日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策の問題集

中級から学ぶ日本語 第19課「かなえる」の教案

『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈ふたつの夢〉

夢や願いを「かなえる」ことがテーマの課です。本文〈ふたつの夢〉は、交流の場で二人がそれぞれの夢を語り、筆者がその二つを比べながら、物質的な豊かさと心の豊かさ、教育や環境の違いについて考える読み物だと、新しい言葉から推測されます。文型は、気になる点を脇に置いて言いたいことを言う「〜はともかく(として)」、これ一つで十分という条件を言う「〜さえ〜ば」、事実をもとに呼び名・きっかけ・判断を言う「〜ことから」、むずかしいことへの強い願いを言う「〜ないものか」。「さえ〜ば」は第11課の「さえ」と、「ないものか」は強い否定の「〜ものか」と、形が似ていて意味の向きが違うので、並べて見せるのが芯になります。

このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目4時間90分×2コマ語彙46語

この課のねらい(Can-do)

  • 「〜はともかく(として)」で、気になる点を脇に置いて、いちばん言いたい評価や判断を言える。「〜かどうかはともかく」で、まだ決まっていないことを脇に置いて、いまできることを言える
  • 「〜さえ〜ば」で、目標のためにいちばん大事な条件を一つに絞って言える。「〜しさえすれば」「〜くさえあれば」の形が作れ、第11課の「さえ」との違いが分かる
  • 「〜ことから」で、地名や呼び名の由来、物事のきっかけ、事実からの判断を、説明文やスピーチで述べられる
  • 「〜ないものか」で、自分の力だけではむずかしいことへの強い願いを言える。辞書形+ものか(強い否定)と取り違えない
  • 本文の二つの夢を比べて、豊かさとは何か、夢をかなえるには何が要るかを、自分の夢や経験と結びつけて話せる

進め方と時間配分

目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。

段時間やること
新しい言葉20分46語と多いので、まとまりで分ける。「交流・自己(自己紹介)・司会・語る・話し終える」は交流の場面の語として一つに、「貧しい・抜け出す・働きづめ・満足(に〜ない)・施設・教育」と「豊か・恵む(恵まれる)・満たす・物質的・表面的・本物」は対になる二つのまとまりとして左右に板書すると、本文の対比の予告になる。「胸が痛む」「(手を)差し伸べる」は慣用句として形ごと覚えさせる。「〜はともかく・〜さえ〜ば・〜ことから・〜ないものか」は使いましょうで、「〜よりほかはない・こそ・すら」は本文の中で扱うと予告するだけにする
いっしょに考えましょう10分「子どものころの夢と、今の夢」を1人1つ。夢がかなうために必要だと思うことも一言ずつ聞いて黒板の端に残しておくと、学習項目2(〜さえ〜ば)・4(〜ないものか)の導入に使える
読みましょう(大意)20分教師の範読→段落ごとの音読→「だれが・どんな場で夢を語ったか」「二つの夢はそれぞれどんなものか」「筆者は二つを比べて何を感じたか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めか宿題に回してよい
答えましょう15分設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の気持ちを問う設問は、「裏返し」「胸が痛む」のような気持ちを表す語を手がかりに、口頭で短く答えさせる
使いましょう(学習項目1・2)25分1コマ目の後半。「〜はともかく(として)」(10分)は、脇に置く側と言いたい側の位置を先に固める。「〜さえ〜ば」(15分)は第11課の「さえ」と上下に並べてから、品詞ごとの形を練習する。産出の活動は2コマ目の初めに回してもよい
使いましょう(学習項目3・4)60分2コマ目。前のコマの産出を10分で終えてから「〜ことから」(25分)。「から・ので」との違いを、名前の由来の例で確かめる。続けて「〜ないものか」(25分)。辞書形+ものか(強い否定)と必ず言い比べる
まとめましょう・話しましょう20分「わたしの夢と、それをかなえるために必要なこと」を3〜4文で(〜さえ〜ば/〜ないものか を1つ以上)。話しましょうはペアで「お金や物の豊かさと心の豊かさ、自分の夢に近いのはどちらか」
漢字を練習しましょう10分読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する。「交流・司会・実現・可能性・施設・環境・物質的」のような漢語は、本文の中で読みを確かめる

学習項目 1 〜はともかく(として)

