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中級から学ぶ日本語 第18課「はなれる」の教案
『テーマ別 中級から学ぶ日本語 三訂版』 ・ 本文〈ふるさと〉
生まれ育った土地をはなれること、そしてはなれたあとのふるさとがテーマの課です。本文は、夕陽に染まる海辺の漁村の思い出から入り、仕事や進学で若い人が都会へ出ていき、農村や漁村の人口が減っていく過疎の現状と、自治体が支援に力を入れて人を呼び戻そうとしている動き、少子高齢化の波が押し寄せる中で手遅れになる前に手を打たなければならないこと、という話題の読み物だと新しい言葉から推測されます。文型は、ただそれだけのことが原因で残念な結果になったと言う「〜ばかりに」 、気持ちが抑えられないほど強いと言う「〜て/でならない」 、仮にそうだと認めても結論は変わらないと言う「〜としても」 、それがそろわなければ先へ進めないと言う「〜ないことには」 。4つとも前の文と後ろの文の関係を言う形なので、後ろにどんな文が来るか(残念な結果・気持ち・変わらない結論・否定)を板書の色で固定するのが芯です。「〜ばかりに」は第16課の「〜ものだから」と第15課の「〜だけに」、「〜て/でならない」は第5課の「〜て/でたまらない」と並べて違いを確かめます。
このページについて 教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。学習項目の名前は教科書の「使いましょう」の見出しに合わせています。
学習項目 4時間 90分×2コマ語彙 48語
このページの内容
この課のねらい(Can-do)
進め方と時間配分
学習項目 1 〜ばかりに
学習項目 2 〜て/でならない
学習項目 3 〜としても
学習項目 4 〜ないことには
語彙の扱い
本文の扱い
宿題と次のコマ
よくある質問
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課のねらい(Can-do)
「〜ばかりに」で、ほんの小さな原因から思わなかった悪い結果になったことを、後悔の気持ちをこめて話せる(「〜たいばかりに」の用法も知っている)
「〜て/でならない」で、心配・寂しさ・気がかりのように自分では抑えられない気持ちを言い、「〜と思えてならない」「〜気がしてならない」で、どうしてもそう感じてしまうことを表せる
「〜としても」で、仮の話を認めたうえで結論は変わらないことを言い、「〜ても」との違い(仮の話かどうか)を説明できる
「〜ないことには」で、ある条件がそろわなければ先へ進めないことを言い、後ろの文を否定(分からない・始まらない・できない)で結べる
本文を読んで、ふるさとをはなれる理由と、人が減っていく地域で何ができるかを、自分の国や町と比べて話せる
進め方と時間配分 目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
段 時間 やること
新しい言葉 20分 48語と多いので、読みと短い意味の確認は手早く。「口が重い」「姿を消す」「足を運ぶ」「力を入れる」「手を打つ」は体の部位や動作を使う決まった言い方としてまとめる。「漁村/農村」「就職/退職」「過疎/活性化」は対にして板書の端に残す。「呼び戻す」「呼びかける」「押し寄せる」は複合動詞 として前の語と後ろの語に分けて意味を確かめる。「〜たばかりに」「〜てならない」「〜としても」「〜ないことには」は学習項目で扱うので、ここでは意味だけ
いっしょに考えましょう 10分 「あなたのふるさとはどんな所?」「ふるさとをはなれて、いちばん懐かしいものは?」を1人1つ。懐かしい・心配だという気持ちが出たら黒板に残しておくと、「〜て/でならない」の導入 に使える
読みましょう(大意) 20分 教師の範読→段落ごとの音読→「筆者のふるさとはどんな所か・そこで何が変わったか・町や自治体は何をしているか」の3点で大意をつかむ。精読は2コマ目の初めに回す
答えましょう 15分 設問を一緒に解き、答えが本文のどこにあるかを指で押さえさせる。筆者の考えを問う設問は、題の「ふるさと」と結びつけて口頭で短く答えさせる
使いましょう(学習項目1・2) 25分 1コマ目の後半。「〜ばかりに」(12分)は「たった一つの原因→残念な結果」の矢印から入り、第5課の「〜たばかり」と形が似ているだけで意味は別だと先に言っておく。「〜て/でならない」(13分)は「いっしょに考えましょう」で出た気持ちの語を使い、第5課の「〜て/でたまらない」と並べる
