相手のしていることに注意したり、これからどうすればいいかを忠告したりして、相手に納得してもらう、つまり説得するための課です。並ぶ5つの形は、どれも「こうするのがよい/こうしてはいけない」を言いますが、何を根拠に言うかが違います。「〜ものだ」は世の中の常識・本来の性質として、「〜べきだ/べきではない」は話し手の判断として、「〜ことだ」はその人のその状況への具体的な助言として、「〜というものだ」は目の前のことを「それこそが〜だ」と評価する形として、「〜てはならない」は規則や教えとしての強い禁止として言います。どれも初級の「〜たほうがいい」「〜てはいけない」より強く、目上の人に直接言うと押しつけがましくなるので、強さの段を板書に残し、「誰に・どの場面で」を毎回確かめさせます。最後は、常識(ものだ)→判断(べきだ)→具体的な助言(ことだ)の順で話を組み立てる説得のロールプレイでまとめると、課の目標がそのまま練習になります。
目安は 90分×3コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 15分 | 「アルバイトの後輩が、分からないことがあっても質問しないで自分で決めてしまい、よく失敗します。あなたは先輩です。何と言いますか」と聞き、学生の答えを黒板に集める。「質問したほうがいいよ」「質問してください」などの初級の形が出たところで、この課では、もっとはっきり、理由を持って注意・忠告する形を5つ学ぶ、と予告する。黒板の端に強さの段(やわらかい ↔ 強い)の矢印を書いておく |
| 学習項目1 〜ものだ | 40分 | ことわざの意味を説明する文や「人はだれでも間違えるものだ」のような一般論で、「本来そういうものだ」という意味を入れる。次に「目上の人には自分からあいさつするものだ」で、常識を根拠にした注意の使い方へ広げ、否定は「〜ものではない」だと押さえる。回想と感慨は最後に短く聞かせる |
| 学習項目2 〜べきだ/べきではない | 40分 | 「〜ものだ(みんなの常識)」と「〜べきだ(わたしの判断)」を並べて違いを確かめる。「する → するべき/すべき」「〜べきではない」の形、「〜べきだった」の後悔を練習し、目上の人には直接言わないことを確かめる |
| 学習項目3 〜ことだ | 35分 | 「〜たいなら、〜ことだ」の形で、困っている人への具体的な助言として導入する。「〜たほうがいい」と比べて、ほかの選択肢を考えない「これがいちばん」の言い方であること、目上の人には使わないことを押さえる |
| 学習項目4 〜というものだ | 35分 | 相手の行動や考えに対して「それは〜というものだ」「それこそ〜というものだ」と評価する形を入れる。「〜ものだ」は一般論、「〜というものだ」は目の前のことの評価、と2行で並べて区別する |
| 学習項目5 〜てはならない | 30分 | 施設の注意書きや規則の文で、強い禁止を読み取らせる。会話の「〜てはいけない」「〜ちゃだめ」と硬さを比べ、第23課の「〜てならない」と形が似ていることも確かめる |
| 強さの段の整理と目標の活動(説得のロールプレイ) | 55分 | 導入の矢印に5つの形と初級の形(〜たほうがいい・〜てはいけない)を置き直す。そのあと2人1組で、先輩と後輩、友達どうしなどの役で、「常識(〜ものだ)→ 判断(〜べきだ)→ 具体的な助言(〜ことだ)」の順に説得する。相手が目上になったら、どの形をどう言い換えるかも考えさせる。1コマ目は学習項目1・2、2コマ目は学習項目3〜5、3コマ目はこの活動とまとめに当てる |
| まとめ | 20分 | 黒板の段に、それぞれの形の「根拠」(常識・判断・助言・評価・規則)と「目上の人に使えるか」を書き足して一覧にして残す |
この課で中心になるのは、本来そういうものだ、一般的にそうなるのが当然だという意味の「〜ものだ」です。「人はだれでも間違えるものだ」「子どもは外で遊びたがるものだ」のように、個人の意見ではなく、世の中の常識や物事の性質として言います。ことわざや格言の意味を説明する文(「『急がば回れ』とは、急ぐときほど安全な道を選んだほうが結局早く着くものだ、という意味だ」)にもよく出てきます。この性質の意味から、「目上の人には自分からあいさつするものだ」のように、常識を根拠にした注意・忠告にもなり、否定は「〜ものではない(=常識としてしないことだ)」です。ほかに、「Vた+ものだ」で昔よくしたことを懐かしく思い出す回想(「子どものころは、よく川で泳いだものだ」)、「時間がたつのは早いものだ」「よく一人でここまで来たものだ」のようなしみじみとした感慨・驚きの使い方もあります。話し言葉では「もんだ」になることもあります。
