自分の中からわき上がってきて抑えられない気持ちや、思わずしてしまう行動を、日本語で言い表す課です。似た形が6つ並びますが、気持ちや感覚が強いことを言う「〜てならない」「〜てしょうがない/しかたがない」「〜てたまらない」と、気持ちが強くて思わず行動に出てしまうことを言う「〜ないではいられない」「〜ずにはいられない」の2組に分け、最後に、気持ちはあっても事情があってできない「〜わけにはいかない」を衝動を抑える側として足すと、学習者の頭の中で整理しやすくなります。気持ちの形はどれも、基本は話し手自身の気持ちを言う形で、ほかの人の気持ちを言うときは「〜ようだ」「〜らしい」などを付ける、という制限を課の早いうちに押さえておきます。項目を一つずつ入れたら、ホームシックや結果待ちの不安など、気持ちが強く動いた経験を語る活動でまとめて使わせると、課の目標がそのまま練習になります。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 教師が「日本に来て最初の月、何がいちばんつらかったですか」と聞き、学生に自由に話させる。「とても寂しかった」「すごく食べたかった」のような答えを黒板に集め、「とても」「すごく」より強い、抑えられないほどの気持ちを言う形がこの課に6つある、と予告する。黒板の端に「気持ち・感覚」「行動」「抑える」の3つの箱を作っておく |
| 学習項目1 〜てならない | 35分 | 「とても心配です」と「心配でなりません」を比べて、止めようとしても止まらない気持ちを導入する。「〜ような気がしてならない」をかたまりで入れ、作文やスピーチ向きのやや硬い形だと押さえる |
| 学習項目2・3 〜ないではいられない/〜ずにはいられない | 45分 | 「しないでいよう → 気持ちが強い → してしまう」の矢印で行動の形を導入し、「ない → ず」「する → せず」の変換を練習する。意味は同じで「ずには」のほうが硬いことを、会話と作文の書き分けで確かめる。1コマ目はここまで |
| 学習項目4・5 〜てしょうがない/しかたがない・〜てたまらない | 40分 | 体の感覚と身近な困りごとで導入する。話し言葉ではこの二つがいちばん使いやすいこと、ものの性質には付かないことを例で見せる |
| 気持ちの3つの形の整理 | 20分 | 「心配で〜」「のどがかわいて〜」「〜ような気がして〜」を てならない・てたまらない・てしょうがない に入れさせ、自然さと硬さを表にする。ほかの人の気持ちには「〜ようだ」「〜がっている」を付けることもここで確かめる |
| 学習項目6 〜わけにはいかない | 30分 | 天秤の絵で、気持ちに負ける「〜ずにはいられない」と、事情で押さえる「〜わけにはいかない」を左右に置く。初中級で学んだ意味を短く思い出させてから、「〜たくてたまらないけど、〜わけにはいかない」の対にして使う。2コマ目はここまで |
| 目標の活動(気持ちを語る1分スピーチ) | 60分 | 「日本に来て、いちばん〜てたまらなかったこと」を1分で話す。気持ちの形を一つ、行動の形か抑える形を一つ必ず入れ、聞き手は「それで、どうしましたか」と質問を一つ返す。3コマ目の頭に宿題の短い文章を何人かに読ませてから、この活動に入ってもよい |
| まとめ | 30分 | 黒板の3つの箱に6つの形を置き直し、硬い形とくだけた形、ほかの人について言うときの付け方を一覧にして残す |
ある気持ちや感覚が、自分で止めようとしても自然にわいてきて、どうしようもないほど強いことを表します。前に来るのは、心配・不安・残念・悔しい・寂しいのような感情の言葉や、「気になる」「気がする」、思える・感じられる・悔やまれるのような自発の形の動詞など、自分の意志と関係なく心に起こることです。「〜てたまらない」「〜てしょうがない」と意味は近いですが、やや硬く、作文・手紙・スピーチや、落ち着いて自分の気持ちを振り返る話で使われることが多い形です。とくに「〜ような気がしてならない」「〜ように思えてならない」の形で、はっきりした理由はないのにどうしてもそう感じてしまう、という気持ちを表します。文法の見方で言うと、感情・感覚の述語に付いて程度の強さを言い添える形で、感情形容詞と同じく「人称制限」(言い切りで使えるのは話し手の気持ちだけ)がかかります。
Vて/い形くて/な形で+ならない(動詞は「気になる」「気がする」や、思える・感じられるのような自発の形が多い。丁寧には「〜てなりません」)
感情の言葉のカード(心配・残念・不安・悔しい・寂しい・気になる)と場面のカード(面接のあと・国を出る前の晩・試合に負けた日)を組み合わせ、「〜てなりません」を使った一文を作らせる。そのあと同じ文を友達に話す口調で「〜てたまらない」「〜てしょうがない」に言い換えさせ、硬さの違いを耳で確かめる。
