日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策の問題集

中級から学ぶ日本語 第17課「なおす」の教案

『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈命〉

命と医療がテーマの課です。本文は、医療が進んで平均寿命が伸び、高齢化が進んだいま、治療で命を長く保つことと、患者本人の意思や苦しみ、看護する家族の気持ちや経済的な負担のあいだで、人は「いかに生きるか」を問いかける読み物だと、新しい言葉から推測されます。文型は、ある動作のあと次に起こるはずのことが起こらないまま続く「〜たきり」、そんな様子ではよい結果にならないと批判・心配する「〜ようでは」、一つの事柄の別の面を並べる「その一方(で)」、立場や事情があって「しない/しなければならない」を言う「〜わけにはいかない」。どれも本文のような意見を述べる文章で働く形なので、身近な例で形を入れたあと、最後は「よい面と問題の面を並べて自分の意見を言う」活動に集めるのが芯になります。命や家族の病気は学習者によってはつらい話題なので、自分のことを話させる場面では身近な人の話を強いず、一般論や架空の人物でも答えられるようにしておきます。

このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目4時間90分×2コマ語彙49語

この課のねらい(Can-do)

  • 「〜たきり」で、ある動作のあと次に起こるはずのことが起こらないまま続いている様子を、心配や困った気持ちとともに言え、「〜たまま」「〜たばかり」と取り違えない
  • 「〜ようでは」で、相手や今の様子を見て「そんなことでは、よい結果にならない」と注意・批判でき、使う相手との関係にも気を配れる
  • 「その一方(で)」で、一つの事柄のよい面と問題の面を並べて、意見文やスピーチの論を組み立てられる
  • 「〜わけにはいかない」「〜ないわけにはいかない」で、能力ではなく立場・約束・決まりのために「しない」「しなければならない」と、理由とともに言える
  • 本文を読んで、医療の進歩がもたらしたよい面と問題の面を整理し、患者本人と家族の立場の違いをふまえて自分の考えを話せる

進め方と時間配分

目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。

段時間やること
1コマ目・新しい言葉20分49語。医療の語(医療・治療・患者・看護・器具)、長生きと社会の語(平均・寿命・高齢化・長期)、気持ちと判断の語(苦しみ・割り切る・犠牲・意思)の3つのまとまりに分けて、読みと短い意味を確かめる。「救う/助かる」「治す/治療」「生きる/生かす」は対で見せ、「血を分けた」「先が見えない」「言うまでもない」は決まった言い方として場面で示す。「〜たきり」「その一方で」「〜わけにはいかない」は学習項目で扱うと予告するだけにする
1コマ目・いっしょに考えましょう10分「長生きしたいか」「年をとったらどんなふうに暮らしたいか」を1人1つ、一般論でもよいとして話させる。出てきた「よいこと」と「心配なこと」を黒板の左右に残すと、学習項目3「その一方(で)」の導入に使える
1コマ目・読みましょう(大意)20分教師の範読→段落ごとの音読→「医療の進歩で何が変わったか」「どんな問題が出てきたか」「筆者は読み手に何を問いかけているか」の3点で大意。精読は2コマ目に回す
1コマ目・答えましょう10分設問をいっしょに解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の考えを問う設問は、「本来」「いかに」「〜わけにはいかない」のような語を手がかりに口頭で短く答えさせる
1コマ目・使いましょう(学習項目1・2)30分「〜たきり」(15分。時間の線で「次が来ない」を見せ、名詞の「〜きり」と分ける)→「〜ようでは」(15分。後ろが悪い結果になることと、使う相手との関係を確かめる)。産出の活動は2コマ目の初めに回してもよい
2コマ目・復習と精読25分絵カードで「〜たきり」「〜ようでは」を5分で復習してから精読。「その一方で」が出るところで止め、前後でどんな面が並んでいるかを学習者に言い分けさせる。患者と家族の立場が出る段落では、「〜からすると」でだれの見方かを確かめる
2コマ目・使いましょう(学習項目3・4)35分「その一方(で)」(15分。よい面と問題の面の表から、2文→1文へ)→「〜わけにはいかない」(20分。辞書形とない形を×の数の図で分け、能力の「できない」と混ぜて区別させる)
2コマ目・まとめましょう・話しましょう20分「医療が進んで長生きできるようになったことのよい面と問題の面」を3〜4文で(その一方で を1回以上)。話しましょうはペアで「自分ならどう考えるか」を、自分や家族のことではなく一般論で話してよいとして進める
2コマ目・漢字を練習しましょう10分読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する