精読の続き 20分 2コマ目の前半。過疎の現状・自治体の支援・少子高齢化の段落を中心に、筆者がふるさとをどう見ているかを段落ごとに確かめる。「例外ではない」「手遅れになる恐れ」のように筆者の心配が出る言い方のところで止める
使いましょう(学習項目3・4) 35分 「〜としても」(17分)は「たとえ」を付けた仮の話で入り、「〜ても」と言い比べる。「〜ないことには」(18分)は「〜なければ〜ない」の言い換えから入り、後ろが否定になることを確かめる。最後に4項目の後ろの文の色をもう一度並べる
まとめましょう・話しましょう 25分 「ふるさとをはなれて思うこと」を3〜4文で(〜ばかりに・〜て/でならない・〜としても・〜ないことには から1つ以上)。話しましょうはペアで「人が減っていく町に若い人を呼び戻すには、まず何がそろわないことには始まらないか」
漢字を練習しましょう 10分 読み書き(A)は宿題、読みだけ(B)は本文を読みながら確認する
学習項目 1 〜ばかりに
意味・はたらき学習項目 1
「ただそれだけのことが原因で、思わなかった悪い結果になってしまった」と言う形。前の文は小さな原因(一言多かった・確かめなかった・外国人である)で、後ろの文は話し手にとって残念な結果になり、「〜てしまった」と後悔の気持ちがいっしょに出ることが多い。後ろには命令・誘い・これからの意志は来ず、起きてしまったことや今の困った状態が来る。もう一つ、「Vたい+ばかりに」で「どうしても〜したいという気持ちだけで、無理なことまでした」と言う用法もあり、こちらは結果が悪いとは限らない。文法の見方では原因・理由を言う従属節の一つで、「〜せいで」に近いが、「たったそれだけで」という原因の小ささに重みがある。
接続 動詞・い形容詞の普通形+ばかりに(多くは た形:確かめなかったばかりに)/な形容詞は語幹+な、名詞は+である を付けて+ばかりに(正直なばかりに・外国人であるばかりに)
形
Vた+ばかりに、〜てしまった(一言よけいなことを言ったばかりに、友だちを怒らせてしまった) Vなかった+ばかりに(地図を確かめなかったばかりに、面接に遅れてしまった) ナA語幹+な/N+である+ばかりに(日本語が話せる留学生であるばかりに、通訳ばかり頼まれる) Vたい+ばかりに、〜(家族の顔が見たいばかりに、夜行バスで12時間かけて帰った)
導入
小さな原因と大きな結果を矢印でつなぐ 教師が「きのう、目覚まし時計を一つ止めた。それだけ。→ 電車に乗れなかった → 大事な会議に出られなかった」と、小さな原因から大きな結果までを矢印でつないで板書する。最初と最後だけを残して「目覚ましを止めたばかりに、会議に出られなかった」と言い、「たった一つのことで、残念な結果になった」と気持ちを添える。学習者に「ああ、あれさえしなければ」と思った経験を聞き、同じ形で言わせる。
第5課の「〜たばかり」と先に分ける 「日本に来たばかりです」と「日本に来たばかりに、〜」を上下に書き、上は「〜してすぐ」(時間)、下は「〜が原因で」(理由)だと色を変えて示す。下の文の後ろに残念な結果を付けて完成させ、「ばかり」に「に」が付いて後ろに文が続くと意味が変わることを学習者に言わせる。
板書案
普通形(多くは Vた)+ ばかりに、〜てしまった
ナA な/N である + ばかりに
出口を確かめなかったばかりに、面接に遅れてしまった。
〔赤〕前=ただそれだけの原因 〔青〕後ろ=思わなかった残念な結果
〔別の用法〕Vたい + ばかりに(会いたいばかりに、夜行バスで帰った)
〔くらべる〕来たばかりです(時間)↔ 来たばかりに、〜(原因)
場面と発話(自作)
就職の面接に向かう途中、駅の出口を確かめずに歩き出して道に迷った。面接のあと、日本語学校の先生に報告する。 出口を確かめなかったばかりに、10分も遅れてしまいました。
職場で日本語がいちばんできる外国人スタッフ。同じ国の客が来るたびに呼ばれて、自分の仕事が終わらない。同期にこぼす。 少し話せるばかりに、通訳を全部頼まれて、自分の仕事が全然進まないんだ。
