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中級から学ぶ日本語 第20課「おぼえる」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈ものづくり〉
職人がわざを「おぼえる」ことがテーマの課です。本文は、すし職人や大工、染物の職人のように、見習いとして先輩のわざを見ながら長い時間をかけて身につけていく世界と、日本のものづくりについての読み物だと新しい言葉から推測されます。文型は、値段や年から予想したことと実際とのずれを評価する「〜わりに(は)」 、入学・開店のような節目の大切なことを始めるときを言う「〜にあたり/にあたって(は)」 、例を一つ挙げて範囲を広げる「〜に限らず」 、だれにも負けない得意な分野を言う「〜にかけては」 。後ろの3つは名詞に付くことが多く、書き言葉に寄った形なので、話し言葉の「とき」「だけでなく」「については」と並べて、どんな場面で使うと自然かを見せるのが芯になります。「〜わりに」は第15課の「〜だけに」、「〜にあたって」は第14課の「〜上で」、「〜に限らず」は第15課の「〜をはじめ」と比べて違いを確かめます。
このページについて 教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目 4時間 90分×2コマ語彙 47語
このページの内容
この課のねらい(Can-do)
進め方と時間配分
学習項目 1 〜わりに(は)
学習項目 2 〜にあたり/にあたって(は)
学習項目 3 〜に限らず
学習項目 4 〜にかけては
語彙の扱い
本文の扱い
宿題と次のコマ
よくある質問
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課のねらい(Can-do)
「〜わりに(は)」で、値段・年・時間などから予想したことと実際とのずれを、プラスにもマイナスにも評価して言える
「〜にあたり/にあたって(は)」で、入学・就職・帰国などの節目に準備すること・お願いを、改まった場面にふさわしい文体で言える
「〜に限らず」で、ある例だけでなく範囲が広いことを説明でき、範囲をしぼる「〜に限り/〜に限って」と区別できる
「〜にかけては」で、人や自分の得意な分野を、プラスの評価として紹介できる
本文を読んで、技術を身につける方法について、自分の経験(アルバイト・部活・習い事)と比べて話せる
進め方と時間配分 目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
段 時間 やること
新しい言葉 20分 47語と多いので、読みと短い意味の確認は手早く。料理の語(だし・加減・舌触り・口当たり・取り合わせ・まな板・包丁・刃先)と職人の語(見習い・職人・大工・染物・わざ・こつ・削る)は、絵や写真でまとめて見せる。「固い/頭が固い」「削る/削り上げる」は組で板書の端に残す。「〜割には」「〜にあたって」「〜に限らず」「〜にかけては」は学習項目で扱うので、ここでは意味だけ確かめる
いっしょに考えましょう 10分 「何か技術を身につけたことはある? どうやっておぼえた?」を1人1つ(料理・楽器・スポーツ・アルバイトの仕事)。「見ておぼえた」「教えてもらった」「自分で何度も練習した」に分けて黒板に残すと、本文の大意と「〜にかけては」の導入 に使える
読みましょう(大意) 20分 教師の範読→段落ごとの音読→「どんな職人の話か・わざをどうやっておぼえるか・筆者はそれをどう見ているか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目に回してよい
答えましょう 15分 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の考えを問う設問は、題の「おぼえる」と結びつけて口頭で短く答えさせる
使いましょう(学習項目1・2) 25分 1コマ目の後半。「〜わりに(は)」(12分)は値札と実物の写真で予想と実際のずれを見せ、後ろに命令を置かないことを確かめる。「〜にあたって」(13分)は式のあいさつと案内文から入り、「とき」と言い換えて合う・合わない場面を比べる
