区分1「社会・文化・地域」がつかみにくいのは、制度が学習者の立場ごとにばらばらに作られてきたからです。所管する省庁も、財源も、担い手も違う。だから制度名を単独で暗記すると、選択肢で対象や目的をすり替えられたときに気づけません。この記事では「どんな立場の人が日本語を必要とし、誰がそれを用意しているのか」という一本の軸で制度を並べ直します。
制度を難しくしているのは、「日本語学習者」という一つのまとまった集団が存在しないことです。同じ「初級」でも、進学のために文法を積み上げたい人と、明日の職場の指示を聞き取りたい人では、必要なものが別物です。
大きく分ければ、進学のための留学、働くための就労、家族とともに暮らし続ける定住、親に連れられて来た子ども、そして海外の学習者の五つ。所管も分かれていて、国内の生活者への施策は文化庁(文部科学省)、海外の日本語教育支援は国際交流基金(外務省)、在留資格そのものは出入国在留管理庁が担います。試験では、この所管のすり替えが定番のひっかけです。
分散したこれらを一つの法律で束ねたのが2019(令和元)年の日本語教育推進法で、推進を国・地方公共団体の責務とし、外国人を雇用する事業主の責務まで定めました。推進法は基本法、2023年の認定法は資格と機関の質保証と、役割で分けて覚えます。
| 立場 | 日本語教育を用意しているのは |
|---|---|
| 留学在留資格「留学」 | 日本語教育機関や大学。進学・就職が目標で、体系的なシラバスによる授業が組まれる |
| 就労特定技能・技能実習など | 受入れ機関や送出し国での研修。職場で使う日本語が課題で、制度は複数の省庁にまたがる |
| 定住定住者・永住者・配偶者等 | 自治体・国際交流協会・市民団体が担う地域の教室。文化庁の生活者施策が支える |
| 子ども小・中・高に在籍 | 在籍する学校での指導。2014年度から「特別の教育課程」に位置づけられた |
| 海外日本国外の学習者 | 現地の学校や日本語教室。国際交流基金(外務省)が調査・教師研修・専門家派遣で支援する |
戦後の日本語教育を長く動かしてきたのは留学生受入れ政策です。1983年の「留学生10万人計画」は2003年に達成され、2008年の「留学生30万人計画」は2019年に目標を超えました。この流れで日本語学校が急増し、教育の質の保証が課題になっていきます。
一方、留学生の日々を実際に規定しているのは資格外活動許可です。在留資格「留学」で認められているのは学ぶことであり、収入をともなう活動には出入国在留管理庁の許可が要ります。包括的な許可を受けた留学生が就労できるのは原則として1週について28時間以内、教育機関の長期休業期間中は1日8時間以内まで。風俗営業等に関わる業務は許可の対象外で、従事すれば在留資格の取消しや退去強制の対象になりえます。
現場ではこれが教務の相談ごととして現れます。アルバイトを増やしすぎて授業に来られない、出席率が落ちて在留資格の更新に響く——応用試験では、こうした学生への対応を選ぶ事例問題として出ます。
働くために来る人への日本語教育で、最も早く制度として組み立てられたのがEPAによる看護師・介護福祉士の受入れです。受入れは2008年のインドネシアから始まり、フィリピン、ベトナムが続きました。候補者は日本語研修を経て病院や介護施設で就労・研修しながら日本の国家試験を目指し、在留期間内に合格できなければ帰国が原則になります。
最大のひっかけは目的の取り違えです。EPA(経済連携協定)は二国間の経済連携の強化を目的とする枠組みであり、労働力不足の解消を目的とした制度ではないというのが政府の公式な説明です。学習面では、専門用語、記録や報告の書き言葉、利用者が話す方言や敬語といった職場の日本語が重くのしかかります。
そして技能実習制度に代わる枠組みとして設計されたのが育成就労制度です。2024(令和6)年に関連法が成立し、公布から3年以内に施行されるとされていますが、時期は流動的です。技能実習が建前として国際貢献・技能移転を掲げていたのに対し、育成就労は人材の育成と確保を正面から目的とし、特定技能1号の水準への移行を前提とします。本人の意向による転籍も一定の条件のもとで認められます。
| 制度 | 目的と、日本語の位置づけ |
|---|---|
| 技能実習1993年創設・育成就労へ移行 | 建前は国際貢献・技能移転。日本語は入国前後の講習が中心 |
| 育成就労2024年に関連法成立 | 人材の育成と確保を掲げ、特定技能1号の水準への移行を前提とする。転籍も条件つきで可能 |
| 特定技能2019年創設の在留資格 | 一定の技能と日本語力をもつ即戦力を受け入れる。入口で試験により日本語力を確認する |
| EPA2008年(インドネシア)〜 | 二国間の経済連携が目的。国家試験を目指すため、専門的な読み書きまで求められる |
日本語教育が「いつか帰る人」ではなく「ここで暮らし続ける人」を相手にした最初の経験が、中国帰国者への支援でした。中国に残された人々とその家族が、1972年の日中国交正常化以降に帰国し、1994年には帰国と自立を支援する法律が制定されます。本人にとって日本語は母語でありながら長く使われなかった言語であり、二世・三世には中国語が第一言語であることが多い。同じ世帯のなかで言語環境がまるで違うという難しさが、ここで表面化しました。
