「できません」とそのまま言うと強く聞こえる場面で、できない理由がどこにあるかを形で示し、角を立てずに断ったり否定したりする課です。5つの形は、理由の在りかで分けると整理しやすくなります。事情があってほかに道がない「〜ざるを得ない」、立場や気持ちの上でできない「〜かねる」、方法や手がかりがない「〜ようがない」、気持ちが強すぎて思うようにできない「〜あまり」、心の上で受け入れたり認めたりするのが難しい「〜がたい」です。どれも「自分がしたくないから」ではなく「事情・立場・方法」のせいにして伝える形なので、窓口やアルバイト先での断り、会議での反対意見、悪い知らせのメールなど、相手との関係を保ちたい場面で使わせると目標がそのまま練習になります。硬い形が多いので、会話では「〜しかない」「〜すぎて」などのくだけた言い方と対にして、場面で使い分けさせます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 10分 | 学生に「レポートの締め切りを1週間延ばしてください」と教師に頼ませ、教師が真顔で「できません」とだけ答える。どう感じたかを聞いて「冷たい」「理由がほしい」という声を集め、同じ「できない」でも理由の在りかを示すと柔らかくなる、と予告する。黒板に「事情」「立場」「方法」「気持ちが強すぎて」「心が受け入れない」の5つの札を貼っておく |
| 学習項目1 〜ざるを得ない | 25分 | 「したくない → でも事情がある → する」の矢印で導入し、「ない」を取って「ざる」、「する → せざる」の変換を練習する。「〜しかない」と並べて、硬さと不本意な気持ちの違いを確かめる |
| 学習項目2 〜かねる | 30分 | 店員役の教師が客の頼みを「〜いたしかねます」で断る寸劇で導入する。能力ではなく立場や責任の上でできないことだと確かめ、「お/ご〜しかねます」「分かりかねます」の定型をかたまりで練習する。第35課の「〜かねない」は意味が逆になることを、この段で一言予告しておく |
| 学習項目3 〜ようがない | 25分 | かぎをなくした絵で、「開け方がない = 開けようがない」と導入する。前に理由(連絡先が分からない・手がかりがない)を置く形を練習し、「〜にくい」との違いを確かめる。1コマ目はここまでにし、3つの形で作った文を1つずつノートに残させる |
| 学習項目4・5 〜あまり・〜がたい | 35分 | 「緊張しすぎて〜」を「緊張のあまり〜」に書き換えて、気持ちが強すぎて思うようにできなかった結果を言わせる。続けて初中級の「〜がたい」を思い出させ、心の動詞に付くこと、相手の案を「受け入れがたい」「〜とは言いがたい」で硬く否定できることを会議の場面で見せる |
| 5つの「できない」の整理 | 15分 | 学生が作った文を5つの札の下に置き直し、「誰の都合か」「後ろに何が来るか」「どのくらい硬いか」の3列の表にする。「かねる(自分の行動を断る)」と「がたい(ものごとを評価する)」の違いをここで確かめる |
| 目標の活動(断りのロールプレイ) | 30分 | 窓口・アルバイト先・ゼミの3つの場面カードを使い、頼む役と断る役に分かれる。断る役は「申し訳ございませんが」で始め、「〜しかねます」で断り、「〜ようがない」か「〜ざるを得ない」で理由を一つ添え、最後に代わりの案を出す。見ている学生は、角が立たなかったかを一言で評価する |
| まとめ | 10分 | 黒板の表をもとに、会話で使うくだけた言い方(しかない・すぎて・できない)と、メールや会議で使う硬い言い方(ざるを得ない・あまり・かねる・がたい)を左右に分けて書き残す |
本当はしたくない、できれば避けたいけれど、事情があってそうするほかに道がないことを表します。「〜ないことはできない」という二重の否定で、「しない」という選び方が残っていない、つまり結局はする、という意味になります。「〜しかない」「〜ほか(は)ない」と近いですが、残念だが仕方なく、という話し手の気持ちがはっきり出るのが特徴で、硬い響きがあるため、会議・公式のお知らせ・ニュース・作文などで多く使われます。また「認めざるを得ない」「〜と言わざるを得ない」のように、本当は認めたくないが、事実から見てそう判断するしかない、という判断の言い方もよく使われます。この課では、悪い知らせや相手の期待に沿えない決定を、自分の意志ではなく事情のせいだと示して伝える形として扱います。
Vない(ない形)の「ない」を取って+ざるを得ない(する → せざるを得ない、来る → 来(こ)ざるを得ない。「得ない」は「えない」と読む。丁寧には「〜ざるを得ません」)
