賛成か反対か、自分の立場をはっきり決めてから意見を言うことが目標の課です。この課では、留学生活での友達づくりのような、だれにでも意見がありそうな話題について話し合う場面が中心になります。意見が伝わりにくい学習者は、立場があいまいなまま話し始めたり、相手の反論に押されて意見を引っこめたりしがちなので、この課では「だれの立場から言うか(〜としては)」「意見そのもの(〜と思います・〜のではないかと思います)」「反論や悪い条件を先に認めても意見は変わらないこと(〜としても・たとえ〜ても)」の三つを部品にして、一つの意見の言い方を組み立てさせます。形の上でいちばん気をつけたいのは、「Nとしても」(立場)と「Nだとしても」(仮定)が「だ」一つの違いで意味が変わる点です。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 「留学中は、自分の国の人とはあまり会わないほうが日本語が伸びると思いますか」と聞き、賛成・反対を手を挙げて決めさせる。何人かに理由を言わせると「うーん、いいと思います……でも……」と立場が揺れる答えが出るので、「どちらの立場か、最初に決めて言うと伝わる」と課の芯を示し、意見を組み立てる部品を四つ学ぶと予告する |
| 学習項目1 〜としては/も | 30分 | 店長・アルバイトの学生・近所の人の絵を黒板に貼り、一つの話題(店の深夜営業)について立場ごとに意見を言わせる。「[立場]としては、[意見]」の枠を板書し、同じ意見の立場を足すときは「も」になることを見せる |
| 学習項目2 〜としても… | 35分 | 教師の意見に学生が反論を出し、教師がその反論を「〜としても」で受けて意見を守って見せる。板書の二段で「親としても」(立場)と「親だとしても」(仮定)を並べ、「だ」の有無で意味が変わることを確かめる |
| 学習項目3 たとえ〜ても… | 30分 | 初級の「〜ても、…」を一文だけ復習してから、極端な条件を出して「たとえ〜ても」で決心の固さを言わせる。「たとえ」と「ても」を線で結ぶ板書で呼応を見せ、「たら」「ば」とは組まないことを誤りの文で確かめる |
| 学習項目4 〜と思います | 25分 | 初級の復習として、同じ意見を「〜べきです」「〜たほうがいいと思います」「〜のではないかと思います」の三段で板書し、相手や場面によってどれを選ぶかを学生に決めさせる |
| 目標の活動(ミニ・ディベート) | 35分 | 賛成・反対の二組に分け、「[立場]としては、〜と思います。〜からです。たとえ〜ても(〜としても)、〜」の型で一人1分ずつ意見を言う。相手の組が反論を一つ出し、言った人が「〜としても」「たとえ〜ても」で答える。話題は導入の問いのほか、学習者の身近なもの(寮の門限・アルバイト・スマートフォンの使い方など)から選ぶ |
| まとめ | 15分 | ディベートで言った意見を、型どおりに200〜300字の意見文に書く。書き言葉では「〜と思う」「〜のではないだろうか」と文末を変えることを一言添えて宿題にする |
「Nとして」は、資格・立場・役割(〜の立場で・〜という役目で)を表します。「は」がつくと、ほかの立場のことは置いておいて「この立場から言えば」と立場を取り立てる形になり、「私としては」「学校としては」のように意見文の最初に置くと、だれの立場からの意見なのかがはっきりします。「も」がつくと、「ほかの立場と同じように、この立場でも」という意味になり、同意や協力の気持ちを添えるのに使います(「親としても、うれしいです」)。後ろには、その立場からの意見・判断・気持ち・行動が来ます。
N+としては/としても(名詞に直接つき、「だ」は入れない)。名詞を修飾するときは「N+としての+N」
まず口頭で、立場のカード(学生・親・店長・近所の人・市役所の人)と話題のカード(駅前に大きな駐車場を作る/学校の食堂を夜も開ける など)を一枚ずつ引かせ、「〜としては、〜と思います」で一文言わせる。次に、同じ話題で別の学生に別の立場のカードを引かせ、同じ考えなら「〜としても」、違う考えなら「〜としては」で続けさせ、立場の違いで意見が分かれることを体験させる。
