第11課のテ形・第12課のナイ形・第15課の辞書形に続いて、タ形がこの課で初めて出ます。作り方はテ形の「て」を「た」に替えるだけなので、新しい規則はほとんどなく、時間の大半は タ形を使う四つの言い方(経験の「〜ことがあります」・例を挙げる「〜たり、…たりします」・状態が続く「〜たまま」・時間の前後の「〜あとで」)に使えます。四つとも文の終わりは「ます・ました」の丁寧な形のままで、タ形は文の途中にだけ出てくる、と最初に決めておくと、第17課の普通表現と混ざりません。教えるときの芯は、どの言い方も既習の文型(〜ことができます・〜て、…て・〜ないで・〜てから)と一つずつ並べて違いを見せることです。
目安は 90分×2コマ。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 導入(前の課とのつなぎ) | 10分 | 第15課の「〜ことができます」で、できることを2〜3人に聞く(「漢字を書くことができますか」)。そのあと教師が「わたしは歌舞伎を見ることができます。……見たこともあります」と言いかけて、「きょうは『した』の話です」と予告する。黒板には第11課のテ形の表を出しておく |
| た形の作り方 | 30分 | テ形の表の「て」を消して「た」に、「で」を「だ」に書き換えて、タ形の表にする。マス形→テ形→タ形の順で絵カードの口頭練習を回し、行った・来た(きた)は枠で囲む |
| 学習項目1 〜ことがあります | 50分 | 教師の経験を絵や写真で話して導入。クラスで「温泉・着物・新幹線・すし」などの○×表を作り、「〜たことがありますか」「はい、あります/いいえ、ありません」で聞き合う |
| 学習項目2 〜たり、…たりします | 30分 | 教師の週末の絵カードを4枚見せ、二つを選んで「〜たり、…たりします」。第11課の「〜て、…て」(順番に全部)と並べて板書し、最後の「します/しました」が時を受け持つことを赤で示す |
| 学習項目3 〜たまま、… | 25分 | 教師がテレビの絵カードを使い、テレビをつけたまま寝た朝の話をして導入。玄関・お寺・病院の絵で「〜たまま〜てもいいですか」「〜たまま〜ないでください」のルールのやり取りへ広げる |
| 学習項目4 〜あとで、… | 20分 | 黒板に時間の矢印を引き、教師の一日の予定を並べて導入。あしたのことでも「〜たあとで」とタ形になることを赤で示し、「Nのあとで」も足す |
| まとめの活動 | 15分 | 「日本でしたこと・したいこと」のペアインタビュー。経験(〜たことがありますか)→ そのときのこと(〜たり、…たりしました)→ これからの予定(〜たあとで、…ます)の順で聞き、聞いた内容をクラスに報告する |
「た」で終わる動詞の形なので「タ形」と呼びます。作り方は第11課のテ形と同じで、テ形の「て」を「た」に、「で」を「だ」に替えるだけです(書いて→書いた、読んで→読んだ)。動詞のグループの分け方も、テ形・ナイ形・辞書形と同じです。この課ではタ形を「〜ことがあります」「〜たり」「〜たまま」「〜あとで」の中でだけ使い、タ形で文を終える言い方は第17課の普通表現まで出しません。文法の用語で言うと、グループIのタ形にはテ形と同じ音便(い・ち・りの「っ」=促音便、み・び・にの「ん」=撥音便、き・ぎの「い」=イ音便)が起きています。音便の名前を学習者に教える必要はありませんが、教師が「3つの音の変わり方と例外の行った」と整理して持っておくと、誤りの直し方が速くなります。
テ形 → タ形(て→た・で→だ)。マス形からはテ形と同じ規則(グループI: い・ち・り→った/み・び・に→んだ/き→いた・ぎ→いだ/し→した、グループII: ます→た、グループIII: します→した・来ます→来た)
絵カード20枚を速いテンポで「マス形→タ形」。最初はテ形を一度言わせてからタ形(飲みます→飲んで→飲んだ)、慣れたらテ形を飛ばす。グループI・II・IIIを混ぜ、間違えたカードだけ戻してもう一周する。最後に第15課の「辞書形→タ形」も1周して、第17課の普通表現の準備にする。
