何かを最後までやり終えたことを、聞く人に伝わるように強く報告する課です。五つの学習項目はどれも、動詞のます形に別の動詞をつけて一つの動詞にする形(複合動詞)で、全部・最後まで(〜きる)、苦しくてもやり通す(〜ぬく)、気持ちの上で受け入れにくい(〜がたい)の三つが新しく、始まり(〜始める)と終わり(〜終わる)は初級の復習です。報告を「いつ始めて・何がたいへんで・どこまでやり終えて・どう感じたか」の順に組むと、五つの形がそれぞれの場所に収まります。初中級の最後の課なので、まとめの報告では、これまでの課で学んだ形も一緒に使わせます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 「最近、最後までがんばってやったことはありますか」と学生に聞き、試験・アルバイト・引っ越し・スポーツなど出た答えを集める。その中から一つ選んで「いつ始めましたか」「何がたいへんでしたか」「最後はどうなりましたか」と聞き、答えを黒板の三段(始まり・途中・終わり)に書く。この課は、やりとげたことを強く報告する課だと予告する |
| 学習項目4・5 〜始める/〜終わる(初級の復習) | 20分 | 時間の線の両端に「始めた」「終わった」の点を打ち、報告の枠(始まりと終わり)を先に作る。初級で習った形なので手早く確かめ、「〜出す」(急に・思いがけず始まる)との違いだけ絵で一言添える |
| 学習項目1 〜きる | 30分 | 水が減っていくペットボトルの絵とゴールのある線で、「全部」と「最後まで」の二つの意味を見せる。半分残った絵で「〜きれない」も同時に入れる |
| 学習項目2 〜ぬく | 30分 | ゴールの線の途中に坂や雨の絵を描き足し、「苦しさに負けずに最後まで」を言う形として入れる。「きる」と「ぬく」のどちらが合うかを選ぶ問題で、量の話か苦しさの話かを区別させる |
| 学習項目3 〜がたい | 35分 | 三つの「できない」の箱(力が足りない・手間がかかる・気持ちが受け入れない)で、「〜られない」「〜にくい」「〜がたい」を分ける。報告の中で、驚いたことや心に残ったことを硬く言う形として使わせる |
| 目標の活動(体験の報告) | 45分 | 自作の短い報告の文章(けがからの復帰・資格試験の合格 など)を読み、「始まり・途中の苦しさ・終わり・気持ち」に色の違う線を引かせる。次にペアで自分の体験を報告し合う。話す側は五つの形のうち三つ以上を使い、聞く側は「何がいちばんたいへんでしたか」と一つ質問する |
| まとめ(初中級の振り返り) | 10分 | 五つの形を「始まり・途中・終わり・気持ち」の表に入れて確かめる。初中級の最後の課なので、この一冊で何を「やりきった」と思うかを、学生一人ひとりに「〜きる」か「〜ぬく」を使って一文で言ってもらって終える |
動詞のます形に「きる」をつけて、全部・残らず(お金を使いきる・料理を食べきる)、または途中でやめずに最後まで(10キロを走りきる・長い小説を読みきる)することを表します。量や距離が多くて、終わりまで行くのがたいへんなものによく使い、「全部できた」という達成の気持ちが出ます。「できない」と言うときは可能の形「〜きれない」を使い、「食べきれない(量が多くて全部は無理)」「数えきれない(数がとても多い)」のように言います。また、「疲れきる・困りきる」のようにすっかりその状態になる意味もあります。「待ちきれない」は、待っていられないほど楽しみだという気持ちの言い方です。
Vます(「ます」を取った形)+きる(グループⅠの動詞として活用する:きります・きって・きった・きれる・きれない)
量・道のりのカード(大盛りのご飯・1000ピースのパズル・10キロのコース・一か月の給料・厚い本)を出し、「〜きりました」と「〜きれませんでした」の両方で言わせる。次に、自分がこれまでに最後までやりきったこと(試験勉強・長いアルバイトの一日・引っ越しの片付け など)を一つ選び、「〜きることができました」で短く報告させる。
