中級を学ぼう 中級前期 第8課「第一印象」の教案
『中級を学ぼう 日本語の文型と表現56 中級前期 第2版』
人が相手の第一印象をどう決めるかを扱う読み物の課です。語彙を見ると、表情・姿勢・外見・話す速さといった「言葉以外の情報」と「中身と見た目」が話題の中心で、学習項目は「〜にすぎない」「さえ〜ば」「〜というものではない」「〜かねない」「〜ものの」と、程度を低く見る・条件を一つに絞る・通念を否定する・悪い結果を心配するという、意見文の骨になる形がそろっています。この本の最後の課なので、文型を覚えるだけでなく、作文とプラスアルファのディベートで「自分の意見を述べる」ところまでを一つの流れとして設計すると、8課分のまとめになります。
このページについて教科書の本文・例文・設問は載せていません。例文と場面はすべて自作です。項目番号は教科書の「学習項目」の番号に合わせています。
学習項目6時間90分×4コマ(4コマ目はプラスアルファのディベートと8課の振り返り)語彙87語
この課のねらい(Can-do)
- 「〜にすぎない」「〜というものではない」で、相手や世間の見方を「それだけではない」と控えめに否定する文が書ける
- 「Nさえ〜ば」で「これ一つあれば十分」という条件を言え、「さえ・しか・こそ」の3つを意味の違いで言い分けられる
- 「Vマスかねない」で悪い結果への心配を言い、「〜ものの」で前のことを認めたうえで逆のことを続ける書き言葉の文が作れる
- 本文の構造(第一印象を決める要素と、その受け止め方)を読み取り、作文とディベートで自分の意見を根拠つきで述べられる
進め方と時間配分
目安は 90分×4コマ(4コマ目はプラスアルファのディベートと8課の振り返り)。コマの長さと学校のカリキュラムで配分は変わります。各段で押さえることと、かける時間の目安です。
| 段 | 時間 | やること |
| 扉(話しましょう) | 15分 | 初対面で相手のどこを見るか、自分が人と会うとき心がけていること(表情・姿勢・服装)を出し合う。扉の語「心がける」「表情」「姿勢」「外見」を黒板に残し、本文と学習項目1(〜にすぎない)の導入に使う |
| 本文の大意 | 30分 | CD か範読で通して読み、段落ごとに「何の話か」を一言で。第一印象を決める要素がいくつ出るか、見た目と中身のどちらが重いと言っているかに印を付けさせておく(学習項目4・6の導入に使う) |
| ことばを確かめよう | 25分 | 語彙リストの読みと意味。体の動きの語(目を合わせる・前かがみ・背もたれに寄りかかる・威圧感を与える)は教師が実演して見せ、学生にも体で確かめさせると定着が早い |
| 学習項目 1〜6 | 100分 | 本文の文に戻りながら1項目ずつ。2(さえ〜ば)と3(さえ・しか・こその整理)は続けて扱い、板書で3つの助詞を並べて見せる。4(というものではない)は第1課の「わけではない」を思い出させてから |
| 内容を確かめよう・精読 | 40分 | 正誤問題→段落の大意→細かい問い。精読では「筆者は見た目をどう評価しているか」を本文の文末表現(〜にすぎない・〜というものではない・〜ものの)から読み取らせる |
| 練習・チェックシート・作文・プラスアルファ(ディベート)・漢字 | 150分(うちディベートと振り返りで90分) | 練習は基本→応用→読もう・聞こう・書こう。チェックシートは小テストに。作文は「第一印象と中身」のテーマで根拠のある意見文を。プラスアルファのディベートは作文で書いた意見を口で述べ合う場にすると、8課のまとめになる |
学習項目 1 〜にすぎない
意味・はたらき学習項目 1
「ただ〜だけだ、それ以上のものではない」と、程度や価値、範囲を低く見積もって言う形です。「ほんの」「ただの」「単なる」「一部」などと一緒に使うことが多く、「大したことではない」「全体の中の一部にすぎない」という気持ちを表します。本文のような意見文では、筆者が「それは一つの要素にすぎない」と、ある考え方を小さく見せるときに使われます。言い換えるなら「〜だけだ」ですが、「それ以上の価値はない」という話し手の評価が加わる、硬めの書き言葉の文末表現です。
接続
N/普通形+にすぎない(な形容詞は「〜であるにすぎない」、名詞はそのまま「学生にすぎない」。「〜ただけにすぎない」の形もよく使う)
形
N にすぎない(一例にすぎない)Vる/Vた にすぎない(言ってみたにすぎない)Vた だけにすぎない(聞いただけにすぎない)ほんの/ただの/単なる N にすぎない
導入