「仮にそうなったとしても(そうだとしても)、後ろのことは変わらない」という仮定の逆接です。前の部分には、まだ起きていないこと・起きるかどうか分からないこと・事実かどうか分からないことを置くのが基本で、それを仮に認めたうえで、後ろで予想とは反対のこと、または変わらない結論を言います。意見を言う場面では、相手が出しそうな反論や悪い条件を先に認めて「それでも自分の意見は変わらない」と示すのに便利です。「〜ても」と意味は近いですが、「としても」は「仮に」の感じが強く、起きたことを事実として述べて後ろにそのあと起きたことを続ける文(*きのうは雨が降ったとしても、試合に行きました)には使いません。ただし「遅れたのは仕方がないとしても、連絡はするべきだった」のように、すでに起きたことを一応認めたうえで評価を続ける使い方はあります。「仮に」「もし」「たとえ」と一緒に使うことがよくあります。形が似ている「Nとしても」(項目1・その立場でも)とは別の表現で、名詞につくときは「Nだとしても」と「だ」が入るのが仮定の形です。
普通形+としても(名詞・な形容詞は「だ」が入る:学生だとしても/不便だとしても。動詞はル形にもタ形にもつく:行くとしても/行ったとしても)
三人一組で回す。一人目が意見を言い(「毎朝、朝ご飯を食べたほうがいいと思います」)、二人目が反論や悪い条件を出し(「でも、朝は時間がありません」)、三人目が「〜としても、〜」で受けて意見を守る。役を替えて三回まわし、品詞によって「だ」が入るかどうか(時間がないとしても/忙しいとしても/不便だとしても/一人暮らしだとしても)を教師が途中で確かめる。
初級で習った「〜ても、…」(ある条件でも、後ろのことは変わらない)を、副詞「たとえ」で強める形です。「どんなに極端な条件になっても、後ろのことは変わらない」という強い気持ちを表し、意見を言う場面では、自分の意見や決心が固いことを示すのに使います。「たとえ」は文の前のほうに置き、後ろの「〜ても/〜でも」と必ず組になります(このように、前の言葉が決まった形の後ろの言葉と組になることを「呼応」と言います)。「たら」「ば」「と」とは組みません。「たとえ〜としても」と項目2と組み合わせた形もよく使います。
たとえ+Vて形+も/い形容詞(〜くても)/な形容詞・名詞(〜でも)。「たとえ+普通形+としても」の形もある
学生に、自分がゆずれないこと(毎日続けていること・将来の夢・大切にしている決まり)を一つ書かせる。教師が「でも、〜だったら?」と極端な条件を出し(「でも、とても眠かったら?」「でも、給料が安かったら?」)、学生が「たとえ〜ても、〜」で答える。慣れたら学生同士で条件を出し合い、動詞・い形容詞・な形容詞・名詞の条件を混ぜる。
初級で習った、話し手の意見や判断を表す文末です。この課では意見の文末をどう和らげるかに絞って扱います。「〜べきです」「〜です」と言い切るより、「〜と思います」で自分の考えとして示すほうが、話し合いの場では受け入れられやすくなります。「〜たほうがいいと思います/〜ないほうがいいと思います」は提案や助言の形で、課の題もこの形です。さらに控えめに言いたいとき(目上の人への提案・反対意見を言うとき)は、「〜のではないかと思います」(話し言葉では「〜んじゃないかと思います」)を使います。「私は〜と思います」の「思う」の主語は話し手で、ほかの人の考えを言うときは「〜と思っています」「〜と言っています」になります。
普通形+と思います(名詞・な形容詞は「だ」が入る:学生だと思います/便利だと思います)。普通形+のではないかと思います(名詞・な形容詞は「な」:学生なのではないか/便利なのではないか)
