中級から学ぶ日本語 第6課「つたえる」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文「思いやり」
命令や禁止の言い方が冷たく聞こえるかどうかは、言葉の形より「相手を思っているかどうか」で決まる、という読み物の課です。文型は、例を並べる「〜とか〜とか」、相手のイメージを受けて実際を補う「〜といっても」、一般論や常識を言う「〜ものだ」、その否定で身近な人に注意する「〜ものではない」、自分ではしたと思っている「〜たつもり」の5つ。「〜ものではない」は本文の命令・禁止の話題と、「〜たつもり」は課の題「つたえる」(伝えたつもりでも伝わらない)と結びつけると、文型と読み物が一つにまとまります。学習項目 1・2 は、実際にこの課を教えた教案と記録から起こしています。
このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目5時間90分×2コマ語彙30語
この課のねらい(Can-do)
- 「〜とか〜とか」で、理由や方法、内容を例で並べて言える
- 「〜といっても」で、相手が持ちそうなイメージを引き取って「実際は〜」と補足できる
- 「〜ものだ」で一般的な性質・常識・感慨を言い、「〜ものではない」で身近な人に常識の形で注意できる。相手によって注意の言い方を替えられる
- 「〜たつもり」で、自分ではしたと思っていたことと実際とのずれを説明できる
- 本文のアナウンスと投書の例から、同じ命令の文でも伝わり方が変わることを自分の言葉で説明できる
進め方と時間配分
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 導入(話題に入る) | 10分 | 1コマ目。日本語で気をつけていること、言われて嫌だった言葉・うれしかった言葉を短く共有する。答えを黒板の端に残しておくと、あとで文型の例に使える |
| 新しい言葉 | 20分 | 32語。全語の読みと短い意味を確かめ、反応を見て場面例を出す語を選ぶ。「とか」「といっても」「ものだ」「たつもり」は文法で扱うと予告するだけにする |
| 本文(大意) | 25分 | 教師の範読→段落ごとの音読→大意。アナウンス・投書・筆者の考えの3つを押さえる。精読は次のコマに回してよい |
| 学習項目 1(〜とか〜とか) | 15分 | 導入→口頭→ペア。導入に時間を使い切らず、枠の半分は教科書の練習に残す |
| 学習項目 2(〜といっても) | 15分 | 相手のイメージと実際の違いを確かめてから、口頭→教科書の練習へ。産出は宿題に回してよい |
| まとめ | 5分 | 学習項目 1・2 を各1文、代表の学生に作ってもらう。全員発表にはしない |
| 復習とつなぎ | 10分 | 2コマ目。前のコマの「言われて嫌だった言葉」を「〜とか〜とか」で並べ直し、「〜といっても」で補わせて、2項目を一度に確かめる |
| 精読・答えましょう | 25分 | 段落ごとに、アナウンスと投書のそれぞれで「言った人の気持ち」と「聞いた人の受け取り方」を分けて聞く。設問は答えの根拠を本文の中で指で押さえさせる |
| 学習項目 3・4(〜ものだ/〜ものではない) | 30分 | 肯定と否定を1組で扱う。項目3で集めたマナーの文を項目4で否定にひっくり返すと、導入が一度で済む。注意の言い方3つ(〜てはいけない/〜な/〜ものではない)の比べは本文の話題に戻して |
| 学習項目 5(〜たつもり) | 15分 | 初級の「〜るつもり」と時間の線で比べてから口頭練習。ペアの伝言ゲームは時間があれば |
| まとめましょう・話しましょう | 10分 | 「伝えたつもりだったのに伝わらなかった経験」を1人1つ、〜たつもり を使って話す。話しましょうはペアで「同じ注意でも、言い方で受け取り方が変わる例」を出し合う |
学習項目 1 〜とか〜とか
意味・はたらき学習項目 1
いくつかある中から例をいくつか並べて示す言い方。「〜や〜など」より話し言葉的で、名詞だけでなく動詞の形も並べられる。並べたあとを理由(〜があって)・方法(〜して)・内容(〜、N)で受ける。並べたもののほかにもまだある、という含みが残るので、全部を言い切らないときに便利。文法の見方では、例を挙げて並べる並立の助詞で、「明日休むとか言っていた」のように人の言葉をぼかして引く使い方もあるが、この課では例を並べる使い方を中心にする。
