面接や自己PRのように、自分のことを例を挙げて説明する力をつける課です。同じ「例を挙げる」でも、5つの形は例の使い方が違います。「〜はともかく」は例をいったん脇に置いて本題へ進む、「〜からして」「〜さえ/でさえ」は一つの極端な例で残りを言わずに分からせる、「〜ばかりか」は一つ挙げたうえでさらに重いことを足す、「〜をはじめ/はじめとして」は代表を一つ挙げて全体へ広げる、と例の働きで3つに分けて板書すると、学習者の頭の中で整理しやすくなります。どれも話し言葉より少し改まった形なので、面接で長所・経験・苦労したことを話す場面と相性がよく、最後は模擬面接で「例を挙げて自分を語る」ことをそのまま練習にします。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 教師が面接官になり、「あなたの長所は何ですか」「日本に来て苦労したことは何ですか」と学生に聞く。「がんばります」「いろいろ大変でした」のような答えを黒板に集め、「例が一つあると、聞いている人によく分かる」ことを確かめる。黒板に「脇に置く」「極端な一例で全体を分からせる」「足す・広げる」の3つの箱を作り、この課の5つの形をここに入れていく、と予告する |
| 学習項目1 〜はともかく | 25分 | 「日本語の発音はまだまだです。でも、話すのは大好きです」を「発音はともかく、話すのは大好きです」に言い換えて見せ、前の例を脇に置いて後ろを言いたい形だと導入する。面接で弱点を先に認めてから長所に進む言い方として練習する |
| 学習項目2・4 〜からして・〜さえ/でさえ | 40分 | 「いちばん簡単なはずのものでもこうだから、ほかは言うまでもない」という線を黒板に書き、一つの極端な例で残りを分からせる形を2つ並べて入れる。「からして」は最初・いちばん基本のもの、「でさえ」は主語に立つ人やものを挙げることが多い、と例で区別する |
| 学習項目3 〜ばかりか | 25分 | 「Aだけでも十分なのに、さらにB」の階段の絵で導入する。後ろにも・まで・さえが来やすいこと、後ろに命令や誘いは来にくいことを押さえ、自己PRで成果を足す言い方にする |
| 学習項目5 〜をはじめ/はじめとして | 20分 | 初中級で学んだ「〜をはじめ」を短く思い出させてから、名詞の前の「〜をはじめとする」を加える。代表を一つ挙げて「など」「多くの」「全員」で全体へ広げる形として、経験や関わった人の説明に使う |
| 5つの形の整理 | 20分 | 同じ一つの経験(アルバイト・留学生活)を5つの形で言い直させ、黒板の3つの箱に振り分ける。「からして」と「からすると」、「ばかりか」と「どころか」、「さえ」と「さえ…ば」の違いもここで確かめる |
| 目標の活動(模擬面接) | 30分 | 2人組で面接官と受験者になり、「長所」「苦労したこと」「これまでの経験」の3つの質問に答える。答えには5つの形のうち2つ以上を必ず入れ、面接官役は「たとえば、どんなことですか」と一度深く聞き返す。役を交代して2回行う |
| まとめ | 10分 | 黒板の3つの箱に5つの形を置き直し、接続の形(N+はともかく/からして/をはじめ、ふつう形+ばかりか、Nでさえ)と、改まった場面向きかどうかを一覧にして残す |
前に挙げたことを今は問題にしないで脇に置き、後ろの、もっと大事なことや言いたいことに話を進める形です。「Aはともかく、B」で、「Aについては今は言わない(Aはまだ分からない・十分ではないかもしれない)が、Bは〜だ」という意味になります。前のAは、足りない点・まだ決まっていないこと・あまり重要でないことが多く、後ろのBに話し手の主張や評価が来ます。面接では、弱点や経験の少なさを先に認めてから、やる気や得意なことに話を移す言い方として使えます。「〜はともかくとして」とも言い、「〜かどうかはともかく」「何を言われるかはともかく」のように、疑問の形にも付きます。
N+はともかく(として)/〜か(どうか)+はともかく(として)
