文章を読むとき、書き手がだれの立場に立ち、何を基準にして物事を判断しているかをつかむための課です。5つの形は、だれの立場から考えるかを示す「〜からすると/からすれば」「〜にしたら」「〜にとって」と、何を「ふつう」と考えて意外だと感じているかを示す「〜わりに」「〜にしては」の2組に分けると整理しやすくなります。前の組は、後ろに来る言葉の種類で区別でき、立場からの判断なら「からすると」、その人の気持ちを推し量るなら「にしたら」、価値の評価なら「にとって」です。後ろの組は、前に程度の幅のある言葉(値段・年齢・練習の量)が来れば「わりに」、具体的な事実や身分(初めて・小学生・プロ)が来れば「にしては」が自然なことが多い、と前の言葉で見分けます。授業では、自作の短い投書や意見文に出てくるこれらの形に線を引かせ、「だれの目から見た話か」「何と比べての意外さか」を表にまとめる読み取りを、課の目標の活動の中心に置きます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 15分 | 教師が作った短い投書を2本(駅前に大きなショッピングセンターができることについて、近くに住む会社員と商店街の店主が書いたもの・各4〜5文)配り、二人の意見がどうして違うのかを聞く。「住んでいる人と店をしている人では見方が違う」という答えを引き出し、「だれの目から見た話か」を読むのがこの課の読み方だと予告する。黒板に「だれの立場から」「何と比べて」の2つの箱を作っておく。1コマ目は導入から学習項目3まで、2コマ目は学習項目4・5と目標の活動にあてる |
| 学習項目1 〜からすると/からすれば | 25分 | 同じ出来事を、立場の違う二人の絵を使って一言ずつ言わせて導入する。様子や事実を手がかりにした推量(「この雲からすると、雨が降りそうだ」)は、色を変えて別の使い方として板書する |
| 学習項目2 〜にしたら | 20分 | 相手の身になって気持ちを推し量る形として入れ、「からすると」とは前に来るもの(人に限る)と結び方(〜だろう・〜かもしれない)が違うことを確かめる。文章では、書き手自身の意見と分けて読む目印になると押さえる |
| 学習項目3 〜わりに | 25分 | 値段と味の「予想」と「実際」を矢印で見せて導入し、よい意外と悪い意外の両方の文を作らせる。書き手がどんな「ふつう」を前提にしているかが表れる形だと「何と比べて」の箱に置く |
| 学習項目4 〜にしては | 25分 | 黒板に「ふつうの線」を引き、基準から上や下に外れることを矢印で見せる。「値段のわりに」と「千円にしては」を並べ、前の言葉が程度そのものか具体的な事実かで、二つの形を見分ける |
| 学習項目5 〜にとって | 15分 | 初中級で学んだ「〜にとって」を短く思い出させ、後ろには評価の言葉しか来ないことを、「からすると」(判断・意見)「にしたら」(気持ちの推し量り)と並べた3列の表で整理する |
| 目標の活動(立場を読み取る読解) | 45分 | 自作の意見文(学校の制服をなくす案について、生徒・保護者・先生がそれぞれ書いた三つの短い文章)を読み、5つの形に線を引いて、「だれの立場か」「書き手自身の意見か、ほかの人の気持ちの推し量りか」「何と比べての意外さか」を表に書き込む。最後に、自分はどの立場に近いかを一文で言う。三つの文章は一人一つずつ担当して読み、表を持ち寄って三人組で埋める(情報差)。最後に教師が、線を引いた形のうち「書き手自身の意見」を示す文がどれかを全体で確かめる |
| まとめ | 10分 | 2つの箱に5つの形を置き直し、それぞれの後ろに来る言葉(判断・気持ちの推し量り・評価・意外さ)と前に来る言葉を一覧にして残す |
「Nからすると」「Nからすれば」は、Nの立場・観点に立って判断するとという意味で、後ろにはその立場から見た判断や評価が来ます。「学生の立場からすると」「利用者からすれば」のように、人や立場を表す名詞に付くことが多く、文章では、書き手がどの立場から意見を言っているかを示す目印になります。もう一つ、「この空の色からすると、夕方には雨になりそうだ」のように、Nを手がかりにして推し量るとという使い方もあり、こちらは後ろに「〜そうだ」「〜だろう」「〜らしい」のような推量の形が来ることが多くなります。「からすると」と「からすれば」の意味の違いはほとんどなく、会話でも文章でも使えます。
