中級から学ぶ日本語 第8課「おもいこむ」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈男の色・女の色〉
思い込み・当たり前だと思っていることを見直すのがテーマの課です。本文は、男の子と女の子の色や持ち物の区別が、いつの間にか身について当たり前になっていたことに気づいていく、という話題の読み物だと新しい言葉から推測されます。文型は、方法がなくてできないことを言う「〜ようがない」、立場から評価する「〜にとって」、昔よくしたことをなつかしむ「〜たものだ」、してみた結果を報告する「〜たところ」、そしてほかの人に無理にさせられたことを言う「使役受身(〜させられる)」。使役受身はグループごとの作り方と短い形(飲まされる)を表で整理するのが芯で、「〜たものだ」は第6課の「〜ものだ」、「〜たところ」は第2課の「〜と、〜た」と並べて違いを見せます。
このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目5時間90分×2コマ語彙44語
この課のねらい(Can-do)
- 「〜ようがない」で、したくても方法や手がかりがなくてできないことを、事情と一緒に説明できる
- 「〜にとって」で、同じものごとが立場によってどう評価されるかを言い、「〜に対して」「〜として」と言い分けられる
- 「〜たものだ」で、子どものころや昔よくしていたことを、なつかしい気持ちを込めて話せる
- 「〜たところ」で、何かをしてみた結果わかったことを、報告やメールの改まった言い方で伝えられる
- 使役受身(〜させられる)をグループごとに正しく作り、いやだったのにさせられたことや、心を動かされたこと(考えさせられる)を話せる
- 本文を読んで、自分が当たり前だと思い込んでいたことを一つ挙げ、どうして気づいたかを話せる
進め方と時間配分
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 新しい言葉 | 20分 | 44語と多いので、読みと短い意味の確認は手早く。「顔をそろえる」「首を長くする」は体の部位を使った決まった言い方としてまとめ、「身につく/身につける」「決まる/決める」は自動詞と他動詞の組で板書の端に残す。「〜ようがない」「〜にとって」「〜たところ」「くせに」は学習項目と語彙の両方に出るので、ここでは意味だけ確かめて使い方は学習項目に回す |
| いっしょに考えましょう | 10分 | 「男の子の色・女の子の色と聞いて思い浮かぶ色は?」「あなたの国でも同じ?」を1人1つ。答えの違いを黒板に残すと、本文の大意と「〜にとって」の導入に使える |
| 読みましょう(大意) | 20分 | 教師の範読→段落ごとの音読→「何が区別されていたか・いつ気づいたか・筆者は今どう考えているか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めか宿題に回してよい |
| 答えましょう | 15分 | 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の考えを問う設問は、「当たり前」「思い込む」「知らず知らずのうちに」を手がかりに口頭で短く答えさせる |
| 使いましょう(学習項目1・2) | 25分 | 1コマ目の後半。「〜ようがない」→「〜にとって」。それぞれ導入→口頭→ペアまで。産出の活動は2コマ目の初めに回してもよい |
| 使いましょう(学習項目3・4) | 30分 | 2コマ目の前半。「〜たものだ」(15分)は第6課の「〜ものだ」の板書を思い出させてから入る。「〜たところ」(15分)は第2課の「〜と、〜た」と並べ、報告文の形で練習する |
| 使いましょう(学習項目5) | 30分 | 使役受身。使役と受身の復習(5分)→グループごとの作り方の表(10分)→短い形の口頭練習(5分)→ペアと産出(10分)。「考えさせられる」のような気持ちの使役受身は最後に1〜2例だけ |
| まとめましょう・話しましょう | 20分 | 「当たり前だと思い込んでいたこと」を3〜4文で(〜にとって・〜たものだ・使役受身から1つ以上)。話しましょうはペアで「子どものころ、させられていやだったこと・今はどう思うか」 |
| 漢字を練習しましょう | 10分 | 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する |
学習項目 1 〜ようがない
意味・はたらき学習項目 1