接続
名詞+とか名詞+とか/動詞辞書形+とか動詞辞書形+とか。文末を名詞や形容詞で受けるときは「〜とか〜とか、N」の形
形
N とか N とか(が)あって、〜(理由)V る とか V る とか して、〜(方法)V る とか V る とか、N(内容を例で示す)
導入
- 「いっしょに考えましょう」の答えを引き取るウォームアップで学生が挙げた「言われて嫌だった言葉」を2つ黒板に残しておき、「『早くしろ』とか『静かにしろ』とか、言われると嫌ですよね」と教師が並べて見せる。本文の投書も同じ形で2つの命令文を並べているので、本文に戻ったときにつながる。
- 教師の週末の話で理由の形「週末は何をしましたか」と聞かれた体で、「洗濯とか掃除とかがあって、どこにも行けませんでした」。並べているのが「例」で、ほかにもあることを手で示す。
板書案
N とか N とか(が)あって、〜 =理由
V る とか V る とか して、〜 =方法
洗濯 とか 掃除 とか が あって、出かけられない。
ドラマを 見る とか バイト先で 話す とか して、覚えた。
〔赤〕とか は 2回 〔青〕ほかにも ある(例)
場面と発話(自作)
- 友だちに週末の予定を聞かれたが、家のことがたまっていて出かけられない。洗濯とか掃除とかがあって、今週は無理。
- 日本語の勉強法を後輩に聞かれた。特別なことはしていない。ドラマを見るとかアルバイト先で話すとかして、少しずつ覚えた。
- 日本に来て困ったことを先生に聞かれた。ごみの出し方とか電車の乗り換えとか、最初は分からないことばかりでした。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
まず教師が状況を言い、学生に「〜とか〜とか」で答えさせる問答(生活について尋ねて理由の形で答える)を数往復。そのあと教科書の練習に入る。ペアで「国の習慣」を2つ並べて紹介させる活動は、時間があるときだけ。
- 口頭質問カードをキューにする: 「日本に来て困ったことは?」→「ごみの出し方とか乗り換えとかが分からなかった」/「疲れたときは何をする?」→「寝るとか音楽を聞くとかして休む」/「国の料理で好きなのは?」→「スープとか麺とか、温かい料理が好き」/「週末、出かけなかったのはなぜ?」→「洗濯とか掃除とかがあって」。名詞を並べる形と動詞を並べる形を分けて全体で言わせ、次に個人で。
- ペア「アドバイス・インタビュー」。A は質問カード(日本語が上手になるには?/安く暮らすには?/友だちを作るには?)を引いて B に聞く。B は「〜とか〜とかするといい」と2つ例を挙げ、A は「ほかには?」と1回だけ聞き返す。B は中身を知らないカードにその場で答えるので、毎回自分の言葉になる。交替。
- 産出「後輩へのアドバイスメモ」。来年日本に来る後輩に、来る前に準備しておくとよいことを「〜とか〜とかを用意しておくといい」「〜とか〜とかして慣れておくといい」の形で3文書く。教師は、「とか」が2回そろっているか、並べたあとの受け方(理由・方法・内容)が文の終わりまで続いているかを見る。レポートや手紙の硬い文なら「〜や〜など」に替える所も指摘する。
つまずきと手当て
- 「とか」を1回だけ使う(「洗濯とか、忙しかった」)。2回並べる形から入り、1回の形は定着してから
- 「〜や〜など」と同じ文脈で使って硬い文になる。作文では「〜や〜など」に直させる
- 並べたあとの受け方を忘れて文が切れる。3つの型(理由・方法・内容)を板書に残す
既習の文型との違い
- 〜や〜など(初級)「〜や〜など」は名詞だけを並べ、書き言葉にも話し言葉にも使える。「〜とか〜とか」は話し言葉的で、動詞や引用した言葉も並べられる。作文で「とか」を続けると幼い印象になるので、レポートでは「〜や〜など」に直させる。
- 〜たり〜たりする(初級)「〜たり〜たり」は動作を例として並べ、最後に「する」が必要になる。「〜とか〜とか」は名詞も動詞も並べられ、後ろは「して」「があって」など自由に受けられる。学生が「*洗濯たり掃除たり」と混ぜたら、名詞のときは「とか」だと示す。
関連する文型
〜たり〜たり〜や〜など
学習項目 2 〜といっても
意味・はたらき学習項目 2
