音声・音韻は記号が並ぶので身構えがちですが、実際には問われ方が最も安定している分野です。子音の記述の仕方・音素と異音・拍のリズム・アクセントとイントネーションの区別という4本の柱に、音の変化がぶら下がっているだけだからです。しかもここは、学習者のつまずきがそのまま試験の題材になる分野でもあります。「この誤りはどの用語で説明できるか」という向きで読んでください。
子音を記述するときは、必ず3つの観点をそろえます。口のどこで息を妨げるかという調音点、どのように妨げるかという調音法、そして声帯が震えるかどうかという有声音と無声音の区別です。「か」の子音 [k] は「軟口蓋・破裂音・無声」、「が」の [g] は「軟口蓋・破裂音・有声」で、違うのは3つ目だけ——このように座標で言えるようにしておくのが出発点です。
調音点は口の前から順に、両唇(ぱ・ば・ま行、「ふ」[ɸ])、歯茎(た・だ・な・さ・ざ・ら行)、歯茎硬口蓋(「し」[ɕ]・「ち」[tɕ]・「に」)、硬口蓋(「ひ」[ç]、や行)、軟口蓋(か・が行)、声門(「は」「へ」「ほ」[h])と並びます。ここで最も大事なのは、同じ行でも母音によって調音点がずれることです。は行は「は・へ・ほ」が声門の [h] なのに、「ひ」は硬口蓋の [ç]、「ふ」は両唇の [ɸ] になります。「一つの行は同じ子音」という思い込みが、そのままひっかけになります。
調音法は息の妨げ方による分類です。次の6つを、例の仮名と音声記号ごと押さえてください。
| 調音法 | 妨げ方と日本語での例 |
|---|---|
| 破裂音閉鎖 → 開放 | 息を完全に止めてから一気に開放する。[p][b][t][d][k][g] |
| 摩擦音狭めてこすらせる | 狭い隙間に息を通す。「さ」[s]・「し」[ɕ]・「ひ」[ç]・「ふ」[ɸ]・「は」[h] |
| 破擦音閉鎖 → 摩擦 | 閉鎖のあと摩擦へ移る一続きの動きを1つの音として扱う。「つ」[ts]・「ち」[tɕ] |
| 鼻音息を鼻へ通す | 口の中を閉じ、呼気を鼻へ抜く。[m][n][ŋ] |
| はじき音舌先で一度はじく | ら行 [ɾ]。英語の [l](側面接近音)とも [r] とも別の音 |
| 接近音狭めるが摩擦は起こさない | や行 [j]・わ行 [w] |
音素と異音の関係は、この分野全体の土台です。音素はその言語で語の意味を区別する働きをもつ最小の単位で、/t/ /h/ /N/ のようにスラッシュで囲みます。異音は一つの音素が環境に応じて実際の音声として現れた姿で、[t][tɕ][ts] のように角括弧で囲みます。
たとえば /t/ は、「た・て・と」では歯茎破裂音 [t]、「ち」では歯茎硬口蓋破擦音 [tɕ]、「つ」では歯茎破擦音 [ts] として現れます。/h/ も「は・へ・ほ」[h]、「ひ」[ç]、「ふ」[ɸ] と姿を変えます。これほど違う音なのに日本語話者が気づかないのは、この違いによって別の語になることがないからです。異音は、現れる環境が互いに重ならない相補分布をなします。
逆に英語では [l] と [r] が語の意味を区別する別々の音素です。日本語ではどちらもラ行のはじき音 [ɾ] の枠に収まるため、日本語話者は light と right を聞き分けにくい。学習者の側でも、母語にない対立が日本語にあれば同じことが起こります。聞き分けの困難は耳の良し悪しではなく、母語の音素体系というフィルターの問題——ここまで言えると、応用試験の誤用分析に直結します。
モーラ(拍)と音節は、似て見えて別の単位です。モーラ(拍)は日本語のリズムを刻む単位で、原則として仮名1字が1拍(拗音は「きょ」のように2字で1拍)。音節は母音を核とするまとまりです。俳句が五・七・五で数えられることからも、日本語話者の言語感覚が拍に支えられていると分かります。
