日本語の授業の最初の課で、名詞の文「〜は…です」を使って自分の名前・国・仕事を言い、身のまわりの物を「これ/それ/あれ」で指して名前を言えるようになる課です。文の形は「は」と「です」の枠一つだけで、そこに人を入れれば自己紹介、物を入れれば物の説明になるので、同じ板書を課の最初から最後まで使い回します。「これ・それ・あれ」は話し手と聞き手からの距離で選ぶ言葉なので、説明するより、教室の中で実際に物を持ち、相手の机に置き、遠くを指して見せます。最後の「〜の…」で「わたしのノート」のように持ち主を足し、忘れ物を返すような小さなやり取りができるところまで進みます。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 30分 | 最初の課なので前の課はない。課の前に置かれたあいさつ・教室のことば・数・身のまわりの物の名前を、絵カードと実物で全員で声に出して確かめる。教師が名札を見せて名乗り、学生にも名札を作らせて、このあとの練習で使う |
| 学習項目1 〜は…です | 50分 | 教師の名乗りから「わたし は __ です」の枠を取り出し、名札・国旗・仕事のカードで入れ替える。文末に「か」を足して質問、「はい、〜です」で答える形まで |
| 学習項目2 これ/それ/あれは〜です | 40分 | 教師と学生の位置を棒人間で板書し、実物を手に持つ・相手の机に置く・遠くを指すの三つで言葉を分ける。「何ですか」で聞く側と答える側を入れ替える。1コマ目はここで「これ・それ・あれ」の導入まで進め、「何ですか」の聞き合いは2コマ目の頭に回してよい |
| 学習項目3 これ/それ/あれは〜の…です | 35分 | 学生の持ち物を集めて「〜さんの〜です」、返しながら「だれの〜ですか」。「英語の辞書」のような内容の「の」は最後に一言だけ |
| まとめの活動 | 25分 | 名札と持ち物を使ったペアのやり取り(名前・国・仕事を聞く → 相手の持ち物を指して何か・だれの物かを聞く)を、相手を替えて3回。最後に一人ずつ、隣の人を「〜さんです。〜人です。これは〜さんの〜です」とクラスに紹介する |
「〜は…です」は、「〜」について「…だ」と言う名詞の文です。「は」は何について話すか(話題)を示す助詞で、読むときは「わ」です。「です」は名詞のあとについて文を丁寧に終える言葉です。この課では「〜」に人(わたし・〜さん)、「…」に名前・国(〜人)・仕事が入り、文末に「か」をつけると、語順を変えずに質問の文になります。話題が分かっていれば「わたしは」は言わなくてよいので、自己紹介では最初の一文だけに「わたしは」をつければ十分です。否定の形(〜じゃありません)は目次の学習項目には挙がっていないので、教科書の練習で扱っているかを見てから足すかどうかを決めます。文法用語で言うと、「〜は…です」は名詞が述語になる名詞述語文で、「は」は主題(題目)を示す助詞です。試験や教師用の文法書では、この「は」と、新しい情報を示す「が」の違い(主題と主語)がよく取り上げられますが、第1課では「は」の前が話題、後ろが言いたいこと、とだけ押さえれば足ります。
人の名詞+は+名詞+です(「は」は「わ」と読む。質問は文末に「か」をつけて、文の終わりを上げる)
教師が名札・国旗・仕事のカードを1枚ずつ見せ、学生が「〜さんは〜です」「わたしは〜人です」と言う代入練習から始める。慣れたら教師が「〜さんは〜ですか」と聞いて「はい、〜です」と答える形に替え、最後はペアで名前・国・仕事を聞き合い、聞いた相手のことを「〜さんは〜人です。〜です」とクラスに紹介させる。
「これ・それ・あれ」は物を指す言葉で、話し手と聞き手の位置で選びます。話し手の近く(手に持っている物・自分の前にある物)は「これ」、聞き手の近くの物は「それ」、二人から離れた所にある物は「あれ」です。文の形は学習項目1と同じ「〜は…です」で、「〜」の位置に「これ・それ・あれ」が入るだけです。名前が分からない物は「これは何(なん)ですか」と聞き、聞き手の近くの物について聞かれたら、答える側から見ると自分の近くなので「それ」が「これ」に替わります。文法用語では、「これ・それ・あれ」は指示詞(いわゆるこそあど)で、目の前の物を指すこの使い方は現場指示と呼ばれます。話し手の領域と聞き手の領域を分けて「こ」と「そ」を選ぶ型(対立型)と、二人が並んで同じ側から見るときに近くを「こ」、少し離れた所を「そ」、遠くを「あ」とする型(融合型)があり、この課ではまず対立型を、教師と学生が向かい合う形で見せます。
これ/それ/あれ+は+物の名詞+です(質問は「〜は何ですか」。「何ですか」は「なんですか」と読む)
