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教室活動と教材 — 教室で実際に何をするか

区分4 言語と教育 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

区分4は、理論そのものより「この場面で教師は何をするのが適切か」を問う事例形式が多く出ます。用語を単体で覚えても、それが教室のどの局面の話なのかが分からないと選べません。この記事では、教師の話し方から学習者どうしの活動、教材の扱い、そして授業の外側へと、教室を組み立てる順序に沿って用語を並べます。

教師の話し方 — ティーチャートークと媒介語

教室で学習者が最初に浴びるインプットは、教師の話す日本語です。速度を落とす、既習語彙に置き換える、複雑な構文を避ける、区切りとポーズを増やす、言い換えや繰り返しを加える——こうした意図的な調整の総体をティーチャートークと言います。

似た概念にフォリナー・トークがあります。こちらは母語話者一般が非母語話者に向けて行う調整で、「ニホンゴ ワカリマスカ」のように文法を崩した形になることもあります。ティーチャートークは教育的な意図をもち、正しい日本語のまま調整する点が異なります。また、加減された日本語しか聞かなければ自然な日本語に触れる機会を失うため、レベルが上がるにつれて調整を減らしていくのが正しい方向です。

もう一つの判断が媒介語——目標言語を教えるときに、説明や指示のために使う別の言語です。学習者の母語のほか、英語のように教師と学習者に共通する第三の言語が使われることもあります。抽象的な語の意味や文法規則、教室運営の指示を短時間で正確に伝えられる一方、使いすぎれば日本語に触れる時間が減ります。判断は二択ではなく、初級の導入や安全・事務連絡では使い、練習と活動は日本語で行うといった使い分けが一般的です。多国籍クラスではそもそも共通の媒介語がないため直接法をとらざるを得ない、という条件面も問われます。

試験でのねらわれ方「媒介語の使用は常に避けるべきだ」「ティーチャートークとは学習者に合わせて文法を崩した日本語である」は、いずれも誤りです。媒介語は目的と場面で使い分けるものティーチャートークは正しい日本語のままの調整。フォリナー・トークとの入れ替えも定番のひっかけです。

足場をかける — スキャフォールディング

一人ではまだできないことを達成できるよう、教師や仲間が一時的に与える支援がスキャフォールディング(足場かけ)です。手がかりを示す、質問で導く、部分的に言い換える、キーワードを板書する——どれも足場にあたります。

背景にあるのはヴィゴツキー(Vygotsky)の最近接発達領域(ZPD)です。「一人でできること」と「支援があればできること」の間の領域で学習が起こる、という考え方で、教師の仕事はその領域をねらって支援を設計することになります。

最大のひっかけは、これが「常に手厚く支援すること」ではない点です。足場は建物ができあがったら外すもの。学習者が自力でできるようになるにつれて段階的に減らしていく(フェイディング)ところまでが、この概念に含まれます。

誤りにどう向き合うか — 誤用訂正とフィードバック

誤用訂正とフィードバックは、いつ・何を・どのように直すかという判断の問題です。「誤用はすべてその場で直すべき」も「一切直すべきでない」も誤りで、活動の目的に応じて選ぶのが原則です。

原則そのものは明快で、流暢さを目標とする活動の最中は訂正を控え、正確さを目標とする活動では明示的に扱います。自由会話の途中で逐一直せば発話意欲を削ぎ、文型練習で放置すれば誤りが定着してしまう。直す項目も、その日の学習目標に関わるものや、意味が通じなくなる誤りに絞ります。

手立てには段階があります。流れを止めずに正しい形で言い直すリキャストのほか、誤りを明示する明示的訂正、規則を説明するメタ言語的フィードバック、言い直しを促す引き出し、聞き返す明確化要求、誤りの直前まで繰り返す繰り返し——リスターとランタ(Lyster & Ranta)の分類として、名称と具体例の対応が頻出です。

