中級から学ぶ日本語 第11課「つながる」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈タテとヨコ〉
人と人の「つながり方」がテーマの課です。本文は、上の人と下の人の区別がはっきりしたタテの関係と、対等なヨコの関係を比べ、職場などの上下関係が変わりつつある中で、上司と部下がどんな関係を築けばよいかを考える読み物だと、新しい言葉から推測されます。文型は、気が進まないがそうするしかない「〜ざるを得ない」、いちばん当然のことを取り上げて程度を強める「〜さえ」、二つの場合を並べて「どちらでも同じ」と言う「〜にしろ〜にしろ」、確認や相談を済ませてから次の行動に移る「〜た上で」。4つとも書き言葉寄りのかたい表現なので、話し言葉の言い方(〜しかない/〜も/〜ても〜ても/〜てから)と並べて、どこが違うのかを確かめながら進めるのが芯になります。
このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目4時間90分×2コマ語彙44語
この課のねらい(Can-do)
- 「〜ざるを得ない」で、本当はしたくないが事情があってそうするしかないことを、理由と一緒に言える。「〜と言わざるを得ない」で、言いにくい判断も述べられる
- 「〜さえ」で、いちばん簡単なこと・当然のことを取り上げて、驚きや不満を強く言える。「が・を」が消え「に・で」が残る形を正しく作れる
- 「〜にしろ〜にしろ」で、対になる二つの場合を並べ、どちらにも当てはまる判断・注意・依頼を言える
- 「〜た上で」で、確認・相談などの準備を済ませてから次の行動をすることを、手続きの説明や改まった報告で使える。「〜てから」との違いが分かる
- 本文を読んで、タテの関係とヨコの関係のよい点と難しい点を、自分の国や職場・学校の経験と比べて話せる
進め方と時間配分
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 新しい言葉 | 20分 | 44語と多いので、まとまりで分ける。「上下・身分・上司・部下・上に立つ・一人前・役割」は「タテの関係にいる人」の図に、「平等・お互い・気安い・気楽・交わす・築く」は「ヨコの関係」の側に置いて板書すると、本文の対比の予告になる。「影をひそめる・反発を買う・息がつまる・口を利く」は慣用句としてまとめて意味を確かめる。「〜ざるを得ない・さえ・〜にしろ〜にしろ・〜た上で・〜つつある」は使いましょうや本文で扱うと予告するだけにする |
| いっしょに考えましょう | 10分 | 「先輩と後輩、上司と部下の関係は、あなたの国では厳しいか」を1人1つ。答えを黒板の端に残しておくと、学習項目2(〜さえ)・3(〜にしろ〜にしろ)の導入に使える |
| 読みましょう(大意) | 20分 | 教師の範読→段落ごとの音読→「タテの関係とは何か・ヨコの関係とは何か」「いま何が変わりつつあるか」「筆者はどちらかをよいと言っているか、それとも両方に何かを求めているか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めか宿題に回してよい |
| 答えましょう | 15分 | 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の考えを問う設問は、「しかし」「一方」など話の向きが変わる語を手がかりに、口頭で短く答えさせる |
| 使いましょう(学習項目1・2) | 30分 | 1コマ目の後半。「〜ざるを得ない」(15分)は形(せざるを得ない)を先に固める。「〜さえ」(15分)は「も」と並べて強さを比べる。産出の活動は2コマ目の初めに回してもよい |
| 使いましょう(学習項目3・4) | 55分 | 2コマ目。前のコマの産出を5分で終えてから「〜にしろ〜にしろ」(25分)。第6課の「〜とか〜とか」と並べる時間を取る。続けて「〜た上で」(25分)。「〜てから」と第14課の「〜上で」との違いを板書で上下に並べる |
