心が動いた出来事(感心した・驚いた・がっかりした・ありがたかった)を、ただ「すごかった」「びっくりした」で終わらせず、どう心が動いたのかまで相手に伝える課です。5つの学習項目は、役割で3つに分けると整理しやすくなります。①理由と気持ちを結ぶ形(〜だけあって/だけに/だけのことはある:「〜だから、それにふさわしく」「〜だから、なおさら」)、②気持ちを先に言う・一つを強く押し出す形(〜ことに・〜こそ)、③気持ちの大きさそのものを伝える形(〜ことか・〜くらい/ほど)です。とくに①の3つは見た目が似ているので、「期待どおりで感心」「だからこそ一層(良いことにも悪いことにも)」「文末で評価する」という違いを、同じ出来事で言い比べて押さえるのがこの課の芯です。最後は、旅行やイベントで感激した・驚いた経験を語る活動で、①〜③を一つずつ入れて話させます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(目標の場面) | 15分 | 教師が「最近、『わあ』と思ったことはありますか」と聞き、学生の答え(「おいしかった」「びっくりした」)を黒板に集める。教師が自分の体験を「すごかった」だけで話したあと、この課の形を使って話し直して見せ、どちらがよく伝わるかを聞いて、気持ちの伝え方を増やす課だと予告する。黒板に「理由と気持ち」「気持ちを先に・一つを強く」「気持ちの大きさ」の3つの箱を作る |
| 学習項目1 〜だけあって/だけに/だけのことはある | 35分 | 同じ出来事(評判の店の料理がおいしかった/楽しみにしていた花火大会が雨で中止になった)を3つの形で言い比べ、「期待どおりで感心」「だからなおさら」「文末で評価」の違いを表にする |
| 学習項目2 〜ことに | 20分 | 出来事の文の前に「うれしいことに」「困ったことに」を足して、気持ちを先に言う効果を確かめる。前に来る言葉(感情の形容詞・動詞のた形)を板書で固定し、書き言葉寄りの形だと押さえる |
| 学習項目3 〜こそ | 25分 | 「こちらこそ」「今度こそ」の決まった言い方から入り、「Nこそ」「〜からこそ」で、ほかのものではなくそれだと強く言う働きを整理する |
| 学習項目4・5 〜ことか・〜くらい/ほど | 35分 | 「とてもうれしかった」を、「どんなにうれしかったことか」と「泣きたいくらいうれしかった」に言い替え、詠嘆で大きさを伝える形と、極端なたとえで大きさを伝える形を並べる。初中級で学んだ「くらい/ほど」との違い(説明のためのたとえから、気持ちを伝えるたとえへ)を確かめる |
| 目標の活動(感激・驚きの体験を語る) | 35分 | 旅行・イベント・アルバイト先などで心が動いた体験を1分で話す。3つの箱から一つずつ形を入れ、聞き手は「それは〜だけのことはありますね」「それこそ〜ですね」のどちらかで反応を返す |
| まとめ | 15分 | 3つの箱に5つの形を置き直し、硬さ(書き言葉向き・会話向き)と、良い気持ち・悪い気持ちのどちらに使えるかを一覧にして残す |
3つとも「だけ」の前に理由になる事実(評判・立場・経験・値段・努力など)を置き、そこから当然そうなる、という気持ちを表します。ここでの「だけ」は「〜だけ(限定)」ではなく、「それにふさわしい程度」という意味です。「〜だけあって」は、前の事実から期待されるとおりの結果で、感心・納得したことを言います(さすがプロだけあって上手だ)。良い評価に使うことが多い形です。「〜だけに」は、「〜だから、なおさら・それだけ一層」という気持ちで、良い結果にも悪い結果にも使えるのが特徴です(楽しみにしていただけに、中止は残念だ)。期待が大きかった分だけ落胆も大きい、という使い方は「だけに」が受け持ちます。「〜だけのことはある」は文末に置き、目の前の結果を見て「〜というのも当然だ、それにふさわしい」と評価します。「さすが〜だけのことはある」の形でよく使われます。3つとも、後ろ(文末)には話し手の感想や評価が来て、依頼や命令は来ないのがふつうです。
V・い形の普通形/な形な/N(書き言葉では「Nであるだけに」も)+だけあって・だけに・だけのことはある(「有名なだけあって」「プロだけあって」「高かっただけのことはある」)
