夢や願いを「かなえる」ことがテーマの課です。本文〈ふたつの夢〉は、交流の場で二人がそれぞれの夢を語り、筆者がその二つを比べながら、物質的な豊かさと心の豊かさ、教育や環境の違いについて考える読み物だと、新しい言葉から推測されます。文型は、気になる点を脇に置いて言いたいことを言う「〜はともかく(として)」、これ一つで十分という条件を言う「〜さえ〜ば」、事実をもとに呼び名・きっかけ・判断を言う「〜ことから」、むずかしいことへの強い願いを言う「〜ないものか」。「さえ〜ば」は第11課の「さえ」と、「ないものか」は強い否定の「〜ものか」と、形が似ていて意味の向きが違うので、並べて見せるのが芯になります。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 新しい言葉 | 20分 | 46語と多いので、まとまりで分ける。「交流・自己(自己紹介)・司会・語る・話し終える」は交流の場面の語として一つに、「貧しい・抜け出す・働きづめ・満足(に〜ない)・施設・教育」と「豊か・恵む(恵まれる)・満たす・物質的・表面的・本物」は対になる二つのまとまりとして左右に板書すると、本文の対比の予告になる。「胸が痛む」「(手を)差し伸べる」は慣用句として形ごと覚えさせる。「〜はともかく・〜さえ〜ば・〜ことから・〜ないものか」は使いましょうで、「〜よりほかはない・こそ・すら」は本文の中で扱うと予告するだけにする |
| いっしょに考えましょう | 10分 | 「子どものころの夢と、今の夢」を1人1つ。夢がかなうために必要だと思うことも一言ずつ聞いて黒板の端に残しておくと、学習項目2(〜さえ〜ば)・4(〜ないものか)の導入に使える |
| 読みましょう(大意) | 20分 | 教師の範読→段落ごとの音読→「だれが・どんな場で夢を語ったか」「二つの夢はそれぞれどんなものか」「筆者は二つを比べて何を感じたか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めか宿題に回してよい |
| 答えましょう | 15分 | 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の気持ちを問う設問は、「裏返し」「胸が痛む」のような気持ちを表す語を手がかりに、口頭で短く答えさせる |
| 使いましょう(学習項目1・2) | 25分 | 1コマ目の後半。「〜はともかく(として)」(10分)は、脇に置く側と言いたい側の位置を先に固める。「〜さえ〜ば」(15分)は第11課の「さえ」と上下に並べてから、品詞ごとの形を練習する。産出の活動は2コマ目の初めに回してもよい |
| 使いましょう(学習項目3・4) | 60分 | 2コマ目。前のコマの産出を10分で終えてから「〜ことから」(25分)。「から・ので」との違いを、名前の由来の例で確かめる。続けて「〜ないものか」(25分)。辞書形+ものか(強い否定)と必ず言い比べる |
| まとめましょう・話しましょう | 20分 | 「わたしの夢と、それをかなえるために必要なこと」を3〜4文で(〜さえ〜ば/〜ないものか を1つ以上)。話しましょうはペアで「お金や物の豊かさと心の豊かさ、自分の夢に近いのはどちらか」 |
| 漢字を練習しましょう | 10分 | 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する。「交流・司会・実現・可能性・施設・環境・物質的」のような漢語は、本文の中で読みを確かめる |
「Aはともかく(として)、B」の形で、Aのことはいまは問題にしないで脇に置き、話し手が本当に言いたいBのほうを取り上げる言い方。Aが大事ではないと言っているのではなく、「Aについての判断はいまはしない」という態度を示す。Bには評価や判断が来ることが多く、「見た目はともかく、味はいい」のように、Aには少し不満があってBをよく言う形がよく使われる。「〜かどうかはともかく」「いつ行くかはともかく」のように、まだ決まっていないことを脇に置くのにも使う。「〜ならともかく」(初めてならともかく、三回目なら覚えてほしい)は「Aなら分かるが、Bは困る」という別の使い方なので、この課では発展として触れる程度にする。文法の見方では、話題を示す「は」に「ともかく」が付いた、取り立ての表現の一つ。
名詞+はともかく(として)(値段はともかく)/普通形+かどうかは ともかく(間に合うかどうかはともかく)/疑問詞を含む文+かは ともかく(だれが行くかはともかく)。「として」を付けると少しかたく、改まった言い方になる