「したい・しなければならない」と思っても、そのための方法・手段・手がかりがなくて、どうやってもできないことを言う。「よう」は「方法・やり方」の意味で、「〜ようがない」は「やり方がない」がもとの形。能力が足りないのではなく、状況や情報がそろっていないためにできない、という言い方になることが多い(電話番号を知らないから連絡しようがない)。気持ちについて「何とも言いようがない」「残念としか言いようがない」と言うと、ぴったりの言葉が見つからないほどだ、という意味になる。可能の否定(〜られない)を、方法の面から強めた言い方と見ることができる。
接続
動詞のます形(「ます」をとった形)+ようがない。「する」の動詞は「説明しようがない」のほかに「説明のしようがない」とも言う
形
Vます形+ようがない(住所が分からないので、送りようがない)Nのしようがない(情報が少なすぎて、判断のしようがない)〜としか言いようがない/何とも言いようがない(これはもう運が悪かったとしか言いようがない)
導入
- 「道具がない」状況の絵から入る鍵のかかった箱の絵と、鍵が見つからない様子を見せて「開けられますか」と聞く。「開けたいけど、鍵がないから開けようがない」と言い、「開けられない」と比べて「方法がない」ことを強く言う形だと確かめる。「開け(ます)+ようがない」と、ます形から作ることを板書で示す。
- 「する」動詞で「しよう」と意向形を分ける「連絡しようがない」の「しよう」は、「さあ、しよう」の意向形と同じ音だが、ます形の「し」+「よう(やり方)」だと板書で分けて見せる。「説明のしようがない」の形も並べ、名詞が入ると「の」が要ることを確かめる。
板書案
Vます + ようがない(=方法がない・どうやってもできない)
番号を知らないから、連絡しようがない。
〔赤〕連絡し(ます)+ようがない 〔青〕連絡のしようがない
〔注意〕しよう(意向形)とは別。「よう」=やり方
〔誤りの例〕*連絡するようがない → 連絡しようがない
場面と発話(自作)
- 財布を落とした友だちと交番に行った。どこで落としたか全然覚えていないと言われ、警察の人が困って言う。場所も時間もわからないと、探しようがないんですよ。
- 会社で、取引先から届いた注文書の数字がにじんで読めない。同僚に相談する。ここの数字がにじんでいて、確かめようがないんです。先方に電話してみます。
- 台風で電車もバスも止まり、学校に来られなかった。翌日、先生に欠席の理由を説明する。電車もバスも止まっていて、来ようがなかったんです。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「困った状況カード」(地図がない・番号を知らない・言葉が通じない)を見せ、学習者が「〜から、〜ようがない」で言う。「する」動詞の「しようがない/のしようがない」を必ず入れてから教科書の練習へ。
- 口頭教師がキューを出す(「名前を知らない→聞く」「材料がない→作る」「答えが書いていない→確かめる」「パスワードを忘れた→ログインする」)。全体で「名前を知らないから、聞きようがない」と言い、次に個人指名で3〜4人。最後に「説明する」「連絡する」で「説明のしようがない」の形も言わせる。
- ペアAは困った状況だけが書かれたカード(「友だちの引っ越し先を知らない」)、Bは「できないこと」の動詞カード(手紙を送る)を持つ。Aが状況を読み、Bが「それじゃ、手紙の送りようがないね」と受ける。4枚ごとに役を交替する。
- 産出「お手上げ相談室」: 一人が「〜ようがなくて困っている」という自分の(または作った)悩みを話し、聞き手が「〜てみたら?」と方法を一つ提案する。教師は、ます形から作れているか、能力の問題(泳げない など)に使っていないかを聞き取り、終わってから全体で2、3例を直す。
つまずきと手当て
- 辞書形や可能形に付ける(*連絡するようがない/*読めようがない)。ます形から「ます」を取って付ける、と板書の枠で固定し、何度か口で言わせる
- 能力の問題に使う(泳げないことを言いたくて「私は泳ぎようがない」)。「ようがない」は方法や条件がないときの言い方なので、自分の力が足りないだけなら「泳げない」でよいと伝える。プールがなくて泳ぐ場所がない、のような状況なら使える
- 「しようがない」を意向形の「しよう」と混ぜて、「しようとしない」(する気がない)の意味だと思う。意味を聞き返し、「する気がない」ではなく「方法がない」だと確かめる。話し言葉の「しょうがない」(仕方がない)を聞いたことがある学習者には、形が近い別の決まった言い方だと補足する
既習の文型との違い
