中級から学ぶ日本語 第7課「かざる」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈名刺〉
人は外見や肩書で自分を「かざる」のか、という話題の課です。本文は、化粧や手術で見た目を変えること、選挙のポスターや制服、名刺の会社名・肩書が人の判断にどう影響するか、そして人間を中身で判断するのは理想だが難しい、という話題の読み物だと新しい言葉から推測されます。文型は、ふつうはそこまでしないものを加える「〜まで」、書き言葉で手段を言う「〜によって(手段)」と出来事の原因を言う「〜によって(原因)」、機会をむだにしたくない気持ちの「せっかく」、相手に勧める「〜ことだ」。同じ「によって」を手段と原因に分けて続けて導入すること、「せっかく〜のに」と「せっかく〜から」の後ろの違いを見せることが芯になります。
このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目5時間90分×2コマ語彙38語
この課のねらい(Can-do)
- 「〜まで」で、ふつうはそこまでしない・そこまでは含まないと思われるものを加えて、驚きやあきれた気持ちを言える
- 「〜によって」を、手段(何を使って・何をもとに)と原因(何が起きたもと)に分けて読み取り、レポートや説明の文で使える
- 「せっかく」で、むだにしたくない機会やものを、残念な気持ち(〜のに)と勧め・意志(〜から)の両方で言える
- 「〜ことだ」で、目下の人や友だちに、いちばん大切なことを短く勧められ、目上には使わないと分かる
- 本文を読んで、人を外見や肩書で判断することについて、自分の経験と意見を話せる
進め方と時間配分
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 新しい言葉 | 20分 | 38語。読みと短い意味を確かめる。「外見/中身」「地味/派手」は対で板書し、「化粧・化粧品・手術」「名刺・会社名・肩書・部長」は場面ごとにまとめる。「首をかしげる」は教師が動作で見せる。「もちろん」「とはいえ」「同時に」は本文の中で前後をどうつなぐかを見ると予告し、「〜によって」「せっかく」は学習項目でまとめて扱う |
| いっしょに考えましょう | 10分 | 「初めて会った人を、どこを見て判断するか」を1人1つ(服・顔・名刺・話し方など)。答えを黒板の端に残すと、学習項目2・3の「〜によって」の例にそのまま使える |
| 読みましょう(大意) | 20分 | 教師の範読→段落ごとの音読→「何で人をかざるか」「それを見た人はどう思うか」「筆者はどう考えているか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めか宿題に回してよい |
| 答えましょう | 10分 | 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の意見を問う設問は、「とはいえ」の前と後ろのどちらに意見があるかを手がかりにする |
| 使いましょう(学習項目1・2) | 30分 | 1コマ目の後半。「〜まで」→「〜によって(手段)」。各項目は導入→口頭→ペアまで。「によって(手段)」の板書は消さずに2コマ目まで残す |
| 使いましょう(学習項目3〜5) | 60分 | 2コマ目。残しておいた手段の板書の横に「〜によって(原因)」を並べ、混ぜた文でどちらかを答えさせる(20分)。「せっかく」(20分)は「〜のに」と「〜から」を上下に並べる。「〜ことだ」(20分)は「ほうがいい」との違いを場面で見せる |
| まとめましょう・話しましょう | 20分 | 「人を外見で判断することについて、自分の考え」を3〜4文で(〜によって・せっかく を1つ以上)。話しましょうはペアで「見た目で判断して、あとで印象が変わった経験」 |
| 漢字を練習しましょう | 10分 | 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する |
学習項目 1 〜まで
意味・はたらき学習項目 1