使いましょう(学習項目3・4) 40分 2コマ目の前半。1コマ目の2項目を口頭で復習(5分)→「〜に限らず」(15分)は小さい円と大きい円の板書で範囲の広がりを見せ、「〜に限り/〜に限って」を並べる→「〜にかけては」(15分)は学習者の得意なことの紹介から入り、「〜にかけて」(範囲)と区別する→4つを混ぜて選ぶ練習(5分)
読みましょう(精読) 15分 本文で4つの文型が出るところに印を付けさせ、その文が何と何を比べているか、だれをほめているかを言わせる。職人の教え方について筆者がどう考えているかを、段落ごとに一言でまとめる
まとめましょう・話しましょう 25分 「わたしの得意なこと」を3〜4文で(〜にかけては・〜わりに(は)・〜に限らず から2つ以上)。話しましょうはペアで「技術を身につけるには、見ておぼえるのと教えてもらうのとどちらがいいか」
漢字を練習しましょう 10分 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する
学習項目 1 〜わりに(は)
意味・はたらき学習項目 1
「AわりにB」の形で、Aという程度や条件から予想されることと、実際のBが合わないことを言う。Aには値段・年・量・時間・努力のように「どのくらいか」を考えられることが来て、Bにはそれと比べた話し手の評価が来る。評価はプラス(安いわりにおいしい)にもマイナス(高いわりにおいしくない)にもなる。「は」を付けると、予想とのずれがやや強く出る。「のに」ほど不満や残念な気持ちは強くなく、比べて評価する言い方。文法の見方では、逆接に近い従属節の一つ。なお、単独の「わりに(わりと)」は「わりに安い(思ったより)」のような副詞としても使われるが、この項目とは別に扱う。
接続 動詞・い形容詞の普通形+わりに(は)/な形容詞の語幹+な+わりに(は)/名詞+の+わりに(は)。過去の話なら前を過去形にしてよい(勉強しなかったわりには)
形
V普通形+わりに(は)(毎日練習しているわりには、なかなか上手にならない) イA普通形+わりに(は)(値段が安いわりには、量が多い) ナA語幹+な+わりに(は)(便利なわりには、使っている人が少ない) N+の+わりに(は)(年のわりには、体力がある)
導入
値札と実物の写真で「予想」と「実際」を見せる 300円の弁当の値札だけを見せて「どのくらいの大きさだと思いますか」と聞き、学習者に予想させる。そのあと大盛りの弁当の写真を見せ、「安いわりには、量が多いですね」と言う。板書では「300円→小さいはず(予想)」の矢印を途中で曲げて「実際=大きい」に向け、「わりに」はこの曲がった矢印だと示す。次に高い服の写真で「高いわりには、すぐ破れた」を出し、マイナスの評価にも使えることを見せる。
「いっしょに考えましょう」の答えとつなぐ 学習者が挙げた技術の話から、「3か月しか練習していないのに上手」のような例を拾い、教師が「3か月しか練習していないわりには、とても上手ですね」と言い直す。前に来るのが「どのくらいか」を言える語(期間・値段・年)であることを、語に下線を引いて確かめる。
板書案
普通形 + わりに(は)、〜(予想と違う評価)
ナA語幹+な/N+の + わりに(は)
この店は、安いわりには、量が多い。
〔赤〕前=どのくらいか(値段・年・時間) 〔青〕後ろ=予想と違う評価 予想→実際 の曲がった矢印
〔誤りの例〕*安いわりには、たくさん買いましょう → 安いから
場面と発話(自作)
友だちが中古の自転車を安く買った。乗せてもらった留学生が感想を言う。 3千円だったわりには、よく走るね。
漢字テストの結果が返ってきた。授業のあと、友だちに話す。 毎日復習したわりには、点があまりよくなかったんだ。
入社2か月の外国人社員について、先輩が上司に様子を伝える。 経験が少ないわりには、電話の応対が落ち着いていますね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が条件のカード(値段・年・練習した時間・駅からの距離)と結果の写真を出し、学習者が「〜わりに(は)、〜」で評価を言う。名詞に「の」、な形容詞に「な」が付いているか、後ろが評価になっているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が写真と値札・数字を同時に見せる(1000円のケーキ→小さい/100円のペン→書きやすい/駅から歩いて3分の部屋→家賃が安い/80歳の人→毎日泳ぐ)。全体で「1000円のわりには、小さい」と言い、次に結果を伏せて学習者が自分で後ろを作る。名詞のキュー(年・値段・身長)を混ぜて「の」を確かめる。個人指名で3〜4人。
