動詞のて形に「きます」「いきます」をつけて、話し手のいる所を基準にした動きの向きを言い分ける課です。「〜てきます」はどこかへ行って用事をすませ、また今いる所へ戻ること(「ちょっと買ってきます」)や、物や人をこちらへ持ってくることを表し、「〜ていきます」は何かをしてから向こうへ行くこと(「くだものを買っていきます」)や、行き方・持っていく物を表します。新しい活用形はなく、山場は「買ってきます」と「買っていきます」の向きの取り違えなので、板書には課の最初に「ここ」を真ん中に置いた矢印の図を描き、最後まで消さずに残します。課の終わりには、出かけるときのあいさつ「行ってきます」を使い、職場や寮で「ちょっと〜てきます」と一言ことわったり、人のうちへ何を持っていくかを話したりできるようになります。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第11課の「〜てから、…」と第9課の「〜に行きます」を絵カードで2〜3問(「昼ご飯を食べに行きます」「宿題をしてから寝ます」)。そのあと教師がドアのところで「ちょっとコピーしてきます」と言って教室を出て、すぐ戻ってくる。「今、先生は何をしましたか」と聞き、行って戻ったことをこの課の言い方で言うと予告する |
| 学習項目1 〜てきます(行って戻る) | 40分 | 黒板に「ここ(教室)」と店・図書館の絵を描き、行きと帰りの往復の矢印を引く。「買ってきます」「借りてきます」を言わせ、あいさつの「行ってきます」と、それに答える「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」まで入れる |
| 学習項目1 〜てきます(こちらへ持ってくる) | 40分 | 教師がかばんから物を出しながら「きのう、辞書を持ってきました」。「持ってきます」「連れてきます」を、物や人が「ここ」へ向かう矢印で板書し、「あした〜を持ってきてください」の指示へ。1コマ目はここまでで、最後の5分で「〜てきます」の小テスト(て形+きます/くる・こない・きた)をする |
| 学習項目2 〜ていきます | 40分 | 「ここ」から友達のうちへ向かう片道の矢印を引き、途中に店の絵を置いて「ケーキを買っていきます」。出かける前にすること(「朝ご飯を食べていきます」)と、行き方(「歩いていきます」「バスに乗っていきます」)、「持っていきます/連れていきます」まで。2コマ目はここから始め、最初に往復の矢印の図をもう一度描いて前のコマを思い出させる |
| 二つを並べて向きを確かめる | 25分 | 同じ「買います」「持ちます」で、往復の矢印(〜てきます)と片道の矢印(〜ていきます)を並べ、教師が場面を言って学生がどちらかを選ぶ。話し手がいま「どこにいるか」で決まることを、立つ位置を変えて体で確かめる |
| まとめの活動 | 25分 | 「職場の昼休み」と「友達のうちのパーティー」の二つの場面カードでロールプレイ。前者では上司や同僚に「ちょっと〜てきます」とことわり、後者では電話で「何を持っていきましょうか」「〜を持ってきてください」とやり取りする |
動詞のて形に「きます(来ます)」をつけた形で、この課では二つの使い方を扱います。一つは、どこかへ行ってその動作をし、また今いる所へ戻ってくることです(「コンビニで飲み物を買ってきます」=行って、買って、ここへ戻る)。出かけるときのあいさつ「行ってきます」もこの使い方で、「行くけれど、また帰ってくる」という気持ちが入っています。もう一つは、物や人をこちらへ(話し手のいる所へ)動かすことで、「持ってきます」「連れてきます」のように言います。「〜てきます」には、時間とともに変わってくることを表す使い方(「寒くなってきました」など)もありますが、この教案では課の題と目次の例に合わせて、場所の移動の使い方に絞ります。文法の用語では、ここでの「きます」「いきます」はもとの「来る・行く」の意味を残しながら前の動詞につく補助動詞で、話し手のいる所を基準に向きを決める点から、直示(ダイクシス)にかかわる表現として説明されます。
Vて形+きます(普通体は「〜てくる/〜てきた/〜てこない」。「きます」は「来ます」と同じ活用をし、ふつうはひらがなで書く)
口頭の代入練習では、場所の絵カードと物の絵カードを組み合わせて見せ(郵便局+切手、図書館+本)、「ちょっと郵便局で切手を買ってきます」のように一文で言わせ、慣れたら「持ってきます/連れてきます」のカードを混ぜる。場面のやり取りでは、職場・寮・教室の場面カードを引かせ、一人が「ちょっと〜てきます」とことわり、相手が「行ってらっしゃい」「何時ごろ帰りますか」と応じ、戻ってきたら「お帰りなさい」まで続けさせる。