ふつうはそこまでしない、そこまでは含まれないと思われるものを加えて、「それも」「そんなことも」と言う言い方。いくつかある中で、いちばん意外なもの・程度が上のものに付けることが多く、話し手の驚き・あきれた気持ち・感心が出る。初級の「駅まで歩く」「5時まで働く」(終わりの場所・時間)とは別の使い方で、文法では取り立て助詞のはたらきにあたる。「が」「を」の位置では「が」「を」が消え(子どもまで化粧をする・手術までする)、「に」「で」などはそのまま残る(犬にまで服を着せる)。
接続
名詞+まで(「が」「を」は消える。「に」「で」「と」などは残して+まで)/動詞のて形+まで+〜(そこまでして)
形
Nまで+V(最近は、ペットの写真まで加工する人がいる)N助詞+まで(友だちだけでなく、先生にまで相談した)Vてまで+〜(借金をしてまで、高いかばんを買いたくない)
導入
- 段々上がる「も」の列の最後に置く「休みの日、友だちは掃除もした。洗濯もした。料理もした。窓ふきまでした」と、ふつうの家事から意外な家事へ順に並べて板書する。最後だけ「まで」にして、ふつうはそこまでしないものに付くと言葉で確かめる。「も」と言い換えても文は成り立つが、驚きが出るのは「まで」のほうだと比べる。
- 本文の話題「かざる」から言わせる本文は見た目をかざる話題なので、「顔をかざる」ものを学習者に挙げさせる(髪を切る→化粧をする→眉を描く→手術をする)。「最近は〜まで…する人がいる」の形で、いちばん意外なものに「まで」を付けて言わせる。本文の具体的な中身は断定せず、話題の語だけを使う。
板書案
N(が・を)→ Nまで / Nに → Nにまで
掃除も、洗濯も、窓ふき〔赤〕まで した。
〔青〕ふつう ── ふつう ── 〔赤〕まさか(いちばん意外)
駅まで歩く(終わり)≠ 子どもまで化粧する(意外なものも)
場面と発話(自作)
- 就職活動を始めた友だちが、写真だけでなく爪の色まで気にしている。寮で別の友だちに話す。あの人、面接のために爪の色まで変えたんだって。
- 日本の職場で、上司から名刺の渡し方だけでなく、しまい方まで注意された。同期にこぼす。名刺のしまい方まで言われるとは思わなかったよ。
- 国の友だちに、日本のコンビニのサービスを紹介する。コンビニで、公共料金の支払いまでできるんだよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「この店では何ができる?」「この人は旅行の準備で何をした?」と聞き、学習者が「も」で2つ並べたあと、意外なものを「〜まで」で言う。「に」「で」が残る文(先生にまで・会社でまで)を必ず入れてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が絵カードを3枚ずつ見せる(コンビニ: 弁当・コピー・荷物の発送/旅行の準備: 服・薬・自分の枕)。学習者は全体→個人で「〜も、〜も、〜までできる/持っていく」と言う。3枚目にいつも意外なものを置き、キューに助詞つきの語(先生に・駅で)も混ぜる。
- ペア「びっくり報告」: Aは「日本で驚いたこと」カード(自販機・トイレ・制服など)を引き、「日本では〜まで…するんだよ」とBに話す。Bは「えっ、〜まで?」と聞き返して理由を1つ聞く。4枚で交替し、聞き返しの「〜まで?」でイントネーションを上げることも確かめる。
- 産出「わたしの国の『そこまでする』」: 自分の国で、人が見た目や行事のためにそこまでする例を1つ選び、「〜だけでなく、〜まで…する」を入れて3文で紹介する。教師は、「を」「が」が残っていないか(*手術をまでする)、「まで」が意外なものに付いているかを見る。
つまずきと手当て
- 「を」「が」を残したまま「まで」を付ける(*手術をまでする・*子どもがまで化粧する)。「が」「を」は「まで」に入れ替わり、「に」「で」は残る、と板書の1行目で確かめる
- ふつうのことに付けて、驚きが伝わらない(毎朝顔まで洗った)。文としては言えても、何が意外なのか聞き手に伝わらないので、「も」の列のいちばん最後に置く練習に戻る
- 終わりの「まで」と読み違える(「先生まで来た」を「先生のところまで来た」と取る)。前後の文で、範囲の話か「その人も」の話かを聞き返して確かめる