- 〜られない/〜できない(可能の否定・初級)「読めない」は、力が足りない場合にも状況のせいの場合にも使える一般的な言い方。「読みようがない」は、字がにじんでいる・文字が消えているなど、読む方法そのものがない場合に使い、どうにもならない気持ちが強い。学習者が自分の能力について「〜ようがない」と言ったら、「方法がないのか、自分の力の問題か」を聞き返す。
- 〜わけにはいかない(第17課)「行くわけにはいかない」は、行こうと思えば行けるが、社会的な理由や気持ちの上でできない、という意味。「行きようがない」は、交通手段がないなど、状況として方法がない。「明日は大事な会議だから休むわけにはいかない」と「電車が止まって行きようがない」を並べて比べるとよい。
関連する文型
学習項目 2 〜にとって
意味・はたらき学習項目 2
「Nの立場から見ると」「Nから考えると」という意味で、そのものごとの値打ちや重さを、ある人・ある集まりの立場から評価して言う。後ろには「大切だ」「難しい」「ありがたい」「問題だ」「宝物だ」のような評価・判断の言葉が来るのがふつうで、行動や相手への態度(優しくする・反対する)は来ない。同じものでも、立場が変わると評価が変わることを言うのに向いていて、この課の「思い込み」の話題とも結びつく(大人にとっては簡単なことでも、子どもにとっては難しい)。文法の用語では、名詞の後ろについて助詞のように働く「複合助詞(複合格助詞)」の一つとして扱われることが多い。
接続
名詞+にとって。名詞を説明するときは「Nにとっての N」(私にとっての幸せ)。ほかの人と比べるときは「Nにとっては」
形
Nにとって、〜は 評価の言葉(留学生にとって、アルバイトの時間は大切だ)Nにとっては〜が、Nにとっては〜(大人にとっては短い時間でも、子どもにとっては長い)Nにとっての N(私にとってのふるさとは、この町だ)
導入
- 一つのものを二つの立場から言わせるスマートフォンの絵を真ん中に置き、左に「学生」、右に「おばあさん」の絵を置く。「学生にとって、スマホは便利だ」「おばあさんにとっては、使い方が難しい」と言い、同じものでも立場で評価が変わることを見せる。「〜にとって」の後ろにある語(便利だ・難しい)に色をつけ、評価の言葉が来ることを確かめる。
- 「いっしょに考えましょう」の答えを使う学習者が挙げた「男の子の色・女の子の色」が国によって違ったことを取り上げ、「〇〇さんにとって、ピンクは女の子の色ですか」と一人ずつ聞く。答えを「私にとって、ピンクは〜」の形で言い直させると、本文の話題につながる。
板書案
N + にとって、〜は 評価(大切だ・難しい・便利だ)
学生にとって、スマホは便利だ。
おばあさんにとっては、使い方が難しい。
〔赤〕にとって=立場 〔青〕後ろ=評価の言葉
〔誤りの例〕*先生は学生にとって優しい → 学生に対して
場面と発話(自作)
- 就職の面接で、日本で働きたい理由を聞かれて答える。私にとって、日本の会社で働くことは子どものころからの目標でした。
- 会社で、新しい商品の説明書について会議をしている。年配の人も使う商品なので、社員が意見を言う。この字の大きさは、お年寄りにとっては読みにくいと思います。
- 寮で、国から来たばかりの後輩に、日本の冬について話す。暑い国から来た人にとって、東京の冬はかなり寒いよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「もの」と「立場」のカードを組み合わせて出し(自転車×学生、雪×子ども、雪×運転手)、学習者が「〜にとって、〜は〜だ」で評価を言う。後ろが評価の言葉になっているかを確かめてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が「もの」カードと「立場」カードを1枚ずつ見せる(「辞書×留学生」「休み×会社員」「雨×農家の人」「コンビニ×一人暮らしの人」)。全体で「留学生にとって、辞書はなくてはならないものだ」と言い、個人指名で3〜4人。次に同じ「もの」に別の立場を出し、「〜にとっては〜が、〜にとっては〜」と比べる形にする。
- ペアAは「もの」だけのカード、Bは「立場」だけのカードを伏せて持つ(情報差)。Aが「雪」とめくり、Bが「子ども」とめくって、二人で「子どもにとって、雪は〜」の文を作る。もう一枚「立場」をめくり、評価が変わるかを話す。役を交替する。
- 産出「立場ちがいインタビュー」: 一つのもの(制服・満員電車・お正月など)について、クラスの3人に「〜さんにとって、〜はどうですか」と聞き、答えを「〜さんにとっては〜だが、〜さんにとっては〜」の2文にまとめて発表する。教師は、後ろが評価の言葉か、「に対して」「として」と混ざっていないかを聞き取る。