意味・はたらき学習項目 1

「Aはともかく(として)、B」の形で、Aのことはいまは問題にしないで脇に置き、話し手が本当に言いたいBのほうを取り上げる言い方。Aが大事ではないと言っているのではなく、「Aについての判断はいまはしない」という態度を示す。Bには評価や判断が来ることが多く、「見た目はともかく、味はいい」のように、Aには少し不満があってBをよく言う形がよく使われる。「〜かどうかはともかく」「いつ行くかはともかく」のように、まだ決まっていないことを脇に置くのにも使う。「〜ならともかく」(初めてならともかく、三回目なら覚えてほしい)は「Aなら分かるが、Bは困る」という別の使い方なので、この課では発展として触れる程度にする。文法の見方では、話題を示す「は」に「ともかく」が付いた、取り立ての表現の一つ。

接続

名詞+はともかく(として)(値段はともかく)/普通形+かどうかは ともかく(間に合うかどうかはともかく)/疑問詞を含む文+かは ともかく(だれが行くかはともかく)。「として」を付けると少しかたく、改まった言い方になる

形
Nはともかく(として)、〜(デザインはともかく、この椅子は座りやすい)〜かどうかはともかく、〜(合格できるかどうかはともかく、受けてみる価値はある)疑問詞〜かはともかく、〜(いつ帰国するかはともかく、ビザの期限は確かめておこう)Nならともかく(発展: 初めてならともかく、三回目なら手順を覚えてほしい)

導入

  • 二つの箱に分けて評価する教師が手作りのケーキの写真(形はくずれているが、おいしそう)を見せ、「形は?」「味は?」と聞く。板書に左右の箱を描き、左の「形」を点線で囲んで横に寄せ、右の「味」を太い線で囲んで「形はともかく、味はおいしかった」と言う。点線の箱は「捨てた」のではなく「いまは話さない」箱だと説明する。
  • 決まっていないことを脇に置く「いっしょに考えましょう」で出た夢の話を使い、「その夢がかなうかどうかは、まだ分からない。でも…」と言いながら「かなうかどうかはともかく、目標があるのはいいことだ」と板書する。「〜かどうか」が前に来る形を見せ、学習者自身の夢でも一文作らせる。

板書案

A(いまは話さない)+はともかく(として)、B(言いたいこと)
形はともかく、味はおいしかった。
〔青〕点線の箱=A(脇に置く) 〔赤〕太線の箱=B(評価・判断)
〜かどうかは/疑問詞〜かは + ともかく
※ 〜ならともかく=「Aなら分かるが」(発展)

場面と発話(自作)

  • 留学生が友だちと、新しくできたラーメン屋に行った。帰り道に感想を話す。店の雰囲気はともかく、スープは本当においしかったね。
  • 会社の会議で、新しいイベントの案について課長が意見を言う。予算のことはともかくとして、アイデアとしてはとても面白いと思います。
  • 進学を考えている学習者が、日本語学校の先生に相談する。合格できるかどうかはともかく、一度その大学の説明会に行ってみようと思います。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が一つのものの「よくない点」と「よい点」のカード(古いアパート: 駅から遠い/部屋が広い)を出し、学習者が「〜はともかく、〜」で言う。次に「〜かどうかはともかく」の形で、まだ決まっていないことを脇に置いて、いまできることを言わせてから教科書の練習へ。

  1. 口頭物や場所の写真に「×」と「○」の点を付けたカード(「古いスマホ: 見た目×・電池○」「寮: 部屋が狭い×・駅に近い○」「先週の映画: 話×・音楽○」)を見せ、全体で「見た目はともかく、電池は長持ちする」と言う。続いて「〜かどうかはともかく」のキュー(「休みが取れる?→計画を立てる」「試験に受かる?→申し込む」)を個人指名で出し、文を完成させる。
  2. ペア「辛口レビュー」: Aは店・商品・映画のカードを引き、Bの「どうだった?」に「〜はともかく、〜」で答える。Bは「じゃあ、また行く?(また買う?)」と聞き返し、Aは脇に置いた点も含めて一言で答える。3枚ごとに役を交替する。
  3. 産出「本音の推薦文」: 自分の町・学校・好きな店を、よくない点も正直に入れて紹介する3〜4文の推薦文を書き、グループで読み合って、行ってみたい所を一つ選ぶ。教師は、脇に置く側(はともかく の前)と言いたい側(後ろ)が逆になっていないか、後ろが評価や判断の文になっているかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 脇に置く側と言いたい側を逆にする(料理をほめたいのに「味はともかく、形がきれいだ」と言い、味がよくなかったように聞こえる)。「どちらをいちばん話したいですか」と聞き、言いたいほうを後ろに置かせる
  • 「〜はもちろん」と混ぜて、Aも含める意味で使う(「漢字はもちろん」のつもりで「漢字はともかく、ひらがなも書けない」と言う)。「もちろん」はAも当然含める、「ともかく」はAをいまは考えない、と板書の矢印の向きで見せる
  • 副詞の「ともかく」(ともかく行ってみよう=とにかく)と同じだと思い、「は」を落とす(*値段ともかく、品質はいい)。文型としては「Nはともかく」で「は」が要ると板書で示す