学習項目 1 〜たきり

意味・はたらき学習項目 1

ある動作を一度したあと、その次に起こるはずのこと・ふつうなら続くはずのことが起こらず、その状態が続いていることを言う。後ろには「〜ない」「〜ままだ」「〜ている」のような状態の文が来ることが多く(出かけたきり帰ってこない・一度会ったきり会っていない)、話し手の心配・困った気持ち・あきれがこもりやすい。「寝たきり」は、寝た状態から起き上がれないまま続いていることを言う語として名詞のようにも使い、医療・介護の話題でよく出る。名詞や数に付く「二人きり」「一回きり」は「〜だけ」の意味で、動詞のた形に付く「〜たきり」とは別に扱う。文法の見方では、動作が終わったあとの状態が続くことを言う形なので、アスペクト(動きのどの段階か)にかかわる表現の一つと見てよい。

接続

動詞のた形+きり(出かけたきり・会ったきり)。後ろは「〜ない」「〜ている」などの状態の文。話し言葉では「〜たっきり」とも言う

形
Vたきり、〜ない(3年前に会ったきり、一度も会っていない)Vたきりだ(兄は朝出かけたきりだ)寝たきり(の)+N(寝たきりの生活)Vたっきり(話し言葉。電話したっきり、返事がない)

導入

  • 時間の線で「次」が来ないことを見せる黒板に横に時間の線を引き、左に「部屋に入った」と点を打つ。ふつうなら次に来る「出てくる」を点線で書いて×を付け、「部屋に入ったきり、出てこない」と言う。点のあとに次の点が来ないまま線だけが伸びていることを矢印で見せ、「どのくらい時間がたったか」を学習者に聞く。
  • 教師の困った話で気持ちを乗せる「友だちに本を貸したきり、半年たってもまだ返ってこない」と教師が困った顔で話す。「貸した」と「返ってこない」のあいだに長い時間があることを確かめ、「〜たきり」には「次が来なくて困っている・心配だ」という気持ちが入りやすいことを、学習者の口から言わせる。

板書案

Vた + きり、〜ない
〔赤〕● 出かけた ────────→ 〔青〕× 帰ってこない(点線)
朝、出かけたきり、まだ帰ってこない。
〔緑〕寝たきり(の人)=寝た状態が続いている
〔注〕二人きり・一回きり=「〜だけ」(別のもの)

場面と発話(自作)

  • 寮のルームメートが土曜日に出かけて、月曜の朝になっても戻らない。寮の管理人に相談する。土曜日の朝に出かけたきり、まだ帰ってこないんです。電話もつながらなくて。
  • 卒業して国に帰った先輩のことを、同じ学校の後輩と話す。先輩とは卒業式で会ったきり、もう2年も話していないなあ。
  • 介護の仕事を始めた技能実習生が、日本語の先生に仕事の内容を話す。寝たきりの方のお世話をしています。体の向きを変えるのがいちばん大変です。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が「出かけた→帰らない」「買った→使っていない」「始めた→続いていない」のように、動作と起こらないことを対で出し、学生が「〜たきり、〜ない」で言う。名詞の「〜きり(二人きり)」の文を1つ混ぜて意味の違いを聞いてから教科書の練習へ。

  1. 口頭教師が絵カード(ドアから出ていく人と、何日もたった空っぽの部屋/箱に入ったままの新しいギター/1ページだけ書いた日記帳)を見せ、全体→個人で言わせる。キューは「出ていった」→「朝出ていったきり、帰ってこない」、「ギターを買った」→「ギターを買ったきり、一度も弾いていない」、「日記を書き始めた」→「1日書いたきり、続いていない」。後ろが「〜ない」「〜ままだ」の文になっているかを確かめながら、列ごと→個人指名へ。
  2. ペアAは「連絡が取れない人の友人」、Bは「話を聞く人(寮の管理人・学校の先生)」。Aのカードには「いつ・何をしたあと・何が起こっていないか」が書いてあり、Bは見られない(情報差)。Bが「最後に会ったのはいつですか」「そのあとは?」と聞き、Aが「〜たきり、〜ない」で答え、Bがメモを取って最後に確かめる。2回ごとに役を交替する。
  3. 産出「やりかけ告白」: 自分が「始めたきり・買ったきり・登録したきり」になっていることを一つ選び(語学アプリ・運動の道具・読みかけの本など)、理由と今の気持ちも入れて3文で話す。教師は、「〜たきり」の後ろが本当に「次が起こっていない」文になっているか、「〜たまま」で十分な文に使っていないか、前がた形になっているかを聞いて直す。