意味のやり取りを中心に置きながら、必要な瞬間だけ形式に注意を向けさせる考え方がフォーカス・オン・フォームで、形式だけを取り出すフォーカス・オン・フォームズと区別されます。誤用は取り除くべき失敗ではなく、学習者の中間言語がいまどの段階にあるかを示す手がかりでもある——この見方が土台です。

学習者どうしで学ぶ — ピア・ラーニングとピア・レスポンス

ピア・ラーニングは、学習者どうし(peer=仲間)が対話しながら互いの学びを支え合う学習形態です。教師からの一方向の伝達に対し、学習者を学びの主体として位置づける協働学習の考え方に立ちます。理論的にはヴィゴツキーの社会文化的アプローチが背景にあり、仲間どうしが互いの足場になることが期待されます。

代表的な形がピア・レスポンス——作文の下書きを学習者どうしで読み合い、感想や質問、分かりにくかった点を伝え合う活動です。ねらいは誤りを直し合うことではなく、読み手の存在を意識させることにあります。「ここが分からなかった」という反応を受けて書き手が自分で書き直す、という流れが本質です。

したがってこれは教師添削の代わりではなく補完です。「文法を直し合う場」と誤解されると機能しないため、事前に観点(内容が伝わるか・構成は追えるか)と、指摘ではなく質問の形で伝えるコメントの仕方を示しておきます。

両者に共通する注意点は、学習者に任せれば成立するわけではないことです。役割分担・進め方・時間配分の設計、話し合うための表現の準備、活動後の振り返りまで教師が設計して初めて機能します。単なるグループ作業や、できる学習者が教える一方通行の形は、ピア・ラーニングとは言いません。

技能別の活動 — シャドーイング・多読・プロセス・ライティング

技能ごとに定番の活動があります。共通するのは素材の難易度をどう選び、注意をどこへ向けさせるかという設計の視点です。

音声ではシャドーイング。聞こえてくる音声を影のように少し遅れて復唱する訓練で、もとは同時通訳者の訓練法です。拍・アクセント・イントネーションといったプロソディをねらうものと、意味内容の理解を伴わせるコンテンツ・シャドーイングに分かれます。テキストを見ながら行うのはパラレル・リーディング(音読)であり、素材はすでに意味が分かる、少しやさしめのものを選びます。

読解では多読。①やさしいものから読む ②辞書を引かない ③分からないところは飛ばす ④つまらなければやめて次へ、という原則が共有されています。ここで大事なのは「辞書を引かない」が素材が易しいことと一体の原則だという点です。難しい素材を辞書なしで読ませても挫折するだけで、成立の条件はレベル別読み物がそろっていることにあります。

作文ではプロセス・ライティング。完成した作文だけを評価せず、書くまでの過程を指導の対象とします。構想 → 下書き → 読み手からの反応 → 推敲 → 清書という流れが一方向ではなく行きつ戻りつすると考えるところが要点で、教師のフィードバックも完成後の添削より下書き段階のほうが効果的だとされます。下書きの段階にピア・レスポンスを組み込む形が定番です。

活動素材の選び方と注意の向け先
シャドーイング音声少しやさしめの、すでに意味が分かる音声。テキストを見ながら行うのはパラレル・リーディング
多読読解やさしい読み物を大量に。辞書を引かない・飛ばす・やめてよい。レベル別読み物が前提
プロセス・ライティング作文過程そのものを指導対象に。下書き段階のフィードバックが要

教材 — レアリア・生教材と著作権法第35条

レアリア・生教材は、教育目的で作られたのではない素材を教室に持ち込む考え方です。レアリアは切符・チラシ・商品のパッケージといった実物教材、生教材はニュース記事・広告・時刻表のように、そのまま使う素材を指します。利点は真正性の高さで、「本物が読めた」という達成感が生まれ、文化的な情報も同時に伝わります。

使い方の原則は一つです。素材そのものを書き換えず、課題(タスク)の側で難易度を調整すること。初級でも、チラシから値段だけ拾う、時刻表から出発時刻だけ探すといった課題にすれば扱えます。「初級には生教材は使えない」という選択肢は誤りです。