既習の文型との違い

  • 〜はもちろん(既習の表現)「はもちろん」はAを当然のこととして含め、さらにBも、と付け加える(漢字はもちろん、ひらがなも書けない=どちらも書けない)。「はともかく」はAをいまは話題から外して、Bだけを評価する。学習者が「AもBも」のつもりで「はともかく」を使うと、Aが問題外のように聞こえる。
  • 〜はさておき/〜は別として「はさておき」は話題を切り替える働きが強く、「冗談はさておき、本題に入ります」のように、司会や会話の区切りで使うことが多い。「は別として」は「Aを例外として除く」意味が強い。「はともかく」は評価の文に多く、三つが入れ替えられる場面もあるが、司会の切り替えには「さておき」が自然なことが多い。
関連する文型

学習項目 2 〜さえ〜ば

意味・はたらき学習項目 2

「Aさえ〜ば、B」で、Aという条件が一つそろえば、それだけでBが成り立つ(ほかの条件は要らない)と言う言い方。話し手の気持ちは「これだけで十分」「これさえあれば大丈夫」で、後ろにはよい結果が来ることが多い(地図さえあれば一人で行ける)。後ろに「〜のに」が付くと「そのたった一つがなかったから、うまくいかなかった」という残念な気持ちになる(あと5分さえあれば、全部解けたのに)。第11課の「〜さえ」(いちばん当然のことさえない)とは、後ろが否定か条件かで別の使い方になる。文法の見方では、取り立ての「さえ」と条件の「ば」が組んで、条件をそれ一つに絞り、それで十分だと言う表現。

接続

名詞+さえ+Vば/Aければ/Nなら・であれば(時間さえあれば・天気さえよければ)。動詞を強めるときは Vマス形+さえ すれば(練習しさえすれば)、Vて形+さえ いれば(黙ってさえいれば)、い形容詞は Aく+さえ あれば(安くさえあれば)。「が・を」は消え、「に・で」などは残る(駅にさえ着けば)

形
Nさえ〜ば(パスポートさえあれば、手続きはすぐ終わる)Vマス形+さえすれば(毎日少し聞きさえすれば、耳は慣れてくる)Vて形+さえいれば(ここに座ってさえいれば、順番が来たら呼ばれる)〜さえ〜ば〜のに(あと1点さえあれば、合格できたのに)

導入

  • 「これ一つ」に丸を付ける教師が旅行のかばんの絵を描き、中に入れる物(服・本・充電器・パスポート)を並べる。「全部要る?」と聞いたあと、パスポートだけを丸で囲んで「パスポートさえあれば、海外に行ける」と言う。ほかの物には×を付けて「ほかは向こうで買えばいい」と添え、さえ〜ばが「これ一つで十分」を言うと見せる。
  • 第11課の「さえ」と上下に並べる第11課で学んだ「ひらがなさえ読めない」を上の行に、「ひらがなさえ読めれば、駅の名前は分かる」を下の行に書く。上は「いちばん下の段もできない」、下は「その段まで行けば十分」で、後ろの形(ない/ば)で意味が分かれることを学習者に言わせる。

板書案

A(これ一つ)+さえ+〜ば、B(よい結果)
パスポートさえあれば、海外に行ける。
〔赤〕Nが/Nを→Nさえ 〔赤〕V→Vマス形+さえすれば/Vて+さえいれば 〔青〕A→Aく+さえあれば
〔緑〕〜さえ〜ば〜のに=たった一つがなくて残念
※ 第11課「〜さえ〜ない」=いちばん当然のこともない

