「絶対にそうなるとは言えないけれど、そうならないとも言い切れない」という可能性を言葉にして、相手に注意をうながしたり、先回りしてアドバイスしたりする課です。5つの形は、悪い結果を心配して注意をうながす「〜かねない」「〜おそれがある」、よい結果も悪い結果も含めて「起こる可能性はある」と認める「〜得る(得る)」、その人のいつもの様子から先を読む「〜ことだから」、見かけと実際のずれを言う「〜かのようだ」に分けると、学習者の頭の中で整理しやすくなります。アドバイスの場面では「〜ことだから〜だろう(予測)→ 〜かねない(心配)→ だから〜たほうがいい(助言)」という流れが作れるので、項目を一つずつ入れたら、この流れで友達や後輩に注意をうながす会話を組み立てさせます。硬さは「〜おそれがある」「〜得る」がいちばん硬く、報道・説明書・お知らせ向きで、会話の助言では「〜かねない」「〜かもしれない」が中心になる、という目安も早めに示しておきます。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 教師が「友達が、あしたの試験の前の晩に、朝までゲームをすると言っています。何と言いますか」と聞き、学生に自由に助言させる。「遅刻するかもしれない」「寝坊すると思う」のような答えを黒板に集め、「かもしれない」より強く、心配して注意をうながす言い方がこの課にある、と予告する。黒板に「心配(悪いこと)」「可能性(どちらも)」「予測の根拠」「見かけ」の4つの箱を作っておく |
| 学習項目1 〜かのようだ | 40分 | 初中級の「〜のようだ」(たとえ)を思い出させ、名詞だけでなく文全体をたとえる形として導入する。「本当はそうではない」ことを確かめ、「何もなかったかのように」をかたまりで入れる |
| 学習項目2 〜ことだから | 40分 | クラスの全員が知っている人物(遅刻の多い有名人・時間に厳しい教師など)を例に、「あの人のことだから、きっと〜だろう」と予測させる。後ろは推量や判断が多いことを板書で示す |
| 学習項目3 〜かねない | 40分 | 第25課の「〜かねる」と2行で並べ、意味が逆になることを最初に押さえる。「このままだと〜かねない。だから〜たほうがいい」の型で、アドバイスにつなげる練習をする |
| 学習項目4・5 〜得る(得る)・〜おそれがある | 50分 | 薬の説明書・お知らせ・ニュースの文を教師が作って読ませ、「起こり得る」「〜おそれがあります」を拾わせる。読みの「える/うる」と否定の「えない」、「おそれがある」は悪いことだけ、を確かめ、会話の言い方に言い換えさせる |
| 目標の活動(注意をうながすアドバイス) | 65分 | 二人一組で、相手の計画(徹夜で勉強する・自転車で傘を差す・期限ぎりぎりに申し込む など)を聞き、「〜ことだから」「〜かねない」を使って注意し、「〜たほうがいい」で助言する。最後に同じ内容を、お知らせの文(「〜おそれがあります」「〜こともあり得ます」)に書き直す |
| まとめ | 25分 | 黒板の4つの箱に5つの形を置き直し、悪いことだけに使う形(かねない・おそれがある)とどちらにも使う形(得る)、硬い形と会話の形を一覧にして残す |
実際にはそうではない(またはそうだと確かめられない)のに、まるでそうであるように見える・感じられることを表します。初中級の「〜のようだ」(たとえ)は名詞に付けてたとえましたが、「〜かのようだ」は「何もなかった」「全部知っている」のような文の内容そのものをたとえに使えるのが特徴です。「まるで」といっしょに使うことが多く、「何もなかったかのように」「自分の家であるかのように」のような形で、人のふるまいや物事の見かけを描くときによく出ます。この課では、見かけと実際のずれに気づかせる言い方として扱い、「治ったかのように見えても、まだ休んだほうがいい」のように注意やアドバイスの前置きに使えることを示します。
V・い形の普通形+かのようだ/な形・N は「〜である」+かのようだ(話し言葉では「である」を省いて「Nかのようだ」と言うこともある)。名詞の前は「〜かのような+N」、動詞・形容詞の前は「〜かのように」