教師が一つのものの「よくない点」と「よい点」のカード(古いアパート: 駅から遠い/部屋が広い)を出し、学習者が「〜はともかく、〜」で言う。次に「〜かどうかはともかく」の形で、まだ決まっていないことを脇に置いて、いまできることを言わせてから教科書の練習へ。
「Aさえ〜ば、B」で、Aという条件が一つそろえば、それだけでBが成り立つ(ほかの条件は要らない)と言う言い方。話し手の気持ちは「これだけで十分」「これさえあれば大丈夫」で、後ろにはよい結果が来ることが多い(地図さえあれば一人で行ける)。後ろに「〜のに」が付くと「そのたった一つがなかったから、うまくいかなかった」という残念な気持ちになる(あと5分さえあれば、全部解けたのに)。第11課の「〜さえ」(いちばん当然のことさえない)とは、後ろが否定か条件かで別の使い方になる。文法の見方では、取り立ての「さえ」と条件の「ば」が組んで、条件をそれ一つに絞り、それで十分だと言う表現。
名詞+さえ+Vば/Aければ/Nなら・であれば(時間さえあれば・天気さえよければ)。動詞を強めるときは Vマス形+さえ すれば(練習しさえすれば)、Vて形+さえ いれば(黙ってさえいれば)、い形容詞は Aく+さえ あれば(安くさえあれば)。「が・を」は消え、「に・で」などは残る(駅にさえ着けば)
教師が目標と条件のカード(「日本の大学に入る→日本語能力試験の合格」「一人で料理する→レシピの動画」)を見せ、学習者が「〜さえ〜ば、〜」で言う。次に名詞・動詞・い形容詞のキューを混ぜて「〜しさえすれば」「〜くさえあれば」の形を作らせ、最後に「〜のに」を付けた残念な気持ちの文を一つずつ言わせてから教科書の練習へ。
「Aことから、B」で、Aという事実や様子をもとに(理由・きっかけ・根拠にして)、Bということになった・Bと判断できる、と言う書き言葉の言い方。よく使うのは三つで、①名前や呼び名の由来(形が星に似ていることから「星の砂」と呼ばれている)、②あることが始まったきっかけ(駅から近いことから、留学生に人気が出た)、③見えている事実からの判断(電気が消えていることから、もう帰ったと分かる)。「から」「ので」が自分の事情や気持ちの理由にも使えるのに対して、「ことから」は事実を客観的に示して、そこから導かれることを言うので、説明文やニュース、読み物に多い。後ろに依頼・誘い・意志の文は来にくい。
普通形+ことから。な形容詞は「な/である」、名詞は「である」を付ける(便利なことから・港町であることから)。過去のことは「た」の形(見つかったことから)
教師が事実のカード(「この坂は桜の木が多い」「この店は24時間開いている」「床がぬれている」)を見せ、学習者が「〜ことから、〜と呼ばれている/〜と分かる」の形で文を作る。な形容詞と名詞のキュー(「便利」「港町」)を混ぜて「なことから」「であることから」を確かめてから教科書の練習へ。
「何とか〜ないものか(ないものだろうか)」の形で、むずかしいと分かっていても、何とかしてそうなってほしい・そうできないだろうか、という強い願いを言う言い方。自分の力だけではどうにもならないことに向かって言うことが多く、可能形(〜られないものか)や「何とか」「どうにか」と一緒に使うことが多い(何とか安く行けないものか)。形は否定でも、意味は「そうなってほしい」という願い。いっぽう辞書形+ものか(あんな店、二度と行くものか)は「絶対に〜しない」という強い否定・決意で、意味が反対に近いので、この課で必ず並べて見せる。書き言葉や、改まった相談・独り言のような言い方で、友だちとの会話では「〜ないかなあ」がふつう。文法の見方では、話し手の願望を表すモダリティの表現。
動詞のない形+ものか(可能形のない形が多い: 行けないものか・直せないものか)。「Nはないものか」(何かいい方法はないものか)の形も多い。やわらかくすると「〜ないものだろうか/〜ないものでしょうか」。話し言葉では「〜ないもんか」
教師が困った状況のカード(「部屋が西向きで夏が暑い」「好きな歌手のチケットが売り切れ」「通勤に1時間半かかる」)を見せ、学習者が「何とか〜ないものか」で願いを言う。次に「もう二度と〜するものか」と混ぜたキューで、願いか強い否定かを選ばせてから教科書の練習へ。