つまずきと手当て

  • 次のことがふつうに起こった文に使う(「朝ご飯を食べたきり、学校に行った」)。「〜たきり」は次が起こらないときの形なので、「そのあと、何かしましたか」と聞き、起こったなら「〜てから」「〜たあとで」に言い換えさせる
  • 辞書形やて形に付ける(*会うきり、会っていない/*会ってきり、会っていない)。前は必ずた形だと板書の枠で確かめ、「会ったきり」を何度か口で言わせる
  • 名詞の「〜きり」と混ぜて意味を取り違える(「二人きりで話した」を「二人が話したあと、何も起こらない」と読む)。動詞のた形に付くか、名詞・数に付くかで意味が分かれることを、2つの文を並べて示す

既習の文型との違い

  • 〜まま(第13課)「〜たまま」は、ある状態を変えずに次の動作をする・その状態が続く、と言う形で、後ろに別の動作が来てもよい(電気をつけたまま寝た)。「〜たきり」は次に起こるはずのことが起こらないことに目が向き、後ろはふつう「〜ない」「〜ている」の状態の文になる。「電気をつけたきり寝た」は不自然になる。
  • 〜たばかり(第5課)「〜たばかり」は動作のあと時間があまりたっていないことを言う。「〜たきり」は逆に、動作のあと長い時間がたっても次が来ないことを言う。「先月会ったばかり」はまだ新しい、「先月会ったきり」はそれから会っていない、と並べると違いが見える。
関連する文型

学習項目 2 〜ようでは

意味・はたらき学習項目 2

「そんな様子・そんなやり方なら、よい結果にはならない」と、相手や今の状態を批判したり心配したりする言い方。前に今の好ましくない様子(遅刻する・すぐあきらめる・人の話を聞かない)を置き、後ろに「〜ない」「だめだ」「困る」「無理だ」のような悪い結果や否定の評価が来る。「〜ては」(そうすると悪い結果になる)に近いが、「〜ようでは」は「そんな程度・そんなふうなら」と、今の様子を一段低く見る気持ちが強いので、目上の人には使いにくい。話し言葉では「〜ようじゃ」になる。文法の見方では、後ろに否定的な結果が来る条件の表現で、話し手の評価(モダリティ)がこもる形と見てよい。

接続

動詞の辞書形・ない形・ている形+ようでは(遅れるようでは・調べないようでは・休んでいるようでは)。い形容詞に付くこともある(字がこんなに小さいようでは)。後ろは悪い結果・否定の評価

形
V辞書形+ようでは、〜ない(毎朝遅刻するようでは、信用されない)Vない形+ようでは、〜(辞書を引かないようでは、上達しない)〜ようでは困る/だめだ(会議の資料を読んでこないようでは困る)〜ようじゃ(話し言葉。こんな問題でまちがえるようじゃ、合格は無理だよ)

導入

  • 先輩の一言で「そんなことでは」を見せる「試験の前の日だけ勉強する」と言う学生の絵を見せ、教師が先輩の役で首を振りながら「前の日だけ勉強するようでは、合格できないよ」と言う。前に今の様子、後ろによくない結果が来ることを板書で左右に分け、前の様子に下向きの矢印を付けて「そんな程度なら」という気持ちを示す。
  • 「〜ては」「〜ようなら」と言い比べる「夜ふかししては、体をこわすよ」と「毎晩夜ふかしするようでは、体をこわすよ」を並べ、どちらが今の様子に対する批判が強いかを聞く。さらに「熱が下がらないようなら、病院に行ってください」を出し、後ろに勧めが来る「ようなら」とは違って、「ようでは」の後ろはいつも悪い結果だと確かめる。