「理由」のカード(評判のパン屋・元プロ選手のコーチ・3年間毎日練習した・ずっと待っていた新製品)と「結果」のカード(とてもおいしい・教え方が上手・優勝した・すぐ売り切れて買えなかった)を組み合わせ、3つの形のどれが合うかを選んで文を作らせる。結果が悪いカードを混ぜて、「だけに」を選べるかを確かめる。最後に「さすが〜だけのことはある」で、クラスメートの得意なことをほめ合う。
「うれしいことに」「残念なことに」のように、これから言う出来事について自分がどう感じたかを、先に述べる形です。聞き手や読み手は気持ちの向きを先に知ってから出来事を聞くので、話の印象がはっきりします。前に来るのは、うれしい・ありがたい・残念な・不思議な・困った・驚いた・あきれた のような感情や評価を表す言葉で、動詞は「驚いたことに」「困ったことに」のようにた形にします。やや書き言葉寄りで、作文・手紙・ニュース・スピーチなどでよく使われます。後ろには実際に起こった出来事や事実が来て、「〜てください」「〜ましょう」のような依頼・勧誘は来ません。
い形+ことに(うれしいことに)/な形な+ことに(残念なことに)/Vた+ことに(驚いたことに・困ったことに)
出来事のカード(試験の日が台風で延期になった・引っ越し先の大家さんが母国の言葉を話せた・電車に傘を忘れた)を見せ、学生に合う気持ちの言葉を選ばせて「〜ことに、〜」の一文を作らせる。同じ出来事に「うれしいことに」と「困ったことに」の両方を付けて、続きの文を変えさせる練習もする。
ほかのものではなく、まさにそれだと、一つのものを取り立てて強く言う形です(取り立て=文の中の一つの語を特別に目立たせること)。「は」「が」「を」の代わりに使って「これこそ、ずっと探していた本だ」のように言い、感激や確信が強いときに出ます。決まった言い方として、あいさつの「こちらこそ」、前に失敗したことを次は必ず、という「今度こそ」「今年こそ」があります。理由を強く押し出す「〜からこそ」は、「ほかの理由ではなく、まさにそれが理由だ」という言い方で、感謝や主張を伝える文によく使われます(あなたが支えてくれたからこそ、最後まで続けられた)。
N+こそ(が・を・は の代わりに。に・で などは残して「ここでこそ」「あなたにこそ」)/普通形+からこそ
「は」の文(このかばんは使いやすい・この季節は旅行にいい・ここは静かだ)を「こそ」に言い替え、後ろに「ずっと探していた」「いちばん」などを足して気持ちの強さを出させる。そのあと、「〜からこそ、〜」で、ここまで続けられた理由をペアで言い合い、聞き手は「それはよかったですね」と返す。
「なんと〜ことか」「どんなに〜ことか」「何度〜ことか」の形で、言い尽くせないほど気持ちが強いことを、感嘆(詠嘆=心から感じ入って言うこと)として表します。形は疑問文のようですが、相手に質問しているのではなく、答えを求めない言い方で、文末は下げて言います。必ず「なんと」「どんなに」「どれほど」「何度」「何回」のような程度や回数を表す言葉といっしょに使い、これらが無いと文として不自然になります。やや書き言葉寄りで、作文・手紙・スピーチや、強い気持ちを込めて振り返る話で使われます。良い気持ち(うれしい・美しい)にも、つらい・あきれた気持ちにも使えます。
なんと/どんなに/どれほど/何度+V・い形の普通形(た形も)/な形な(・である)+ことか(「どんなにうれしかったことか」「なんと静かなことか」)
「とても〜」の文のカード(とてもうれしかった・とても心配した・何回も練習した・とてもきれいだ)を見せ、「なんと/どんなに/何度〜ことか」に言い替えさせる。言い替えたら、気持ちを込めて文末を下げて読む練習をし、上げて読むと質問に聞こえることを聞き比べで確かめる。
