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日本語の文字と表記 — 漢字と仮名はどう生まれ、どう読まれるか

区分5 言語 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

日本語は、漢字・平仮名・片仮名という性質の違う文字を一つの文の中で使い分けて書く言語です。学習者にとっては、文字の数の多さよりも、この使い分けと漢字の読みの多さが壁になります。ここでは、文字が表すものの違いから出発して、漢字の伝来と仮名の誕生、音読みと訓読みの層、漢字の成り立ちまでを通して見たうえで、文字指導でどこに気を配るかにつなげます。表記のきまり(常用漢字表・現代仮名遣いなど)の中身は、別の記事「語彙・意味・語用論と表記」で扱っています。

日本語の書記体系 — 性質の違う文字を使い分ける

現代日本語の文章は、ふつう漢字仮名交じり文で書かれます。語幹など実質的な意味を担う部分を主に漢字で、助詞・助動詞・活用語尾を主に平仮名で、外来語や一部の擬音語を主に片仮名で書くのが一般的な書き分けです。これに数字やローマ字も加わります。ただしこれは傾向であって、和語の「こと」「ください」のように平仮名で書くのが普通の語も多く、どの語を何で書くかは表記の目安や慣習によって決まります。

文字は、一字が何を表すかで分けることができます。漢字は一字がおおむね一つの語や形態素を表す表語文字です(かつては表意文字とも呼ばれましたが、字が表すのは意味だけでなく音を伴った語なので、表語文字と呼ぶのが一般的になっています)。仮名は音を表す表音文字で、一字がおおむね一つの拍(モーラ)に当たる音節文字です。拗音の「きゃ」のように二字で一拍を表すものもあります。ローマ字は一字がおおむね一つの単音(音素)に対応する単音文字(音素文字)です。ただし、shi の sh、tsu の ts のように、一つの子音を2字で書くつづりもあります。

日本語では、この三種類の性質の違う文字を同じ文の中で併用します。加えて、一つの漢字に複数の読みがあるため、同じ語をどの文字で書くか、同じ字をどう読むかという選択が常に生じます。これが日本語の書記体系の大きな特徴であり、学習者の負担の源でもあります。

文字表す単位と例
漢字表語文字一字がおおむね一つの語・形態素を表す。山・食(べる)・学
仮名表音文字(音節文字)一字がおおむね一拍を表す。か・カ。拗音は二字で一拍(きゃ)
ローマ字表音文字(単音文字)一字がおおむね一つの単音に対応する。k・a(sh・ts のように一つの子音を2字で書くつづりもある)

漢字の伝来と万葉仮名 — 漢字で日本語の音を書く

日本語には、もともと固有の文字がありませんでした。中国から漢字が伝わり、初めは漢文として読み書きされましたが、やがて漢字で日本語そのものを書き表す工夫が生まれます。その一つが、漢字の意味を離れて音(または訓)だけを借りて日本語の音を表す用法です。

これを万葉仮名といいます。『万葉集』で多く用いられたことによる名で、たとえば「はる」を「波流」と書くのがこれにあたります。漢字の音を借りるものを音仮名、漢字の訓を借りるものを訓仮名と呼びます。万葉仮名は形のうえでは漢字そのものであり、同じ音に多くの字が使われ、一音を書くのに画数の多い字を書く必要がありました。

この「漢字を音の記号として使う」発想が、のちの仮名の母体になります。仮名は、どこかで突然考案されたのではなく、万葉仮名を簡略にしていく過程で生まれた文字です。

平仮名と片仮名の成り立ち — 崩した仮名と、一部を取った仮名

平安時代になると、万葉仮名を簡略にした二種類の仮名が広まります。平仮名は、万葉仮名を草書体で崩した草仮名をさらに崩して生まれました。和歌や手紙、物語など主に私的な書き物で用いられ、女性の書き手が多く用いたことから「女手(おんなで)」とも呼ばれました(男性も和歌などで用いています)。

片仮名は、漢字の偏・旁・冠など字の一部を取って生まれました。僧侶や学者が漢文(仏典や漢籍)を訓読する際、字の横や行間に読み方や送り仮名を小さく書き込む必要があり、そこで速く小さく書ける符号として発達したと考えられています。平仮名が字全体を崩した形なのに対し、片仮名は字の一部分という違いが、字形にそのまま表れています。

長いあいだ、同じ音を表す仮名にも字源の異なる複数の字体がありました。1900年(明治33年)の小学校令施行規則で、学校で教える仮名が原則として一音一字に整理され、それ以外の字体は変体仮名と呼ばれるようになります。変体仮名は、そば屋の看板などで今も目にすることがあります。

仮名字源の例
平仮名字全体を草書で崩す安→あ 以→い 加→か 太→た 奴→ぬ
片仮名字の一部を取る阿→ア 伊→イ 江→エ 多→タ 加→カ
取り違えやすい点「平仮名は漢字の一部を取り、片仮名は字を崩した」は逆です。また「片仮名は平仮名をさらに簡略にした文字」も誤りで、どちらも漢字(万葉仮名)から別々に生まれています。