相手が持ちそうなイメージ(または相手が言った言葉)をいったん受けて、「実際はそこまでではない」「実際はこうだ」と補足する言い方。程度を下げる使い方が多いが、本文のように悪い印象を良い方へ直す使い方もある。後ろには「〜ぐらい」「〜だけ」のように範囲を小さくする言葉が来やすい。文法の見方では、前の内容を認めたうえで、そこから予想されることを限定・訂正する逆接の表現で、「と」は引用の「と」から来ている。
接続
名詞・い形容詞・な形容詞・動詞(辞書形・た形)+といっても
形
N といっても、〜(程度を下げる)V といっても、〜(印象を直す)
導入
- 教師の実話で程度を下げる形「先生はタイ語ができるんですよね?」と学生に言わせて、「タイ語ができるといっても、挨拶と注文ぐらいです」。相手の期待(イメージ)を受けてから下げる、という順番を見せる。
- 本文の投書で印象を直す形本文の命令文を指して「命令の文といっても、冷たくない。どうして?」と問う。学生の答え(心配しているから)を「〜といっても、思いやりがある」の形にまとめる。
板書案
〔相手のイメージ〕といっても、〔実際〕
タイ語が できる といっても、挨拶 ぐらい です。
命令 の 文 といっても、冷たく ない。
〔赤〕下げる(ぐらい・だけ) 〔青〕直す(悪い→良い)
〔赤〕「といっても」の 後ろに「でも」は いらない
場面と発話(自作)
- 「料理が得意」と自己紹介したら、友だちに何が作れるか聞かれた。得意といっても、カレーと卵焼きぐらいだよ。
- アルバイトで日本人と話していると聞いた先生が、会話が上手だと思っている。話すといっても、注文を聞くだけです。
- 先輩が厳しいと聞いていたが、実際は違った。後輩に伝える。厳しいといっても、間違えたときにちゃんと教えてくれるだけだよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「〜が得意/〜ができる/〜に住んでいた」のように学生のことを少し大げさに言い、学生が「〜といっても、〜」で下げて返す。そのあと教科書の練習へ。
- 口頭教師が学生のことを少し大げさに言うキュー: 「料理が得意なんですよね」→「得意といっても、カレーぐらいです」/「毎日運動しているそうですね」→「運動といっても、駅まで歩くだけです」/「北海道に住んでいたんですか」→「住んでいたといっても、3か月だけです」/「日本の友だちが多いでしょう」→「多いといっても、二人です」。まず全体で「といっても」を付けて言い、次に個人で後ろを自分の事実にする。
- ペア「うわさの訂正」。A は B について実際より大げさな「うわさカード」(B さんは日本語の本を100冊読んだらしい)を読み上げる。B の手元には「本当のカード」(絵本を10冊)があり、「〜といっても、〜」で訂正する。A は本当の内容を知らないので、聞いて「なんだ、そうなんだ」と返す。交替。
- 産出「自己紹介の本当のところ」。自己紹介の中で誤解されそうな点(得意なこと・住んでいた所・アルバイト)を1つ選び、「〜といっても、〜」で実際を補って1分話す。教師は、前に相手のイメージになる言葉が来ているか、「でも」を重ねていないか、後ろが実際の説明になっているかを見る。
つまずきと手当て
- 「といっても、でも〜」と「でも」を重ねる(実際に3人)。「といっても」の中に「でも」の意味が入っていることを板書で示す
- 「といえば」「とはいえ」と混同する。この課では「といっても」だけを使わせ、比較は聞かれたときだけ
- 程度を下げる例ばかりになると、本文の「印象を直す」使い方が分からない。本文の例を必ず1回は戻って確かめる
既習の文型との違い
- 〜けれども/〜が(初級)「けれども」は前と後ろが反対の内容であることをそのままつなぐ。「といっても」は、前の言葉から相手が期待しそうなことを後ろで限定・訂正する。「雨だけれども出かける」は自然だが、「雨といっても出かける」は意味が通りにくくなる。
- 〜からといって〜わけではない(後の課)「からといって」は「その理由だけで、必ずそうなるとは限らない」と、理由と結論のつながりを打ち消す。「といっても」は、前の言葉の程度や中身を実際に合わせて直す。学生が混ぜたら、「理由→結論」を打ち消したいのか、「言葉→実際」を直したいのかを聞く。
関連する文型
学習項目 3 〜ものだ
意味・はたらき学習項目 3
