誘ったり勧めたりするとき、「〜ませんか」と言うだけでなく、それがどのくらいいいのか・いつも何が起きるのか・だれが望んでいるのかを添えると、相手は答えやすくなり、行ってみたい気持ちにもなります。この課の項目はそのための道具で、「〜くらい」「〜ほど」で程度を、「〜たびに」で毎回くり返し起きることを、「〜がる」でほかの人の気持ちや望みを言い、最後に初級の「〜ませんか」で誘いを締めます。教えるときの芯は、項目を別々に覚えさせず、「説明+誘い」の一続きの話の中で使わせることです。「くらい」と「ほど」の使い分けと、「〜がる」を使える相手の制限は誤りが出やすいので、ここに時間を取ります。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 教師が「日曜日、公園に行きませんか」とだけ言う誘いと、様子や事情を添えた誘いを続けて聞かせ、どちらに行きたくなるかを聞く。前の誘いに足りないもの(どのくらいいいか・いつも何が起きるか・だれが行きたいか)を黒板に書き出し、この課の地図として最後まで残す |
| 学習項目1 〜くらい… | 25分 | 「とても〜」を「〜くらい〜」のたとえに言い換えて、店や物のよさを言う。初級の「10分くらい」(およその量)とは前の形が違うことを2行で対比し、軽く見る「くらい」は最後に一言だけ |
| 学習項目2 〜ほど… | 30分 | 項目1の文を「ほど」に替えて、どちらが大げさに聞こえるかを比べる。続けて「N1はN2ほど〜ない」の比較を、グラフと矢印の板書で向きを確かめながら |
| 学習項目3 〜たびに… | 25分 | 教師の「〜すると、いつも」を「〜するたびに」に言い換えて導入。「〜とき」との違い(くり返すことにだけ使う)を確かめ、勧める理由として使わせる |
| 学習項目4 〜がる | 35分 | 絵の人物の気持ちを「〜がっている」で言う。自分の気持ちには使わないこと、目の前の目上の人には使わないことを場面で確かめ、「〜たがっているので、〜ませんか」の形まで作っておく |
| 学習項目5 〜ませんか | 15分 | 初級の復習。1〜4で作った説明のあとに「〜んですが、よかったら〜ませんか」を置き、受ける・断るの返事まで一続きで練習する |
| 目標の活動(誘いのロールプレイ) | 30分 | 「誘う場所・相手・事情」を書いたカードを配り、説明を二つ以上入れて誘う→相手は受けるか、理由を言ってやんわり断る。相手と役を替えて3回 |
| まとめ | 10分 | 行きたくなった誘いを一つクラスで聞き直し、使われた項目に板書の地図で印を付ける。宿題の案内 |
ある状態の程度が大きいことを、「〜するくらい」のように具体的なたとえで示します。「信じられないくらい安い」は「とても安い」より、どのくらい安いのかが相手の頭に浮かびます。前には動詞の辞書形・ない形・「〜たい」、形容詞、名詞が来ます。初級の「10分くらい」(およその量)とは別の使い方で、この課では程度を表す「くらい」を扱います。また「くらい」には「これくらいの荷物なら一人で運べる」のように、程度が低い・大したことがないと軽く見る使い方もあり、こちらは「ほど」に置き換えられません。
V辞書形/Vない/Vたい・いA・なAな・N+くらい(ぐらい)。「くらい」と「ぐらい」はどちらでもよい
「とても〜」の文のカードを配り、自分の経験から「〜くらい」のたとえに言い換えさせる。次にペアで、勧めたい店や場所を一つ決め、「〜くらい」を使ってよさを2文で言わせる(この文を項目5の誘いの前半に使う)。
「くらい」と同じく、程度をたとえで示します(夜も眠れないほど心配した)。「くらい」より程度が強く、大げさに聞こえ、少し硬いので、書き言葉やあらたまった話でよく使われます。「ほど」は程度が高いときにしか使わず、「これくらいなら平気」のように軽く見る使い方はできません。もう一つ大事なのが「N1はN2ほど〜ない」の比較で、「今年の夏は去年ほど暑くない」は「去年のほうが暑かった」という意味です。この比較にはふつう「ほど」を使い、後ろは否定の形になります。「Nほど〜Nはない」(この店ほど安い店はない)は、それがいちばんだという言い方です。
V辞書形/Vない・いA・なAな・N+ほど。比較は N1はN2ほど+形容詞・動詞の否定形
まず二つの物を比べるカード(電車とバス・東京と自分の町など)で「AはBほど〜ない」を言わせ、「では、どちらが〜ですか」と聞き返して向きを確かめる。次に項目1の文を「ほど」に替えて言わせ、友達との会話と作文のどちらに合うかを選ばせる。
「Aするたびに、B」で、Aが起きるときはいつも必ずBが起きる、ということを表します。「この歌を聞くたびに、国の家族を思い出す」のように、くり返す出来事と、そのたびに起きる気持ちや習慣を結びます。「〜とき」は一回だけのことにも使えますが、「〜たびに」は何度もくり返すことにしか使いません。後ろには、自然にそうなること(思い出す・新しい発見がある)や、いつもしている習慣が来ることが多い傾向があります。誘う・勧める場面では、「行くたびに〜」が「何度行ってもいい」という理由になります。
V辞書形+たびに/Nの+たびに(テスト・出張・旅行など、くり返す出来事の名詞)
「〜するたびに」の前半だけのカード(電車に乗る・雨が降る・国に電話する・会議)を引かせ、自分の経験で後半を作らせる。ペアで聞き合い、相手の文を「〜さんは〜するたびに〜そうです」と報告させる(第7課の伝聞の復習にもなる)。