- 「ただの〜です」から持ち上げる教師が自分を指して「私は有名な先生ですか」と聞き、「いいえ」と言わせてから「私はただの日本語教師です」「私はただの日本語教師にすぎません」と2つ板書する。意味は同じで、「にすぎない」のほうが「それ以上ではない」と強く低く見せる言い方だと説明する。次に「これは一例です」→「これは一例にすぎません」のように、数や量を小さく見せる例を足す。
- 本文の「にすぎない」を探す大意を取ったときに印を付けた文の中から「〜にすぎない」を見つけさせ、「筆者は何を小さく見せたいか」を問う。意見文で自分と違う考えを小さく見せるときの道具だと気づかせる。
板書案
N/普通形 + にすぎない =「ただ〜だけだ」
わたしは まだ 一年目の 社員に すぎません。
見た目は、その人を 知る 手がかりの 一つに すぎない。
〔赤〕にすぎない に波線 〔青〕ほんの/ただの/単なる/一部 に丸(いっしょに使う語)
〔赤〕な形容詞・名詞 → 〜である にすぎない
場面と発話(自作)
- 会社で、自分の提案が通ったことをほめられた。謙遜して答える。いえ、私は先輩の案を少し直したにすぎません。
- 作文で、見た目の大切さについて自分の考えを書く。服装や髪型は、その人を知るための入り口にすぎない。
- アルバイト先の月の報告書に、売り上げが増えた理由を書く。今月の売り上げの伸びは、近くの祭りによる一時的なものにすぎない。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
「ただの〜です」で言わせた文を「〜にすぎません」に言い換える。次に「〜は全体の一部にすぎない」の型で、本文の話題(表情・姿勢・服装)を主語にして意見の文を1つずつ書かせる。
- 口頭教師が語のカードを見せ、学習者が「〜にすぎない」で言う。キューの例: 「冗談」→「あれは冗談にすぎません」/「うわさ」→「それはうわさにすぎない」/「ほんの10分」→「待ったのはほんの10分にすぎない」/「一部」→「これは問題の一部にすぎない」。全体で言ってから個人に当てる。次に「〇〇さんは有名な社長ですね」のような持ち上げる文をキューにし、「いいえ、小さい会社の社長にすぎません」と返させる。
- ペアAにほめ言葉のカード(「日本語がぺらぺらですね」「料理のプロみたい」など)を配り、AがBをほめる。Bは「〜にすぎません」で小さく返し、理由を一文足す。3枚終わったら役を交替する。
- 産出活動「『一部にすぎない』反論メモ」。第一印象について世間でよく言われる考え(「見た目がすべて」「笑顔が一番」など)を一つ選び、「〜は〜の一部にすぎない。〜も大切だ」の形で反対の意見を2〜3文書いて読み上げる。教師は、低く見る対象に付いているか(良い意味で使っていないか)と、な形容詞・名詞の接続を見て直す。
つまずきと手当て
- 良い意味で使って不自然になる(「彼は天才にすぎない」)。低く見る・小さく見る文にだけ使うと示す
- 「〜すぎる」(程度が高い)と混同して「にすぎる」と書く。「すぎない」は否定の形で固定、意味は「それ以上ではない」と板書に残す
- な形容詞に直接付ける(「簡単にすぎない」)。な形容詞・名詞のときは「〜であるにすぎない」か、名詞の形に言い換える(「簡単な作業にすぎない」)
既習の文型との違い
- 〜だけ(初級)「だけ」は範囲を限るだけで、評価は含みません。「にすぎない」は「それ以上の価値はない」と低く見る気持ちが加わり、硬い文体です。「りんごを一つ食べたにすぎない」と言うと「大したことはしていない」という意味になるので、ふつうの事実の報告には「だけ」を使います。
- 〜というものではない(第8課 学習項目4)「にすぎない」は話題になっている物事を小さく見せ、「というものではない」は「〜ばいい」という考えそのものを否定します。意見文では「見た目は要素の一つにすぎない。見た目さえよければいいというものではない」のように続けて使えます。
関連する文型
学習項目 2 Nさえ〜ば/〜なら
意味・はたらき学習項目 2
「Nがあれば(Nがよければ)、ほかは何も要らない」と、条件を一つだけに絞って言う形です。「さえ」が「これだけで十分」という気持ちを表し、「〜ば」「〜なら」がその条件を仮定します。「お金さえあれば」「天気さえよければ」のように、話し手の願いや、ある結果が出るための最低限の条件を言うときに使います。動詞は「Vマスさえすれば」「Vてさえいれば」の形にもなります。文法の見方では、取り立て助詞「さえ」と条件表現「ば・なら」を組み合わせて「必要な条件はそれ一つ」と示す形です。
接続
N+さえ+Vば/い形ければ/な形なら/Nなら(「さえ」は「が」「を」と入れ替わり、「に」「で」などの後ろには「にさえ」「でさえ」と付く)
形