まず、教師が言い切りの文のカード(「この店はやめるべきです」「その考えは間違いです」など)を出し、学生に「〜と思います」「〜のではないかと思います」に言い換えさせる。次にペアで、一人が意見を言い、もう一人が賛成なら「私も〜と思います」、反対なら「〜ないと思います」「〜とは思いません」で答える。最後に項目1〜3と組み合わせた型で、一人1分の意見を言わせる。
この課の語は、意見を言う場面の語(意見・賛成・反対・立場・理由・提案)と、話題になっている留学生活・人づきあいにかかわる語(付き合う・交流・母国・異文化 など)の二つのかたまりに分けて扱うと練習しやすくなります。単語だけで覚えさせず、「〜に賛成する/〜に反対する」「〜と付き合う」「〜の立場から」のように助詞つきの形で、ディベートの型の文に入れて練習します。「賛成・反対」は「〜に」を取ることを、「〜の案に賛成です」「〜には反対です」の文の中で何度も言わせて定着させます。
宿題は、授業のディベートで言った意見を、200〜300字の意見文に書くこと。「〜としては」「〜と思います(〜のではないかと思います)」「〜としても」か「たとえ〜ても」を必ず一回ずつ使い、書き言葉なので文末は「〜と思う」「〜のではないだろうか」にそろえる。次のコマの最初に何人かに読んでもらい、聞いた人が「〜としても」で反論を一つ出して書いた人が答えるところまでやって復習してから、第13課の「〜にとって…」(物事の価値を言う)に入ります。この課の「〜としては」(立場から意見を言う)と「〜にとって」(立場から価値を評価する)を並べて見せると、つながりが分かりやすくなります。
「Nとしても」と「Nだとしても」の違いはどう教えればいいですか?
板書を二段にし、上に「親としても、賛成です」(親の立場でも)、下に「親だとしても、勝手に読んではいけません」(仮に親であっても)を並べます。学生に「〜の立場でも」「仮に〜であっても」のどちらで言い換えられるかを答えさせ、違いが「だ」一つであることに気づかせます。名詞の例を出すたびに「立場ですか、仮の話ですか」と聞く習慣をつけると、ディベートの中でも混ざりにくくなります。
「〜としても」と初級の「〜ても」の違いは何ですか?
どちらも「その条件でも後ろは変わらない」という逆接ですが、「〜としても」は「仮にそうだとして」という仮定の感じが強く、まだ起きていないことや事実か分からないことに使うのが基本です。起きたことを事実として述べ、後ろにそのあと起きたことを続ける文(*きのう雨が降ったとしても、行きました)には使わず、「降ったけれど」「降っても」を使います。意見の場面では、相手の反論を、本当かどうかは別として受け止める言い方として「としても」が役に立つ、と場面で示します。
「たとえ」が「たら」「ば」と組んでしまう学習者にはどうしますか?
「たとえ」と「ても/でも」を黒板で線で結び、「たとえ」が出たら後ろは「ても」が来るまで待つ、と目で見せます。そのうえで「たとえ雨が降ったら」のような誤りの文をいくつか書き、学生に直させます。「たとえ〜としても」も組める形として並べておくと、使える組み合わせが一つの表で確かめられます。
第12課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目で導入と学習項目1〜2(〜としては/も・〜としても)まで、2コマ目で学習項目3〜4(たとえ〜ても・〜と思います)と目標の活動のミニ・ディベートを行います。意見文の作文は宿題にし、次のコマの最初の10分で何人かに読ませてから第13課に入ります。
ミニ・ディベートの話題はどう選べばいいですか?
学習者が自分の経験から意見を持てる身近な話題(寮の門限・アルバイトの時間・スマートフォンの使い方・同じ国の友達との付き合い方など)を選びます。賛成と反対のどちらにも理由が出やすい話題にすると、「〜としても」「たとえ〜ても」で反論を受ける練習が自然に起きます。宗教や政治のように個人の信条にかかわる話題は避けます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。