つまずきと手当て
- 後ろに相手への態度や行動を置く(*先生は学生にとって優しい/*私は弟にとって怒った)。相手に向けた態度や行動は「〜に対して」で言う、と板書の対で手当てする
- 自分の意見や賛成・反対を言うのに使う(*私にとって、その計画に反対です)。意見を言うときは「私としては」「私は」でよいと伝え、「にとって」の後ろは評価(大切だ・難しい)だと確かめる
- なくても意味が変わらない文にまで付けて、文が重くなる(「私にとって、昨日のテストは難しかったです」をどの文にも使う)。間違いではないが、立場を比べるとき・その人ならではの評価を言うときに効く形だと、「〜にとっては」の比べる文で見せる
既習の文型との違い
- 〜に対して「〜に対して」は、相手に向けて何かをする・ある態度をとる(お客様に対して丁寧に話す)。「〜にとって」は、その人の立場から見た評価(お客様にとって分かりやすい説明)。学習者が「お客様にとって丁寧に話す」と言ったら、「相手に向けた行動か、相手から見た評価か」を聞き返す。
- 〜として(第9課)「〜として」は資格・立場・役割を言う(留学生としてこの大学に来た/親として心配だ)。「〜にとって」は、その立場から見た値打ちを言う(留学生にとって奨学金はありがたい)。「親として心配だ」と「親にとって子どもの成長はうれしい」を並べて比べるとよい。
関連する文型
学習項目 3 〜たものだ
意味・はたらき学習項目 3
昔、よくしていたこと・くり返していたことを思い出して、なつかしい気持ちを込めて言う。「子どものころ、よくこの川で泳いだものだ」のように、「よく」「毎日」「〜ころは」と一緒に使うことが多い。一回だけの出来事には使わず、ある期間のくり返しや習慣について言う。「昔はこのあたりも静かだったものだ」のように、昔の様子を今と比べてなつかしむときにも使う。文の終わりで話し手の気持ちを表す形(モダリティ)の一つで、第6課の「〜ものだ」と形は似ているが、過去の思い出を言う点が違う。
接続
動詞のた形+ものだ。い形容詞は「〜かったものだ」、な形容詞・名詞は「〜だったものだ」。話し言葉では「〜たもんだ」
形
よく/毎日 Vた+ものだ(学生のころは、毎晩友だちと朝まで話したものだ)〜ころは、Vた+ものだ(子どものころは、よく母に叱られたものだ)昔は〜かった/だった+ものだ(昔は、この駅の前も静かだったものだ)
導入
- 教師の子どものころの写真で教師が子どものころの写真(または絵)を見せ、「子どものころ、夏休みは毎日この海で泳ぎました」と言ったあと、遠くを見るような表情で「よく泳いだものだなあ」と言い直す。2つの文を並べ、後ろのほうには「なつかしい」気持ちがあることを顔のマークで示す。「よく」「毎日」に下線を引き、くり返しのときに使うことを確かめる。
- 第6課の「〜ものだ」の板書を思い出させる第6課の「〜ものだ」(人は変わるものだ)を板書の左に書き、右に「よく〜たものだ」を書く。左は「いつも・だれでもそうだ」、右は「昔の自分のなつかしい思い出」だと、「た」の有無に丸をつけて区別する。
板書案
よく/毎日 + Vた + ものだ(昔のくり返し・なつかしい)
子どものころは、よくこの川で泳いだものだ。
〔赤〕よく・毎日・〜ころは 〔青〕「た」+ものだ
〔左〕人は変わるものだ(第6課・いつもそうだ) 〔右〕よく泳いだものだ(思い出)
〔注意〕一回の出来事には使わない → 「〜た」「〜たことがある」
場面と発話(自作)
- 日本で働いている人が、同僚と昼ごはんを食べながら、国の学校の話をする。高校のころは、毎日、学校の帰りに屋台で焼きそばを食べたものです。
- ホストファミリーのお父さんが、古いアルバムを見ながら留学生に話す。若いころは、この車であちこち旅行したものだよ。
- 留学生が、日本に来たばかりのころのことを後輩に話す。後輩が電車の乗り換えで困っていると聞いて。私も最初は、乗り換えでよく迷ったものだよ。だんだん慣れるから大丈夫。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「子どものころ」「学生のころ」「日本に来たばかりのころ」と時期を出し、学習者が「よく〜たものだ」で思い出を言う。一回だけの出来事が混ざったら、「何回もしましたか」と聞いて確かめてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が時期と動作のカードを出す(「子どものころ×川で泳ぐ」「学生のころ×夜ふかしする」「冬×こたつで寝る」「昔×手紙を書く」)。全体で「子どものころは、よく川で泳いだものだ」と言い、個人指名で3〜4人。次に「昔は〜かった/だった」の形を、「物が安い」「町が静かだ」で言わせる。