ペア Aは店の情報カード(値段・待ち時間・場所)、Bは食べた感想カード(量・味・店員の態度)を持つ(情報差)。Aが「あの店、どうだった?」と聞き、Bは自分のカードとAのカードを見比べて「待ち時間が短いわりには、ていねいだったよ」のように答える。4枚ごとに役を交替する。
産出 「予想はずれ報告」: 日本に来る前に予想していたことと実際に違ったことを1つ選び、「〜わりに(は)」を使って30秒で話す(物価・天気・食べ物・人の様子など)。聞き手は「たとえば?」と一つ聞く。教師は、前が程度を言える語になっているか、後ろが予想と反対の評価になっているか、後ろに命令や誘いを入れていないかを聞き取り、終わってから全体で2、3例を直す。
つまずきと手当て
後ろに命令・誘い・自分の意志を置く(*安いわりには、たくさん買いましょう)。後ろは評価や様子を言う文だと板書の色で固定し、これからすることを言いたいときは「から」「ので」に言い換えさせる
名詞に「の」を付けない(*年わりには、若く見える)。「年のわりに」「値段のわりに」をひとかたまりで言わせ、な形容詞は「便利なわりに」と「な」が入ることを並べて見せる
予想と同じ方向の結果に使ってしまう(安いわりには、量が少ない)。文法の形は正しいが、安ければ少ないのは予想どおりなので意味が通らない。「予想は?」「実際は?」と二つに分けて聞き、反対になっているときだけ使うことを確かめる
既習の文型との違い
〜のに(初級) 「のに」は、予想と違う結果に対する不満や残念な気持ちが強く出る(たくさん勉強したのに、落ちた)。「わりに」は、程度から見て予想と合わないことを比べて評価する言い方で、気持ちは「のに」ほど強くない。また「約束したのに来なかった」のように程度を考えられない前の文には「のに」しか使えないので、前が「どのくらいか」を言える語かを確かめさせる。
〜にしては(似た言い方) 「にしては」は「Nという立場や基準から考えると」で、前に身分や一つの事実を置くことが多い(小学生にしては字が上手だ)。「わりに」は値段・年・時間のように程度の差がある語を置くことが多い。どちらも後ろにプラスにもマイナスにも評価が来るので、学習者が混ぜたときは、前の語が「立場」か「程度」かを聞いて考えさせる。
〜だけに(第15課) 「だけに」は、前のことから予想されるとおりの結果を言う(高いだけに、品質がいい。予想と逆に気持ちが強く動く「楽しみにしていただけに、がっかりした」の使い方は別)。「わりに」は予想と反対の結果を言う(高いわりには、品質がよくない)。同じ前の文に、予想どおりなら「だけに」、反対なら「わりに」を付けて言い比べると違いがつかみやすい。
関連する文型
学習項目 2 〜にあたり/にあたって(は)
意味・はたらき学習項目 2
「Nにあたって/Vるにあたって」の形で、入学・就職・開店・引っ越し・発表のような、生活や仕事の節目になる大切なことを始めるとき・するときに、という意味を表す。後ろには、そのために準備すること、気をつけること、お願いやあいさつが来ることが多い。「〜にあたり」はさらに改まった言い方で、式のあいさつ・案内文・会社の文書によく出る。「は」を付けた「〜にあたっては」は「その場合には」と場面を取り立て、注意やお願いが続くことが多い。食事や買い物のような日常の小さなことには使わない。文法の見方では、時を表す改まった後置詞(複合的な助詞)の一つで、「〜とき」「〜際(に)」の仲間。
接続 名詞+にあたり/にあたって(は)/動詞の辞書形+にあたり/にあたって(は)。名詞は「入学・開店・出発・申し込み」のような動作を表す語が多い。前に過去形やて形は来ない。名詞を修飾するときは「〜にあたっての+N」
形
