誘いや頼みごとを、相手との関係を壊さずに断る力をつける課です。日本語の断りは「できません」「したくありません」と結論から言うより、まず事情を言い、断りの言葉そのものはぼかすほうが角が立ちません。その事情の言い方として、自分では変えられなかった成り行きを差し出す「〜ものだから」、したくてもできない・したくなくてもしなければならない事情を言う「〜わけにはいかない」「〜ないわけにはいかない」、ちょうど手が離せないことを言う「〜最中」を学び、最後に、気持ちをそのまま言う「〜たくありません」がなぜ強く聞こえるのかを確かめます。項目を一つずつ教えたら、誘いや頼みを断るロールプレイで組み合わせて使わせると、課の目標がそのまま練習になります。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 15分 | 教師が学生を飲み会や週末の手伝いに誘い、学生に自由に断らせる。出てきた断り方(「行きません」「ちょっと…」「用事があります」)を黒板に並べ、言われた側がどう感じるかを話し合って、「理由を先に言う」「最後まで言わない」という課の芯を確かめる |
| 学習項目1 〜ものだから | 40分 | 遅刻の言い訳の場面で導入し、断りの「〜ものですから…」まで。言い訳に聞こえやすい相手・場面も板書で分けておく |
| 学習項目2・3 〜わけにはいかない/〜ないわけにはいかない | 60分 | 「したい→事情→しない」「したくない→事情→する」の2本の矢印で向きを対比して板書し、どちらも断る理由として言う練習へ。1コマ目は学習項目2の練習まで、学習項目3は2コマ目の初めに2の復習から入る |
| 学習項目4 〜最中 | 35分 | じゃまが入る絵で「〜最中に…」(途中で起きたこと)を導入し、電話の場面で「いま〜の最中なので」(断り)に広げる |
| 学習項目5 〜たくありません | 25分 | 同じ誘いに「行きたくありません」と「〜ものですから…」で答えたときの印象を比べ、「〜たくない」を使ってよい場面を確かめる |
| 目標の活動(断りのロールプレイ) | 70分 | 場面カード(先輩の飲み会・同僚の頼みごと・店員のすすめ・友達の誘い)を配り、「理由+ぼかし+代わりの案」の3段で断る。誘った役は、断られてどう感じたかを一言返す。2コマ目の終わりに場面カードを配って準備させ、3コマ目に演じる |
| まとめ | 25分 | ロールプレイでよかった断り方を板書に残し、項目ごとに「どんな事情を言う形か」「だれに使いやすいか」を一覧にする |
理由を表す形ですが、「から」「ので」と違って、自分ではどうにもならなかった事情、そうせずにはいられなかった事情として理由を差し出す響きがあります。そのため、遅刻やミスの言い訳、誘いを断るときの事情の説明によく使われ、丁寧に言うときは「〜ものですから」、くだけた会話では「〜もんだから」になります。断りでは「あしたは朝が早いものですから…」と後ろを言わずに止め、相手に察してもらう言い方がよく使われます。一方で言い訳の響きがあるため、相手に迷惑をかけたあと謝る前に使ったり、何度も重ねたりすると「自分は悪くない」と言っているように聞こえやすくなります。
普通形+ものだから(な形容詞・名詞は「静かなものだから」「雨なものだから」のように「な」が入る。丁寧には「〜ものですから」、話し言葉では「〜もんだから」)
理由のカード(体調が悪い・先約がある・家族が来る・締め切りがある)と誘い・頼みのカードを組み合わせ、「〜ものですから…」で止める形で断らせる。慣れたら相手のカード(店長・友達・先生・お客様)を足し、「ものですから」と「もんだから」のどちらを使うか、謝る言葉を先に言うかを相手ごとに判断させる。
「〜したい気持ちはある(または、してもかまわないように見える)けれど、決まり・立場・周りへの義理・自分の責任などを考えると、することはできない」という意味です。能力や物理的な事情でできない「〜できない」とは違い、できるけれど事情を考えるとしてはいけない・するべきではないという判断を表します。断りでは、自分の気持ちではなく立場や決まりのためにできない、と言えるので、相手の誘いや好意を否定せずに断れます。丁寧には「〜わけにはいきません」、会話では理由を添えて「〜わけにはいかないんです」の形がよく使われます。
Vる(辞書形)+わけにはいかない(丁寧には「〜わけにはいきません」)
「したいこと」と「事情」のカードを組み合わせ(遊びに行く×あした試験、休む×店に人がいない、受け取る×会社の決まり)、「〜わけにはいかないんです」で断らせる。そのあと同じ事情で「〜できません」と言った場合と比べ、どちらが事情をよく伝え、相手に失礼にならないかを話させる。
「〜わけにはいかない」の前を「ない形」にした形で、「しないわけにはいかない」=「しないでいることはできない」、つまり本当はしたくない(または、しなくてもすみそうな)ことでも、事情や義理を考えるとしなければならないという意味になります。否定が二つ重なるので、向きは「〜わけにはいかない」(する → できない)と反対になり、意味は「〜なければならない」に近くなります。ただ、「なければならない」が決まりや必要をそのまま言うのに対し、「ないわけにはいかない」には、気が進まないけれど周りとの関係や立場を考えて仕方なく、という気持ちがにじみます。断りでは、自分がしなければならない別の用事を理由に出すときに使います。
Vない(ない形)+わけにはいかない(丁寧には「〜ないわけにはいきません」)