ある物事の一般的な性質や、そうなるのが自然・当然だということを、話し手個人の考えとしてではなく「世の中ではそういうものだ」という形で言う。使い方は3つで、①性質・傾向(人は忙しいとまわりが見えなくなるものだ)、②社会の常識としての「するのが当たり前」(借りた物は早めに返すものだ)、③しみじみとした感慨(時間がたつのは早いものだ)。②は相手への忠告として働くので、目上の人に向けると説教のように聞こえる。文法の見方では、話し手の判断や態度を表すモダリティの表現の一つ。
接続
動詞の辞書形・ない形+ものだ(忘れるものだ・言わないものだ)/い形容詞+ものだ(早いものだ)/な形容詞+な+ものだ(不便なものだ)。話し言葉では「もんだ」。過去を懐かしむ「〜たものだ」は第8課で別に扱う
形
V辞書形+ものだ(性質・傾向: 人は疲れると怒りっぽくなるものだ)V辞書形/ない形+ものだ(常識・忠告: 借りた物は早めに返すものだ)Aい/Aな+ものだ(感慨: 一年は本当に早いものだ)
導入
- 「みんなそうだ」を集めて一般論にする「テストの前の日に、急に部屋の掃除をしたくなる人?」と聞いて手を挙げさせる。多くの人が挙げたら、教師が「人はテストの前になると、ほかのことがしたくなるものだ」と言い、個人の話(私は〜したくなる)と、みんなに当てはまる話(人は〜ものだ)を板書の上下に分ける。主語が「人は」「だれでも」「子どもは」のような一般の人になることを見せる。
- マナーの話で「当たり前」の意味日本で教わったマナー(エレベーターでは降りる人が先・借りた物は返す)を学生から集め、「借りた物は早く返すものだ」と言い換える。「〜しなさい」より柔らかいが、相手に「当たり前でしょう」と言う力があることを確かめ、目上の人には使わない、と添える。
板書案
〔一般の人〕は 〜 ものだ
人は 疲れると 怒りっぽく なる ものだ。(性質)
借りた 物は 早く 返す ものだ。(当たり前)
時間が たつのは 早い ものだ。(感慨)
〔赤〕主語=人は・だれでも 〔青〕な形容詞+な ものだ
場面と発話(自作)
- 初めてのアルバイトで、何度も同じことを聞いてしまうと悩む後輩。同じ店で働く先輩が励ます。最初はだれでも失敗するものだよ。気にしないで。
- 引っ越しの荷物をまとめながら、来日して3年たったことに気づいた。ルームメイトに。もう3年か。時間がたつのは早いものだね。
- 寮の新入生が、共用の冷蔵庫の物を黙って使った。寮長が穏やかに伝える。人の物を使うときは、ひと言声をかけるものだよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「人は〜」「子どもは〜」「お客さんは〜」と一般の主語を言い、学生が性質・傾向の文を作る。次にマナーの場面カードで常識の言い方、最後に「時間」「親」「旅」などで感慨の言い方を1つ。3つの使い方をカードの色で分けてから教科書の練習へ。
- 口頭キュー: 「テストの前」→「テストの前は、ほかのことがしたくなるものだ」/「親は」→「親は子どものことが心配になるものだ」/「旅行の前の日」→「旅行の前の日は、なかなか眠れないものだ」/マナーカード「目上の人と食事」→「目上の人より先に食べ始めないものだ」/「卒業式」→「別れはさびしいものだ」。主語を「人は」「だれでも」にそろえて全体→個人。な形容詞(不便なものだ)を1回は入れる。
- ペア「国のあたりまえ比べ」。A・B は違う国(同じ国なら家と学校)のマナーカードを持つ。A が自分の国の当たり前を「〜では、〜ものだ」で言い、B は相手のカードを見ないまま「私の国でも〜ものだ/私の国では〜ないものだ」で答える。違いが出たら理由を1つ聞き合う。交替。
- 産出「人生のひと言」。「人は〜ものだ」の形で、自分の経験から言える一般論を1つ作り、その経験を3文で添えて発表する(人は新しい場所では、最初はさびしくなるものだ → 来日した月の話)。教師は、主語が一般の人になっているか(「私は〜ものだ」になっていないか)、な形容詞の「な」、目上の人に向けた忠告の形になっていないかを見る。
つまずきと手当て
- 自分ひとりの習慣や予定に使う(「私は毎朝6時に起きるものだ」)。「ものだ」は一般の人に当てはまることを言うので、自分の習慣なら「〜ことにしている」(第2課)に言い換えさせる
- な形容詞の形を間違える(*不便ものだ)。な形容詞は「不便なものだ」と「な」を入れる。名詞のときは「子どもというものは〜」のように主語の側で言う形を見せると混乱が少ない