場面と発話(自作)

  • アルバイトの面接で、店長が留学生に勤務の条件を説明する。経験はなくても大丈夫です。土日にさえ入ってもらえれば、ほかの日は自由に決めていいですよ。
  • 試験の前の週、寮のルームメイトに勉強の進み具合を話す。聴解はもうだいたい大丈夫。あとは漢字さえ覚えれば、何とかなると思う。
  • 会社で、締め切りに間に合わなかった報告書について、同僚に話す。先方のデータさえ昨日届いていれば、今日出せたんですけどね。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が目標と条件のカード(「日本の大学に入る→日本語能力試験の合格」「一人で料理する→レシピの動画」)を見せ、学習者が「〜さえ〜ば、〜」で言う。次に名詞・動詞・い形容詞のキューを混ぜて「〜しさえすれば」「〜くさえあれば」の形を作らせ、最後に「〜のに」を付けた残念な気持ちの文を一つずつ言わせてから教科書の練習へ。

  1. 口頭目標のカード(「試験に合格する」「日本で働く」「朝早く起きる」)と、その条件のカード(「過去の問題を解く」「ビザ」「目覚まし時計を二つ」)を組み合わせて見せ、全体で「ビザさえあれば、日本で働ける」と言う。次に品詞のキュー(名詞「天気」→天気さえよければ/動詞「謝る」→謝りさえすれば/い形容詞「近い」→近くさえあれば)を個人指名で出し、形を確かめる。
  2. ペア「お悩み相談」: Aは悩みのカード(「日本語がなかなか上達しない」「部屋が寒い」「友だちができない」)を読み、Bが「〜さえ〜ば、大丈夫だよ」で解決の条件を一つだけ答える。Aは「本当に? それだけ?」と聞き返し、Bが理由を一言足す。2枚ごとに役を交替する。
  3. 産出「わたしの夢の条件」: 自分の夢や目標を一つ書き、「〜さえ〜ば、〜できる」で、いちばん大事な条件を一つだけ挙げて、なぜそれ一つで足りるのかを2〜3文で説明する。グループで発表し、聞き手は「その条件だけで本当に足りるか」を質問する。教師は、条件が一つに絞れているか、品詞ごとの形(しさえすれば・くさえあれば)が合っているかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 動詞の形を作り間違える(*勉強するさえすれば・*練習すればさえ)。動詞を強めるときはマス形+さえすれば(勉強しさえすれば)か、名詞の形(勉強さえすれば)だと、二つの言い方を並べて板書する
  • 「が・を」を残す(*お金がさえあれば)。第11課の「さえ」と同じで、「が・を」の位置はさえだけになり、「に・で」の位置は助詞が残る(駅にさえ着けば)と確かめる
  • 条件をいくつも並べたり、大きな条件に付けたりして、「これだけで十分」という気持ちと合わなくなる(「時間さえあって、お金さえあれば」)。条件は一つに絞るか、「時間とお金さえあれば」とまとめさせる。後ろに誘いや依頼を置く文は、「〜たら」のほうが自然に聞こえることが多いとも添える

既習の文型との違い

  • 〜さえ(第11課)第11課の「さえ」は「時間さえない」のように否定と組み、いちばん当然のこともないという驚きや不満を強める。この課の「さえ〜ば」は条件と組み、「時間さえあれば」と、それ一つで十分だと言う。学習者が同じ意味だと思うことがあるので、後ろの形(ない/ば)で意味が分かれると確かめる。
  • 〜ないことには(第18課)「〜ないことには」は「Aがなければ、Bはできない」と、Aが欠かせないことを言い、後ろは否定の形が多い。「さえ〜ば」は「Aがあれば、それだけでBができる」と、Aで足りることを言う。同じ条件でも、向きが「ないとだめ」か「あれば十分」かで分かれる。
  • 〜だけ〜ば(既習の条件)「だけ〜ば」「〜ばいい」でも近いことが言えるが、さえを使うと、ほかの条件は要らないという気持ちがはっきりする。「だけ」は数や量を限る感じが強く(一日10分だけ練習すれば)、「さえ」は条件の種類を一つに絞る感じが強い傾向がある。
関連する文型