動詞のて形に「いきます(行きます)」をつけた形で、今いる所から向こうへ行く動きに、その前やその途中でする動作をつなげて言います。「くだものを買っていきます」は、くだものを買って、それから(くだものを持って)行き先へ向かうことで、行き先に戻ってくる意味はありません。出かける前にすること(「朝ご飯を食べていきます」)や、どうやって行くか(「歩いていきます」「タクシーに乗っていきます」)もこの形で言えます。物や人を向こうへ動かすときは「持っていきます」「連れていきます」と言い、「持ってきます」「連れてきます」とは向きが反対になります。「〜ていきます」にも、これから先の変化を表す使い方(「人が増えていきます」など)がありますが、この教案では場所の移動の使い方に絞ります。文法の用語で言えば、移動の向きを表す「〜ていく」と、時間の中で変化が続く「〜ていく」は別の用法として区別されるので、上の課で変化の使い方に入るときは、この課の矢印の図とは別の図で見せます。
Vて形+いきます(普通体は「〜ていく/〜ていった/〜ていかない」。「いきます」は「行きます」と同じ活用をし、ふつうはひらがなで書く)
口頭の代入練習では、行き先の絵カード(友達のうち・病院・会社)と、途中や前にすることの絵カード(くだものを買う・薬を飲む・朝ご飯を食べる)を組み合わせて「〜ていきます」で一文にさせ、途中で「持っていきます/連れていきます」と「歩いていきます/〜に乗っていきます」のカードを混ぜる。場面のやり取りでは、パーティーや遠足の招待カードを渡し、ペアで「何を持っていきましょうか」「〜を持ってきてください」「何で行きますか」「〜に乗っていきます」とやり取りさせる。
この課では、出かけるときと帰ったときのあいさつ(行ってきます・行ってらっしゃい・ただいま・お帰りなさい)と、「持つ」「連れる」のような物や人を動かす動詞が要ります。「持って」と「連れて」は単語で覚えさせず、物の絵カードと人の絵カードを2列に分けて、はじめから「〜を持ってきます/持っていきます」「〜を連れてきます/連れていきます」の形で入れます。手みやげ・遠足・お弁当のように、何かを持っていく場面の語は、まとめの活動の場面カードと一緒に出すと定着します。
宿題は、①あした出かける前や途中ですることを「〜ていきます」で2文、②職場や学校で席を外すときの一言を「ちょっと〜てきます」で2文、③週末に友達のうちへ行くとき何を持っていくかを1文、書くこと。次のコマの最初に、教師が「〜さんはあした何を持っていきますか」と聞いて宿題を使って復習し、往復と片道の矢印の図をもう一度描いて向きを確かめてから、第27課の「〜てみます」に入ります。第27課の「〜てしまいます」「〜ておきます」も「て形+動詞」の形なので、この課で「〜て+きます/いきます」の活用(くる・こない/いく・いかない)が言えるようにしておくと、同じ組み立てとして入りやすくなります。
「〜てきます」と「〜ていきます」の違いは、どう見せればいいですか?
黒板の真ん中に「ここ」を書き、「〜てきます」は行き先との往復の矢印、「〜ていきます」は向こうへ伸びる片道の矢印で見せます。決め手は話し手がいまどこにいるかなので、教師が教室の前と後ろに立つ位置を変えて、同じ「持ちます」がどちらになるかを言わせます。図は課の最後まで消さずに残し、迷ったら学生が自分で図を指して確かめられるようにします。
「買いに行きます」と「買ってきます」の違いは何ですか?
「買いに行きます」は第9課の目的の言い方で、行く目的だけを言い、戻るかどうかは言いません。「買ってきます」は買ってここへ戻るまでを言うので、職場や寮で席を外すときの一言に向いています。形も「ます形の語幹+に」と「て形+きます」で違うので、二つを上下に並べて板書し、混ぜた形が出ないようにします。
あいさつの「行ってきます」は、文型として教えますか?
この課では導入の入口に使います。「行って、また帰ってくる」という意味が「〜てきます」の往復と同じなので、あいさつから文型の意味に入ると学生に分かりやすくなります。答える側の「行ってらっしゃい」と、帰ったときの「ただいま」「お帰りなさい」も、セットで言い合う練習にします。
「寒くなってきました」のような変化の使い方も、この課で教えますか?
この教案では扱わず、場所の移動の使い方に絞ります。学習者から出てきたら、意味が違う使い方なので後で勉強すると言って止めておきます。移動の矢印の図と変化の使い方を同じ課で混ぜると、向きの区別があいまいになりやすいためです。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入と「〜てきます」(行って戻る使い方と、持ってくる・連れてくる)まで、2コマ目は「〜ていきます」、二つを並べる練習、まとめのロールプレイです。て形が定着していないクラスでは、1コマ目の最初にて形の確認を10分ほど足すと、あとの練習が止まりません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。