| まとめましょう・話しましょう | 20分 | 「人とよい関係を築くために大切だと思うこと」を3〜4文で(〜にしろ〜にしろ/〜た上で を1つ以上)。話しましょうはペアで「先輩や上司に、言いにくいことを言わざるを得なかったとき、どう言ったか」 |
| 漢字を練習しましょう | 10分 | 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する。「上司・部下・身分・制度・廃止・役割」のような二字の漢語は、本文の中で読みを確かめる |
学習項目 1 〜ざるを得ない
意味・はたらき学習項目 1
「本当はしたくない(するつもりはなかった)が、事情があって、ほかに選べる道がないので、そうするしかない」という気持ちを言う。話し手の不本意な気持ちが前に出るのが特徴で、喜んでする行動には使わない。「〜と言わざるを得ない」「認めざるを得ない」のように、言いたくない判断を「そう判断するしかない」と述べる使い方も多く、論説文や改まった報告でよく見る。かたい言い方なので、友だちとの会話では「〜しかない」「〜なきゃいけない」がふつう。文法の用語で言えば、義務や必要を表すモダリティ(話し手の判断や態度を表す表現)の仲間で、「〜なければならない」に「やむを得ず」の気持ちが加わったものと見ることができる。
接続
動詞のない形から「ない」を取って+ざるを得ない(行かない→行か+ざるを得ない)。「する」は「せざるを得ない」、「来る」は「来(こ)ざるを得ない」。「得ない」は「えない」と読む
形
Vない形(「ない」を取る)+ざるを得ない(台風が近づいているので、旅行は中止せざるを得ない)〜と言わざるを得ない/認めざるを得ない(この予算では、計画は難しいと言わざるを得ない)〜ざるを得なくなる/なった(父が入院して、一時帰国せざるを得なくなった)〜ざるを得なかった(終電に乗り遅れて、タクシーで帰らざるを得なかった)
導入
- 「したくない」と「ほかに方法がない」の二つの吹き出し教師が自分の話をする(「明日は朝6時の新幹線。早起きは苦手で、本当は乗りたくない。でも、会議に間に合う電車はそれしかない」)。板書に「したくない」と「ほかに方法がない」の二つの吹き出しを書き、矢印で「乗らざるを得ない」につなぐ。どちらかの吹き出しを消すと使いにくくなることを見せ、二つがそろったときの言い方だと確かめる。
- ない形から形を作る動詞カード(書く・休む・あきらめる・する・来る)を順に出し、学習者が「ない形→『ない』を取る→ざるを得ない」と口で作る。「する」と「来る」だけは別の色で板書し、「せざるを得ない」「こざるを得ない」を全体で何度か言わせる。
板書案
したくない + ほかに方法がない → 〜ざるを得ない
会議に間に合う電車はそれしかない。→ 朝6時の新幹線に乗らざるを得ない。
〔赤〕行か|ない → 行か+ざるを得ない 〔青〕する→せざるを得ない/来る→こざるを得ない
〔緑〕判断: 〜と言わざるを得ない/認めざるを得ない
話し言葉では → 〜しかない/〜なきゃいけない
場面と発話(自作)
- 会社で、取引先の担当者が急に入院した。打ち合わせの日程について、課長が部下に伝える。先方の都合がつかないので、打ち合わせは来週に延ばさざるを得ませんね。
- ゼミの発表。アンケートの回答が予定よりずっと少なかった。留学生が結果の説明で言う。回答が20人分しか集まらなかったので、この結果から全体の傾向を言うのは難しいと言わざるを得ません。
- 寮で、友だちに昨日の夜の話をする。アルバイトが長引いて終電に間に合わなかった。終電を逃しちゃって、高かったけどタクシーで帰らざるを得なかったんだ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「したくないこと+事情」を言い(「雪で電車が止まった」「財布をなくした」)、学習者が「〜ので、〜ざるを得ない」で文を完成させる。「する」「来る」の動詞を必ず混ぜる。最後に「〜と言わざるを得ない」で、言いにくい評価を一つ言わせてから教科書の練習へ。