学習項目 3 〜ことから

意味・はたらき学習項目 3

「Aことから、B」で、Aという事実や様子をもとに(理由・きっかけ・根拠にして)、Bということになった・Bと判断できる、と言う書き言葉の言い方。よく使うのは三つで、①名前や呼び名の由来(形が星に似ていることから「星の砂」と呼ばれている)、②あることが始まったきっかけ(駅から近いことから、留学生に人気が出た)、③見えている事実からの判断(電気が消えていることから、もう帰ったと分かる)。「から」「ので」が自分の事情や気持ちの理由にも使えるのに対して、「ことから」は事実を客観的に示して、そこから導かれることを言うので、説明文やニュース、読み物に多い。後ろに依頼・誘い・意志の文は来にくい。

接続

普通形+ことから。な形容詞は「な/である」、名詞は「である」を付ける(便利なことから・港町であることから)。過去のことは「た」の形(見つかったことから)

形
〜ことから、〜と呼ばれている(由来: 白い花が一面に咲くことから、「白の丘」と呼ばれている)〜ことから、〜(きっかけ: 祖父が漁師だったことから、海の仕事に興味を持った)〜ことから、〜と考えられる/分かる(判断: 足あとが残っていることから、だれかが来たと分かる)Nであることから(この町は港町であることから、魚料理の店が多い)

導入

  • 名前の由来クイズ教師が身近な言葉や名前(「ねこ背」、学校の近くの地名、料理の名前)を見せ、「どうしてこの名前?」と聞く。理由が出たら、板書の「〜ことから、〜と呼ばれている」の枠に入れて言い直す(背中が猫のように丸くなることから「ねこ背」と言う)。学習者の国の地名や料理の由来も一つずつ言わせると、使う場面が見える。
  • 「から」と比べて、だれの理由かを見る「頭が痛いから、休みます」(自分の事情)と「窓ガラスが割れていたことから、警察はだれかが入ったと見ている」(事実からの判断)を上下に書く。上は話し手の事情や気持ち、下は外から見える事実とそこから分かること、と学習者に言わせ、「ことから」は事実を示す側の言い方だとまとめる。

板書案

A(事実・様子)+ことから、B(呼び名・きっかけ・判断)
背中が猫のように丸くなることから、「ねこ背」と言う。
〔赤〕Naな/Nである+ことから 〔青〕過去のことは「た」の形
〔緑〕から・ので=自分の事情にも ことから=事実をもとに(書き言葉)
※ 後ろに「〜ましょう」「〜てください」は来にくい

場面と発話(自作)

  • 留学生が日本語のクラスで、自分の国の町を紹介するスピーチをする。私の町は、昔から大きな市場があることから、「国の台所」と呼ばれています。
  • 工場の機械が止まった原因を、担当者が報告書にまとめて上司に説明する。配線の一部が焦げていたことから、原因は電気の故障だと考えられます。
  • 日本語学校の先生が、新しく始めた読書会のきっかけを学習者に話す。「本を読む仲間がほしい」という声が多かったことから、この会を始めました。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が事実のカード(「この坂は桜の木が多い」「この店は24時間開いている」「床がぬれている」)を見せ、学習者が「〜ことから、〜と呼ばれている/〜と分かる」の形で文を作る。な形容詞と名詞のキュー(「便利」「港町」)を混ぜて「なことから」「であることから」を確かめてから教科書の練習へ。

  1. 口頭事実と結果をつなぐ絵カード(「三つの川が集まる町→『三川』という名前」「窓から海が見える部屋→人気がある」「玄関に靴がたくさん並んでいる→お客さんが来ている」)を見せ、全体で「〜ことから、〜」と言う。次に品詞を変えたキュー(「静か」「学生の町」「雪が多かった」)で個人指名し、「静かなことから」「学生の町であることから」「多かったことから」の形を確かめる。
  2. ペア「名前の由来インタビュー」: Aは自分の国の地名・料理・あだ名などを一つ言い、Bが「どうしてそう呼ばれているんですか」と聞く。Aは「〜ことから、〜と呼ばれています」で答え、Bは聞いた内容を「つまり、〜からなんですね」と話し言葉に言い直して確かめる。交替して2つずつ。
  3. 産出「ふるさと名前図鑑」: 自分の町や国の名前・名物の由来を一つ選び、3〜4文の紹介文(事実→ことから→呼び名→ひとこと感想)を書いて、クラスの図鑑として掲示する。教師は、前の部分が事実になっているか(気持ちや予定になっていないか)、名詞・な形容詞の形(である・な)が合っているかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 自分の気持ちや体の調子の理由に使う(「頭が痛いことから、今日は休みます」)。意味は通じるが、とても不自然に聞こえる。自分の事情は「から・ので」と言い直させ、「ことから」は事実を外から説明するときに使うと確かめる
  • 名詞に直接付ける(*港町ことから、魚がおいしい)。名詞は「である」、な形容詞は「な」を入れると、板書の〔赤〕の行で確かめる
  • 後ろに誘いや依頼・意志を置く(「雨が降っていることから、傘を持っていきましょう」)。後ろは事実や判断を述べる文にし、行動を勧めるときは「から・ので」を使うと伝える