板書案

V辞書形/Vない/Vている + ようでは、〜ない/だめだ/困る
〔青〕今の様子(よくない)↓ → 〔赤〕よくない結果
前の日だけ勉強するようでは、合格できない。
〔注〕話し言葉 → 〜ようじゃ / 〜ようなら+勧め(別のもの)

場面と発話(自作)

  • コンビニのアルバイトで、新人がお客さんの前でスマホを見ていた。店長が先輩のアルバイトに話す。お客さんの前でスマホを見ているようでは、まだ一人で店に立たせられないね。
  • 日本語学校の先生が、宿題を出さない学生と進学の面談をする。毎回宿題を出さないようでは、推薦状を書くのは難しいですよ。
  • 熱があるのに休まずにアルバイトに行く友だちに、寮で言う。薬を飲むだけで全然休まないようじゃ、なかなか治らないよ。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が「よくない様子」(遅刻する・メモを取らない・すぐ人に頼る)と「目標」(就職・合格・上達)を組みにして出し、学生が「〜ようでは、〜ない」で注意の文を言う。後ろが悪い結果・評価になっているかを確かめてから教科書の練習へ。

  1. 口頭教師が困った様子の絵カード(寝坊して走る会社員/漢字を読むだけで書かない学生/面接で下を向いて話す人)と目標のカード(会社で働く・N2合格・面接に通る)を組みにして出し、全体→個人で言わせる。キューは「寝坊する+会社員」→「毎朝寝坊するようでは、会社員は務まらない」、「漢字を書かない+N2」→「漢字を書いて覚えないようでは、N2は難しい」、「下を向く+面接」→「下を向いて話すようでは、面接に通らない」。
  2. ペアAは「生活を変えたい人」で、自分の困った習慣が3つ書いてあるカードを持つ。Bは「厳しいけれど親切な先輩」で、Aのカードは見られない。Aが「最近、〜んです」と相談し、Bが「〜ようでは、〜よ」と注意してから「〜たらどう?」と一つ提案する。注意と提案の両方が言えたら役を交替する。
  3. 産出「厳しい先輩の一言」: 日本の職場や学校で後輩に言いたい注意を一つ選び、「〜ようでは、〜」の注意の文に、理由とどうすればいいかの2文を足して、先輩と後輩のロールプレイで言う。教師は、後ろの文が悪い結果・評価になっているか、目上の人に向けて使う場面になっていないか、「〜ようなら」と混ざっていないかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 後ろによい結果を置く(「毎日練習するようでは、上手になる」)。「〜ようでは」の後ろはいつも悪い結果・否定の評価なので、よい結果を言うなら「〜ば」「〜たら」を使うと言い換えさせる
  • 目上の人や初対面の人に向けて使い、失礼に聞こえる(先生に「そんなに説明が速いようでは、分かりません」)。相手の様子を低く見る言い方なので、使う人と相手の関係を場面カードで必ず確かめ、目上には「もう少しゆっくり話していただけませんか」と依頼の形に変えさせる
  • 「〜ようなら」と混ぜて、後ろに勧めや依頼を置く(「熱が下がらないようでは、病院に行ってください」)。「〜ようなら」は中立の条件で後ろに勧め・指示が来るが、「〜ようでは」は批判で後ろは悪い結果、と2つの文を並べて示す

既習の文型との違い

  • 〜ては/といけない(第1課)「〜てはいけない」は「それをしてはだめだ」という禁止で、行為を止める言い方。「〜ようでは」は禁止ではなく、今の様子を見て「それでは結果がよくない」と評価する。「授業中に寝てはいけない」はルール、「授業中に寝ているようでは、試験に通らない」は結果の予告と批判になる。
  • 〜ようなら(条件)「〜ようなら」は「もしそういう様子なら」という中立の条件で、後ろに勧め・指示・申し出が来る(雨が強くなるようなら、早めに帰りましょう)。「〜ようでは」は後ろが悪い結果や否定の評価に決まっていて、勧めや依頼は来ない。学習者が「ようでは」の後ろに「〜てください」を置いたら、こちらに直す。
関連する文型

学習項目 3 その一方(で)