タ形に「ことがあります」をつけて、今までにそれをした経験があるかどうかを言います。「いつしたか」ではなく「今までに一度でもしたか」を言う形なので、きのう・先週のような特定の時の言葉とはいっしょに使いません。経験がないときは「〜たことがありません」、全然ないことを強めるときは「一度も〜たことがありません」です。「〜たことがありますか」と聞かれたら、「はい、あります」「いいえ、ありません」と「あります」だけで答えられます。文法の用語では、過去の一回の出来事を言う「〜ました」に対して、「〜たことがあります」は今の時点でその経験を持っているかを言う形として扱われ、テンス・アスペクトの話では「経験」の用法と呼ばれます。なお、辞書形に「ことがあります」をつけると「ときどきそうする」の意味になり、この課の形とは別のものです。
動詞のタ形+ことがあります(否定は「ことがありません」。第15課の「辞書形+ことができます」と形が似ているので、前がタ形かどうかを必ず確かめる)
口頭の代入練習では、経験の絵カードを見せて「〜たことがあります」、教師が首を振ったら「〜たことがありません」と言わせ、慣れたら「一度も」「〜回」のカードを混ぜる。場面のやり取りでは、ペアで○×表を使って「〜たことがありますか」を5つ聞き合い、終わったら「〜さんは〜たことがあります」と第三者として報告させる。
いくつかの動作の中から、代表的なものを二つほど例として挙げ、「ほかにもいろいろある」ことを示す言い方です。第11課の「〜て、…て、―ます」は動作を起きた順に全部言いますが、「〜たり、…たりします」は順番は問わず、例を挙げるだけです。文の時(今のこと・過去のこと)と丁寧さは最後の「します」が受け持つので、過去のことなら「〜たり、…たりしました」、したいことなら「〜たり、…たりしたいです」になります。文法の用語では、いくつかの動作から代表を挙げる「例示」の形で、決まった順番に全部を言う第11課の並べ方とは役目が違います。
動詞のタ形+り、動詞のタ形+り+します(時と丁寧さは最後の「します/しました/したいです」で表す)
口頭の代入練習では、絵カードを2枚ずつ見せて「〜たり、…たりします」と一文で言わせ、続いて「毎週」「先週」「来週は〜たいです」の時のカードを出して、最後の形(します/しました/したいです)だけを替えさせる。場面のやり取りでは、ペアで「休みの日は何をしますか」「週末は何をしましたか」を聞き合い、答えは必ず例を二つ入れる。
ある動作をしたあとの状態を変えないで、次のことをする(または次のことが起きる)ことを表します。「テレビをつけたまま寝ました」は、テレビがついている状態が続いている中で寝た、という意味です。ふつうは元に戻してから次のことをする場面で、戻さなかったことを言うときによく使うので、「うっかり」「よくない」という気持ちが入りやすい形です。第12課の「〜ないで、…」はその動作をしないこと、「〜たまま」は動作をしてその状態が続くことで、向きが反対です。文法の用語では、前の動作の結果の状態がそのまま続いていることを言う形で、第10課の「帽子をかぶっています」のような、身につけたあとの状態の「〜ています」と見方が近い表現です。
動詞のタ形+まま、…(否定の「〜ないまま」や名詞の「〜のまま」はこの課では扱わない)
口頭の代入練習では、「状態」と「次の動作」の絵カードを2枚組で見せて「〜たまま、…ました」と言わせる(電気をつける+出かける、窓を開ける+寝る、など)。場面のやり取りでは、旅館・お寺・病院のルール表を配り、片方が「〜たまま〜てもいいですか」と聞き、もう片方が表を見て「はい、いいです」「いいえ、〜たまま〜ないでください」と答える。
ある動作が終わったあとに、次のことをする(または次のことが起きる)ことを言います。前の動作は終わっているので、「あとで」の前はいつもタ形で、あした・来週のようなこれからのことでも「食べたあとで」とタ形を使います。文全体の時は最後の動詞が表します。名詞には「の」をつけて「授業のあとで」と言います。第11課の「〜てから、…」も順番を言いますが、「〜てから」は「まずこれをして、それから」と順番そのものに目が向くことが多いのに対して、「〜あとで」は時間の前後を言う言い方で、二つのことの間に時間があいていてもかまいません。文法の用語で言うと、「〜たあとで」の「た」は話している今より前かどうかではなく、後ろの動作より前に終わっていることを表す相対テンスの「た」で、試験でもこの見方が問われます。