気持ちや感覚を表す形容詞(寂しい・痛い・怖い・ほしい)や「〜たい」について、ほかの人の気持ちが、顔や態度や言葉に出ているのを外から見て言う形です。日本語では、人の気持ちは本人にしか分からないものとして扱うので、「妹は寂しいです」と言い切るより「寂しがっています」と言うほうが自然です。今の様子は「〜がっている」、その人のいつもの傾向は「〜がる」(子どもは注射を怖がる)で言います。自分の気持ちには使わず、「寂しいです」「帰りたいです」と言います。また、目の前にいる目上の人に「先生も〜たがっていますか」と言うと、相手の気持ちを外から観察しているように聞こえて失礼になるので、本人には「〜ませんか」で聞き、ほかの人に伝えるときは「〜たいとおっしゃっていました」にします。
いA(「い」を取る)・なA+がる(寂しがる・残念がる)/Vたい→Vたがる/ほしい→ほしがる。「〜がる」は動詞(グループⅠ)で、目的語の助詞は「を」
家族・友達・ペットの絵カードと、気持ちのカード(寂しい・痛い・ほしい・〜たい)を組み合わせて「〜は〜がっています」と言わせる。次に、ほかの人の望みを理由にした誘いの文(「〜が〜たがっているので、いっしょに〜ませんか」)を作らせ、項目5につなぐ。
初級で習った、相手を誘う・勧める形です。この課では形そのものより、誘う前に事情や内容を添える流れを練習します。「〜んですが、よかったら〜ませんか」のように、まず理由や様子を言ってから最後に「〜ませんか」で相手の気持ちを聞くと、誘いがやわらかくなり、相手も断りやすくなります。「〜ませんか」はするかどうかを相手に決めてもらう言い方で、「〜ましょう」はいっしょにすることがほぼ決まっているときに使います。物や体験を勧めるときは「〜てみませんか」、友達には普通体の「〜ない?」になります。
Vます形の「ます」を取る+ませんか(普通体は Vない+?)。事情は「〜んですが」「〜ので」で前に置く
「場所・相手・事情」のカード(例:和菓子屋・クラスメート・何度行ってもおいしい)を引かせ、項目1〜4の形を一つ以上入れた説明と「〜ませんか」を一続きで言わせる。相手は受けるか断るかで返し、断るときも理由を一言添える。
この課の語は、程度を強く言う決まった言い方(信じられないくらい・泣きたいくらい・眠れないほど)、くり返す出来事の名詞(テスト・出張・旅行・会議)、気持ちを表す形容詞(寂しい・怖い・痛い・恥ずかしい)の三つのかたまりに分けて扱うと、そのまま学習項目の練習に使えます。気持ちの形容詞は「寂しい→寂しがる」のように「〜がる」の形とセットで、出来事の名詞は「出張のたびに」のように「〜のたびに」の形で覚えさせます。
宿題は、自分が人に勧めたい場所・店・物を一つ選び、「〜くらい(ほど)」と「〜たびに」を入れて様子を2〜3文で書き、最後を「〜ませんか」で締めた誘いの文を作ること。家族や友達が行きたがっていることを理由にしてもよい。次のコマの最初に何人かに読んでもらい、聞いた人が受ける・断るの返事をしてから、第9課(話題から連想して会話を進める課)に入ります。
「くらい」と「ほど」はどう教え分ければいいですか?
まず同じ文を「くらい」「ほど」で並べ、意味はほぼ同じで、「ほど」のほうが大げさで硬めに聞こえることを確かめます。そのうえで、違いが形に出る二つの点を押さえます。一つは「AはBほど〜ない」の比べ方にはふつう「ほど」を使うこと、もう一つは「これくらい平気」のように軽く見る使い方は「くらい」だけだということです。話すときは「くらい」、書くときは「ほど」が多い、と伝えておけば、細かい使い分けで止まりません。
「今年は去年ほど暑くない」を学習者が逆の意味に取ります。どう見せればいいですか?
棒グラフを描き、「ほど」の前の名詞(去年)のほうが高い、と矢印で示すのがいちばん早いです。文の主語(今年)と暑かったもの(去年)が違うことを、色を変えて板書します。練習では文を言わせたあとに必ず「では、どちらが暑かったですか」と聞き返し、向きを毎回確かめます。
「〜たびに」と「〜とき」の違いは何ですか?
「〜とき」は一回だけのことにも使えますが、「〜たびに」は何度もくり返すことにしか使いません。「去年京都に行ったとき」は言えても、「たびに」にはできません。また「たびに」の前は、過去の話でも辞書形(行くたびに〜ました)にします。一回の話か何回もの話かを先に聞くと、学習者は自分で選べるようになります。
「〜がる」はなぜ自分や目上の人に使えないのですか?
日本語では、人の気持ちは本人にしか分からないものとして扱い、ほかの人の気持ちは外に出ている様子から言う、という区別をします。「〜がる」はその「外から見て言う」形なので、自分の気持ちには使わず「寂しいです」と言い切ります。目の前の目上の人に使うと、相手の心を観察して言っているように聞こえて失礼になるので、本人には「〜ませんか」で聞きます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目で「くらい」「ほど」「たびに」までを扱い、2コマ目で「〜がる」と「〜ませんか」を入れて、最後の誘いのロールプレイに30分ほど取ります。「くらい」と「ほど」の比べ方で時間がかかるクラスは、軽く見る「くらい」を2コマ目の冒頭に回してもかまいません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。