そうしないでいようと思っても、気持ちが抑えられず思わずその行動をしてしまうことを表します。「いられない」は「〜ないという状態のままでいることができない」ということです。「〜てならない」「〜てたまらない」が気持ちそのものの強さを言うのに対し、こちらは気持ちが強くて行動に出てしまうことを言うので、前に来るのは、言う・聞く・確かめる・手伝う・食べるのような、ふつうは自分の意志でする動詞です。意味は次の「〜ずにはいられない」と同じで、こちらのほうが少しやわらかく、話し言葉でも使えます。文法の見方で言うと、意志動詞のない形に付いて「その状態にとどまれない」ことを言う形で、結果として話し手はその行動をしています。
Vない(ない形)+ではいられない(丁寧には「〜ないではいられません」)
「きっかけ」のカード(好きな歌手の新曲が出た・道に迷っている観光客を見た・テストの答案が返ってきた)を引かせ、「〜と、〜ないではいられない」で自分の行動を言わせる。言えたら教師が「我慢できますか」と聞き、「できません」と答えさせて、行動を止められない形だと毎回確かめる。
意味は「〜ないではいられない」と同じで、我慢しようとしても思わずその行動をしてしまうことを表します。「ず」は「ない」の古い形で、そのぶん少し硬い響きになり、作文・感想文・スピーチなど、書き言葉や改まった話でよく使われます。話し手自身の行動に使うのが基本で、ほかの人について言うときは「〜ずにはいられないようだ」「〜ずにはいられなかったらしい」のように推量の形を付けます。物語や、昔のことを振り返って語る文では、ほかの人のことにもそのまま使われることがあります。
Vない(ない形)の「ない」を取って+ずにはいられない(する → せずには、来る → 来(こ)ずには)
動詞のカード(言う・聞く・確かめる・心配する・連絡する・来る)を見せて「〜ずにはいられない」に変える練習を速く回し、「する」「来る」を多めに混ぜる。そのあと学習項目2で作った会話の文を、作文の一文として「〜ずにはいられなかった」に書き直させる。
気持ちや体の感覚がとても強くて、自分ではどうにもできない、我慢できないことを表します。「しょうがない」は「しかたがない(=ほかにどうする方法もない)」と同じ意味の話し言葉(もとは「しようがない」)で、「〜てしょうがない」のほうがくだけていて友達との会話向き、「〜てしかたがない」は少し改まった会話や文章でも使えます。「〜てたまらない」と並んで話し言葉でよく使われ、楽しみ・うれしいのようなよい気持ちにも、暑い・だるい・のどがかわくのような体の感覚にも付きます。また、「最近、忘れ物が多くてしょうがない」のように、困っている・あきれている気持ちを込めて言うことが多いのもこの形の特徴です。
Vて/い形くて/な形で+しょうがない/しかたがない(会話では「が」を落として「〜てしかたない」とも言う。丁寧には「〜てしょうがないです」「〜てしかたがありません」)
気持ち・感覚のカード(暑い・寒い・のどがかわく・退屈・楽しみ・気になる)を引かせ、友達に言う「〜てしょうがない」と、目上の人へのメールに書く「〜てしかたがありません」の両方で言わせる。そのあと「だから、どうしたいか」を一文足させ、気持ちを伝えたあとの会話につなげる。
気持ちや体の感覚が強すぎて、我慢できない、耐えられないことを表します。「〜てしょうがない」とほぼ同じように話し言葉で使われますが、困っている気持ちよりも、感じていることの強さをそのまま、感情を込めて言う響きがあります。うれしい・会いたい・心配だのような気持ちや、痛い・暑い・のどがかわくのような体の感覚に付き、「〜たくてたまらない」で、どうしてもしたい気持ちもよく言います。「〜てならない」とは、体の感覚にも普通に使えること、くだけた会話で使いやすいことが違います。反対に「〜ような気がする」「思える」にはあまり付かず、その場合は「〜てならない」が使われることが多い形です。
Vて/い形くて/な形で+たまらない(丁寧には「〜てたまりません」)
「〜たくてたまらない」で、いま我慢していることを一人ずつ言わせる(国の料理・家族・休み・新しい服 など)。言えたら、ほかの学生が「どうして我慢しているんですか」と聞き、言った学生は「〜から、〜わけにはいかないんです」(学習項目6)で答える流れにすると、次の項目への橋になる。