N さえ Vば(時間さえあれば)N さえ い形ければ(天気さえよければ)N さえ な形なら/Nなら(体さえ丈夫なら)N にさえ Vば(ここにさえ来れば)
導入
- 「何があれば幸せ?」から絞る「幸せになるために必要なものは何ですか」と聞いて、お金・時間・友だち・健康などを黒板に並べる。次に「一つだけ選んでください。それがあれば、ほかはなくてもいい」と言って選ばせ、「健康さえあれば幸せだ」と板書する。「さえ〜ば」は条件を一つに絞って「それだけで十分」と言う形だと説明し、学生それぞれの一つで文を言わせる。
- 「〜ば」との差を見せる「健康であれば幸せだ」と「健康でさえあれば幸せだ」を並べ、下は「ほかは要らない」という気持ちが足されていることを確かめる。さらに第一印象の話題で「笑顔さえあれば第一印象はよくなる」と例を作り、「本当にそれだけで十分か」と問うと、学習項目4(〜というものではない)への橋になる。
板書案
N + さえ + Vば/い形ければ/な形・Nなら
パスポートさえ あれば、手続きは できます。
Vマス + さえすれば / Vて + さえいれば
〔赤〕さえ と ば を線でつなぐ(セット) 〔青〕が・を は消す
〔青〕に・で + さえ(にさえ・でさえ)
場面と発話(自作)
- 就職活動を前に、先輩に面接の心配を話している。面接は、笑顔さえ忘れなければ大丈夫だと思うよ。
- 日本で働く友だちが、部屋を探している。条件を聞かれた。駅さえ近ければ、部屋は狭くてもいいです。
- アルバイトの面接で、店長に「日本語は大丈夫?」と聞かれた。ゆっくり話していただきさえすれば、分かります。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
「〜するためには何が一つあればいいか」を教師が投げ(試験に合格する・いい部屋を借りる・日本の生活に慣れる)、学生が「Nさえ〜ば」で答える。答えが「それだけで本当に十分か」をペアで確かめ合うと、学習項目4につながる。
- 口頭物の絵カードと結果を組み合わせて言わせる。キューの例: 傘の絵「雨でも出かけられる」→「傘さえあれば、雨でも出かけられる」/地図「迷わない」→「地図さえあれば迷わない」/辞書「一人で読める」→「辞書さえあれば一人で読める」。次に動詞のキュー「毎日練習する→上手になる」→「毎日練習しさえすれば上手になる」で、Vマスさえすれば の形も口に慣らす。
- ペア質問カード(「一人暮らしに何があればいい?」「面接で大切なことは?」「日本語が上手になるには?」)を使う。Aが質問し、Bが「〜さえ〜ば」で一つに絞って答える。Aは「本当にそれだけ?」と聞き返し、Bは理由を一文足す。カード3枚で交替する。
- 産出活動「これさえあれば無人島」。無人島に一つだけ持っていく物を決め、「〜さえあれば〜できる」と理由2つで1分スピーチをする。慣れたら課の話題に寄せて「これさえ気をつければ面接は大丈夫」版も作らせる。教師は、さえ と ば が対応しているか、が・を を消し忘れていないかを見る。
つまずきと手当て
- 「さえ」だけで文を終えて条件の意味にならない(「お金さえ、幸せだ」)。必ず「〜ば/〜なら」とセットだと板書に残す
- 「が」「を」を残して「お金がさえあれば」と言う。「さえ」は「が」「を」と入れ替わり、「に」「で」の後ろには付くと整理する(学習項目3でもう一度)
- 動詞の辞書形に「さえ」を付けて「*薬を飲むさえすれば」と言う。動詞は「飲みさえすれば」(Vマス+さえすれば)か「飲んでさえいれば」(Vて+さえいれば)の形にすると板書で示す
既習の文型との違い
- 〜ば(初級の条件)「〜ば」だけなら条件を述べるだけですが、「さえ〜ば」は「ほかに何もしなくても、それだけで十分」と条件を一つに絞ります。「薬を飲めば治る」は条件の説明、「薬さえ飲めば治る」は「ほかの手当ては要らない」という意味になります。
- Nだけ〜ば「パスポートだけあれば」と言い換えられることが多いですが、「さえ」のほうが「最低限これ一つで足りる」という気持ちが強く出ます。学習者が「だけ」で言ったときは誤りにせず、「さえ」にすると何が強まるかを聞いて確かめます。
関連する文型
学習項目 3 「さえ・しか・こそ」の整理
意味・はたらき学習項目 3
形も位置も似ている3つの助詞を並べて整理する項目です。3つとも「が」「を」の代わりに名詞の後ろに付いて、その名詞を取り上げて目立たせる働き(取り立て)をします。「さえ」は「水さえ飲めない」のように極端な例を挙げて「ほかはもちろん」と言うか、「〜さえ〜ば」の形で条件を一つに絞ります。「しか」は必ず「〜ない」と一緒に使い、「それ以外は全部ない」と限定します。「こそ」は「ほかではなく、まさにこれ」と強く指し示します。