ふるさとの祖母に会いたくて、留学生が長い休みのたびに帰国している。寮の友だちに航空券の話をする。 おばあちゃんの顔が見たいばかりに、また高い航空券を買っちゃった。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「原因」カード(一言多かった・傘を持たなかった・名前を書き忘れた)と「結果」カード(けんかになった・かぜをひいた・0点になった)を出し、学習者が組み合わせて「〜ばかりに、〜てしまった」で言う。後ろが残念な結果になっているか、名詞に「である」が付いているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が原因と結果の絵カードを1組ずつ見せる(パスワードをメモしなかった→ログインできない/一言冗談を言った→相手が怒った/一本早い電車に乗らなかった→最終バスに間に合わなかった/正直に話した→かえって叱られた)。全体で「パスワードをメモしなかったばかりに、ログインできなくなってしまった」と言い、次に結果カードを伏せて学習者が自分で結果を作る。な形容詞・名詞(正直・外国人)が出たら「な」「である」に注意させる。個人指名で3〜4人。
ペア Aは「後悔していること」のカードを引いて「〜ばかりに、〜てしまった」で話す。Bは「それは大変だったね。どうすればよかったと思う?」と聞き、Aは「〜ばよかった」で答える。原因の文と、やり直したいことの文を分けて言わせるのがねらい。3回ずつで役を交替する。
産出 「たった一つのことで」スピーチ: 自分の経験で、小さなことが原因で思わなかった結果になった話を1分で話す(〜ばかりに を1回、最後に今どう思っているかを1文)。聞き手は「原因は何だったか」を一言でメモして返す。教師は、後ろが命令や意志になっていないか、良い結果に使っていないか(「Vたい+ばかりに」以外で)、「〜たばかり」と混ざっていないかを見て直す。
つまずきと手当て
良い結果に使う(*よく勉強したばかりに、試験に合格した)。「ばかりに」の後ろは残念な結果だと板書の色で固定し、良い結果なら「〜おかげで」に言い換えさせる。「Vたい+ばかりに」だけは結果が悪くなくても言えるので、別の行で見せる
後ろに命令や意志を置く(*道に迷うばかりに、地図を持っていきなさい)。後ろは起きてしまったこと・今困っていることなので、これからの心配なら「〜といけないから」(第1課)に言い換えさせる
第5課の「〜たばかり」と混ぜ、「日本に来たばかりに、まだ友だちがいない」のように時間の意味で言おうとする。文の形としては成り立つが「来たことが原因で」と聞こえて意味がずれるので、「来たばかりなので」に直し、「ばかり」の後ろに「に」があるかどうかで意味が変わると確かめる
既習の文型との違い
〜ものだから(第16課) 「〜ものだから」は自分のしたことの事情を説明し、「仕方がなかった」とわかってほしい気持ちが出る。「〜ばかりに」は「たったそれだけのことで」と原因の小ささを嘆き、後悔が出る。同じ遅刻でも、先生へのおわびなら「〜ものですから」、あとで自分を責めるなら「〜ばかりに」と、言う相手と気持ちで分けて見せる。
〜せいで(初級〜中級) 「〜せいで」は悪い結果の原因をはっきり指す言い方で、原因の大きさは問わない(台風のせいで電車が止まった)。「〜ばかりに」は原因がほんの小さなことなのに結果が大きい、という釣り合わなさを言う。台風のような大きな原因に「〜ばかりに」を使うと不自然に聞こえることが多い、と比べさせる。
〜だけに(第15課) 「〜だけに」は「〜だから、それにふさわしく」と言い、結果は良いことにも悪いことにも使う(長く日本に住んでいるだけに、町にくわしい)。「〜だから、なおさら」と気持ちが強く動く使い方(期待していただけに、がっかりした)もある。「〜ばかりに」は後ろが残念な結果に限られる。どちらも「それが理由で」だが、「だけに」は前の事情から当然そうなる・なおさらそう感じるという気持ち、「ばかりに」は思わなかったという気持ちだと並べる。
関連する文型
学習項目 2 〜て/でならない
意味・はたらき学習項目 2
ある気持ちや感覚が、自分では抑えられないほど強いと言う形。「心配でならない」「寂しくてならない」「気になってならない」のように、気持ちを表す語のて形に付く。とくに「思える」「感じられる」「悔やまれる」のような、自然にそう感じてしまう動詞(文法用語で言うと自発 の動詞)と相性がよく(「気がしてならない」もよく使う)、「〜と思えてならない」で「どうしてもそう思ってしまう」と、考えを控えめに、しかし強く言える。話し手自身の気持ちを言うのが基本で、ほかの人のことは「〜てならないようだ」「〜てならないらしい」と様子として言う。会話より書き言葉や改まった話に多く、意味の近い「〜て/でたまらない」より落ち着いた響きになる。