意味・はたらき学習項目 3

一つの事柄について、前の文とは違う面・反対の面を並べて言う、文と文をつなぐ言い方。「よい面」と「問題の面」のように、両方が同時に本当であることを示すので、本文のような意見文やレポートで論を組み立てるときによく使う。「しかし」が前の文から予想されることと違う結果を言う(逆接)のに対して、「その一方で」は前の文を打ち消さずに、もう一つの面を足して比べる。「Vる/Nである+一方(で)」の形で、1つの文の中でつなぐこともできる。名詞「一方」を使った「〜一方だ(増える一方だ)」は「ますますそうなる」という別の意味なので、ここでは混ぜない。

接続

文。その一方(で)、文/動詞・い形容詞の普通形、な形容詞〜な・である、名詞である+一方(で)、〜

形
文。その一方で、文(生活は便利になった。その一方で、新しい問題も増えた)V普通形+一方(で)、〜(医療が進む一方で、医療費は高くなっている)Naな/である+一方(で)、〜(駅の近くは便利な一方で、家賃が高い)Nである一方(で)、〜(彼は医者である一方で、小説も書いている)

導入

  • スマホの「よい面・問題の面」を表に黒板に「スマホ」と書き、学習者からよい面と問題の面を一つずつ出させて左右に書く。左右を矢印でつないで「スマホは便利です。その一方で、使いすぎると目が疲れます」と言う。「しかし」でも言えるが、「その一方で」は両方の面を並べて比べる言い方だと、表の形で見せる。
  • 2文から1文の「〜一方で」へ縮める2つの文で言えたら、「スマホは便利な一方で、使いすぎると目が疲れる」と1文にまとめて見せる。前の形(便利な・便利である)を色で囲み、レポートや発表で使う書き言葉に近い形だと確かめる。「いっしょに考えましょう」で残した「よいこと/心配なこと」の左右も、この形で1文にさせる。

板書案

文。その一方で、文
V普通形/Aい/Naな・である/Nである + 一方(で)、〜
〔青〕よい面 ⇔ 〔赤〕問題の面(両方とも本当)
医療が進んだ。その一方で、医療費が高くなった。
〔注〕〜一方だ(増える一方だ)=ますます(別のもの)

場面と発話(自作)

  • 日本語のクラスで、「日本の生活」について発表する。日本は電車が時間どおりに来て便利です。その一方で、朝の電車は混みすぎていて、毎日疲れます。
  • 会社の会議で、新しい勤務管理のシステムについて意見を言う。入力の時間は短くなります。その一方で、使い方を覚えるまでに時間がかかるという声もあります。
  • 進学先を迷っている留学生が、日本語学校の先生に相談する。大学は勉強の幅が広い一方で、専門学校のほうが早く仕事に使える技術が身につくと思うんです。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が話題(コンビニ・一人暮らし・オンライン授業・長生き)を出し、学生がよい面と問題の面を一つずつ「〜。その一方で、〜」で言う。次に同じ内容を「〜一方で、〜」の1文にまとめさせてから教科書の練習へ。

  1. 口頭教師が話題カード(コンビニ・新幹線・オンライン授業・SNS)を見せ、全体でよい面を言わせたあと、教師が「その一方で?」と問いかけて問題の面を続けさせる。キューは「コンビニ」→「24時間開いていて便利だ。その一方で、夜に働く人の負担が大きい」、「SNS」→「すぐ連絡できる。その一方で、一日中気になってしまう」、「新幹線」→「速くて快適だ。その一方で、料金が高い」。全体→個人の順で。
  2. ペアAは話題のよい面だけ、Bは同じ話題の問題の面だけが書いてあるカードを持つ(情報差)。Aがよい面を言い、Bが「その一方で、〜」と続けて、二人で1つの話題の両面を作る。最後にAが「〜一方で、〜」の1文にまとめて言い、Bが前の形(な・である)を確かめる。3つの話題ごとに持つカードを交替する。
  3. 産出「両面スピーチ」: 「医療が進んで長生きできるようになったこと」「地方に住むこと」「外国で働くこと」から一つ選び、よい面と問題の面を「その一方で」でつなぎ、最後に「私は〜と思う」と自分の意見を1文足して1分で話す。教師は、「その一方で」の前後が同じ話題の別の面になっているか、ただの逆接(〜けど、できなかった)に使っていないかを聞いて直す。