- ペアAは「時期」カード、Bは「動作」カードを持ち、それぞれ自分の思い出に合うものを選んで「〜ころは、よく〜たものだ」と言う。聞き手は「へえ、どうして?」「今もする?」と一つ質問する。3回ごとに役を交替する。
- 産出「なつかし話の会」: 3〜4人のグループで、子どものころによくしていた遊び・食べていたもの・言われていたことを一人1分で話す。最後の一文は「今思うと、〜」で今の気持ちにつなげる。教師は、くり返しのことに使えているか、一回の出来事に使っていないかを聞き取る。
つまずきと手当て
- 一回だけの出来事に使う(去年一度京都へ行ったことを「去年、京都へ行ったものだ」と言う)。何度もくり返したことかを聞き返し、一回なら「行った」「行ったことがある」でよいと伝える
- 今も続いている習慣に使う(今も毎朝走っているのに「毎朝走ったものだ」)。「〜たものだ」は今はもうしていない昔のことをなつかしむ言い方なので、今も続いているなら「毎朝走っている」でよいと確かめる
- 第6課の「〜ものだ」と混ざり、過去の思い出に辞書形を使う(子どものころの話で「よく川で泳ぐものだ」)。思い出のときは「た」が要ると、板書の左右で見せる
既習の文型との違い
- 〜ものだ(第6課)第6課の「〜ものだ」は、「人は年をとると変わるものだ」のように、いつも・だれでもそうだという一般的な性質や、「時間がたつのは早いものだ」のような感心を言う。「〜たものだ」は、話し手が昔よくしていたことのなつかしい思い出。辞書形か「た」かで意味が変わることを、同じ動詞で並べて見せる。
- 〜ていた/〜たことがある(初級)「子どものころ、よく泳いでいた」は昔の習慣の事実を言うだけで、なつかしい気持ちは強くない。「〜たことがある」は一回でもした経験を言う。「〜たものだ」は、くり返しの思い出を気持ちを込めて言う。学習者が経験を言いたいのか、思い出をなつかしみたいのかで選ばせる。
関連する文型
学習項目 4 〜たところ
意味・はたらき学習項目 4
「〜してみたら、…だった」という意味で、何かをしてみた結果、わかったこと・起きたことを後ろに言う。前の文は話し手がした動作(調べる・聞く・頼む・試す)で、後ろの文は話し手が自分では決められない結果(〜だとわかった・〜と言われた・すぐに返事が来た)になる。後ろが話し手の意志の行動や、頼み・誘いになることはない。報告書・メール・改まった報告で多く使われ、友だちとの会話では「〜たら」のほうがふつう。「〜てみたところ」の形でもよく使う。
接続
動詞のた形+ところ、〜た(〜ことがわかった/〜と言われた)。後ろの文は結果の報告(過去形や「〜とのことです」「〜そうです」の伝聞)
形
Vた+ところ、〜た(駅で聞いたところ、次の電車は20分後だった)Vてみた+ところ、〜とわかった(説明書を読んでみたところ、使い方が簡単だとわかった)Vた+ところ、〜と言われた(課長に相談したところ、来週でいいと言われた)
導入
- 「調べた→結果」を報告の形で見せる教師が「昨日、図書館に電話しました。結果は……今日は休みでした」と2文で言い、黒板で矢印をつないで「図書館に電話したところ、今日は休みだった」と1文にする。前の文は自分がしたこと、後ろの文は自分では決められない結果だと、色を変えて示す。
- 第2課の「〜と、〜た」と並べる第2課の「ドアを開けると、猫がいた」を左に、右に「店に問い合わせたところ、在庫がないと言われた」を書く。どちらも「してみたら、こうだった」だが、右は報告やメールのような改まった言い方で、調べる・聞く・頼むのような「確かめる」動作によく使うことを見せる。
板書案
Vた + ところ、〜た(してみたら、こうだった)
店に問い合わせたところ、在庫がないと言われた。
〔赤〕前=自分がしたこと(調べる・聞く・頼む) 〔青〕後ろ=結果(自分では決められない)
〔左〕ドアを開けると、猫がいた(第2課) 〔右〕〜たところ(報告・メール)
〔誤りの例〕*調べたところ、先生に聞いてください → 調べたら
場面と発話(自作)
- 会社で、お客さんからの問い合わせについて、倉庫に確認した結果を上司にメールで報告する。倉庫に確認したところ、ご注文の品は明日発送できるとのことです。
- 留学生が、奨学金について学校の窓口で聞いた結果を、担任の先生に報告する。窓口で聞いたところ、申し込みは来月の10日までだそうです。