接続 い形容詞のて形(寂しくて)・な形容詞の語幹+で(心配で・残念で)・気持ちや感覚を表す動詞のて形(気になって・思えて・悔やまれて)+ならない
形
イAくて+ならない(ふるさとの海が懐かしくてならない) ナA語幹+で+ならない(一人で暮らす父が心配でならない) V(気持ち・感覚)て+ならない(試験の結果が気になってならない) 〜ように思えて/気がして+ならない(あの店が閉まったのは、何か事情があったように思えてならない)
導入
気持ちの強さを目盛りで見せる 黒板に気持ちの目盛りを縦に書き、下から「心配だ」「とても心配だ」「心配でならない」と並べる。教師が国の家族の話をして「父が一人で暮らしているので、心配でならないんです」と言い、目盛りのいちばん上を指す。「いっしょに考えましょう」で学習者が挙げた「懐かしい」「寂しい」を同じ目盛りに当てはめて言わせる。
「思えてならない」で考えを控えめに強く言う 「あの店がなくなったのは、駅前に大きなスーパーができたからだ」と「〜からだと思えてならない」を並べ、下は「証拠はないが、どうしてもそう思ってしまう」という気持ちだと説明する。自分の意志で思うのではなく、自然にそう思えてしまう(自発)ことを、「思う」と「思える」の違いで確かめる。
板書案
イAくて/ナAで/V(気持ち)て + ならない
一人で暮らす父が心配でならない。
〜ように思えて/気がして + ならない(自然にそう感じてしまう)
〔赤〕気持ちの目盛り:心配だ → とても心配だ → 心配でならない
〔青〕私 → 〜てならない ほかの人 → 〜てならないようだ
場面と発話(自作)
国で母が入院したと連絡があった。すぐには帰れない留学生が、アルバイト先の店長に事情を話す。 母の具合が心配でならなくて、きのうはあまり眠れませんでした。
日本で初めての冬。ふるさとの暖かい海を思い出して、日記に書く。 雪の中を歩いていると、夕方の浜辺が懐かしくてならない。
商店街の古い本屋が急に閉店した。近所の人と話していて、自分の考えを控えめに言う。 店主さんが体を悪くしたせいのように思えてなりません。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が状況カード(家族が病気・試験の結果が明日・ふるさとの祭りの日)を見せ、学習者が気持ちの語を選んで「〜て/でならない」で言う。最後に「〜ように思えてならない」で、理由ははっきりしないが強く感じることを1文ずつ言わせてから教科書の練習へ。
口頭 教師が状況カードを見せる(明日が面接→不安・ふるさとの料理の写真→懐かしい・友だちに失礼なことを言った→悔やまれる・連絡がない→気になる)。全体で「明日の面接が不安でならない」と言い、い形容詞・な形容詞・動詞のて形が混ざるように順番を変える。な形容詞で「で」、い形容詞で「くて」になっているかを個人指名で確かめる。
ペア Aは「今いちばん気になっていること」を「〜て/でならない」で話す。Bは「どうしてそんなに〜の?」と理由を聞き、Aは理由を1〜2文で答える。Bは最後に、Aの気持ちを「〜さんは〜てならないようです」とクラスに報告する。自分の気持ちと人の気持ちで言い方が変わることを、報告の文で確かめるのがねらい。
産出 「ふるさとへの手紙」: ふるさとの家族か友だちに、はなれて暮らしていて強く感じていること(懐かしい・心配・会いたい)を5〜6文の手紙に書く(〜て/でならない を1回、〜ように思えてならない を1回)。教師は、気持ちでない語に付けていないか、ほかの人の気持ちを「〜てならない」で言い切っていないか、1つの手紙で何度も使って強すぎる文になっていないかを見て直す。
つまずきと手当て
気持ちや感覚でない語に付ける(*駅が遠くてならない/*この部屋は広くてならない)。付くのは心の中の気持ちや感じ方の語だけだと、使える語の一覧(懐かしい・心配・残念・気になる・思える)で見せる
ほかの人の気持ちを言い切る(*弟は寂しくてならない)。人の気持ちは外からは分からないので「寂しくてならないようだ」「寂しくてならないと言っている」にすると、第1課の「〜がる」とつなげて確かめる
「〜なければならない」の「ならない」と混ざり、義務の意味で読んでしまう。読解でつまずきやすいので、「て/で」の前が気持ちの語なら気持ちの強さ、「なければ」なら義務、と前の形で見分けさせる
既習の文型との違い