つまずきと手当て

  • 前の文から予想される結果と違うことを言う文に使う(「雨が強かった。その一方で、試合は予定どおり行われた」)。これは「しかし」「それでも」の場面なので、「一つの事柄の両面を並べているか」を聞いて言い換えさせる
  • 「〜一方で」の前の形をまちがえる(*便利一方で、家賃が高い)。な形容詞は「便利な」「便利である」、名詞は「Nである」と板書の枠で確かめる
  • 「〜一方だ」(増える一方だ)と混ぜて、「ますます」の意味で読んだり書いたりする。「その一方で」「〜一方で」は後ろに文が続き、「〜一方だ」は文の終わりに来る、と位置で見分けさせる

既習の文型との違い

  • 〜ながら(逆接)(第2課)「〜ながら(逆接)」は「〜のに」に近く、同じ人について予想と違うことを言い、批判や驚きの気持ちが入りやすい(知っていながら、教えてくれなかった)。「その一方で」は予想と違うかどうかではなく、一つの事柄の別の面を落ち着いて並べる言い方。
  • 〜にもかかわらず(第14課)「〜にもかかわらず」は前の事情から当然予想されることが起こらなかったという強い逆接(大雨にもかかわらず、たくさんの人が来た)。「その一方で」は前の内容を打ち消さず、もう一つの面を足すだけなので、前と後ろの文が並んでどちらも成り立つ。
関連する文型

学習項目 4 〜わけにはいかない

意味・はたらき学習項目 4

能力の上ではできるが、立場・責任・約束・決まり・相手との関係などの事情を考えると「〜することはできない」と言う形。可能形の「できない」が能力や条件を言うのに対して、「〜わけにはいかない」は「本当はしたい(してもいい)が、事情があってしない」という話し手の判断が入る。「Vない+わけにはいかない」は「しないことはできない」=事情があって「しなければならない」で、気が進まないが仕方なくする気持ちがこもることが多い。「も」を入れた「〜わけにもいかない」は「ほかの方法と同じように、それもできない」と、迷っている気持ちを表す。命や看護のような話題では、家族の立場から「割り切れないが、やめるわけにはいかない」のような判断を言うのにも使える。

接続

動詞の辞書形+わけにはいかない(休むわけにはいかない)/動詞のない形+わけにはいかない(行かないわけにはいかない)。丁寧な形は「〜わけにはいきません」

形
V辞書形+わけにはいかない(約束したから、今さら断るわけにはいかない)Vない形+わけにはいかない(先輩に頼まれたら、手伝わないわけにはいかない)〜わけにもいかない(休みたいが、休むわけにもいかない)〜わけにはいきません(丁寧な形。規則ですので、お貸しするわけにはいきません)

導入

  • 「できる」のに「しない」状況を作る教師が「熱が少しある。でも今日は自分が試験の監督で、代わりの先生はいない」という状況を絵で見せ、「体は動く。休むこともできる。でも……」と間を置いてから「休むわけにはいかない」と言う。「休めない」(条件)と並べ、「わけにはいかない」は理由が自分の立場や責任にあることを、絵の中の「責任」の字を丸で囲んで示す。
  • ×を2つ重ねて「ない+わけにはいかない」「上司の結婚式に招待された。本当は行きたくない。でも……」という状況で「行かないわけにはいかない」と言い、否定が2つで「行かなければならない」になることを、×を2つ重ねると〇になる図で見せる。「〜なければならない」より「気が進まないが、事情があって」という気持ちが入ることを確かめる。

板書案

V辞書形 + わけにはいかない =〔赤〕事情があって、しない(できない)
Vない + わけにはいかない =〔青〕×× → 〇 事情があって、しなければならない
明日は試験だから、遊びに行くわけにはいかない。
〔注〕能力の「できない」は可能形(泳げない・読めない)

場面と発話(自作)

  • 試験の前の夜、寮の友だちにパーティーに誘われた。明日は試験だから、今夜は遊びに行くわけにはいかないんだ。ごめんね。
  • 会社の新人が、取引先からもらった高いお土産のことで先輩に相談する。会社の決まりがあるので、個人的にいただくわけにはいかないと思うんですが……。
  • 国の母が手術を受けると連絡があった。日本語学校の先生に休みの相談をする。母が手術を受けるので、そばにいないわけにはいかなくて……。2週間休ませていただけないでしょうか。

練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)