動詞のます形に「ぬく」をつけて、苦しいこと・つらいことがあっても、途中でやめずに最後までやり通すことを表します。「やりぬく・がんばりぬく・走りぬく・守りぬく・生きぬく」のように、努力や我慢が要る動作に使い、やり通した人をほめたり、自分の努力を強く伝えたりする響きがあります。「〜きる」も「最後まで」を表しますが、「きる」は終わりまで届いたこと(全部・最後まで済んだ)に目が向き、「ぬく」は途中の苦しさに負けなかったことに目が向きます。そのため、がんばる必要のないふつうの動作にはあまり使いません。また、「考えぬく・悩みぬく・選びぬく」のように、とことん・徹底的にする意味もあります(考えぬいて決めた)。
Vます(「ます」を取った形)+ぬく(グループⅠ:ぬきます・ぬいて・ぬいた。名詞の前では「考えぬいた〜」「選びぬかれた〜」の形もよく使う)
「たいへんだったこと」と「結果」のカードを組にして(夜のアルバイトと学校・毎日の練習と大会・三か月のリハビリ)、「〜けど、最後まで〜ぬきました」の一文にさせる。次に、「きる」と「ぬく」のどちらが合うかを選ぶ問題(ケーキを全部食べ〜/つらい練習をやり〜/一か月の給料を使い〜/最後まであきらめずに戦い〜)を口頭で出し、量の話か苦しさの話かで選ばせる。
動詞のます形に「がたい」をつけて、気持ちの上で、そうするのが難しい・そうする気持ちになれないことを表します。「信じがたい(本当だと思えない)」「許しがたい(どうしても許せない)」「理解しがたい」「忘れがたい(忘れられないほど心に残る)」「想像しがたい」「耐えがたい」のように、多くは信じる・許す・理解する・忘れる・想像する・受け入れるなど、心のはたらきや判断を表す動詞につきます。ほかに「得がたい(なかなか手に入らない)」「近寄りがたい(雰囲気がきびしくて近づけない)」「言いがたい」「動かしがたい」「避けがたい」のような決まった語もあります。どれも「そうしようとしても、なかなかそうできない・そうする気になれない」という言い方で、体の力や技術でできないこと(重くて持てない)には使いません。似た「〜にくい」は、物の性質や状況のせいでそうするのに手間がかかること(この字は小さくて読みにくい・この道は歩きにくい)、可能形の否定「〜られない」は、能力や条件の上でできないこと(重くて持てない)を言います。「〜がたい」は硬い言い方で、報告・スピーチ・書いた文章によく出ます。報告では「信じがたいことに、〜」「忘れがたい経験」のように、出来事の重さや心に残ったことを伝えるのに使います。
Vます(「ます」を取った形)+がたい(い形容詞と同じに活用する:がたかった・がたくて。名詞の前は「忘れがたい思い出」)
動詞のカード(信じる・許す・理解する・忘れる・想像する・持つ・読む・歩く)を出し、「〜がたい」が自然なものと、「〜にくい」「〜られない」にするものに分けさせる。分けたあと、ニュースや自分の経験について「〜は、〜がたいです」「〜がたい〜でした」の一文を作らせる。
初級で習った複合動詞の復習です。ます形に「始める」をつけて、動作や変化が始まったことを表します。前の動詞は意志のある動作(話し始める・働き始める)にも、自然の変化(桜が咲き始める・雨が降り始める)にも使えます。この課では、報告の中でいつ始まったかをはっきり言うために使います(手術から一週間後に、歩き始めました)。始まりが言えると、聞く人にどのくらいの期間がんばったのかが伝わります。似た「〜出す」は急に・思いがけず始まる感じがあり(急に雨が降り出した・子どもが泣き出した)、自分で計画して始めることや、誘い・頼みには使いません(一緒に読み始めましょう、とは言うが、「読み出しましょう」とは言わない)。
Vます(「ます」を取った形)+始める(グループⅡ:始めます・始めて・始めた。前の動詞が「降る」のような自動詞でも、後ろは「始める」)
学生に自分の時間の線(日本語の勉強・アルバイト・趣味)を描かせ、始まりの点ごとに「〜から/〜に、〜始めました」と言わせる。次に、「急に」「計画して」の印をつけた場面を出し、「〜始めました」と「〜出しました」のどちらが合うかを選ばせる。
これも初級で習った複合動詞の復習です。ます形に「終わる」をつけて、始めた動作が終わりまで行って、済んだことを表します(食べ終わる・読み終わる・書き終わる)。終わりがはっきりしている、意志のある動作に使い、「雨が降り終わる」のような自然の変化には使いません(雨は「やむ」)。「〜きる」も終わりまで行くことを表しますが、「終わる」は動作が済んだという事実を言い、「きる」は量が多くても全部・最後までという達成の気持ちを加えます(レポートを書き終わった/一晩で20ページのレポートを書ききった)。報告では、始まり(〜始める)と組にして期間を言ったり、「〜終わったら、次に〜」のように手順の区切りを言ったりするのに使います。改まった報告や書いた文章では「〜終える」(読み終える・やり終える)もよく使います。