〜て/でたまらない(第5課) どちらも気持ちが抑えられないほど強いと言うが、「〜てたまらない」は会話的で、暑い・痛い・のどがかわくのような体の感覚や「〜たくてたまらない」(したい気持ち)にもよく使う。「〜てならない」は書き言葉的で、「思えてならない」「気がしてならない」のように自然にそう感じる動詞と結びつきやすい。「思えてたまらない」はあまり言わないので、「思える」の前では「ならない」を選ぶと示す。
〜がる(第1課) 「〜てならない」は話し手が自分の中の気持ちを言う形で、ほかの人の気持ちには「〜がる」や「〜ようだ」を使う。「私は家族に会いたくてならない」と「妹は家族に会いたがっている」を並べ、主語で形が変わることを確かめる。
関連する文型
学習項目 3 〜としても
意味・はたらき学習項目 3
「仮に〜だと考えても、結果や結論は変わらない」と言う形。前の文は本当かどうか分からないこと、まだ起きていないこと、または起きる見込みが低いことで、「たとえ」「もし」「仮に」といっしょに使うことが多い。「〜ても」と意味は近いが、「と」が入ることで「〜だと仮に認めたとしても」という仮定の気持ちがはっきりする。後ろの文は、変わらない結論(〜ない・〜だろう・〜つもりだ)や話し手の判断になることが多い。文法の見方では逆接の条件(譲歩)を言う従属節の一つ。
接続 動詞・い形容詞の普通形+としても(帰ったとしても・高いとしても)/な形容詞・名詞は普通形の「だ」を付けて+としても(不便だとしても・冗談だとしても)
形
たとえ+V普通形+としても(たとえ今から急いだとしても、終電には間に合わない) イA普通形+としても(家賃が少し高いとしても、駅に近いほうがいい) ナA/N+だ+としても(田舎の暮らしが不便だとしても、いつかはふるさとに帰りたい) 〜としても、〜つもりだ(だれも賛成しないとしても、自分の考えは変えないつもりだ)
導入
「たとえ」の仮の話から入る 教師が「ふるさとに帰りたいですか」と聞き、学習者の答えに「でも、仕事がないかもしれませんよ」と仮の話をぶつける。学習者が「それでも帰りたい」と答えたら、それを「たとえ仕事が見つからないとしても、帰りたい」とまとめて板書する。「たとえ」と「としても」を同じ色で囲み、「本当かどうか分からないことを、仮に認める」と添える。
「〜ても」と言い比べる 「雨が降っても、行きます」と「雨が降ったとしても、行きます」を並べて読み、どちらも言えるが、下は「降るかどうか分からないが、仮に降ったら」という気持ちが強いと説明する。次に、もう雨が降っている窓の外を指して「今、雨が降っていても、行きます」は自然だが、「今、雨が降っているとしても」は目の前の事実なので少し落ち着かないと聞かせ、仮の話のための形だと気づかせる。
板書案
(たとえ)普通形 + としても、〜(変わらない結論)
ナA/N + だ + としても(不便だとしても)
たとえ仕事が見つからないとしても、ふるさとに帰りたい。
〔赤〕前=仮の話(本当かどうか分からない) 〔青〕後ろ=それでも変わらないこと
〔くらべる〕雨が降っても(実際も仮も)↔ 雨が降ったとしても(仮の話)
場面と発話(自作)
就職先を探している留学生が、東京の会社とふるさとに近い会社で迷っている。先生に相談する。 たとえ給料が少し安いとしても、家族の近くで働きたいと思っています。
友だちが「今から走れば、まだ最終バスに間に合うかも」と言う。時計を見ながら答える。 今から走ったとしても、もう間に合わないよ。タクシーで帰ろう。
町の会議で、空き家を若い人に貸す案が出た。反対の意見もあるが、担当者が自分の考えを言う。 最初は借りる人が少ないとしても、まず始めてみることが大切だと思います。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「仮の話」カード(宝くじが当たる・日本語がもう上手になる・ふるさとに大きな工場ができる)を見せ、学習者が「たとえ〜としても、〜」で、それでも変わらないことを言う。な形容詞・名詞に「だ」が付いているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が「仮の話」と「変わらないこと」を組にして言う(給料が上がる→今の仕事は続けない/試験に落ちる→来年また受ける/雨だ→祭りは行う/高い→その本は買う)。全体で「たとえ給料が上がったとしても、今の仕事は続けません」と言い、次に「変わらないこと」を学習者が自分で作る。な形容詞・名詞で「だとしても」になっているかを個人指名で確かめる。
ペア Aは「将来、ふるさとに帰るか、日本に残るか」を決めて言う。Bは「でも、もし〜だったら?」と、Aが困りそうな仮の話を3つ出す(仕事がない・友だちがいない・冬が寒い)。Aは「たとえ〜としても、〜」で考えが変わらないことを答える。3回答えたら役を交替し、Bの立場で同じことをする。