- 目上の人や初対面の人に常識・忠告の「ものだ」を使い、説教のように聞こえる(先生に「授業は時間どおりに始めるものですよ」)。相手に伝えたいときは「〜たほうがいいと思います」に替える、と添える
既習の文型との違い
- 〜べきだ/べきではない(第13課)「べきだ」は話し手が「そうするのが正しい」と自分の判断で強く言う。「ものだ」は「世の中ではそうするのが普通だ」と常識として言うので、話し手の意見が前に出にくい。「約束は守るべきだ」は主張、「約束は守るものだ」は常識の確認、と並べて比べる。
- 〜たものだ(第8課)た形+ものだは「昔はよく〜した」という過去の習慣を懐かしむ言い方で、この課の「ものだ」(性質・常識・感慨)とは意味が違う。学生が「子どものころ、よく川で泳ぐものだ」と言ったら、昔の思い出は「泳いだものだ」と形を分ける。
関連する文型
学習項目 4 〜ものではない
意味・はたらき学習項目 4
「〜ものだ」の否定で、「そういうことはしないのが常識だ」という形で、相手に「〜しないほうがいい」と注意・忠告する言い方。禁止の「〜てはいけない」のように規則として止めるのではなく、世の中の常識を持ち出して言うので、親が子どもに、先輩が後輩に教えさとすような上からの響きがあり、目上の人には使えない。もう一つ、可能形などと組んで「そう簡単には〜できるものではない」と、ことの難しさを言う使い方もある。この課の話題(命令・禁止の伝わり方)と合わせると、同じ注意でも言い方によって相手の受け取り方が変わることを考えさせやすい。
接続
動詞の辞書形+ものではない(話し言葉では「もんじゃない」)/動詞の可能形+ものではない(一人で覚えられるものではない)
形
V辞書形+ものではない(忠告: 人の悪口を言うものではない)V可能形+ものではない(難しさ: 外国語は1年でぺらぺらになれるものではない)V辞書形+もんじゃない(話し言葉: 食べ物を粗末にするもんじゃないよ)
導入
- 注意の言い方を3つ並べる同じ注意を3通りに言う。「人の悪口を言ってはいけません」「人の悪口を言うな」「人の悪口を言うものではありません」。どれがいちばん強いか、どれが規則のように聞こえるか、だれがだれに言いそうかを学生に考えさせ、「ものではない」は常識を持ち出した大人の注意だ、と整理する。本文の命令・禁止の話題につながる。
- 「ものだ」の板書を否定にひっくり返す学習項目 3 で集めたマナーの「〜ものだ」の文を、反対の行動に直す。「借りた物は早く返すものだ」→「借りた物をそのままにしておくものではない」。肯定と否定が1組になることを見せたあと、「漢字は1か月でそんなに覚えられるものではない」のような可能形の例を別の色で足す。
板書案
V る + ものではない = しないのが 当たり前
人の 悪口を 言う ものではない。
〔赤〕〜てはいけない(規則)/〜な(命令)/〜ものではない(常識)
V可能形 + ものではない = そう簡単には できない
漢字は 1か月で 覚えられる ものではない。
〔青〕目上の人には 使わない
場面と発話(自作)
- 寮で、後輩が夜中に廊下で大声で電話していた。翌朝、同じ階の先輩がやさしく言う。夜中に大きな声で話すもんじゃないよ。みんな寝てるから。
- 1か月で漢字を500覚えると張り切る新入生に、日本語学校の先生が言う。漢字は1か月でそんなに覚えられるものではありませんよ。毎日少しずつ続けましょう。
- スーパーのアルバイトで、新人が値札を確かめないでお客さんに値段を答えた。店長が休憩室で注意する。分からないことを、確かめないで答えるものじゃないよ。次からは聞いてね。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
マナーのカード(電車で電話・食べ物を残す・人の物を勝手に使う)を見せ、学生が「〜ものではない」で注意する。次に「1日で」「一人で」「簡単に」をキューにして難しさの使い方を1つずつ。最後に「〜てはいけない」と言い比べてから教科書の練習へ。
- 口頭キュー: 絵「電車の中で大声で電話」→「電車の中で大声で電話するものではない」/絵「食べ残しの皿」→「出された物をむだにするものではない」/「1日で」+ピアノの絵→「ピアノは1日で弾けるようになるものではない」/「一人で」+引っ越しの絵→「引っ越しは一人でできるものではない」。全体→個人。話し言葉の「もんじゃないよ」も一度言わせる。