N+からすると/からすれば(「Nの立場からすると」「Nの目からすれば」の形も多い。丁寧さは文末で調整する)
一つの出来事のカード(会社が毎週金曜日を在宅勤務にする/駅前の駐輪場が有料になる)と、立場のカード(社員・社長・社員の家族・通学する学生・近くの店の人)を組み合わせて、「〜からすると、〜」で一文ずつ言わせる。出た文を黒板に立場ごとに並べ、同じ出来事の評価が立場でどう分かれるかを全員で見る。
「N(人)にしたら」は、その人の身になって、その人の気持ちを考えてみるとという意味です。後ろには、その人が感じていそうなこと(うれしい・迷惑だ・つらい・〜と思っている)が来て、「〜だろう」「〜かもしれない」「〜のだ」で結ぶことが多い形です。「からすると」が立場からの判断にも、様子を手がかりにした推量にも広く使えるのに対し、「にしたら」は人(や、人のように気持ちを考えられる動物・会社など)に限られ、相手を思いやる響きが強くなります。文章では、書き手が自分とは別の人の気持ちを代わりに述べている目印になるので、そのあとに「しかし」「とはいえ」で書き手自身の意見に戻ることがよくあります。同じ意味で「〜にすれば」「〜にしてみれば」も使われます。
N(人・人のように気持ちを考えられるもの)+にしたら(「〜にすれば」「〜にしてみれば」とも言う)
ニュースの当事者のカード(引っ越しで転校する子ども・初めて一人暮らしをする子を送り出す親・急に値上げを知らされた客・値上げを決めた店の主人)を使う。ペアの一人が「〜にしたら、〜だろう」と言い、もう一人が「でも、〜にしたら、〜かもしれない」と別の当事者で返す。言えたら、二人の文のあとに「わたしは〜と思う」を一文足させ、推し量りと自分の意見を分けて言う練習にする。
「〜わりに(は)」は、〜から考えられる程度と比べると、実際はそれに合わないことを表します。「値段のわりにおいしい」は、安い値段から予想するよりおいしい、「たくさん練習したわりに上手にならない」は、練習の量から予想するほどには上手にならない、という意味で、よい意外にも悪い意外にも使えます。前には、年齢・値段・大きさ・練習の量のように程度の幅がある言葉が来ることが多く、話し手は「その程度なら、ふつうはこれくらいだ」という自分の基準と比べています。文章では、書き手がどんな「ふつう」を前提にしているかが表れるところなので、読解では「何と比べて意外なのか」を確かめさせます。
Nの/Vる・Vた/い形/な形な+わりに(は)(「は」を付けた「〜わりには」もよく使う)
「予想」のカード(安い・広い・たくさん寝た・有名だ・小さい)と「実際」のカード(おいしい・家賃が安い・眠い・客が少ない・よく入る)を組み合わせて「〜わりに、〜」を言わせる。聞き手は、よい意外か悪い意外かを判断して「いいですね」「残念ですね」と返す。最後に、何と比べて意外なのか(安い値段から考えると、など)を一人に言い直させる。
「Nにしては」は、Nであることから当然考えられる基準と比べると、実際はそれから外れていることを表します。「小学生にしては字がきれいだ」は、小学生ならふつうこのくらい、という基準より上だ、という意味で、よい方にも悪い方にも使えます。「わりに」と近いですが、前には「小学生」「初めて」「プロ」「十年住んでいる」のような具体的な事実や身分が来ることが多く、「年齢」「値段」のような程度そのものを表す言葉にはあまり付きません。また、前のことは事実(または話し手が事実だと思っていること)で、「プロにしては下手だ」と言えば、その人がプロであることが前提になります。話し手の驚き・感心・不満を込めた評価になるので、後ろには評価や様子が来ます。
N+にしては(「だ」は付けない)/Vの普通形(Vた・Vている など)+にしては
「事実・身分」のカード(初めて・プロの選手・子ども・日本に十年住んでいる・急いで作った)と「実際」のカードを組み合わせて「〜にしては、〜」の文を作らせる。作った文を聞いた学生に、その文の前提(その人はプロだ、など)を言わせ、「にしては」の前が事実であることを毎回確かめる。最後に、同じ内容を「わりに」で言えるかどうかを考えさせる。