ただし複製や配布には権利の問題がついてきます。著作権法第35条は、学校その他の教育機関において、授業の過程で利用するために必要と認められる限度で著作物の複製等を認める規定です。営利を目的としない教育機関であることが前提で、主体となるのは授業を担当する教員と、授業を受ける学習者。そして著作権者の利益を不当に害する場合は対象外という重要な限定があります。学習者が各自購入すべき問題集やドリルを人数分複製する行為は、この限定に触れます。

なお、オンライン授業での送信をどう扱うかや、どの機関がこの規定の対象になるかは制度と解釈が動いてきた部分でもあるため、実務では最新の規定を確認してください。

著作権法第35条の骨格「授業で使うなら著作物は自由に使える」も「一切認められない」も誤りです。判断の軸は①授業の過程で必要と認められる限度であること②著作権者の利益を不当に害さないことの二つ。ウェブ上の画像や動画も当然に著作物なので、生教材を扱うときほどこの二つを思い出してください。

授業の外側 — 反転授業・アーティキュレーション・DIE法・アクション・リサーチ

最後は、1コマの教室の外側に広がる話題です。教室活動の設計と地続きなので、まとめて押さえます。

反転授業は、従来は教室で行っていた知識のインプットを動画教材などで授業前に済ませ、教室では演習・議論・協働作業に時間を使う形態です。「予習を課すこと」と同義ではなく、事前学習を前提に教室活動を組み替えるところまで含めて反転授業。課題は、事前学習をしてこない学習者への対応と視聴環境の格差です。

アーティキュレーションは、教育課程や教育機関の間で学習内容と到達目標が段差なく接続されていることを指します。初級教科書から中級教材へ、日本語学校から大学へ、といったつながりが、会話・読解・漢字の各授業が噛み合っているかという同時期の科目どうしのつながりがです。共通の到達目標を持つことが対策になるため、日本語教育の参照枠のような共通の物差しは、これを支える道具として位置づけられます。

DIE法は、異文化での出来事をDescribe(描写)・Interpret(解釈)・Evaluate(評価)の三つに切り分けて考える異文化トレーニングの手法です。「彼は目を合わせなかった」が描写、「恥ずかしいのかもしれない」が解釈、「よくない態度だ」が評価。人はこの三つを一瞬で混ぜ、観察した事実がそのまま否定的な判断になりがちです。解釈は複数あり得ると気づかせるところに中心があり、正しい解釈を教える方法ではありません。

アクション・リサーチは、教師が自分自身の実践を対象に、問題の発見 → 計画 → 実践 → 観察 → 省察という循環を回して授業を改善していく研究の形です。背景にあるのはショーン(Schön)の省察的実践家という教師像。一般化できる法則を導くことが目的ではない点、1周で終わらせず循環させることが要件である点が問われます。

試験に向けての整理

教室を組み立てる順序で並べ直しておきます。

①教師の話し方=ティーチャートーク(正しい日本語のまま調整。フォリナー・トークと区別)と媒介語(場面で使い分け)。②支援=スキャフォールディング外すことが前提。③誤り=誤用訂正とフィードバックは活動の目的次第で、流暢さの活動では控える。④学習者どうし=ピア・ラーニングピア・レスポンスは、教師の設計があって初めて機能する。⑤技能別=シャドーイング多読プロセス・ライティングは、やさしい素材過程の重視が共通点。⑥教材=レアリア・生教材はタスクの側で難易度を調整、著作権法第35条は必要な限度と権利者の利益。⑦外側=反転授業アーティキュレーションDIE法アクション・リサーチ

この分野の誤答肢は、その多くが「常に〜すべき」「一切〜してはいけない」という言い切りの形をしています。誤用訂正も、媒介語も、生教材も、足場かけも、答えはたいてい「目的と段階に応じて選ぶ」です。迷ったら、極端な言い切りを外すところから始めてください。

この記事に出てくる用語

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