産出 「それでも、わたしは」意見文: 「生まれた町に住み続けるのと、都会に出るのと、どちらがいいか」について、自分の立場を決め、反対の立場から出そうな意見を1つ認めたうえで(〜としても)、自分の結論を書く(5〜6文)。教師は、前の文が仮の話になっているか、目の前の事実に「としても」を使っていないか、後ろの結論が前の文から予想される結果になってしまっていないかを見て直す。
つまずきと手当て
な形容詞・名詞で「だ」を落とす。名詞は「Nだとしても」の形で練習させる。「Nとしても」だけだと「会社としても困る」のように「〜の立場でも」という別の意味にも読めて紛らわしいため、仮の話のときは「だ」を入れると板書する
目の前の事実に使う(「今、雨が降っているとしても、出かけます」)。事実なら「〜ても」「〜けれども」を使い、「としても」は仮の話のときに使うと、窓の外の例で確かめる
後ろの文が前の文から予想される結果になってしまう(*たとえ急いだとしても、間に合った)。「としても」の後ろは「それでも変わらないこと」なので、前の文から予想されることとは逆になると、矢印を折り返して見せる
既習の文型との違い
〜ても(初級) 「〜ても」は実際のことにも仮の話にも使える(雨が降っても行った/雨が降っても行く)。「〜としても」は仮の話に使い、「仮にそうだと認めても」という気持ちがはっきり出る。改まった意見文では「としても」を使うと、相手の考えを一度認めてから自分の結論を言う形になる、と意見文の例で見せる。
〜にしろ〜にしろ(第11課) 「〜にしろ〜にしろ」は2つ以上の場合を並べて「どちらの場合でも」と言う。「〜としても」は1つの仮の話を取り上げて「それでも」と言う。「行くにしろ行かないにしろ、連絡して」と「たとえ行かないとしても、連絡して」を並べ、並べる場合の数で分ける。
〜からといって〜わけではない(第10課) 「〜からといって」は実際の理由を一度認め、「だからといって必ずそうなるわけではない」と言う。「〜としても」は仮の話を認めて「それでも結論は変わらない」と言う。前の文が事実か仮の話かで分けさせる。
関連する文型
学習項目 4 〜ないことには
意味・はたらき学習項目 4
「〜しなければ、…できない/…分からない」と言い、まずその条件がそろうことが先に必要だと強く言う形。前の文は「これがないと始まらない」という欠かせない条件で、後ろの文は「分からない」「始まらない」「決められない」「どうにもならない」のような否定の形になる。「実際に会ってみないことには、どんな人か分からない」のように、話し手が「まずそれをしなければ」と考えている気持ちが出る。文法の見方では条件を言う従属節で、「〜なければ〜ない」とほぼ同じ意味だが、前の条件を先にそろえる必要性に重みがある。
接続 動詞のない形(行かない)・い形容詞の〜くない(安くない)・な形容詞・名詞の〜でない(元気でない・本人でない)+ことには、〜ない
形
Vない+ことには、〜ない(実際に住んでみないことには、町のよさは分からない) Vてみない+ことには(一度行ってみないことには、何とも言えない) イAくない/ナA・N+でない+ことには(体が元気でないことには、仕事は続けられない) 〜ないことには始まらない/話にならない(人が集まらないことには、祭りは始まらない)
導入
「〜なければ〜ない」を言い換える 「仕事がなければ、若い人は町に戻らない」を板書し、前の部分を「仕事がないことには」に書き換えて読む。「まず仕事。仕事がそろわないと、その先には進めない」と、前の条件に下線を引いて「先に必要なこと」と書く。後ろの「戻らない」に色を付け、ここは否定になると添える。
「やってみないと分からない」の場面を集める 「食べてみないと味は分からない」「会ってみないと人柄は分からない」のように、やってみないと分からないことを学習者に3つ挙げさせ、全部を「〜てみないことには、〜分からない」に言い換える。後ろがいつも否定になっていることを、学習者自身に気づかせる。
板書案
Vない/イAくない/ナA・N でない + ことには、〜ない
実際に住んでみないことには、町のよさは分からない。
〔赤〕前=先にそろえる欠かせない条件 〔青〕後ろ=否定(分からない・始まらない・できない)
〔言い換え〕〜なければ〜ない ≒ 〜ないことには〜ない
〔誤りの例〕*食べてみないことには、おいしい → 食べてみないことには、おいしいかどうか分からない