N+にあたって(新しい店の開店にあたって、近所の家にあいさつに回った) V辞書形+にあたって(日本で働くにあたって、在留カードの手続きを確かめた) N/V辞書形+にあたり(改まった書き言葉:入学にあたり、次の書類を出してください) 〜にあたっては(申し込みにあたっては、次の点に注意してください) 〜にあたっての+N(留学にあたっての準備)
導入
式のあいさつと案内文の2枚で場面をつかむ 入学式の写真と、自作の「ボランティア募集」の案内文を見せる。案内文の中の「参加にあたっては、〜」に線を引き、教師が式のあいさつの調子で「新しい生活を始めるにあたって、皆さんにお願いがあります」と言う。どちらにも共通する点を学習者に聞き、「大切な始まり」「改まった場」の2つを黒板に書く。
「とき」と言い換えて、合う・合わないを比べる 「引っ越すとき、荷物を減らした」「ご飯を食べるとき、手を洗った」の2文を「〜にあたって」に言い換えさせる。前の文は自然だが、後ろの文はおおげさで笑ってしまう、という反応を引き出し、「にあたって」は人生や仕事の節目に使う言い方だと確かめる。最後に「引っ越したにあたって」とは言わないことを、時間の線の「始める前」の位置で見せる。
板書案
N/V辞書形 + にあたって(は)、〜(大切なことを始めるとき)
にあたり = もっと改まった言い方(式・案内文)
日本で働くにあたって、ビザの条件を確かめた。
〔赤〕前=節目のこと(入学・開店・就職) 〔青〕後ろ=準備・注意・お願い・あいさつ
〔誤りの例〕*引っ越したにあたって → 引っ越すにあたって
場面と発話(自作)
留学生寮の入寮説明会で、寮長が新しく入る学生に話す。 ここでの生活を始めるにあたって、守ってほしいルールが三つあります。
会社で外国人の新入社員を迎える準備をしている。人事の担当者が部長に報告する。 受け入れにあたり、日本語と英語の両方で書類を用意しました。
日本語学校の卒業式で、卒業生の代表がスピーチを始める。 卒業にあたって、先生方と仲間に一言お礼を申し上げます。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が節目の語カード(入学・就職・帰国・開店・引っ越し)を出し、学習者が「〜にあたって、〜」で準備することを1つ言う。動詞が辞書形か、文体がそろっているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が節目の名詞カード(入学・就職・帰国・開店・結婚)を出し、全体で「入学にあたって」と言ってから、学習者が準備を1つ続ける(入学にあたって、パソコンを買った)。次に動詞カード(日本で働く・部屋を借りる・大学院を受ける)に替え、「働くにあたって」と辞書形で言わせる。最後に同じ文を「〜にあたり」に言い換え、少し硬くなることを耳で確かめる。個人指名で3〜4人。
ペア 先輩と後輩の役。後輩は節目のカード(日本で就職する・一人暮らしを始める・アルバイトを始める)を引き、「〜にあたって、何を準備したらいいですか」と聞く。先輩は「〜にあたっては、〜ておいたほうがいいよ」と二つ答える。後輩はそのうち一つについてもう一度質問する。役を交替する。
産出 「ひとことスピーチ」: 卒業・入社・帰国・送別会の幹事などの場面を1つ選び、「〜にあたり/にあたって、〜」で始まる1分のあいさつを書いてクラスの前で読む。教師は、前が節目と言えることか、動詞が辞書形か、全体の文体が「です・ます」や「申し上げます」にそろっていて、途中で話し言葉に戻っていないかを見て直す。
つまずきと手当て
前を過去形やて形にする(*引っ越したにあたって/*始めてにあたって)。始める前の準備を言う形なので、辞書形か名詞で固定し、時間の線で「これから始める」位置を指して言わせる
日常の小さなことに使う(朝ご飯を食べるにあたって、手を洗う)。文法の形は正しいが、おおげさで不自然に聞こえる。ふだんのことは「〜とき」でよいと伝え、節目と言えるかどうかを学習者に判断させる
「〜にあたる」の別の意味と混ぜる。「1フィートは約30センチにあたる(相当する)」「今週は掃除の当番にあたっている」のような形に出会ったとき、「〜にあたって」(時を表す)と同じだと思い込みやすい。後ろに文が続いて「そのときに〜する」の意味になっているかで見分けさせる
既習の文型との違い