「見かけ」のカード(元気そう・何も知らない顔・新品・問題なさそう)と「実際」のカード(まだ熱がある・全部知っている・中古・期限が切れている)を組み合わせ、「〜かのように見えるけど、実は〜」の一文を作らせる。そのあと「だから〜たほうがいい」を一文足させ、たとえを注意につなげる。
話し手と聞き手がどちらもよく知っている人の性格やいつもの様子を理由にして、「その人なら、きっと〜だろう」と先を予測するときの形です。「Nのことだから」の N には人を表す言葉(田中さん・あの子・うちの部長)が多く入り、前に「まじめな」「時間に厳しい」のような説明が付くこともあります。後ろには「〜だろう」「〜に違いない」「きっと〜はずだ」のような推量や判断が来ることが多い形です。よい予測(「あの人のことだから、うまくやるだろう」)にも悪い予測(「あの人のことだから、また遅れるだろう」)にも使えます。アドバイスの場面では、予測を言ってから「だから早めに連絡しておいたほうがいい」と、それに合わせた行動をすすめる流れでよく使います。
N(人を表す名詞が多い)+の+ことだから(前に「まじめな」「心配性の」など、その人を説明する言葉を付けることも多い)
人物のカード(心配性の母・時間に厳しい先生・忘れ物の多い弟・料理好きの友達)と場面のカード(旅行・試験・引っ越し・パーティー)を引かせ、「〜のことだから、きっと〜だろう」で予測させる。言えたら、聞いている学生が「じゃあ、どうしたらいい?」と聞き、言った学生が「〜たほうがいい」で助言する。
このままだと悪い結果になる可能性があることを表します。「〜かもしれない」と近いですが、後ろに来るのは事故・病気・失敗・誤解のような好ましくない結果だけで、話し手がそれを心配し、相手に注意をうながす気持ちがこもります。第25課の「〜かねる」(立場や事情から、することができない)の否定の形ですが、意味は「できる」ではなく「(悪いことが)起こりかねない=起こってしまうかもしれない」になるので、二つを必ず並べて整理します。会話のアドバイスにも、少し改まった文章にも使えます。また「あの人ならやりかねない」のように、人が悪いことをしてしまいそうだ、という見方を言うのにも使います。
Vます形(「ます」を取った形)+かねない(丁寧には「〜かねません」。「なりかねない」「起こしかねない」のように使う)
「よくない習慣」のカード(夜更かし・食事を抜く・パスワードを使い回す・書類の確認をしない)を見せ、「〜と、〜かねない」で結果を言わせる。言えたら「だから〜たほうがいい」を一文足させる。途中で「合格しかねない」のようなよい結果のカードを一枚混ぜ、使えないことに学生自身が気づくかを見る。
そういうことが起こる可能性がある・そうすることが可能だという意味で、動詞のます形に付けて使います。「あり得る」「起こり得る」「考え得る」の形でよく出ます。「〜かねない」「〜おそれがある」と違って、よいことにも悪いことにも使え、話し手の心配よりも「理屈の上では、その可能性は否定できない」という落ち着いた判断を表します。そのため、説明書・論文・ニュース・会議の説明のような硬い文章や改まった話によく出ます。否定の「〜得ない」は「その可能性はない」という意味で、特に「あり得ない」は会話でも「信じられない」の気持ちでよく使われます。課の題の「あり得るのだ」も、予想していなかったことでも起こる可能性は否定できない、という言い方です。
Vます形(「ます」を取った形)+得る。読みに注意: 辞書形(名詞の前も同じ)は「うる」が基本(起こりうる・考えうる・しうる)。「ありえる」「起こりえる」のように「える」も広く使われる語はあるが、どの動詞でも両方言えるわけではない。否定は「えない」だけ(起こりえない)、ます形は「えます」(起こりえます)、て形・た形も「えて」「えた」
読みの練習を先に速く回す(教師が「起こり得る・否定」「あり得る・ます形」「考え得る・名詞の前」と言い、学生が読みを付けて言う)。そのあと、教師が作った説明書・お知らせの文を3つ読ませ、「〜得る」を含む文を会話の「〜こともある」「〜かもしれない」に言い換えさせる。