既習の文型との違い
- 〜さえ(第11課)「さえ」も意外なものを取り立てるが、「漢字はもちろん、ひらがなさえ書けない」のように、いちばん簡単なものも「できない」と言う文によく使う。「まで」は「そこまでできる・する」と程度が上のものを足していく文に多い。どちらも言える文もあるが、学習者には「まで=上へ足していく」「さえ=極端な一つを取り出す(ひらがなさえ書けない/子どもでさえ知っている)」と重心の違いで見せると混ざりにくい。
- 〜なんて(第5課)「なんて」は、取り上げたものに対する話し手の評価(あきれ・軽く見る・驚き)を言う。「まで」は、ほかのものに加えてそれもと言う。「手術までするなんて、信じられない」のように一緒に使えることを見せると、役割が違うことが分かる。
関連する文型
学習項目 2 〜によって(手段)
意味・はたらき学習項目 2
何を使って、または何をもとにしてそれをするかを言う書き言葉の言い方。話し言葉の「で」(話し合いで決める)にあたるが、ニュース・レポート・説明文など、かたい文で使う。前に来るのは方法・手段・よりどころになることがら(話し合い・調査・インターネット・外見)が多く、バスや箸のような身近な道具にはふつう使わない。名詞を後ろに続けるときは「〜による+名詞」(話し合いによる解決)になる。
接続
名詞+によって+動詞/名詞+による+名詞
形
Nによって+V(クラスの代表は、投票によって決める)Nによる+N(アンケートによる調査では、〜)Nによって+判断する/知る/伝える(人は外見によって相手を判断しがちだ)
導入
- 「で」の文をかたい文に書き換える「みんなで話し合って決めた」「ネットで調べた」を板書し、教師が学校の掲示やニュースの調子で「話し合いによって決めました」「インターネットによる調査では」と言い直す。左に話し言葉、右に書き言葉の列を作り、同じ意味でも場面が違うことを見せる。
- 「いっしょに考えましょう」の答えを使う学習者が挙げた「人を判断するところ」(服・名刺・話し方)を使い、「私たちは〜によって人を判断している」と書かせる。本文の話題と重なるので、ここで出た文を本文の精読でも使える。
板書案
話し言葉 N で + V → 書き言葉 N によって + V
話し合いで決めた → 話し合い〔赤〕によって決めた
N による + N(アンケートによる調査)
〔青〕バス・箸など身近な道具 → 「で」のまま
場面と発話(自作)
- 日本語学校で、文化祭の出し物を決めることになった。クラスの代表が先生に報告する。出し物は、クラス全員の投票によって決めました。
- 大学のレポートで、外見が第一印象に与える影響について書く。人は、会って数秒の外見によって相手の印象を決めると言われている。
- 会社の新人研修で、講師が名刺交換の意味を説明する。名刺の交換によって、相手の会社名や肩書を確かめることができます。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が話し言葉の「〜で」の文をキューとして言い、学習者が「〜によって」のかたい文に言い換える。次に「〜による+名詞」の見出し(〜による調査・〜による解決)を作らせてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が「話し合いで決める」「メールで知らせる」「データで分かる」「アンケートで調べる」のように話し言葉の文を言い、学習者が全体→個人で「〜によって…」に言い換える。慣れたら教師が名詞だけ(投票・調査)を言い、学習者が文を作る。
- ペア「アナウンサーと記者」: Aが話し言葉で出来事のメモを読み(町の祭りの日はみんなで話し合って決めたらしい)、Bがニュースの文に直して読む(祭りの日は、住民の話し合いによって決められました)。3つで交替し、受身と一緒に使うと自然な文が多いことに気づかせる。
- 産出「ミニレポート『わたしたちは何で人を判断するか』」: クラスで簡単なアンケート(初めて会った人のどこを見るか)を取り、結果を「〜によって」「〜による」を入れて3〜4文の報告文にまとめる。教師は、身近な道具(バスによって学校に来た)に使っていないか、話し言葉の文に混ぜていないかを見る。