〜上で(〜するにあたって)(第14課) 第14課の「V上で」は「〜するときに・〜するためには」で、後ろに「大切だ・必要だ」のような評価が来ることが多く、「日本語を学ぶ上で大切なこと」のように、ふだん続けていることにも使える。「〜にあたって」は一回の節目に限られ、改まった場面の言い方。第14課の見出しで言い換えに添えられているように意味は近いが、「毎日料理をする上で気をつけていること」を「にあたって」にすると重く聞こえる。
〜とき/〜際(に)(初級・似た言い方) 「とき」はどんなことにも使え、前に過去形も来る(日本に来たとき)。「際(に)」は「とき」の改まった言い方で、「お帰りの際は」のように一回の場面を言う。「にあたって」は、そのことを始める前に準備や心構えをするという気持ちが入る点が違う。
関連する文型
学習項目 3 〜に限らず
意味・はたらき学習項目 3
「Nに限らず」の形で、Nだけではなく、ほかのものも同じだ、と範囲を広げて言う。Nには、その話題ですぐに思い浮かぶ代表的なものが来て、後ろには「〜も」「だれでも」「どこでも」「みんな」のように範囲が広いことを示す語が来ることが多い。「Nだけの話ではない」といったん打ち消してから広げる言い方なので、「〜だけでなく」より書き言葉に寄り、説明文・案内文・ニュースによく出る。反対に範囲を一つにしぼるのが「Nに限り(Nだけ)」「Nに限って(ほかはともかくNの場合は特に)」で、形が似ているので並べて区別させたい。文法の見方では、取り立て助詞 の「だけ」「も」に近いはたらきをする複合的な形。
接続 名詞+に限らず。名詞の後ろに「だけ」は付けなくてよい(「〜だけに限らず」も見る)。後ろの文には「〜も」「だれでも」などを入れることが多い。動詞・形容詞には直接付けない
形
N+に限らず、Nも(日本に限らず、アジアの多くの国でも米をよく食べる) N+に限らず、だれでも/どこでも(学生に限らず、だれでも参加できます) N+に限らず、〜全体(すしに限らず、和食全体の店が海外で増えている)
導入
小さい円と大きい円の板書で範囲を広げる 黒板に小さい円を描いて「留学生」と書き、「この日本語の説明会は留学生だけですか」と聞く。次に外側に大きな円を描いて「この町に住む人みんな」と書き、「留学生に限らず、だれでも参加できます」と言う。小さい円から大きい円へ矢印を引き、「に限らず」は円を広げる言い方だと見せる。
本文の話題とつなぐ 新しい言葉に、すし職人・大工・染物といった職人の語が並んでいるので、「わざを見ておぼえるのは、すし職人だけですか」と聞く。学習者に「すし職人に限らず、大工や染物の職人も〜」の形で答えさせ、後ろの「も」に丸を付ける。本文の中身は断定せず、ほかの仕事にも言えそうかを考えさせればよい。
板書案
N + に限らず、〜も(Nだけでなく、ほかも)
学生に限らず、だれでも参加できます。
〔赤〕小さい円=N(すぐ思い浮かぶ例) 〔青〕大きい円=後ろの「〜も・だれでも」
〔区別〕今月に限り半額(=今月だけ) → 範囲をせまくする
〔誤りの例〕*おいしいに限らず、安い → おいしいだけでなく
場面と発話(自作)
市の国際交流センターの日本語教室の案内を見て、留学生が寮の友だちに教える。 学生に限らず、市内に住んでいる人ならだれでも無料で参加できるって。
会社の朝礼で、課長が新しく入った人たちを前に話す。 新人に限らず、分からないことがあったら、すぐに周りに聞いてください。
留学生が授業で、自分の国の食事の習慣を発表する。 私の国では、お祭りの日に限らず、ふだんの日も家族みんなで夕ご飯を食べます。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「〜だけ?」と聞く質問カード(この割引は学生だけ?/地震が多いのは日本だけ?/スマホを使うのは若者だけ?)を出し、学習者が「〜に限らず、〜も」で答える。後ろに範囲を広げる語が入っているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が「〜だけ?」の質問カードを出す(この割引は学生だけ?/満員電車は東京だけ?/アニメが好きなのは子どもだけ?/雨が多いのは梅雨だけ?)。全体で「学生に限らず、だれでも割引があります」と答え、次に学習者が後ろを自分で作る。「〜も」「だれでも」「どこでも」のどれを使ったかを毎回言わせる。個人指名で3〜4人。