初中級で学んだ「Nにとって」を、この課では評価の立場を示す形として、ほかの4つと並べて使います。「Nにとって」は、Nの側から見て、それがどんな価値・意味を持つかを言う形で、後ろには「大切だ」「難しい」「ありがたい」「負担だ」のような評価の言葉が来ます。前には人だけでなく、会社・町・国のような、何かにとっての価値を考えられるものも来ます。立場を示す点は「からすると」と似ていますが、「にとって」は評価の言葉と結び付く形で、「賛成だ」「反対する」「〜と思う」のような意見・態度・行動を後ろに置くことはできません。文章では、「AにとってはXだが、BにとってはY」のように、同じものの価値が立場で分かれることを示すときによく使われます。
N+にとって(は/も)+評価の言葉(名詞を修飾するときは「Nにとっての+N」)
一つの変化(駅前の商店街に大型スーパーができる/大学の授業がオンラインになる)について、「〜にとっては〜が、〜にとっては〜」の対の文を作らせる。ペアで、後ろの言葉が評価の言葉になっているかを確かめ合い、意見や行動になっていたら「〜からすると」や「〜は」に言い換えさせる。
この課で扱う言葉は、立場を表す名詞(利用者・住民・保護者・経営者・消費者・若い世代 など)と、評価の言葉(ありがたい・迷惑だ・負担になる・悩みの種・欠かせない など)に分けて板書し、どの形と結び付くかを考える材料にします。意見文や投書によく出る「一方で」「とはいえ」のような、立場や話の向きを切り替える言葉も、読解の目印として一緒に拾っておくと、だれの意見かを追いやすくなります。
宿題は、身近な変化(近所のスーパーが夜の営業をやめる/学校の図書館の開館時間が延びる など)を一つ選び、二つ以上の立場から評価する200〜300字の意見文を書くこと。「〜からすると」「〜にしたら」「〜にとって」のうち2つ以上と、「〜わりに」か「〜にしては」を1つ入れ、最後の段落で自分の立場を書かせる。次のコマの最初に、ほかの学生の文章を読み合い、立場の目印に線を引いて、書き手自身の意見がどこにあるかを当て合って振り返ります。
第31課の「〜からすると」「〜にしたら」「〜にとって」の違いはどう教えればいいですか?
後ろに来る言葉で分ける3列の表を作るのがいちばん伝わります。「からすると」は判断や意見(高い・困る・〜だろう)、「にしたら」はその人の気持ちの推し量り(つらいだろう・不安かもしれない)、「にとって」は価値の評価(大切だ・ありがたい)です。前に来るものも、「にしたら」は気持ちを持つ人などに限られ、「からすると」は様子や事実にも付く、と添えます。
「〜わりに」と「〜にしては」はどう使い分けさせますか?
前の言葉で選ばせます。値段・年・練習の量のような程度そのものなら「わりに」(値段のわりに)、五百円・小学生・初めてのような具体的な事実や身分なら「にしては」(五百円にしては)が自然です。形も違い、名詞に付くとき「わりに」は「の」が要り、「にしては」はそのまま付きます。意味はとても近いので、どちらも言える文があることは隠さずに伝えます。
「〜にしたら」と「コーヒーにしたら?」の「にする」はどう見分けさせますか?
後ろの文を見させます。後ろがその人の気持ち(困るだろう・うれしいかもしれない)なら立場の「にしたら」、選んだ結果やすすめ(〜にしたらどう?・〜にしたら安くなった)なら選ぶ意味の「にする」です。読解では、「にしたら」の前が人かどうかも手がかりになります。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目で導入と学習項目1〜3(からすると・にしたら・わりに)、2コマ目で学習項目4・5(にしては・にとって)と、立場を読み取る読解の活動を行います。読解の文章を宿題で先に読ませておけるクラスなら、2コマ目の活動に時間を多く回せます。
第31課の板書はどう組めばいいですか?
黒板の左に「だれの立場から」、右に「何と比べて」の二つの箱を最初に作り、学習項目を一つ入れるたびにどちらかの箱に置いていきます。左の箱には「からすると・にしたら・にとって」と、それぞれの後ろに来る言葉、右の箱には「わりに・にしては」と予想→実際の矢印を書きます。まとめのときに箱ごと見直せるので、読解の表にもそのままつながります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。