはだれですか」と聞いて、使役受身と受身・使役が取り違えられていないかを確かめます。この課で初級Ⅱは終わりなので、そのあとスピーチ「日本に来てから変わったこと」を発表して初級の総まとめとします。初中級では、初級で習った形を、頼む・断る・説明するといった目的のある場面の中で使い分けていくので、活用の誤りが残っている学生には、ここで表を使って個別に確かめておくと次の本へ進みやすくなります。
使役受身形は、長い形(書かせられる)と短い形(書かされる)のどちらから教えればいいですか?
長い形から教えます。長い形は「使役形+られる」の1本の作り方で、どのグループの動詞にも使えるからです。短い形はグループⅠ(す で終わる動詞を除く)だけにあり、話し言葉でよく聞く形なので、長い形が全員言えるようになってから「せら→さ」として足します。す で終わる動詞(話す・貸す)は長い形だけ、と最初に表で示しておくと誤りが減ります。
第40課の使役受身と第30課の受身の違いは、どう説明すればいいですか?
「その動作をしたのはだれか」で説明します。受身では「に」の人が動作をし(わたしは弟に作文を読まれました=弟が読んだ)、使役受身では主語が動作をして「に」の人は言った人です(弟は先生に作文を読ませられました=弟が読んだ)。一つの出来事を能動・受身・使役・使役受身の4文で並べ、読んだ人に丸をつける表を作ると、学習者が自分で確かめられます。
「〜させられました」と「〜させてもらいました」の違いは何ですか?
どちらも「わたし」が動作をし、「に」の人がそれを言ったり許したりした人ですが、気持ちが反対です。「〜させられました」はしたくないのにしかたなくしたこと、「〜させてもらいました」はしたかったことを許してもらったことで、お礼の気持ちが入ります。同じ人を使った2文を並べ、「いやでしたか、うれしかったですか」と聞いて選ばせると区別がつきます。
第40課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目は前の課の復習と使役受身形の作り方、学習項目1の導入まで、2コマ目は学習項目1の練習と受身・使役・使役受身の総まとめ、3コマ目は初級Ⅱの復習とスピーチです。時間が足りないときは、復習の活動をスピーチ一つに絞り、推量と敬語の練習は宿題の活用表と次の本の最初の時間に回します。
「この映画には考えさせられました」のような使い方も、この課で教えますか?
この課の中心は「ほかの人に言われてしかたなくした」の意味なので、練習はそちらだけで行います。学習者が映画やニュースの感想でこの言い方を聞いて質問したときに、「見たり聞いたりして、自然にそういう気持ちになった」という使い方もある、と短く紹介する程度で十分です。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。