「自分の弱点」のカード(経験・年齢・敬語・漢字・体力)を一枚引かせ、「〜はともかく、〜には自信があります」「〜はともかく、〜は誰にも負けません」で面接の答えを作らせる。言えたら教師が「では、その自信のあることを一つ、例で教えてください」と聞き返し、後ろの部分に中身を足す練習へつなぐ。
一つの例を挙げて、「それからしてもうそうなのだから、ほかは言うまでもない」という気持ちを表します。挙げる例は、名前・入口・最初の一歩・いちばん上の人のように、最初に目に入るもの・いちばん基本のもので、そこがもうこうなら全体もそうだ、と分からせます。「この店は看板からして高級そうだ」のように中立の評価にも使えますが、「説明書の一ページ目からして分からない」のように、あきれた・困った・よくない評価を言うことが多い形です。なお「からして」には、「あの表情からして、何か知っているようだ」のように判断の根拠を言う使い方もあり、これは同じ巻の「〜からすると/からすれば」に近い意味です。この課では一例を挙げる使い方を中心に扱います。
N+からして(丁寧には「〜からして〜です」のように、後ろの文で丁寧にする)
「全体」のカード(新しい仕事・日本の生活・難しい試験・新しい店)と「入口」のカード(最初の日・名前・一問目・入口)を組み合わせ、「〜は、〜からして〜」の一文を作らせる。聞いている学生に「では、ほかのところはどうでしょう」と想像させて一文で返させ、一例から全体を分からせる形だと毎回確かめる。
「Aばかりか、Bも」で、Aだけでも十分なのに、さらに程度の重いBまであることを表します。「〜だけでなく」と近いですが、後ろのBのほうが意外なこと・程度の重いことで、「も」「まで」「さえ」と一緒に使って驚きや感心を込めることが多い形です。よいこと同士・よくないこと同士のように、AとBは同じ向きのことを並べます。少し改まった、書き言葉寄りの形なので、面接や作文で自分の経験や成果を足していくときに合います。後ろには、命令・依頼・誘い・意志の文はふつう来ません。
Vふつう形/い形ふつう形/な形な・である/N(である)+ばかりか
学生に自分の経験を2つずつ書かせ(「毎日日記を書いた」「日本語のスピーチ大会に出た」など)、軽いほうを前、重いほうを後ろにして「〜ばかりか、〜も/まで」の一文にさせる。言えたら前後を入れ替えて言わせ、重いことが前に来ると不自然になることを耳で確かめる。
極端な例を一つ挙げて、「それでもそうなのだから、ほかは当然だ」と分からせる形です。「水さえ飲めなかった(水のような簡単なものも飲めなかったのだから、食事はもちろん無理だった)」のように、ふつうなら当然できる・当然知っているはずのものを挙げると、状況のきびしさが伝わります。「が」「を」の位置では「が」「を」の代わりに「さえ」を置き、「に」「と」「で」などはそのあとに付けて「親にさえ」「友達とさえ」とします。主語に立つ人やものを挙げるときは「Nでさえ」の形がよく使われ、「専門家でさえ答えられない問題」のように、その人ですらそうなのだから、ほかの人はなおさら、という意味になります。初中級で学んだ「〜さえ…ば…」(それだけあれば十分という条件)とは、同じ「さえ」でも働きが違います。
N(+助詞)+さえ(「が」「を」は消す)/N+でさえ(主語の位置で)/Vます+さえする/Vて+さえ
「状況」のカード(来日一週間目・高い熱が出た日・初めての職場)を引かせ、「〜さえ〜なかった」でそのときのきびしさを言わせる。次に「専門家・先生・ネイティブ」のカードで「〜でさえ〜」の文を作らせ、最後に同じ学生に「今はどうですか」と聞いて、成長を言う面接の答えにつなげる。
初中級で学んだ「〜をはじめ」の続きです。いちばん代表的な例を一つ挙げて、それを含む全体へ話を広げる形で、「Aをはじめ、Bなど(多くの〜・〜全員)」のように、後ろには必ずAを含んだグループ全体が来ます。「〜をはじめとして」は少し改まった言い方で、名詞の前では「〜をはじめとする(をはじめとした)N」の形になります。挙げる例は、その中で目立つもの・中心になるもの(社長・首都・代表的な料理など)が自然です。改まった形なので、面接で自分の関わった仕事や人の広がりを説明したり、あいさつやスピーチで関係者を挙げたりする場面で使われます。