Vる/Vない/い形い/な形な+ものだ(性質・当然・忠告)。否定の忠告は「Vる+ものではない」。回想は「Vた+ものだ」。話し言葉では「〜もんだ」
ことわざや「人は〜」「子どもは〜」で始まるカードを引かせ、「〜ものだ」で一般論を言わせる。次に、マナーの場面のカード(電車の中・お見舞い・目上の人との食事)を見せて、「〜ものだ/〜ものではない」で後輩に注意する一文を作らせ、「だれの意見か」「常識か」をクラスで確かめる。
「そうするのが正しい・当然だ」という話し手の判断を表します。否定の「〜べきではない」は「そうするのは正しくない」です。「〜ものだ」が世の中の常識を根拠にするのに対し、「〜べきだ」は「わたしはこう考える」という主張なので、意見文・討論・説得の中心になる形です。過去の「〜べきだった」は、すればよかったのにしなかったことへの後悔や、相手への批判を表します(「もっと早く相談するべきだった」)。強い言い方なので、目上の人に直接「〜べきです」と言うと、命令や批判のように聞こえて失礼になることがあります。目上の人には「〜たほうがいいのではないでしょうか」などに言い換えます。「守るべきルール」「読むべき本」のように名詞の前にも置けます。
Vる(辞書形)+べきだ(する → するべきだ/すべきだ)。否定は「Vる+べきではない」。い形は「〜くあるべきだ」、な形・Nは「〜であるべきだ」。丁寧には「〜べきです」「〜べきではありません」
「大学生はアルバイトをするべきか」「子どもにスマートフォンを持たせるべきか」のような問いのカードを引かせ、「わたしは〜べきだ/べきではないと思います。なぜなら〜」で意見を言わせる。次に、失敗の場面のカードを見せて「〜べきだった」で後悔を言わせ、最後に同じ忠告を目上の人に言う形(「〜たほうがいいのではないでしょうか」)に言い換えさせる。
相手の状況を考えて、「〜するのがいちばんいい・いちばん大切だ」と具体的に助言する形です。「日本語が上手になりたいなら、日本人と話す機会を増やすことだ」のように、「〜たいなら」「〜たければ」などの条件と一緒によく使います。「〜たほうがいい」がほかのやり方と比べてすすめるのに対し、「〜ことだ」はほかの選択肢を考えず「これをしなさい」と言い切るので、話し手が経験や知識のある立場から言う響きがあります。そのため、先生から学生、先輩から後輩、親から子どものように上の立場から使うのが自然で、目上の人には使えません。否定は「〜ないことだ(=〜しないのがいちばんだ)」です。「〜ものだ」が世の中のだれにでも当てはまる常識を言うのに対し、「〜ことだ」は目の前のその人のその状況への助言です。
Vる(辞書形)/Vない+ことだ(丁寧には「〜ことです」。目上の人には使わない)
悩みのカード(漢字が覚えられない・アルバイトが忙しくて疲れる・日本人の友達ができない)を一人が読み、ほかの学生が先輩の立場で「〜たいなら/〜たければ、〜ことだ」と助言する。助言が出たら、悩んだ学生は「〜たほうがいいですか」と聞き返し、「ほうがいい」との強さの違いを会話の中で確かめる。
目の前の出来事や相手の行動・考えについて、「それこそが〜だ、それはまさに〜にあたる」と、話し手がはっきり評価・断定する形です。「せっかく来てくれたのに、すぐ帰すのは失礼というものだ」「困ったときに助け合うのが、本当の友達というものだ」のように、「それは〜というものだ」「それこそ〜というものだ」「〜のが〜というものだ」の形で使います。「〜ものだ」が一般的な性質を言うのに対し、「〜というものだ」はこの件をある言葉で言い当てて評価するので、説得の最後に「だから、それはやめたほうがいい(するべきだ)」と結論を後押しする決め手になります。「無理」「わがまま」「失礼」「ぜいたく」のような悪い評価にも、「本当の友情」「プロ」のようなよい評価にも使いますが、相手の行動を悪く言うときはかなり強い非難になります。否定の「〜というものではない」は「必ずしも〜とは言えない」という別の意味です(「高ければよいというものではない」)。
普通形+というものだ(N・な形は「だ」を付けずに「Nというものだ」「な形というものだ」の形がふつう)。丁寧には「〜というものです」