動詞のタ形+あとで、…/名詞+の+あとで、…(時は最後の動詞で表す)
口頭の代入練習では、時間の矢印の上の絵カードを二つ指して「〜たあとで、…ます」と言わせ、名詞のカード(授業・会議・食事)が来たら「〜のあとで」に替えさせる。途中で「きのう」「あした」のカードを出し、最後の動詞だけを替えさせる。場面のやり取りでは、ペアで一日の予定表を見せ合い、「〜たあとで、何をしますか」「〜たあとで、…ます」と聞き合う。
この課の練習では、日本の文化や生活の体験(歌舞伎・着物・温泉・新幹線など)を表す語と、回数の言い方(一度・〜回)をよく使います。体験の語は単語だけで覚えさせず、「着物を着た」「温泉に入った」のように助詞と動詞のタ形をつけた形で絵カードにし、学習項目1の○×表にそのまま使います。「〜回」は数字の読み(いっかい・さんかい・ろっかい・はっかい・じゅっかい)でつまずきやすいので、表に答えるときに声に出させます。
宿題は、「日本でしたことがあること」を「〜たことがあります」で2文、「したことがないこと」を「一度も〜たことがありません」で1文、週末にすることを「〜たり、…たりします」で1文書くこと。あわせてタ形の表(グループI・II・IIIを5語ずつ)を埋める。次のコマの最初に、宿題の文を使って教師が「〜さんは何をしたことがありますか」と聞いて復習し、タ形の表を見ながら「辞書形・ナイ形・タ形」を並べて読み、第17課の普通表現に入ります。
第16課のタ形はどう導入すればいいですか?
新しい規則として説明しないで、第11課のテ形の表を黒板に出し、「て」を「た」に、「で」を「だ」に書き換えて見せるのがいちばん速い導入です。テ形が言えればタ形も言えるので、規則の説明に時間をかけず、例外の「行った」「来た(きた)」を枠で囲むだけにします。テ形がまだ不安定な学習者には、マス形→テ形→タ形と一度テ形を通らせます。
「〜たことがあります」と「〜ました」の違いはどう説明しますか?
「〜ました」はいつか一回あった出来事で、「きのう」「先週」と時の言葉をつけられます。「〜たことがあります」は時を決めずに「今までに一度でも」を言う形なので、きのう・先週のような一点の時の言葉はつけません(「子どものとき、富士山に登ったことがあります」のように幅のある時なら言えます)。「富士山に登ったことがありますか——はい、あります——いつ登りましたか——去年登りました」という流れで、経験を聞いてから「〜ました」で詳しく聞くと、二つの役目の違いが見えます。
「〜たり」は一つだけ言ってもいいですか?
「休みの日は本を読んだりします」のように一つだけ挙げて「ほかにもある」ことをほのめかす言い方もあります。ただし、この課では例を二つ並べる「〜たり、…たりします」の形に絞り、二つ目の「たり」と最後の「します」を落とさないことを優先します。一つだけの言い方は、学習者から出たときに「言えます」と認める程度で足ります。
「〜たあとで」と「〜てから」の違いは何ですか?
「〜てから」はテ形につけて手順や順番を言い、「〜あとで」はタ形や「Nの」につけて時間の前後を言います。「日本へ来てから1年になります」のように「ある時から今まで」を言うのは「〜てから」です。初級の段階では、手順は「〜てから」、二つの出来事の前後は「〜あとで」と分けて練習し、細かい違いはあとの段階で深めます。
この課は何コマで終わりますか?
90分×2コマが目安です。1コマ目は導入・タ形の作り方・「〜ことがあります」まで、2コマ目は「〜たり、…たりします」「〜たまま」「〜あとで」とまとめの活動です。タ形が定着していないクラスでは、2コマ目の最初にタ形の小テストを5分入れておくと、第17課の普通表現に入ったときに止まりません。
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。