初中級で学んだ「〜くらい」「〜ほど」は、どのくらいかを具体的なたとえで説明する形でした。この課では同じ形を、心が動いた大きさを相手に伝えるために使います。「涙が出るくらいうれしかった」「信じられないほど美しかった」のように、実際には起きていない、または起きそうな極端な例を前に置くことで、「とても」では伝わらない気持ちの強さを表します。「死ぬほど」「泣きたいくらい」のように本当にそうなるわけではない誇張も多く、聞き手もそれを分かって聞いています。文末で「〜くらいだ/ほどだ」と言うと、気持ちの大きさをたとえで締めくくることができます。「ほど」のほうが程度が強めに聞こえて少し硬く、作文やスピーチ向き、「くらい(ぐらい)」は会話でよく使われます。
V辞書形/Vない/Vたい・い形・な形な・N+くらい(ぐらい)/ほど。文末は「〜くらいだ/ほどだ」
気持ちのカード(うれしい・悔しい・恥ずかしい・感動した・疲れた)と、よく使うたとえのカード(泣きたい・叫びたい・穴があったら入りたい・言葉にならない・信じられない)を組み合わせ、合うものを選んで「〜くらい/ほど〜」の文を作らせる。そのあと温度計の板書を使って、「とても」で言った文と比べ、どちらが気持ちが伝わるかペアで評価し合う。
この課の言葉は、感激・驚き・がっかりを表す言葉(感激する・感動する・驚く・あきれる・残念・もったいない・ありがたい など)と、気持ちの大きさを言う決まったたとえ(泣きたい・言葉にならない・信じられない・跳び上がる など)に分けて板書しておくと、どの形に入れるかを考える材料になります。単語だけで覚えさせず、「驚いたことに」「言葉にならないほど」「さすが〜だけのことはある」のように、この課の形と組にしたかたまりでカードを作って練習します。
宿題は、日本に来てから(または最近)感激したこと・驚いたことを一つ選び、「〜だけあって/だけに/だけのことはある」から一つ、「〜ことに」か「〜こそ」から一つ、「〜ことか」か「〜くらい/ほど」から一つ、合わせて3つ以上を使って200〜300字の短い文章に書くこと。次のコマの最初に何人かに読ませ、聞いた学生に「どこでいちばん気持ちが伝わったか」を言わせてから、「だけあって」と「だけに」の選び方が出来事に合っているかを全員で確かめます。そのあと、決心や心がまえを伝える第22課に進みます。
「〜だけあって」と「〜だけに」の違いはどう説明すればいいですか?
「だけあって」は理由から期待されるとおりの結果で、感心・納得したときに使い、良い評価がほとんどです。「だけに」は「理由が大きい分だけ、なおさら」という気持ちで、良い結果にも悪い結果にも使えます。同じ出来事(楽しみにしていた花火大会が中止)を両方で言わせ、悪い結果には「だけに」しか合わないことを確かめると区別がつきます。
「驚くことに」のように辞書形で言ってもいいですか?
新聞や会話で見かけることもありますが、教室では「驚いたことに」「困ったことに」と、た形に固定して教えるのが安全です。前に来るのは感情や評価の言葉で、い形はそのまま、な形は「な」を付けます。形の箱を板書で3つに分けて残しておくと、作文のときに学生が戻って確かめられます。
「〜ことか」が質問に聞こえないようにするには、どう練習しますか?
「なんと」「どんなに」「何度」などの言葉と組で使うこと、文末を下げて読むことの2点を押さえます。教師が上げる読み方と下げる読み方を聞かせ、どちらが感嘆かを学生に手で示させてから、個人で下げて読ませます。「どんなに心配したか、分かりますか」と並べると、「こと」の有無の違いも見えます。
第21課は何コマで終わりますか?
目安は90分×2コマです。1コマ目で「だけあって/だけに/だけのことはある」「ことに」「こそ」まで、2コマ目で「ことか」「くらい/ほど」と、体験を語る目標の活動を行います。1コマ目の終わりに、心が動いた体験を一つ決めてくるよう伝えておくと、2コマ目の活動の材料になります。
「〜くらい」と「〜ほど」はどう使い分けさせればいいですか?
気持ちの大きさを伝える使い方では、どちらもほぼ同じ意味で使えます。「くらい(ぐらい)」は会話でよく使われ、「ほど」は程度が強めに聞こえて少し硬いので、作文やスピーチに向きます。程度を軽く見る「これくらい平気」は「くらい」だけの使い方で「ほど」には置き換えられない、と一言添えます。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。