つまずきと手当て
- 交通手段や身近な道具に使う(バスによって学校に来た・箸によって食べる)。文法の誤りというより場面に合わない言い方なので、「によって」は方法やよりどころに使い、道具は「で」のままと板書の4行目で確かめる
- 名詞に続けるときも「によって」のまま(*話し合いによって解決が大切だ)。名詞の前は「による」と、見出しの形(〜による調査)を並べて見せる
- 友だちとの会話に入れてかたくなる(昨日、電話によって母と話した)。話し言葉は「で」、書き言葉は「によって」と、左右の列で場面を選ばせる
既習の文型との違い
- Nで(初級・手段)意味は近いが、「で」は話し言葉・書き言葉のどちらにも使え、道具(箸で・バスで)にも使える。「によって」は書き言葉で、方法やよりどころ(話し合い・調査)に使う。同じ文を「で」と「によって」で言わせ、どちらが会話に合うかを選ばせる。
- 受身の「〜によって」(だれがしたか)「この寺は、ある大工によって建てられた」のように、受身の文でその行為をした人を「によって」で言う使い方もある。手段の「によって」は「何を使って」、受身の「によって」は「だれが」なので、前の名詞が人か方法かで見分けさせる。
- Nによって違う(ちがいのもと)「国によって名刺の渡し方が違う」のように、それが変わると結果も変わる、という使い方もある。後ろに「違う・変わる・さまざまだ」が来ることが多い。手段の文は後ろが「決める・調べる」などの動作なので、後ろの動詞で見分けさせる。
関連する文型
学習項目 3 〜によって(原因)
意味・はたらき学習項目 3
何かが起きた原因を言う書き言葉の言い方。ニュースや説明文で、地震・台風・事故・社会の変化のような、出来事のもとになったことを前に置く。後ろには人の意志でしたことより、起きたこと・変わったこと(止まる・壊れる・増える・変わる)が来ることが多い。名詞の前では「〜による+名詞」(台風による被害)。手段の「によって」と形は同じなので、「人がそれを使って何かをした」のか「それのせいで何かが起きた」のかで見分ける。
接続
名詞+によって+動詞(自動詞・受身が多い)/名詞+による+名詞
形
Nによって+V(大雨によって、電車が止まった)Nによる+N(事故による渋滞が続いている)Nによって+変わる/増える(SNSの広がりによって、人の写真の撮り方が変わった)
導入
- ニュースの見出しを並べる教師が「台風で電車が止まった」と話し言葉で言い、次にニュースの調子で「台風によって電車が止まりました」「台風による被害」と言い直す。見出しの形「〜による〜」を3つ板書し(大雪による遅れ・事故による渋滞・地震による停電)、前が原因、後ろが起きたことだと矢印で結ぶ。
- 前のコマの手段の板書と並べる学習項目2の板書(話し合いによって決めた)を残したまま、横に「台風によって止まった」を書く。「だれかがそれを使ってした?」「それのせいで起きた?」と聞き、左に手段、右に原因と見出しを付ける。最後に混ぜた文を読み上げてどちらかを答えさせる。
板書案
〔赤〕原因 N によって → 起きたこと(止まる・壊れる・変わる)
台風によって、電車が止まった。
N による + N(台風による被害)
〔青〕手段: 話し合いによって決めた / 〔赤〕原因: 台風によって止まった
場面と発話(自作)
- 朝のニュースで、アナウンサーが交通情報を伝える。けさの大雪によって、高速道路の一部が通行止めになっています。
- 大学のゼミで、化粧品の広告について発表する。人気のある俳優を広告に使ったことによって、その化粧品の売り上げは大きく伸びました。
- 会社の報告書で、会議が開けなかった理由を書く。落雷による停電のため、午後の会議は中止となりました。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が出来事の絵(倒れた木・止まった電車・濡れた商品)と原因のカード(台風・事故・雨漏り)を見せ、学習者が「〜によって…」「〜による…」で言う。最後に学習項目2の手段の文と混ぜ、どちらの「によって」かを答えさせてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が原因のカード(台風・地震・事故・大雪)と結果の絵(停電・遅れ・けが人)を組にして見せ、学習者が全体→個人で「〜によって、〜」「〜による〜」の2つの形で言う。次に手段の文(投票によって決めた)を1つ混ぜ、手段か原因かを声で答えさせる。