ペア 「案内係ロールプレイ 」: Aは市の施設の案内係で、利用の情報カード(対象・曜日・料金)を持つ。Bは利用したい人で、「留学生だけですか」「週末だけですか」と質問する。Aはカードを見て「〜に限らず、〜も」で答え、範囲がしぼられているときは「今月に限り、無料です」のように答える。役を交替し、「に限らず」と「に限り」の両方を使わせる。
産出 「わたしの国と日本の共通点」: 日本の習慣や物で、日本に限らず自分の国にもあるものを3つ選び、「〜に限らず、〜でも〜」で書いて発表する。聞き手は「ほかの国はどうですか」と一つ聞く。教師は、前が名詞になっているか、後ろに範囲を広げる語があるか、「に限り」と混ざっていないかを見て直す。
つまずきと手当て
動詞や形容詞に直接付ける(*おいしいに限らず、安い)。「に限らず」の前は名詞だと板書で固定し、動詞・形容詞なら「〜だけでなく」を使うと言い換えさせる
後ろに範囲を広げる語がなく、何と同じなのかがぼやける(学生に限らず、参加できます)。文法の誤りではないが、「だれでも」「社会人も」を入れると意味がはっきりするので、後ろの文に「も」があるかを毎回確かめる
範囲をしぼる「〜に限り」「〜に限って」と混ぜる。案内の張り紙「本日に限り半額」と「学生に限らず割引」を並べて読ませ、「だけ」か「だけでない」かを学習者に答えさせる
既習の文型との違い
〜だけでなく(初級) 「だけでなく」は名詞にも動詞・形容詞にも付き(安いだけでなく、おいしい)、会話でもよく使う。「に限らず」は名詞にだけ付き、「Nだけの話ではない」と範囲を広げる書き言葉に寄った言い方。友だちとの会話で「学生に限らず」と言うと少し硬く聞こえる、と添える。
〜をはじめ(第15課) 第15課の「Nをはじめ」は、Nを代表の一つとして挙げ、後ろに「など多くの〜」が来る(すしをはじめ、和食が人気だ)。「に限らず」は「Nだけではない」と打ち消して範囲を広げる言い方で、N以外にも当てはまることに重心がある。学習者が混ぜたときは、後ろが「Nなど」と例を並べたいのか、「Nだけではない」と言いたいのかを聞いて選ばせる。
関連する文型
学習項目 4 〜にかけては
意味・はたらき学習項目 4
「Nにかけては」の形で、そのことについてはだれにも負けないほど優れている・自信がある、と言う。後ろには「だれにも負けない」「自信がある」「右に出る者はいない」「〜が一番だ」のようなプラスの評価が来る。人の能力や技術、会社や店の得意なことについて言うことが多く、話し手が人をほめるときにも、自分の得意なことを言うときにも使う。動詞のときは「Vることにかけては」と「こと」を入れる。形の似た「〜から〜にかけて」(範囲を言う:夜から朝にかけて雨が降る)とは別の形。文法の見方では、話題を取り立てる「は」を含む言い方で、評価がプラスに限られる「〜については」と考えると分かりやすい。
接続 名詞+にかけては/動詞の辞書形+ことにかけては。後ろの文はプラスの評価
形
N+にかけては、だれにも負けない(仕事の速さにかけては、だれにも負けない) Vること+にかけては(人の名前を覚えることにかけては、自信がある) N+にかけては、〜が一番だ(自転車の修理にかけては、駅前のあの店が一番だ)
導入
クラスの「得意なこと名人」を紹介する 「いっしょに考えましょう」で出た学習者の得意なこと(料理・歌・早起き・ゲーム)を拾い、教師が表彰状のような紙を掲げて「○○さんは、料理の速さにかけては、クラスで一番です」と紹介する。後ろが必ずほめる言葉になっていることに色を付け、「下手だ」「苦手だ」は来ないことを確かめる。
職人の語で言わせる 新しい言葉の「わざ」「研ぎ」「削り上げる」「引けを取る」を使い、絵の職人について「この職人は、包丁の研ぎにかけては、だれにも引けを取らない」と言わせる。本文の内容は断定せず、語から想像できる職人の得意なことを学習者に挙げさせる。
板書案
N/Vること + にかけては、〜(だれにも負けない)
仕事の速さにかけては、だれにも負けない。
〔赤〕前=分野・能力 〔青〕後ろ=プラスの評価(一番・自信がある)
〔区別〕夜から朝にかけて(範囲)は別の形
