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著作権と教材利用 — 「教育目的だから大丈夫」が通らない場所

区分4 言語と教育 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

著作権は、コアカリキュラムに新しく加わった領域です。試験で問われるのは条文の暗記ではなく、目の前の行為が許されるかどうかを、どの物差しで判断するか。教材をコピーする、記事を書き換える、学習者の作文を掲示する——日々の何気ない行為の一つひとつに、権利の線が引かれています。ここでは「権利はどう生まれ、どこまで及び、教育の現場ではどこが緩められているか」という順で整理します。

権利はいつ生まれ、何を守るのか

日本の著作権無方式主義をとります。つまり、著作物を創作したその瞬間に自動的に発生し、登録も表示も公表も必要ありません。学習者がその場で書いた作文にも、教師が板書のために作ったプリントにも、条件を満たせば権利が生じています。「登録していないから自由に使える」という判断は、出発点から誤っています。

では何が著作物なのか。思想または感情を、創作的に、表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの、というのが要件です。ここで決定的なのは、守られるのが表現であってアイディアではないという点。「こういう順番で文型を導入するとよい」という考え方そのものは誰でも自由に使えますが、それを書き表した教材の文章は著作物になりえます。気温や試合結果のような事実そのもの、誰が書いても同じになるありふれた表現も、著作物にはあたりません。

例外として、法令・裁判所の判決・国や地方公共団体の告示や訓令などは、広く国民に知らせる必要があるため権利の目的とならないと定められています(第13条)。ただし「お役所が出したものだから自由」ではありません。省庁が作った報告書や広報写真は、通常の著作物です。ここは取り違えやすい線です。

ここが狙われる試験でよく狙われるのは、①登録は不要(無方式主義)、②守られるのは表現でありアイディアではない、③法令・判決は権利の目的とならない、の3点です。とくに②は、教授法や指導のアイディアを扱う場面で実務にも直結します。

著作者人格権と著作権 — 譲れるものと譲れないもの

著作者がもつ権利は、大きく2系統に分かれます。一つは著作者人格権。公表するかどうかを決める公表権、名前を出すかどうかを決める氏名表示権、意に反する改変を受けない同一性保持権の3つで、これらは著作者本人に専属し、譲渡も相続もできません

もう一つが、いわゆる著作権=財産権です。複製権・公衆送信権・翻案権などがここに含まれ、こちらは譲渡も相続もできます。この違いから、実務でしばしば重要になる状況が生まれます——著作者と著作権者が別人になるという状況です。教材を作った教師が著作者であり続けても、権利を出版社に譲れば著作権者は出版社。誰の許諾が要るのかを考えるとき、この分離が効いてきます。

保護期間も系統によって違います。財産権は原則として著作者の死後70年(2018年12月に50年から延長されました)。例外は映画の著作物で、こちらは公表後70年です。人格権は一身専属の権利なので著作者の生存中のみですが、死後もその人格的利益を害する行為は禁じられています。

権利中身と性質
著作者人格権譲渡・相続できない公表権氏名表示権同一性保持権。著作者本人に専属し、生存期間のみ
著作権(財産権)譲渡・相続できる複製権・公衆送信権・翻案権など。原則死後70年/映画は公表後70年
ここが狙われる「著作者人格権は譲渡できる」「財産権は譲渡できない」という入れ替えが定番のひっかけです。また保護期間の問題では、映画だけ公表後70年という例外が問われます。

引用 — 6つの条件と、主従関係

他人の著作物を許諾なく使える代表が引用(第32条)です。ただし条件があります。①すでに公表された著作物であること、②公正な慣行に合致すること、③報道・批評・研究などの正当な範囲内であること、④引用する側がで引用される側がという関係にあること、⑤かぎかっこなどで明瞭に区別されていること、⑥出所を明示すること。

実務でとくに落としやすいのが主従関係です。自分の論述がわずかで、引用部分が大半を占めるものは引用として認められません。分量が同程度でも足りない。あくまで自分の主張が主体で、それを支えるために他人の表現を借りる、という構図が必要です。

もう一つの落とし穴が改変です。引用は原文のまま行うのが原則で、勝手に短くしたり書き直したりはできません。ここには財産権だけでなく、著作者人格権の同一性保持権も関わってきます。読みやすくしようという善意が、権利の問題になりうる場面です。

第35条 — 学校で緩められている部分と、緩められていない部分

教育機関には特別の規定があります。第35条は、一定の条件のもとで授業のための複製などを許諾なく行えるようにするものです。条件は4つ。①営利を目的としない教育機関であること、②授業の過程における利用であること、③必要と認められる限度であること、④著作権者の利益を不当に害しないこと。

①により、営利事業として運営される学習塾・予備校・企業研修は対象外です。④は分量の問題ではなく市場を奪うかどうかの問題で、たとえば市販のドリルやワークブックを人数分コピーする行為は、まさに売れるはずのものを売れなくするので認められません。「授業で使うから」という理由だけでは通らないのは、この④があるためです。

2018年の改正で導入され2020年4月28日に施行されたのが授業目的公衆送信補償金制度です。対面授業での複製はこれまでどおり無償ですが、オンライン授業などで教材を送信する公衆送信には補償金が必要になりました。支払うのは教員個人ではなく教育機関の設置者で、指定管理団体であるSARTRASが受け取って権利者に分配します。補償金を払えば何でもできるわけではなく、①〜④の条件は依然として生きています。

ここで「公衆」の意味も押さえておきます。著作権法でいう公衆とは「不特定の者」または「特定多数の者」。公衆にあたらないのは特定かつ少数の場合だけです。クラスの学習者は特定されていても多数にあたりうるため、まとめて教材を送る行為は公衆送信になりえます。「知っている人に送るだけ」という感覚は、法律上の線とはずれています。

二重の物差し同じ行為が、引用としては認められないが第35条では認められる——ということが起こります。たとえば小説の一場面を読解教材として配る行為は、自分の論述に従として取り込むものではないので引用の要件を満たしませんが、非営利の教育機関の授業の過程で必要な限度の複製であれば第35条で許されうる。2つの物差しを別々に当てるのが実務の作法であり、試験でもここが良問になります。

教室で実際に迷う場面

やさしい日本語への書き換え。新聞記事をやさしい日本語に直して教材にする行為は、元の表現の本質的な特徴を残しつつ表現を変えるので翻案にあたり、同一性保持権にも関わります。教育上きわめて有用な営みですが、著作権法上は改変である、という二面性を理解しておく必要があります。

学習者の作品。学習者が書いた作文も著作物であり、著作権は本人にあります。学校のウェブサイトへの掲載は公衆送信にあたるので、本人の許諾が必要です。匿名にすれば足りるわけでもなく、むしろ氏名表示権の問題が別に立ちます。作品を扱う可能性があるなら、あらかじめ掲載の可否を確認しておくのが実務上の安全策です。

最後に一つ。著作権の学習は「何が禁止か」を覚える作業に見えますが、実際には誰の何を守るための線かを理解する作業です。学習者の作文に権利があると分かることは、その作品を一人の書き手の表現として扱うということでもあります。

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