「別の用事」のカード(親の誕生日・締め切り・掃除の当番・先輩の結婚式)を引かせ、誘いを「〜ないわけにはいかないので、…」で断らせる。言ったあとに教師が「じゃあ、するんですね/しないんですね」と聞き返し、向きを正しく取れているかを毎回確かめる。最後に学習項目2のカードと混ぜ、「ない」を付けるかどうかを選ばせる。
「ちょうど〜している、その途中」を強く言う形です。「〜最中に、…」の形では、何かが進んでいるちょうど途中に、じゃまになることや思いがけないことが起きたと言うときによく使います(会議の最中に電話が鳴った、など)。「〜最中だ/最中です」と文を終えると、「いまちょうど〜をしていて、手が離せない」という意味になり、電話や頼みごとを断る理由にもなります。続いている動作や行事(会議・食事・試合・料理など)に使い、「いる」「住んでいる」のような状態や、長い期間には使いにくい形です。
Vている+最中(に/だ)、Nの+最中(に/だ)
動作の絵(料理・会議・試合・シャワー・試験)と出来事の絵(電話・地震・停電・来客)を組み合わせて「〜最中に…」の文を作らせる。次に動作の絵だけを見せて、電話での誘いや頼みを「いま〜の最中なので」で断るやり取りに広げる。
初級で習った「〜たい」の否定で、自分が「〜したくない」という気持ちを言う形です(「〜たくないです」とも言います)。形は難しくありませんが、誘いや頼みに「行きたくありません」と答えると、理由も相手への気づかいもなく自分の気持ちだけを相手に向けることになり、日本語ではかなり強く、時には失礼に聞こえます。この課では、この形を断りの決まり文句としてではなく、「どんな時なら使ってよいか」を知る項目として扱います。自分の好みや体の調子を話すとき、しつこい勧誘をはっきり断りたいとき、親しい友達との会話では使えますが、目上の人や好意で誘ってくれた人には、理由と「ちょっと…」の言い方に置き換えます。
Vます形(「ます」を取った形)+たくありません/たくないです(「たい」は い形容詞と同じ活用)
誘い・頼みのカードと相手のカード(先輩・お客様・親しい友達・しつこい勧誘)を組み合わせ、まず「〜たくありません」で言ってよいかを判断させ、だめな相手には「〜ものですから…」「〜わけにはいかないんです」に言い換えさせる。最後に、気持ちを伝えたいときの「あまり〜たくないんです」に理由を添える形も練習する。
この課の語は、断りの前置きに使う言葉(せっかく・あいにく・遠慮する など)と、理由として持ち出す事情の言葉(締め切り・当番・先約 など)に分けて扱うと使いやすくなります。単語だけで覚えさせず、「あいにく〜ものですから…」「せっかくですが、〜わけにはいかないんです」のように、断りの文の決まった位置に入れて練習します。
宿題は、実際にありそうな誘いや頼みを3つ自分で考え、それぞれを「〜ものですから」「〜わけにはいかない」「〜ないわけにはいかない」「〜最中」のどれかを使った理由と、「ちょっと…」や代わりの案を入れて断る短い会話にして書くこと。次のコマの最初に何組かをペアで演じさせ、聞いていた学生が「どの事情の言い方を使ったか」「言い訳や冷たい感じに聞こえなかったか」を一言ずつ言って振り返ります。
『学ぼう!にほんご 初中級』第4課の「〜わけにはいかない」と「〜ないわけにはいかない」はどう教え分ければいいですか?
先に「〜わけにはいかない」だけを「したい → 事情 → しない」の矢印で導入し、練習で定着させてから、その下に「したくない → 事情 → する」の矢印を書き足して「〜ないわけにはいかない」を出します。否定が重なる形は、言うたびに「する?しない?」と聞き返して向きを確かめるのがいちばん効きます。最後に二つのカードを混ぜて「ない」を付けるかを選ばせ、取り違えがないかを見ます。
「〜ものだから」と「〜ので」の違いはどう説明しますか?
「ので」は理由をそのまま説明する形で、後ろに頼みや誘いも続けられます。「ものだから」は自分ではどうにもならなかった事情として理由を差し出し、わかってほしい気持ちがにじむので、言い訳や断りによく合います。ただ、お客様へのおわびなどで謝る前に使うと言い訳に聞こえやすいので、「先に謝る、理由は短く」と相手ごとに整理します。
「〜最中に」と「〜ているときに」はどう違いますか?
「〜ているときに」は動作が続いている間のどこかで起きたことを幅で言い、「〜ている最中に」はちょうど途中に起きたことを強く言います。後ろには、その動作をじゃまする・思いがけないことが来ることが多い形です。「いま〜の最中です」と文を終えると「手が離せない」という断りの理由にもなるので、電話の場面とセットで教えます。
第4課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目は導入・「〜ものだから」・「〜わけにはいかない」、2コマ目は「〜ないわけにはいかない」「〜最中」「〜たくありません」とロールプレイの準備、3コマ目は断りのロールプレイとまとめにあてます。項目を一つずつ教えて終わらせず、最後のロールプレイに1コマ近く取ると、課の目標の「理由を言って断る」が練習として残ります。
断りの課で、初級で習った「〜たくありません」を扱うのはなぜですか?
形は初級の復習ですが、誘いに「行きたくありません」と答えると、日本語では相手の申し出そのものを退けたように強く聞こえます。この課では、使ってよい場面(自分の好みや体の調子を話す・しつこい勧誘をはっきり断る・親しい相手)と、理由とぼかしに置き換える場面を分ける項目として扱います。課の最後に置くと、それまでに学んだ事情の言い方への言い換え練習になります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。