Vます(「ます」を取った形)+終わる(グループⅠ:終わります・終わって・終わった。改まった言い方は Vます+終える(グループⅡ:終えます・終えた))
一日の予定表(朝ご飯→掃除→レポート→アルバイト)を見せ、「〜終わったら、〜します」「〜終わってから、〜しました」で手順を言わせる。次に、自分の時間の線の一つを「〜始めて、〜終わりました」と両端つきで報告させ、最後に「〜終わった」「〜きった」「〜ぬいた」のどれが合うかを場面ごとに選ばせる。
体験を報告する場面の語(けが・手術・入院・退院・リハビリ・訓練・目標・努力・結果・記録・挑戦・回復 など)がまとまって要ります。単語だけで覚えさせず、「目標を立てる」「けがから回復する」「つらい時期を乗り越える」「記録を出す」のように助詞つきの形で、報告の文の中に入れて練習します。複合動詞は「使いきる・売りきれる・やりぬく・生きぬく・信じがたい・忘れがたい・動き始める」のように一語として覚えさせ、店の「売り切れ」のように名詞として目にする語は、町で見かける表示と結びつけると定着しやすくなります。
宿題は、自分が最後までやりぬいた(またはやりきった)経験について、報告の文章を300字ほど書くこと。「始めた時期(〜始める)・途中でたいへんだったこと・終わったとき(〜終わる/〜きる/〜ぬく)・そのときの気持ち(〜がたい)」の順に組み、五つの形のうち三つ以上を使う。初中級の最後の課なので、次のコマでは一人1〜2分のスピーチとして発表してもらい、聞く側が一つずつ質問をしたあと、初中級全体で学んだ形をクラスで振り返ります。そのあと次の巻(中級)の第21課に進みます。
「〜きる」と「〜ぬく」の違いはどう教えればいいですか?
同じゴールの線を使い、「きる」はゴールの旗(全部・最後まで済んだこと)、「ぬく」は途中の坂(苦しさに負けなかったこと)に矢印を向けて見せます。前に来る言葉で選ばせると分かりやすく、量や距離なら「きる」(10キロを走りきる)、苦しさなら「ぬく」(足が痛くても走りぬく)です。がんばる必要のないふつうの動作には「ぬく」を使わない、と例で確かめます。
「〜がたい」と「〜にくい」「〜られない」の違いは何ですか?
「〜られない」は力や条件の上でできないこと、「〜にくい」は物の性質や状況のせいで手間がかかること、「〜がたい」は気持ちの上で受け入れられないことです。「がたい」は多くが信じる・許す・忘れる・理解するなど心のはたらきや判断の動詞につき、ほかに「得がたい」「近寄りがたい」「言いがたい」のような決まった語もあります。力や技術でできないことには使わず、硬い言い方なので報告やスピーチ向きです。三つの箱の絵で分け、会話では「信じられない」に言い換えさせます。
第20課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入から「〜始める」「〜終わる」の復習、「〜きる」「〜ぬく」まで、2コマ目は「〜がたい」と体験の報告、まとめです。初中級の最後の課なので、宿題の報告文をもとにしたスピーチ発表に、もう1コマ取ってもよいでしょう。
「〜始める」と「〜出す」は、この課でどこまで扱いますか?
中心は「〜始める」で、「〜出す」は違いを一言添える程度にとどめます。「出す」には急に・思いがけず始まる感じがあり、計画して始めることや「〜ましょう」の誘いには使いません。だんだん降り始める雨と急に降り出す雨の二枚の絵で見せ、報告で自分の計画を言うときは「始める」を使わせます。
初中級の最後の課のまとめは、どうすればいいですか?
五つの形を「始まり・途中・終わり・気持ち」の表に入れて確かめたあと、一人1〜2分の「やりとげ報告」をさせます。報告の中で、これまでの課の形(〜おかげで・〜たびに・〜て以来 など)も一つ以上使うように指示すると、一冊の振り返りになります。聞く側には必ず一つ質問させ、やり取りで終えます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。