「したくないこと」のカード(引っ越す・予定を変える・アルバイトをやめる・会議に出る・もう一度来る)と「事情」のカード(工事・雨・学費・急な病気)を組み合わせ、「〜ので、〜ざるを得ない」の一文を作らせる。「する」「来る」のカードを多めに混ぜる。そのあと同じ内容を友達に言う口調で「〜しかない」に言い換えさせ、硬さの違いを耳で確かめる。
しようとしても、したい気持ちがあっても、自分の立場や気持ち、その場の事情から見て、することができないことを表します。能力が足りなくてできないのではなく、「するのは適当ではない」「責任が持てない」という判断なので、客や目上の人の頼みを丁寧に断るときに「〜しかねます」の形で多く使われます(「お答えしかねます」「お引き受けいたしかねます」「分かりかねます」)。「できません」より柔らかく、店・窓口・ビジネスのメールでの決まった言い方として覚えさせます。もう一つ、「決めかねる」「言い出しかねる」のように、気持ちが決まらなかったり、ためらったりして、なかなかできない、という使い方もあり、課の題の「決めかねていました」はこちらです。第35課の「〜かねない」は「かねる」の否定の形ですが、意味は「できる」ではなく「(悪いことが)起こるかもしれない」になるので、続けて学ぶときに必ず並べて整理します。
Vます形(「ます」を取った形)+かねる(「かねる」はグループⅡの動詞と同じ活用: かねます・かねました・かねて。丁寧な断りは「お/ご〜しかねます」「〜いたしかねます」)
客の頼みのカード(返品したい・値引きしてほしい・予約の日を変えたい・ほかの客の連絡先を知りたい)を引かせ、店員役が「申し訳ございません。〜は〜かねます」で断る。断ったあとに理由を一文、代わりの案を一文(「〜でしたら、ご案内できます」)足させ、断りだけで終わらせない。
その動作をする方法・手段がないことから、したくても、どうやってもすることができない、という意味を表します。「よう」は「やり方」のことで、「書きよう」は「書き方」とほぼ同じです。できない理由が、やる気や立場ではなく、手がかり・材料・方法がそろっていないことにあるのがこの形の特徴で、「連絡先が分からないので、連絡しようがない」「壊れ方がひどくて、直しようがない」のように、前に理由を置いて使います。「言いようがない」「たとえようがない」は、言葉で表す方法が見つからないほど程度がすごい、という決まった言い方です。「〜ようもない」とすると少し強くなります。話し言葉の「しょうがない(=しかたがない)」は、もとは「しようがない(する方法がない)」から来た言い方とされ、第23課の「〜てしょうがない」とつなげて紹介できます。
Vます形(「ます」を取った形)+ようがない(「する」の動詞は「連絡しようがない」のほかに「連絡のしようがない」とも言う。丁寧には「〜ようがありません」)
「困った状況」のカード(相手の連絡先を知らない・説明書をなくした・手がかりが何もない・壊れ方がひどい)を引かせ、「〜ので、〜ようがない」の一文を作らせる。聞いた学生は「じゃあ、〜てみたらどうですか」と方法を一つ提案し、方法が見つかれば「〜ようがない」が「〜られる」に変わることを確かめる。
ある気持ちや状態の程度が強すぎたために、ふつうではない、多くは望ましくない結果になってしまったことを表します。前に来るのは、驚き・喜び・心配・緊張・悲しさのような気持ちの名詞や、心配する・急ぐ・気にするのような動詞、まじめだ・慎重だのようなな形容詞です。後ろには、その結果として自分では止められなかったこと(声が出なくなる・泣いてしまう・失敗する・眠れない)が来るので、この課では、思うようにできなかった理由を、気持ちの強さのせいにして説明する言い方として使います。作文やスピーチ、改まった話で使われることが多く、話し言葉では「〜すぎて」がふつうです。副詞の「あまりに(も)〜」や「あまり〜ない」と形は似ていますが、働きは違います。
Nの/Vる・Vた/な形な+あまり(い形容詞は「うれしさのあまり」「悲しさのあまり」のように名詞の形にすることが多い。「〜あまりに」とも言う)
「気持ち」のカード(緊張・喜び・心配・驚き・慎重)と「結果」のカード(手が震えた・眠れなかった・決められなかった・泣いてしまった)を組み合わせ、自然な一文を作らせる。そのあと、友達との会話の「〜すぎて」の文を、作文の一文として「〜あまり」に書き直させる。