- 口頭状況と行動の対のカード(「雪で電車が止まった→歩いて帰る」「レポートのデータが消えた→最初から書き直す」「部長に頼まれた→週末も出勤する」)を見せ、全体で「〜ので、〜ざるを得ない」と言う。次に動詞だけ(説明する・連れて来る・あきらめる・休む)を出して個人指名で形を作らせ、「せざるを得ない」「こざるを得ない」を確かめる。
- ペアAは困った状況カード(「旅行の前の日に熱が出た」「アパートの家賃が急に上がった」「アルバイト先の店がなくなる」)を持ち、Bが「それで、どうするの?」と聞く。Aは「〜ざるを得ない」で答え、Bは「それは残念だね」などと気持ちを返したうえで、ほかの方法を一つ提案する。Aがその案を受けるか断るかを言ったら、役を交替する。
- 産出「しかたなかった話」: 本当はしたくなかったが、事情があってせざるを得なかった自分の経験を、3〜4文(事情→〜ざるを得なかった→そのあとどうなったか)で話す。聞いている人は質問を一つする。教師は、不本意の気持ちがある行動に使えているか、形(せざるを得ない・来ざるを得ない)が正しいか、友だちに話す場面で硬すぎないかを聞き取り、最後に「〜しかなかった」との言い換えも示す。
つまずきと手当て
- 「する」「来る」や「ない」の扱いをまちがえる(*しざるを得ない/*行かないざるを得ない)。「ない」を取ってから付けるという手順と、「する→せ」「来る→こ」を、板書の〔赤〕〔青〕の行で何度も確かめる
- 喜んでする行動に使う(好きな歌手のコンサートだから、行かざるを得ない)。冗談として言う人はいるが、ふつうは不本意の気持ちが無いと不自然に聞こえるので、「本当は行きたくないのですか」と聞き返して選び直させる
- 友だちとの会話で多く使い、大げさで硬く聞こえる。改まった場面や文章の言い方だと伝え、会話では「〜しかない」に言い換えさせる
既習の文型との違い
- 〜なければならない(初級)「なければならない」は規則や義務を、話し手の気持ちと関係なく言う。「ざるを得ない」は、したくないが事情があってそうするしかない、という気持ちが入る。「留学生は在留カードを持っていなければならない」は規則の説明で、ここを「ざるを得ない」にすると、規則に不満を言っているように聞こえる。
- 〜わけにはいかない(第17課)「〜ないわけにはいかない」も「するしかない」に近いが、理由は世間の目や義理・責任のような社会的な事情であることが多い。「ざるを得ない」は理由の種類を選ばず、状況に追い込まれた感じが強い。第17課で並べて扱うと予告しておく。
関連する文型
学習項目 2 〜さえ
意味・はたらき学習項目 2
いちばん簡単なこと、ふつうなら当然できる・あるはずのことを一つ取り上げて、「それさえできない(ない)のだから、ほかのことはもちろんだ」と、極端な例で程度を強める言い方。否定の文で使うことが多い(ひらがなさえ読めない)が、肯定の文でも「ふつうなら考えにくい人・ものでも」の意味で使う(子どもでさえ知っている)。話し手の驚き・不満・あきれた気持ちがこもることが多い。文法の用語では取り立て助詞(ある語を取り出して、ほかのものとの関係を示す助詞)の一つで、「も」「まで」「すら」と同じ仲間。「〜さえ〜ば」(それだけで十分だという条件)は別の使い方で、第19課で扱う。
接続
名詞+さえ(「が」「を」は消えて「さえ」だけになる: 水さえない)。「に」「で」「と」などの助詞は残して後ろに付ける(子どもにさえ分かる)。主語を強めるときは「Nでさえ」の形が多い(先生でさえ)。動詞は「Vマス形+さえ しない」(読みさえしない)
形
N+さえ〜ない(あの店は小さくて、看板さえ出ていない)Nでさえ(日本人でさえ、この漢字は読めない人が多い)助詞+さえ(彼は親友にさえ、引っ越すことを話さなかった)Vマス形+さえしない(何度メッセージを送っても、読みさえしない)
導入
- はしごの「いちばん下の段」を指す板書に日本語の力のはしご(ひらがな→カタカナ→漢字→新聞の記事)を描く。教師が「日本に来たばかりのころ、ある友だちは……」と言いながらいちばん下の段を指して「ひらがなさえ読めなかった」と言い、右に「→漢字や新聞はもちろん読めない」と書く。「さえ」はいちばん下の段、つまり当然できそうなことに付くと見せる。