- パソコンが急に動かなくなった。会社の情報システムの担当者に、試したことを説明する。一度電源を切ってみたところ、画面が真っ黒のままになってしまいました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「したこと」カード(店に電話する・ネットで調べる・先輩に聞く)を出し、学習者が「〜たところ、〜た」で結果を言う。後ろが結果(自分で決められないこと)になっているかを確かめてから、教科書の練習へ。最後にメールの1文として書かせてもよい。
- 口頭教師が「したこと」と「結果」の絵を同時に見せる(「病院に電話する→今日は休み」「ネットで調べる→駅から5分」「店長に頼む→OK」「薬を飲む→熱が下がる」)。全体で「病院に電話したところ、今日は休みだった」と言う。次に結果の絵を伏せ、学習者が後ろを自分で作る。個人指名で3〜4人。
- ペア部下と上司の役。部下役は「したこと」のメモ(「取引先に電話した」)と結果のメモ(「担当者は出張中」)を持ち、「〜たところ、〜」で報告する。上司役は「それで、どうしますか」と聞き、部下役が次にすることを別の文で答える。役を交替する。
- 産出「やってみた報告」: 最近ためしてみたこと(新しい店・アプリ・料理・勉強法)を一つ選び、「〜てみたところ、〜」を使って3文の短い報告メールを書く。読み合ったあと、教師は後ろの文に頼みや自分の意志の行動が入っていないか、前の文が「確かめる・ためす」動作になっているかを見て直す。
つまずきと手当て
- 後ろに頼み・誘い・自分の意志の行動を置く(*調べたところ、先生に聞いてください/*朝起きたところ、顔を洗った)。後ろは「わかったこと・起きたこと」だけ、と板書の色で固定し、頼みや続けてする行動なら「〜たら」「〜てから」で言うと手当てする
- 第16課で学ぶ「〜ところだ」(〜たところだ=今〜したばかりだ)と混ざる(「今、家に帰ったところ」で文を終える)。「〜たところ」の後ろに結果の文が続くか、「だ」で終わるかで分けて見せる
- 友だちとの会話で使って、硬く聞こえる(「昨日、カラオケに行ったところ、楽しかったよ」)。間違いではないが、会話では「行ったら」のほうが自然だと伝え、報告・メールで使う練習に寄せる
既習の文型との違い
- 〜と、〜た(発見・意外)(第2課)どちらも「してみたら、こうだった」を言える。「〜と、〜た」は物語や体験談で、その場で見つけた驚きを言うことが多い(窓を開けると、雪が積もっていた)。「〜たところ」は、調べる・聞く・頼むのように結果を確かめる動作のあとに使い、報告やメールの改まった文になる。
- 〜ところだ(第16課)「〜たところだ」は「今ちょうど〜し終わった」という時間の言い方で、文がそこで終わる(今、駅に着いたところだ)。この課の「〜たところ」は、後ろに結果の文が続く(駅に着いたところ、電車が止まっていた)。後ろに文があるかどうかで見分けさせる。
関連する文型
学習項目 5 使役受身(〜させられる)
意味・はたらき学習項目 5
ほかの人に命令されたり、強く言われたりして、自分ではしたくないことをしたことを言う。「先輩が私に酒を飲ませた」(使役)を、させられた人の側から言い直した形で、「私は先輩に酒を飲ませられた(飲まされた)」になる。主語(多くは話し手)は「いやだったが、しかたなくした」という気持ちで言うことが多い。また、「この映画には考えさせられた」「彼の努力には感心させられる」のように、気持ちや考えを表す動詞では、何かに心を動かされて自然にそう感じた、という意味になる。文法の用語では、使役と受身を重ねたヴォイスの一つ。
接続
使役形(〜せる・〜させる)を受身にする(〜せられる・〜させられる)。1グループは「〜される」という短い形がよく使われる(飲ませられる→飲まされる)。ただし「す」で終わる動詞は短い形にしない(話す→話させられる)
形
1グループ: ない形+せられる/短い形 ない形+される(書く→書かせられる・書かされる、待つ→待たされる、飲む→飲まされる)。「す」で終わる動詞は短い形なし(話す→話させられる)2グループ: 〜させられる(食べる→食べさせられる、着る→着させられる)。短い形はない3グループ: する→させられる、来る→来(こ)させられる。短い形はない人に(Nを)Vさせられる(子どものころ、母に毎日ピアノを練習させられた)
導入
- 使役の文を「させられた人」の側から言い直す教師が絵を見せる(先輩が後輩に重い荷物を運ばせている)。まず使役で「先輩が後輩に荷物を運ばせた」と言い、次に後輩の顔を指して「後輩は、いやだった。後輩から言うと……先輩に荷物を運ばされた」と言い直す。主語と「に」が入れ替わることを、矢印で板書する。