接続
どれも N+さえ/しか/こそ(「が」「を」と入れ替わる。「に」「で」「と」などの後ろには「にさえ」「でしか」「にこそ」と付く。「しか」は文末が必ず否定)
形
N さえ 〜(極端な例=〜も)/N さえ 〜ば(唯一の条件)N しか 〜ない(それ以外は全部ない)N こそ 〜(ほかではなく、まさにこれ)にさえ/でしか/にこそ(ほかの助詞の後ろ)
導入
- 同じ名詞で3つ並べる「日本語」を主語にして「日本語さえ分からない」「日本語しか分からない」「日本語こそ大切だ」を上下に板書し、それぞれどんな人が言う文かを学生に考えさせる。上は「英語も中国語も、やさしい日本語も分からない人の話(極端な例)」、中は「ほかの言語は分からない人」、下は「ほかより日本語が大事だと言いたい人」。意味を場面で分けてから、「しか」だけが「〜ない」と組むことを確かめる。
- 助詞の位置を表で確かめる「が・を」「に・で」の列を作り、「が→さえ/しか/こそ(置き換え)」「に→にさえ/にしか/にこそ(後ろに付く)」と表にして見せる。学習項目2で出た「がさえ」の誤りをここで直す。
板書案
水さえ 飲めない → 極端な例(水も。ほかはもちろん)
水しか 飲めない → 限定(水以外はだめ)
今度こそ 合格したい → まさにこれ
〔赤〕しか から 文末の「ない」へ矢印
が・を → さえ/しか/こそ に・で → にさえ/でしか/にこそ
場面と発話(自作)
- 風邪で何も食べられない友だちの様子を、ほかの友だちに伝える。熱が高くて、水さえ飲めないんだって。
- 初対面の人と話すのが苦手で、面接の練習で先生に相談する。緊張すると、「はい」としか言えなくなるんです。
- 作文で、第一印象より大事だと思うことを書く。見た目ではなく、その人の話し方こそ、信頼できるかどうかを決めると思う。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
教師が状況を言い(「ほかの言語は分からない」「やさしい漢字も読めない」「ほかより時間が大事」)、学生が「さえ」「しか」「こそ」のどれを使うかを選んで文にする。選んだ理由(極端な例/それ以外はない/まさにこれ)を口で言わせる。
- 口頭教師が状況を一言で言い、学習者が3つの中から選んで文にする。キューの例: 「熱が高くて、食べられるのはおかゆだけ」→「おかゆしか食べられない」/「疲れて、立つこともできない」→「立つことさえできない」/「去年は落ちた。今年は…」→「今年こそ合格したい」/「試験まで、あと3日」→「あと3日しかない」。選んだ理由(極端な例・限定・まさにこれ)も言わせる。
- ペアAのカードには状況だけ、Bのカードには助詞3つだけが書いてある。Aが状況を読み、Bが助詞を選んで文を作り、Aが状況に合うかを判定する。3問で交替する。
- 産出活動「さえ・しか・こそ 三択クイズづくり」。ペアで自分の生活の状況を書き、助詞の所を空欄にした三択クイズを1問作って、ほかのペアに解かせる。教師は、状況と助詞の意味が合っているか、「しか」の文末が否定になっているかを見る。
つまずきと手当て
- 「しか」のあとを肯定で終える(「日本語しか分かる」)。「しか」を見たら文末は「ない」と指で追わせる
- 「さえ」と「しか」を取り違える(「水しか飲めない」を「水さえ飲めない」と言う)。「さえ」は極端な例=「水も飲めない」の強い形、「しか」は限定=「水以外は飲めない」と訳し分けさせる
- 「こそ」を対比のない、ただの強調として何にでも付けて不自然になる(「私こそ学生です」)。「こそ」は「ほかではなく、これ」という主張か、「今度こそ」「こちらこそ」のような決まった形で練習する
既習の文型との違い
- Nも(初級)「漢字も書けない」と「漢字さえ書けない」はどちらも否定ですが、「さえ」は「いちばん易しいはずのもの」を極端な例として選ぶので、驚きや強調が強くなります。学習者が「さえ」を使う場面で「も」を使っても誤りではないので、強さの違いとして示します。
- Vること/N こそ(第1課)第1課で扱った「こそ」を、ここで「さえ」「しか」と並べて確かめます。「こそ」は肯定の主張の中で「ほかではなく、これ」と一つを指すので、「しか」と違って文末の形に決まりがありません。
- Nだけ(初級)「だけ」は肯定でも否定でも使えますが、「しか」は必ず否定と組み、「足りない」気持ちが出ます。「1000円だけある」は事実、「1000円しかない」は不足の気持ちです。「*1000円しかある」は文法の誤りです。
関連する文型
学習項目 4 〜というものではない・〜というものでもない(=〜わけではない・〜わけでもない)