場面と発話(自作)
ふるさとに戻るかどうか迷っている同僚に、地方の暮らしについて聞かれた。 一度向こうで暮らしてみないことには、本当に合うかどうかは分からないよ。
日本語学校の先生が、進学先を早く決めたい学生に、まず何をするべきかを話す。 まずオープンキャンパスに行ってみないことには、どの大学がいいか決められませんね。
町の空き家を使ったカフェの計画。住民の会で、担当者が最初の問題を言う。 建物を直すお金が集まらないことには、計画は一歩も進みません。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が「目標」カード(祭りを続ける・進学先を決める・アパートを借りる)を見せ、学習者がそのために先に必要な条件を考えて「〜ないことには、〜ない」で言う。後ろが否定になっているか、な形容詞・名詞が「でない」になっているかを確かめてから教科書の練習へ。
口頭 教師が目標と条件を組にして見せる(店を開く→場所が決まる/料理の味→食べてみる/面接に行く→書類が届く/仕事を続ける→体が元気だ)。全体で「場所が決まらないことには、店は開けない」と言い、次に後ろの文を学習者が自分で作る。な形容詞・名詞の「元気でないことには」「本人でないことには」を個人指名で言わせ、後ろが否定になっているかを確かめる。
ペア Aは「これからしたいこと」を言う(日本で就職したい・ふるさとで店を開きたい・漢字の試験に合格したい)。Bは「そのためには、まず何が必要?」と聞き、Aは「〜ないことには、〜ない」で、先に必要な条件を2つ答える。Bは「じゃあ、まず〜からだね」と順番をまとめる。役を交替する。
産出 「町を元気にする作戦会議」: 4人のグループで、人が減っている町(自分の国の町か、架空の町)に若い人を呼び戻す案を考え、「〜ないことには始まらない」で最初に必要なことを1つ決めて発表する。教師は、後ろが肯定になっていないか、前が否定の形になっているか、欠かせない条件ではなくただの理由になっていないかを見て直す。
つまずきと手当て
後ろを肯定で結ぶ(*行ってみないことには、楽しい)。後ろは「分からない・できない・始まらない」のような否定の形になると板書の色で固定し、言いたいことが「行けば楽しい」なら「〜ば」に言い換えさせる
前を肯定の形で作る(*住んでみることには、分からない)。「ないことには」をひとかたまりで覚えさせ、前はいつも「〜ない」の形だと確かめる
過去の一回の出来事に使う(「書類を出さないことには、受け付けてもらえなかった」)。これからのことや一般的なことに使うのがふつうで、すでに起きたことなら「出さなかったので」と言うと伝える
既習の文型との違い
〜なければ(初級) 「〜なければ〜ない」とほぼ同じ意味で言い換えられるが、「〜なければ」は後ろに義務(〜なければならない)や助言(〜なければいい)も続く。「〜ないことには」は後ろが「分からない・できない」のような否定に決まっていて、「まずそれが先だ」という気持ちが強い。
〜さえ〜ば(第19課) 「〜さえ〜ば」は「それだけそろえば、ほかはいらない」と、それで足りる条件を言う(天気さえよければ、祭りはできる)。「〜ないことには」は「それがそろわなければ、先へ進めない」と、欠かせない条件を言う。同じ条件を「天気がよくないことには、祭りはできない」と言い換えて、見ている向きが逆になることを見せる。
〜ようでは(第17課) 「〜ようでは」は今の様子を取り上げて「こんな状態なら、うまくいかない」と批判や心配を言う(毎朝遅刻するようでは、仕事は任せられない)。「〜ないことには」は、まだそろっていない条件を挙げて「それが先だ」と言う。前の文が今の悪い様子か、これからそろえる条件かで分けさせる。
関連する文型
語彙の扱い
この課の新出語は 48 語(本文を読むための語 48・練習などの語 0)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新しい言葉は本文に出る順で48語と多い。読みと意味の確認は1語ずつ時間をかけず、対になる語(漁村/農村、就職/退職、過疎/活性化、呼び戻す/呼びかける)は組にして覚えさせる。「口が重い」「姿を消す」「足を運ぶ」「力を入れる」「手を打つ」は体の部位や動作を使った決まった言い方なので、文字どおりの意味と比べながらまとめて扱う。「過疎」「自治体」「支援」「現状」「少子高齢化」は新聞やニュースによく出る語なので、本文のあとで自分の国の町の話に使わせると定着しやすい。「波」「押し寄せる」「根づく」「染まる」はもとの意味(海の波・植物の根・色)から比喩の意味へ広がる語なので、もとの意味を絵で見せてから本文の意味を確かめる。「〜たばかりに」「〜てならない」「〜としても」「〜ないことには」は学習項目で、「片ときも〜ない」は本文の文脈で意味を確かめる。語ごとの意味・連語・場面は語彙のページに。