教師が教室の中の物を指し、学生がその位置に合わせて「これ/それ/あれは〜です」を選んで言う。同じ物の位置を動かしながら三つの言葉で言わせると、距離で選ぶことが体に入る。そのあと、袋に入れた身のまわりの物を一人ずつ取り出させ、ほかの学生が「それは何ですか」と聞き、取り出した学生が「これは〜です」と答えるやり取りを全員に回す。
「の」は名詞と名詞をつなぎ、前の名詞が後ろの名詞をくわしく説明します。この課の中心は「わたしのノート」「田中さんのかさ」のような持ち主を表す「の」で、ほかに「英語の辞書」(内容)、「日本の車」(どこの物か)のような使い方もあります。順番は必ず「説明する名詞 → の → 物の名詞」で、逆にはなりません。持ち主を聞くときは「だれの〜ですか」、内容を聞くときは「何(なん)の〜ですか」と、「の」の前に疑問の言葉を入れます。文法用語では、名詞と名詞をつなぐこの「の」は連体修飾の助詞で、前の名詞が後ろの名詞を修飾します。持ち主・内容・産地のように前と後ろの関係がいろいろあっても形は一つなので、学習者は関係ごとに別の言葉を覚える必要はなく、「前の名詞が説明」とだけ押さえればよいのが教えやすい点です。
名詞+の+名詞(前の名詞が後ろの名詞を説明する。持ち主を聞くときは「だれの」、内容を聞くときは「何の」)
持ち物の絵カード(かばん・かさ・時計・辞書など)と人の名札を組み合わせて「これは〜さんの〜です」と言う代入練習から始め、教師がカードを持つ位置を変えて「これ・それ・あれ」も同時に選ばせる。そのあと、学生全員の持ち物を一つずつ集めて箱に入れ、一人が取り出して「これはだれの〜ですか」と聞き、持ち主が「わたしの〜です」と答えて受け取るまでを全員に回す。
この課の語は、国(〜人)・仕事・身のまわりの物の三つのかたまりです。国と仕事は名札・国旗・絵カードで、物は教室にある実物で入れ、単語だけで覚えさせずに「〜人です」「〜さんのかさ」のように文の形の中で練習します。学習者の国と仕事はクラスによって違うので、教科書に出ていなくても本人に必要な語はその場で足し、板書に残しておきます。
宿題は、自分の名前・国・仕事を「わたしは〜です」の形で3文書くことと、自分の持ち物を3つ選んで「これはわたしの〜です」と書くこと(物の名前が分からなければ辞書で調べてよい)。次のコマの最初に、宿題の文を使って何人かに自己紹介をさせ、持ち物を指して「それは何ですか」「だれの〜ですか」と聞いて復習してから、第2課の場所を指す言葉「ここ/そこ/あそこ」に入ります。
第1課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は名札づくりと「〜は…です」の自己紹介、「これ・それ・あれ」の導入まで。2コマ目は「何ですか」の聞き合い、「〜の…」、まとめの活動です。最初の課は名札や教室のことばの確認に時間がかかるので、導入を長めに取っておきます。
第1課を媒介語なしの直接法で教えられますか?
できます。この課の文は「〜は…です」の枠一つで、入る語も名前・国・仕事・教室の物なので、名札・国旗・絵カード・実物で意味が伝わります。教師が自分で3文名乗ってから枠を板書すると、説明しなくても形が見えます。「は」の読みや「これ・それ」の距離のように見せにくい点だけ、板書の印と動作で補います。
「これ・それ・あれ」の距離はどう見せればいいですか?
教師と学生を向かい合わせに立たせ、教師の手元が「これ」、学生の手元が「それ」、二人から遠い所が「あれ」と、板書の棒人間に線で範囲を描いて見せます。同じ物を教師の手元・学生の机・教室の後ろと動かし、物は同じでも言葉が替わることを体で確かめさせます。二人が並んで同じ側から見るときの使い方は、この課では出さないほうが混乱しません。
「は」を「わ」と読むことはいつ、どう教えますか?
最初の板書で「わたし は」の「は」の上に小さく「わ」と書き、その場で「書くときは は、読むときは わ」と言います。かなを覚えたばかりの学習者は書くときに「わたしわ」と書くので、宿題の文でも毎回確かめます。理由の説明(助詞だけの読み方)は短くし、例外は「は」「へ」の二つだけだと先に言っておくと安心します。
否定の「〜じゃありません」はこの課で教えますか?
目次の学習項目には挙がっていないので、教科書の練習で扱っているかを見てから決めます。この教案では「いいえ、〜です」と正しい名前を言い直す答え方までにしています。否定の形を足す場合は、学習項目1の「はい/いいえ」の答え方の練習の中で、名詞のあとに付ける形として一つだけ出します。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。