- ペア「見出しづくり」: Aが話し言葉で出来事を説明し(昨日の大雨で、川の近くの道が使えなくなった)、Bが新聞の見出し(大雨による通行止め)とニュースの一文(大雨によって〜)に直す。Bが言った文が手段か原因かをAが判定して交替する。
- 産出「変化の原因を説明しよう」: 「スマホの広がり」「SNS」「制服の自由化」などから1つ選び、それによって人の生活や見た目がどう変わったかを「〜によって」を入れて3〜4文で書く。教師は、自分の小さな失敗の理由に使ってかたくなっていないか(寝坊によって遅刻した)、名詞の前を「による」にしているかを見る。
つまずきと手当て
- 自分の小さな失敗の理由に使い、かたくて不自然になる(寝坊によって、授業に遅れました)。原因の「によって」はニュースや報告の文の言い方で、話すときは「寝坊して」「寝坊で」と言い換えさせる
- 名詞の前を「によって」のままにする(*地震によって被害)。見出しや名詞の前は「による」(地震による被害)と、板書の3行目で確かめる
- 手段の文と原因の文を取り違えて読む(「広告によって売り上げが伸びた」を、だれかが広告を使って売り上げを伸ばした、とだけ取る)。どちらにも読めることを確かめ、後ろが「起きたこと」なら原因として読めると押さえる
既習の文型との違い
- 〜によって(手段)(この課の学習項目2)形は同じで、手段は「人がそれを使って何かをする」、原因は「それのせいで何かが起きる」。後ろが意志の動作(決める・調べる)なら手段、起きたこと(止まる・増える)なら原因と読めることが多い。学習者が混ぜたときは「だれがした?」と聞き返すと見分けられる。
- 〜で/〜ため(に)(原因)「台風で」は話し言葉でも使えるいちばんふつうの言い方、「台風のため(に)」はお知らせや掲示に多い改まった言い方、「台風によって」はニュースや説明文に多い。会話・掲示・ニュースの3つの場面カードを見せて、どれを使うかを選ばせる。
関連する文型
学習項目 4 せっかく
意味・はたらき学習項目 4
苦労して手に入れたこと、めったにない機会、だれかがしてくれたことを「大切なのに・むだにしたくない」と思う気持ちを表す副詞。後ろの形で2つに分かれ、「せっかく〜のに」は、それがむだになって残念だ・不満だという気持ち、「せっかく〜(の)だから」は、むだにしないように〜しよう・〜したほうがいいという意志や勧めになる。「せっかくの+名詞」(せっかくの休み)、誘いを断るときの「せっかくですが」もよく使う。ふつうの毎日のことには使わず、手間・時間・お金がかかったこと、珍しいことに使う。
接続
せっかく+文の普通形+のに/せっかく+文の普通形+(の・ん)だから/せっかくの+名詞
形
せっかく〜のに、〜(せっかく化粧をしたのに、雨で崩れてしまった)せっかく〜(ん)だから、〜(せっかく京都まで来たんだから、お寺を見ていこう)せっかくの+N(せっかくの休みなのに、仕事の電話が来た)せっかくですが、〜(誘いを断る。せっかくですが、その日は予定があります)
導入
- 同じ「準備」から2つの結末を作る「きのう3時間かけて、パーティーの料理を作った」という状況を板書し、結末を2つ見せる。①友だちが来なかった→「せっかく作ったのに、だれも来なかった」(残念)。②料理がたくさん余った→「せっかく作ったんだから、全部食べよう」(勧め)。前は同じで、後ろの形と気持ちが違うことを上下に並べる。
- 「時間・お金・苦労」がかかったものを集める学習者に「準備に時間やお金がかかったこと」を挙げさせる(髪を切った・服を買った・チケットを取った・日本に来た)。どれにも「せっかく」が付けられることを確かめ、反対に毎日の歯みがきには付けにくいことを比べて、何に付くかの感覚をつかませる。
板書案
せっかく 〜 のに、〔赤〕残念・不満
せっかく 〜 んだから、〔青〕〜しよう/〜したら?