意味・はたらき学習項目 4
「〜という考えは、いつも正しいとは言えない」と、世間でよく言われる考えや相手の主張を、部分的に否定する形です。「安ければいいというものではない」のように、一般的な考えを一度言ってから「でもそれだけではない」と直すときに使います。第1課の「わけではない」と意味は近いですが、「というものではない」は個人の事情より、「一般にそう考えられていること」を否定するときに向きます。「でもない」にすると、「それも違う」と前の否定に足す感じになります。「いつも〜とは限らない」と言い換えられる、部分否定に近い働きの形です。
接続
普通形+というものではない/というものでもない(な形容詞・名詞は「〜だというものではない」。「〜ばいい」「〜ならいい」「〜すればすむ」のような文の後ろに付くことが多い)
形
〜ばいい というものではない〜ならいい というものではない普通形 というものではない〜というものでもない(前の否定に足す)
導入
- 「〜ばいい?」と聞いて否定させる学習項目2で作った「笑顔さえあれば第一印象はよくなる」を板書し、「本当にそれだけでいいですか」と聞く。学生から「服装も」「話し方も」が出たら、「笑顔があればいいというものではない」と板書する。「みんながそう思いがちな考え」を否定する形だと説明し、同じ型で「高ければいい商品だ」「長く勉強すればいい」を否定させる。
- 「わけではない」との並べ方第1課の「毎日というわけではない」を思い出させ、「わけではない」は自分の事情(毎日ではない)、「というものではない」は一般の考え(〜ばいい、という通念)の否定、と並べて見せる。厳密な線引きより、本文で読めることと作文で1回使えることを優先する。
板書案
〜ば/〜なら いい + というものではない
高ければ いいと いうものでは ない。
= いつも〜とは 限らない
〔赤〕世間の考え に下線 →〔青〕「でも、それだけではない」へ矢印
〔緑〕わけではない(自分の事情)と左右に並べる
場面と発話(自作)
- 作文で、見た目と中身について自分の意見を書く。見た目をきちんとすれば、相手に信頼されるというものではない。
- 日本語の勉強法を後輩に相談された。単語を覚えることばかり話している。単語をたくさん覚えればいいというものではないよ。使う練習も要る。
- 会社で、安い業者に頼もうという話になった。反対の意見を言う。安ければいいというものではないと思います。納期と品質も見ましょう。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
「〜ばいい」の形の通念(安ければいい・速ければいい・有名ならいい)を3つ板書し、学生が「〜というものではない」で否定してから、「〜も大切だ」と理由を1文足す。否定だけで終わらせない。
- 口頭教師が世間の考えのカードを見せ、学習者が否定する。キューの例: 「練習すればいい」→「練習すればいいというものではない」/「有名な店ならおいしい」→「有名な店ならおいしいというものではない」/「長く寝ればいい」→「長く寝ればいいというものではない」。言えたら「大切なのは〜だ」を一文足させる。
- ペアAが単純な意見を言う役(「スピーチは大きい声で話せばいい」「面接はスーツを着ればいい」)、Bが「〜というものではない。〜も大切だ」で直す役。Bの返しにAが「じゃあ、どうすればいい?」と聞き返し、Bが答える。2つ終えたら交替する。
- 産出活動「通念ひっくり返しカード」。第一印象についての通念(「笑顔ならいい」「話がうまければいい」など)を1枚引き、「〜というものではない」→理由→「大切なのは〜だ」の3文で意見を書いて読み上げる。教師は、否定のあとに代わりの主張があるか、自分個人の事情に使っていないかを見る。
つまずきと手当て
- 自分の事情を言うのに使って硬くなる(「私は毎日行くというものではない」)。個人の事情は「わけではない」に戻す
- 「〜というものだ」(まさにそうだ・当然だ)と混同して、否定のつもりで肯定の形を書く。「ではない」まで一つの形だと板書に残す
- 「もの」を「物」と書く。この「もの」は形式名詞で、ひらがなで書くと示す
既習の文型との違い
- 「わけがない・わけではない」の整理(第1課)「わけではない」は個別の事実を部分的に否定し(「肉が嫌いなわけではない」)、「というものではない」は「〜ばいい」のような一般的な考えを否定します。自分の好き嫌いに「というものではない」を使うと不自然に聞こえるので、主語が「世間の考え」になっているかを確かめさせます。
- 〜とは限らない意味は近く、言い換えられる場面も多いです。「とは限らない」は「例外もある」という事実の見通しに、「というものではない」は「〜でいい・〜すればすむ」という価値の判断を否定するのに使われる傾向があります。