- 「も」と並べて強さを比べる「ひらがなも読めない」と「ひらがなさえ読めない」を上下に並べ、教師が口調を変えて読む。どちらが「信じられない」という気持ちが強いかを学習者に選ばせ、さえのほうが強いことを確かめる。続けて「いっしょに考えましょう」の答えから、上下関係の厳しい部活や職場で「〜さえ〜ない」と言えそうな例を学習者に作らせる。
板書案
いちばん簡単・当然のこと + さえ → ほかはもちろん
来日したころは、ひらがなさえ読めなかった。(→漢字はもちろん読めない)
〔赤〕Nが/Nを → Nさえ 〔青〕Nに → Nにさえ/主語を強める → Nでさえ
〔緑〕強さ: も < さえ
※ 〜さえ〜ば(第19課)は「それだけで十分」の別の意味
場面と発話(自作)
- 来日して最初の一週間のことを、留学生が日本語の先生に話す。最初の週は緊張していて、コンビニのレジで聞かれたことさえ分かりませんでした。
- 会社に新しい経費のシステムが入った。同僚どうしで使い方について話す。このシステム、担当の人でさえ使い方がよく分からないって言っていましたよ。
- 寮のルームメイトが、試験とアルバイトが重なった一週間をふり返る。今週は本当に余裕がなくて、家族に電話する時間さえ取れなかった。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「いちばん簡単なこと」と状況を言い(「熱が39度あった→水を飲む」「入社1日目→同じ部署の人の名前」)、学習者が「〜さえ〜ない」で文を作る。次に「Nでさえ」と「助詞+さえ」のキューを混ぜ、「が・を」が消えて「に・で」が残ることを確かめてから教科書の練習へ。
- 口頭状況と「いちばん簡単なこと」のカード(「熱が39度→起き上がる」「入社1日目→コピー機の使い方」「専門家→この問題に答える」)を見せ、全体で「〜さえ〜なかった」「〜でさえ〜ない」と言う。次に助詞つきのキュー(「子どもに分かる」「家族に言わない」)を出し、個人指名で「子どもにさえ分かる」「家族にさえ言わない」の形を作らせる。
- ペア「大変だった日の報告」: Aは大変な日のカード(「引っ越しの日」「試験の前の日」「旅先で財布をなくした日」)を引き、Bの「どうだった?」に「〜さえ〜なかった」で答える。Bは「えっ、〜も?」と驚いて聞き返し、Aが理由を一言足す。2枚ごとに役を交替する。
- 産出「信じられない話コンテスト」: グループで一人一つ、本当にあった驚いた話(忙しすぎた・知らなかった・できなかった)を「〜さえ」「〜でさえ」を使って話し、いちばん驚いた話を投票で選ぶ。教師は、取り上げた例が本当に「当然できること・いちばん下の段」になっているか、「が・を」を消しているかを聞き取り、例の選び方がずれた文は全体で直す。
つまずきと手当て
- 「が」を残す(*水がさえない)。「が・を」の位置ではさえだけになり、「に・で」の位置では助詞が残ると、板書の〔赤〕〔青〕の行で比べる
- 当然できることではないものに付けて、強調の向きが逆になる(日本に来たばかりで、新聞の社説さえ読めない)。社説はもともと難しいので不自然に聞こえる。「それはいちばん簡単なことですか」と聞き返し、はしごの下の段の語に替えさせる
- 「〜さえ〜ば」と混ぜて、「時間さえあれば」を「時間もない」の意味だと取る。この課では否定と組む形を中心にし、「ば」が付くと意味が変わることだけ予告する
既習の文型との違い
- 〜も〜ない(初級)「ひらがなも読めない」「一つもない」のように、もでも極端な例を言えるが、さえのほうが強く、驚きや不満がはっきり出る。また、もは「AもBも」と並べるのにも使うが、さえは一つだけを取り出して言う。
- 〜まで(第7課)までは「ふつうはそこまでしない」ものを加えて、範囲が広がったことを言い、肯定の文に多い(家族まで反対した)。さえは否定と組んで「いちばん当然のことさえない」と言うことが多い。「子どもでさえ知っている」と「子どもまで知っている」はどちらも言えるが、さえは「当然さ」、までは「意外な広がり」に重心がある。
- 〜さえ〜ば(第19課)「さえ〜ば」は「それだけあれば、ほかはいらない」という条件の言い方で、後ろにはよい結果が来る(地図さえあれば行ける)。この課のさえとは、後ろが否定か条件かで見分けさせる。