〔誤りの例〕*料理にかけては、下手だ → 料理は苦手だ
場面と発話(自作)
サッカー部の先輩が、入ったばかりの新入生にチームの仲間を紹介する。 山田は足の速さにかけては、学校で一番だよ。
留学生が工場の就職面接で、自分の強みを聞かれた。 細かい作業を正確に続けることにかけては、自信があります。
町の小さな会社をテレビが取材している。社長が自分の会社について話す。 小さな部品を削ることにかけては、大きな会社にも負けません。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が人物と得意な分野の絵(料理人・運転手・図書館の人・大工)を出し、学習者が「〜にかけては、〜」で紹介する。動詞のときに「こと」が入っているか、後ろがプラスの評価かを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が人物と分野の絵カードを出す(すし職人と魚の切り方/タクシーの運転手と道/図書館の人と本の場所/大工と木の削り方)。全体で「すし職人は、魚の切り方にかけては、だれにも負けない」と言う。次に動詞のキュー(早く走る・人の顔を覚える・時間を守る)に替え、「早く走ることにかけては」と「こと」を入れて言わせる。個人指名で3〜4人。
ペア 「推薦インタビュー」: Aはアルバイトの店長、Bは友だちをアルバイトに推薦する人。Bは友だちの情報カード(得意なこと・経験)を持ち、Aが「その人はどんなことが得意ですか」と聞くと、Bが「〜にかけては〜」で推薦する。Aは「たとえば?」と一つ聞き、Bが例を答える。役を交替する。
産出 「30秒の自己PR」: アルバイトや就職の面接を想定し、自分の得意なことを「〜にかけては」を使って言い、それを示す経験を1つ添える。教師は、後ろがプラスの評価になっているか、動詞に「こと」が入っているか、面接にふさわしく「自信があります」のような穏やかな言い方になっているかを見て直す。
つまずきと手当て
後ろにマイナスの評価を置く(*料理にかけては、下手だ)。「にかけては」はほめる言い方だと板書の色で固定し、苦手なことは「〜は苦手だ」と普通に言えばよいと伝える
動詞に直接付ける(*覚えるにかけては、自信がある)。「覚えることにかけては」と「こと」を入れて名詞にすることを、名詞のキューと動詞のキューを交互に出して練習させる
「〜から〜にかけて」(範囲)と混ぜる。天気予報の「今夜から明日の朝にかけて雨」と並べて、後ろに「は」があり評価が続くのがこの項目、時間や場所の範囲を言うのが「にかけて」と見分けさせる
既習の文型との違い
〜については(初級) 「については」は話題を示すだけで、後ろの評価は何でもよい(料理については、あまり知らない)。「にかけては」は後ろが「すぐれている」というプラスの評価に限られる。同じ「料理」に、後ろを「よく知らない」と「だれにも負けない」に変えて付け、どちらが言えるかを学習者に判断させる。
〜にとって(第8課) 第8課の「にとって」は「Nの立場から見ると」で、Nには人や組織が来る(私にとって大切な本)。「にかけては」は「Nという分野では」で、Nには能力や技術が来る。ほめたい人は主語にして「彼は料理にかけては〜」と言い、「彼にかけては」とは言わないことを確かめる。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 47 語(本文を読むための語 47・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で47語と多い。読みと意味の確認は1語ずつ時間をかけず、料理の語(だし・加減・舌触り・口当たり・取り合わせ・まな板・包丁・刃先)と職人の語(見習い・職人・大工・染物・わざ・こつ・削る)は、絵や実物でまとめて見せる。「固い/頭が固い」「削る/削り上げる」は元の語と広がった語の組にし、「〜上げる」が「仕上げる」の意味を足すことを添える。「頭が固い」「胸を張る」「引けを取る」「見どころがある」「ものになる」「工夫をこらす」は決まった言い方としてまとめて覚えさせる。「なめる」の「相手を軽く見る」の意味は、本文の文脈で確かめるにとどめる。「〜割には」「〜にあたって」「〜に限らず」「〜にかけては」は学習項目で扱う。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