関連する文型
学習項目 5 Vマスかねない
意味・はたらき学習項目 5
「このままでは悪い結果になるかもしれない」と、話し手が心配している可能性を言う形です。「〜かもしれない」と違って、悪い結果にしか使いません。前に原因(忙しすぎる・寝ていない・確認していない)を言い、「そのせいで〜しかねない」と続けるのが基本の形で、相手に注意を促したり、意見文で危険を指摘したりするときに使います。文法の見方では可能性を表す文末表現(モダリティ)の一つで、その中でもマイナスの評価に限られる点が特徴です。
接続
Vマス形(「ます」を取った形)+かねない(する→しかねない、なる→なりかねない、引き起こす→引き起こしかねない)
形
Vマス かねない(遅れかねない)N を 引き起こしかねない〜(原因)。このままでは Vマス かねないVマス かねません(丁寧)
導入
- 原因を見せて悪い結果を言わせる「毎日3時間しか寝ていません。仕事中にどうなりますか」と聞き、「ミスをする」「倒れる」が出たら「ミスをしかねない」「倒れかねない」と板書する。「〜かもしれない」と並べて、「かねない」は悪い結果のときだけ、と赤で囲む。次に「合格しかねない」を書いて「変ですね」と確かめ、良い結果には使えないことを体で分からせる。
- 「かねる」との区別店の案内などで見る「お答えしかねます」(できない)を見せ、「かねる=できない」「かねない=(悪いことが)起こるかもしれない」と、形が逆で意味も別だと表にして残す。読んで混同しやすいので、ここで一度はっきり分ける。
板書案
Vマス + かねない (悪い結果だけ)
寝不足で 運転すると、事故を 起こしかねない。
〔赤〕原因 →(このままでは)→ 悪い結果 の矢印
する → しかねない なる → なりかねない
かねる(=できない)| かねない(=〜かもしれない)を左右に
場面と発話(自作)
- 会社で、確認なしに資料を送ろうとしている同僚に注意する。確認しないで送ると、取引先とのトラブルになりかねませんよ。
- 作文で、第一印象で人を判断することの危険について書く。見た目だけで相手を判断すると、その人の能力を見落としかねない。
- 留学生の友だちが、毎晩遅くまでアルバイトをしている。心配して言う。そんな生活を続けていたら、体を壊しかねないよ。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
原因の文を教師が言い(スマホを長時間使う・睡眠が足りない・言葉遣いが乱暴だ)、学生が「〜かねない」で悪い結果を続ける。語彙リストの「誤解を招く」「トラブルを引き起こす」「吐き気」「めまい」を使わせると、練習の語がそのまま定着する。
- 口頭原因のカードを見せ、学習者が悪い結果を「〜かねない」で言う。キューの例: 「スマホを見ながら歩く」→「人にぶつかりかねない」/「メールを確認しない」→「大事な連絡を見落としかねない」/「毎日夜遅くまで働く」→「体を壊しかねない」。次に課の語をキューにする(「誤解を招く」→「その言い方は誤解を招きかねない」、「トラブル」→「トラブルになりかねない」)。
- ペア「心配性の先輩」ロールプレイ。Aが計画を言う役(「明日の試験のために徹夜する」「部屋を見ないで契約する」)、Bが「〜と、〜かねないよ」と注意する役。Aは「じゃあ、どうする?」と対策を聞き、Bが一つ提案する。2つで交替する。
- 産出活動「面接の危険予報ポスター」。グループで「面接で〜すると、〜かねない」の注意を3つ書いたポスターを作り、発表する。教師は、後ろが悪い結果になっているか、マス形の接続(しかねない・なりかねない)、前に原因が示されているかを見る。
つまずきと手当て
- 良い結果に使う(「合格しかねない」「仲良くなりかねない」)。「悪い結果だけ」と板書に残し、例で変な文を聞かせる
- 「かねる」(できない)と取り違えて「お答えしかねない」と書く。形が逆で意味も逆だと表で見せる
- 「〜ないかねない」のように否定を重ねる(「来ないかねない」)。前はマス形の肯定だけ、否定の意味は動詞を替える(「来ないかもしれない」か「欠席しかねない」)
既習の文型との違い
- 〜かもしれない(初級)「かもしれない」は良い結果にも悪い結果にも使えますが、「かねない」は悪い結果だけで、話し手の心配が出ます。「合格するかもしれない」は自然ですが、「合格しかねない」は意味の上で不自然です。文体も「かねない」のほうが硬めです。