既習の文型との違い

  • 〜によって(原因)(第7課)「によって」は「台風によって電車が止まった」のように、出来事を起こした原因を名詞で示し、後ろは起きた結果が多い。「ことから」は文の形で事実を示し、後ろには呼び名・きっかけ・判断が来る。名前の由来を言うときは「ことから」を使わせる。
  • 〜から/〜ので(初級)「から・ので」は話し言葉でも書き言葉でも使い、自分の事情や気持ちの理由も言える。「ことから」は書き言葉寄りで、事実を客観的に示して、そこから分かることを言う。スピーチや作文で、事実を説明する部分は「ことから」、自分の気持ちの部分は「から」と、文の役割で使い分けさせる。
  • 〜ことで(手段・原因)「毎日日記を書くことで、漢字を覚えた」のように、「ことで」は自分がした行動が手段になって結果が生まれることを言う。「ことから」は行動ではなく、見えている事実を根拠やきっかけにすることが多い。
関連する文型

学習項目 4 〜ないものか

意味・はたらき学習項目 4

「何とか〜ないものか(ないものだろうか)」の形で、むずかしいと分かっていても、何とかしてそうなってほしい・そうできないだろうか、という強い願いを言う言い方。自分の力だけではどうにもならないことに向かって言うことが多く、可能形(〜られないものか)や「何とか」「どうにか」と一緒に使うことが多い(何とか安く行けないものか)。形は否定でも、意味は「そうなってほしい」という願い。いっぽう辞書形+ものか(あんな店、二度と行くものか)は「絶対に〜しない」という強い否定・決意で、意味が反対に近いので、この課で必ず並べて見せる。書き言葉や、改まった相談・独り言のような言い方で、友だちとの会話では「〜ないかなあ」がふつう。文法の見方では、話し手の願望を表すモダリティの表現。

接続

動詞のない形+ものか(可能形のない形が多い: 行けないものか・直せないものか)。「Nはないものか」(何かいい方法はないものか)の形も多い。やわらかくすると「〜ないものだろうか/〜ないものでしょうか」。話し言葉では「〜ないもんか」

形
何とか+V可能形のない形+ものか(何とか週末に休みが取れないものか)Nはないものか(もう少し駅に近い部屋はないものか)Vない形+ものだろうか(この古い自転車、まだ直せないものだろうか)Vない形+ものでしょうか(改まった相談: 提出を一日延ばしていただけないものでしょうか)

導入

  • ため息とともに願いを言う教師が満員電車や長い行列の写真を見せ、ため息をついて「毎朝こんなに混んで……。何とか座れないものか」と言う。板書に「むずかしい → でも、そうなってほしい」の矢印を書き、「座れない」は否定の形だが、気持ちは「座りたい」だと学習者に言わせる。
  • 「行くものか」と並べて向きを見せる「あの店にはもう二度と行くものか」(怒った顔の絵)と「あの店にもう一度行けないものか」(願う顔の絵)を上下に書く。辞書形+ものかは「絶対行かない」、ない形+ものかは「行きたい」と、小さな形の違いで気持ちが反対になることを学習者に確かめさせる。本文の夢の話題につなげ、「その夢を何とかかなえられないものか」と言ってみせる。

板書案

何とか + Vない(可能形が多い)+ ものか = そうなってほしい
毎朝混んでいる。何とか座れないものか。
〔赤〕行けないものか(願い) 〔青〕行くものか(絶対に行かない)
やわらかく: 〜ないものだろうか/〜ないものでしょうか
〔緑〕友だちとの会話では「〜ないかなあ」

場面と発話(自作)