- ペア「先輩と後輩」ロールプレイ。A は先輩役で「後輩の困った行動カード」(遅れるのに連絡しない・借りた傘を返さない)を持ち、B は後輩役で内容を知らずに始める。A が「〜ものじゃないよ」で注意し、B は言い訳を1つ言い、A は「〜たほうがいいよ」でやわらげて終える。役を交替して、言われた側の気持ちも1文で言わせる。
- 産出「やさしい注意に書き直す」。寮・アルバイト先・クラスの「〜してはいけません」という注意を3つ渡し、相手に伝わりやすい言い方に直させる(〜ものではない/〜ないでください/理由を添える)。どれを選んだか、なぜかを1文で言わせる。教師は、目上の人やお客さんに向けた文に「ものではない」を使っていないか、掲示の文には「〜ないでください」が合い「ものではない」は身近な人への口頭の注意だ、と気づいているかを見る。
つまずきと手当て
- 目上の人やお客さんに使う(店員がお客さんに「ここでたばこを吸うものではありません」)。上から教えさとす言い方なので、お客さんには「ご遠慮ください」、先生には「〜ないほうがいいと思います」と、相手で替えることを示す
- 自分の決意に使う(「私はもう遅刻するものではない」)。自分のことは「〜ないようにする」「〜ないことにする」で言うと伝える
- 「〜わけではない」と混ぜて注意しようとする(「人の悪口を言うわけではないよ」)。「わけではない」は「必ずそうだというのではない」と部分的に打ち消す言い方で、注意の意味はないと区別する
既習の文型との違い
- 〜ては/といけない(第1課)「てはいけない」は規則や話し手の判断として、その行為をはっきり禁止する。「ものではない」は常識として「しないものだ」と言うので、相手を直接しかる響きは弱いが、大人が若い人を教えさとす上下の関係が出る。掲示の規則は「てはいけない」、親や先輩の口頭の注意は「ものではない」が合いやすい。
- 〜べきだ/べきではない(第13課)「べきではない」は話し手が正しいかどうかを判断して強く言い、社会の問題についての意見文にも使える。「ものではない」は日常の行動の常識に使うことが多い。「国は税金を上げるべきではない」を「上げるものではない」にすると不自然になる、と比べる。
- 〜ものだ(第6課)肯定の「ものだ」には性質・常識・感慨の3つがあるが、否定の「ものではない」で使うのはおもに常識(注意・忠告)と、可能形と組んだ「簡単にはできない」の2つ。感慨の「時間がたつのは早いものだ」は、そのまま否定にはしない。
関連する文型
学習項目 5 〜たつもり
意味・はたらき学習項目 5
「自分ではそうしたと思っている」という話し手の思いを言い、実際はそうなっていなかったという食い違いを後ろに続けることが多い(説明したつもりだったが、伝わっていなかった)。もう一つは、実際にはしていないのに「した」と見なして行動する使い方(外食したつもりで、そのお金を貯金する)。初級の「辞書形+つもり」がこれからする意志を言うのに対して、た形に付くと、もう済んだことについての自分の思い込みや見なしを言う。「〜ているつもり」「Nのつもり」(冗談のつもり)も同じ仲間で、課の題「つたえる」の「伝えたつもりでも伝わらない」は、この項目でまとめるとよい。
接続
動詞のた形+つもり(だ)(言ったつもりだ)/動詞のて形+いる+つもり(分かっているつもり)/い形容詞+つもり(若いつもり)/な形容詞+な+つもり(元気なつもり)/名詞+の+つもり(冗談のつもり)
形
Vた+つもりだったが、〜(説明したつもりだったが、伝わっていなかった)Vた+つもりで、〜(外食したつもりで、500円を貯金箱に入れる)Vている/Nの+つもり(気をつけているつもり・親切のつもり)
導入
- 初級の「つもり」と時間の線で比べる時間の線を書き、今より右に「来年帰国するつもりだ」(これからの意志)、左に「かぎをかけたつもりだった」を置く。教師がかばんを開けて「宿題を入れたつもりだったのに、ない!」と演じ、「自分ではした」「でも本当はしていなかった」の2段を吹き出しで分けて書く。
- 課の題「つたえる」で食い違いを見せる「先生ははっきり説明した(と思っている)/学生は分からなかった」という2人の吹き出しの絵を見せ、「説明したつもりだったが、伝わっていなかった」とまとめる。本文の話題(言葉の形と伝わり方)に戻り、「丁寧に言ったつもりでも、冷たく聞こえることがある」を学生に言わせると、課の芯とつながる。
板書案
V た + つもり(だった)が、〜(実際)