行動のカード(借りた物を返さない・約束の時間に毎回遅れる・失敗した友達を励ます・一日で漢字を百覚えようとする)を引かせ、「それは〜というものだ」で一言評価させる。評価に使える言葉(無理・わがまま・失礼・ぜいたく・本当の友情・責任感)を板書しておき、言えたら「だから、〜べきだ/〜ことだ」を一文足して説得の形にさせる。
「〜てはいけない」と同じく禁止を表しますが、ずっと硬く強い言い方です。法律・規則・施設の注意書き・試験の注意・スポーツのルール、また親や先生が大切な教えとして言う言葉、演説や文章で多く使われます(「試験中は、隣の人と話してはならない」「人の命を軽く考えてはならない」)。個人のその場の気持ちで止めるというより、社会や組織の決まり、守るべき教えとして「決してしてはいけない」と言う響きがあります。日常の会話でふつうに使うと大げさで硬く聞こえるので、会話では「〜てはいけない」「〜ちゃだめ」を使います。この課の中ではいちばん強い禁止で、「〜べきではない(わたしの判断)」「〜ものではない(常識)」より上の段に置けます。
Vて(て形)+はならない(丁寧には「〜てはなりません」。会話のくだけた形は「〜てはいけない」「〜ちゃいけない」「〜ちゃだめ」)
場所のカード(図書館・試験会場・病院・工場)を引かせ、注意書きの一文を「〜てはならない」で書かせる。次に、同じ内容を友達に言う会話に直させ(「〜ちゃだめだよ」)、硬さの違いを声に出して確かめる。最後に、自分の家族や国の教えを一つ「〜てはならない」で紹介させる。
注意・忠告に使う言葉(注意する・忠告する・説得する・常識・マナー・決まり・反省する・後悔する など)は、「〜に注意する」「〜を説得する」のように助詞と一緒にカードにしておくと、ロールプレイでそのまま使えます。評価の言葉(無理・わがまま・失礼・ぜいたく・責任感)は「それは〜というものだ」の形で、ことわざは「〜とは、〜ものだ、という意味だ」の形で練習すると、項目と語彙がいっしょに定着します。
宿題は、自分の国のことわざを一つ選んで「〜とは、〜ものだ、という意味だ」で説明し、そのことわざを使って、悩んでいる後輩を説得する短い手紙を200〜300字で書くこと。「〜ものだ」「〜べきだ」「〜ことだ」「〜というものだ」のうち3つ以上を使い、手紙の相手を目上の人に変えたら、どの文をどう言い換えるかも最後に一文書かせる。次のコマの最初に何人かに読ませ、聞いた学生が「根拠は常識か、判断か、助言か、評価か」を言って振り返ります。
「〜ものだ」と「〜べきだ」の違いはどう説明すればいいですか?
根拠の違いで説明します。「〜ものだ」は世の中の常識や本来の性質として言い、「〜べきだ」は話し手が「わたしはこう考える」と判断して言います。同じ内容を「借りた物は返すものだ」「借りた本はきょう中に返すべきだ」と2行で並べ、「みんなの常識はどちらか」「話している人の意見はどちらか」と聞くと分かれます。
「〜ことだ」と「〜たほうがいい」の違いは?
「〜たほうがいい」はほかの方法と比べてすすめる言い方で、断る余地があります。「〜ことだ」はほかの方法を考えず「これがいちばんだ」と言い切る助言で、経験のある人が下の立場の人に言う響きがあります。そのため目上の人には「〜ことだ」は使えず、「〜たほうがいいと思います」にします。
第36課は何コマで終わりますか?
90分×3コマが目安です。1コマ目で「〜ものだ」「〜べきだ」、2コマ目で「〜ことだ」「〜というものだ」「〜てはならない」を扱い、3コマ目を強さの段の整理と説得のロールプレイ、まとめに当てます。時間が足りなければ、「〜てはならない」は注意書きを読む練習だけにして、ロールプレイに時間を回します。
目上の人への忠告はどう教えればいいですか?
この課の5つの形は、どれも目上の人に直接言うと押しつけがましくなる、とまず押さえます。そのうえで「〜たほうがいいのではないでしょうか」「〜ていただけると助かります」などの言い換えを板書の右に置き、練習のたびに相手を部長や先生に変えて言い換えさせます。形を覚えることと、使わない相手を知ることを同じ重さで扱うのがこの課の要点です。
「〜てはならない」と「〜てならない」「〜なくてはならない」はどう見分けさせますか?
「は」があって前が行動の語なら禁止(話してはならない)、「は」がなく前が気持ちの語なら気持ちの強さ(心配でならない)、前に「ない」が付いていれば必要(話さなくてはならない)、と3行で並べて見せます。意味が反対になる組み合わせもあるので、読む練習では文の最後まで見て判断させます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。