- 〜おそれがあるどちらも悪い可能性を言います。「おそれがある」はニュースや公的な文書で客観的に危険を知らせるときに多く、「台風のおそれがある」のように名詞にも付きます。「かねない」は人の行動が原因で悪い結果になる場面に多く使われます。
- Vマスかねる形は似ていますが意味は逆で、「かねる」は「〜することはできない」です。店や会社の丁寧な断り(「お答えしかねます」)で使います。「かねない」は「〜するかもしれない」なので、表にして左右に並べて区別させます。
学習項目 6 〜ものの(=けれども)
意味・はたらき学習項目 6
「前のことは事実として認めるが、そこから期待されることは続かない」という逆接の接続で、「けれども」の書き言葉です。「申し込んだものの、まだ返事がない」のように、前半には実際に起きたこと・している状態が来て、後半にその結果として当然あるはずのことが実現していない、という流れが多い形です。「〜のに」のような不満や意外さの気持ちは弱く、事実を淡々と並べる調子なので、レポートや意見文に向きます。「けれども」「が」に置き換えて文が成り立つかで確かめられる、逆接の書き言葉の形です。
接続
普通形+ものの(な形容詞は「〜なものの」「〜であるものの」、名詞は「〜であるものの」。前はVた・Vている の形が多い。「とはいうものの」は文頭で使う決まった形)
形
Vた ものの(申し込んだものの)Vている ものの(知ってはいるものの)い形 ものの/な形 なものの(便利なものの)とはいうものの、〜(文頭)
導入
- 「〜けれども」を書き言葉に替える学生に「日本に来る前に日本語を勉強しましたか。今、困ることはありますか」と聞き、「勉強したけれども、敬語が難しい」のような答えを板書する。「けれども」を「ものの」に替えて、意味は同じで書き言葉になることを確かめる。次に前半を「〜た/〜ている」の事実、後半を「期待したことが起きていない」と2列にして、型として見せる。
- 「のに」と並べて気持ちの差を見せる「頼んだのに、来ない」と「頼んだものの、来ない」を並べ、上は不満が出る話し言葉、下は事実を述べる書き言葉と分ける。作文では「ものの」、話すときは「けど/のに」と使い分けを言っておく。
板書案
普通形 + ものの、〜 (=けれども)
日本に 来て 1年 たったものの、まだ 敬語に 自信が ない。
〔赤〕前:事実を認める 〔青〕後:期待どおりにならない
な形容詞・N + である ものの
後ろに 命令・誘い・意志 は来ない
場面と発話(自作)
- 作文で、第一印象についての自分の経験を書く。面接では笑顔を心がけたものの、緊張して声が小さくなってしまった。
- 会社の報告書で、進んでいない仕事について書く。新しいシステムを導入したものの、まだ使い方に慣れていない社員が多い。
- レポートで、調べたことと自分の考えのずれを書く。第一印象は数秒で決まるという説があるものの、その後の付き合いで変わることも多い。
練習の進め方(口頭 → ペア → 産出)
「〜たけれども、〜」で言わせた学生の文を「〜たものの、〜」に書き換えさせ、後半が「期待したことが起きていない」になっているか確かめる。作文で1回は使うことを条件にする。
- 口頭教師が前半を言い、学習者が期待はずれの後半を続ける。キューの例: 「ダイエットを始めた」→「始めたものの、3日でやめてしまった」/「免許を取った」→「取ったものの、まだ一人で運転したことがない」/「新しいパソコンを買った」→「買ったものの、ほとんど使っていない」。次に「〜けれども、〜」の話し言葉の文を書き言葉の「〜ものの」に言い換えさせる。
- ペア「期待と現実」インタビュー。Aが「日本に来る前に期待していたこと」「始めたけれど続かなかったこと」を質問し、Bが「〜ものの、〜」で答える。Aは「どうしてですか」と一度深めて聞く。2問で交替する。
- 産出活動「第一印象と本当の姿」作文。初対面の印象と、あとで分かったことが違った経験を「〜ものの」を1回以上使って200字前後で書く。教師は、後ろが事実や状態になっているか(意志や誘いが来ていないか)、な形容詞・名詞の接続を見て直す。
つまずきと手当て
- 後半に命令・誘い・意志を続ける(「疲れたものの、行きましょう」)。後半は事実や状態で、意志や誘いには「けれども」を使うと示す
- 「もの」(理由・感情の「〜んだもの」)や「ものだ」と混同する。「ものの」は文の途中で、意味は「けれども」と固定して教える
- 名詞・な形容詞に直接「ものの」を付ける(「便利ものの」)。「〜なものの」「〜であるものの」の形を板書に残す
既習の文型との違い
- 〜のに(初級)「のに」は話し手の不満や驚きが出やすく、話し言葉にもよく使います。「ものの」はその気持ちが弱く、事実を淡々と並べる書き言葉です。「せっかく作ったのに、だれも食べない」は不満、「作ったものの、食べる人がいなかった」は経過の報告に聞こえます。