教師が「したいこと/してもいいこと」と「事情」(約束・決まり・立場・相手の気持ち)を組みにして出し、学生が「〜から、〜わけにはいかない」で言う。次に「したくないこと」と事情で「〜ないわけにはいかない」を言わせ、能力で「できない」文と混ぜて区別を確かめてから教科書の練習へ。

  1. 口頭教師が状況カード(チームの代表で試合がある+足が少し痛い/先輩に飲み会に誘われた+明日は早い/店の決まり+客がカメラを借りたい)を見せ、全体→個人で言わせる。キューは「代表+試合」→「チームの代表だから、休むわけにはいかない」、「先輩の誘い」→「先輩の誘いだから、行かないわけにはいかない」、「店の決まり」→「決まりですので、カメラをお貸しするわけにはいかないんです」。
  2. ペアAは「頼む人」、Bは「頼まれる人」。Bのカードには断る理由(決まり・約束・立場)か、引き受けるしかない理由(相手が恩人・自分の担当)が書いてあり、Aは見られない(情報差)。Aが「〜てもらえませんか」と頼み、Bが「〜わけにはいかないんです」または「〜ないわけにはいきませんね」で答えて理由を一つ言う。Aは最後に「つまり、してくれる? してくれない?」を確かめる。3回ごとに役を交替する。
  3. 産出「私の『わけにはいかない』」: 自分の生活で「本当はしたいが、事情があってしないこと」と「本当はしたくないが、しないわけにはいかないこと」を一つずつ、理由(立場・約束・家族・お金)を入れて話す。教師は、理由が能力の話(泳げない・漢字が読めない)になっていないか、丁寧な場面で「わけにはいきません」が使えているか、ない形の文の意味を本人が取り違えていないかを見て直す。

つまずきと手当て

  • 能力の話に使う(「漢字が読めないから、この本を読むわけにはいかない」)。能力なら「読めない」と言うので、「体や力の上ではできるか」「理由は立場・約束・決まりか」を聞いて言い換えさせる
  • 「〜ないわけにはいかない」の意味を逆に取る(「行かないわけにはいかない」を「行かない」と読む)。×が2つで〇になる図を残し、「結局、行くの? 行かないの?」と必ず聞き返す
  • 前の形をまちがえる(*休みわけにはいかない/*休んだわけにはいかない)。前は辞書形かない形だけだと枠で示し、「休むわけには」「休まないわけには」を口で何度か言わせる

既習の文型との違い

  • 〜わけがない(第15課)「〜わけがない」は「そんなことはありえない」と可能性を強く打ち消す言い方で、ほかの人や事実についても使う(あの人が休むわけがない)。「〜わけにはいかない」は主に自分の行為について、事情があって「しない」と言う。「休むわけがない」はあの人は休まないだろう、「休むわけにはいかない」は私は休めない、と主語と意味が違う。
  • 〜ざるを得ない(第11課)「〜ざるを得ない」は、ほかに方法がなく、気が進まないがそうするしかないという意味で、「〜ないわけにはいかない」に近い。「〜ざるを得ない」は状況に追い込まれた感じが強く書き言葉的で、「〜ないわけにはいかない」は立場・人間関係・義理を考えてというときに自然で、話し言葉でもよく使う。
  • 〜からといって〜わけではない(第10課)「〜わけではない」は「全部がそうだとは言えない」という部分の否定で、できる・できないの意味はない。「わけ」の入る形が続くので、「わけがない(ありえない)」「わけではない(全部ではない)」「わけにはいかない(事情があってしない)」を表に並べ、例文ごとにどれを使うかを選ばせる。
関連する文型

語彙の扱い

この課の新出語は 49 語(本文を読むための語 49・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。

新しい言葉は本文に出る順で49語。医療・命の話題の語(医療・治療・患者・看護・寿命・高齢化・器具)が多いので、「病院と治療」「長生きと社会」「気持ちと判断」の3つのまとまりに分けて見せると覚えやすい。「救う/助かる」「治す/治療」「生きる/生かす」は語の形の対で確かめる(命を救う・命が助かる)。「血を分けた」「先が見えない」「言うまでもない」は語を一つずつ訳すと意味が取れない決まった言い方なので、どんな場面で言うかを一文で示す。「いかに」「いわゆる」「本来」は書き言葉で論を進めることばとして、本文の中での働きを確かめる。「〜たきり」「その一方で」「〜からすると」「〜わけにはいかない」は語彙にも出るが、意味と使い方は学習項目でまとめて扱う。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。