この2つのずれを作るのが特殊拍——促音「っ」・長音「ー」・撥音「ん」の3つです(つまる音・引く音・はねる音)。特殊拍は単独では発音できないのに、拍としては1つ分を占める音で、直前の拍とくっついて一つの音節を作ります。だから「がっこう」は が・っ・こ・う の4拍でありながら、がっ・こう の2音節。「にっぽん」も4拍2音節、「きょう」は きょ・う で2拍1音節です。なお促音は後続子音の構えを保ったまま息を止める音で、原則として無声子音の前に現れます(きって・ざっし)。
学習者のつまずきはここに集中します。音節でリズムを刻む言語の話者は特殊拍を1拍と数えられず、「がっこう」を「がこう」、「おじいさん」を「おじさん」、「ビール」を「ビル」のように短く発音します。逆に余分な長音を入れる誤りも起こります。「きて/きって」のように特殊拍の有無だけで語が変わる以上、これは発音の癖ではなく意味の間違いです。指導ではまず手拍子などで拍を体に入れさせるのが有効とされます。
撥音「ん」は、音素と異音・特殊拍という2つの話題がそのまま重なる格好の材料です。音韻論的には一つの音素 /N/ ですが、実際の発音は後続する音の調音点に同化して変わります。
「さんぽ」「かんぱい」のように両唇音の前では [m]、「さんだい」「かんたん」のように歯茎音の前では [n]、「さんか」「りんご」のように軟口蓋音の前では [ŋ]。母音や半母音・摩擦音の前(「しんや」「ほんや」)では鼻母音になり、語末(「ほん」)では口蓋垂の [ɴ] になります。調音点がこれだけ動いているのに、日本語話者はすべて「ん」だと感じている——まさに異音の関係です。
和語・漢語では語頭に立たないことも押さえたい特徴です。学習者のつまずきは2方向に出ます。1つは同化ができず「さんぽ」を [sanpo] のまま発音すること。もう1つは「ん」を1拍と数えられず「こんにちは」を短く言ってしまうことです。前者は自然さの問題ですが、後者は語が別の語に聞こえる問題になります。
日本語のアクセントは、英語のような強弱アクセントではなく高低アクセント(ピッチアクセント)です。音の強さではなく高さの下がり目=アクセント核の位置が語を区別します。「はし」が箸なのか橋なのかは、この下がり目で決まります。
東京式アクセントには2つの制約があります。①1拍目と2拍目の高さは必ず異なる ②一度下がったら同じ語の中で再び上がらない。この2つがあるため、n拍の語の型は、核をもたない場合も含めてn+1通りに限られます。
| 型 | アクセント核の位置と例 |
|---|---|
| 平板型核なし | 最後まで下がらない。「さくら」「さかな」。助詞が付いても下がらない(さかなが) |
| 頭高型核が1拍目 | 1拍目が高く、2拍目で下がる。「あ↓め(雨)」「み↓どり」 |
| 中高型核が語中 | 途中まで高く、語の中で下がる。「おか↓し(お菓子)」「せんせ↓い」 |
| 尾高型核が最終拍 | 語末まで高く、次に付く助詞で下がる。「はな↓(花)」→ はな↓が |
アクセントには語を区別する働き(弁別機能)のほかに、語の切れ目を示す働きもあります。文を聞いて単語の境界が分かるのは、語ごとの高低の山が区切りを教えてくれるからです。学習者に多いアクセントの平板化——すべての語を平らに読んでしまう現象——で聞き取りにくくなるのは、この手がかりが消えるためです。
これに対しイントネーションとプロミネンスは、文のレベルの現象です。イントネーションは文全体にかかる音調の上がり下がりで、同じ「そう」でも文末を上げれば質問、下げれば断定になります。プロミネンスは文中の特定の部分を際立たせる強調で、「きょう、京都へ行きます」のどこを立てるかによって、「(明日ではなく)きょう」なのか「(大阪ではなく)京都」なのかが変わります。