関連する文型
学習項目 3 〜にしろ〜にしろ
意味・はたらき学習項目 3
「AにしろBにしろ」の形で、二つ(またはいくつか)の場合を並べて、「AでもBでも、どちらの場合でも後ろのことは変わらない」と言う。AとBには対になる語(行く・行かない/賛成・反対)や同じ仲間の語(電車・バス)が来る。後ろには、どちらにも当てはまる判断・注意・依頼(〜必要がある・〜てください・〜は同じだ)が来ることが多い。「〜にせよ〜にせよ」はさらにかたい言い方、「〜にしても〜にしても」は少しやわらかい言い方で、意味はほぼ同じ。「どんな理由があったにしろ」のように一つだけで「たとえ〜としても」の意味でも使う。文法の用語では、「〜ても」と同じ逆の条件を並べて「どれでも同じ」と言う言い方で、条件表現の仲間に入る。
接続
名詞+にしろ(「だ」は付けない: 賛成にしろ反対にしろ)/動詞・い形容詞の普通形+にしろ(行くにしろ行かないにしろ/高いにしろ安いにしろ)/な形容詞は語幹か「〜であるにしろ」
形
N1にしろN2にしろ、〜(電車にしろバスにしろ、朝のこの時間はかなり込む)Vるにしろ Vないにしろ、〜(参加するにしろしないにしろ、金曜日までに返事をください)〜にせよ〜にせよ(かたい)/〜にしても〜にしても(やわらかい)〜にしろ(一つで)(どんな事情があったにしろ、連絡なしに休むのはよくない)
導入
- 分かれ道が一つのゴールに集まる図板書に分かれ道を描き、左の道に「進学する」、右の道に「就職する」と書く。二本の矢印を一つの四角「日本語の力が必要」に集め、「進学するにしろ就職するにしろ、日本語の力が必要だ」と言う。どちらの道を通っても同じ四角に着く、という絵で意味を押さえる。
- 学習者の選択で後ろを考えさせる学習者に「週末は出かけますか、家にいますか」と聞き、答えが分かれたところで「どちらでも同じことは何ですか」と聞く(「宿題はやる」「月曜の朝は早い」)。出てきた答えを使って「出かけるにしろ家にいるにしろ、宿題はやらなければならない」と全体で言い、次にAとBを入れ替えて学習者に作らせる。
板書案
A にしろ B にしろ = AでもBでも → 後ろは同じ
進学するにしろ就職するにしろ、日本語の力が必要だ。
〔赤〕N+にしろ(だ は付けない) 〔青〕V・Aい 普通形+にしろ
〔緑〕かたい: 〜にせよ〜にせよ/やわらかい: 〜にしても〜にしても
後ろ: 〜必要がある・〜てください・〜は同じだ
場面と発話(自作)
- 会社で、課長が新しく入った社員に、取引先とのやり取りの報告について話す。いい知らせにしろ悪い知らせにしろ、まず私に報告してください。
- ゼミで先生が、来週の討論の準備について学生に注意する。賛成にしろ反対にしろ、自分の意見には理由を二つ以上付けてください。
- 卒業後に帰国するか日本で働くか迷っている後輩に、寮の先輩が言う。帰るにしろ残るにしろ、ビザのことがあるから、早めに決めたほうがいいよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が対になる語のカード(行く/行かない・平日/休日・肉/魚)を見せ、学習者が「AにしろBにしろ」まで言い、教師が後ろを付ける。次に学習者が後ろまで作る。最後に「〜にしても〜にしても」に言い換える問答をしてから教科書の練習へ。
- 口頭対の語のカード(「行く/行かない」「平日/休日」「肉/魚」「先輩/後輩」)を見せ、全体で「AにしろBにしろ」を言う。教師が後ろ(「連絡はしてください」「この店は込んでいる」)を付けて全文をくり返したあと、個人指名で後ろまで作らせる。名詞のカードでは「だ」を付けないことを確かめる。
- ペアAは迷っていることのカード(「引っ越すか、今の部屋に住み続けるか」「大学院に行くか、働くか」「サークルに入るか、アルバイトを増やすか」)を読み上げる。Bは「〜にしろ〜にしろ、〜」で、どちらを選んでも役に立つアドバイスを一つ言う。Aは「なるほど。じゃあ、まず〜」と次の行動を言って返す。2枚ごとに交替する。