音読みと訓読み — 一つの漢字に読みが重なる理由

漢字の読みには二つの系統があります。音読みは、漢字が伝わったときの中国語の発音をもとにした読みです。訓読みは、漢字にその意味に当たる和語(やまとことば)を当てた読みです。「山」をサンと読むのが音読み、やまと読むのが訓読みにあたります。

音読みが一つに決まらないのは、伝わった時代や経路によって音が異なるからです。比較的早い時期に伝わったとされる呉音は、仏教の語に多く残っています(経文のキョウ、修行のギョウ)。7〜8世紀に遣唐使や留学生が唐の都・長安の音をもとに伝えたのが漢音で、漢籍や学問の語に広く使われました(経済のケイ、旅行のコウ)。主に鎌倉時代以降、禅僧や商人などによって伝えられたのが唐音(唐宋音)で、限られた語に残っています(行灯・行脚のアン)。このほか、本来の音とは違う読みが日本で広まって定着した慣用音もあります(消耗のモウ)。

訓読みのほうも、一字に複数の訓がつくことがあります(生:いきる・うまれる・なま)。さらに、二字以上の漢字の組み合わせ全体に一つの訓を当てる熟字訓があり、「今日(きょう)」「大人(おとな)」「時計(とけい)」のように、一字ずつには読みを割り振れません。常用漢字表では、こうした語を付表に掲げています。

熟語は、音読みどうし・訓読みどうしで読むのが基本ですが、混ざるものもあります。上の字を音、下の字を訓で読むのが重箱読み(重箱・台所・本屋)、上を訓、下を音で読むのが湯桶読み(湯桶・手本・見本)です。語種で見れば、どちらも漢語と和語が組み合わさった混種語にあたります。

音の種類伝わった時期と例
呉音比較的早い時期仏教の語に多い。行(ギョウ)・明(ミョウ)・京(キョウ)
漢音7〜8世紀・長安の音漢籍・学問の語に多い。行(コウ)・明(メイ)・京(ケイ)
唐音主に鎌倉時代以降限られた語に残る。行(アン)・明(ミン)・京(キン)
慣用音日本で定着した読み本来の音と異なる読みが広まったもの。消耗の耗(モウ)
見分け方「重箱読み」は音+訓、「湯桶読み」は訓+音。語そのもの(じゅう+ばこ、ゆ+とう)が型の見本になっているので、迷ったら名前の語を分解して確かめます。

漢字の成り立ち — 六書

漢字の成り立ちと使い方は、後漢の許慎が『説文解字』で示した六書(りくしょ)で整理するのが伝統です。成り立ちにあたるのが次の4つです。物の形をかたどった象形(山・川・日・木)、形で表しにくい位置や数を点や線で示した指事(上・下・一・本・末)、すでにある字の意味を組み合わせた会意(林・森・休)、意味の範囲を表す部分(意符)と音を表す部分(音符)を組み合わせた形声(河・銅)です。

残る二つ、転注と仮借は字の使い方の分類です。仮借は、音が同じ別の語を表すために既存の字を借りる用法を指します。

漢字の大部分は形声文字だとされます。「河」の「氵」が水に関わること、「可」がカという音を示すことが分かれば、知らない字でも意味の見当と読みの手がかりが得られます。部首と音符に目を向けることは、漢字を一字ずつの丸暗記ではなく部品の組み合わせとして学ぶための土台になります。

国字 — 日本で作られた漢字

漢字の中には、中国から伝わったものではなく日本で作られたものがあります。これを国字(和製漢字)といいます。峠(山+上+下)・畑(火+田)・働(人+動)・込・枠・辻・匂などがその例で、既存の字を組み合わせた会意の形のものが多く見られます。

国字は日本で作られたため、多くは訓読みしか持ちません。ただし「働」には労働の「ドウ」という音読みもあり、国字だから必ず訓読みだけとは言えません。

文字指導へのつなぎ

非漢字圏の学習者は、まず平仮名・片仮名の習得が最初の関門になります。とくに片仮名の「シ/ツ」「ソ/ン」、平仮名の「ぬ/め」「わ/ね」のように字形の似た字は、書き分けと読み分けの両方で混同が起きやすいところです。漢字に進むと、字数と読みの多さが負担になりますが、部首や音符といった部品に注目させ、意味の手がかりとして使わせると、字を形のまとまりとして捉えやすくなります。

漢字圏の学習者は、字を見て意味の見当がつく点で有利な一方、日本語と母語で字形や意味がずれるところでつまずきます。簡体字・繁体字と日本の字体の違いに加え、「手紙」が中国語ではトイレットペーパーを指すように、同じ字の組み合わせで意味が異なる語もあります。読み方は母語の発音とは別に覚える必要があり、とくに訓読みと、音読みの使い分けが課題になります。

どちらの学習者にも共通するのが、一つの字に複数の読みがあることへの対応です。一字で語になるときは訓読み(山・水)、熟語では音読み(山頂・水道)になりやすいという傾向を示しつつ、語単位で読みを覚えていく指導が求められます。書き表し方のよりどころである常用漢字表・現代仮名遣い・送り仮名の付け方・外来語の表記・ローマ字のつづり方については、「語彙・意味・語用論と表記」の記事で扱っています。

この記事に出てくる用語

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