- グループごとの表を学習者と一緒に埋める辞書形・使役形・使役受身・短い形の4列の表を黒板に書き、「書く・待つ・飲む・話す・食べる・する・来る」を一つずつ学習者に言わせて埋める。「話す」の行で短い形が作れないこと、2グループと3グループには短い形がないことを、空いたままのます目で見せる。
板書案
使役(〜させる)+ 受身(〜られる)= 〜させられる(いやだったが、した)
先輩が 後輩に 荷物を 運ばせた。→ 後輩は 先輩に 荷物を 運ばされた。
〔表〕書く→書かせられる/書かされる 待つ→待たされる 話す→話させられる(短い形×)
〔表〕食べる→食べさせられる(短い形×) する→させられる 来る→来させられる
〔赤〕主語=させられた人 〔青〕に=させた人
場面と発話(自作)
- 会社の飲み会の次の日。同僚と、昨日の飲み会の話をする。昨日は部長に3軒も付き合わされて、帰ったら2時だったよ。
- 留学生が、子どものころの習い事について、クラスで話す。子どものころは、毎日、母に漢字を100回書かされました。今はそれに感謝しています。
- 病院で長い時間待ったあと、家に帰って家族に少し不満を言う。予約していたのに、1時間も待たされたよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「させる人」と「させられた人」の絵を出し、学習者が「〜は〜に〜させられた(〜された)」で言う。グループごとに、短い形のあるもの・ないものを混ぜてから教科書の練習へ。最後に「考えさせられる」「驚かされる」を1〜2例だけ見せる。
- 口頭教師が辞書形をキューとして言い(「飲む」「待つ」「歌う」「食べる」「掃除する」「来る」「話す」)、全体で「飲まされる」「待たされる」「歌わされる」「食べさせられる」「掃除させられる」「来させられる」「話させられる」と返す。テンポよく2周したあと、個人指名で、先生・親・先輩の絵と動作の絵を組み合わせて文にする(「先輩に歌を歌わされた」)。
- ペアAは使役の文のカード(「店長がアルバイトにトイレを掃除させた」)を読み、Bはそれをアルバイトの立場から言い直す(「アルバイトは店長にトイレを掃除させられた」)。Bは最後に「いやだった?」とAに聞かれ、気持ちを一言加える。4枚ごとに役を交替する。
- 産出「させられた話、今は?」: 子どものころや学校・職場で、いやだったのにさせられたことを一つ選び、「〜に〜させられた(された)。そのときは〜。でも、今思うと〜」の3文で話す。聞き手は「どうして〜させられたの?」と一つ質問する。教師は、グループごとの形(特に「話させられる」「食べさせられる」)と、「に」と主語の取り違えを聞き取り、終わってから全体で直す。
つまずきと手当て
- 「す」で終わる動詞や2グループの動詞で短い形を作る(*話さされる/*食べされる)。短い形があるのは「す」以外で終わる1グループだけ、と表の空いたます目を指して確かめる
- 受身と混ざる(先輩にお酒を飲まされた、と言いたくて「先輩にお酒を飲まれた」)。「飲まれた」は先輩が飲んでしまって自分が困った、という意味になるので、「自分が飲んだのか、相手が飲んだのか」を聞き返す
- 自分がしたかったことに使う(留学したかったのに、「両親に留学させられた」)。使役受身は「したくなかったのに」という意味になりやすいので、うれしかったなら「両親に留学させてもらった」と言い換えさせる
既習の文型との違い
- 使役(〜させる)・受身(〜られる)(初級)使役は「させる人」が主語(母は私に野菜を食べさせた)、受身(ここでは迷惑の受身)は相手の行動で困った人が主語で、行動したのは相手(私は母に日記を読まれた)。使役受身は「させられた人」が主語で、行動したのは主語自身(私は母に野菜を食べさせられた)。三つの文を同じ絵で並べ、「だれがした行動か」に丸をつけさせる。
- 〜させてもらう(初級)「〜させてもらう」は、自分がしたいことを許してもらった(ありがたい)という気持ち(店長に早く帰らせてもらった)。「〜させられる」は、したくないことを無理にさせられた(いやだった)という気持ち(店長に遅くまで残らされた)。同じ「させ」でも気持ちが反対だと、顔のマークを並べて見せる。