せっかく作ったのに、だれも来なかった。/せっかく作ったんだから、食べよう。
せっかくの+N(せっかくの休み) せっかくですが、〜(断り)
場面と発話(自作)
- 面接のために新しいスーツを買ったが、オンライン面接になった。寮で友だちに。せっかくスーツを買ったのに、画面には上しか映らなかったよ。
- 日本に旅行に来た国の家族が、ホテルで休んでばかりいる。せっかく日本に来たんだから、温泉に行ってみようよ。
- 会社の先輩に週末の食事に誘われたが、その日は大学院の説明会がある。せっかくですが、土曜日は説明会があって……。また誘ってください。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「時間をかけて準備したこと」の状況を言い、学習者が残念な結末なら「せっかく〜のに」、まだ間に合うなら「せっかく〜から」で言う。誘いの断り「せっかくですが」も入れてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が状況カード(ケーキを焼いた・チケットを取った・化粧をした・休みを取った)と、結末の絵(雨・中止・余った・時間がある)を組にして見せる。学習者は全体→個人で、残念なら「せっかく〜のに」、まだできることがあれば「せっかく〜から」で言う。同じカードで両方の文を作らせる回も入れる。
- ペア「残念と、じゃあこうしよう」: Aが「せっかく〜のに、〜」と残念な出来事を話し、Bが「じゃあ、せっかく〜んだから、〜しよう」と前向きな提案で返す(せっかく花見の弁当を作ったのに雨だ/せっかく作ったんだから、部屋で食べよう)。3往復で交替。
- 産出「せっかくですが ロールプレイ」: 上司・先輩・友だちから誘われる役割カードを使い、「せっかくですが」で理由を言って断り、別の日を提案する会話を作って発表する。教師は、残念な気持ちを「せっかく〜から」で言っていないか、ふつうの毎日のことに使っていないか、目上への断りが丁寧かを見る。
つまずきと手当て
- 残念な気持ちを言うのに「から」「ので」を付けて、前後がつながらなくなる(せっかく作ったから、だれも来なかった)。残念なら「のに」、勧めや意志なら「から」と、板書の1・2行目の色で確かめる
- ふつうの毎日のことに使う(せっかく朝ご飯を食べたのに、おなかがすいた)。時間・お金・苦労がかかったことか、めったにないことかを聞き、当てはまらなければ「〜のに」だけでよいと言い換えさせる
- 相手が来てくれたことへのお礼で「せっかく」ばかり使う(せっかく来てくださって、ありがとうございます)。誤りではないが、手間をかけて来てくれた相手へのお礼は「わざわざ」のほうが合う、と compare で比べる
既習の文型との違い
- わざわざ(初級)「わざわざ」は、しなくてもいいのに手間をかけてしたこと(相手がしてくれたことのお礼や、自分の行動への不満)に目を向ける。「せっかく」は、手に入れた機会やものの大切さに目を向け、むだにしたくない気持ちを言う。お礼は「わざわざ来てくださって」、残念は「せっかく来たのに」と場面ごとに選ばせる。
- 〜のに(初級)「〜のに」だけでも予想と違う結果への残念さは言える。「せっかく」を前に付けると、前のことがどれだけ大切だったかが強く出る。「作ったのに」と「せっかく作ったのに」を読み比べ、どちらが悔しそうに聞こえるかを聞く。
関連する文型
学習項目 5 〜ことだ
意味・はたらき学習項目 5
「〜するのがいちばん大切だ」「〜しなさい」と、相手に勧めたり忠告したりする言い方。先生・先輩・親など、経験のある人が目下の人や友だちに、短く言い切ることが多い。「〜ないことだ」は「〜しないほうがいい」という忠告。一般論として「学生は〜ものだ」と言う第6課の「〜ものだ」と違い、「〜ことだ」はいま目の前の相手のいまの問題について言う。目上の人に使うと、上から言っているように聞こえる。
接続
動詞の辞書形+ことだ/動詞のない形+ことだ
形
V辞書形+ことだ(面接に受かりたいなら、まず自分の言葉で話す練習をすることだ)Vない形+ことだ(人を見た目だけで判断しないことだ)〜たければ/〜なら、〜ことだ(信頼されたければ、約束を守ることだ)
導入