対象が一気に広がったのは1990年の入管法改正です。在留資格「定住者」が設けられて日系の人々が就労の制限なく暮らせるようになり、日本語教育の主題は留学生から生活者としての外国人へ広がりました。2007年には文化審議会国語分科会に日本語教育小委員会が置かれます。
こうした人々を実際に支えてきたのが地域日本語教育です。公民館や国際交流協会、市民団体が担い、中心にあるのは地域日本語教室です。学習者の在留資格・母語・目的・在住年数がきわめて多様で、ボランティアが主な担い手、参加が不定期という点で、学校型の一斉授業とは前提が異なります。目標も生活課題の解決に置かれやすい。
近年は「日本人が教え、外国人が教わる」関係ではなく、地域の住民どうしの対話と相互学習の場として捉える見方が主流です。「体系的なシラバスに沿って段階的に進む」といった学校型の記述は、地域日本語教育の説明としては誤りにされます。
学校に在籍する子どもは、日本語指導が必要な児童生徒という枠組みで施策が組まれています。定義は「日本語で日常会話が十分にできない」、または「日常会話ができても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている」子どもで、文部科学省が隔年で受入状況を調査しています。最重要なのは、外国籍の児童生徒だけでなく日本国籍の児童生徒も含むという点です。
定義の後半、「日常会話ができても学習に支障が出る」を理論的に裏づけるのが、カミンズのBICSとCALPという区別です。会話が流暢だから支援はもう要らない、という判断が典型的な誤りで、この見かけの流暢さが事例問題のねらいどころになります。両方の言語が年齢相応に育たない半言語状態(ダブルリミテッド)も、この文脈で語られます。
この問題への実践的な答えとして文部科学省が開発したのがJSLカリキュラムです。JSL は Japanese as a Second Language の略で、日本語の学習と教科の学習を切り離さず、教科学習に参加しながら学ぶ力を育てることをねらいます。体験や具体物を手がかりに考えるトピック型と、各教科の内容に即した教科志向型があり、活動の最小単位(AU)を組み合わせて設計します。「日本語を仕上げてから教科に入る」という段階論ではない点が要です。
母語の視点も落とせません。家庭の言語は継承語として子どものアイデンティティに関わり、言語権の考え方からも、母語の維持と日本語の習得は対立しないとされます。
| 能力 | 中身と、身につくまでの時間 |
|---|---|
| BICS生活言語能力 | 表情や場面など文脈の手がかりに支えられた日常会話の力。およそ1〜2年で身につくとされる |
| CALP学習言語能力 | 文脈の支えが少ない抽象的な内容を扱う力。教科学習に不可欠で、5〜7年かかるとされる |
ここまでは学習者の側の話でした。制度と政策のもう一方の軸は、受け入れる側の社会を変える取り組みです。その代表がやさしい日本語です。1995年の阪神・淡路大震災で外国人被災者に情報が届かなかった経験をきっかけに災害時の情報伝達の研究として始まり、いまは行政・医療・生活支援など平常時にも広く使われています。
原則は、一文を短くする、難しい語を言いかえる、二重否定や受身を避ける、分かち書きやルビで読みやすくする、といったもの。ここで押さえるべきなのは、これが「幼児向けの日本語」でも「単語を並べただけの日本語」でもないことです。情報を削るのではなく、必要な情報を残したまま形をやさしくするのがねらいです。
こうした取り組みを支える理念が多文化共生です。総務省の定義では、国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的なちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと。2006年の「地域における多文化共生推進プラン」で施策の柱になりました。三つの要素のどれかを崩した選択肢がひっかけで、とくに「外国人が日本の文化に合わせること(同化)」と言い換えた記述は誤りです。
多文化共生は、受け入れる側の社会(ホスト社会)も変わることを含む双方向の概念です。制度を覚えるときも「外国人に何をさせるか」ではなく「社会の側が何を用意するか」という向きで読むと、正誤が判断しやすくなります。
この記事の流れを、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。
①制度は立場ごとに別々に作られている。所管は、国内の生活者=文化庁(文部科学省)、海外=国際交流基金(外務省)、在留資格=出入国在留管理庁。②留学は資格外活動許可=週28時間・長期休業中は1日8時間・風俗営業等は対象外。③EPAの目的は経済連携であって労働力の確保ではない。④育成就労は「育てる」入口、特定技能は「即戦力」。⑤中国帰国者の帰国が本格化したのは1972年の国交正常化以降。地域日本語教育はボランティアが担い手で、目標は生活課題の解決。⑥日本語指導が必要な児童生徒には日本国籍の子どもも含む。BICSは1〜2年、CALPは5〜7年。⑦やさしい日本語は情報を削らない。多文化共生は同化ではない。
この七点が言えれば、区分1の制度問題は大半が機械的に切れます。ただしこの分野は改正が続くのが特徴です。年号と目的は必ず対で覚え、最新の数字や施行時期は所管省庁の発表で確かめてください。
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