- 使役て形+あげる/やる(第3課)第3課の「〜させてあげる」は、相手のしたいことをさせてあげる(息子にゲームをさせてあげた)で、させる側から見た言い方。使役受身は、させられる側から見た言い方で、気持ちも「いやだった」になる。同じ場面を親の立場と子の立場で言い分けさせると、違いがはっきりする。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 44 語(本文を読むための語 44・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で44語と多い。読みと意味の確認は1語ずつ時間をかけず、本文の流れで意味を取らせる語(いったい・とうとう・何となく・なるほど)は精読のときに文脈で確かめる。「顔をそろえる」「首を長くする」は体の部位を使った決まった言い方としてまとめ、「身につく/身につける」「決まる/決める」は自動詞と他動詞の組で整理する。「〜ようがない」「〜にとって」「〜たところ」「くせに」「とても〜ない」は語彙にも出るが、使い方は学習項目と精読で扱う。「思い込む」「当たり前」「知らず知らずのうちに」は課のテーマを話し合うときの語として、まとめましょうでも使わせる。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
第8課の語彙リスト(44語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い
本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(娘・男物・リボン・区別・基準・年代・いつの間にか・身につく・口癖・長男・くせに・からかう・男性用・個性・知らず知らずのうちに・当たり前・思い込む)から、男の子の色・女の子の色や、男物・女物の区別が、まわりの人の言葉や毎日の生活の中で知らず知らずのうちに身につき、当たり前だと思い込んでいたことに気づいていく、という話題の読み物だと推測される。精読では「何と何が区別されていたか」「その区別はどこから来たと筆者は考えているか」「筆者が気づいたきっかけは何か」「筆者は今、その区別をどう考えているか」の4点を段落ごとに聞く。「いったい」「何となく」「なるほど」のような気持ちを表す語のところで一度止め、筆者がそのときどう感じているかを学習者に言わせる。「くせに」「からかう」が出るところは、人を傷つける言い方になりうることも話し合える。
宿題と次のコマ
使いましょう(学習項目1〜5)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。使役受身の表(書く・待つ・話す・食べる・する・来る)を自分で埋めてくる。まとめましょうの「当たり前だと思い込んでいたこと」を4文(〜にとって・〜たものだ・使役受身から2つ以上)で書いてくる。次のコマは本文の精読の続きと話しましょう。
よくある質問
第8課「おもいこむ」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2、2コマ目で学習項目3〜5とまとめ・漢字まで進めます。使役受身の作り方に時間がかかるクラスは、使役と受身の復習を前の課の終わりに入れておくか、精読を3コマ目に回してもかまいません。
使役受身の短い形(飲まされる)は、どの動詞で使えますか?
「す」以外で終わる1グループの動詞だけです(書かされる・待たされる・飲まされる)。「話す」のような「す」で終わる動詞と、2グループ・3グループの動詞は短い形にせず、「話させられる」「食べさせられる」「させられる」と言います。グループごとの表を学習者と一緒に埋め、空いたます目で見せると覚えやすくなります。
「〜ようがない」と「〜できない」の違いは何ですか?
「〜できない」は、力が足りない場合にも状況のせいの場合にも使える一般的な言い方です。「〜ようがない」は、方法や手がかりがなくてどうやってもできない、という意味で、自分の能力の話には使いにくいです。「泳げない」と「プールがなくて泳ぎようがない」を並べて違いを見せます。
「〜にとって」と「〜に対して」はどう教え分けますか?
「〜にとって」はその人の立場から見た評価で、後ろに「大切だ・難しい・便利だ」のような評価の言葉が来ます。「〜に対して」は相手に向けた行動や態度で、後ろに「丁寧に話す・厳しい」のような言葉が来ます。「お客様にとって分かりやすい説明」と「お客様に対して丁寧に説明する」を並べ、後ろの言葉に色をつけて比べさせると区別がつきやすくなります。
「〜たものだ」と第6課の「〜ものだ」はどう違いますか?
第6課の「〜ものだ」は、いつも・だれでもそうだという一般的な性質や感心を言います(人は変わるものだ)。「〜たものだ」は、話し手が昔よくしていたことをなつかしんで言う形で、「よく」「毎日」「〜ころは」と一緒に使います。辞書形か「た」かで意味が変わることを、同じ動詞の2つの文で見せるとよいでしょう。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。