  • 年末に家族に会いに帰りたいが、航空券が高い。留学生が寮の部屋で独り言のように言う。帰りたいけど高いなあ……。もう少し安い航空券はないものか。
  • 残業の多い部署の会議で、課長がみんなの前で話す。このままでは皆さんの負担が大きすぎます。何とか作業を減らせないものか、方法を一緒に考えましょう。
  • 地域のボランティアの会で、子どもの学習支援に使う場所が足りないという話になった。代表が市の担当者に相談する。使っていない公民館の部屋を、平日の夕方だけでも貸していただけないものでしょうか。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が困った状況のカード(「部屋が西向きで夏が暑い」「好きな歌手のチケットが売り切れ」「通勤に1時間半かかる」)を見せ、学習者が「何とか〜ないものか」で願いを言う。次に「もう二度と〜するものか」と混ぜたキューで、願いか強い否定かを選ばせてから教科書の練習へ。

  1. 口頭困った状況の絵(満員電車・売り切れの札・雨の予報が出た運動会)を見せ、全体で「何とか座れないものか」「どうにかチケットが手に入らないものか」「何とか晴れないものか」と言う。次に教師が願う顔と怒った顔のカードを出し分け、個人指名で「〜ないものか」(願い)と「〜ものか」(もう〜しない)を言い分けさせる。
  2. ペア「何とかならない?会議」: Aは身近な困りごと(「寮の洗濯機がいつも混んでいる」「駅の近くに自転車置き場がない」)を「何とか〜ないものか」で言い、Bが「〜たらどう?」と方法を一つ提案する。Aは「それなら、〜さえ〜ば何とかなりそう」と学習項目2の形で受ける。交替して2つずつ。
  3. 産出「町への手紙」: 自分の住んでいる町や学校で変わってほしいことを一つ選び、「〜ないものでしょうか」を使った丁寧な要望の手紙(困っていること→願い→理由→自分にできること)を4〜5文で書く。教師は、願いの部分が「ない形+ものか」になっているか(辞書形にして反対の意味になっていないか)、自分ですぐできることに使っていないかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 辞書形にしてしまい、反対の意味になる(「早く春が来るものか」と言って、「春なんか来ない」と聞こえる)。ない形か辞書形かで気持ちが逆になるので、板書の〔赤〕〔青〕の行で必ず言い比べさせる
  • 自分ですぐにできることに使う(「明日は早く起きないものか」)。この形は自分の力だけではむずかしいことへの願いなので、自分の行動なら「早く起きられないものか」と可能形にするか、「早く起きよう」と意志で言わせる
  • 友だちとの会話でそのまま使い、大げさに聞こえる。話し言葉では「〜ないかなあ」「〜られないかな」がふつうで、「ないものか」は作文・スピーチ・改まった相談で使うと、場面で分ける

既習の文型との違い

  • 〜ものか(強い否定)「辞書形+ものか」は「あんな店、二度と行くものか」のように、「絶対に〜しない」と強く否定したり、怒って決意を言ったりする。「ない形+ものか」は「もう一度行けないものか」と願いを言う。否定の「ない」があるほうが願い、ないほうが否定で、形と気持ちの向きが逆に見えるので、学習者が取り違えやすい。
  • 〜ものだ(第6課)第6課の「ものだ」は「人は忙しいとまわりが見えなくなるものだ」のように、世の中の性質や常識を言う。この課の「ないものか」も「もの」を使うが、一般論ではなく、話し手のその場の強い願いを言う。どちらにも「もの」があるので、意味が別だと確かめる。
  • 〜ないかなあ/〜ないだろうか(会話の言い方)「早くバスが来ないかなあ」は会話でふつうに使う願いの言い方で、軽い。「ないものか」は「何とか」と組んで、むずかしいことへの強い願いを言い、書き言葉や改まった場面に合う。「〜ないだろうか」は願いのほかに、遠回しな提案や推量にも使う。
関連する文型

語彙の扱い

この課の新出語は 46 語(本文を読むための語 46・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。