第17課の語彙リスト(49語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い

本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(長生き・医療・目覚ましい・遂げる・平均・寿命・伸び・高齢化・本来・患者・苦しみ・治療・生かす・器具・いかに・意思・〜たきり・血を分けた・〜からすると・割り切る・長期・看護・経済的・犠牲・先が見えない)から、医療が目覚ましい進歩を遂げて平均寿命が伸び、高齢化が進む中で、器具を使って命を保ち続ける治療が患者本人の意思や苦しみとどう向き合うか、また、血を分けた家族からすると割り切れない気持ちや、長期の看護による経済的な負担・犠牲があることにも触れながら、人は「いかに生きるか」を問いかける、という話題の読み物だと推測される。精読では「医療の進歩で何が変わったか」「本来、医療は何を目指すものだと筆者は考えているか」「患者本人と家族とでは、立場によって見方がどう違うか」「筆者は最後に読み手に何を問いかけているか」の4点を段落ごとに聞く。「その一方で」が出るところは論の向きが変わるところなので、そこで止めて前後でどんな面が並んでいるかを学習者に言い分けさせる。重い病気や死にかかわる話題なので、学習者の身近な体験を無理に言わせず、本文の人物や一般論で答えられる問いにしておく。

宿題と次のコマ

使いましょう(学習項目1〜4)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。まとめましょうの「医療が進んで長生きできるようになったことのよい面と問題の面」を4〜5文で書いてくる(その一方で を1回、〜わけにはいかない か 〜ようでは を1回以上)。自分や家族のことでなくてもよい、と伝えておく。次の課の初めに2〜3人に読んでもらい、「その一方で」の前後が同じ話題の別の面になっているかを全体で確かめる。

よくある質問

  • 第17課「なおす」は何コマで終わりますか?

    90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2(〜たきり・〜ようでは)、2コマ目で精読と学習項目3・4(その一方(で)・〜わけにはいかない)、まとめ・漢字まで進めます。新しい言葉が49語と多いので、医療の語を前の課の終わりか宿題で予習させると、本文の時間に余裕ができます。

  • 「〜たきり」と「〜たまま」の違いは何ですか?

    「〜たまま」は状態を変えずに次の動作をする言い方で、後ろに別の動作が来てもかまいません(靴をはいたまま部屋に入った)。「〜たきり」は次に起こるはずのことが起こらないことを言い、後ろはふつう「〜ない」「〜ている」の状態の文で、心配や困った気持ちが入りやすい形です。時間の線に「次の点」を書いて×を付けるかどうかで見せると、区別が定着しやすくなります。

  • 「〜わけにはいかない」と「〜ないわけにはいかない」はどう教えればいいですか?

    先に辞書形の「〜わけにはいかない」(事情があってしない)を入れ、能力の「できない」と区別できるようになってから、ない形を足します。ない形は×を2つ重ねると〇になる図で「しなければならない」を見せ、例文のたびに「結局、するの? しないの?」と聞き返すと、意味を逆に取るまちがいが減ります。

  • 「〜ようでは」はどんな場面で使わせればいいですか?

    先輩が後輩に、先生が学生に、のように、相手の今の様子を見て注意する場面です。相手を低く見る気持ちが入るので、目上の人に向けて使う場面は作らず、産出では「厳しい先輩の一言」のように役と関係をはっきりさせます。後ろに勧めや依頼を置くまちがいが出たら、「〜ようなら」と並べて直します。

  • 命や医療の重い話題は、教室でどう扱えばいいですか?

    学習者の中には家族の病気や死を経験した人もいるので、「あなたの家族なら」と身近な人の話を求める問いは避け、本文の人物や一般論で答えられる問いにします。話しましょうでは「話したくない人は聞く役でよい」と最初に伝えておくと安心して参加できます。意見を言わせるときは、「その一方で」で両面を並べてから自分の考えを1文足す形にすると、立場を決めつけずに話せます。

この課に関係する用語・解説・練習問題

この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。

PRこの教科書

手引きで扱っている教科書。本文・例文は手元の教科書で確かめてください。