- 先輩からのアドバイスを1つに絞る教師が先輩の役になり、後輩の悩み(日本人の友だちができない)に「〜たらどう?」「〜ほうがいいよ」と、いくつも助言を言う。最後に「でも、いちばん大事なのは、自分から話しかけることだね」と1つに絞って言い切る。たくさんの助言の中から一番大事なものを強く言う形だと、板書の囲みで見せる。
- 本文の「中身」の話題につなぐ本文は外見と中身の話題なので、「人から信頼されるには何がいちばん大切か」を学習者に聞く。出た答え(約束を守る・努力を続ける)を「〜たければ、〜ことだ」の形で言い直させる。本文の結論は断定せず、学習者自身の考えとして言わせる。
板書案
V辞書形/Vない形 + ことだ(いちばん大事なのは〜だ)
合格したければ、毎日少しずつ練習することだ。
〔赤〕先生・先輩 → 学生・後輩(上から下へ)
〔青〕目上には → 〜たほうがいいと思います
場面と発話(自作)
- 日本語学校で、N2の試験が近くて焦っている学生に先生が言う。あと1か月なら、新しい本を買うより、今の問題集を最後までやることだね。
- アルバイト先で、敬語が苦手だと悩む後輩に、先輩がアドバイスする。まずはお客さんによく言う言葉を、そのまま覚えることだよ。
- 見た目ばかり気にしている高校生の弟に、兄がメッセージを送る。服より、人の話をちゃんと聞くことだな。それがいちばん好かれるよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が悩みのカードを読み、学習者が先輩・先生の立場で「〜ことだ」「〜ないことだ」で一言アドバイスする。「たければ/なら」の条件を前に付けた文を作らせ、目上には「〜たほうがいいと思います」に言い換えることを確かめてから教科書の練習へ。
- 口頭教師が悩みを短く言い(漢字が覚えられない・朝起きられない・面接で緊張する・お金が足りない)、学習者が全体→個人で「〜ことだ」の一言アドバイスを言う。次に「しないほうがいいこと」を「〜ないことだ」で言わせ、肯定と否定を交互にする。
- ペア「先輩の一言」: Aが後輩役で悩みカードを読み、Bが先輩役で「〜ほうがいいよ」と助言を2つ言ったあと、「でも、いちばん大事なのは〜ことだね」で1つに絞る。Aは「なるほど」「でも〜」と反応する。3枚で交替。
- 産出「新入生への一言アドバイス」: 来年この学校に入る新入生に向けて、生活・勉強・アルバイトの3つの場面で「〜たければ、〜ことだ」を使った一言を書き、理由を1文ずつ付けて発表する。教師は、目上の相手に使っていないか、過去形にしていないか(*勉強したことだ)、「ことにする」と混ざっていないかを見る。
つまずきと手当て
- 目上の人に使って失礼になる(部長、少し休むことです)。文法の誤りではないが、上から言う言い方なので、目上には「少しお休みになったほうが……」のように言い換える、と板書の4行目で確かめる
- 過去の形に付けて勧めにする(*もっと早く勉強したことだ)。「ことだ」は、これからすることへの勧めなので、動詞は辞書形かない形だけと枠で見せる
- 「〜ことにする」(第2課)と混ざる(毎日走ることだ、を「毎日走ると決めた」の意味で言う)。「ことにする」は自分で決めること、「ことだ」は相手に勧めることと、言う人と相手を絵で示して分ける
既習の文型との違い
- 〜ものだ(第6課)「〜ものだ」は「学生は勉強するものだ」のように、本来そうするのがふつうだという一般論を言う。「〜ことだ」は、目の前の相手のいまの悩みに対して、具体的に何をすればいいかを勧める。同じ悩みに両方で答えさせ、どちらが相手への直接の助言に聞こえるかを比べる。
- 〜ほうがいい(初級)「〜ほうがいい」は、いくつかある助言の一つとしてやわらかく勧める。「〜ことだ」は、その中でいちばん大事なものを言い切るので、強く聞こえる。友だち同士では「ほうがいいよ」が多く、「ことだ」は先生・先輩らしい言い方だと場面で見せる。