かぎを かけた つもり だった が、かかって いなかった。
〔赤〕今より右=V る つもり(これから) 左=V た つもり(済んだと思う)
V た + つもりで、〜(したと 見なす)
旅行に 行った つもりで、貯金する。
場面と発話(自作)
- 友だちと駅で待ち合わせた。自分は東口で待っていたが、友だちは西口にいた。電話で話す。ごめん、東口って言ったつもりだったけど、ちゃんと伝わってなかったね。
- アルバイト先で、店長に「注文のメモが違う」と言われた。自分では聞き返して確かめていた。すみません、ちゃんと確認したつもりだったんですが……。
- 留学生活の節約。ルームメイトに、今月から始めたことを話す。外でお昼を食べたつもりで、毎日500円ずつ貯金してるんだ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「かぎをかけた?」「メールを送った?」と聞き、学生が「〜たつもりだったけど、〜ていなかった」で答える。次に「旅行に行ったつもりで」「プレゼントを買ったつもりで」のように見なす使い方を1つ。最後に「〜るつもり」と混ぜた問答で、これからの意志か、済んだことの思い込みかを確かめてから教科書の練習へ。
- 口頭キュー: 絵「火がついたままのコンロ」→「火を消したつもりだったのに、消えていなかった」/絵「あて先の違うメール」→「先生に送ったつもりだったが、友だちに送っていた」/絵「500円玉と貯金箱」→「お菓子を買ったつもりで、500円を貯金した」/「冗談」のカード→「冗談のつもりだったが、相手は怒ってしまった」。た形を作る→つもり→後ろの食い違い、と3つに区切って全体で言わせ、次に個人で。
- ペア「伝言ゲーム・ずれ探し」。A は短い伝言カード(明日の集合は9時に2階の教室)を見て、B に口で一度だけ伝える。B は聞いたとおりにメモし、A のカードと比べる。違っていたら、A は「〜と言ったつもりだったけど」、B は「〜と聞いたつもりだったけど」で、どこでずれたかを話し合う。交替。
- 産出「伝わらなかった話」。自分が「伝えたつもり/分かったつもり」だったのに食い違った経験を、「〜たつもりだったが、〜。それからは〜ようにしている」の3文で書いて話す。教師は、つもりの前がた形になっているか、後ろに実際どうだったかが書かれているか、「〜るつもり」(予定)と混ざっていないかを見る。
つまずきと手当て
- 「〜るつもり」と混ざる(自分ではもう出したと思っていたのに「宿題を出すつもりだったけど、出していなかった」と言う)。予定だったのか、自分ではしたと思っていたのかを聞き、した気でいたなら「出したつもり」に直す
- 後ろの食い違いを言わずに終え、言い訳のように聞こえる(「説明したつもりです」だけで終える)。仕事の場面では、続けて実際どうだったか・これからどうするかを言う練習をする
- 名詞・な形容詞の形を間違える(*冗談つもり/*元気つもり)。名詞は「冗談のつもり」、な形容詞は「元気なつもり」と、「の」「な」を入れる
既習の文型との違い
- Vるつもり(初級)辞書形+つもりは「これからそうする意志・予定」を言う。た形+つもりは、もう済んだと自分では思っていることを言い、実際とのずれが後ろに続くことが多い。「電話するつもりだった」(する気はあったが、しなかった)と「電話したつもりだった」(したと思っていたが、していなかった)を並べる。
- 〜はずだ(後の課)「はずだ」は根拠から「当然そうだろう」と推し量る言い方で、ほかの人や物事にも使える(荷物は昨日届いたはずだ)。「たつもり」は自分の行動について自分がそう思っている、という主観の言い方。「かぎをかけたはずだ」は記憶からの推論、「かけたつもりだった」は思い込みが外れたあと、と違いを示す。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 30 語(本文を読むための語 30・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で32語(文型として扱う「〜とか」「〜といっても」を除く30語)。全部を場面つきで扱うと時間が足りないので、読みと意味の確認で進め、立ち止まるのは本文の読みに関わる語だけにする。「〜ものだ」「〜たつもり」は語の一覧にも出るが、意味は学習項目 3・5 でまとめて扱う。「命令」「禁止」「投書」「アナウンス」は本文の芯にかかわる語なので、学習項目 4 の「注意の言い方3つ」の導入でもう一度使う。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに(実際の授業の語彙シートから)。