初中級の第15課では、天気予報の中で悪いことが起こる可能性があることを言う形として学びました。この課では、同じ形を、ニュース・役所や会社のお知らせ・薬の説明書・注意書きのような公的な文で注意をうながす言い方として広げます。「〜かねない」と同じく悪いことだけに使いますが、「〜かねない」に比べて話し手の気持ちが表に出にくく、客観的に危険を知らせる響きがあります。「〜得る」はよいことにも使える点で違います。読んで意味を取れるだけでなく、自分でお知らせや注意書きを書くときに使え、会話で人に伝えるときは「〜かもしれない」「〜かねない」に言い換えられるようにします。
V辞書形/Vない形+おそれがある、N+の+おそれがある(丁寧には「〜おそれがあります」。「〜おそれもある」「〜おそれは少ない」の形でも使う)
危険のカード(強風・大雨・凍った道・期限切れ・個人情報の流出)を引かせ、貼り紙やメールの一文を「〜おそれがありますので、〜てください」で書かせる。書けたら、同じ内容を隣の学生に会話で伝える形(「〜かもしれないから、〜たほうがいいよ」「〜かねないよ」)に言い換えさせる。
この課の言葉は、注意をうながす場面で使う言葉(体を壊す・誤解される・遅れる・感染する・症状・まれに・念のため など)と、硬い文章で可能性を言う言葉(可能性・危険性・場合によっては・予想・効果 など)に分けて板書しておくと、どの形と一緒に使いやすいかを考える材料になります。「〜かねない」「〜おそれがある」と組む言葉は悪い結果の言葉が中心なので、「壊しかねない」「遅れるおそれ」のように、形を付けたかたまりでカードにして練習します。
宿題は、身近な人(友達・家族・後輩)が計画していることを一つ選び、その人にアドバイスする短いメッセージを書くこと。「〜のことだから」「〜かねない」を必ず使い、「〜たほうがいい」で助言を締める。そのうえで、同じ内容を、寮や会社の貼り紙のような「お知らせ」の文に書き直し、「〜おそれがあります」か「〜こともあり得ます」を使う。会話の文とお知らせの文を並べて提出させ、次のコマの最初に何人かに読ませて、聞いた学生が「どの形が使われていたか」「どちらが硬いか」を言って振り返ります。
第35課の「〜かねない」と「〜おそれがある」はどう使い分けさせればいいですか?
どちらも悪い結果の可能性だけに使う点は同じです。「〜かねない」はます形に付き、話し手の心配がこもるので、友達や後輩への助言に向きます。「〜おそれがある」は辞書形・ない形・Nのに付き、気持ちが表に出にくいので、お知らせ・説明書・ニュースで客観的に危険を知らせるときに使います。同じ内容を会話・助言・お知らせの3つの文体で書き分けさせると、違いがはっきりします。
「起こり得る」は「うる」と「える」のどちらで教えればいいですか?
辞書形(名詞の前の形も同じ)は「うる」を基本に示し、「あり得る」「起こり得る」のようによく使う語では「える」も広く使われると伝えます。「し得る」は「しうる」、「考え得る」は「かんがえうる」が普通で、どの動詞でも両方言えるわけではありません。否定は「えない」、ます形は「えます」、た形は「えた」で、「う」と読むのは辞書形だけです。最初に読みの表を板書し、速答で口に慣らしてから意味の練習に入ると、読みで止まりません。
「〜かねない」と第25課の「〜かねる」を学習者が混同します。どう整理しますか?
「〜かねる」は話し手の立場や事情で「できない」、「〜かねない」は悪いことが「起こってしまうかもしれない」で、否定の形なのに意味の向きが逆です。導入で上下2行に並べ、「その人はしますか」と聞いて確かめます。断るときに「お引き受けしかねません」と言う誤りが出たら、この2行に戻って言い直させます。
「〜ことだから」はどんな人について使えますか?
話し手も聞き手もよく知っている人で、その人柄やいつもの様子が予測の根拠になるときに使います。初めて会った人や、話し手しか知らない人に使うと、根拠が伝わらず不自然です。後ろは「だろう」「に違いない」のような予測や判断が多く、よい予測にも悪い予測にも使えます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目は導入と「〜かのようだ」「〜ことだから」、2コマ目は「〜かねない」と「〜得る」「〜おそれがある」、3コマ目は注意をうながすアドバイスの活動と、同じ内容をお知らせの文に書き直す練習、まとめです。読みの練習が早く済むクラスなら、2コマ目の残りで目標の活動を始めてかまいません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。