区別の鍵は誰が決めるかです。高低アクセントは語ごとに決まっていて話し手が勝手に変えられませんが、イントネーションとプロミネンスは話し手が文脈に応じて運用するものです。しかも日本語では、ある語を強調してもその語のアクセント型は壊れず、音の幅が広がる形で実現されます。学習者は文末イントネーションが平板になって質問に聞こえなかったり、強調しようとしてアクセント型のほうを崩したりします。単語単位の発音練習だけでは自然さに届かないのはこのためです。
母音の無声化は、母音が声帯の振動を伴わずに発音される現象です。狭母音の /i/ /u/ が無声子音に挟まれたとき(「きした」の「き」、「すき」の「す」)や、無声子音に続いて語末に来るとき(「です」「ます」の「す」)に起こりやすい。東日本で顕著で近畿方言では起こりにくいという地域差があり、アクセント核のある拍では起こりにくいという傾向も知られます。学習者には「音が抜けている」と聞こえて聞き取りを妨げますが、無声化しても拍としては保たれている点が重要で、「母音が消える」と説明するのは誤りです。
連濁は、複合語を作るときに後部要素の語頭の清音が濁音に変わる現象です(ほん+はこ→ほんばこ、はな+ひ→はなび、おり+かみ→おりがみ)。無声音が有声音へ交替する現象と見ることもできます。これを妨げる条件として有名なのがライマンの法則で、後部要素にすでに濁音が含まれていると連濁しません(かみ+かぜ→かみかぜ、おお+とかげ→おおとかげ)。ほかに、外来語は連濁しにくい(アイスコーヒー)、前後が対等に並ぶ並列的な構造では起こりにくい(やま+かわ=「山も川も」)といった傾向も指摘されます。
外来語の音韻適応は、原語の音を日本語の音韻体系に合うよう置き換えることです。子音の連続や語末の子音には母音が補われて開音節化し、英語では1音節の strike が日本語では「ストライク」の5拍になります。英語の [l] と [r] はともにラ行に合流し(light/right→ライト)、v の音はバ行、th の無声音はサ行へ置き換わります。長音・促音の付け方にはゆれがあり(ベッド/ベット、コンピューター/コンピュータ)、内閣告示「外来語の表記」が目安を示しています。カタカナ語が学習者にとって「知っているはずの語なのに通じない」原因になるのは、原語の知識がかえって干渉するためです。3拍以上の外来語は後ろから3拍目に核が来る傾向があるので、音とアクセントはセットで扱います。
この記事の内容を、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。
①子音は調音点・調音法・有声音と無声音の3点セットで言う。行が同じでも母音によって子音は変わる。②音素と異音——意味を区別するのが音素、環境に応じて変わる実現形が異音。/ / と [ ] の記号も対で。③モーラ(拍)と音節はずれる。「がっこう」は4拍2音節。ずれを作るのが特殊拍(促音・長音・撥音)。④撥音「ん」は後続音の調音点に同化する、異音の代表例。⑤高低アクセントは下がり目の位置。平板型と尾高型は助詞を付けて見分ける。⑥イントネーションとプロミネンスは話し手が文のレベルで運用するもので、語に固有のアクセントとは別。⑦音の変化は母音の無声化(拍は残る)・連濁(ライマンの法則)・外来語の音韻適応(開音節化)。
そのうえで、学習者のつまずきを音声学の用語で言い換えられるようにしておくと、応用試験の誤用分析に直結します。特殊拍が抜けるのは拍の感覚の問題、ラ行が不安定なのは母語の音素体系の問題、全体が平らに聞こえるのはアクセント核の問題、文末が質問に聞こえないのはイントネーションの問題——この現象と原因を結び直す練習が最も効きます。個々の用語は用語集の各ページで確認してください。
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