初中級の第20課で学んだ「〜がたい」を、この課ではできないことを丁寧・硬く言う語として使います。「〜するのが難しい」という形ですが、実際には「気持ちの上で、とてもそうはできない」という意味で、信じる・理解する・許す・受け入れる・認める・忘れる・想像する・耐えるのような、心の働きを表す動詞に付くことがほとんどです。体や技術の上で難しいことには「〜にくい」を使います。「その条件は受け入れがたい」「成功とは言いがたい」のように、相手の案や結果を直接「だめだ」と言わずに、受け入れることが難しいと評価する形で否定できるので、会議・交渉・意見文で角を立てない否定になります。名詞の前で「忘れがたい思い出」「得(え)がたい経験」のようにも使い、「ありがたい」ももとは「有り難い(めったにない)」から来た言葉です。
Vます形(「ます」を取った形)+がたい(い形容詞と同じ活用: がたかった・がたくて・がたく。名詞の前にもそのまま付く)
相手の意見や案のカード(会議の新しい決まり・友達の計画・ニュースの説明)を見せ、「〜は〜がたいです。なぜなら〜からです」と理由を添えて否定させる。次に同じ場面で、自分が頼まれたことを断るなら「〜しかねます」、相手の案を評価するなら「〜がたい」と、学習項目2と言い分けさせる。
この課では、断りや否定の前に置くクッションの言葉(申し訳ございませんが・あいにく・恐れ入りますが・せっかくですが)と、理由を言う言葉(〜の都合で・決まりで・〜ため)を板書の端に集めておくと、5つの形をそのまま場面で使わせやすくなります。「〜がたい」の前に来る心の働きの動詞(理解する・許す・受け入れる・認める・忘れる・想像する)はカードにして、「〜にくい」の前に来る体の動作の動詞と分けて並べておきます。
宿題は、頼まれたことを断るメールを一通書くこと(場面は、アルバイト先からシフトを増やしてほしいと頼まれた・サークルの代表を頼まれた・先輩に引っ越しの手伝いを頼まれた、から一つ選ぶ)。「〜かねます」「〜ざるを得ない」「〜ようがない」のうち2つ以上を使い、断り・理由・代わりの案・相手への気づかいの4つを入れて、150〜250字で書かせる。次のコマの最初にペアで読み合い、相手のメールのどの文が「事情」「立場」「方法」のどれを理由にしているかを言い、角が立たなかったかを一言で評価して振り返ります。
「〜かねる」と「〜がたい」はどう教え分ければいいですか?
「〜かねる」は、頼まれたことを自分がするかどうかについて、立場の上でできないと断る形です(お引き受けしかねます)。「〜がたい」は、相手の案やものごとを、心の上で受け入れにくいと評価する形です(その案は受け入れがたい)。教室では「断る?評価する?」と一言で聞いて選ばせ、まとめの表では「誰の行動か」の列で分けると混ざりにくくなります。
「〜ざるを得ない」と「〜しかない」の違いはどう説明しますか?
意味はどちらも「ほかに選べる道がない」で近いです。違いは硬さと気持ちで、「〜しかない」は会話でふつうに使い、「〜ざるを得ない」はお知らせ・会議・作文で使われ、残念だが仕方がないという気持ちがはっきり出ます。同じ内容を友達への一言とお知らせのメールの二通りで言わせると、学習者が耳で違いをつかめます。
第25課の「〜かねる」と第35課の「〜かねない」は一緒に教えたほうがいいですか?
第25課では「〜かねない」は一言予告するだけにし、深く扱うのは第35課でよいです。ただし学習者が「お引き受けしかねません」と言うと「引き受けてしまうかもしれない」という逆の意味に聞こえるので、板書には「かねます=できない」「かねません=〜かもしれない」の2行を最初から並べておきます。第35課に入るときにこの板書を見せ直すと、つながりがはっきりします。
「〜ようがない」と「〜にくい」の違いは?
「〜にくい」は方法はあるが難しいこと、「〜ようがない」は方法そのものがないことを表します。「字が小さくて読みにくい」と「字が消えていて読みようがない」を並べ、「方法は残っていますか」と聞くと区別させやすくなります。「〜ようがない」は前に「〜が分からないので」「〜がないので」のような手がかりの不足を置いて練習させます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入と「〜ざるを得ない」「〜かねる」「〜ようがない」まで、2コマ目は「〜あまり」「〜がたい」と5つの形の整理、断りのロールプレイ、まとめです。硬い形が続く課なので、2コマ目の初めに1コマ目の3つの形を場面カードで短く言い直させてから進むと、ロールプレイで形が出やすくなります。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。