- 産出「先輩からのひとこと」: 新入生や新入社員に向けて、「〜にしろ〜にしろ」を使ったアドバイスを2つカードに書き、発表してから教室に掲示する。教師は、AとBが対や同じ仲間になっているか、後ろがどちらの場合にも当てはまる内容になっているか、名詞に「だ」を付けていないかを見て、カードに直しを入れて返す。
つまずきと手当て
- 名詞に「だ」を付ける(*賛成だにしろ反対だにしろ)。名詞はそのまま「にしろ」と、板書の〔赤〕の行を指して言い直させる
- AとBが対にも仲間にもなっていない(肉にしろ電車にしろ、〜)。並べる二つは「どちらかを選ぶ」「同じ種類の中の二つ」になっているかを聞き、選び直させる
- 後ろでAとBの違いを言ってしまう(電車にしろバスにしろ、電車のほうが速い)。「どちらでも同じこと」を言う文型なので、後ろが二つに共通しているかを確かめさせる
既習の文型との違い
- 〜とか〜とか(第6課)「とか〜とか」は例を並べるだけで、ほかにもあるという含みが残る(肉とか魚とか買った)。「にしろ〜にしろ」は二つを条件として並べ、「どちらの場合でも」と後ろに共通の判断を続ける(肉にしろ魚にしろ、新しいものを選ぶ)。後ろが「どちらにも当てはまること」かどうかで見分けさせる。
- 〜ても〜ても(初級)「行っても行かなくても」は話し言葉でほぼ同じ意味を言える。「にしろ〜にしろ」はかたく、文章や改まった話で使う。意味が分からない学習者には、まず「〜ても〜ても」で言わせてから言い換えさせると入りやすい。
関連する文型
学習項目 4 〜た上で
意味・はたらき学習項目 4
「Aた上でB」の形で、まずAをきちんと済ませ、その結果をもとにBをする、という順序と前提を言う。Aには確認する・相談する・説明を聞く・よく考えるのような、Bの前に必要な手続きや準備が来て、Bには決める・申し込む・判断するのような意志的な行動が来る。「〜てから」が時間の順を言うだけなのに対し、「〜た上で」は「Aをしないで Bはしない」という前提の気持ちが入る。改まった話し言葉や書き言葉で使い、窓口の案内・説明書・仕事の報告に多い。名詞の場合は「相談の上で」「確認の上」のように「Nの上(で)」になる。
接続
動詞のた形+上で(読んだ上で)/動作を表す名詞+の上で(相談の上で・確認の上で)。書き言葉では「で」を落として「〜の上、〜」とも言う
形
Vた上で、〜(両親とよく話し合った上で、留学を決めた)Nの上(で)、〜(契約の内容をご確認の上、サインをお願いします)Vた上での+N(よく考えた上での結論なら、反対はしない)Vた上で、〜てください(説明書を読んだ上で、使ってください)
導入
- 手続きのカードを順に並べる「アパートを借りる」の流れを、カードで黒板に並べる(部屋を見る→説明を聞く→契約する)。教師が「部屋を見て、説明を聞いた上で、契約します」と言い、「部屋を見ないで契約したら?」と聞く。困る、という答えを受けて、前の二つが「しなければ次に進めない準備」だと確かめ、矢印の上に「た上で」と書く。
- 「てから」と並べて、準備かどうかを見る「起きてから顔を洗う」と「よく調べた上で申し込む」を上下に並べる。前の文は時間の順だけで、「起きた上で顔を洗う」と言うと不自然だと伝える。「た上で」の前は、次の行動のための確認・相談・準備だと学習者に言わせる。
板書案
A(確認・相談・準備)た上で → B(決める・申し込む)
部屋を見て説明を聞いた上で、契約する。
〔赤〕Vた形+上で 〔青〕N(相談・確認)+の上で
〔緑〕Aをしないで Bはしない(前提)/「てから」は時間の順だけ
※ V辞書形+上で(第14課)=〜するときに
場面と発話(自作)
- 市役所の窓口で、職員が転入の手続きに来た留学生に説明する。こちらの用紙に記入した上で、3番の窓口にお出しください。
- 進学先に迷っている留学生が、日本語学校の先生に相談する。オープンキャンパスで話を聞いた上で、受けるかどうか決めたいと思います。
- 会社の会議で、部長が新しい企画について話す。現場の意見をもう一度聞いた上で、来週までに結論を出します。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が手続きの絵カードを2枚ずつ見せ(説明を聞く→申し込む・試着する→買う・上司に相談する→決める)、学習者が「〜た上で、〜」で1文にする。次に名詞カード(相談・確認・検討)で「〜の上で」を作り、最後に「てから」で言うか「た上で」がふさわしいかを選ぶ問答をしてから教科書の練習へ。