この課の練習で使う語(3語・意味・連語・例文)
- 気にかかる 意識していなくても頭から離れない
国の家族が病気だと聞いたあと、授業に集中できない。家族のことが気にかかって、勉強が手につかない。
- 目にする たまたま見る機会がある
駅で、国の言葉の広告を見かけた。友だちに話す。最近、駅でタイ語の広告をよく目にする。
- たしかに 相手の言うことを認めてから、別の点を言う
友だちが「漢字が一番大事」と言った。認めたうえで補足する。たしかに漢字は大事だけど、話す練習もしないと。
第6課の語彙リスト(30語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い
アナウンス(丁寧だが冷たい)と母親の投書(命令形だが温かい)の対比が芯。精読では「どちらが命令の形か」「どちらが冷たく感じるか」を分けて聞くと、形と伝わり方が別のものだと学生が自分で気づく。筆者の主張は最後の段落にあるので、大意の段階では「言葉の形より気持ち」の一言でよい。2コマ目の精読では、アナウンスと投書のそれぞれについて「言った人は何を伝えたつもりか」「聞いた人にはどう伝わったか」を分けて聞くと、学習項目 5 の「〜たつもり」の場面になる。筆者の一般論にあたる部分は、学生自身の言葉で「〜ものだ」を使って言い直させてもよい(本文の文をそのまま写させない)。
宿題と次のコマ
1コマ目のあとは、学習項目 1・2 の練習の残りと新しい言葉の読み。2コマ目のあとは、学習項目 3〜5 の練習の残りと漢字の書き取り、それに「伝わらなかった話」(〜たつもりだったが、〜。それからは〜ようにしている)を3文で書いてくる。次の課は第7課「かざる」。
よくある質問
「〜ものだ」と「〜べきだ」はどう違いますか?
「べきだ」は話し手が「そうするのが正しい」と自分の判断で強く主張する言い方です。「ものだ」は「世の中ではそうするのが普通だ」と常識や一般論の形で言うので、話し手の意見は前に出にくくなります。「約束は守るべきだ」(主張)と「約束は守るものだ」(常識の確認)を並べると違いが見えます。「べきだ」はこの教科書では第13課で扱います。
「〜ものではない」と「〜てはいけない」は、どう教え分ければいいですか?
「てはいけない」は規則や話し手の判断としてはっきり禁止する言い方で、掲示や規則に合います。「ものではない」は「常識ではしないものだ」と言って注意する言い方で、親が子どもに、先輩が後輩に言うような上からの響きがあります。同じ注意を「〜てはいけない」「〜な」「〜ものではない」の3通りで言い、だれがだれに言いそうかを考えさせると、本文の命令・禁止の話題ともつながります。どちらも目上の人やお客さんには使わない、と添えておきます。
「〜たつもり」と初級の「〜るつもり」の違いは、どう見せればいいですか?
時間の線を書き、今より右(これから)に「辞書形+つもり」、左(もう済んだこと)に「た形+つもり」を置くと、形と時間が結びつきます。「電話するつもりだった」はする気はあったがしなかった、「電話したつもりだった」はしたと思っていたがしていなかった、と2文を並べて違いを確かめます。「た形+つもり」の後ろには実際とのずれが続くことが多いので、後ろまで言わせる練習をします。
「〜とか〜とか」と「〜たり〜たり」「〜や〜など」の違いは?
「〜や〜など」は名詞だけを並べ、書き言葉でも使えます。「〜たり〜たり」は動作を並べて最後に「する」が要ります。「〜とか〜とか」は名詞も動詞も並べられる話し言葉的な言い方で、後ろを理由・方法・内容のどれでも受けられます。作文では「〜や〜など」に直させると、話し言葉と書き言葉の区別も一緒に教えられます。
第6課は何コマで終わりますか?
90分のコマなら2コマが目安です。1コマ目に新しい言葉・本文の大意・学習項目 1・2、2コマ目に精読・学習項目 3〜5・まとめと話し合いを入れると収まります。「〜ものだ」と「〜ものではない」を1組で導入すると時間を節約でき、2コマ目の文型に45分ほど取れます。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。