N+をはじめ(として)、〜/N+をはじめとする(をはじめとした)+N
「代表」と「全体」の組み合わせを考えさせる(店長/職場のみなさん、首都/大都市、日本語/外国語)。まず「〜をはじめ、〜など」で文を作らせ、次に同じ内容を「〜をはじめとする〜」で名詞の前に置き直させる。最後に面接の「これまでお世話になった人」の答えとして一文で言わせる。
この課の言葉は、面接や自己PRで使う言葉(長所・短所・経験・自信・任される・指導する・お世話になる など)を中心に板書し、それぞれを5つの形のどれかに入れた一文にしてカードを作っておくと、目標の活動でそのまま使えます。経験や苦労を言う語は「〜さえ〜なかった」「〜ばかりか〜も」の形で、人やものの範囲を言う語は「〜をはじめ、〜など」の形で覚えさせます。
宿題は、自分が受けたい(または受けたことのある)面接を一つ想定し、「長所」「苦労したこと」「これまでの経験」の3つの質問への答えを、それぞれ2〜3文で書くこと。答え全体で5つの形のうち3つ以上を使い、「〜はともかく」は弱点を認める場面、「〜さえ」「〜からして」は苦労を伝える場面、「〜ばかりか」「〜をはじめ」は経験や成果を広げる場面で使わせる。次のコマの最初に何人かに面接の答えとして声に出して言わせ、聞いた学生が、どの例が「脇に置く」「一例で全体を分からせる」「足す・広げる」のどれだったかを言って振り返ります。
第38課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目で「〜はともかく」「〜からして」「〜さえ/でさえ」まで、2コマ目で「〜ばかりか」「〜をはじめ/はじめとして」と5つの形の整理、模擬面接を行います。初中級の「〜をはじめ」と「〜さえ…ば」が定着していないクラスでは、2コマ目の最初に5分ほど思い出す時間をとると整理がしやすくなります。
「〜からして」と「〜からすると」の違いは何ですか?
「からして」は一つの例を挙げて、それでもうそうなのだから全体も、と分からせる形です。「からすると」は、ある事実や立場を根拠にして判断する形です。「この会社は受付の態度からして感じが悪い」と「この成績からすると合格できそうだ」を並べ、後ろの文がほかの部分のことを言っているか、判断を言っているかで区別させます。
「〜ばかりか」と「〜どころか」はどう教え分けますか?
「ばかりか」は前と同じ向きのことを、さらに重くして足す形です。「どころか」は第39課で学ぶ形で、前に言ったことを強く打ち消して、実際は程度がもっと違う、または正反対だと言うときに使います。この課では「日本語が上手なばかりか、敬語まで使える」と「上手などころか、あいさつもできない」を並べ、「この人は日本語が上手ですか」と聞くだけにして、詳しい使い分けは第39課に回します。
「〜さえ」と「〜さえ…ば」はどう区別させればいいですか?
後ろに「ば」があるかどうかを見させます。「時間さえあれば行ける」は、それだけで十分という条件です。この課の「水さえ飲めなかった」は、簡単なはずのものを挙げて状況のきびしさを言う形で、後ろに「ない」「できなかった」が来やすくなります。板書で箱を分け、学習者が作った文をどちらの箱に入れるかを言わせると区別が定着します。
5つの形の板書はどう組めばいいですか?
黒板を3つの箱に分け、「脇に置く(はともかく)」「極端な一例で全体を分からせる(からして・さえ/でさえ)」「足す・広げる(ばかりか・をはじめ)」と見出しを付けます。各形を導入するたびに接続の形と例文を1つずつその箱に書き足し、最後の整理で同じ経験を5つの形で言い直させて、箱に振り分けさせます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。