初中級で学んだ「〜わけにはいかない」を、この課では衝動を抑える側の形として使います。気持ちの上ではしたい(あるいは思わずしてしまいそうになる)けれど、立場・決まり・周りの人への気づかい・自分の責任を考えると、することはできない、という判断です。「〜てたまらない」「〜ずにはいられない」が気持ちに負けてしまう側だとすれば、「〜わけにはいかない」は気持ちを事情で押さえる側で、二つを並べると「〜たくてたまらないけど、〜わけにはいかない」のように、気持ちと行動の食い違いが語れます。事情からの判断を言う形なので、気持ちの形と違い、「彼は立場上、断るわけにはいかなかった」のようにほかの人について言うこともできます。
Vる(辞書形)+わけにはいかない(丁寧には「〜わけにはいきません」。前を「Vない」にした「〜ないわけにはいかない」は、事情があってしなければならない、の意味)
学習項目5の練習で出た「我慢していること」を使い、「〜たくてたまらないけど、〜から、〜わけにはいかない」の一文を作らせる。次に同じ場面で、気持ちが勝ってしまった結末を「結局、〜ずにはいられなかった」で言わせ、一つの場面の二つの結末を天秤の左右に書いて比べる。
この課で扱う言葉は、気持ちを表す言葉(恋しい・懐かしい・悔しい・不安・退屈 など)と、体の感覚を表す言葉(だるい・のどがかわく・肩がこる など)に分けて板書しておくと、どの形に付けやすいかを考える材料になります。単語だけで覚えさせず、「恋しくてたまらない」「不安でならない」のように、て形に変えた形でカードを作って練習します。
宿題は、日本に来てから(または新しい生活を始めてから)気持ちが強く動いた経験を一つ選び、「〜てたまらなかった」「〜てならなかった」「〜ずにはいられなかった」「〜わけにはいかなかった」のうち3つ以上を使って、200〜300字の短い文章に書くこと。硬い形(てならない・ずには)は地の文で、くだけた形(てたまらない・てしょうがない)は会話の引用の中で使わせる。次のコマの最初に何人かに読ませ、聞いた学生が「気持ちの形」「行動の形」「抑える形」のどれが使われていたかを言って振り返ります。
「〜てならない」「〜てたまらない」「〜てしょうがない」の違いはどう教えればいいですか?
意味の差は小さいので、硬さと付きやすい言葉で分けます。「〜てならない」はやや硬く、作文や手紙、「〜ような気がしてならない」のような自然にわく思いに向きます。「〜てたまらない」「〜てしょうがない」は会話向きで、暑い・痛いのような体の感覚にも普通に使え、「〜てしょうがない」は困っている気持ちを込めることが多い形です。3つを並べた表を作り、同じ「心配で〜」を手紙と友達との会話の場面で言い分けさせると定着します。
「〜ないではいられない」と「〜ずにはいられない」の違いは何ですか?
意味は同じで、思わずその行動をしてしまうことを言います。違いは硬さで、「〜ずには」のほうが書き言葉や改まった話向きです。形の上では「する→せず」「来る→来(こ)ず」でつまずくので、「ないでは」で意味を入れてから、ない形→ず形の変換を別に練習すると混乱しません。
「〜わけにはいかない」と「〜ずにはいられない」を学習者が混ぜます。どう整理しますか?
天秤の絵で、気持ちに負けてしてしまう側(〜ずにはいられない)と、事情で気持ちを押さえてしない側(〜わけにはいかない)を左右に置きます。学習者が文を言ったら「最後に、した?しなかった?」と聞き、したなら左、しなかったなら右に戻します。「〜ないわけにはいかない」(事情があってする)は、理由が気持ちではなく立場や決まりだという点で、さらに別の箱に置きます。
この課の気持ちの形を、ほかの人について使ってもいいですか?
「〜てならない」「〜てたまらない」「〜てしょうがない」「〜ずにはいられない」は、言い切りでは話し手自身の気持ちに使うのが基本です。ほかの人について言うときは「〜ようだ」「〜らしい」「〜がっている」を付けさせます。物語や昔を振り返る文章では付けずに書くこともありますが、会話の練習では付ける形を先に固めます。一方「〜わけにはいかない」は事情からの判断なので、ほかの人について言い切ることもできます。
学ぼう!にほんご 中級 第23課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目で「〜てならない」と行動の形2つ(ないでは・ずには)、2コマ目で「〜てしょうがない/しかたがない」「〜てたまらない」と3つの気持ちの形の整理、「〜わけにはいかない」まで進めます。3コマ目は宿題の文章の読み合わせと、気持ちを語る1分スピーチ、まとめに使います。形の数が多い課なので、2コマに詰めるより活動の時間を残すほうが、課の目標に届きやすくなります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。