- 口頭手続きの絵カードを2枚1組で見せ(「説明を聞く→申し込む」「試着する→買う」「上司に相談する→返事をする」)、全体で「〜た上で、〜」と言う。次に名詞カード(相談・確認・検討・話し合い)を出し、個人指名で「〜の上で、〜」を作らせる。最後に「起きる→顔を洗う」のような、ただ時間が続くだけの組を混ぜ、「てから」を選ばせる。
- ペア「窓口ロールプレイ」: Aは窓口の係(銀行・携帯電話の店・不動産屋・区役所)、Bは客になる。Bが「今日すぐ申し込めますか」と聞き、Aが「〜た上で、〜てください」「〜の上、〜」で手順を一つ説明する。Bはその手順を「〜た上で、〜んですね」と復唱して確かめる。1回ごとに場所と役を替える。
- 産出「手続き案内を作ろう」: グループで、身近な手続き(アルバイトに応募する・図書館で本を予約する・大きいごみを出す)の案内文を、「〜た上で」「〜の上(で)」を2回以上使って書き、ほかのグループに読んで説明する。聞く側は分からない手順を一つ質問する。教師は、Aが Bのための準備になっているか、た形と「Nの上で」を正しく使い分けているか、時間の順だけの文になっていないかを見る。
つまずきと手当て
- 辞書形に付ける(*よく考える上で決めた)。辞書形+上では第14課の「〜するときに」という別の意味になるので、この課では必ずた形だと、板書の〔赤〕の行と第14課の予告を指して確かめる
- 名詞に「の」を落とす(*相談上で決めます)。名詞のときは「の上で」と、〔青〕の行で言い直させる
- 自然に続くだけの出来事に使う(家に帰った上で、晩ご飯を食べた)。前のことが後ろの準備や条件になっていないので不自然に聞こえる。「それをしないと、後ろはできませんか」と聞き、ただの順序なら「てから」に替えさせる
既習の文型との違い
- 〜てから(初級)「てから」は時間の順を言うだけで、どんな動作にも使える。「た上で」は、前のことを済ませ、その結果をふまえて後ろの行動をする、という前提の気持ちが入るので、前は確認・相談・準備、後ろは意志的な行動になることが多い。「よく調べてから申し込んだ」も言えるが、「調べた上で」のほうが慎重さがはっきりし、改まって聞こえる。
- 〜上で(〜するにあたって・第14課)辞書形+上では「〜するときに・〜する場合に」(日本で生活する上で大切なこと)で、時間の順ではない。た形+上では「〜してから、それをもとに」。前の動詞の形だけで意味が分かれるので、板書で上下に並べて見せる。
- 〜たところ(第8課)「たところ」の後ろは、してみた結果として分かったこと・起きたことで、話し手が決められない内容になる(説明を聞いたところ、思ったより簡単だった)。「た上で」の後ろは話し手が決める行動になる(説明を聞いた上で、申し込んだ)。後ろが「結果」か「自分で決める行動」かで見分けさせる。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 44 語(本文を読むための語 44・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で44語と多い。一語ずつ訳すより、「タテの関係にいる人や仕組み(上下・身分・上司・部下・上に立つ・一人前・制度・役割)」「ヨコの関係を言う語(平等・お互い・気安い・気楽・交わす・築く)」「関係がうまくいかないときの言い方(反発を買う・息がつまる・信頼を失う)」のまとまりで板書すると、本文の対比の予告になる。「影をひそめる」「口を利く」「上に立つ」のような慣用句は、形を変えずに覚えさせる。「〜ざるを得ない」「さえ」「〜にしろ〜にしろ」「〜た上で」は語彙にも出るが、意味と使い方は学習項目でまとめて扱う。「〜つつある」は学習項目にはないので、本文の中で「〜ている」と比べて、変化が進んでいる途中だという意味を確かめるにとどめる。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