第20課の語彙リスト(47語) 新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い 本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(ものづくり・職人・見習い・わざ・こつ・握る・包丁・研ぎ・削り上げる・大工・染物・衛生・素手・義務・頭が固い・意地悪・仕方がない・胸を張る・引けを取る・お家芸)から、すしや大工、染物のような職人の世界で、見習いが先輩のわざを長い時間をかけておぼえていくこと、昔ながらの教え方や今の衛生の決まりのような事情、日本のものづくりへの思い、という話題の読み物だと推測される。精読では「職人のわざはどうやっておぼえるものだと書かれているか」「見習いの期間や教え方について、どんな見方が出てくるか」「筆者は昔のやり方と今のやり方をどう考えているか」「題の『おぼえる』は、ふつうの暗記とどこが違うか」の4点を段落ごとに聞く。「〜割には」「〜にあたって」「〜に限らず」「〜にかけては」が出るところで一度止め、その文が何と何を比べているか、だれをほめているかを学習者に言わせる。厳しい教え方については、学習者の国の習い事や部活の経験も出してもらい、よい・悪いを一つに決めずに話し合う。
宿題と次のコマ 1コマ目のあとは、使いましょう(学習項目1・2)の練習の残りと、「〜にあたって」を使ったひとことスピーチの原稿。2コマ目のあとは、学習項目3・4の練習の残りと漢字 A の書き取り。まとめましょうの「わたしの得意なこと」を4文(〜にかけては・〜わりに(は)・〜に限らず から2つ以上)で書いてくる。次のコマは話しましょうの続きと、次の課の新しい言葉。
よくある質問
第20課「おぼえる」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2、2コマ目で学習項目3・4と精読・まとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が47語と多いので、語彙の確認を宿題にしたり、本文の精読を3コマ目に回したりしてもかまいません。
「〜わりに」と「〜にしては」はどう違いますか?
どちらも予想と違う結果を言い、後ろにプラスにもマイナスにも評価が来ます。「わりに」は値段・年・時間のように程度の差がある語を前に置くことが多く、「にしては」は「小学生にしては」のように一つの立場や基準を前に置くことが多い、という傾向で教えると分かりやすいです。どちらでも言える文も多いので、学習者には「わりに」の形を先にしっかり使えるようにさせます。
「〜にあたって」と「〜上で」の違いは何ですか?
第14課の「〜上で」は「〜するときに・〜するためには」で、「日本語を学ぶ上で大切なこと」のように、ふだん続けていることにも使えます。「〜にあたって」は入学・就職・開店のような一回の節目に使い、改まった場面の言い方です。同じ「留学する」で両方を作り、後ろの文が評価(大切だ)か準備・あいさつかを比べると違いが見えます。
「〜に限らず」と「〜に限り」「〜に限って」が混ざります。どう見分けさせればいいですか?
「に限らず」は範囲を広げ(Nだけではない)、「に限り」「に限って」は範囲をしぼる(Nだけ)と、円の大きさで見せるのが分かりやすいです。案内の張り紙のような文を並べ、「だけ」か「だけでない」かを答えさせる練習を入れます。「に限らず」の後ろには「も」「だれでも」が来ることが多いのも手がかりになります。
「〜にかけては」と「〜にかけて」はどう区別させますか?
「にかけては」は得意な分野を言い、後ろにプラスの評価が続きます。「〜から〜にかけて」は時間や場所の範囲を言う形で、天気予報や地図の説明によく出ます。「は」が付いて後ろにほめる言葉があるかどうかを見分ける手がかりにし、天気予報の文と自己紹介の文を並べて読ませると混ざりにくくなります。
この課に関係する用語・解説・練習問題 この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。