- 〜ことにする/した(第2課)「〜ことにする」は自分がそうすると決めること、「〜ことだ」は相手にそうするよう勧めること。「毎日走ることにした」と「毎日走ることだ」を並べ、言っている人と、することになる人がだれかを聞くと区別がつく。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 38 語(本文を読むための語 38・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で38語。「外見/中身」は対で、「地味」は反対の「派手」も添えて板書する。「化粧・化粧品・手術」は見た目を変える方法、「選挙・ポスター・スター・まるで」は写真で人をよく見せる話、「名刺・会社名・肩書・部長・信頼・安心」は仕事の場面と、本文の話題ごとにまとめると覚えやすい。「首をかしげる」は教師が動作で見せる。「もちろん」「とはいえ」「同時に」は単語として覚えさせるより、本文の中で前後をどうつなぐかを確かめる。「〜によって」「せっかく」は語彙にも出るが、意味と使い方は学習項目2〜4でまとめて扱う。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
第7課の語彙リスト(38語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い
本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(外見・中身・判断・化粧・手術・選挙・ポスター・まるで・スター・制服・進学・名刺・肩書・信頼・とはいえ・人間・理想・努力)から、人は化粧や手術で外見をかざり、選挙のポスターの写真はまるでスターのようで、制服で進学先を決める人もいる、名刺の会社名や肩書を見て相手を信頼したり安心したりする——人間を中身で判断するのが理想だが、外見や肩書も同時に見てしまう、という話題の読み物だと推測される。精読では「何で人をかざるか(例を本文から集める)」「それを見た人はどう判断するか」「名刺の話はどんな例として出ているか」「筆者は外見と中身をどう考えているか」の4点を段落ごとに聞く。「もちろん」「とはいえ」「同時に」が筆者の意見の向きを変えるところなので、そこで一度止めて、前と後ろのどちらに筆者の言いたいことがあるかを学習者に言わせる。
宿題と次のコマ
使いましょう(学習項目1〜5)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。まとめましょうの「人を外見で判断することについて、自分の考え」を4〜5文(〜によって・せっかく・〜ことだ を1つ以上)で書いてくる。次のコマは本文の精読の続きと話しましょう、書いてきた文の発表。
よくある質問
第7課「かざる」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2、2コマ目で学習項目3〜5とまとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が38語と多めなので、語彙の確認に時間がかかるクラスは、精読を3コマ目に回してもかまいません。
「〜によって」の手段と原因は、どう見分けさせればいいですか?
後ろの動詞で見分けさせるのが分かりやすいです。決める・調べる・伝えるのような人の動作なら手段、止まる・壊れる・増えるのような起きたことなら原因と読めることが多いです。迷う文は「だれかがそれを使ってした?それのせいで起きた?」と聞き返させます。
「〜によって」と「〜で」は、どう教え分けますか?
意味は近く、違いは文体と使える名詞です。「で」は会話でも文章でも使え、箸やバスのような道具にも使えますが、「によって」はニュースやレポートの言い方で、方法・調査・出来事などに使います。同じ文を2つの形で言わせ、会話とニュースのどちらに合うかを選ばせると定着します。
「せっかく〜のに」と「せっかく〜から」の違いは何ですか?
前の部分は同じで、後ろの気持ちが違います。「のに」はそれがむだになって残念・不満、「から」はむだにしないように何かをしよう・したほうがいいという意志や勧めです。同じ状況から2つの結末を作って上下に並べて導入すると、違いが一目で分かります。
「〜ことだ」と「〜ものだ」「〜ほうがいい」はどう違いますか?
「〜ものだ」は本来そうするのがふつうだという一般論、「〜ほうがいい」はやわらかい助言、「〜ことだ」はいちばん大事なことを言い切る強い勧めです。「〜ことだ」は先生や先輩が目下に言う形なので、目上に使わないことも一緒に押さえます。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。