第18課の語彙リスト(48語) 新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い 本文の中身は手元の教科書で確かめること。新しい言葉(漁村・夕陽・染まる・口が重い・かせぐ・先のこと・何もかも・ぽつりと・農村・事情・減る・ふるさと・足を運ぶ・過疎・活性化・自治体・支援・呼び戻す・退職・就職・根づく・伝統・少子高齢化・押し寄せる・手遅れ・手を打つ)から、筆者が夕陽に染まる海辺の漁村で育った思い出や、口の重い家族がぽつりと漏らした言葉を手がかりに、仕事やお金をかせぐために若い人がふるさとをはなれ、農村や漁村から人が減っていく過疎の現状、自治体が若い人や退職した人を呼び戻そうと支援に力を入れていること、少子高齢化の波はどの地域も例外ではなく、手遅れになる前に手を打たなければならないこと、という話題の読み物だと推測される。精読では「筆者のふるさとはどんな所で、筆者はそこをどう思っているか」「人がふるさとをはなれるのはどんな事情からか」「自治体や地域はどんなことをしているか」「筆者は今の状況をどう見ているか」の4点を段落ごとに聞く。思い出を語る段落と、過疎についての説明や意見の段落とで文の調子が変わるところで一度止め、どこから話が個人の思い出から社会の問題へ移ったかを学習者に言わせる。ふるさとを遠くはなれて暮らす学習者には気持ちの重い話題にもなるので、話し合いでは自分の町の話をするかどうかを本人に選ばせる。
宿題と次のコマ 使いましょう(学習項目1〜4)の練習の残りと、漢字 A の書き取り。「〜ばかりに」と「〜ないことには」を、自分の経験やこれからの計画で1文ずつ書いてくる。まとめましょうの「ふるさとをはなれて思うこと」を4文(〜ばかりに・〜て/でならない・〜としても・〜ないことには から2つ以上)で書いてくる。次のコマは話しましょうの続きと、書いてきた文の見直し。
よくある質問
第18課「はなれる」は何コマで終わりますか?
90分なら2コマが目安です。1コマ目で新しい言葉・本文の大意・設問と学習項目1・2、2コマ目で精読の続き・学習項目3・4・まとめと漢字まで進めます。新しい言葉が48語と多いので、語彙の確認に時間がかかるクラスは「話しましょう」を3コマ目の初めに回してもかまいません。
「〜ばかりに」と第5課の「〜たばかり」はどう区別させますか?
「来たばかりです」は「〜してすぐ」という時間の意味、「来たばかりに、〜」は「それが原因で」という理由の意味です。「ばかり」の後ろに「に」があって、残念な結果が続くかどうかで見分けさせます。2つを上下に並べて板書し、後ろの文に色を付けると違いが見えやすくなります。
「〜ばかりに」と「〜せいで」の違いは何ですか?
どちらも悪い結果の原因を言いますが、「〜ばかりに」は「たったそれだけのことで」と、原因の小ささと後悔に重みがあります。「〜せいで」は原因をはっきり指す言い方で、台風や事故のような大きな原因にも自然に使えます。小さな失敗から大きな結果になった話で「〜ばかりに」を練習させると、違いがつかみやすくなります。
「〜てならない」と「〜てたまらない」はどう教え分けますか?
意味はどちらも「気持ちが抑えられないほど強い」で、多くの場合は言い換えられます。「〜てたまらない」は会話的で、体の感覚(暑い・痛い)や「〜たくてたまらない」にもよく使います。「〜てならない」は書き言葉的で、「思えてならない」「気がしてならない」のように自然にそう感じてしまう動詞と結びつきやすい、と例を並べて見せます。
「〜ないことには」の後ろにはどんな文が来ますか?
「分からない」「できない」「始まらない」「決められない」のような否定の形が来ます。「行ってみないことには、楽しい」のような肯定の文は作れません。言いたいことが「すれば〜できる」なら「〜ば」、「それだけで十分」なら第19課の「〜さえ〜ば」に言い換えると伝えると、混同が減ります。
この課に関係する用語・解説・練習問題 この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。