この課の新出語は 46 語(本文を読むための語 46・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で46語と多い。一語ずつ訳すより、「交流の場で使う語(交流・自己・司会・語る・話し終える)」「苦しい暮らしを言う語(貧しい・働きづめ・抜け出す・満足に〜ない・胸が痛む)」「豊かさを言う語(豊か・恵まれる・満たす・物質的・表面的・本物)」のまとまりで板書すると、本文の二つの夢の対比が見えやすい。「かなう/かなえる」「表れる/現れる」「未来/将来」は使い分けを短く確かめる。「〜よりほかはない」「こそ」「すら」は語彙に出るが学習項目ではないので、本文の中で「〜しかない」「〜さえ」と比べて意味を確かめるにとどめる。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(交流・自己・司会・語る・実現・かなう・貧しい・抜け出す・教育・環境・差し伸べる・未来・輝く・笑顔・物質的・恵む・豊か・表面的・本物・胸が痛む)から、交流の場で二人がそれぞれの夢を語り、筆者が二つの夢を比べながら、本当の豊かさについて考える、という話題の読み物だと推測される。夢の一方には、貧しい暮らしから抜け出すことや子どもに教育を届けることが、もう一方には、物質的には恵まれた暮らしの中での夢が関わっている可能性があるが、どちらの夢がよいかを本文が決めているとは限らないので、決めつけずに読ませたい。精読では「二人はそれぞれどんな夢を、どのように語ったか」「夢を語るときの様子(目・笑顔・言葉)はどうだったか」「筆者は何に胸が痛んだのか」「筆者が考える豊かさとは何か」の4点を段落ごとに聞く。「裏返し」「表面的」のように、見えている様子と本当の気持ちを分ける語が出たところで一度止め、何の裏返しなのかを学習者に言わせる。本文に学習項目の文型が出ていれば、その文で止めて、だれの・どんな気持ちかを確かめる。
使いましょう(学習項目1〜4)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。まとめましょうの「わたしの夢と、それをかなえるために必要なこと」を4文(〜さえ〜ば と 〜ないものか を1つずつ、〜はともかく か 〜ことから を1つ以上)で書いてくる。次のコマは本文の精読の続きと話しましょう。
『中級から学ぶ日本語』第19課「かなえる」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2(〜はともかく/〜さえ〜ば)、2コマ目で学習項目3・4(〜ことから/〜ないものか)とまとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が46語と多いので、交流・苦しい暮らし・豊かさのまとまりで板書して時間を詰めるか、精読を3コマ目に回してもかまいません。
「〜さえ〜ば」と第11課の「〜さえ」は、どう教え分ければいいですか?
後ろの形で分けます。第11課の「さえ」は「ひらがなさえ読めない」のように否定と組み、いちばん当然のこともできないという驚きや不満を言います。この課の「さえ〜ば」は条件と組み、「それ一つで十分だ」と言います。同じ語で二つの文を上下に板書し、後ろが「ない」か「ば」かを学習者に指させると混ざりにくくなります。
「〜ないものか」と「〜ものか」の違いはどう説明すればいいですか?
「ない形+ものか」は「何とか〜できないだろうか」という願い、「辞書形+ものか」は「絶対に〜しない」という強い否定です。否定の「ない」があるほうが願いになるので、学習者が逆に覚えやすいところです。願う顔と怒った顔の絵を出し分けて言い比べさせ、作文では必ずどちらの気持ちかを確かめます。
「〜ことから」と「〜から」「〜ので」は何が違いますか?
「から・ので」は自分の事情や気持ちの理由にも使えますが、「ことから」は見えている事実をもとに、呼び名の由来・きっかけ・判断を述べる書き言葉です。後ろに誘いや依頼は来にくく、「〜と呼ばれている」「〜と考えられる」が来ることが多いです。名前の由来を説明する活動で練習させると、使う場面がつかみやすくなります。
「〜はともかく」と「〜はもちろん」「〜はさておき」はどう違いますか?
「はもちろん」はAも当然含めてさらにBも、と付け加える言い方で、「はともかく」はAをいまは話題から外してBだけを評価します。「はさておき」は話題を切り替える働きが強く、司会の「冗談はさておき」のような場面で使います。学習者が「AもBも」のつもりで「はともかく」を使うとAが問題外に聞こえるので、板書の矢印の向きで見せると伝わります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。