- 〜けれども・〜が意味は近いですが、「ものの」は前のことを事実として認める感じがはっきりしていて、後ろに命令・誘い・意志を続けると不自然になります。「疲れたけれども、行きましょう」は言えますが、「ものの」にすると不自然です。
語彙の扱い
この課の新出語は 87 語(本文を読むための語 37・練習などの語 50)。1語ずつの意味・いっしょに使う助詞と連語・例文は語彙のページにあります。
新出語は扉・本文・ことばを確かめよう・学習項目・練習・作文・プラスアルファの7つに分かれて出ます。本文の語は体の動きや態度に関するもの(目を合わせる・前かがみ・背もたれに寄りかかる・威圧感を与える・状況に合う)が多く、教師が実演しながら連語の形で練習すると定着しやすいです。練習の語には悪い結果を表すもの(誤解を招く・トラブル・吐き気・めまい)があり、学習項目5の「〜かねない」の材料になります。プラスアルファの語(討論・反論・作戦タイム・述べ合う)はディベートの進め方の説明にそのまま使えます。語の一覧は手元の教科書で確かめてください。
第8課の語彙リスト(87語)新出語の意味・いっしょに使う助詞と連語・例文(自作)を五十音順に
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本文の扱い
語彙から見ると、人の第一印象がどんな情報(表情・姿勢・外見のような目で見る情報、声や話す速さのような耳で聞く情報、言葉そのもの)で決まるか、それがどのくらい短い時間で判断されるかという説、そして見た目と中身の関係について述べる読み物と推測できます。大意の段階では「第一印象を決める要素は何か」「筆者は見た目をどう評価しているか」を段落ごとに一言で言わせ、精読では「〜にすぎない」「〜というものではない」「〜ものの」の文末に戻って、筆者がどの考えを認め、どの考えを否定しているかを読み取らせると、学習項目1・4・6と本文理解が一度に進みます。本文の文はここに載せていないので、手元の教科書で確かめてください。
宿題と次のコマ
チェックシート(2択10問)を宿題にして次のコマの最初に答え合わせ。漢字練習は「ルビなし本文」を声に出して読めるところまで。作文は「第一印象と中身」のテーマで、「〜というものではない」か「〜ものの」を1回は使って根拠のある意見文を書かせる。次のコマはプラスアルファのディベートに充て、作文で書いた意見を「述べる→反論→再度述べ合う」の手順で口に出す。この本の最後の課なので、8課の文型を一覧にして振り返る時間を最後に取る。
よくある質問
『中級を学ぼう 中級前期』第8課は何コマで終わりますか?
目安は90分×4コマです。1〜3コマ目で本文と学習項目1〜6・練習を進め、4コマ目をプラスアルファのディベートと8課分の振り返りに充てます。最後の課なので、作文とディベートを省かずに時間を取ると、課全体のまとめになります。
「さえ」「しか」「こそ」の違いはどう説明すればいいですか?
同じ状況の文を3つ並べて見せるのが早いです。「水さえ飲めない」は極端な例(水も飲めない、ほかはもちろん)、「水しか飲めない」は限定(水以外は飲めない)、「今度こそ」は「ほかではなく、これ」と一つを強く指す形です。「しか」は文末が必ず否定になることを板書の矢印で示します。
「〜というものではない」と「〜わけではない」の違いは?
「わけではない」は個別の事実を部分的に否定し、「というものではない」は「〜ばいい」「〜ならいい」のような一般的な考えを否定するのに向きます。自分の好き嫌いや事情には「わけではない」を使うと整理すると、学習者が使い分けやすくなります。
「〜かねない」と「〜かもしれない」「〜おそれがある」はどう違いますか?
「かもしれない」は良い結果にも悪い結果にも使えますが、「かねない」は悪い結果だけで、話し手の心配が出ます。「おそれがある」も悪い可能性ですが、ニュースや公的な文で客観的に知らせるときに多く使われます。形の似た「かねる(できない)」とは意味が逆なので、表で並べて区別させます。
「〜ものの」と「〜のに」「〜けれども」の違いは?
「ものの」は「けれども」の書き言葉で、前のことを事実として認め、後ろで期待どおりにならなかったことを淡々と述べます。「のに」は不満や驚きが出やすい形です。「ものの」のあとには命令・誘い・意志が来にくいので、作文で使うときは後ろを事実や状態にさせます。
この課に関係する用語・解説・練習問題
この課の文型を、日本語教員試験の用語でいうと何にあたるか。授業の説明に迷ったときの確認と、試験対策に。