第11課の語彙リスト(44語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
▸
本文の扱い
本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(タテ・上下・厳しい・身分・影をひそめる・平等・上司・部下・上に立つ・一人前・育てる・お互い・築く・交わす・気楽・生み出す・失う・〜つつある)から、上の人と下の人の区別がはっきりしたタテの関係が、職場などで以前ほど見られなくなり、対等なヨコの関係が広がりつつある、という変化を取り上げ、上司と部下がどんな関係を築けばよいかを考える話題の読み物だと推測される。ヨコの関係の気楽さだけでなく、上に立つ人の役割や、部下を一人前に育てることにも触れている可能性があるので、筆者がどちらか一方をよいと言っているのか、両方に何かを求めているのかを、決めつけずに読ませたい。精読では「以前のタテの関係はどんなものだったか」「いま何が変わりつつあるか」「ヨコの関係のよい点と難しい点は何か」「筆者は上に立つ人に何を求めているか」の4点を段落ごとに聞く。「しかし」「一方」など話の向きが変わる語で一度止め、前後の関係を学習者に言わせる。本文に学習項目の文型が出ていれば、その文で止めて、だれの・どんな気持ちや判断かを確かめる。
宿題と次のコマ
使いましょう(学習項目1〜4)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。まとめましょうの「人とよい関係を築くために大切だと思うこと」を4文(〜にしろ〜にしろ・〜た上で を1つずつ、〜ざるを得ない か 〜さえ を1つ以上)で書いてくる。次のコマは本文の精読の続きと話しましょう。
よくある質問
『中級から学ぶ日本語』第11課「つながる」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2(〜ざるを得ない/〜さえ)、2コマ目で学習項目3・4(〜にしろ〜にしろ/〜た上で)とまとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が44語と多いので、タテとヨコのまとまりで板書して時間を詰めるか、精読を3コマ目に回してもかまいません。
「〜ざるを得ない」と「〜なければならない」「〜しかない」の違いはどう説明すればいいですか?
「なければならない」は規則や義務を気持ちと関係なく言い、「ざるを得ない」は、したくないが事情があってそうするしかない、という不本意な気持ちが入ります。「しかない」は意味が近い話し言葉で、友だちとの会話ではこちらが自然です。規則の説明に「ざるを得ない」を使うと不満を言っているように聞こえる、と例で示すと違いが伝わります。
「〜さえ」と「〜も」「〜まで」はどう教え分けますか?
まず「も」と並べて、さえのほうが驚きや不満が強いことを口調で示します。「まで」は「意外なものまで加わった」という広がりで肯定の文に多く、「さえ」は「いちばん当然のことさえない」と否定と組むことが多い、と後ろの形で見分けさせます。「〜さえ〜ば」は条件の別の使い方なので、この課では予告だけにします。
「〜にしろ〜にしろ」にはどんな語を並べればいいですか?
「行く/行かない」「賛成/反対」のような対になる語か、「電車/バス」のような同じ仲間の語を並べます。後ろには、どちらの場合にも当てはまる判断や依頼を置きます。名詞のときに「だ」を付けない点と、後ろで二つの違いを言わない点をよく確かめます。
「〜た上で」と「〜てから」、第14課の「〜上で」の違いは何ですか?
「てから」は時間の順だけ、「た上で」は前のことを済ませてそれをもとに後ろの行動をする、という前提の気持ちが入ります。第14課の「辞書形+上で」は「〜するときに」という別の意味です。た形か辞書形かで意味が分かれるので、三つを板書で並べて比べさせると混ざりにくくなります。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。