新しい言葉は本文に出る順で46語と多い。一語ずつ訳すより、「交流の場で使う語(交流・自己・司会・語る・話し終える)」「苦しい暮らしを言う語(貧しい・働きづめ・抜け出す・満足に〜ない・胸が痛む)」「豊かさを言う語(豊か・恵まれる・満たす・物質的・表面的・本物)」のまとまりで板書すると、本文の二つの夢の対比が見えやすい。「かなう/かなえる」「表れる/現れる」「未来/将来」は使い分けを短く確かめる。「〜よりほかはない」「こそ」「すら」は語彙に出るが学習項目ではないので、本文の中で「〜しかない」「〜さえ」と比べて意味を確かめるにとどめる。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。

第19課の語彙リスト(46語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い

本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(交流・自己・司会・語る・実現・かなう・貧しい・抜け出す・教育・環境・差し伸べる・未来・輝く・笑顔・物質的・恵む・豊か・表面的・本物・胸が痛む)から、交流の場で二人がそれぞれの夢を語り、筆者が二つの夢を比べながら、本当の豊かさについて考える、という話題の読み物だと推測される。夢の一方には、貧しい暮らしから抜け出すことや子どもに教育を届けることが、もう一方には、物質的には恵まれた暮らしの中での夢が関わっている可能性があるが、どちらの夢がよいかを本文が決めているとは限らないので、決めつけずに読ませたい。精読では「二人はそれぞれどんな夢を、どのように語ったか」「夢を語るときの様子(目・笑顔・言葉)はどうだったか」「筆者は何に胸が痛んだのか」「筆者が考える豊かさとは何か」の4点を段落ごとに聞く。「裏返し」「表面的」のように、見えている様子と本当の気持ちを分ける語が出たところで一度止め、何の裏返しなのかを学習者に言わせる。本文に学習項目の文型が出ていれば、その文で止めて、だれの・どんな気持ちかを確かめる。

宿題と次のコマ

使いましょう(学習項目1〜4)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。まとめましょうの「わたしの夢と、それをかなえるために必要なこと」を4文(〜さえ〜ば と 〜ないものか を1つずつ、〜はともかく か 〜ことから を1つ以上)で書いてくる。次のコマは本文の精読の続きと話しましょう。

よくある質問

  • 『中級から学ぶ日本語』第19課「かなえる」は何コマで終わりますか?

    90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2(〜はともかく/〜さえ〜ば)、2コマ目で学習項目3・4(〜ことから/〜ないものか)とまとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が46語と多いので、交流・苦しい暮らし・豊かさのまとまりで板書して時間を詰めるか、精読を3コマ目に回してもかまいません。

  • 「〜さえ〜ば」と第11課の「〜さえ」は、どう教え分ければいいですか?

    後ろの形で分けます。第11課の「さえ」は「ひらがなさえ読めない」のように否定と組み、いちばん当然のこともできないという驚きや不満を言います。この課の「さえ〜ば」は条件と組み、「それ一つで十分だ」と言います。同じ語で二つの文を上下に板書し、後ろが「ない」か「ば」かを学習者に指させると混ざりにくくなります。

  • 「〜ないものか」と「〜ものか」の違いはどう説明すればいいですか?

    「ない形+ものか」は「何とか〜できないだろうか」という願い、「辞書形+ものか」は「絶対に〜しない」という強い否定です。否定の「ない」があるほうが願いになるので、学習者が逆に覚えやすいところです。願う顔と怒った顔の絵を出し分けて言い比べさせ、作文では必ずどちらの気持ちかを確かめます。

  • 「〜ことから」と「〜から」「〜ので」は何が違いますか?

    「から・ので」は自分の事情や気持ちの理由にも使えますが、「ことから」は見えている事実をもとに、呼び名の由来・きっかけ・判断を述べる書き言葉です。後ろに誘いや依頼は来にくく、「〜と呼ばれている」「〜と考えられる」が来ることが多いです。名前の由来を説明する活動で練習させると、使う場面がつかみやすくなります。

  • 「〜はともかく」と「〜はもちろん」「〜はさておき」はどう違いますか?

    「はもちろん」はAも当然含めてさらにBも、と付け加える言い方で、「はともかく」はAをいまは話題から外してBだけを評価します。「はさておき」は話題を切り替える働きが強く、司会の「冗談はさておき」のような場面で使います。学習者が「AもBも」のつもりで「はともかく」を使うとAが問題外に聞こえるので、板書の矢印の向きで見せると伝わります。

この課に関係する用語・解説・練習問題

この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。

PRこの教科書

手引きで扱っている教科書。本文・例文は手元の教科書で確かめてください。